車両の運動制御装置
【課題】車両がカーブに進入する際において運転者が受ける安心感が考慮されて減速制御が実行される車両の運動制御装置を提供すること。
【解決手段】この装置では、運転者の安心感に影響を与える、カーブの曲率半径、登降坂勾配(上り・下り勾配)、ブラインドカーブ、及び勾配急減部分の4つの観点が考慮されて許容横加速度基準値Gyaが補正されて許容横加速度Gyoが演算・調整される。この調整された許容横加速度とカーブの曲率半径とに基づいてカーブを通過する際における適正車速が決定される。そして、所定の減速制御開始条件が成立すると、運転者の加減速操作の有無にかかわらず、減速制御が開始・実行されて、車速が上記適正車速まで減速される。このように、運転者の安心感が考慮されて許容横加速度(従って、適正車速)が決定されるから、運転者に違和感を与えることなく、減速制御が実行され得る。
【解決手段】この装置では、運転者の安心感に影響を与える、カーブの曲率半径、登降坂勾配(上り・下り勾配)、ブラインドカーブ、及び勾配急減部分の4つの観点が考慮されて許容横加速度基準値Gyaが補正されて許容横加速度Gyoが演算・調整される。この調整された許容横加速度とカーブの曲率半径とに基づいてカーブを通過する際における適正車速が決定される。そして、所定の減速制御開始条件が成立すると、運転者の加減速操作の有無にかかわらず、減速制御が開始・実行されて、車速が上記適正車速まで減速される。このように、運転者の安心感が考慮されて許容横加速度(従って、適正車速)が決定されるから、運転者に違和感を与えることなく、減速制御が実行され得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運動制御装置に関し、特に、走行中の道路の車両前方にあるカーブを車両が通過する際に車両の自動減速(減速制御)を行うものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の装置の一つとして特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載の装置では、車両がカーブを通過する際において車両が受ける横加速度の許容値(許容横加速度)が、車両の速度(車速)と路面摩擦係数とに基づいて決定される。カーブの曲率半径と許容横加速度とに基づいて、車両がカーブを通過する際における適正車速が決定される。そして、車速と、カーブに対する車両の相対位置とに基づいて、車両が上記適正車速でカーブを通過できるように車両を減速する減速制御が実行されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−230946号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、カーブが上り勾配を有する場合、重力の作用による車速の減少が期待され得るから、車両がカーブに進入する際において運転者が受ける安心感(以下、「運転者の安心感」ともいう。)は高い。一方、カーブが下り勾配を有する場合、重力の作用による車速の増加が予想され得るから、運転者の安心感は低い。
【0005】
また、カーブ上の起伏が大きいこと、或いは、カーブの標高に対してカーブ内側の標高が高いこと、又はカーブ内側に高さの高い建造物が存在すること等に起因して、カーブの見通しが悪い場合、運転者の安心感は低い。更には、カーブを同じ横加速度で通過する場合であっても、カーブの曲率半径が小さくて車速が低い場合、運転者の安心感は高く、一方、カーブの曲率半径が大きくて車速が高い場合、運転者の安心感は低い。以上のように、運転者の安心感は、カーブにおける道路の勾配、カーブの見通しの良否、カーブの屈曲度合い(カーブの通過車速の高低)等に起因して大きく左右され得る。
【0006】
他方、上述の減速制御において設定される上記適正車速(或いは、許容横加速度)は、運転者の安心感を考慮して決定されることが好ましいと考えられる。即ち、運転者の安心感が高いほど適正車速(或いは、許容横加速度)をより大きい値に設定することができる。これに対し、上記文献に記載の装置では、このような運転者の安心感が一切考慮されずに適正車速(或いは、許容横加速度)が決定されている。
【0007】
本発明は、係る問題に対処するためになされたものであり、その目的は、車両がカーブに進入する際において運転者が受ける安心感が考慮されて減速制御が実行される車両の運動制御装置(減速制御装置)を提供することにある。
【0008】
本発明に係る車両の運動制御装置は、車速取得手段と、曲率取得手段と、位置取得手段と、決定手段と、減速制御手段とを備えている。以下、これらの手段について順に説明する。以下、本明細書では、或る地点に対して車両に近い側、遠い側を、それぞれ「手前側」、「奥側」と称呼することもある。また、「カーブ開始地点の通過」を「カーブに進入」と称呼し、「カーブ終了地点の通過」を「カーブから退出」と称呼することもある。
【0009】
