説明

車両の車体後上部構造

【課題】前突時の着座者の慣性力が過大であるとしても、シートベルトによる着座者の拘束性能が良好に保持されるようにする。
【解決手段】車両の車体前部構造は、互いに接合されるアウタ、インナパネル11,12を備える左、右側壁7と、左、右側壁7の各上端縁部に架設されるルーフパネル8とを備える。左、右側壁7とルーフパネル8との各後端縁部で囲まれた空間をバックドア開口14とする。側壁7に形成したウィンド開口18の開口縁部に固定されるウィンドガラス20を設ける。側壁7におけるバックドア開口14とウィンド開口18との間の部分を後部ピラー29とし、後部ピラー29の上下方向の中途部におけるインナパネル12の部分にシートベルト42を掛止するショルダアンカー44を固着する。ウィンド開口18の開口縁部の後上部を形成する後角部49近傍のインナパネル12の部分に脆弱部50を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体後部の側壁にウィンドガラスで常時閉じられるウィンド開口を形成し、このウィンド開口の後方における上記側壁の部分である後部ピラーにシートベルトを掛止するショルダアンカーを取り付けた車両の車体後上部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両の車体後上部構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車体後上部は、互いに接合されるアウタ、インナパネルを有して上下方向の各部断面が中空の閉断面構造とされる左、右側壁と、これら左、右側壁の各上端縁部に架設されるルーフパネルとを備えている。上記左、右側壁とルーフパネルとの各後端縁部で囲まれた空間がバックドア開口とされている。上記側壁にサイドドア開口とウィンド開口とが前後に並ぶよう形成され、このウィンド開口の開口縁部に固定されてこのウィンド開口を閉じるウィンドガラスが設けられる。
【0003】
上記側壁における上記サイドドア開口とウィンド開口との間の部分が中間部ピラーとされる一方、上記バックドア開口とウィンド開口との間の部分が後部ピラーとされ、この後部ピラーの上下方向の中途部における上記インナパネルの部分にシートベルトを掛止するショルダアンカーが固着されている。
【0004】
車両の走行時、車体内部のシートに着座した着座者は、通常、上記シートベルトにより拘束された状態とされる。そして、車両の前進走行時に、その前方に位置する何らかの物体に車両が衝突(前突)したときには、着座者はその慣性力によりシート側からその前方に移動しようとするが、上記慣性力は、上記シートベルト、およびこのシートベルトを掛止するショルダアンカーを介し上記後部ピラーにより主に支持され、上記シート側からの着座者の前方移動が阻止される。つまり、前突時における着座者は、上記シートベルトによりシート上に拘束されたままに保持されて保護される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2006−103436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記した従来の技術の車体後上部構造では、前突時に、次のような強度上の問題点が生じるおそれがある。そこで、後述する実施例と共通する符号に´を付した符号を用い、図5を参照して、上記問題点につき説明する。
【0007】
まず、図5(a)において、上記従来の技術における上記中間部ピラー28´は、上記サイドドア開口16´を開閉する際のサイドドアからの衝撃力に強固に対抗する必要があり、かつ、上記サイドドア開口16´を閉じたサイドドアを強固に支持する必要もある。このため、上記中間部ピラー28´は、通常、その強度や剛性(以下、単に強度という)が大きくされて、車体2´の骨格部材とされる。また、上記ルーフパネル8´の後端縁部で形成されるリヤヘッダ24´の外側端部と、上記側壁7´の上縁部で構成されて上記ルーフパネル8´の側端縁部を支持するルーフサイドレール26´の後端部と、上記後部ピラー29´の上端部とが集合する三又部32´は、上記した三つの各部材が互いに補強し合うことにより、強度が大きくなりがちである。
【0008】
しかし、その一方、上記ウィンド開口18´は、その開口縁部にウィンドガラスを固定するものであり、つまり、常閉式のものである。このため、開閉式のものに比べて、上記ウィンド開口18´の開口縁部の強度は、通常、低く設定される。このため、このウィンド開口18´の開口縁部によって前縁部が形成される上記後部ピラー29´は、その強度が低下しがちとなる。
【0009】
よって、車体2´の前後方向における上記中間部ピラー28´からウィンド開口18´への遷移部であって、このウィンド開口18´の開口縁部の前上部を形成する前角部58´の強度は、上記中間部ピラー28´や三又部32´に比べて、相対的に低くなりがちである。このため、前記したように、前突時、着座者の慣性力が過大である場合に、上記後部ピラー29´におけるショルダアンカー44´の固着部に上記シートベルトとショルダアンカー44´とを介し上記慣性力F´が与えられると、この慣性力F´により上記前角部58´に大きい応力集中が生じがちとなることから、第1点として、車体平面視の図5(b)中、一点鎖線で示すように、上記側壁7´は、上記前角部58´を頂点として車体2´の外側方に向かって凸のへの字形状となるよう大きく屈曲A´するおそれが生じる。
【0010】
