説明

車両の車体前部における水切り構造

【課題】車体に形成されたウィンド開口の開口縁部とウィンドガラスの外縁部との間に接着剤が介設された場合に、雨天走行時の雨水が、フロントカウルに形成された空気導入口を通し車体内部の車室に入り込まないようにする。
【解決手段】車両の車体前部における水切り構造は、左右フロントピラー3,3と、車体2幅方向に延びて左右フロントピラー3,3の上下方向の中途部に架設されるフロントカウル4と、左右フロントピラー3,3の上部とフロントカウル4とで囲まれた空間に形成されるウィンド開口51と、ウィンド開口51の開口縁部52の前面に外縁部が重ねられてウィンド開口51を閉じるウィンドガラス53と、ウィンド開口51の開口縁部52とウィンドガラス53の外縁部との間に介設される接着剤54とを備える。接着剤54の下端部の車体2幅方向における外側端部に、外側端部の下端縁64を下方に突出させる突出部65を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に形成されたウィンド開口の開口縁部とウィンドガラスの外縁部との間に接着剤が介設された車両において、雨天時、上記接着剤の外側面に沿って流下する雨水が車体内部の車室内に入り込まないようにするための車両の車体前部における水切り構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の車体前部には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車両の車体前部は、上下方向に延びる左右フロントピラーと、車体幅方向に延びて上記左右フロントピラーの上下方向の中途部に架設されるフロントカウルと、これら左右フロントピラーの上部とフロントカウルとで囲まれた空間に形成されるウィンド開口と、このウィンド開口の開口縁部の前面に外縁部が重ねられて上記ウィンド開口を閉じるウィンドガラスと、上記ウィンド開口の開口縁部とウィンドガラスの外縁部との間に介設され、上記開口縁部にウィンドガラスの外縁部を接着させる接着剤とを備えている。また、一般に、上記フロントカウルの車体幅方向における各部は中空断面とされている。
【0003】
上記ウィンド開口、ウィンドガラス、および接着剤は車両のフロントウィンドを構成する。そして、このフロントウィンドのウィンドガラスを通し、車体内部の車室の乗員により、車両前方の視認が可能とされる。雨天走行時、上記ウィンドガラスの前面に降りかかる雨水の多くは、このウィンドガラスの前面を流下して上記フロントカウルの内部に集められた後、車体外部に排水される。この際、上記接着剤は、上記ウィンド開口の開口縁部とウィンドガラスの外縁部との間をシールし、上記雨水が上記開口縁部とウィンドガラスの外縁部との間を通って車体内部に浸入することを防止する。
【0004】
また、一般に、上記フロントカウルの内部には車体外部の空気が導入可能とされている。また、上記フロントカウルの車体幅方向の中途部には、このフロントカウルの内部に導入された空気を車体内部の車室に向かって導入可能とする空気導入口が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−148887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、雨天走行時に、上記ウィンドガラスの前面を流下する雨水の一部が、仮に、このウィンドガラスの外縁部における外側端部の後面がわに流入することにより、上記接着剤の外側面に沿って流下し、かつ、この接着剤の下端部における下端縁を伝って車体幅方向における車体中央がわに流動したとする。すると、この場合には、この雨水が上記した空気導入口に落下して、上記フロントカウルの内部の空気と共に車室内に入り込むおそれが生じることとなり、これは車室の乗員にとって好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車体に形成されたウィンド開口の開口縁部とウィンドガラスの外縁部との間に接着剤が介設された車両において、雨天走行時、上記接着剤の外側面に沿って雨水が流下したとしても、この雨水が、フロントカウルに形成された空気導入口を通し車体内部の車室に入り込まないようにすることである。
