車両の車体構造及びその製造方法
【課題】車体構成部材で形成された閉断面部の内部が仕切部材によって仕切られ、該閉断面部にバルクヘッドが配設される場合において、前記閉断面部で発生する振動をバルクヘッドにより効果的に抑制する。
【解決手段】所定方向に連続して閉断面部43を形成する1又は2以上の車体構成部材41,42と、前記所定方向に延在して前記閉断面部43の内部を仕切る仕切部材51と、前記閉断面部43内に配設されて前記車体構成部材41,42に接合されたバルクヘッド70とを有する車両の車体構造において、前記バルクヘッド70を、前記閉断面部43における前記仕切部材51を挟んだ両側において前記車体構成部材41,42に接合するとともに、前記仕切部材51に設けられた開口部61,62の近傍部または前記所定方向における前記仕切部材51の端部151に接合する。
【解決手段】所定方向に連続して閉断面部43を形成する1又は2以上の車体構成部材41,42と、前記所定方向に延在して前記閉断面部43の内部を仕切る仕切部材51と、前記閉断面部43内に配設されて前記車体構成部材41,42に接合されたバルクヘッド70とを有する車両の車体構造において、前記バルクヘッド70を、前記閉断面部43における前記仕切部材51を挟んだ両側において前記車体構成部材41,42に接合するとともに、前記仕切部材51に設けられた開口部61,62の近傍部または前記所定方向における前記仕切部材51の端部151に接合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体構造、特に車体の閉断面部における構造および該車体構造の製造方法に関し、車両の車体構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、乗り心地や安全性を向上させるために車体の剛性を高めることが必要であり、剛性を高める技術として、車体構成部材で形成された閉断面部内にバルクヘッドを配設することがある。また、自動車等の車両において、前記閉断面部の内部を仕切部材によって仕切る構造が採用されることがあり、かかる構造の閉断面部内にバルクヘッドを配設する技術が、例えば特許文献1、2に開示されている。
【0003】
このうち、特許文献1には、同文献の第4図を参照すると、サイドシルアウタとサイドシルインナとで形成されるサイドシルの閉断面部の内部がサイドシルセンタにより仕切られた構造において、該サイドシルセンタとサイドシルアウタとで囲まれた空間にバルクヘッドを節状に配設する技術が開示されている。このバルクヘッドの外周にはフランジが形成され、該フランジが、サイドシルセンタとサイドシルアウタの各内面にスポット溶接と接着剤とを併用して接合されている。
【0004】
また、特許文献2には、同文献の図9及び図10を参照すると、サイドシルの閉断面部の内部がセンタピラーインナにより仕切られた構造において、該センタピラーインナとサイドシルアウタとで囲まれた空間と、センタピラーインナとサイドシルインナとで囲まれた空間のそれぞれに別々のバルクヘッドを節状に配設する技術が開示されている。
【0005】
これら特許文献1及び2の技術によれば、バルクヘッドが接合された部材同士が互いに拘束し合うため、車体構成部材の剛性が高められる。また、該車体構成部材の断面形状が維持されやすくなることで、振動の発生をある程度抑制することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭59−182472号公報
【特許文献2】特開2009−202620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1,2に開示された構造において、各バルクヘッドは、閉断面部において仕切部材(サイドシルセンタ又はセンタピラーインナ)を挟んだ一方の空間のみに配設されるため、該一方の空間の断面形状を維持する機能しか持たない。そのため、他方の空間についても断面形状の維持を図るためには、特許文献2の技術のように仕切部材を挟んだ両側の空間にバルクヘッドを配設する必要があり、この場合、部品点数および取付工数の増大を招いてしまう。
【0008】
そこで、本発明は、車体構成部材で形成された閉断面部の内部が仕切部材によって仕切られるとともに、該閉断面部にバルクヘッドが配設される場合において、前記閉断面部で発生する振動をバルクヘッドにより効果的に抑制することができる車両の車体構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0010】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、
所定方向に連続して閉断面部を形成する1又は2以上の車体構成部材と、前記所定方向に延在して前記閉断面部の内部を仕切る仕切部材と、前記閉断面部内に配設されて前記車体構成部材に接合されたバルクヘッドとを有する車両の車体構造であって、
前記バルクヘッドは、前記閉断面部における前記仕切部材を挟んだ両側において前記車体構成部材に接合されるとともに、前記仕切部材に設けられた開口部の近傍部または前記所定方向における前記仕切部材の端部に接合されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記閉断面部は、少なくとも一対の接合部で接合された2枚の車体構成部材で構成され、
前記仕切部材の一部または全部は前記一対の接合部に跨って設けられ、
前記バルクヘッドは、前記2枚の車体構成部材のそれぞれに接合されていることを特徴とする。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の発明において、
前記車両構成部材は、車両前後方向に延びるサイドシルを構成するサイドシルインナとサイドシルアウタレインとを含み、
前記仕切部材は、上下方向に延びるピラーを構成するピラーインナであることを特徴とする。
【0013】
またさらに、請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載の発明において、
前記バルクヘッドと前記サイドシルインナとの接合部と、車幅方向に延びるクロスメンバと前記サイドシルインナとの接合部とは車両前後方向に重複して配設されていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、
前記車体構成部材と前記バルクヘッドとの接合部は、互いに当接した状態で結合された剛結合部と、減衰部材を介して結合された柔結合部とを有することを特徴とする。
【0015】
さらに、請求項6に記載の発明は、前記請求項5に記載の発明において、
前記減衰部材は粘弾性部材であり、
その物性が、X軸に貯蔵弾性率を、Y軸に損失係数をとったX、Y座標系における座標(1、0.4)、(1、0.2)、(10、0.1)、(2000、0.1)、(10000、0.2)、(10000、0.4)で示される6点で囲まれたこれらの点を含む範囲内、又は損失係数0.4を超える範囲に属することを特徴とする。
【0016】
さらにまた、請求項7に記載の発明は、前記請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の発明において、
前記バルクヘッドは、前記閉断面部の内部を前記所定方向に隔てる一対の隔壁部と、該一対の隔壁部を連結する連結部とを有することを特徴とする。
【0017】
また、請求項8に記載の発明は、前記請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の発明において、
前記仕切部材と前記バルクヘッドとの接合部は前記柔結合部を含むことを特徴とする。
【0018】
一方、請求項9に記載の発明は、所定方向に連続して閉断面部を形成する1又は2以上の車体構成部材と、前記所定方向に延在して前記閉断面部の内部を仕切る仕切部材と、前記閉断面部内に配設されて前記車体構成部材に接合されたバルクヘッドとを有する車両の車体構造を製造する方法であって、
前記閉断面部における前記仕切部材を挟んだ両側において前記車体構成部材に前記バルクヘッドを接合する工程と、
前記仕切部材に設けられた開口部の近傍部または前記所定方向における前記仕切部材の端部に前記バルクヘッドを接合する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
まず、請求項1に記載の発明によれば、例えば中空管状の単一の車体構成部材により、或いは2つの車体構成部材を接合することにより形成される閉断面部の内部が仕切部材によって仕切られるとともに、該閉断面部にバルクヘッドが配設される場合において、該バルクヘッドは、前記閉断面部における前記仕切部材を挟んだ両側において前記車体構成部材に接合されるとともに、前記仕切部材に設けられた開口部の近傍部または閉断面部の連続方向における前記仕切部材の端部に接合されるため、仕切部材とバルクヘッドとの干渉を回避しつつ、該バルクヘッドにより、仕切部材を挟んだ両側において閉断面部の断面形状を良好に維持することができる。したがって、当該部位における車体構成部材の剛性が向上するとともに、当該部位で発生する振動を効果的に抑制することができる。
【0020】
また、請求項2に記載の発明によれば、閉断面部を構成する2枚の車体構成部材のそれぞれに前記バルクヘッドが接合されるため、該バルクヘッドにより、各車体構成部材での振動発生を効果的に抑制することができる。
【0021】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、サイドシルインナとサイドシルアウタレインとで構成される閉断面部の内部がピラーインナで仕切られた構造において、上記の振動発生抑制効果を実現することができる。
【0022】
またさらに、請求項4に記載の発明によれば、バルクヘッドとサイドシルインナとの接合部と、車幅方向に延びるクロスメンバとサイドシルインナとの接合部とが車両前後方向に重複して配設されるため、当該部位での閉断面部の断面形状を一層効果的に維持することができ、上記の振動発生抑制効果を高めることができる。
【0023】
また、請求項5に記載の発明によれば、閉断面部を構成する車体構成部材とバルクヘッドとの接合部が、溶接やボルト締め等による剛結合部と、減衰部材を介設した柔結合部とを有するため、剛結合部により車体構成部材とバルクヘッドとが強固に接合されて、前記剛性向上の効果が確保されると共に、柔結合部の減衰部材によって車体構成部材の振動が減衰されることになる。これにより、車体構造として所要の剛性を確保しつつ振動の伝達を抑制して、当該車両の乗り心地を向上させ、また騒音を低減させることが可能となる。また、この振動伝達の抑制のために新たな部材を設ける必要がなく、車体の重量増等を回避しながら前記効果が達成される利点がある。
【0024】
またさらに、請求項6に記載の発明を請求項5に記載の発明に適用すれば、前記減衰部材として粘弾性部材が用いられ、その物性としての貯蔵弾性率と損失係数とが、振動減衰効果が確認された所定の範囲内の値に特定されるから、車体構成部材の振動を減衰する請求項5に記載の発明の効果が確実に達成されることになる。
【0025】