また、第2点として、上記慣性力F´によれば、上記したように前角部58´に応力集中が生じがちになることに加えて、上記後部ピラー29´におけるショルダアンカー44´の固着部にも大きい応力集中が生じがちとなることから、車体側面視の図5(c)中、一点鎖線で示すように、上記後部ピラー29´は、上記ショルダアンカー44´の固着部を頂点として車体2´の前方に向かって凸のくの字形状となるよう大きく屈曲B´すると共に、図5(d)中、一点鎖線で示すように、この後部ピラー29´の屈曲B´に連動して上記ウィンド開口18´の開口縁部の上縁部が上記前角部58´を中心として下方に向かって回動するよう屈曲C´するおそれが生じる。
【0011】
そして、上記したような屈曲A´〜C´が生じた場合には、このような屈曲A´〜C´により上記シートベルトを掛止するショルダアンカー44´が前方に向かい大きく変位して、上記シートベルトが無用に大きく弛むこととなり、この結果、このシートベルトによる着座者の拘束性能が低下するという不都合が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、シート上にシートベルトとショルダアンカーとを介し着座者が拘束されている車両走行時に、前突により上記ショルダアンカー等を介し後部ピラーに与えられる着座者の慣性力が過大であるとしても、シートベルトによる着座者の拘束性能が良好に保持されるようにすることである。
【0013】
請求項1の発明は、互いに接合されるアウタ、インナパネル11,12を有して上下方向の各部断面が中空の閉断面構造とされる左、右側壁7と、これら左、右側壁7の各上端縁部に架設されるルーフパネル8とを備え、上記左、右側壁7とルーフパネル8との各後端縁部で囲まれた空間をバックドア開口14とし、上記側壁7にサイドドア開口16とウィンド開口18とを前後に並べて形成し、このウィンド開口18の開口縁部に固定されてこのウィンド開口18を閉じるウィンドガラス20を設け、上記側壁7における上記サイドドア開口16とウィンド開口18との間の部分を中間部ピラー28とする一方、上記バックドア開口14とウィンド開口18との間の部分を後部ピラー29とし、この後部ピラー29の上下方向の中途部における上記インナパネル12の部分にシートベルト42を掛止するショルダアンカー44を固着した車両の車体後上部構造において、
上記ウィンド開口18の開口縁部の後上部を形成する後角部49近傍の上記インナパネル12の部分に脆弱部50を形成したことを特徴とする車両の車体後上部構造である。
【0014】
請求項2の発明は、上記脆弱部50を溝形状とし、上記ルーフパネル8の後端縁部で形成されるリヤヘッダ24の外側端部と、上記側壁7の上縁部で構成されて上記ルーフパネル8の側端縁部を支持するルーフサイドレール26の後端部と、上記後部ピラー29の上端部とが集合する三又部32に向かって上記脆弱部50が上記ウィンド開口18の上記後角部49側から延びるよう形成したことを特徴とする請求項1に記載の車両の車体後上部構造である。
【0015】
請求項3の発明は、上記脆弱部50の前方近傍における上記インナパネル12の部分に強度向上部54を形成したことを特徴とする請求項1に記載の車両の車体後上部構造である。
【0016】
請求項4の発明は、上記請求項1〜請求項3と請求項5とを一体にしたものである。
【0017】
請求項5の発明は、互いに接合されるアウタ、インナパネル11,12を有して上下方向の各部断面が中空の閉断面構造とされる左、右側壁7と、これら左、右側壁7の各上端縁部に架設されるルーフパネル8とを備え、上記左、右側壁7とルーフパネル8との各後端縁部で囲まれた空間をバックドア開口14とし、上記側壁7にサイドドア開口16とウィンド開口18とを前後に並べて形成し、このウィンド開口18の開口縁部に固定されてこのウィンド開口18を閉じるウィンドガラス20を設け、上記側壁7における上記サイドドア開口16とウィンド開口18との間の部分を中間部ピラー28とする一方、上記バックドア開口14とウィンド開口18との間の部分を後部ピラー29とし、この後部ピラー29の上下方向の中途部における上記インナパネル12の部分にシートベルト42を掛止するショルダアンカー44を固着した車両の車体後上部構造において、
上記ウィンド開口18の開口縁部の下部から上記サイドドア開口16の開口縁部に至る上記インナパネル12の部分に強度向上部56を形成し、車体2内部のシート38上に着座者37を拘束したシートベルト42のうち、上記ショルダアンカー44側から前方に延びるベルト部分42aに対し、上記強度向上部56が車体2側面視(図2)でほぼ平行となるようこの強度向上部56を形成したことを特徴とする車両の車体後上部構造である。
【0018】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0019】
本発明による効果は、次の如くである。
【0020】
請求項1の発明は、互いに接合されるアウタ、インナパネルを有して上下方向の各部断面が中空の閉断面構造とされる左、右側壁と、これら左、右側壁の各上端縁部に架設されるルーフパネルとを備え、上記左、右側壁とルーフパネルとの各後端縁部で囲まれた空間をバックドア開口とし、上記側壁にサイドドア開口とウィンド開口とを前後に並べて形成し、このウィンド開口の開口縁部に固定されてこのウィンド開口を閉じるウィンドガラスを設け、上記側壁における上記サイドドア開口とウィンド開口との間の部分を中間部ピラーとする一方、上記バックドア開口とウィンド開口との間の部分を後部ピラーとし、この後部ピラーにおける上記インナパネルの上下方向の中途部にシートベルトを掛止するショルダアンカーを固着した車両の車体後上部構造において、
上記ウィンド開口の開口縁部の後上部を形成する後角部近傍の上記インナパネルの部分に脆弱部を形成しており、次の効果が生じる。
【0021】