【0008】
請求項1の発明は、上下方向に延びる左右フロントピラー3,3と、車体2幅方向に延びて上記左右フロントピラー3,3の上下方向の中途部に架設されるフロントカウル4と、これら左右フロントピラー3,3の上部とフロントカウル4とで囲まれた空間に形成されるウィンド開口51と、このウィンド開口51の開口縁部52の前面に外縁部が重ねられて上記ウィンド開口51を閉じるウィンドガラス53と、上記ウィンド開口51の開口縁部52とウィンドガラス53の外縁部との間に介設される接着剤54とを備えた車両の車体前部において、
上記接着剤54の下端部の車体2幅方向における外側端部に、この外側端部の下端縁64を下方に突出させる突出部65を形成したことを特徴とする車両の車体前部における水切り構造である。
【0009】
請求項2の発明は、上記フロントカウル4が、このフロントカウル4の車体2幅方向における外側端部の前面部を形成するようそれぞれ車体2幅方向に延び、かつ、上記ウィンドガラス53の厚さ方向で前後に重ねられる前、後パネル部材69,70を備え、車体2幅方向で、上記前パネル部材69の外側がわ端縁69aが上記後パネル部材70の中途部に位置するようにし、
上記接着剤54の下端部が上記前パネル部材69の外側がわ端縁69aと後パネル部材70の中途部との各上面に跨るよう上記接着剤54を設け、この接着剤54の下端部における下端縁64のうち、上記突出部65よりも車体2幅方向での車体中央18がわに位置する下端縁64の部分が上記前パネル部材69の外側がわ端縁69aを横切るようにしたことを特徴とする請求項1に記載の車両の車体前部における水切り構造である。
【0010】
請求項3の発明は、上下方向に延びる左右フロントピラー3,3と、車体2幅方向に延びて上記左右フロントピラー3,3の上下方向の中途部に架設されるフロントカウル4と、これら左右フロントピラー3,3の上部とフロントカウル4とで囲まれた空間に形成されるウィンド開口51と、このウィンド開口51の開口縁部52の前面に外縁部が重ねられて上記ウィンド開口51を閉じるウィンドガラス53と、上記ウィンド開口51の開口縁部52とウィンドガラス53の外縁部との間に介設される接着剤54とを備えた車両の車体前部において、
上記フロントカウル4が、このフロントカウル4の車体2幅方向における外側端部の前面部を形成するようそれぞれ車体2幅方向に延び、かつ、上記ウィンドガラス53の厚さ方向で前後に重ねられる前、後パネル部材69,70を備え、車体2幅方向で、上記前パネル部材69の外側がわ端縁69aが上記後パネル部材70の中途部に位置するようにし、
上記接着剤54の下端部が上記前パネル部材69の外側がわ端縁69aと後パネル部材70の中途部との各上面に跨るよう上記接着剤54を設け、この接着剤54の下端部における下端縁64が上記前パネル部材69の外側がわ端縁69aを横切るようにしたことを特徴とする車両の車体前部における水切り構造である。
【0011】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0012】
本発明による効果は、次の如くである。
【0013】
請求項1の発明は、上下方向に延びる左右フロントピラーと、車体幅方向に延びて上記左右フロントピラーの上下方向の中途部に架設されるフロントカウルと、これら左右フロントピラーの上部とフロントカウルとで囲まれた空間に形成されるウィンド開口と、このウィンド開口の開口縁部の前面に外縁部が重ねられて上記ウィンド開口を閉じるウィンドガラスと、上記ウィンド開口の開口縁部とウィンドガラスの外縁部との間に介設される接着剤とを備えた車両の車体前部において、
上記接着剤の下端部の車体幅方向における外側端部に、この外側端部の下端縁を下方に突出させる突出部を形成している。
【0014】
このため、雨天走行時に、上記ウィンドガラスの前面を流下する雨水の一部が、仮に、このウィンドガラスの外縁部における外側端部の後面がわに流入することにより上記接着剤の外側面に沿って流下するとしても、この接着剤の下端部の外側端部に達した雨水の一部は、自然流下により上記突出部の突出端にまで案内され、ここで、この突出部の突出端から自重により落下させられて水切りされる。