車速取得手段は、車輪速度センサの出力を利用する手法等、周知の手法の一つを利用して車両の速度(車速)を取得する。
【0010】
曲率取得手段は、前記車両が走行している道路の前記車両の前方にあるカーブの屈曲度合いを取得する。「カーブの屈曲度合い」が大きいとは、路面に平行な面内(水平方向、左右方向)におけるカーブの曲がりの程度が大きいことを意味し、例えば、曲率が大きいこと、曲率半径(=1/曲率)が小さいこと、最小曲率半径が小さいこと等を意味する。カーブの屈曲度合いは、例えば、前記車両に搭載されたナビゲーション装置に記憶された道路情報から取得され得る。
【0011】
位置取得手段は、前記カーブに対する前記車両の相対位置を取得する。この相対位置は、例えば、前記車両に搭載されたナビゲーション装置に記憶された道路情報と前記ナビゲーション装置に搭載されたグローバル・ポジショニング・システムから得られる車両の位置とから取得され得る。
【0012】
決定手段は、前記カーブの屈曲度合いに基づいて、前記車両が前記カーブを通過する際における適正車速を決定する。「適正車速」は、例えば、前記カーブの途中の地点である基準地点を前記車両が通過する際における適正車速である。「カーブの途中」とは、1つのカーブについてのカーブ開始地点とカーブ終了地点との間の地点である。
【0013】
前記基準地点は、例えば、前記カーブの進入側における緩和曲線区間の終了地点(一定曲率半径区間の開始地点)、又は前記終了地点に対して前記車両に近い側の地点に決定され得る。また、前記適正車速は、例えば、カーブにおける最小曲率半径が大きいほどより大きい値に設定され得る。
【0014】
減速制御手段は、前記車速と、前記相対位置とに基づいて、前記車両が前記適正車速で前記カーブを通過できるように前記車両の速度を減少させる減速制御を行う。減速制御は、例えば、所定の開始条件が成立した時点から開始され、前記車速が前記適正車速を含む所定範囲内に達したときに終了する。減速制御は、運転者の減速操作(制動操作)にかかわらず開始され得る。車両の減速は、例えば、車輪ブレーキ、駆動源の出力低減、変速機のシフトダウン(変速段を低い側へ移動、減速比の増大)等により達成され得る。
【0015】
本発明に係る車両の運動制御装置の特徴は、前記カーブにおける前記車両が走行する方向の道路の勾配を取得する勾配取得手段を備え、前記決定手段が、前記カーブの屈曲度合いに加えて、前記道路の勾配にも基づいて、前記適正車速を決定するように構成された点にある。
【0016】
ここで、前記決定手段は、前記カーブの屈曲度合いのみに基づいて決定される適正車速基準値を、前記道路の勾配に基づいて補正することで、前記適正車速を決定するように構成されてもよい。
【0017】
これによれば、カーブ進入時において運転者が受ける安心感を大きく左右する道路の勾配に基づいて前記適正車速が決定される。即ち、運転者の安心感が考慮されて適正車速が決定され、減速制御が実行され得る。
【0018】
この場合、前記決定手段は、前記勾配取得手段により取得された上り勾配(の程度)が大きいほど前記適正車速をより大きい値に決定するように、及び/又は前記勾配取得手段により取得された下り勾配(の程度)が大きいほど前記適正車速をより小さい値に決定するように構成されることが好適である。
【0019】
上述のように、カーブが上り勾配を有する場合、運転者の安心感が高いから、適正車速を高めに設定できる。一方、カーブが下り勾配を有する場合、運転者の安心感が低いから、適正車速を低めに設定することが好ましい。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、カーブにおける勾配(重力に基づく加減速作用)に起因する運転者の安心感の高低が適切に考慮されて適正車速が決定され得る。
【0020】
また、本発明に係る車両の運動制御装置の特徴は、前記運転者による前記カーブの見通しの悪さを表す指標を取得する指標取得手段を備え、前記決定手段が、前記カーブの屈曲度合いに加えて、前記指標にも基づいて、前記適正車速を決定するように構成された点にある。
【0021】
ここで、前記決定手段は、前記カーブの屈曲度合いのみに基づいて決定される適正車速基準値を、前記指標に基づいて補正することで、前記適正車速を決定するように構成されてもよい。
【0022】
これによれば、カーブ進入時において運転者が受ける安心感を大きく左右するカーブの見通しの悪さに基づいて前記適正車速が決定される。即ち、運転者の安心感が考慮されて適正車速が決定され、減速制御が実行され得る。
【0023】
この場合、前記決定手段は、前記指標により表される前記カーブの見通しの悪さの程度が大きいほど前記適正車速をより小さい値に決定するように構成されることが好適である。
【0024】
上述のように、カーブの見通しが悪い場合、運転者の安心感が低いから、適正車速を低めに設定することが好ましい。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、カーブの見通しの悪さに起因する運転者の安心感の低さが適切に考慮されて適正車速が決定され得る。
