説明

車両の車体前部構造

【課題】 正面衝突の衝突荷重をその大小に応じてフロントサイドフレームおよびサブフレームに適切に分散して衝撃吸収効果を高める。
【解決手段】 フロントサイドフレーム11の前端に上部を支持した左右一対の荷重伝達部材18の後面にブラケット当接部20bを突設し、そのブラケット当接部20bをフロントサイドフレーム11に設けたサブフレーム支持ブラケット12の前面に隙間βを存して対向させる。車両の正面衝突時に荷重伝達部材18に入力した衝突荷重を先ずフロントサイドフレーム11に伝達し、次いで荷重伝達部材18が後方に変形することで前記衝突荷重をブラケット当接部20bを介してサブフレーム支持ブラケット12に伝達し、サブフレーム支持ブラケット12に支持されたサブフレーム13に伝達する。このように衝突荷重を2段階に分けて吸収するので、軽衝突時にサブフレーム13が損傷するのを防止して被害を軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームの下方にサブフレーム支持ブラケットを介してサブフレームの前部を支持するとともに、前記フロントサイドフレームの前端に車幅方向に延びるバンパービームを支持した車両の車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる車両の車体前部構造は、下記特許文献1により公知である。
【0003】
この車両の車体前部構造によれば、フロントサイドフレーム(サイドメンバ1)の前端とバンパービーム(バンパーレインフォース6)の後面との間に荷重伝達部材(ファーストクロスメンバ3)の上端を挟持し、この荷重伝達部材の後面とサブフレーム支持ブラケット(サブフレームの取付ブラケット9)の前面とを直接連結している。従って、荷重伝達部材に入力された衝突荷重をフロントサイドフレームに伝達するのと同時に、前記衝突荷重をサブフレーム支持ブラケットを介してサブフレームに伝達して分散することができる。
【特許文献1】特開2003−160060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記特許文献1に記載されたものは、荷重伝達部材がサブフレーム支持ブラケットに直接連結されているので、荷重伝達部材に入力された衝突荷重がフロントサイドフレームおよびサブフレームに同時に伝達されることになり、衝撃吸収性能のコントロールが難しいだけでなく、フロントサイドフレームだけで衝撃を吸収可能な軽衝突時にもサブフレームに荷重が伝達されてしまい、被害を大きくする原因となる可能性があった。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、正面衝突の衝突荷重をその大小に応じてフロントサイドフレームおよびサブフレームに適切に分散して衝撃吸収効果を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車体前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームの下方にサブフレーム支持ブラケットを介してサブフレームの前部を支持するとともに、前記フロントサイドフレームの前端に車幅方向に延びるバンパービームを支持した車両の車体前部構造において、前記両フロントサイドフレームの前端と前記バンパービームの後面との間に左右一対の荷重伝達部材の上部を支持し、前記両荷重伝達部材の後面に突設したブラケット当接部を前記サブフレーム支持ブラケットの前面に隙間を存して対向させたことを特徴とする車両の車体前部構造が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記荷重伝達部材は、前記ブラケット当接部に一体に連なって前記フロントサイドフレームの下面に隙間を存して対向するフレーム当接部を備えることを特徴とする車両の車体前部構造が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記荷重伝達部材の前面に、歩行者の脚部に当接可能な衝撃吸収部材を設けたことを特徴とする車両の車体前部構造が提案される。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の構成によれば、左右一対のフロントサイドフレームの前端とバンパービームの後面との間に上部を支持した左右一対の荷重伝達部材の後面にブラケット当接部を突設し、そのブラケット当接部をフロントサイドフレームに設けたサブフレーム支持ブラケットの前面に隙間を存して対向させたので、車両の正面衝突時に荷重伝達部材に入力した衝突荷重を先ずフロントサイドフレームに伝達し、次いで荷重伝達部材が後方に変形することで前記衝突荷重をブラケット当接部を介してサブフレーム支持ブラケットに伝達し、サブフレーム支持ブラケットに支持されたサブフレームに伝達することができる。このように衝突荷重を2段階に分けて吸収するので、重衝突時に衝突荷重をフロントサイドフレームおよびサブフレームに分散して最大限の衝撃吸収効果を発揮させながら、軽衝突時にサブフレームへの荷重の伝達を防止して該サブフレームの損傷を防止することができる。