【0015】
よって、上記のように水切りされた雨水の一部は、上記突出部に対応する車体の所望部位に排水させることができることから、上記雨水の一部が上記フロントカウルの車体幅方向の中途部に形成された空気導入口に落下して、上記フロントカウルの内部の空気と共に車体内部の車室に入り込む、という不都合の発生は防止される。
【0016】
また、上記した水切りの効果は、既設の接着剤の利用により達成されるのであって、別途の水切り材を設けないで足りることから、上記効果は、簡単な構成により、低コストで達成可能である。
【0017】
請求項2の発明は、上記フロントカウルが、このフロントカウルの車体幅方向における外側端部の前面部を形成するようそれぞれ車体幅方向に延び、かつ、上記ウィンドガラスの厚さ方向で前後に重ねられる前、後パネル部材を備え、車体幅方向で、上記前パネル部材の外側がわ端縁が上記後パネル部材の中途部に位置するようにし、
上記接着剤の下端部が上記前パネル部材の外側がわ端縁と後パネル部材の中途部との各上面に跨るよう上記接着剤を設け、この接着剤の下端部における下端縁のうち、上記突出部よりも車体幅方向での車体中央がわに位置する下端縁の部分が上記前パネル部材の外側がわ端縁を横切るようにしている。
【0018】
このため、仮に、上記雨水の一部が上記突出部を越え、上記接着剤の下端部における下端縁を伝って車体幅方向での車体中央がわに流動しようとしても、上記雨水の一部は、上記後パネル部材の中途部の上面から前パネル部材の外側がわ端縁の上面への登り段差を登る際に落下させられて水切りされる。
【0019】
よって、上記のように水切りされた雨水の一部は、上記前パネル部材の外側がわ端縁に対応する車体の所望部位に排水させることができることから、上記雨水の一部が上記フロントカウルの車体幅方向の中途部に形成された空気導入口に落下して、上記フロントカウルの内部の空気と共に車体内部の車室に入り込む、という不都合の発生は、より確実に防止される。
【0020】
請求項3の発明は、上下方向に延びる左右フロントピラーと、車体幅方向に延びて上記左右フロントピラーの上下方向の中途部に架設されるフロントカウルと、これら左右フロントピラーの上部とフロントカウルとで囲まれた空間に形成されるウィンド開口と、このウィンド開口の開口縁部の前面に外縁部が重ねられて上記ウィンド開口を閉じるウィンドガラスと、上記ウィンド開口の開口縁部とウィンドガラスの外縁部との間に介設される接着剤とを備えた車両の車体前部において、
上記フロントカウルが、このフロントカウルの車体幅方向における外側端部の前面部を形成するようそれぞれ車体幅方向に延び、かつ、上記ウィンドガラスの厚さ方向で前後に重ねられる前、後パネル部材を備え、車体幅方向で、上記前パネル部材の外側がわ端縁が上記後パネル部材の中途部に位置するようにし、
上記接着剤の下端部が上記前パネル部材の外側がわ端縁と後パネル部材の中途部との各上面に跨るよう上記接着剤を設け、この接着剤の下端部における下端縁が上記前パネル部材の外側がわ端縁を横切るようにしている。
【0021】
このため、雨天走行時に、上記ウィンドガラスの前面を流下する雨水の一部が、仮に、このウィンドガラスの外縁部における外側端部の後面がわに流入することにより上記接着剤の外側面に沿って流下し、かつ、上記雨水の一部が上記接着剤の下端部における下端縁を伝って車体幅方向での車体中央がわに流動しようとしても、上記雨水の一部は、上記後パネル部材の中途部の上面から前パネル部材の外側がわ端縁の上面への登り段差を登る際に落下させられて水切りされる。
【0022】
よって、上記のように水切りされた雨水の一部は、上記前パネル部材の外側がわ端縁に対応する車体の所望部位に排水させることができることから、上記雨水の一部が上記フロントカウルの車体幅方向の中途部に形成された空気導入口に落下して、上記フロントカウルの内部の空気と共に車体内部の車室に入り込む、という不都合の発生は防止される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図2のI部拡大図である。
【図2】車体前部の平面図である。
【図3】図1で示したものの斜視図である。
【図4】図3で示したものの展開斜視図である。