また、請求項7に記載の発明によれば、前記バルクヘッドとして、一対の隔壁部と、該一対の隔壁部を連結する連結部とを有するバルクヘッドが用いられることで、上記の各請求項の効果を実現することができる。
【0026】
加えて、請求項8に記載の発明によれば、仕切部材とバルクヘッドとの接合部が前記柔結合部を含むため、仕切部材とバルクヘッドとの間で伝達される振動を減衰部材により減衰することができる。
【0027】
また、請求項9に記載の発明によれば、1又は2以上の車体構成部材で形成されるとともに仕切部材により内部が仕切られる閉断面部内にバルクヘッドを配設して所定の車体構造を製造するときに、閉断面部における仕切部材を挟んだ両側において前記車体構成部材にバルクヘッドを接合する工程と、仕切部材に設けられた開口部の近傍部または閉断面部の連続方向における仕切部材の端部にバルクヘッドを接合する工程とを行うため、この方法で製造された車体構造について前記請求項1の発明の効果が得られることになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態についてのシミュレーションに用いた剛結合モデルAを示す図である。
【図2】上記シミュレーションに用いた剛結合・柔結合併用モデルBを示す図である。
【図3】図2に示す剛結合・柔結合併用モデルBを示す分解斜視図である。
【図4】上記シミュレーションの結果を示すイナータンスの周波数特性図である。
【図5】同じく貯蔵弾性率に対するモード減衰比増減特性図である。
【図6】図5の結果に基づいて作成した有効範囲を示す図である。
【図7】本発明の第1及び第2の実施形態が適用される車体を示す斜視図である。
【図8】図7のa−a線で切断した第1の実施形態に係る車体構造の断面図である。
【図9】図8のc−c線で切断した第1の実施形態に係る車体構造の断面図である。
【図10】第1の実施形態に係るバルクヘッドを示す斜視図である。
【図11】図7のb−b線で切断した第2の実施形態に係る車体構造の断面図である。
【図12】図11のd−d線で切断した第2の実施形態に係る車体構造の断面図である。
【図13】第2の実施形態に係るバルクヘッドを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
まず、具体的な車体への適用構造についての説明に先立ち、本発明の請求項に記載の構造について行ったシミュレーションの結果について説明する。
【0030】
図1は、このシミュレーションに用いた剛結合モデルAを示し、図2は、このシミュレーションに用いた剛結合・柔結合併用モデルBを示す。いずれのモデルについても、車体構成部材として、断面倒ハット状の第1部材1及び第2部材2を用い、これら両部材1,2のフランジ同士を接合することにより、断面略長方形状の閉断面部3を有する中空フレーム4とされている。
【0031】
また、モデルA及びモデルBのいずれについても、第1部材1と第2部材2との両接合部間に跨って、中空フレーム4の長さ方向に延びる仕切部材7が設けられ、該仕切部材7により閉断面部3の内部が仕切られている。仕切部材7の短手方向両端部は、第1部材1及び第2部材2のフランジ1a,1b,2a,2b間に介装され、これら両フランジ1a,1b,2a,2bと仕切部材7とが3枚重ねの状態で相互に溶接されている。図3に示すように、仕切部材7には、後述のバルクヘッド5との干渉を避けるための一対のスリット8a,8bが上下方向に延設されている。
【0032】
さらに、いずれのモデルについても、閉断面部3内にバルクヘッド5が配設されている。図3に示すように、バルクヘッド5は、中空フレーム4の長さ方向に略垂直な面に沿って配設された一対の隔壁部11,12と、該一対の隔壁部11,12を連結する連結部13とを有する。各隔壁部11,12は、該隔壁部11,12の中央部をコ字状に切り込んでバルクヘッド5の内側へ折り込んでなる中央フランジ15a,15bを有する。また、各隔壁部11,12は、該隔壁部11,12の周縁部をバルクヘッド5の内側へ折り込んでなる複数の周縁フランジ14(14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,14h)を有する。図1及び図2に示すように、バルクヘッド5は、連結部13と複数の周縁フランジ14とにおいて第1部材1及び第2部材2の内面にそれぞれ接合され、これにより、該バルクヘッド5がフレーム4内に固定されている。また、バルクヘッド5は、一対の隔壁部11,12がそれぞれ仕切部材7のスリット8a,8bに差し込まれることで該仕切部材7との干渉が回避され、中央フランジ15がスリット8a,8bの周縁部において仕切部材7に接合されている。
【0033】
図1に示す剛結合モデルAにおいて、バルクヘッド5は、第1及び第2の部材1,2並びに仕切部材7に対して全てスポット溶接により接合されている。一方、図2に示す剛結合・柔結合併用モデルBにおいて、バルクヘッド5は、連結部13及び周縁フランジ14a,14b,14c,14d,14e,14fにおいては第1及び第2の部材1,2に対してスポット溶接のみにより接合されているが、中央フランジ15a,15b及び周縁フランジ14g,14hにおける仕切部材7及び第1部材1に対する各接合には、剛結合と柔結合とが併用されている。具体的に、中央フランジ15a,15bは、その中央部で仕切部材7にスポット溶接されるとともに、その両側では減衰部材6を介して仕切部材7に接合されており、周縁フランジ14g,14hは、その中央部で第1部材1にスポット溶接されるとともに、その両側では減衰部材6を介して第1部材1に接合されている。これら両接合部においては、スポット溶接部が剛結合部X、減衰部材6を介して接合された部位が柔結合部Yとなる。
【0034】
ここで、モデルBは、柔結合部Yを有する分だけ剛結合部XのみのモデルAに比べて剛性が高くなり、両モデルA,Bで共振周波数が異なることになるが、このシミュレーションにおいては、共振周波数を揃えて比較するために、剛結合部Xの面積をモデルAの方をモデルBよりも多少大きく設定している。また、柔結合部Yにおける減衰部材6は、損失係数が0.4、貯蔵弾性率が200MPa(20℃、30Hz)の粘弾性部材とした。
【0035】
図4はシミュレーション結果を示すものであり、前記モデルA,Bについて、フレーム4の一端における閉断面部3の下辺中央部を加振点x、他端の閉断面部3の第1部材1側の上側角部を応答点yとしたときの、この応答点yにおけるイナータンス(単位加振力当たりの加速度振幅の大きさ:m/s2/N)を比較して示している。
【0036】
この図から明らかなように、剛結合モデルAに比べて、剛結合・柔結合併用モデルBの方がイナータンスのピーク値が低くなっており、柔結合部Yを設けることにより、加振点xから応答点yまで振動が伝達される過程での減衰量が多くなることが示されている。
【0037】
図5は、剛結合・柔結合併用モデルBにおいて、減衰部材6として損失係数の異なる複数の粘弾性部材を用い、その損失係数と貯蔵弾性率とに対するモード減衰比増減の特性をシミュレーションした結果を示すものである。なお、損失係数が0.05の減衰部材は比較例として示すものであり、一般的に車体で使用される構造用接着剤である。
【0038】
この図から明らかなように、粘弾性部材を用いることにより、一般的に車体で使用される構造用接着剤(損失係数0.05)を用いた場合に比べて、全貯蔵弾性率の領域でモード減衰比増減が大きくなり、振動が減衰し易くなることが示されている。特に損失係数が大きいほどモード減衰比増減が大きくなると共に、いずれの損失係数においても、貯蔵弾性率が100MPaでモード減衰比増減が最大となることが示されている。
【0039】
図6は、図5のシミュレーション結果から、減衰部材6として粘弾性部材を用いた場合の実質的に減衰効果が得られるときの損失係数と貯蔵弾性率との関係を示すものであり、モード減衰比増減が図5に示す閾値M以上で効果あり、閾値M未満で効果なしと判定したものである。
【0040】
この結果、X軸に貯蔵弾性率を、Y軸に損失係数をとったX、Y座標系における座標(1、0.4)、(1、0.2)、(10、0.1)、(2000、0.1)、(10000、0.2)、(10000、0.4)で示される6点で囲まれたこれらの点を含む範囲内と、損失係数0.4を超える範囲とで、実質的に減衰効果が得られることが判明する。
【0041】
次に、本発明の構造を車体へ適用した実施形態について説明する。なお、以下の説明において、「前」、「後」、「前後」、「右」、「左」、「左右」等の方向を示す用語は、特段の説明がある場合を除いて、車両の進行方向を「前」とした場合の方向を指すものとする。
【0042】
図7は、第1及び第2の実施形態が適用される車体の構造を示すものである。図7に示すように、車室の前部はダッシュパネル31により、底部はフロアパネル32により形成されていると共に、車室の後部は、前記フロアパネル32に連続するセンタフロアパン33で底部が形成され、その後方には、一段高くされてトランクフロアパン34が設けられている。
【0043】
また、前記フロアパネル32の左右両側部には前後方向に延びるサイドシル35が設けられていると共に、該フロアパネル32の車幅方向の中央部には、ダッシュパネル31から前記センタフロアパン33の前端部まで延びるトンネルレイン36が配設されており、さらに、左右のサイドシル35とトンネルレイン36との間には、車幅方向に延びるNo.2クロスメンバ37及びNo.2.5クロスメンバ38がダッシュパネル31側から順に配設されており、さらにフロアパネル32とセンタフロアパネル33との境界部にはNo.3クロスメンバ39が配設されている。また、車体の左右両側部には、上下方向に延びるセンタピラー50が、サイドシル35から立ち上がるようにして設けられている。なお、図7では、車体の構造の理解を容易にするために、車体左側部についてセンタピラー50等の図示を省略している。
【0044】
[第1の実施形態]
図8〜図10を参照しながら、第1の実施形態について説明する。この第1の実施形態は、サイドシル35におけるNo.2.5クロスメンバ38との接合部に適用される。なお、第1の実施形態に関する以下の説明では、右側のサイドシル35及び周辺部材の構成について説明するが、左側のサイドシル35及び周辺部材の構成も同様である。
【0045】
図8及び図9に示すように、サイドシル35は、車幅方向外向きに開放する断面ハット状のサイドシルインナ41と、車幅方向内向きに開放する断面ハット状のサイドシルアウタレイン42とを有し、上方のフランジ同士と下方のフランジ同士とをそれぞれ接合することにより、前後方向に連続して閉断面部43が形成されている。
【0046】
前記センタピラー50は、センタピラーインナ(以下、「ピラーインナ」という。)51とセンタピラーアウタレイン52とを有する。これらピラーインナ51とピラーアウタレイン52とは、上下方向に長く形成されていると共に、前後方向にも延在している。
【0047】