即ち、車両の前突時には、着座者はその慣性力によりシート側から前方に移動しようとするが、上記慣性力は、上記シートベルト、およびこのシートベルトを掛止するショルダアンカーを介し後部ピラーのインナパネルにより主に支持され、上記シート側からの着座者の前方移動が阻止される。
【0022】
ここで、前突時に着座者の慣性力が過大である場合に、上記後部ピラーにおけるショルダアンカーの固着部に上記シートベルトとショルダアンカーとを介し上記慣性力が与えられると、前記従来の技術にて説明したように、要するに、第1点として、車体平面視で、上記側壁は、上記前角部を頂点として車体の外側方に向かって凸のへの字形状となるよう大きく屈曲するおそれが生じる。
【0023】
また、第2点として、車体側面視で、上記後部ピラーは、上記ショルダアンカーの固着部を頂点として車体の前方に向かって凸のくの字形状となるよう大きく屈曲すると共に、この後部ピラーの屈曲に連動して上記ウィンド開口の開口縁部の上縁部が上記前角部を中心として下方に向かって回動するよう屈曲するおそれが生じる。
【0024】
そして、上記したような屈曲が生じた場合には、このような屈曲により、上記シートベルトを掛止するショルダアンカーが前方に向かい大きく変位して、上記シートベルトが無用に大きく弛む、という不都合が生じる。
【0025】
しかし、前記したように、ウィンド開口の開口縁部の後上部を形成する後角部近傍のインナパネルの部分に脆弱部を形成している。
【0026】
このため、上記ショルダアンカーを固着した後部ピラーの長手方向(上下方向)の中途部の強度に比べて、この後部ピラーの上端側の強度が過大になることは上記脆弱部によって抑制されることから、上記したように後部ピラーに慣性力が与えられたとき、上記後部ピラーにおけるショルダアンカーの固着部に大きい応力集中が生じることは抑制される。つまり、上記後部ピラーが車体側面視でくの字形状となるよう大きく屈曲することが抑制されて、この後部ピラーは、上記慣性力が与えられた当初において、まず、その長手方向の各部が互いにより均等に、前方に向かって変形しようとする。そして、この変形により、上記後部ピラーに与えられる慣性力はその当初においてある程度緩和される。
【0027】
よって、前突時の着座者の慣性力が過大であるとしても、上記慣性力がそのまま上記ウィンド開口の開口縁部の前角部や後部ピラーにおけるショルダアンカーの固着部に与えられることは抑制されることから、前記第1点として側壁が車体の外側方に向かって凸のへの字形状に屈曲する、ということは抑制され、かつ、第2点として上記した後部ピラーがくの字形状に屈曲することや、これに連動してウィンド開口の開口縁部の上縁部が屈曲する、ということも抑制される。この結果、上記ショルダアンカーの固着部の前方への変位量が小さく抑制されて、上記ショルダアンカーに掛止されたシートベルトが無用に大きく弛むことが抑制され、このシートベルトによる着座者の拘束性能が良好に保持される。
【0028】
また、前記したように、ウィンド開口の開口縁部における後角部近傍のインナパネルの部分に脆弱部を形成したため、上記したように慣性力により後部ピラーが前方に向かって変形するとき、この変形が上記ウィンド開口の開口縁部のうちの上部側にまで及ぶことは、上記脆弱部により抑制される。よって、上記慣性力により上記側壁が無用に大きく変形することが抑制される。
【0029】
請求項2の発明は、上記脆弱部を溝形状とし、上記ルーフパネルの後端縁部で形成されるリヤヘッダの外側端部と、上記側壁の上縁部で構成されて上記ルーフパネルの側端縁部を支持するルーフサイドレールの後端部と、上記後部ピラーの上端部とが集合する三又部に向かって上記脆弱部が上記ウィンド開口の上記後角部側から延びるよう形成している。
【0030】
このため、上記リヤヘッダ、ルーフサイドレール、および後部ピラーの上端部が集合する三又部は、これら三つの各部材が互いに補強し合うことにより、強度が大きくなりがちであるが、上記脆弱部の形成によって、上記後部ピラーの上端部を含む三又部の強度が過大になることはより確実に抑制される。よって、前突時、上記後部ピラーの中途部に上記ショルダアンカーを介し与えられる着座者の慣性力が過大であるとしても、この慣性力により上記後部ピラーにおけるショルダアンカーの固着部に大きい応力集中が生じることは、より確実に抑制される。
【0031】
しかも、前記したように後部ピラーのアウタ、インナパネルのうち、インナパネルにショルダアンカーが固着されており、かつ、上記脆弱部を溝形状として上記後角部から三又部に向かって延びるよう形成したため、上記したように後部ピラーにおけるショルダアンカーの固着部に慣性力が与えられた場合には、このショルダアンカーを固着している上記インナパネルは、上記脆弱部の谷底部をほぼ中心として車体の幅方向で車体中央側に向かって回動するよう屈曲する。よって、上記慣性力により上記インナパネルに生じる応力は、このインナパネルの全体にわたり分散させられがちとなって、上記後部ピラーにおけるショルダアンカーの固着部に大きい応力集中が生じることは、より確実に抑制される。
【0032】
請求項3の発明は、上記脆弱部の前方近傍における上記インナパネルの部分に強度向上部を形成している。
【0033】
このため、上記強度向上部の形成により、この強度向上部に隣接して強度の落差が大きくされた上記脆弱部には上記慣性力に基づき応力集中が生じ易くなることから、上記慣性力により上記後部ピラーは上記脆弱部を中心として前上方に回動するよう屈曲しがちとなり、これと共に、上記後部ピラーにおけるショルダアンカーの固着部も前上方に回動しがちとなる。
【0034】
よって、その分、上記ショルダアンカーから前方に延びる慣性力の力の線に対し、その直交方向で、上記ウィンド開口の開口縁部の前角部が相対的に、より接近することから、上記慣性力により上記前角部に与えられる曲げモーメントは小さく抑制される。このため、前記したように車体側面視で、上記ウィンド開口の開口縁部の上縁部が上記前角部を中心として下方に向かって回動するよう屈曲する、ということは抑制される。