【図5】図2のV−V線矢視断面図である。
【図6】図1のVI−VI線矢視断面図である。
【図7】図1のVII−VII線矢視断面図である。
【図8】図1のVIII−VIII線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の車両の車体前部における水切り構造に関し、車体に形成されたウィンド開口の開口縁部とウィンドガラスの外縁部との間に接着剤が介設された車両において、雨天走行時、上記接着剤の外側面に沿って雨水が流下したとしても、この雨水が、フロントカウルに形成された空気導入口を通し車体内部の車室に入り込まないようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0025】
即ち、車両の車体前部は、上下方向に延びる左右フロントピラーと、車体幅方向に延びて上記左右フロントピラーの上下方向の中途部に架設されるフロントカウルと、これら左右フロントピラーの上部とフロントカウルとで囲まれた空間に形成されるウィンド開口と、このウィンド開口の開口縁部の前面に外縁部が重ねられて上記ウィンド開口を閉じるウィンドガラスと、上記ウィンド開口の開口縁部とウィンドガラスの外縁部との間に介設される接着剤とを備える。上記接着剤の下端部の車体幅方向における外側端部に、この外側端部の下端縁を下方に突出させる突出部が形成されている。
【実施例】
【0026】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0027】
図において、符号1は、自動車で例示される車両であり、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。また、下記する左右とは、上記前方に向かっての車両1の車体2幅方向をいうものとする。
【0028】
上記車体2前部は、この車体2の左右各側壁の一部を構成し、上下方向に延びる左右一対のフロントピラー3,3と、車体2幅方向に延びて上記左右フロントピラー3,3の上下方向の中途部に架設されるフロントカウル4と、上記左右フロントピラー3,3の上端部に架設されるルーフパネル5と、上記フロントカウル4から下方に延出するダッシュパネル6とを備えている。上記車体2前部の各構成部材3〜6はそれぞれ板金製で、上記各フロントピラー3とフロントカウル4とは車体2前部の骨格部材とされている。
【0029】
また、上記車体2前部は、上記各フロントピラー3の下部とフロントカウル4とをその外側方から覆って上記フロントピラー3やフロントカウル4がわに支持される左右一対の板金製フロントフェンダ9,9と、これ左右フロントフェンダ9,9の間のエンジンルーム10をその上方から開閉可能に覆うフード11とを備えている。
【0030】
上記左右フロントピラー3,3の上部、フロントカウル4、およびルーフパネル5の前縁部で囲まれた部分にフロントウィンド14が設けられる。また、上記各フロントピラー3の後方に隣接してドア開口15が形成され、このドア開口15をその外側方から開閉可能に閉じるサイドドア16が設けられている。上記左右フロントピラー3,3、フロントカウル4、ルーフパネル5、ダッシュパネル6、フロントウィンド14、およびサイドドア16で囲まれた車体2の内部の空間が車室17とされている。また、図2中、符号18は、車体2幅方向における車体中央を示している。
【0031】
図1,2,6において、上記各フロントピラー3の上部は、インナ、アウタパネル20,21と、これらパネル20,21の間に挟まれる補強パネル22とを備え、上下方向の各部断面が中空閉断面形状とされている。上記アウタパネル21は、上部の断面が倒立U字形状とされるアウタパネル本体24と、このアウタパネル本体24の車体中央18がわの端縁部に一体的に形成される外向きフランジ25とを備えている。上記アウタパネル21の外向きフランジ25と、上記インナパネル20および補強パネル22のそれぞれ車体中央18がわの一端縁部とが互いに重ね合わされてスポット溶接S1により結合されている。また、上記インナパネル20、アウタパネル21、および補強パネル22の各他端縁部が互いに重ね合わされてスポット溶接S2により結合されている。
【0032】