ピラーインナ51は、前記閉断面部43を貫通するように配設されており、これにより、閉断面部43の内部を左右に仕切る仕切部材として機能している。ピラーインナ51の下端部は、サイドシルインナ41とサイドシルアウタレイン42との上下一対の接合部に跨って設けられ、各接合部において、ピラーインナ51がサイドシルインナ41及びサイドシルアウタレイン42の両フランジ間に介装された状態で該両フランジに対して溶接されている。図9に示すように、ピラーインナ51には、後述のバルクヘッド70との干渉を避けるための例えば前後一対の開口部61,62が設けられている。各開口部61,62の形状は特に限定されるものでないが、例えば、上下方向に長いスロット又は下側に開放するスリットで構成され得る。
【0048】
一方、ピラーアウタレイン52の下端部は、サイドシルアウタレイン42の縦面部42aに溶接されている。また、ピラーアウタレイン52の下端部の車幅方向外側にはサイドフレームアウタ54が配設されており、該サイドフレームアウタ54の下端部は、サイドシルアウタレイン42の下側フランジの車幅方向外側に重ねられた状態で、サイドシルインナ41及びサイドシルアウタレイン42の下側フランジ並びにピラーインナ51と共に溶接により互いに接合されている。このサイドフレームアウタ54は、サイドシルアウタ、ルーフレールアウタ、ヒンジピラーアウタ、センタピラーウタ、リヤピラーアウタ、フロントピラーアウタ、及びリヤフェンダを一体にしたものである。
【0049】
また、前記フロアパネル32及びNo.2.5クロスメンバ38の車幅方向外側端部にはそれぞれ上向きのフランジ32a,38aが設けられ、該両フランジ32a,38aは、サイドシルインナ41の縦面部41aの下端部と共に、3枚重ねの状態で溶接により互いに接合されている。さらに、No.2.5クロスメンバ38は、その車幅方向外側端部においてシートブラケット58を備える。
【0050】
該シートブラケット58は、No.2.5クロスメンバ38の上方に配置される水平部58aと、該水平部58aの前端から垂下する前側縦面部58bと、水平部58aの後端から垂下する後側縦面部58cと、水平部58aの車幅方向内側端部から垂下する内側縦面部58dとを有する。シートブラケット58は、車幅方向外側および下側に向かって開放した構造となっているが、No.2.5クロスメンバ38の上面とサイドシルインナ41の縦面部41aとに跨って設けられることで開放部が塞がれている。シートブラケット58の内側縦面部58dの下端には、車幅方向内向きのフランジ59dが設けられ、該フランジ59dは、No.2.5クロスメンバ38の上面に溶接により接合されている。また、シートブラケット58の水平部58a、前側縦面部58b及び後側縦面部58cの車幅方向外側端部にもそれぞれフランジ59a,59b,59cが設けられ、各フランジ59a,59b,59cはサイドシルインナ41の縦面部41aに溶接により接合されている。
【0051】
また、サイドシル35の閉断面部43の内部には、該閉断面部43を前後に仕切るバルクヘッド70が配設されている。
【0052】
図10に示すように、バルクヘッド70は、閉断面部43の内部を前後方向に隔てる前後一対の隔壁部71a,71bと、該一対の隔壁部71a,71bを連結する連結部72とを有する。各隔壁部71,72の中央部には開口部73a,73bが設けられ、該開口部73a,73bの車幅方向内側縁部には、他方の隔壁部71a,71bに向かって延びる中央フランジ74a,74bが設けられている。また、各隔壁部71a,71bの上縁には上側フランジ75a,75bが、各隔壁部71a,71bの下縁には下側フランジ76a,76bが、各隔壁部71a,71bの車幅方向内側縁部には内側フランジ77a,77bが、それぞれ他方の隔壁部71a,71bから遠ざかる方向へ延設されている。内側フランジ77a,77bには、後述する粘弾性部材82を配置するための座部78a,78bが、車幅方向内側から見て一段凹入して形成されている。
【0053】
図8及び図9に示すように、このバルクヘッド70は、前後一対の隔壁部71a,71bがピラーインナ51の開口部61,62内に収められることにより該ピラーインナ51との干渉を回避しつつサイドシル35の閉断面部43の内部に収められている。
【0054】
また、バルクヘッド70は、閉断面部43におけるピラーインナ51を挟んだ一方の側においてサイドシルインナ41の内面に、他方の側においてサイドシルアウタレイン42の内面にそれぞれ接合されるとともに、前記開口部61,62の近傍においてピラーインナ51に接合されている。
【0055】
個々の接合部について具体的に説明すると、先ず、バルクヘッド70の連結部72は、サイドシルアウタレイン42の縦面部42aに、バルクヘッド70の上側フランジ75a,75bはサイドシルアウタレイン42の上側水平部42bに、バルクヘッド70の下側フランジ76a,76bはサイドシルアウタレイン42の下側水平部42cにそれぞれスポット溶接により接合され、該溶接部位は、互いに当接した状態で結合された剛結合部Xとされている。
【0056】
また、バルクヘッド70の中央フランジ74a,74bは、ピラーインナ51における前後一対の開口部61,62で挟まれた部分に対して車幅方向外側に対向配置され、該対向部分において、バルクヘッド70の中央フランジ74a,74bとピラーインナ51とが、振動減衰部材としての粘弾性部材80を介して接合され、該接合部位が柔結合部Yとされている。
【0057】
粘弾性部材80は、歪エネルギーを発生させ(貯蔵し)、そのエネルギーを熱エネルギーに変換し、散逸することにより振動を減衰可能な部材であり、接着剤または粘弾性部材80自身の粘着性により両接合面に接合されるが、塗布により接合されるようにしてもよい。また、粘弾性部材80は、圧縮された状態で両接合面間に介装されることが好ましく、これにより、これら両接合面に対する高い密着力を得ることができる。該粘弾性部材80の具体的な材料は特に限定されるものでないが、例えば、シリコーン系材料またはアクリル系材料が使用される。なお、本段落で説明した粘弾性部材80の構成は、本明細書中に記載される該粘弾性部材80以外の全ての振動減衰部材に該当するものであり、以下においては同様の説明を省略する。
【0058】
さらに、バルクヘッド70の内側フランジ77a,77bは、サイドシルインナ41の縦面部41aに対向配置され、前記座部78a,78bに配置された振動減衰部材としての粘弾性部材82を介して接合され、該接合部位も柔結合部Yとされている。また、図9に示すように、内側フランジ77a,77bにおける座部78a,78bよりも先端側の部分は、サイドシルインナ41の縦面部41aにスポット溶接により接合され、該溶接部位は剛結合部Xとされている。さらに、このバルクヘッド70の内側フランジ77a,77bとサイドシルインナ41との接合部は、No.2.5クロスメンバ38とサイドシルインナ41との接合部、具体的には、No.2.5クロスメンバ38の構成部材であるシートブラケット58のフランジ59b,59cとサイドシルインナ41との接合部に対して前後方向に重複して配設されている。
【0059】
この第1の実施形態に係るサイドシル35の構造によれば、閉断面部43内に配設されたバルクヘッド70によりサイドシル35の剛性が向上し、該サイドシル35の変形や閉断面部43の型崩れ等が抑制されることになる。また、上記の剛結合部Xによってバルクヘッド70がサイドシルアウタレイン42に強固に接合されて、前記剛性向上の効果が確保されると共に、柔結合部Yによってサイドシル35の振動が減衰されて、車室内の乗員への振動の伝達が抑制されることになる。
【0060】
引き続き図8及び図9を参照しながら、第1の実施形態に係るサイドシル35の製造工程の一例を説明する。
【0061】
先ず、サイドシルアウタレイン42の内面にバルクヘッド70を接合する。このサイドシルアウタレイン42への接合部は、上述した3箇所の剛結合部Xである。次に、バルクヘッド70が接合されたサイドシルアウタレイン42の外面にピラーアウタレイン52の下端部を接合するとともに、該ピラーアウタレイン52の外面と、サイドシルアウタレイン42の下方のフランジの外面とにサイドフレームアウタ54を接合する。続いて、このようにしてバルクヘッド70、サイドシルアウタレイン42及びピラーアウタレイン52が一体化されたサイドフレームアウタ54をピラーインナ51に接合する。この際、具体的には、ピラーインナ51の前後一対の開口部61,62に、それぞれバルクヘッド70の前後一対の隔壁部71a,71bと、各隔壁部71a,71bの内側フランジ77a,77bとを車幅方向外側から挿通させ、バルクヘッド70の中央フランジ74a,74bをピラーインナ51の外側の面に粘弾性部材80を介して接合する。なお、粘弾性部材80は中央フランジ74a,74bに予め接着または塗布しておけばよい。
【0062】
次に、このようにピラーインナ51が接合されたサイドフレームアウタ54に対して、予めフロアパネル32、No.2.5クロスメンバ38及びシートブラケット58が接合された状態のサイドシルインナ41を接合する。具体的には、サイドシルインナ41の上方フランジを、サイドシルアウタレイン42の上方フランジ及びピラーインナ51に対して車幅方向内側から重ね合わせて溶接するとともに、サイドシルインナ41の下方フランジを、サイドシルアウタレイン42の下方フランジ、ピラーインナ51及びサイドフレームアウタ54に対して車幅方向内側から重ね合わせて溶接する。また、バルクヘッド70の内側フランジ77a,77bを、サイドシルインナ41の縦面部41aに対して、予め内側フランジ77a,77bに接着または塗布された粘弾性部材82と車幅方向内側からの片側溶接とにより接合し、これにより、閉断面部43の内部にバルクヘッド70が配設されたサイドシル35が完成する。
【0063】
[第2の実施形態]
図11〜図13を参照しながら、第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態は、サイドシル35におけるNo.2.5クロスメンバ38との接合部とNo.3クロスメンバ39との接合部との中間部に適用され、この適用部分にはセンタピラー50の後端部が配置される。
【0064】
なお、第2の実施形態に関する以下の説明では、左側のサイドシル35及び周辺部材の構成について説明するが、右側のサイドシル35及び周辺部材の構成も同様である。また、第2の実施形態において、サイドシル35、センタピラー50及びフロアパネル32は、第1の実施形態と同一部材が使用されるため、これらの部材に関する既述の構成については説明を省略する。
【0065】
図11は、左側のサイドシル35を前後方向におけるセンタピラー50の後端部の位置で切断して前方から見た図7のb−b線断面図であり、図12は、左側のサイドシル35の当該部分を上方から見た図11のd−d線断面図である。これら図11及び図12に示すように、第2の実施形態においても、サイドシル35の閉断面部43の内部には、該閉断面部43を前後に仕切るバルクヘッド170が配設されており、該バルクヘッド170は、ピラーインナ51の後端部に接合されている。ピラーインナ51の後端部には、車幅方向内側に向かって斜め後方に延びるフランジ151が設けられ、該フランジ151は、後述する粘弾性部材180を配置するための座部としての第1面部151aと、該第1面部151aを挟んだ上下両側に配置され且つそれぞれ第1面部151aよりも後方に配置された上下一対の第2面部151bとを有する。
