説明

車両の車体前部

【課題】車両の正面に入力された衝撃(荷重)を吸収する車両の車体前部を提供する。
【解決手段】車体前部は、左右のフロントサイドフレームにサブフレーム15を取付け、サブフレーム15は、左右の端部に前サスペンション装置21のロアアーム27を支持している前アーム連結部85及び後アーム連結部94と、サブフレーム15の上部95にエンジン18へ向けて設けたエンジン当て部96と、エンジン当て部96から後アーム連結部94までの間(連続部97)に設けられ、フロントサイドフレームに締結する後締結部98と、を備えている。後アーム連結部94とエンジン当て部96との間に配置され、且つ、後枝メンバー105から車両後方へ向け突出した枝部106に後締結部98が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室の床の前に設けたサブフレームの左端、右端に前輪を支持するロアアームを連結し、車両正面に入力された衝撃(荷重)をサブフレームで吸収する車両の車体前部に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体前部には、車両正面に衝撃(荷重)が入力されると、サスペンションメンバ(サブフレーム)を、支持部を中心に回動させることによって、サスペンションメンバの後退を抑制しているものがある。
このサスペンションメンバは、車両平面視、井桁状で、前輪に沿うサイドメンバに左部材、右部材を接合し、左部材、右部材にロアアームを連結している。
そして、例えば、前方から左のロアアームに衝撃が入力されると、左部材は内側へ曲がりつつ、左部材の後側連結部を中心に左部材が回動(時計回り)して、連なる後部材が折れ曲がる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、従来技術(特許文献1)は、左部材、右部材、これらに接合した後部材を変形、折り曲げる形状に設定しているため、サスペンションメンバ(サブフレーム)の強度が小さくなる。その結果、サスペンションメンバから支持している車体(サイドメンバを含む)に支持用ボルトを介し大きな衝撃を伝達し難く、サスペンションメンバ(サブフレーム)で比較的大きな衝撃を吸収できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−220754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、車両の正面に入力された衝撃(荷重)を吸収する車両の車体前部を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、車両の車室に連続する車体前部の左右のフロントサイドフレームに車室の床の前に配置され左右に延びるサブフレームを取付けた車体前部において、サブフレームは、左右の端部にサスペンション装置のロアアームを支持している前アーム連結部及び後アーム連結部と、サブフレームの上部に車体前部内に配置されたエンジンへ向けて設けたエンジン当て部と、エンジン当て部から後アーム連結部までの間に設けられ、フロントサイドフレームに締結する後締結部と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明では、フロントサイドフレームは、後締結部を締結したフレーム締結部に車両の左右へ分岐している分岐部を接続していることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明では、サブフレームは、車両平面視、左右に延びる横メンバーと、横メンバーの左右の端部からそれぞれY字状に前後に分かれることで形成された一方の前枝メンバー、他方の後枝メンバーと、を備え、後枝メンバーに後アーム連結部が形成され、後アーム連結部とエンジン当て部との間に配置され、且つ、後枝メンバーから車両後方へ向け突出した枝部に後締結部が形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明では、サブフレームは、後アーム連結部の断面の高さに比べ、後締結部の断面の高さが低いことを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明では、フロントサイドフレームのフレーム締結部は、フロントサイドフレームの外側に設けたブラケットにカラーナットが立設され、上方のフロントサイドフレーム、フロントサイドフレームの内部に設けたスティフナーを貫通して、支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、サブフレームは、左右の端部にサスペンション装置のロアアームを支持している前アーム連結部及び後アーム連結部と、サブフレームの上部に車体前部内に配置されたエンジンへ向けて設けたエンジン当て部と、エンジン当て部から後アーム連結部までの間に設けられ、フロントサイドフレームに締結する後締結部と、を備えているので、車両の正面に入力された衝撃(荷重)でエンジンが後退して、エンジン当て部に当接すると、車両平面視、サブフレームの後締結部(締結用ボルトの半径方向の外方)の両側(時計回り、反時計回り)に荷重が伝わり、後締結部を回動させる力は相殺される。