【0010】
また請求項2の構成によれば、荷重伝達部材は、車両の衝突時にサブフレーム支持ブラケットの前面に当接するブラケット当接部に加えて、フロントサイドフレームの下面に当接するフレーム当接部を一体に備えるので、衝突荷重を荷重伝達部材からサブフレームおよびフロントサイドフレームの両方に確実に分散させて衝撃吸収効果を一層高めることができる。
【0011】
また請求項3の構成によれば、荷重伝達部材の前面に歩行者の脚部に当接可能な衝撃吸収部材を設けたので、車体前部が歩行者の脚部と接触したときに衝撃吸収部材が潰れることで衝撃を吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0013】
図1〜図5は本発明の実施の形態を示すもので、図1は車体前部のフレーム構造の側面図、図2は図1の2部拡大図、図3は車体前部のフレーム構造の分解斜視図、図4は衝突時の作用説明図、図5は衝突時の荷重吸収特性を示すグラフである。
【0014】
図1〜図3に示すように、自動車の車体前部の左右両側部に車体前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム11,11が配置されており、両フロントサイドフレーム11,11の前部下面に、下向きに延びる四角錐台状のサブフレーム支持ブラケット12,12の下底部上面が溶接される。エンジン、トランスミッション、サスペンション等を支持する四角枠状のサブフレーム13は、その左右前端部が前記サブフレーム支持ブラケット12,12の上底部下面にゴムブッシュジョイント14,14を介して弾性支持され、その左右後端部が、両フロントサイドフレーム11,11の下方への屈曲部の下面にゴムブッシュジョイント15,15を介して弾性支持される。
【0015】
車体前後方向に延びるフロントバンパーのバンパービーム16の左右両端部が、両フロントサイドフレーム11,11の前端にボルト17…で固定される。このとき、バンパービーム16および各フロントサイドフレーム11の間に荷重伝達部材18の上端が挟まれて固定される。各荷重伝達部材18は前部部材19および後部部材20を一体に溶接して構成される。
【0016】
前部部材19は、矩形状の板材をクランク状に連続するように折り曲げた第1部分19a、第2部分19bおよび第3部分19cを備えており、第1部分の19aの上端がバンパービーム16およびフロントサイドフレーム11の間に挟持されて固定され、第2部分19bは第1部分19aの下端から前方に延び、第3部分19cは第2部分19bの前端から下方に延びている。
【0017】
後部部材20はフレーム当接部20a、ブラケット当接部20bおよび補強部20cを有する「コ」字状の部材であって、フレーム当接部20aの前端が前部部材19の第1部分19aの上下方向中間部の後面に溶接され、補強部20cの前端が前部部材19の第2部分19bの下面に溶接される。
【0018】
後部部材20のフレーム当接部20aの上面は、楔状の隙間αを介してフロントサイドフレーム11の前部下面に当接可能に対向する。また後部部材20のブラケット当接部20bの後面は、楔状の隙間βを介してサブフレーム支持ブラケット12の前面に当接可能に対向する。
【0019】
前部部材19の第3部分19cの前面に、薄肉の金属板で構成されて後方に開放する断面溝状の衝撃吸収部材21の左右両端部がボルト22…で固定される。図示せぬバンパースキンの内部において、衝撃吸収部材21はバンパービーム16よりも下方かつバンパービーム16よりも前方に配置されており、前方からの小さい荷重で圧壊して衝撃吸収効果を発揮する。
【0020】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0021】
図4(A)に示すように、低速で走行する車両のバンパーが歩行者の脚部に接触すると、薄肉の金属板で構成された衝撃吸収部材21が圧壊して衝撃吸収効果を発揮し、歩行者の脚部を衝撃から保護することができる。このとき、衝撃吸収部材21に入力される衝突荷重は小さいため、荷重伝達部材18は殆ど変形しない。
【0022】