【0066】
図13に示すように、バルクヘッド170は、閉断面部43の内部を前後方向に隔てる隔壁部171を有する。隔壁部171の中央部には、前方へ膨出した膨出部172が設けられ、該膨出部172には、車幅方向外側に向かって斜め前方へ傾斜した傾斜面172aが形成されている。また、隔壁部171の上縁には上側フランジ173bが、隔壁部171の車幅方向外側縁部には外側フランジ174が、隔壁部171の下縁には下側フランジ175が、隔壁部171の車幅方向内側縁部には内側フランジ176が、それぞれ後方へ延設されている。内側フランジ176は、平面視段状に形成されており、後述する粘弾性部材182を配置するための座部としての第1面部176aと、該第1面部176aよりも車幅方向内側に配置される第2面部176bとを有する。
【0067】
図11及び図12に示すように、このバルクヘッド170は、ピラーインナ51の後端部の後方に収められることにより該ピラーインナ51との干渉を回避しつつサイドシル35の閉断面部43の内部に収められている。
【0068】
また、バルクヘッド170は、閉断面部43におけるピラーインナ51を挟んだ一方の側においてサイドシルインナ41の内面に、他方の側においてサイドシルアウタレイン42の内面にそれぞれ接合されるとともに、ピラーインナ51の後端部にも接合されている。
【0069】
個々の接合部について具体的に説明すると、先ず、バルクヘッド170の上側フランジ173は、サイドシルアウタレイン42の上側水平部42bに、バルクヘッド170の外側フランジ174はサイドシルアウタレイン42の縦面部42aに、バルクヘッド170の下側フランジ175はサイドシルアウタレイン42の下側水平部42cにそれぞれスポット溶接により接合され、該溶接部位は、互いに当接した状態で結合された剛結合部Xとされている。
【0070】
また、バルクヘッド170の中央部の前記傾斜面172aは、ピラーインナ51の後端部に設けられた前記フランジ151の第1面部151a及び上下一対の第2面部151bに対して後方に対向配置されている。バルクヘッド170の傾斜面172aは、ピラーインナ51の第1面部151aに対して、振動減衰部材としての粘弾性部材180を介して接合され、該接合部位が柔結合部Yとされている。また、バルクヘッド170の傾斜面172aは、ピラーインナ51の各第2面部172bにそれぞれスポット溶接により接合され、該溶接部位は剛結合部Xとされている。
【0071】
さらに、バルクヘッド170の内側フランジ176における第1面部176a及び第2面部176bは、サイドシルインナ41の縦面部41aに対向配置されている。バルクヘッド170の第1面部176aは、サイドシルインナ41の縦面部41aに対して、第1面部176aに配置された振動減衰部材としての粘弾性部材182を介して接合され、該接合部位は柔結合部Yとされている。一方、バルクヘッド170の第2面部176bは、サイドシルインナ41の縦面部41aにスポット溶接により接合され、該溶接部位は剛結合部Xとされている。
【0072】
この第2の実施形態に係るサイドシル35の構造によっても、第1の実施形態と同様、閉断面部43内に配設されたバルクヘッド170によりサイドシル35の剛性が向上し、該サイドシル35の変形や閉断面部43の型崩れ等が抑制されることになる。また、上記の剛結合部Xによってバルクヘッド170がサイドシルアウタレイン42、サイドシルインナ41及びピラーインナ51の後端部に強固に接合されて、前記剛性向上の効果が確保されると共に、柔結合部Yによってサイドシル35の振動が減衰されて、車室内の乗員への振動の伝達が抑制されることになる。
【0073】
引き続き図11及び図12を参照しながら、第2の実施形態に係るサイドシル35の製造工程の一例を説明する。
【0074】
先ず、サイドシルアウタレイン42の内面にバルクヘッド170を接合する。このサイドシルアウタレイン42への接合部は、上述した3箇所の剛結合部Xである。次に、バルクヘッド70が接合されたサイドシルアウタレイン42の外面にピラーアウタレイン52の下端部を接合するとともに、該ピラーアウタレイン52の外面と、サイドシルアウタレイン42の下方のフランジの外面とにサイドフレームアウタ54を接合する。続いて、このようにしてサイドフレームアウタ54に一体化されたバルクヘッド170の前記傾斜面172aに対して、ピラーインナ51後端部のフランジ151を、予め該フランジ151の第1面部151aに接着または塗布された粘弾性部材180を介して対向配置させて、該粘弾性部材180とスポット溶接とにより接合するとともに、サイドシルアウタレイン42の上方において、ピラーインナ51をピラーアウタレイン52の内面に溶接により接合する。
【0075】
次に、このようにしてピラーインナ51が接合されたサイドフレームアウタ54に対して、予めフロアパネル32、No.2.5クロスメンバ38及びシートブラケット58が接合された状態のサイドシルインナ41を接合する。具体的には、サイドシルインナ41の上方フランジを、サイドシルアウタレイン42の上方フランジ及びピラーインナ51に対して車幅方向内側から重ね合わせて溶接するとともに、サイドシルインナ41の下方フランジを、サイドシルアウタレイン42の下方フランジ、ピラーインナ51及びサイドフレームアウタ54に対して車幅方向内側から重ね合わせて溶接する。また、バルクヘッド170の内側フランジ176を、サイドシルインナ41の縦面部41aに対して、予め内側フランジ176に接着または塗布された粘弾性部材182と車幅方向内側からの片側溶接とにより接合し、これにより、閉断面部43の内部にバルクヘッド170が配設されたサイドシル35が完成する。
【0076】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0077】
例えば、上述の実施形態では、サイドシルインナとサイドシルアウタレインとで閉断面部が構成される場合について説明したが、本発明は、サイドシルインナ又はサイドシルアウタレイン以外の1又は2以上の車体構成部材で構成される場合にも同様に適用され得る。
【0078】
また、上述の実施形態では、閉断面部を構成するサイドシルインナとサイドシルアウタレインとが上下一対の接合部で接合される場合について説明したが、本発明において、閉断面部が2枚の車体構成部材で構成される場合、該両部材は3箇所以上で接合されるようにしてもよい。
【0079】
さらに、上述の実施形態では、閉断面部の内部を仕切る仕切部材としてセンタピラーインナが設けられる場合について説明したが、本発明において、仕切部材はセンタピラーインナに限定されるものでない。
【0080】
さらにまた、上述の実施形態では、溶接により剛結合部が構成される場合について説明したが、本発明において、剛結合部は、溶接に限られるものでなく、ボルト締め等により構成されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上のように、本発明によれば、車体構成部材で形成された閉断面部の内部が仕切部材によって仕切られ、該閉断面部にバルクヘッドが配設される場合において、前記閉断面部で発生する振動をバルクヘッドにより効果的に抑制することが可能となるから、この種の閉断面部位を有する車体の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0082】
1:第1部材、2:第2部材、3:閉断面部、4:中空フレーム、5:バルクヘッド、6:減衰部材、7:仕切部材、31:ダッシュパネル、32:フロアパネル、35:サイドシル、38:No.2.5クロスメンバ、41:サイドシルインナ、42:サイドシルアウタレイン、43:閉断面部、50:センタピラー、51:ピラーインナ、52:ピラーアウタレイン、58:シートブラケット、61,62:ピラーインナの開口部、70,170:バルクヘッド、71a,71b,171:隔壁部、72:連結部、80,82,180,182:粘弾性部材、151:ピラーインナ後端部のフランジ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体構造、特に車体の閉断面部における構造および該車体構造の製造方法に関し、車両の車体構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、乗り心地や安全性を向上させるために車体の剛性を高めることが必要であり、剛性を高める技術として、車体構成部材で形成された閉断面部内にバルクヘッドを配設することがある。また、自動車等の車両において、前記閉断面部の内部を仕切部材によって仕切る構造が採用されることがあり、かかる構造の閉断面部内にバルクヘッドを配設する技術が、例えば特許文献1、2に開示されている。
【0003】
このうち、特許文献1には、同文献の第4図を参照すると、サイドシルアウタとサイドシルインナとで形成されるサイドシルの閉断面部の内部がサイドシルセンタにより仕切られた構造において、該サイドシルセンタとサイドシルアウタとで囲まれた空間にバルクヘッドを節状に配設する技術が開示されている。このバルクヘッドの外周にはフランジが形成され、該フランジが、サイドシルセンタとサイドシルアウタの各内面にスポット溶接と接着剤とを併用して接合されている。
【0004】
また、特許文献2には、同文献の図9及び図10を参照すると、サイドシルの閉断面部の内部がセンタピラーインナにより仕切られた構造において、該センタピラーインナとサイドシルアウタとで囲まれた空間と、センタピラーインナとサイドシルインナとで囲まれた空間のそれぞれに別々のバルクヘッドを節状に配設する技術が開示されている。
【0005】
これら特許文献1及び2の技術によれば、バルクヘッドが接合された部材同士が互いに拘束し合うため、車体構成部材の剛性が高められる。また、該車体構成部材の断面形状が維持されやすくなることで、振動の発生をある程度抑制することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭59−182472号公報
【特許文献2】特開2009−202620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1,2に開示された構造において、各バルクヘッドは、閉断面部において仕切部材(サイドシルセンタ又はセンタピラーインナ)を挟んだ一方の空間のみに配設されるため、該一方の空間の断面形状を維持する機能しか持たない。そのため、他方の空間についても断面形状の維持を図るためには、特許文献2の技術のように仕切部材を挟んだ両側の空間にバルクヘッドを配設する必要があり、この場合、部品点数および取付工数の増大を招いてしまう。
【0008】
そこで、本発明は、車体構成部材で形成された閉断面部の内部が仕切部材によって仕切られるとともに、該閉断面部にバルクヘッドが配設される場合において、前記閉断面部で発生する振動をバルクヘッドにより効果的に抑制することができる車両の車体構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0010】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、