【0035】
請求項4の発明の効果は、請求項1〜請求項3と請求項5との各発明の効果に相当する。
【0036】
請求項5の発明は、互いに接合されるアウタ、インナパネルを有して上下方向の各部断面が中空の閉断面構造とされる左、右側壁と、これら左、右側壁の各上端縁部に架設されるルーフパネルとを備え、上記左、右側壁とルーフパネルとの各後端縁部で囲まれた空間をバックドア開口とし、上記側壁にサイドドア開口とウィンド開口とを前後に並べて形成し、このウィンド開口の開口縁部に固定されてこのウィンド開口を閉じるウィンドガラスを設け、上記側壁における上記サイドドア開口とウィンド開口との間の部分を中間部ピラーとする一方、上記バックドア開口とウィンド開口との間の部分を後部ピラーとし、この後部ピラーの上下方向の中途部における上記インナパネルの部分にシートベルトを掛止するショルダアンカーを固着した車両の車体後上部構造において、
上記ウィンド開口の開口縁部の下部から上記サイドドア開口の開口縁部に至る上記インナパネルの部分に強度向上部を形成し、車体内部のシート上に着座者を拘束したシートベルトのうち、上記ショルダアンカー側から前方に延びるベルト部分に対し、上記強度向上部が車体側面視でほぼ平行となるようこの強度向上部を形成している。
【0037】
即ち、車両の前突時には、着座者はその慣性力によりシート側から前方に移動しようとするが、上記慣性力は、上記シートベルト、およびこのシートベルトを掛止するショルダアンカーを介し後部ピラーのインナパネルにより主に支持され、上記シート側からの着座者の前方移動が阻止される。
【0038】
ここで、前突時、着座者の慣性力が過大である場合に、上記後部ピラーにおけるショルダアンカーの固着部に上記シートベルトとショルダアンカーとを介し上記慣性力が与えられると、前記従来の技術にて説明したように、要するに、第1点として、車体平面視で、上記側壁は、上記前角部を頂点として車体の外側方に向かって凸のへの字形状となるよう大きく屈曲するおそれが生じる。そして、この屈曲が生じた場合には、この屈曲により、上記シートベルトを掛止するショルダアンカーが前方に向かい大きく変位して、上記シートベルトが無用に大きく弛む、という不都合が生じる。
【0039】
しかし、上記したように、車体平面視における上記前角部に相当する側壁の部分は上記強度向上部によって補強されるため、上記した慣性力により上記側壁が車体の外側方に向かってへの字形状に大きく屈曲する、ということは抑制され、上記ショルダアンカーの固着部の前方への変位量が小さく抑制される。よって、前突時の着座者の慣性力が過大であるとしても、上記ショルダアンカーに掛止されたシートベルトが無用に大きく弛むことが抑制されて、このシートベルトによる着座者の拘束性能が良好に保持される。
【0040】
しかも、上記したように、車体内部のシート上に着座者を拘束したシートベルトのうち、上記ショルダアンカー側から前方に延びるベルト部分に対し、上記強度向上部が車体側面視でほぼ平行となるようこの強度向上部を形成しているため、上記強度向上部はその長手方向で上記慣性力に強固に対抗する。よって、この慣性力により上記側壁がへの字形状に変形することは、より確実に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】車体後上部を車室から見た斜視図である。
【図2】車体後部の側面部分破断図である。
【図3】車体後部の平面部分断面図である。
【図4】図2のIV−IV線矢視断面図である。
【図5】従来の技術とその問題点を説明するための車体後上部構造の簡略図であり、 (a)は、側面図、 (b)は、上記(a)のb−b線矢視の車体平面断面説明図、 (c)、(d)は、(a)に相当する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の車両の車体後上部構造に関し、シート上にシートベルトとショルダアンカーとを介し着座者が拘束されている車両走行時に、前突により上記ショルダアンカー等を介し後部ピラーに与えられる着座者の慣性力が過大であるとしても、シートベルトによる着座者の拘束性能が良好に保持されるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0043】
即ち、車両の車体後上部は、互いに接合されるアウタ、インナパネルを有して上下方向の各部断面が中空の閉断面構造とされる左、右側壁と、これら左、右側壁の各上端縁部に架設されるルーフパネルとを備えている。上記左、右側壁とルーフパネルとの各後端縁部で囲まれた空間がバックドア開口とされている。上記側壁にサイドドア開口とウィンド開口とが前後に並べて形成され、このウィンド開口の開口縁部に固定されてこのウィンド開口を閉じるウィンドガラスが設けられる。上記側壁における上記サイドドア開口とウィンド開口との間の部分が中間部ピラーとされる。一方、上記バックドア開口とウィンド開口との間の部分が後部ピラーとされ、この後部ピラーの上下方向の中途部における上記インナパネルの部分にシートベルトを掛止するショルダアンカーが固着されている。上記ウィンド開口の開口縁部における後上部の角部近傍の上記インナパネルの部分に脆弱部が形成されている。
【実施例】
【0044】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0045】
図において、符号1は、自動車で例示される車両であり、また、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。