【0012】
その結果、後締結部を締結しているボルトの軸線を中心にして回動せず、後締結部の近傍がV字状にサブフレームの上面を谷折りするように変形するので、後締結部はボルトを折り曲げ、より荷重が大きいときには切断する。
【0013】
すなわち、回動させる力は相殺されてボルトが切断されるまでボルトに十分な反力を発生させることができるので、サブフレームから前方に延びる下部緩衝ビーム部材やサブフレームを変形させることによって衝撃(荷重)を吸収することができる。
【0014】
そして、最後に、ボルトが破断すると、サブフレームは車室の前壁(ダッシュボードロアパネル)へ向かって後退するが、既に衝撃(荷重)を吸収しているため、前壁(ダッシュボードロアパネル)を変形させることがない。または、前壁(ダッシュボードロアパネル)の変形を抑制することができる。
つまり、前壁(ダッシュボードロアパネル)が車室に押し込まれることを防止することができる。
【0015】
請求項2に係る発明では、フロントサイドフレームは、後締結部を締結したフレーム締結部に車両の左右へ分岐している分岐部を接続しているので、分岐部に衝撃(荷重)が分散され、フレーム締結部の強度を高めることができ、フレーム締結部と後退する後締結部とで行うボルトの破断は容易になる。
【0016】
請求項3に係る発明では、サブフレームは、車両平面視、左右に延びる横メンバーと、横メンバーの左右の端部からそれぞれY字状に前後に分かれることで形成された一方の前枝メンバー、他方の後枝メンバーと、を備え、後枝メンバーに後アーム連結部が形成され、後アーム連結部とエンジン当て部との間に配置され、且つ、後枝メンバーから車両後方へ向け突出した枝部に後締結部が形成されているので、横メンバーに設けたエンジン当て部と後アーム連結部との間に後締結部を配置することができる。
【0017】
請求項4に係る発明では、サブフレームは、後アーム連結部の断面の高さに比べ、後締結部の断面の高さが低いので、後締結部の近傍を折り曲げる力が発生しやすいという利点がある。
【0018】
請求項5に係る発明では、フロントサイドフレームのフレーム締結部は、フロントサイドフレームの外側に設けたブラケットにカラーナットが立設され、上方のフロントサイドフレーム、フロントサイドフレームの内部に設けたスティフナーを貫通して、支持されているので、カラーナットを支持する強度が高まり、カラーナットと後締結部との間に位置するボルトの中央からボルトを折り曲げやすく、さらに、折り曲げたところを破断させやすいという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例に係る車両の概要を示す断面図である。
【図2】右下から見た車体前部の斜視図である。
【図3】車体前部の分解斜視図である。
【図4】下から見た車体前部の左部の下面図である。
【図5】実施例に係るサブフレーム、サイドビームの斜視図である。
【図6】サブフレームの平面図である。
【図7】サブフレームの左で、(a)は詳細図、(b)は分解図である。
【図8】図6の8−8線断面図である。
【図9】図8の9部詳細図である。
【図10】エンジン当て部の分解図である。
【図11】フロントサイドフレームに締結する後締結部を示す斜視図である。
【図12】図11の12−12線断面図である。
【図13】フロントサイドフレームの分解図である。
【図14】実施例に係る車体前部の衝撃を吸収する機構を説明する平面図で、(a)は衝撃を入力する前のサブフレームの状態、(b)は衝撃を入力した後のサブフレームの状態を示す。
【図15】車体前部の衝撃を吸収する機構を説明する図で、(a)は衝撃を入力する前の斜視図、(b)は(a)のb矢視図、(c)は衝撃を入力した後の斜視図、(d)は(c)のd矢視図ある。
【図16】比較図で、車両の下から見上げた図であり、(a)は比較例の下面図、(b)は実施例の下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0021】