所定方向に連続して閉断面部を形成する1又は2以上の車体構成部材と、前記所定方向に延在して前記閉断面部の内部を仕切る仕切部材と、前記閉断面部内に配設されて前記車体構成部材に接合されたバルクヘッドとを有する車両の車体構造であって、
前記バルクヘッドは、前記閉断面部における前記仕切部材を挟んだ両側において前記車体構成部材に接合されるとともに、前記仕切部材に設けられた開口部の近傍部または前記所定方向における前記仕切部材の端部に接合されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記閉断面部は、少なくとも一対の接合部で接合された2枚の車体構成部材で構成され、
前記仕切部材の一部または全部は前記一対の接合部に跨って設けられ、
前記バルクヘッドは、前記2枚の車体構成部材のそれぞれに接合されていることを特徴とする。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の発明において、
前記車両構成部材は、車両前後方向に延びるサイドシルを構成するサイドシルインナとサイドシルアウタレインとを含み、
前記仕切部材は、上下方向に延びるピラーを構成するピラーインナであることを特徴とする。
【0013】
またさらに、請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載の発明において、
前記バルクヘッドと前記サイドシルインナとの接合部と、車幅方向に延びるクロスメンバと前記サイドシルインナとの接合部とは車両前後方向に重複して配設されていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、
前記車体構成部材と前記バルクヘッドとの接合部は、互いに当接した状態で結合された剛結合部と、減衰部材を介して結合された柔結合部とを有することを特徴とする。
【0015】
さらに、請求項6に記載の発明は、前記請求項5に記載の発明において、
前記減衰部材は粘弾性部材であり、
その物性が、X軸に貯蔵弾性率を、Y軸に損失係数をとったX、Y座標系における座標(1、0.4)、(1、0.2)、(10、0.1)、(2000、0.1)、(10000、0.2)、(10000、0.4)で示される6点で囲まれたこれらの点を含む範囲内、又は損失係数0.4を超える範囲に属することを特徴とする。
【0016】
さらにまた、請求項7に記載の発明は、前記請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の発明において、
前記バルクヘッドは、前記閉断面部の内部を前記所定方向に隔てる一対の隔壁部と、該一対の隔壁部を連結する連結部とを有することを特徴とする。
【0017】
また、請求項8に記載の発明は、前記請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の発明において、
前記仕切部材と前記バルクヘッドとの接合部は前記柔結合部を含むことを特徴とする。
【0018】
一方、請求項9に記載の発明は、所定方向に連続して閉断面部を形成する1又は2以上の車体構成部材と、前記所定方向に延在して前記閉断面部の内部を仕切る仕切部材と、前記閉断面部内に配設されて前記車体構成部材に接合されたバルクヘッドとを有する車両の車体構造を製造する方法であって、
前記閉断面部における前記仕切部材を挟んだ両側において前記車体構成部材に前記バルクヘッドを接合する工程と、
前記仕切部材に設けられた開口部の近傍部または前記所定方向における前記仕切部材の端部に前記バルクヘッドを接合する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
まず、請求項1に記載の発明によれば、例えば中空管状の単一の車体構成部材により、或いは2つの車体構成部材を接合することにより形成される閉断面部の内部が仕切部材によって仕切られるとともに、該閉断面部にバルクヘッドが配設される場合において、該バルクヘッドは、前記閉断面部における前記仕切部材を挟んだ両側において前記車体構成部材に接合されるとともに、前記仕切部材に設けられた開口部の近傍部または閉断面部の連続方向における前記仕切部材の端部に接合されるため、仕切部材とバルクヘッドとの干渉を回避しつつ、該バルクヘッドにより、仕切部材を挟んだ両側において閉断面部の断面形状を良好に維持することができる。したがって、当該部位における車体構成部材の剛性が向上するとともに、当該部位で発生する振動を効果的に抑制することができる。
【0020】
また、請求項2に記載の発明によれば、閉断面部を構成する2枚の車体構成部材のそれぞれに前記バルクヘッドが接合されるため、該バルクヘッドにより、各車体構成部材での振動発生を効果的に抑制することができる。
【0021】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、サイドシルインナとサイドシルアウタレインとで構成される閉断面部の内部がピラーインナで仕切られた構造において、上記の振動発生抑制効果を実現することができる。
【0022】
またさらに、請求項4に記載の発明によれば、バルクヘッドとサイドシルインナとの接合部と、車幅方向に延びるクロスメンバとサイドシルインナとの接合部とが車両前後方向に重複して配設されるため、当該部位での閉断面部の断面形状を一層効果的に維持することができ、上記の振動発生抑制効果を高めることができる。
【0023】
また、請求項5に記載の発明によれば、閉断面部を構成する車体構成部材とバルクヘッドとの接合部が、溶接やボルト締め等による剛結合部と、減衰部材を介設した柔結合部とを有するため、剛結合部により車体構成部材とバルクヘッドとが強固に接合されて、前記剛性向上の効果が確保されると共に、柔結合部の減衰部材によって車体構成部材の振動が減衰されることになる。これにより、車体構造として所要の剛性を確保しつつ振動の伝達を抑制して、当該車両の乗り心地を向上させ、また騒音を低減させることが可能となる。また、この振動伝達の抑制のために新たな部材を設ける必要がなく、車体の重量増等を回避しながら前記効果が達成される利点がある。
【0024】
またさらに、請求項6に記載の発明を請求項5に記載の発明に適用すれば、前記減衰部材として粘弾性部材が用いられ、その物性としての貯蔵弾性率と損失係数とが、振動減衰効果が確認された所定の範囲内の値に特定されるから、車体構成部材の振動を減衰する請求項5に記載の発明の効果が確実に達成されることになる。
【0025】
また、請求項7に記載の発明によれば、前記バルクヘッドとして、一対の隔壁部と、該一対の隔壁部を連結する連結部とを有するバルクヘッドが用いられることで、上記の各請求項の効果を実現することができる。
【0026】
加えて、請求項8に記載の発明によれば、仕切部材とバルクヘッドとの接合部が前記柔結合部を含むため、仕切部材とバルクヘッドとの間で伝達される振動を減衰部材により減衰することができる。
【0027】
また、請求項9に記載の発明によれば、1又は2以上の車体構成部材で形成されるとともに仕切部材により内部が仕切られる閉断面部内にバルクヘッドを配設して所定の車体構造を製造するときに、閉断面部における仕切部材を挟んだ両側において前記車体構成部材にバルクヘッドを接合する工程と、仕切部材に設けられた開口部の近傍部または閉断面部の連続方向における仕切部材の端部にバルクヘッドを接合する工程とを行うため、この方法で製造された車体構造について前記請求項1の発明の効果が得られることになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態についてのシミュレーションに用いた剛結合モデルAを示す図である。
【図2】上記シミュレーションに用いた剛結合・柔結合併用モデルBを示す図である。
【図3】図2に示す剛結合・柔結合併用モデルBを示す分解斜視図である。
【図4】上記シミュレーションの結果を示すイナータンスの周波数特性図である。
【図5】同じく貯蔵弾性率に対するモード減衰比増減特性図である。
【図6】図5の結果に基づいて作成した有効範囲を示す図である。
【図7】本発明の第1及び第2の実施形態が適用される車体を示す斜視図である。
【図8】図7のa−a線で切断した第1の実施形態に係る車体構造の断面図である。
【図9】図8のc−c線で切断した第1の実施形態に係る車体構造の断面図である。
【図10】第1の実施形態に係るバルクヘッドを示す斜視図である。
【図11】図7のb−b線で切断した第2の実施形態に係る車体構造の断面図である。
【図12】図11のd−d線で切断した第2の実施形態に係る車体構造の断面図である。
【図13】第2の実施形態に係るバルクヘッドを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
まず、具体的な車体への適用構造についての説明に先立ち、本発明の請求項に記載の構造について行ったシミュレーションの結果について説明する。
【0030】
図1は、このシミュレーションに用いた剛結合モデルAを示し、図2は、このシミュレーションに用いた剛結合・柔結合併用モデルBを示す。いずれのモデルについても、車体構成部材として、断面倒ハット状の第1部材1及び第2部材2を用い、これら両部材1,2のフランジ同士を接合することにより、断面略長方形状の閉断面部3を有する中空フレーム4とされている。
【0031】
また、モデルA及びモデルBのいずれについても、第1部材1と第2部材2との両接合部間に跨って、中空フレーム4の長さ方向に延びる仕切部材7が設けられ、該仕切部材7により閉断面部3の内部が仕切られている。仕切部材7の短手方向両端部は、第1部材1及び第2部材2のフランジ1a,1b,2a,2b間に介装され、これら両フランジ1a,1b,2a,2bと仕切部材7とが3枚重ねの状態で相互に溶接されている。図3に示すように、仕切部材7には、後述のバルクヘッド5との干渉を避けるための一対のスリット8a,8bが上下方向に延設されている。
【0032】
さらに、いずれのモデルについても、閉断面部3内にバルクヘッド5が配設されている。図3に示すように、バルクヘッド5は、中空フレーム4の長さ方向に略垂直な面に沿って配設された一対の隔壁部11,12と、該一対の隔壁部11,12を連結する連結部13とを有する。各隔壁部11,12は、該隔壁部11,12の中央部をコ字状に切り込んでバルクヘッド5の内側へ折り込んでなる中央フランジ15a,15bを有する。また、各隔壁部11,12は、該隔壁部11,12の周縁部をバルクヘッド5の内側へ折り込んでなる複数の周縁フランジ14(14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,14h)を有する。図1及び図2に示すように、バルクヘッド5は、連結部13と複数の周縁フランジ14とにおいて第1部材1及び第2部材2の内面にそれぞれ接合され、これにより、該バルクヘッド5がフレーム4内に固定されている。また、バルクヘッド5は、一対の隔壁部11,12がそれぞれ仕切部材7のスリット8a,8bに差し込まれることで該仕切部材7との干渉が回避され、中央フランジ15がスリット8a,8bの周縁部において仕切部材7に接合されている。