【0046】
上記車両1は板金製の車体2と、この車体2を走行面3上に支持する前、後車輪4とを備えている。上記車体2後部は、サイドシルやフロアパネルで構成される車体下部材6と、この車体下部材6の左、右各側部から上方に突出する側壁7と、これら左、右側壁7の各上端縁部に架設されるルーフパネル8とを備えている。これら車体下部材6、各側壁7、およびルーフパネル8で囲まれた車体2の内部空間が車室9とされる。
【0047】
上記側壁7は、車体2の幅方向で互いに少し離れて対面するアウタ、インナパネル11,12を備え、上下方向の各部断面が中空の閉断面構造とされている。上記アウタ、インナパネル11,12の各上端縁部と上記ルーフパネル8の側端縁部とが重ね合わされてスポット溶接S1により互いに結合されている。
【0048】
上記車体下部材6、左、右側壁7、およびルーフパネル8の各後端縁部で囲まれた空間がバックドア開口14とされ、このバックドア開口14を開閉可能に閉じるバックドア15が設けられている。上記側壁7の前部側にサイドドア開口16が形成され、このサイドドア開口16を開閉可能に閉じるサイドドア17が設けられている。上記バックドア開口14とバックドア15との間における上記側壁7の部分の上部にウィンド開口18が形成されている。このウィンド開口18の開口縁部にウェザストリップゴム19を介し接着材により固定されてこのウィンド開口18を閉じるウィンドガラス20が設けられている。
【0049】
上記ルーフパネル8の後端縁部に沿って車体2の幅方向に長く延びるヘッダパネル23が設けられる。詳図しながい、このヘッダパネル23と、上記各側壁7のインナパネル12とは互いに別体に形成され、その後、スポット溶接により互いに結合されている。上記ルーフパネル8の後端縁部とヘッダパネル23とは互いに重ね合わされてスポット溶接S2により互いに結合され、これにより、強度が大きいリヤヘッダ24が形成されている。また、上記バックドア開口14、サイドドア開口16、およびウィンド開口18の各開口縁部では、上記アウタ、インナパネル11,12が互いに重ね合わされてスポット溶接S3〜S5により互いに結合されている。
【0050】
上記サイドドア開口16とウィンド開口18との各開口縁部の上部は、上下方向で互いにほぼ同じ高さとされている。これらサイドドア開口16およびウィンド開口18よりも上方における上記側壁7の上縁部は、上記アウタ、インナパネル11,12の各上縁部によって車体2の前後方向におけるほぼ各部が中空の閉断面形状とされ、強度が大きいルーフサイドレール26とされている。
【0051】
上記側壁7における上記サイドドア開口16とウィンド開口18との間の部分が中間部ピラー28とされ、上記バックドア開口14とウィンド開口18との間の部分が後部ピラー29とされている。これら中間部ピラー28と後部ピラー29とは、上記アウタ、インナパネル11,12によってそれぞれ上下方向の各部が中空の閉断面構造とされて強度が大きくされている。上記後部ピラー29は、車体2の平面視(図3)で、その前部29aに対し後部29bが車体2の幅方向の車体中央30側に向かって屈曲している。また、これに伴い、これら後部ピラー29の前部29aと後部29bとの互いの遷移部における上記インナパネル12には、谷折れ線29cが形成されている。
【0052】
上記リヤヘッダ24の外側端部と、ルーフサイドレール26の後端部と、上記後部ピラー29の上端部とが集合する三又部32における上記インナパネル12には、上記スポット溶接S1の溶接ガン挿入用等の作業開口33が形成されている。具体的には、この作業開口33は、上記後部ピラー29の後部29bのインナパネル12に形成されているが、図1中一点鎖線で示すように、上記作業開口33を上記谷折れ線29c上に形成してもよい。
【0053】
上記側壁7のインナパネル12の車室9側面に沿って延びるガーニッシュ34が設けられ、上記側壁7のインナパネル12には、上記ガーニッシュ34をクリップ35により係止させるための複数の座部36が形成されている。これら各座部36は上記インナパネル12を、屈曲させること(プレス加工)により形成されている。
【0054】
上記後部ピラー29よりも前方で、上記車室9後部の右側部に乗客を着座者37とするシート38が設けられ、このシート38は上記車体下部材6に支持されている。上記シート38に着座した着座者37をこのシート38上に拘束可能とする三点式のシートベルト装置39が設けられている。
【0055】
上記シートベルト装置39は、上記側壁7の下部に固着され、一般にELRと言われるリトラクタ40と、一端がこのリトラクタ40に弾性的に巻き取られるよう連結され、他端部が上記シート38の車外側の側方近傍で、上記車体下部材6側にアンカー41により固定されるシートベルト42とを備えている。
【0056】
また、上記シートベルト装置39は、上記後部ピラー29の上下方向の中途部(上部)に締結具43により取り付けられ、上記シートベルト42の中途部をその長手方向に摺動可能に掛止させるショルダアンカー44と、上記シート38の車体2幅方向における車体中央30の側方近傍で、上記車体下部材6に連結されたバックル45と、上記アンカー41とショルダアンカー44との間におけるシートベルト42の中途部をその長手方向に摺動可能に係止させて、上記バックル45に係脱可能に係止されるタングプレート46とを備えている。上記ショルダアンカー44は、具体的には、上記後部ピラー29の前部29aの上部におけるインナパネル12の幅方向(前後方向)の中途部分に上記締結具43により固着されている。
【0057】