車両11は、図1〜図3に示すように、実施例に係る車体前部12を採用している。
車体前部12は、車体14のフロントボデーであり、サブフレーム15を備える。このサブフレーム15および左右のフロントサイドフレーム16、17にエンジン18を載せ、前サスペンション装置21を支持している。
【0022】
ここで、車両11前後方向をX軸方向、車両11左右方向(車幅方向)をY軸方向、車両11上下方向をZ軸方向とする。
左右は、運転手を基準とし、運転席に座って正面を見た状態で、運転手の右が右とする。
【0023】
エンジン18は、図1、図5、図6に示すように、既存の横置(Y軸方向)きで、右に配置したエンジン本体23と、エンジン本体23に接続し左に配置した変速装置24を有する。
前サスペンション装置21は、図5、図6、図9に示す通り、マクファーソンストラット式で、前輪26(図1)を支持するロアアーム27と、このロアアーム27に下端を取付け立設したダンパー(ストラット)28と、を備える。
【0024】
ロアアーム27は、既存のもので、鉄(鋼)またはアルミニウム合金を用いた鋳造品(中実)であり、鋼板を用いたサブフレーム15に比べ強度が大きい。
そして、サブフレーム15に連結するロアアーム前連結端31と、ロアアーム後連結端32と、前輪26を支持したダンパー28の下端を連結する先端リンク部33と、を備える。なお、ダンパー28の上端を車体前部12のダンパーハウジング34(図2)に締結する。
【0025】
車体前部(フロントボデー)12は、左右のフロントサイドフレーム16、17、このフロントサイドフレーム16、17の先端に取付けた正面枠部(バルクヘッド)37、フロントサイドフレーム16、17に立設したダンパーハウジング34と、を備える。
【0026】
フロントサイドフレーム16、17は、図1〜図4に示すように、ほぼ水平なフレーム本体38と、フレーム本体38から後方下方(矢印a1の方向)に下がり傾斜したフロントフロアフレーム41と、を有する。
フロントフロアフレーム41の中央に設けた前フレーム締結部43、後部に設けた後フレーム締結部44に下方からサブフレーム15を締結し、フロントフロアフレーム41を床(アンダボデー)45に一体的に接合している。
【0027】
アンダボデー45は、図2に示す通り、フロントフロアパネル46の左右の端を左右のサイドボデー47、48のサイドシル51に接合している。
また、フロントフロアパネル46と、フロントフロアパネル46の左右の中央に設けたトンネル部52と、図2〜図4に示すフロントフロアフレーム41から延びるフロアセンタフレーム54、フロアフレーム55、アウトリガー56と、を備える。
これらフロアフレーム55の後端、アウトリガー56の外端を左右のフロントサイドフレーム16、17の後方でサイドシル51に接合している。
【0028】
フロントサイドフレーム16、17はまた、フレーム本体38の前部を前衝撃吸収部58とし、この前衝撃吸収部58にバンパ装置61のバンパビーム62を取付けている。
前衝撃吸収部58はバンパビーム62に入力された衝撃(荷重)を直接吸収する。
【0029】
バンパビーム62は、前衝撃吸収部58の先端に直接締結したものである。すなわち、バンパビーム62に入力された衝撃(荷重)を吸収するものをフロントサイドフレーム16、17との間に介在させていない。
【0030】
前衝撃吸収部58の内側には正面枠部(バルクヘッド)37を取付けている。
正面枠部(バルクヘッド)37は、左右のフロントサイドフレーム16、17に立設したフロントサイドバルクヘッド64、フロントサイドバルクヘッド64の上部に接合したバルクヘッドアッパフレーム65、フロントサイドバルクヘッド64の下部に接合したフロントバルクヘッドロアクロスメンバ66を備える。68はフロントバルクヘッドロアクロスメンバ66に接合した足払いプレートである。
【0031】
次に、車体前部12の概要を図1〜図13で説明する。
車体前部12は、車両11の車室71に連続する車体前部12の左右のフロントサイドフレーム16、17に車室71の床(アンダボデー)45の前に配置された左右に延びるサブフレーム15を取付けた。
【0032】
そして、サブフレーム15から車体前部12の正面枠部37まで延びるサイドビーム74を有する。
サイドビーム74は、車両11の前方へ向くサブフレーム15の前壁75に接合し、中央に車両11の下方に下げた湾曲部76を形成して、湾曲部76に連ねて水平直線部77とした下部緩衝ビーム部材78と、水平直線部77及び正面枠部37に接合し車両11の正面79からの入力で圧縮変形する衝撃吸収部材81と、からなる。