【0033】
図1に示す剛結合モデルAにおいて、バルクヘッド5は、第1及び第2の部材1,2並びに仕切部材7に対して全てスポット溶接により接合されている。一方、図2に示す剛結合・柔結合併用モデルBにおいて、バルクヘッド5は、連結部13及び周縁フランジ14a,14b,14c,14d,14e,14fにおいては第1及び第2の部材1,2に対してスポット溶接のみにより接合されているが、中央フランジ15a,15b及び周縁フランジ14g,14hにおける仕切部材7及び第1部材1に対する各接合には、剛結合と柔結合とが併用されている。具体的に、中央フランジ15a,15bは、その中央部で仕切部材7にスポット溶接されるとともに、その両側では減衰部材6を介して仕切部材7に接合されており、周縁フランジ14g,14hは、その中央部で第1部材1にスポット溶接されるとともに、その両側では減衰部材6を介して第1部材1に接合されている。これら両接合部においては、スポット溶接部が剛結合部X、減衰部材6を介して接合された部位が柔結合部Yとなる。
【0034】
ここで、モデルBは、柔結合部Yを有する分だけ剛結合部XのみのモデルAに比べて剛性が高くなり、両モデルA,Bで共振周波数が異なることになるが、このシミュレーションにおいては、共振周波数を揃えて比較するために、剛結合部Xの面積をモデルAの方をモデルBよりも多少大きく設定している。また、柔結合部Yにおける減衰部材6は、損失係数が0.4、貯蔵弾性率が200MPa(20℃、30Hz)の粘弾性部材とした。
【0035】
図4はシミュレーション結果を示すものであり、前記モデルA,Bについて、フレーム4の一端における閉断面部3の下辺中央部を加振点x、他端の閉断面部3の第1部材1側の上側角部を応答点yとしたときの、この応答点yにおけるイナータンス(単位加振力当たりの加速度振幅の大きさ:m/s2/N)を比較して示している。
【0036】
この図から明らかなように、剛結合モデルAに比べて、剛結合・柔結合併用モデルBの方がイナータンスのピーク値が低くなっており、柔結合部Yを設けることにより、加振点xから応答点yまで振動が伝達される過程での減衰量が多くなることが示されている。
【0037】
図5は、剛結合・柔結合併用モデルBにおいて、減衰部材6として損失係数の異なる複数の粘弾性部材を用い、その損失係数と貯蔵弾性率とに対するモード減衰比増減の特性をシミュレーションした結果を示すものである。なお、損失係数が0.05の減衰部材は比較例として示すものであり、一般的に車体で使用される構造用接着剤である。
【0038】
この図から明らかなように、粘弾性部材を用いることにより、一般的に車体で使用される構造用接着剤(損失係数0.05)を用いた場合に比べて、全貯蔵弾性率の領域でモード減衰比増減が大きくなり、振動が減衰し易くなることが示されている。特に損失係数が大きいほどモード減衰比増減が大きくなると共に、いずれの損失係数においても、貯蔵弾性率が100MPaでモード減衰比増減が最大となることが示されている。
【0039】
図6は、図5のシミュレーション結果から、減衰部材6として粘弾性部材を用いた場合の実質的に減衰効果が得られるときの損失係数と貯蔵弾性率との関係を示すものであり、モード減衰比増減が図5に示す閾値M以上で効果あり、閾値M未満で効果なしと判定したものである。
【0040】
この結果、X軸に貯蔵弾性率を、Y軸に損失係数をとったX、Y座標系における座標(1、0.4)、(1、0.2)、(10、0.1)、(2000、0.1)、(10000、0.2)、(10000、0.4)で示される6点で囲まれたこれらの点を含む範囲内と、損失係数0.4を超える範囲とで、実質的に減衰効果が得られることが判明する。
【0041】
次に、本発明の構造を車体へ適用した実施形態について説明する。なお、以下の説明において、「前」、「後」、「前後」、「右」、「左」、「左右」等の方向を示す用語は、特段の説明がある場合を除いて、車両の進行方向を「前」とした場合の方向を指すものとする。
【0042】
図7は、第1及び第2の実施形態が適用される車体の構造を示すものである。図7に示すように、車室の前部はダッシュパネル31により、底部はフロアパネル32により形成されていると共に、車室の後部は、前記フロアパネル32に連続するセンタフロアパン33で底部が形成され、その後方には、一段高くされてトランクフロアパン34が設けられている。
【0043】
また、前記フロアパネル32の左右両側部には前後方向に延びるサイドシル35が設けられていると共に、該フロアパネル32の車幅方向の中央部には、ダッシュパネル31から前記センタフロアパン33の前端部まで延びるトンネルレイン36が配設されており、さらに、左右のサイドシル35とトンネルレイン36との間には、車幅方向に延びるNo.2クロスメンバ37及びNo.2.5クロスメンバ38がダッシュパネル31側から順に配設されており、さらにフロアパネル32とセンタフロアパネル33との境界部にはNo.3クロスメンバ39が配設されている。また、車体の左右両側部には、上下方向に延びるセンタピラー50が、サイドシル35から立ち上がるようにして設けられている。なお、図7では、車体の構造の理解を容易にするために、車体左側部についてセンタピラー50等の図示を省略している。
【0044】
[第1の実施形態]
図8〜図10を参照しながら、第1の実施形態について説明する。この第1の実施形態は、サイドシル35におけるNo.2.5クロスメンバ38との接合部に適用される。なお、第1の実施形態に関する以下の説明では、右側のサイドシル35及び周辺部材の構成について説明するが、左側のサイドシル35及び周辺部材の構成も同様である。
【0045】
図8及び図9に示すように、サイドシル35は、車幅方向外向きに開放する断面ハット状のサイドシルインナ41と、車幅方向内向きに開放する断面ハット状のサイドシルアウタレイン42とを有し、上方のフランジ同士と下方のフランジ同士とをそれぞれ接合することにより、前後方向に連続して閉断面部43が形成されている。
【0046】
前記センタピラー50は、センタピラーインナ(以下、「ピラーインナ」という。)51とセンタピラーアウタレイン52とを有する。これらピラーインナ51とピラーアウタレイン52とは、上下方向に長く形成されていると共に、前後方向にも延在している。
【0047】
ピラーインナ51は、前記閉断面部43を貫通するように配設されており、これにより、閉断面部43の内部を左右に仕切る仕切部材として機能している。ピラーインナ51の下端部は、サイドシルインナ41とサイドシルアウタレイン42との上下一対の接合部に跨って設けられ、各接合部において、ピラーインナ51がサイドシルインナ41及びサイドシルアウタレイン42の両フランジ間に介装された状態で該両フランジに対して溶接されている。図9に示すように、ピラーインナ51には、後述のバルクヘッド70との干渉を避けるための例えば前後一対の開口部61,62が設けられている。各開口部61,62の形状は特に限定されるものでないが、例えば、上下方向に長いスロット又は下側に開放するスリットで構成され得る。
【0048】
一方、ピラーアウタレイン52の下端部は、サイドシルアウタレイン42の縦面部42aに溶接されている。また、ピラーアウタレイン52の下端部の車幅方向外側にはサイドフレームアウタ54が配設されており、該サイドフレームアウタ54の下端部は、サイドシルアウタレイン42の下側フランジの車幅方向外側に重ねられた状態で、サイドシルインナ41及びサイドシルアウタレイン42の下側フランジ並びにピラーインナ51と共に溶接により互いに接合されている。このサイドフレームアウタ54は、サイドシルアウタ、ルーフレールアウタ、ヒンジピラーアウタ、センタピラーウタ、リヤピラーアウタ、フロントピラーアウタ、及びリヤフェンダを一体にしたものである。
【0049】
また、前記フロアパネル32及びNo.2.5クロスメンバ38の車幅方向外側端部にはそれぞれ上向きのフランジ32a,38aが設けられ、該両フランジ32a,38aは、サイドシルインナ41の縦面部41aの下端部と共に、3枚重ねの状態で溶接により互いに接合されている。さらに、No.2.5クロスメンバ38は、その車幅方向外側端部においてシートブラケット58を備える。
【0050】
該シートブラケット58は、No.2.5クロスメンバ38の上方に配置される水平部58aと、該水平部58aの前端から垂下する前側縦面部58bと、水平部58aの後端から垂下する後側縦面部58cと、水平部58aの車幅方向内側端部から垂下する内側縦面部58dとを有する。シートブラケット58は、車幅方向外側および下側に向かって開放した構造となっているが、No.2.5クロスメンバ38の上面とサイドシルインナ41の縦面部41aとに跨って設けられることで開放部が塞がれている。シートブラケット58の内側縦面部58dの下端には、車幅方向内向きのフランジ59dが設けられ、該フランジ59dは、No.2.5クロスメンバ38の上面に溶接により接合されている。また、シートブラケット58の水平部58a、前側縦面部58b及び後側縦面部58cの車幅方向外側端部にもそれぞれフランジ59a,59b,59cが設けられ、各フランジ59a,59b,59cはサイドシルインナ41の縦面部41aに溶接により接合されている。
【0051】
また、サイドシル35の閉断面部43の内部には、該閉断面部43を前後に仕切るバルクヘッド70が配設されている。
【0052】
図10に示すように、バルクヘッド70は、閉断面部43の内部を前後方向に隔てる前後一対の隔壁部71a,71bと、該一対の隔壁部71a,71bを連結する連結部72とを有する。各隔壁部71,72の中央部には開口部73a,73bが設けられ、該開口部73a,73bの車幅方向内側縁部には、他方の隔壁部71a,71bに向かって延びる中央フランジ74a,74bが設けられている。また、各隔壁部71a,71bの上縁には上側フランジ75a,75bが、各隔壁部71a,71bの下縁には下側フランジ76a,76bが、各隔壁部71a,71bの車幅方向内側縁部には内側フランジ77a,77bが、それぞれ他方の隔壁部71a,71bから遠ざかる方向へ延設されている。内側フランジ77a,77bには、後述する粘弾性部材82を配置するための座部78a,78bが、車幅方向内側から見て一段凹入して形成されている。
【0053】
図8及び図9に示すように、このバルクヘッド70は、前後一対の隔壁部71a,71bがピラーインナ51の開口部61,62内に収められることにより該ピラーインナ51との干渉を回避しつつサイドシル35の閉断面部43の内部に収められている。
【0054】
また、バルクヘッド70は、閉断面部43におけるピラーインナ51を挟んだ一方の側においてサイドシルインナ41の内面に、他方の側においてサイドシルアウタレイン42の内面にそれぞれ接合されるとともに、前記開口部61,62の近傍においてピラーインナ51に接合されている。
【0055】