【0025】
具体的には、前記指標取得手段は、前記カーブの標高に対して前記カーブの内側の標高が所定値以上高い場合、又は前記カーブの内側に所定値以上の高さを有する建造物が存在する場合(即ち、ブラインドカーブの場合)において、前記指標として、前記カーブの長さ、及び/又は前記カーブの屈曲度合いを取得するように構成され、前記決定手段は、前記カーブの標高に対して前記カーブの内側の標高が前記所定値以上高い場合、又は前記カーブの内側に前記所定値以上の高さを有する建造物が存在する場合、前記カーブの長さが長いほど前記適正車速をより小さい値に決定するように、及び/又は前記カーブの屈曲度合いが大きいほど前記適正車速をより小さい値に決定するように構成され得る。
【0026】
ブラインドカーブに起因してカーブの見通しが悪い場合、カーブの長さ(例えば、カーブ開始地点とカーブ終了地点との間の距離)が長いほど、又は、カーブの屈曲度合いが大きい(例えば、最小曲率半径が小さい)ほど、運転者の安心感がより低くなる。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、ブラインドカーブに起因する運転者の安心感の低さが適切に考慮されて適正車速が決定され得る。
【0027】
また、前記指標取得手段は、前記カーブにおいて勾配が下り方向に所定角度以上変化する部分である勾配急減部分が存在する場合において、前記指標として、前記勾配急減部分の勾配の変化角度を取得するように構成され、前記決定手段は、前記勾配急減部分が存在する場合において、前記勾配急減部分の勾配の変化角度が大きいほど前記適正車速をより小さい値に決定するように構成され得る。
【0028】
カーブ上に上記勾配急減部分が存在すると、カーブの見通しが悪くなる。このように、上記勾配急減部分に起因してカーブの見通しが悪い場合、上記勾配急減部分の勾配の変化角度が大きいほど、運転者の安心感がより低くなる。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、上記勾配急減部分に起因する運転者の安心感の低さが適切に考慮されて適正車速が決定され得る。
【0029】
次に、説明した本発明に係る運動制御装置において、演算手段により、前記カーブを通過する際において前記車両が受ける横加速度の許容値である許容横加速度が演算されて、決定手段により、前記カーブの屈曲度合いと前記許容横加速度とに基づいて前記適正車速が決定される場合を考える。
【0030】
この場合、前記演算手段は、前記カーブの屈曲度合いに基づいて、前記許容横加速度を演算するように構成され得る。ここで、前記許容横加速度は、予め設定された許容横加速度基準値を、前記カーブの屈曲度合いに基づいて補正することで、演算されてもよい。これによれば、カーブ進入時において運転者が受ける安心感を大きく左右するカーブの屈曲度合いに基づいて前記適正車速が決定される。即ち、運転者の安心感が考慮されて許容横加速度(従って、適正車速)が決定され、減速制御が実行され得る。
【0031】
具体的には、この場合、前記演算手段は、前記カーブの屈曲度合いが大きい(例えば、最小曲率半径が小さい)ほど、前記許容横加速度をより大きい値に演算するように、及び/又は前記カーブの屈曲度合いが小さい(例えば、最小曲率半径が大きい)ほど、前記許容横加速度をより小さい値に演算するように構成され得る。或る横加速度を受けながらカーブを走行している場合、カーブの曲率半径が小さいほど車速が低くなる。車速が低いほど運転者の安心感が高くなる。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、上記カーブの屈曲度合いに起因する運転者の安心感の高低が適切に考慮されて許容横加速度(従って、適正車速)が決定され得る。
【0032】
また、前記演算手段は、前記道路の勾配に基づいて、前記許容横加速度を演算するように構成され得る。ここで、前記許容横加速度は、予め設定された許容横加速度基準値を、前記道路の勾配に基づいて補正することで、演算されてもよい。この場合、上り勾配(の程度)が大きいほど前記許容横加速度をより大きい値に演算するように、及び/又は下り勾配(の程度)が大きいほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように構成されることが好ましい。これによれば、上記と同様、カーブにおける勾配(重力に基づく加減速作用)に起因する運転者の安心感の高低が適切に考慮されて許容横加速度(従って、適正車速)が決定され得る。
【0033】