【0033】
衝撃吸収部材81の上面82(図9、図12)を正面枠部37の下面83(図11、図12)に結合している。
衝撃吸収部材81は、車両側面視(図1、図17(a)の視点)、車両11前後に延びて、下部緩衝ビーム部材78の湾曲部76より車両上方(図17の距離α)に配置されている。
【0034】
サブフレーム15は、前壁75と、前壁75に連なり左右の端部にサスペンション装置(前サスペンション装置)21のロアアーム27を支持している前アーム連結部85を有する。
前アーム連結部85を設けた前壁75に下部緩衝ビーム部材78の後部86(図9)を結合している。
【0035】
また、衝撃吸収部材81は、閉断面形状(図15、図16)で、車両11の上方へ向く平板状の天部88(図14〜図16)と、天部88に接合され車両11の下方へ膨出した略U字形の吸収フレーム部91と、からなる。
衝撃吸収部材81の内側に下部緩衝ビーム部材78を挿入し接合した(図9、図12、図15)。
【0036】
次に、車体前部12の主要構成を図1〜図13で説明する。
車体前部12では、サブフレーム15は、左右の端部にサスペンション装置(前サスペンション装置)21のロアアーム27を支持している前アーム連結部85及び後アーム連結部94と、サブフレーム15の上部95に車体前部12内に配置されたエンジン18へ向けて設けたエンジン当て部96と、エンジン当て部96から後アーム連結部94までの間(図5の連続部97)に設けられ、フロントサイドフレーム16、17に締結する後締結部98と、を備えている(図5、図6)。
【0037】
フロントサイドフレーム16、17は、後締結部98を締結したフレーム締結部(後フレーム締結部)44に車両11の左右(Y軸方向)へ分岐している分岐部102を接続している(図2、図4)。
【0038】
また、サブフレーム15は、車両11平面視(図6の視点)、左右(Y軸方向)に延びる横メンバー103と、横メンバー103の左右の端部からそれぞれY字状に前後に分かれることで形成された一方の前枝メンバー104、他方の後枝メンバー105と、を備える。
【0039】
そして、後枝メンバー105に後アーム連結部94が形成され、後アーム連結部94とエンジン当て部96との間に配置され、且つ、後枝メンバー105から車両11後方へ向け突出した枝部106に後締結部98が形成されている。
【0040】
さらに、サブフレーム15は、図7(a)、図15(c)に示す通り、後アーム連結部94の断面の高さHsに比べ、後締結部98の断面の高さHbが低い。
「後アーム連結部94の断面の高さHs」は、後アーム連結部94の高さHsと同じ意味である。
「後締結部98の断面の高さHb」は、後締結部98の高さHbと同じ意味である。
【0041】
フロントサイドフレーム16、17のフレーム締結部(後フレーム締結部)44は、図11〜図13に示す通り、フロントサイドフレーム16、17の外側(矢印a3の方向)に設けたブラケット121にカラーナット122が立設され、上方のフロントサイドフレーム16、17、フロントサイドフレーム16、17の内部に設けたスティフナー123を貫通して、支持されている。
【0042】
次に、車体前部12を詳しく説明していく。
車体前部12は、既に述べたサブフレーム15、エンジン当て部96、フロントサイドフレーム16、17、を有する。
【0043】
サブフレーム15は、フロントサイドフレーム16、17の前フレーム締結部43に締結する前締結部178が横メンバー103の左右の端部に形成されている。
一方、後締結部98がフロントサイドフレーム16、17の後フレーム締結部44に締結している。
【0044】
後締結部98が、車両11平面視(図6の視点)、後アーム連結部94より車両11の内側(矢印a4の方向)に形成されている。言い換えると、後アーム連結部94から車両11の中心へ向かって距離Wrだけ離れている。
【0045】
また、サブフレーム15は、車両側面視(図15(b)の視点)、後アーム連結部94(の中心)より後締結部98(の中心)を距離Eだけ下位に配置している。その結果、後アーム連結部94と後締結部98の間(連続部179)を必要に応じて、例えば、車両正面が接触したときに、V字状に折り曲げる(図15(c)、図15(d)参照)ことは容易になる。
【0046】
さらに、サブフレーム15は、図7、図8に示す通り、鋼板を用いた中空(中空部128)で、上分割本体181に下分割本体182を接合したものである。そして、後締結部98には上分割本体181および下分割本体182に接合したカラー183を配置している。184は孔である。