図1〜5,8において、前記フロントカウル4は、その下部を構成して車体2幅方向の各部断面が倒立ハット形状とされるカウルインナ28と、上記フロントカウル4の上部を構成するカウルアウタ29と、このカウルアウタ29の車体2幅方向における各外側端部を上記各フロントピラー3に結合させるブラケット30とを備えている。上記カウルアウタ29とブラケット30とは、それぞれ車体2幅方向の各部断面がハット形状とされている。
【0033】
上記カウルアウタ29は、車体2の前後方向で互いに対向する前、後パネル32,33と、これら前、後パネル32,33の上端縁部同士を互いに一体的に結合する天井パネル34と、上記前、後パネル32,33の各下端縁部に一体的に結合される前、後外向きフランジ35,36とを備えている。上記カウルアウタ29は、その後外向きフランジ36が上記カウルインナ28の上部の後端縁部にスポット溶接S3されて結合されることにより、このカウルインナ28に結合されている。
【0034】
上記ブラケット30は、車体2の前後方向で互いに対向する前、後パネル39,40と、これら前、後パネル39,40の上端縁部同士を互いに一体的に結合する天井パネル41と、上記前、後パネル39,40の各下端縁部に一体的に結合される前、後外向きフランジ42,43と、上記天井パネル41から上記フロントカウル4に向かって一体的に延出する延出パネル44とを備えている。この延出パネル44の延出端部は、上記フロントピラー3のアウタパネル21の外向きフランジ25と、上記インナパネル20および補強パネル22の各一端縁部とに重ね合わされて前記スポット溶接S1により結合されている。上記ブラケット30は上記カウルアウタ29よりも板厚が全体的に厚くされ、これにより、上記フロントカウル4のブラケット30とフロントピラー3とが互いに強固に結合されている。
【0035】
上記ブラケット30は、上記延出パネル44を除いて、上記カウルインナ28とカウルアウタ29との各外側端部の間に挟まれている。そして、上記カウルインナ28の上部の後端縁部、カウルアウタ29の後外向きフランジ36、およびブラケット30の後外向きフランジ43が互いに重ね合わされてスポット溶接S4により結合されている。また、上記カウルアウタ29の外側端部における天井パネル34と上記ブラケット30の天井パネル41の左右各部とがそれぞれ互いに重ね合わされてスポット溶接S5により結合されている。また、上記カウルアウタ29の外側端部における前外向きフランジ35と上記ブラケット30の前外向きフランジ42とが互いに重ね合わされてスポット溶接S6により結合されている。これにより、上記フロントカウル4を構成するカウルインナ28、カウルアウタ29、およびブラケット30は互いに強固に結合されている。
【0036】
上記ブラケット30の天井パネル41の左右各部の間における中途部41aは、上記天井パネル41の左右各部よりも一段低く形成されている。
【0037】
図1,2,7において、前記フロントフェンダ9は、上部の断面が倒立U字形状とされるフェンダ本体47と、このフェンダ本体47の車体中央18がわの端縁部に一体的に形成される外向きフランジ48とを備えている。
【0038】
全図において、前記フロントウィンド14は、上記左右フロントピラー3,3の上部、フロントカウル4、およびルーフパネル5の前端縁部で囲まれた空間に形成されるウィンド開口51と、このウィンド開口51の開口縁部52の前面に外縁部が重ねられてこのウィンド開口51をその前方から閉じるウィンドガラス53と、上記ウィンド開口51の開口縁部52とウィンドガラス53の外縁部との間に介設される接着剤54と、上記ウィンドガラス53の外縁部における上端部と左右側端部とに連続的に取り付けられるモール55とを備えている。
【0039】
具体的には、上記ウィンド開口51の開口縁部52は、上記各フロントピラー3においてはアウタパネル21の外向きフランジ25で構成され、上記フロントカウル4においてはカウルアウタ29の天井パネル34、ブラケット30の天井パネル41、および延出パネル44で構成され、上記フロントフェンダ9においては外向きフランジ48で構成されている。また、上記ウィンドガラス53の外縁部の側端部に取り付けられたモール55は、上記フロントピラー3のアウタパネル21のアウタパネル本体24に圧接している。