また、前記演算手段は、前記指標に基づいて、前記許容横加速度を演算するように構成され得る。ここで、前記許容横加速度は、予め設定された許容横加速度基準値を、前記指標に基づいて補正することで、演算されてもよい。この場合、前記指標により表される前記カーブの見通しの悪さの程度が大きいほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように構成されることが好ましい。これによれば、カーブの見通しの悪さに起因する運転者の安心感の低さが適切に考慮されて許容横加速度(従って、適正車速)が決定され得る。
【0034】
具体的には、前記演算手段は、前記カーブの標高に対して前記カーブの内側の標高が前記所定値以上高い場合、又は前記カーブの内側に所定値以上の高さを有する建造物が存在する場合(即ち、ブラインドカーブの場合)において、前記カーブの長さが長いほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように、及び/又は前記カーブの屈曲度合いが大きいほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように構成され得る。これによれば、ブラインドカーブに起因する運転者の安心感の低さが適切に考慮されて許容横加速度(従って、適正車速)が決定され得る。
【0035】
また、前記演算手段は、前記勾配急減部分が存在する場合において、前記勾配急減部分の勾配の変化角度が大きいほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように構成され得る。これによれば、上記勾配急減部分に起因する運転者の安心感の低さが適切に考慮されて許容横加速度(従って、適正車速)が決定され得る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の運動制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示した装置の電子制御ユニットが実行する、カーブ走行支援制御を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図3】車両の道路上の位置と車速との関係の一例を示したグラフである。
【図4】カーブの形状の一例を示した図である。
【図5】道路上の位置とカーブの曲率半径との関係を示したグラフである。
【図6】最小曲率半径及び許容横加速度と、適正車速との関係を示したグラフである。
【図7】減速制御の開始条件を説明するための図である。
【図8】減速制御に係わる機能ブロック図である。
【図9】図1に示した装置によりカーブ走行支援制御が実行された場合の一例を示した図である。
【図10】許容横加速度基準値に補正係数を乗じて許容横加速度が調整される場合における許容横加速度の演算に係わるブロック図である。
【図11】許容横加速度基準値に補正値を加算して許容横加速度が調整される場合における許容横加速度の演算に係わるブロック図である。
【図12】登降坂勾配が、車両前方の所定区間内の登降坂勾配の分布に基づいて演算される様子を示した図である。
【図13】下り勾配の場合においてその先の路面が平坦な場合や上り勾配の場合における図12に対応する図である。
【図14】上り勾配の場合においてその先の路面が平坦な場合や下り勾配の場合における図12に対応する図である。
【図15】ブラインドカーブを説明するための図である。
【図16】ブラインドカーブにおける見通しの悪さの程度を表す指標の設定に使用されるテーブルを示したグラフである。
【図17】勾配急減部分を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明による車両の運動制御装置(減速制御装置)の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0038】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る運動制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。本装置は、車両の動力源であるエンジンEGと、自動変速機TMと、ブレーキアクチュエータBRKと、電子制御ユニットECUと、ナビゲーション装置NAVとを備えている。
【0039】
エンジンEGは、例えば、内燃機関である。即ち、運転者によるアクセルペダル(加速操作部材)APの操作に応じてスロットルアクチュエータTHによりスロットル弁TVの開度が調整される。スロットル弁TVの開度に応じて調整される吸入空気量に比例した量の燃料が燃料噴射アクチュエータFI(インジェクタ)により噴射される。これにより、運転者によるアクセルペダルAPの操作に応じた出力トルクが得られるようになっている。
【0040】
自動変速機TMは、複数の変速段を有する多段自動変速機、或いは、変速段を有さない無段自動変速機である。自動変速機TMは、エンジンEGの運転状態、及びシフトレバー(変速操作部材)SFの位置に応じて、減速比(EG出力軸(=TM入力軸)の回転速度/TM出力軸の回転速度)を自動的に(運転者によるシフトレバーSFの操作によることなく)変更可能となっている。