さらに、後退したエンジン18がサブフレーム15に接触するとほぼ同時に当接する位置にエンジン当て部96が取付けられている。
【0047】
エンジン当て部96は、図8〜図10に示す通り、上分割本体181に当壁185を立設し、当壁185の裏面にバックブラケット186を接合している。187は当壁185およびバックブラケット186を固定する溶接部である。
「当壁185の裏面」とは、後退するエンジン18が当接する面を表面とし、この表面に対する裏面である。
【0048】
また、エンジン当て部96は、高さHeをエンジン18の下部188に当接する高さに設定し、幅We(Y軸方向)をサブフレーム15の幅(Y軸方向)の約1/7に設定している。その結果、軽量化を損なうことなく、エンジン18の後退を抑制しつつ、フロントサイドフレーム16、17に衝撃(荷重)を伝達することができる。
【0049】
フロントサイドフレーム16、17は、フロントフロアフレーム41に設けた後フレーム締結部44を備える。
後フレーム締結部44は、図11〜図13に示す通り、フレームブラケット121からフレームスティフナー123に達するカラーナット122を接合している。
カラーナット122は、めねじ部191を形成し、フレームブラケット121およびフレームスティフナー123に溶接部192で接合している。
めねじ部191にボルト193をねじ込むことによって、締結されている。
【0050】
次に、実施例に係る車体前部12の作用を説明する。
車体前部12の衝撃を吸収する機構を説明する(図4、図14〜図16参照)。
車体前部12では、図14に示す通り、車両11の正面79(図1)に他の自動車など障害物が接触すると、図15(d)に示す通り、後締結部98の近傍(連続部179)が曲がり、後締結部98に用いるにボルト193が曲がって破断し、衝撃を吸収することができる。
【0051】
具体的には、車両11の正面79に障害物が接触し、正面79に衝撃(荷重)が矢印b1のように入力され、図14(b)、図15(c)、図15(d)に示す通り、エンジン18が後退すると、エンジン当て部96に矢印c1のように当接する(図14(b))。
【0052】
そして、エンジン当て部96に衝撃(荷重)が入力されると、エンジン当て部96からサブフレーム15の両側(左右)の後締結部98に荷重が矢印c2、矢印c3のように伝わる。
【0053】
さらに、エンジン18からロアアーム27を介して矢印c4のように伝わる。
その結果、後締結部98に荷重が集中するので、後締結部98の近傍(後アーム連結部94と後締結部98の間の部位(連続部179))を起点にV字状に矢印b6(図15(d)参照)のように折れ曲がり、後締結部98は後締結部98を締結しているボルト193を矢印c5のように折り曲げる。
【0054】
さらに、衝撃(荷重)が大きい場合には、ボルト193がさらに曲がるので、ボルト193は破断する。つまり、ボルト193の破断直前まで、サブフレーム15は衝撃を吸収し続けることができ、且つ、ボルト193は剪断方向(X軸方向)の荷重を伝え続けることができる。
【0055】
次に、比較例を用いて説明する(図16参照)。
図16(a)の比較例は、従来技術(特許文献1)に相当する技術にエンジン当て部96を設けている。
【0056】
(a)の比較例では、衝撃(荷重)は矢印c6、矢印c7のように伝わるので、サブフレーム301の後締結部302にはボルト303の軸線(図の表裏方向に延びる線)Jを中心、つまりボルト303の半径の中心を中心にして矢印Aの方向に回動するように荷重が伝わる。
従って、後締結部302およびボルト303に衝撃(荷重)が伝わり難い。
【0057】
すなわち、サブフレーム301の後締結部302より車両11の内側に、エンジン当て部96、ロアアーム304のロアアーム前連結端305ならびにロアアーム後連結端306を配置しているため、荷重の入力位置がサブフレーム301の後締結部302、ボルト303より車両11の内側に偏心している。
【0058】
一方、実施例では、(b)に示す通り、衝撃(荷重)は後締結部98の両側(車両平面視、左右)に矢印c8、矢印c9のように伝わるので、サブフレーム15の後締結部98にはボルト193の軸線Jを中心、つまりボルト193の半径の中心を中心にして、一方に矢印Bの方向、他方に矢印Bの逆方向である矢印Cに荷重が伝わるので、後締結部98を回動させる力は相殺される。
従って、後締結部98およびボルト193にボルト193を剪断(X軸方向)するように衝撃(荷重)が伝わる。