図4(B)に示すように、車両の軽衝突時には、バンパービーム16に入力された衝突荷重が直接左右のフロントサイドフレーム11,11に伝達されて吸収される。衝撃吸収部材21に入力された衝突荷重は、該衝撃吸収部材21を圧壊して荷重伝達部材18に伝達され、そこから左右のフロントサイドフレーム11,11に伝達されて吸収される。このとき、荷重伝達部材18の前部部材19はフロントサイドフレーム11,11との結合部から後方に折れ曲がるが、衝突荷重が小さいために折れ曲がり角度が小さく、後部部材20のフレーム当接部20aおよびブラケット当接部20bは、フロントサイドフレーム11およびサブフレーム支持ブラケット12に当接することはない。よって、軽衝突時に衝突荷重がサブフレーム13に伝達されることはなく、サブフレーム13に支持されたエンジン、トランスミッション、サスペンション等の損傷を回避することができる。
【0023】
図4(C)に示すように、車両の重衝突時には、バンパービーム16に入力された衝突荷重の大部分が直接左右のフロントサイドフレーム11に伝達されて吸収される。また衝撃吸収部材21から衝突荷重を入力された荷重伝達部材18は、その前部部材19がフロントサイドフレーム11との結合部から後方に折れ曲がり、後部部材20のフレーム当接部20aがフロントサイドフレーム11の下面に当接し、後部部材20のブラケット当接部20bがサブフレーム支持ブラケット12の前面に当接する。その結果、衝撃吸収部材21に入力された衝突荷重はサブフレーム支持ブラケット12を介してサブフレーム13に伝達され、サブフレーム13の圧壊により吸収される。このように、車両の重衝突時には、衝突荷重をフロントサイドフレーム11およびサブフレーム13の両方に確実に伝達し、可能な限り大きい衝撃吸収性能を得ることができる。
【0024】
図5は、荷重伝達部材18に衝突荷重が入力した瞬間からの経過時間に対する荷重の変化を示すものである。衝突直後の領域aでは剛性の低い衝撃吸収部材21が圧壊することで、発生する荷重は小さく抑えられる。それに続く領域bでは、荷重伝達部材18が後方に変形することで若干大きい荷重が発生する。それに続く領域cでは、荷重伝達部材18がフロントサイドフレーム11,11およびサブフレーム支持ブラケット12,12に当接することで最大の荷重が発生する。
【0025】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0026】
例えば、実施の形態では荷重伝達部材18を前部部材19および後部部材20を溶接して構成しているが、それを一部材で構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】車体前部のフレーム構造の側面図
【図2】図1の2部拡大図
【図3】車体前部のフレーム構造の分解斜視図
【図4】衝突時の作用説明図
【図5】衝突時の荷重吸収特性を示すグラフ
【符号の説明】
【0028】
11 フロントサイドフレーム
12 サブフレーム支持ブラケット
13 サブフレーム
16 バンパービーム
18 荷重伝達部材
20a フレーム当接部
20b ブラケット当接部
21 衝撃吸収部材
α 隙間
β 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム(11)の下方にサブフレーム支持ブラケット(12)を介してサブフレーム(13)の前部を支持するとともに、前記フロントサイドフレーム(11)の前端に車幅方向に延びるバンパービーム(16)を支持した車両の車体前部構造において、
前記両フロントサイドフレーム(11)の前端と前記バンパービーム(16)の後面との間に左右一対の荷重伝達部材(18)の上部を支持し、前記両荷重伝達部材(18)の後面に突設したブラケット当接部(20b)を前記サブフレーム支持ブラケット(12)の前面に隙間(β)を存して対向させたことを特徴とする車両の車体前部構造。
【請求項2】
前記荷重伝達部材(18)は、前記ブラケット当接部(20b)に一体に連なって前記フロントサイドフレーム(11)の下面に隙間(α)を存して対向するフレーム当接部(20a)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の車両の車体前部構造。
【請求項3】
前記荷重伝達部材(18)の前面に、歩行者の脚部に当接可能な衝撃吸収部材(21)を設けたことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の車両の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−195206(P2008−195206A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32078(P2007−32078)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】