【0040】
上記接着剤54はウレタン系樹脂であって、上記ウィンド開口51の開口縁部52に上記ウィンドガラス53の外縁部を接着させると共に、上記両者52,53の間をシールする。
【0041】
上記フロントカウル4の上端開口とウィンドガラス53の外縁部の下端部とを、その上方から覆う樹脂製のカウルルーバ58が設けられる。このカウルルーバ58は、その車体2幅方向の各端部がクリップ59により上記各フロントフェンダ9の外向きフランジ48に取り付けられて、車体2がわに支持されている。上記カウルルーバ58の車体2幅方向における外側端部は上記ウィンドガラス53の左右外縁部の下部と、上記ウィンドガラス53の左右外縁部の側端部に取り付けられたモール55の下端部とをその上方から覆っている。また、上記カウルルーバ58の外側端部は、上記フロントピラー3のアウタパネル21のアウタパネル本体24とフロントフェンダ9のフェンダ本体47とに圧接している。
【0042】
図2,3,5において、上記フロントカウル4の内部には車体2外部の空気が導入可能とされている。また、上記フロントカウル4の車体2幅方向の中途部には、このフロントカウル4の内部に導入された空気を車体2内部の車室17に向かって導入可能とする空気導入口62が形成されている。この空気導入口62は、この車両1が右ハンドルであることに対し、上記車体中央18よりもフロントカウル4の左側部に偏位して設けられている。
【0043】
図1,3,4,8において、上記接着剤54の下端部の車体2幅方向における外側端部(左側端部)に、この外側端部の下端縁64を下方に突出させる突出部65が形成されている。具体的には、この突出部65は、車体2幅方向で、上記空気導入口62がわの接着剤54の外側端部に形成される。
【0044】
特に、図3,4において、上記ウィンド開口51の開口縁部52に対しウィンドガラス53の外縁部を接着剤54により接着して、上記開口縁部52にウィンドガラス53を取り付けるための手順につき説明する。
【0045】
まず、図示しないが、上記ウィンドガラス53の車室17がわ面が上面となるようこのウィンドガラス53を設置する。次に、上記ウィンドガラス53の車室17がわ面の外縁部を巡るよう、高粘性の接着剤54をロボットにより連続的に塗布する。この場合、上記開口縁部52に取り付けられた状態でのウィンドガラス53の下端部の外側端部(左側端部)を接着剤54の塗布開始端54aとする。そして、この塗布開始端54aから、まず、車体2幅方向で上記車体中央18がわに向かうよう(図3,4中、矢印)、塗布経路を定め、上記ウィンドガラス53の外縁部を巡るよう接着剤54を塗布する。そして、この塗布の終了時において、上記塗布開始端54aの外側方に並設するよう接着剤54の塗布終了端54bを位置させる。すると、上記ウィンドガラス53への接着剤54の塗布が終了する。ここで、上記ウィンドガラス53の外縁部への接着剤54の塗布において、上記塗布終了端54bに達する直前に塗布経路を少し屈曲させることにより、上記突出部65を形成する。
【0046】
次に、上記ウィンドガラス53を上下逆となるよう反転させた後、上記ウィンド開口51の開口縁部52に対しウィンドガラス53の外縁部を上記接着剤54を介し押し当てる。すると、上記開口縁部52に対するウィンドガラス53の取り付けが終了する。
【0047】
図1,3,4,8において、上記フロントカウル4は、このフロントカウル4の車体2幅方向における外側端部の前面部を形成するようそれぞれ車体2幅方向に延び、かつ、上記ウィンドガラス53の厚さ方向で前後に重ねられる前、後パネル部材69,70を備えている。具体的には、上記前パネル部材69は、上記フロントカウル4のカウルアウタ29の天井パネル34の前部で構成される。また、上記後パネル部材70は、上記フロントカウル4のブラケット30の天井パネル41で構成される。
【0048】
車体2幅方向で、上記前パネル部材69の外側がわ端縁69aは上記後パネル部材70の中途部(天井パネル41の中途部41a)に位置している。上記前パネル部材69の外側がわ端縁69aと後パネル部材70の中途部との間には、わずかな隙間71が形成されている。