そして、上記アンカー41からタングプレート46に至るシートベルト42の中途部と、上記タングプレート46からショルダアンカー44に至るシートベルト42の他の中途部とが上記シート38に着座した着座者37の前面に弾性的に当接して、この着座者37を上記シート38上に拘束する。
【0058】
上記構成において、ウィンド開口18の開口縁部の後上部を形成する後角部49近傍の上記インナパネル12の部分に脆弱部50が形成されている。この脆弱部50は、上記インナパネル12の部分の車室9側の面が凹溝形状となるよう上記インナパネル12の部分を屈曲することにより形成されている。上記脆弱部50は、上記ウィンド開口18の上記後角部49側から上記三又部32に向かって延び、その長手方向の各部断面の溝深さは上記三又部32に向かうに従い浅くなるよう形成されている。
【0059】
なお、上記脆弱部50は、車体2の外部から見て凹溝形状となるよう形成してもよい。また、上記脆弱部50は、上記インナパネル12の部分に形成されるスリットであってもよく、薄肉部であってもよい。
【0060】
上記脆弱部50の前方近傍における上記インナパネル12の部分に、このインナパネル12の部分を屈曲させることにより強度向上部54が形成されている。この強度向上部54は、前記座部36を上記ウィンド開口18に向かってより大きく膨出させるよう屈曲させることにより形成されている。
【0061】
上記ウィンド開口18の開口縁部の前縁部よりも後方の後下部から、その前方の上記サイドドア開口16の開口縁部に至る上記インナパネル12の部分に、このインナパネル12を屈曲させることにより他の強度向上部56が形成されている。上記ウィンド開口18の開口縁部の下部は下方に凸の円弧形状をなしており、上記他の強度向上部56は、上記ウィンド開口18の開口縁部下部の接線方向で、前下方に向かって延びている。車体2内部のシート38上に着座者37を拘束したシートベルト42のうち、上記ショルダアンカー44側から前下方に延びるベルト部分42aに対し、上記強度向上部56が車体2側面視(図2)でほぼ平行となるようこの強度向上部56が形成されている。この他の強度向上部56は、上記インナパネル12の部分を段差状に屈曲させることにより形成されているが、ビード形状としてもよい。
【0062】
車両1の前突時には、着座者37はその慣性力Fによりシート38側から前方に移動しようとするが、上記慣性力Fは、上記シートベルト42、およびこのシートベルト42を掛止するショルダアンカー44を介し後部ピラー29のインナパネル12により主に支持され、上記シート38側からの着座者37の前方移動が阻止される。
【0063】
ここで、前突時に着座者37の慣性力Fが過大である場合に、上記後部ピラー29におけるショルダアンカー44の固着部に上記シートベルト42とショルダアンカー44とを介し上記慣性力Fが与えられると、前記図5を参照して従来の技術として説明したように、要するに、第1点として、車体2平面視(図3)で、上記側壁7は、上記前角部58を頂点として車体2の外側方に向かって凸のへの字形状となるよう大きく屈曲Aするおそれが生じる。
【0064】
また、第2点として、上記慣性力Fによれば、上記前角部58に応力集中が生じがちになることに加えて、上記後部ピラー29におけるショルダアンカー44の固着部にも大きい応力集中が生じがちとなることから、車体2側面視(図2(図1参照))で、上記後部ピラー29は、上記ショルダアンカー44の固着部を頂点として車体2の前方に向かって凸のくの字形状となるよう大きく屈曲Bすると共に、この後部ピラー29の屈曲Bに連動して上記ウィンド開口18の開口縁部の上縁部が上記前角部58を中心として下方に向かって回動するよう屈曲Cするおそれが生じる。
【0065】
そして、上記したような屈曲A〜Cが生じた場合には、このような屈曲A〜Cにより、上記シートベルト42を掛止するショルダアンカー44が前方に向かい大きく変位して、上記シートベルト42が無用に大きく弛む、という不都合が生じる。
【0066】
しかし、前記構成によれば、ウィンド開口18の開口縁部の後上部を形成する後角部49近傍のインナパネル12の部分に脆弱部50を形成している。
【0067】
このため、上記ショルダアンカー44を固着した後部ピラー29の長手方向(上下方向)の中途部の強度に比べて、この後部ピラー29の上端側の強度が過大になることは上記脆弱部50によって抑制されることから、上記したように後部ピラー29に慣性力Fが与えられたとき、上記後部ピラー29におけるショルダアンカー44の固着部に大きい応力集中が生じることは抑制される。つまり、上記後部ピラー29が車体2側面視(図2)でくの字形状となるよう大きく屈曲Bすることが抑制されて、この後部ピラー29は、上記慣性力Fが与えられた当初において、まず、その長手方向の各部が互いにより均等に、前方に向かって変形しようとする。そして、この変形により、上記後部ピラー29に与えられる慣性力Fはその当初においてある程度緩和される。
【0068】
よって、前突時の着座者37の慣性力Fが過大であるとしても、上記慣性力Fがそのまま上記ウィンド開口18の開口縁部の前角部58や後部ピラー29におけるショルダアンカー44の固着部に与えられることは防止されることから、前記第1点として側壁7が車体2の外側方に向かって凸のへの字形状に屈曲Aする、ということは抑制され、かつ、第2点として上記した後部ピラー29がくの字形状に屈曲Bすることや、これに連動してウィンド開口18の開口縁部の上縁部が屈曲Cする、ということも抑制される。この結果、上記ショルダアンカー44の固着部の前方への変位量が小さく抑制されて、上記ショルダアンカー44に掛止されたシートベルト42が無用に大きく弛むことが抑制され、このシートベルト42による着座者37の拘束性能が良好に保持される。
【0069】