個々の接合部について具体的に説明すると、先ず、バルクヘッド70の連結部72は、サイドシルアウタレイン42の縦面部42aに、バルクヘッド70の上側フランジ75a,75bはサイドシルアウタレイン42の上側水平部42bに、バルクヘッド70の下側フランジ76a,76bはサイドシルアウタレイン42の下側水平部42cにそれぞれスポット溶接により接合され、該溶接部位は、互いに当接した状態で結合された剛結合部Xとされている。
【0056】
また、バルクヘッド70の中央フランジ74a,74bは、ピラーインナ51における前後一対の開口部61,62で挟まれた部分に対して車幅方向外側に対向配置され、該対向部分において、バルクヘッド70の中央フランジ74a,74bとピラーインナ51とが、振動減衰部材としての粘弾性部材80を介して接合され、該接合部位が柔結合部Yとされている。
【0057】
粘弾性部材80は、歪エネルギーを発生させ(貯蔵し)、そのエネルギーを熱エネルギーに変換し、散逸することにより振動を減衰可能な部材であり、接着剤または粘弾性部材80自身の粘着性により両接合面に接合されるが、塗布により接合されるようにしてもよい。また、粘弾性部材80は、圧縮された状態で両接合面間に介装されることが好ましく、これにより、これら両接合面に対する高い密着力を得ることができる。該粘弾性部材80の具体的な材料は特に限定されるものでないが、例えば、シリコーン系材料またはアクリル系材料が使用される。なお、本段落で説明した粘弾性部材80の構成は、本明細書中に記載される該粘弾性部材80以外の全ての振動減衰部材に該当するものであり、以下においては同様の説明を省略する。
【0058】
さらに、バルクヘッド70の内側フランジ77a,77bは、サイドシルインナ41の縦面部41aに対向配置され、前記座部78a,78bに配置された振動減衰部材としての粘弾性部材82を介して接合され、該接合部位も柔結合部Yとされている。また、図9に示すように、内側フランジ77a,77bにおける座部78a,78bよりも先端側の部分は、サイドシルインナ41の縦面部41aにスポット溶接により接合され、該溶接部位は剛結合部Xとされている。さらに、このバルクヘッド70の内側フランジ77a,77bとサイドシルインナ41との接合部は、No.2.5クロスメンバ38とサイドシルインナ41との接合部、具体的には、No.2.5クロスメンバ38の構成部材であるシートブラケット58のフランジ59b,59cとサイドシルインナ41との接合部に対して前後方向に重複して配設されている。
【0059】
この第1の実施形態に係るサイドシル35の構造によれば、閉断面部43内に配設されたバルクヘッド70によりサイドシル35の剛性が向上し、該サイドシル35の変形や閉断面部43の型崩れ等が抑制されることになる。また、上記の剛結合部Xによってバルクヘッド70がサイドシルアウタレイン42に強固に接合されて、前記剛性向上の効果が確保されると共に、柔結合部Yによってサイドシル35の振動が減衰されて、車室内の乗員への振動の伝達が抑制されることになる。
【0060】
引き続き図8及び図9を参照しながら、第1の実施形態に係るサイドシル35の製造工程の一例を説明する。
【0061】
先ず、サイドシルアウタレイン42の内面にバルクヘッド70を接合する。このサイドシルアウタレイン42への接合部は、上述した3箇所の剛結合部Xである。次に、バルクヘッド70が接合されたサイドシルアウタレイン42の外面にピラーアウタレイン52の下端部を接合するとともに、該ピラーアウタレイン52の外面と、サイドシルアウタレイン42の下方のフランジの外面とにサイドフレームアウタ54を接合する。続いて、このようにしてバルクヘッド70、サイドシルアウタレイン42及びピラーアウタレイン52が一体化されたサイドフレームアウタ54をピラーインナ51に接合する。この際、具体的には、ピラーインナ51の前後一対の開口部61,62に、それぞれバルクヘッド70の前後一対の隔壁部71a,71bと、各隔壁部71a,71bの内側フランジ77a,77bとを車幅方向外側から挿通させ、バルクヘッド70の中央フランジ74a,74bをピラーインナ51の外側の面に粘弾性部材80を介して接合する。なお、粘弾性部材80は中央フランジ74a,74bに予め接着または塗布しておけばよい。
【0062】
次に、このようにピラーインナ51が接合されたサイドフレームアウタ54に対して、予めフロアパネル32、No.2.5クロスメンバ38及びシートブラケット58が接合された状態のサイドシルインナ41を接合する。具体的には、サイドシルインナ41の上方フランジを、サイドシルアウタレイン42の上方フランジ及びピラーインナ51に対して車幅方向内側から重ね合わせて溶接するとともに、サイドシルインナ41の下方フランジを、サイドシルアウタレイン42の下方フランジ、ピラーインナ51及びサイドフレームアウタ54に対して車幅方向内側から重ね合わせて溶接する。また、バルクヘッド70の内側フランジ77a,77bを、サイドシルインナ41の縦面部41aに対して、予め内側フランジ77a,77bに接着または塗布された粘弾性部材82と車幅方向内側からの片側溶接とにより接合し、これにより、閉断面部43の内部にバルクヘッド70が配設されたサイドシル35が完成する。
【0063】
[第2の実施形態]
図11〜図13を参照しながら、第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態は、サイドシル35におけるNo.2.5クロスメンバ38との接合部とNo.3クロスメンバ39との接合部との中間部に適用され、この適用部分にはセンタピラー50の後端部が配置される。
【0064】
なお、第2の実施形態に関する以下の説明では、左側のサイドシル35及び周辺部材の構成について説明するが、右側のサイドシル35及び周辺部材の構成も同様である。また、第2の実施形態において、サイドシル35、センタピラー50及びフロアパネル32は、第1の実施形態と同一部材が使用されるため、これらの部材に関する既述の構成については説明を省略する。
【0065】
図11は、左側のサイドシル35を前後方向におけるセンタピラー50の後端部の位置で切断して前方から見た図7のb−b線断面図であり、図12は、左側のサイドシル35の当該部分を上方から見た図11のd−d線断面図である。これら図11及び図12に示すように、第2の実施形態においても、サイドシル35の閉断面部43の内部には、該閉断面部43を前後に仕切るバルクヘッド170が配設されており、該バルクヘッド170は、ピラーインナ51の後端部に接合されている。ピラーインナ51の後端部には、車幅方向内側に向かって斜め後方に延びるフランジ151が設けられ、該フランジ151は、後述する粘弾性部材180を配置するための座部としての第1面部151aと、該第1面部151aを挟んだ上下両側に配置され且つそれぞれ第1面部151aよりも後方に配置された上下一対の第2面部151bとを有する。
【0066】
図13に示すように、バルクヘッド170は、閉断面部43の内部を前後方向に隔てる隔壁部171を有する。隔壁部171の中央部には、前方へ膨出した膨出部172が設けられ、該膨出部172には、車幅方向外側に向かって斜め前方へ傾斜した傾斜面172aが形成されている。また、隔壁部171の上縁には上側フランジ173bが、隔壁部171の車幅方向外側縁部には外側フランジ174が、隔壁部171の下縁には下側フランジ175が、隔壁部171の車幅方向内側縁部には内側フランジ176が、それぞれ後方へ延設されている。内側フランジ176は、平面視段状に形成されており、後述する粘弾性部材182を配置するための座部としての第1面部176aと、該第1面部176aよりも車幅方向内側に配置される第2面部176bとを有する。
【0067】
図11及び図12に示すように、このバルクヘッド170は、ピラーインナ51の後端部の後方に収められることにより該ピラーインナ51との干渉を回避しつつサイドシル35の閉断面部43の内部に収められている。
【0068】
また、バルクヘッド170は、閉断面部43におけるピラーインナ51を挟んだ一方の側においてサイドシルインナ41の内面に、他方の側においてサイドシルアウタレイン42の内面にそれぞれ接合されるとともに、ピラーインナ51の後端部にも接合されている。
【0069】
個々の接合部について具体的に説明すると、先ず、バルクヘッド170の上側フランジ173は、サイドシルアウタレイン42の上側水平部42bに、バルクヘッド170の外側フランジ174はサイドシルアウタレイン42の縦面部42aに、バルクヘッド170の下側フランジ175はサイドシルアウタレイン42の下側水平部42cにそれぞれスポット溶接により接合され、該溶接部位は、互いに当接した状態で結合された剛結合部Xとされている。
【0070】
また、バルクヘッド170の中央部の前記傾斜面172aは、ピラーインナ51の後端部に設けられた前記フランジ151の第1面部151a及び上下一対の第2面部151bに対して後方に対向配置されている。バルクヘッド170の傾斜面172aは、ピラーインナ51の第1面部151aに対して、振動減衰部材としての粘弾性部材180を介して接合され、該接合部位が柔結合部Yとされている。また、バルクヘッド170の傾斜面172aは、ピラーインナ51の各第2面部172bにそれぞれスポット溶接により接合され、該溶接部位は剛結合部Xとされている。
【0071】
さらに、バルクヘッド170の内側フランジ176における第1面部176a及び第2面部176bは、サイドシルインナ41の縦面部41aに対向配置されている。バルクヘッド170の第1面部176aは、サイドシルインナ41の縦面部41aに対して、第1面部176aに配置された振動減衰部材としての粘弾性部材182を介して接合され、該接合部位は柔結合部Yとされている。一方、バルクヘッド170の第2面部176bは、サイドシルインナ41の縦面部41aにスポット溶接により接合され、該溶接部位は剛結合部Xとされている。
【0072】
この第2の実施形態に係るサイドシル35の構造によっても、第1の実施形態と同様、閉断面部43内に配設されたバルクヘッド170によりサイドシル35の剛性が向上し、該サイドシル35の変形や閉断面部43の型崩れ等が抑制されることになる。また、上記の剛結合部Xによってバルクヘッド170がサイドシルアウタレイン42、サイドシルインナ41及びピラーインナ51の後端部に強固に接合されて、前記剛性向上の効果が確保されると共に、柔結合部Yによってサイドシル35の振動が減衰されて、車室内の乗員への振動の伝達が抑制されることになる。
【0073】
引き続き図11及び図12を参照しながら、第2の実施形態に係るサイドシル35の製造工程の一例を説明する。
【0074】
先ず、サイドシルアウタレイン42の内面にバルクヘッド170を接合する。このサイドシルアウタレイン42への接合部は、上述した3箇所の剛結合部Xである。次に、バルクヘッド70が接合されたサイドシルアウタレイン42の外面にピラーアウタレイン52の下端部を接合するとともに、該ピラーアウタレイン52の外面と、サイドシルアウタレイン42の下方のフランジの外面とにサイドフレームアウタ54を接合する。続いて、このようにしてサイドフレームアウタ54に一体化されたバルクヘッド170の前記傾斜面172aに対して、ピラーインナ51後端部のフランジ151を、予め該フランジ151の第1面部151aに接着または塗布された粘弾性部材180を介して対向配置させて、該粘弾性部材180とスポット溶接とにより接合するとともに、サイドシルアウタレイン42の上方において、ピラーインナ51をピラーアウタレイン52の内面に溶接により接合する。