【0059】
すなわち、サブフレーム15の後締結部98より車両11の外側に、ロアアーム27のロアアーム前連結端31およびロアアーム後連結端32が偏心しているので、後締結部98のボルト193の軸線Jを中心にして、両側(矢印B、矢印Cの方向)に荷重が伝わる。後締結部98を中心にしたサブフレーム15を回動させる力が相殺され、ボルト193に力を付与することができる。
【0060】
また、車体前部12では、サブフレーム15の後締結部98の両側に荷重が矢印c8、矢印c9のように伝わると、後締結部98に回転力(矢印Dの方向)を付与することなく、後締結部98からボルト193を介して(X軸方向)後フレーム締結部44、分岐部102に衝撃(荷重)を伝えることができる。
【0061】
そして、図4に示す通り、後フレーム締結部44、分岐部102はフロアセンタフレーム54に衝撃(荷重)を矢印b8のように分散し、同時にフロアフレーム55に矢印b9のように分散することができる。その結果、フレーム締結部(後フレーム締結部)44の強度を高めることができ、強固にカラーナット122を保持して、後フレーム締結部44と後退する後締結部98とで行うボルト193の破断は容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の車両の車体前部は、自動車に好適である。
【符号の説明】
【0063】
11…車両、12…車体前部、15…サブフレーム、16…左のフロントサイドフレーム、17…右のフロントサイドフレーム、18…エンジン、21…サスペンション装置(前サスペンション装置)、27…ロアアーム、44…フレーム締結部(後フレーム締結部)、45…床(アンダボデー)、71…車室、85…前アーム連結部、94…後アーム連結部、95…サブフレームの上部、96…エンジン当て部、98…後締結部、102…分岐部、103…横メンバー、104…前枝メンバー、105…後枝メンバー、106…枝部、121…ブラケット、122…カラーナット、123…スティフナー、Hs…後アーム連結部の断面の高さ、Hb…後締結部の断面の高さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車室に連続する車体前部の左右のフロントサイドフレームに前記車室の床の前に配置され左右に延びるサブフレームを取付けた車体前部において、
前記サブフレームは、左右の端部にサスペンション装置のロアアームを支持している前アーム連結部及び後アーム連結部と、前記サブフレームの上部に前記車体前部内に配置されたエンジンへ向けて設けたエンジン当て部と、該エンジン当て部から前記後アーム連結部までの間に設けられ、前記フロントサイドフレームに締結する後締結部と、を備えていることを特徴とする車両の車体前部。
【請求項2】
前記フロントサイドフレームは、前記後締結部を締結したフレーム締結部に前記車両の左右へ分岐している分岐部を接続していることを特徴とする請求項1記載の車両の車体前部。
【請求項3】
前記サブフレームは、車両平面視、左右に延びる横メンバーと、該横メンバーの左右の端部からそれぞれY字状に前後に分かれることで形成された一方の前枝メンバー、他方の後枝メンバーと、を備え、
前記後枝メンバーに前記後アーム連結部が形成され、該後アーム連結部と前記エンジン当て部との間に配置され、且つ、前記後枝メンバーから車両後方へ向け突出した枝部に前記後締結部が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両の車体前部。
【請求項4】
前記サブフレームは、前記後アーム連結部の断面の高さに比べ、前記後締結部の断面の高さが低いことを特徴とする請求項3記載の車両の車体前部。
【請求項5】
前記フロントサイドフレームのフレーム締結部は、前記フロントサイドフレームの外側に設けたブラケットにカラーナットが立設され、上方の前記フロントサイドフレーム、前記フロントサイドフレームの内部に設けたスティフナーを貫通して、支持されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の車両の車体前部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−153258(P2012−153258A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14204(P2011−14204)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】