また、前記したように、ウィンド開口18の開口縁部における後角部49近傍のインナパネル12の部分に脆弱部50を形成したため、上記したように慣性力Fにより後部ピラー29が前方に向かって変形するとき、この変形が上記ウィンド開口18の開口縁部のうちの上部側によって構成される上記ルーフサイドレール26にまで及ぶことは、上記脆弱部50により抑制される。よって、上記慣性力Fにより上記側壁7が無用に大きく変形することが抑制される。
【0070】
また、前記したように、上記脆弱部50を溝形状とし、上記ルーフパネル8の後端縁部で形成されるリヤヘッダ24の外側端部と、上記側壁7の上縁部で構成されて上記ルーフパネル8の側端縁部を支持するルーフサイドレール26の後端部と、上記後部ピラー29の上端部とが集合する三又部32に向かって上記脆弱部50が上記ウィンド開口18の上記後角部49側から延びるよう形成している。
【0071】
このため、上記リヤヘッダ24、ルーフサイドレール26、および後部ピラー29の上端部が集合する三又部32は、これら三つの各部材が互いに補強し合うことにより、強度が大きくなりがちであるが、上記脆弱部50の形成によって、上記後部ピラー29の上端部を含む三又部32の強度が過大になることはより確実に抑制される。よって、前突時、上記後部ピラー29の中途部に上記ショルダアンカー44を介し与えられる着座者37の慣性力Fが過大であるとしても、この慣性力Fにより上記後部ピラー29におけるショルダアンカー44の固着部に応力集中が生じることは、より確実に抑制される。
【0072】
しかも、前記したように後部ピラー29のアウタ、インナパネル11,12のうち、インナパネル12にショルダアンカー44が固着され、かつ、上記後部ピラー29は、その前部29aに対し後部29bが車体2の幅方向で車体中央30側に屈曲していると共に、上記脆弱部50を溝形状として上記後角部49から三又部32に向かって延びるよう形成している。
【0073】
このため、上記したように後部ピラー29におけるショルダアンカー44の固着部に慣性力Fが与えられた場合には、このショルダアンカー44を固着している上記インナパネル12は、上記脆弱部50の谷底部50aをほぼ中心として車体2の幅方向で車体中央30側に向かって容易に回動し、全体的に膨出するよう屈曲する(図3中、一点鎖線)。よって、上記慣性力Fにより上記インナパネル12に生じる応力は、このインナパネル12の全体にわたり分散させられがちとなって、上記後部ピラー29におけるショルダアンカー44の固着部に大きい応力集中が生じることは、より確実に抑制される。
【0074】
また、前記したように、脆弱部50の前方近傍における上記インナパネル12の部分に強度向上部54を形成している。
【0075】
このため、上記強度向上部54の形成により、この強度向上部54に隣接して強度の落差が大きくされた上記脆弱部50には上記慣性力Fに基づき応力集中が生じ易くなることから、上記慣性力Fにより上記後部ピラー29は上記脆弱部50を中心として前上方に回動するよう屈曲しがちとなり、これと共に、上記後部ピラー29におけるショルダアンカー44の固着部も前上方に回動しがちとなる。
【0076】
よって、その分、上記ショルダアンカー44から前方に延びる慣性力Fの力の線に対し、その直交方向で、上記ウィンド開口18の開口縁部の前角部58が相対的に、より接近することから、上記慣性力Fにより上記前角部58に与えられる曲げモーメントは小さく抑制される。このため、前記したように車体2側面視(図2)で、上記ウィンド開口18の開口縁部の上縁部が上記前角部58を中心として下方に向かって回動するよう屈曲Cする、ということは抑制される。
【0077】
また、前記したように、ウィンド開口18の開口縁部の下部から上記サイドドア開口16の開口縁部に至る上記インナパネル12の部分に他の強度向上部56を形成し、車体2内部のシート38上に着座者37を拘束したシートベルト42のうち、上記ショルダアンカー44側から前方に延びるベルト部分42aに対し、上記他の強度向上部56が車体2側面視(図2)でほぼ平行となるようこの他の強度向上部56を形成している。
【0078】
即ち、車両1の前突時には、着座者37はその慣性力Fによりシート38側から前方に移動しようとするが、上記慣性力Fは、上記シートベルト42、およびこのシートベルト42を掛止するショルダアンカー44を介し後部ピラー29のインナパネル12により主に支持され、上記シート38側からの着座者37の前方移動が阻止される。
【0079】
ここで、前突時、着座者37の慣性力Fが過大である場合に、上記後部ピラー29におけるショルダアンカー44の固着部に上記シートベルト42とショルダアンカー44とを介し上記慣性力Fが与えられると、前記従来の技術にて説明したように、要するに、第1点として、車体2平面視(図3)で、上記側壁7は、上記前角部58を頂点として車体2の外側方に向かって凸のへの字形状となるよう大きく屈曲Aするおそれが生じる。そして、この屈曲Aが生じた場合には、この屈曲Aにより、上記シートベルト42を掛止するショルダアンカー44が前方に向かい大きく変位して、上記シートベルト42が無用に大きく弛む、という不都合が生じる。
【0080】
しかし、上記構成によれば、車体2平面視(図3)における上記前角部58に相当する側壁7の部分は上記他の強度向上部56によって補強されるため、上記した慣性力Fにより上記側壁7が、車体2の外側方に向かってへの字形状に大きく屈曲する、ということは抑制され、上記ショルダアンカー44の固着部の前方への変位量が小さく抑制される。よって、前突時の着座者37の慣性力Fが過大であるとしても、上記ショルダアンカー44に掛止されたシートベルト42が無用に大きく弛むことは抑制されて、このシートベルト42による着座者37の拘束性能は良好に保持される。