【0075】
次に、このようにしてピラーインナ51が接合されたサイドフレームアウタ54に対して、予めフロアパネル32、No.2.5クロスメンバ38及びシートブラケット58が接合された状態のサイドシルインナ41を接合する。具体的には、サイドシルインナ41の上方フランジを、サイドシルアウタレイン42の上方フランジ及びピラーインナ51に対して車幅方向内側から重ね合わせて溶接するとともに、サイドシルインナ41の下方フランジを、サイドシルアウタレイン42の下方フランジ、ピラーインナ51及びサイドフレームアウタ54に対して車幅方向内側から重ね合わせて溶接する。また、バルクヘッド170の内側フランジ176を、サイドシルインナ41の縦面部41aに対して、予め内側フランジ176に接着または塗布された粘弾性部材182と車幅方向内側からの片側溶接とにより接合し、これにより、閉断面部43の内部にバルクヘッド170が配設されたサイドシル35が完成する。
【0076】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0077】
例えば、上述の実施形態では、サイドシルインナとサイドシルアウタレインとで閉断面部が構成される場合について説明したが、本発明は、サイドシルインナ又はサイドシルアウタレイン以外の1又は2以上の車体構成部材で構成される場合にも同様に適用され得る。
【0078】
また、上述の実施形態では、閉断面部を構成するサイドシルインナとサイドシルアウタレインとが上下一対の接合部で接合される場合について説明したが、本発明において、閉断面部が2枚の車体構成部材で構成される場合、該両部材は3箇所以上で接合されるようにしてもよい。
【0079】
さらに、上述の実施形態では、閉断面部の内部を仕切る仕切部材としてセンタピラーインナが設けられる場合について説明したが、本発明において、仕切部材はセンタピラーインナに限定されるものでない。
【0080】
さらにまた、上述の実施形態では、溶接により剛結合部が構成される場合について説明したが、本発明において、剛結合部は、溶接に限られるものでなく、ボルト締め等により構成されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上のように、本発明によれば、車体構成部材で形成された閉断面部の内部が仕切部材によって仕切られ、該閉断面部にバルクヘッドが配設される場合において、前記閉断面部で発生する振動をバルクヘッドにより効果的に抑制することが可能となるから、この種の閉断面部位を有する車体の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0082】
1:第1部材、2:第2部材、3:閉断面部、4:中空フレーム、5:バルクヘッド、6:減衰部材、7:仕切部材、31:ダッシュパネル、32:フロアパネル、35:サイドシル、38:No.2.5クロスメンバ、41:サイドシルインナ、42:サイドシルアウタレイン、43:閉断面部、50:センタピラー、51:ピラーインナ、52:ピラーアウタレイン、58:シートブラケット、61,62:ピラーインナの開口部、70,170:バルクヘッド、71a,71b,171:隔壁部、72:連結部、80,82,180,182:粘弾性部材、151:ピラーインナ後端部のフランジ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に連続して閉断面部を形成する1又は2以上の車体構成部材と、前記所定方向に延在して前記閉断面部の内部を仕切る仕切部材と、前記閉断面部内に配設されて前記車体構成部材に接合されたバルクヘッドとを有する車両の車体構造であって、
前記バルクヘッドは、前記閉断面部における前記仕切部材を挟んだ両側において前記車体構成部材に接合されるとともに、前記仕切部材に設けられた開口部の近傍部または前記所定方向における前記仕切部材の端部に接合されていることを特徴とする車両の車体構造。
【請求項2】
前記閉断面部は、少なくとも一対の接合部で接合された2枚の車体構成部材で構成され、
前記仕切部材の一部または全部は前記一対の接合部に跨って設けられ、
前記バルクヘッドは、前記2枚の車体構成部材のそれぞれに接合されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の車体構造。
【請求項3】
前記車両構成部材は、車両前後方向に延びるサイドシルを構成するサイドシルインナとサイドシルアウタレインとを含み、
前記仕切部材は、上下方向に延びるピラーを構成するピラーインナであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の車体構造。
【請求項4】
前記バルクヘッドと前記サイドシルインナとの接合部と、車幅方向に延びるクロスメンバと前記サイドシルインナとの接合部とは車両前後方向に重複して配設されていることを特徴とする請求項3に記載の車両の車体構造。
【請求項5】
前記車体構成部材と前記バルクヘッドとの接合部は、互いに当接した状態で結合された剛結合部と、減衰部材を介して結合された柔結合部とを有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両の車体構造。
【請求項6】
前記減衰部材は粘弾性部材であり、
その物性が、X軸に貯蔵弾性率を、Y軸に損失係数をとったX、Y座標系における座標(1、0.4)、(1、0.2)、(10、0.1)、(2000、0.1)、(10000、0.2)、(10000、0.4)で示される6点で囲まれたこれらの点を含む範囲内、又は損失係数0.4を超える範囲に属することを特徴とする請求項5に記載の車両の車体構造。
【請求項7】
前記バルクヘッドは、前記閉断面部の内部を前記所定方向に隔てる一対の隔壁部と、該一対の隔壁部を連結する連結部とを有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の車両の車体構造。
【請求項8】
前記仕切部材と前記バルクヘッドとの接合部は前記柔結合部を含むことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の車両の車体構造。
【請求項9】
所定方向に連続して閉断面部を形成する1又は2以上の車体構成部材と、前記所定方向に延在して前記閉断面部の内部を仕切る仕切部材と、前記閉断面部内に配設されて前記車体構成部材に接合されたバルクヘッドとを有する車両の車体構造を製造する方法であって、
前記閉断面部における前記仕切部材を挟んだ両側において前記車体構成部材に前記バルクヘッドを接合する工程と、
前記仕切部材に設けられた開口部の近傍部または前記所定方向における前記仕切部材の端部に前記バルクヘッドを接合する工程とを有することを特徴とする車両の車体構造の製造方法。
【請求項1】
所定方向に連続して閉断面部を形成する1又は2以上の車体構成部材と、前記所定方向に延在して前記閉断面部の内部を仕切る仕切部材と、前記閉断面部内に配設されて前記車体構成部材に接合されたバルクヘッドとを有する車両の車体構造であって、
前記バルクヘッドは、前記閉断面部における前記仕切部材を挟んだ両側において前記車体構成部材に接合されるとともに、前記仕切部材に設けられた開口部の近傍部または前記所定方向における前記仕切部材の端部に接合されていることを特徴とする車両の車体構造。
【請求項2】
前記閉断面部は、少なくとも一対の接合部で接合された2枚の車体構成部材で構成され、
前記仕切部材の一部または全部は前記一対の接合部に跨って設けられ、
前記バルクヘッドは、前記2枚の車体構成部材のそれぞれに接合されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の車体構造。
【請求項3】
前記車両構成部材は、車両前後方向に延びるサイドシルを構成するサイドシルインナとサイドシルアウタレインとを含み、
前記仕切部材は、上下方向に延びるピラーを構成するピラーインナであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の車体構造。
【請求項4】
前記バルクヘッドと前記サイドシルインナとの接合部と、車幅方向に延びるクロスメンバと前記サイドシルインナとの接合部とは車両前後方向に重複して配設されていることを特徴とする請求項3に記載の車両の車体構造。
【請求項5】
前記車体構成部材と前記バルクヘッドとの接合部は、互いに当接した状態で結合された剛結合部と、減衰部材を介して結合された柔結合部とを有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両の車体構造。
【請求項6】
前記減衰部材は粘弾性部材であり、
その物性が、X軸に貯蔵弾性率を、Y軸に損失係数をとったX、Y座標系における座標(1、0.4)、(1、0.2)、(10、0.1)、(2000、0.1)、(10000、0.2)、(10000、0.4)で示される6点で囲まれたこれらの点を含む範囲内、又は損失係数0.4を超える範囲に属することを特徴とする請求項5に記載の車両の車体構造。
【請求項7】
前記バルクヘッドは、前記閉断面部の内部を前記所定方向に隔てる一対の隔壁部と、該一対の隔壁部を連結する連結部とを有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の車両の車体構造。
【請求項8】
前記仕切部材と前記バルクヘッドとの接合部は前記柔結合部を含むことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の車両の車体構造。
【請求項9】
所定方向に連続して閉断面部を形成する1又は2以上の車体構成部材と、前記所定方向に延在して前記閉断面部の内部を仕切る仕切部材と、前記閉断面部内に配設されて前記車体構成部材に接合されたバルクヘッドとを有する車両の車体構造を製造する方法であって、
前記閉断面部における前記仕切部材を挟んだ両側において前記車体構成部材に前記バルクヘッドを接合する工程と、
前記仕切部材に設けられた開口部の近傍部または前記所定方向における前記仕切部材の端部に前記バルクヘッドを接合する工程とを有することを特徴とする車両の車体構造の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−49378(P2013−49378A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189061(P2011−189061)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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