【0049】
上記接着剤54の下端部は、上記前パネル部材69の外側がわ端縁69aと後パネル部材70の中途部との各上面に跨るよう設けられている。また、上記接着剤54の下端部における下端縁64のうち、上記突出部65よりも車体2幅方向での車体中央18がわに位置する下端縁64の部分、具体的には、上記突出部65と他の突出部66との間に位置する下端縁64の部分が、上記前パネル部材69の外側がわ端縁69aを車体2の平面視(図1)で直交状に横切ることとされている。
【0050】
雨天走行時、上記ウィンドガラス53の前面に降りかかった雨水は、このウィンドガラス53の前面を流下し、カウルルーバ58を通過した後、フロントカウル4の内部に流入させられて、車体2外部に排水される。
【0051】
ここで、仮に、上記ウィンドガラス53の前面を流下する雨水の一部が、上記ウィンドガラス53の外縁部の外側端部と上記カウルルーバ58の外側端部との間の隙間を通り抜け、かつ、上記ウィンドガラス53の外縁部における外側端部の後面がわに流入したとし、この雨水の一部が上記接着剤54の外側面に沿って流下(図1,3中A)したとする。この場合、この接着剤54の下端部の外側端部に達した雨水の一部は、自然流下により上記突出部65の突出端にまで案内され、ここで、この突出部65の突出端から自重により落下させられて水切りされる(図1,3,4中B)。
【0052】
よって、上記のように水切りされた雨水の一部は、上記突出部65に対応するフロントカウル4内部の所望部位に排水させることができることから、上記雨水の一部が上記フロントカウル4の車体2幅方向の中途部に形成された空気導入口62に落下して、上記フロントカウル4の内部の空気と共に車体2内部の車室17に入り込む、という不都合の発生は防止される。
【0053】
また、上記した水切りの効果は、既設の接着剤54の利用により達成されるのであって、別途の水切り材を設けないで足りることから、上記効果は、簡単な構成により、低コストで達成可能である。
【0054】
また、前記したように、フロントカウル4が、このフロントカウル4の車体2幅方向における外側端部の前面部を形成するようそれぞれ車体2幅方向に延び、かつ、ウィンドガラス53の厚さ方向で前後に重ねられる前、後パネル部材69,70を備え、車体2幅方向で、上記前パネル部材69の外側がわ端縁69aが上記後パネル部材70の中途部に位置するようにし、
接着剤54の下端部が上記前パネル部材69の外側がわ端縁69aと後パネル部材70の中途部との各上面に跨るよう上記接着剤54を設け、この接着剤54の下端部における下端縁64のうち、上記突出部65よりも車体2幅方向での車体中央18がわに位置する下端縁64の部分が上記前パネル部材69の外側がわ端縁69aを横切るようにしている。
【0055】
このため、仮に、上記雨水の一部が上記突出部65を越え、上記接着剤54の下端部における下端縁64を伝って車体2幅方向での車体中央18がわに流動(図1,3,4中C)しようとしても、上記雨水の一部は浸透圧により上記隙間71に入り込んだり、上記後パネル部材70の中途部の上面から前パネル部材69の外側がわ端縁69aの上面への登り段差を登る際に落下させられたりして水切りされる。
【0056】
よって、上記のように水切りされた雨水の一部は、上記前パネル部材69の外側がわ端縁69aに対応するフロントカウル4内部の所望部位に排水させることができることから、上記雨水の一部が上記フロントカウル4の車体2幅方向の中途部に形成された空気導入口62に落下して、上記フロントカウル4の内部の空気と共に車体2内部の車室17に入り込む、という不都合の発生は、より確実に防止される。
【0057】
また、仮に、上記雨水の一部が上記前パネル部材69の外側がわ端縁69aを越え、上記接着剤54の下端縁64を伝って更に車体中央18がわに流動した場合には、上記雨水の一部は、上記接着剤54の塗布終了端54bにまで案内され、ここで、この塗布終了端54bの下端縁64から落下させられて水切りされる。
【0058】
なお、以上は図示の例によるが、上記前、後パネル部材69,70を全体的に面接触させ、上記隙間71は形成しなくてもよい。また、上記接着剤54の塗布終了端54bに、その下端縁64の一部を下方に突出させる他の突出部を形成し、この他の突出部に、上記突出部65と同様の機能を持たせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 車両