【0081】
しかも、上記したように、車体2内部のシート38上に着座者37を拘束したシートベルト42のうち、上記ショルダアンカー44側から前方に延びるベルト部分42aに対し、上記強度向上部56が車体2側面視(図2)でほぼ平行となるようこの強度向上部56を形成しているため、上記強度向上部56はその長手方向で上記慣性力Fに強固に対抗する。よって、この慣性力Fにより上記側壁7がへの字形状に変形することは、より確実に抑制される。
【0082】
なお、以上は図示の例によるが、上記強度向上部54,56は、別途補強材を設けて強度を向上させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 車両
2 車体
6 車体下部材
7 側壁
8 ルーフパネル
9 車室
11 アウタパネル
12 インナパネル
14 バックドア開口
16 サイドドア開口
17 サイドドア
18 ウィンド開口
20 ウィンドガラス
23 ヘッダパネル
24 リヤヘッダ
26 ルーフサイドレール
28 中間部ピラー
29 後部ピラー
29a 前部
29b 後部
29c 谷折れ線
30 車体中央
32 三又部
33 作業開口
34 ガーニッシュ
35 クリップ
36 座部
37 着座者
38 シート
39 シートベルト装置
42 シートベルト
42a ベルト部分
44 ショルダアンカー
49 後角部
50 脆弱部
50a 谷底部
54 強度向上部
56 強度向上部
58 前角部
A 屈曲
B 屈曲
C 屈曲
F 慣性力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合されるアウタ、インナパネルを有して上下方向の各部断面が中空の閉断面構造とされる左、右側壁と、これら左、右側壁の各上端縁部に架設されるルーフパネルとを備え、上記左、右側壁とルーフパネルとの各後端縁部で囲まれた空間をバックドア開口とし、上記側壁にサイドドア開口とウィンド開口とを前後に並べて形成し、このウィンド開口の開口縁部に固定されてこのウィンド開口を閉じるウィンドガラスを設け、上記側壁における上記サイドドア開口とウィンド開口との間の部分を中間部ピラーとする一方、上記バックドア開口とウィンド開口との間の部分を後部ピラーとし、この後部ピラーの上下方向の中途部における上記インナパネルの部分にシートベルトを掛止するショルダアンカーを固着した車両の車体後上部構造において、
上記ウィンド開口の開口縁部の後上部を形成する後角部近傍の上記インナパネルの部分に脆弱部を形成したことを特徴とする車両の車体後上部構造。
【請求項2】
上記脆弱部を溝形状とし、上記ルーフパネルの後端縁部で形成されるリヤヘッダの外側端部と、上記側壁の上縁部で構成されて上記ルーフパネルの側端縁部を支持するルーフサイドレールの後端部と、上記後部ピラーの上端部とが集合する三又部に向かって上記脆弱部が上記ウィンド開口の上記後角部側から延びるよう形成したことを特徴とする請求項1に記載の車両の車体後上部構造。
【請求項3】
上記脆弱部の前方近傍における上記インナパネルの部分に強度向上部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の車両の車体後上部構造。
【請求項4】
上記脆弱部を溝形状とし、上記ルーフパネルの後端縁部で形成されるリヤヘッダの外側端部と、上記側壁の上縁部で構成されて上記ルーフパネルの側端縁部を支持するルーフサイドレールの後端部と、上記後部ピラーの上端部とが集合する三又部に向かって上記脆弱部が上記ウィンド開口の上記後角部側から延びるよう形成し、
上記脆弱部の前方近傍における上記インナパネルの部分に強度向上部を形成し、
上記ウィンド開口の開口縁部の下部から上記サイドドア開口の開口縁部に至る上記インナパネルの部分に他の強度向上部を形成し、車体内部のシート上に着座者を拘束したシートベルトのうち、上記ショルダアンカー側から前方に延びるベルト部分に対し、上記他の強度向上部が車体側面視でほぼ平行となるようこの他の強度向上部を形成したことを特徴とする請求項1に記載の車両の車体後上部構造。
【請求項5】
互いに接合されるアウタ、インナパネルを有して上下方向の各部断面が中空の閉断面構造とされる左、右側壁と、これら左、右側壁の各上端縁部に架設されるルーフパネルとを備え、上記左、右側壁とルーフパネルとの各後端縁部で囲まれた空間をバックドア開口とし、上記側壁にサイドドア開口とウィンド開口とを前後に並べて形成し、このウィンド開口の開口縁部に固定されてこのウィンド開口を閉じるウィンドガラスを設け、上記側壁における上記サイドドア開口とウィンド開口との間の部分を中間部ピラーとする一方、上記バックドア開口とウィンド開口との間の部分を後部ピラーとし、この後部ピラーの上下方向の中途部における上記インナパネルの部分にシートベルトを掛止するショルダアンカーを固着した車両の車体後上部構造において、
上記ウィンド開口の開口縁部の下部から上記サイドドア開口の開口縁部に至る上記インナパネルの部分に強度向上部を形成し、車体内部のシート上に着座者を拘束したシートベルトのうち、上記ショルダアンカー側から前方に延びるベルト部分に対し、上記強度向上部が車体側面視でほぼ平行となるようこの強度向上部を形成したことを特徴とする車両の車体後上部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−207288(P2011−207288A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75424(P2010−75424)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】