2 車体
3 フロントピラー
4 フロントカウル
9 フロントフェンダ
10 エンジンルーム
11 フード
14 フロントウィンド
17 車室
18 車体中央
20 インナパネル
21 アウタパネル
24 アウタパネル本体
25 外向きフランジ
28 カウルインナ
29 カウルアウタ
30 ブラケット
32 前パネル
33 後パネル
34 天井パネル
35 外向きフランジ
36 外向きフランジ
39 前パネル
40 後パネル
41 天井パネル
41a 中途部
42 外向きフランジ
43 外向きフランジ
44 延出パネル
47 フェンダ本体
48 外向きフランジ
51 ウィンド開口
52 開口縁部
53 ウィンドガラス
54 接着剤
54a 塗布開始端
54b 塗布終了端
55 モール
58 カウルルーバ
62 空気導入口
64 下端縁
65 突出部
69 前パネル部材
69a 外側がわ端縁
70 後パネル部材
71 隙間
S スポット溶接

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びる左右フロントピラーと、車体幅方向に延びて上記左右フロントピラーの上下方向の中途部に架設されるフロントカウルと、これら左右フロントピラーの上部とフロントカウルとで囲まれた空間に形成されるウィンド開口と、このウィンド開口の開口縁部の前面に外縁部が重ねられて上記ウィンド開口を閉じるウィンドガラスと、上記ウィンド開口の開口縁部とウィンドガラスの外縁部との間に介設される接着剤とを備えた車両の車体前部において、
上記接着剤の下端部の車体幅方向における外側端部に、この外側端部の下端縁を下方に突出させる突出部を形成したことを特徴とする車両の車体前部における水切り構造。
【請求項2】
上記フロントカウルが、このフロントカウルの車体幅方向における外側端部の前面部を形成するようそれぞれ車体幅方向に延び、かつ、上記ウィンドガラスの厚さ方向で前後に重ねられる前、後パネル部材を備え、車体幅方向で、上記前パネル部材の外側がわ端縁が上記後パネル部材の中途部に位置するようにし、
上記接着剤の下端部が上記前パネル部材の外側がわ端縁と後パネル部材の中途部との各上面に跨るよう上記接着剤を設け、この接着剤の下端部における下端縁のうち、上記突出部よりも車体幅方向での車体中央がわに位置する下端縁の部分が上記前パネル部材の外側がわ端縁を横切るようにしたことを特徴とする請求項1に記載の車両の車体前部における水切り構造。
【請求項3】
上下方向に延びる左右フロントピラーと、車体幅方向に延びて上記左右フロントピラーの上下方向の中途部に架設されるフロントカウルと、これら左右フロントピラーの上部とフロントカウルとで囲まれた空間に形成されるウィンド開口と、このウィンド開口の開口縁部の前面に外縁部が重ねられて上記ウィンド開口を閉じるウィンドガラスと、上記ウィンド開口の開口縁部とウィンドガラスの外縁部との間に介設される接着剤とを備えた車両の車体前部において、
上記フロントカウルが、このフロントカウルの車体幅方向における外側端部の前面部を形成するようそれぞれ車体幅方向に延び、かつ、上記ウィンドガラスの厚さ方向で前後に重ねられる前、後パネル部材を備え、車体幅方向で、上記前パネル部材の外側がわ端縁が上記後パネル部材の中途部に位置するようにし、
上記接着剤の下端部が上記前パネル部材の外側がわ端縁と後パネル部材の中途部との各上面に跨るよう上記接着剤を設け、この接着剤の下端部における下端縁が上記前パネル部材の外側がわ端縁を横切るようにしたことを特徴とする車両の車体前部における水切り構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−46153(P2012−46153A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192688(P2010−192688)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】