【0041】
ブレーキアクチュエータBRKは、複数の電磁弁、液圧ポンプ、モータ等を備えた周知の構成を有している。ブレーキアクチュエータBRKは、非制御時では、運転者によるブレーキペダル(制動操作部材)BPの操作に応じた制動圧力(ブレーキ液圧)を車輪WH**のホイールシリンダWC**にそれぞれ供給し、制御時では、ブレーキペダルBPの操作(及びアクセルペダルAPの操作)とは独立してホイールシリンダWC**内の制動圧力を車輪毎に調整できるようになっている。
【0042】
なお、各種記号等の末尾に付された「**」は、各種記号等が何れの車輪に関するものであるかを示す「fl」,「fr」等の包括表記であり、「fl」は左前輪、「fr」は右前輪、「rl」は左後輪、「rr」は右後輪を示している。例えば、ホイールシリンダWC**は、左前輪ホイールシリンダWCfl, 右前輪ホイールシリンダWCfr, 左後輪ホイールシリンダWCrl, 右後輪ホイールシリンダWCrrを包括的に示している。
【0043】
本装置は、車輪WH**の車輪速度を検出する車輪速度センサWS**と、ホイールシリンダWC**内の制動圧力を検出する制動圧力センサPW**と、ステアリングホイールSWの(中立位置からの)回転角度を検出するステアリングホイール角度センサSAと、車体のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサYRと、車体前後方向の加速度(減速度)を検出する前後加速度センサGXと、車体横方向の加速度を検出する横加速度センサGYと、エンジンEGの出力軸の回転速度を検出するエンジン回転速度センサNEと、アクセルペダルAPの操作量を検出する加速操作量センサASと、ブレーキペダルBPの操作量を検出する制動操作量センサBSと、シフトレバーSFの位置を検出するシフト位置センサHSと、スロットル弁TVの開度を検出するスロットル弁開度センサTSを備えている。
【0044】
電子制御ユニットECUは、パワートレイン系及びシャシー系を電子制御するマイクロコンピュータである。電子制御ユニットECUは、上述の各種アクチュエータ、上述の各種センサ、及び自動変速機TMと、電気的に接続され、又はネットワークで通信可能となっている。電子制御ユニットECUは、互いに通信バスCBで接続された複数の制御ユニット(ECU1〜ECU3)から構成される。
【0045】
電子制御ユニットECU内のECU1は、車輪ブレーキ制御ユニットであり、車輪速度センサWS**、前後加速度センサGX、横加速度センサGY、ヨーレイトセンサYR等からの信号に基づいてブレーキアクチュエータBRKを制御することで、周知のアンチスキッド制御(ABS制御)、トラクション制御(TCS制御)、車両安定性制御(ESC制御)等の制動圧力制御(車輪ブレーキ制御)を実行するようになっている。
【0046】
電子制御ユニットECU内のECU2は、エンジン制御ユニットであり、加速操作量センサAS等からの信号に基づいてスロットルアクチュエータTH及び燃料噴射アクチュエータFIを制御することでエンジンEGの出力トルク制御(エンジン制御)を実行するようになっている。
【0047】
電子制御ユニットECU内のECU3は、自動変速機制御ユニットであり、シフト位置センサHS等からの信号に基づいて自動変速機TMを制御することで減速比制御(変速機制御)を実行するようになっている。
【0048】
ナビゲーション装置NAVは、ナビゲーション処理装置PRCを備えていて、ナビゲーション処理装置PRCは、車両位置検出手段(グローバル・ポジショニング・システム)GPS、ヨーレイトジャイロGYR、入力部INP、記憶部MAP、及び表示部(ディスプレー)MTRと電気的に接続されている。ナビゲーション装置NAVは、電子制御ユニットECUと、電気的に接続され、又は無線で通信可能となっている。
【0049】
車両位置検出手段GPSは、人工衛星からの測位信号を利用した周知の手法の一つにより車両の位置(緯度、経度等)を検出可能となっている。ヨーレイトジャイロGYRは、車体の角速度(ヨーレイト)を検出可能となっている。入力部INPは、運転者によるナビゲーション機能に係わる操作を入力するようになっている。記憶部MAPは、地図情報、道路情報等の各種情報を記憶している。
【0050】
ナビゲーション処理装置PRCは、車両位置検出手段GPS、ヨーレイトジャイロGYR、入力部INP、及び記憶部MAPからの信号を総合的に処理し、その処理結果(ナビゲーション機能に係わる情報)を表示部MTRに表示するようになっている。
【0051】
(カーブ走行支援制御)
以下、上記のように構成された本装置により実行されるカーブ走行支援制御について説明する。カーブ走行支援制御とは、減速制御と加速制限制御とから構成される。減速制御は、車両がカーブを適正に通過できる速度よりも高い車速をもってカーブに進入しようとしている場合において、車両がカーブを適正に通過できるように、運転者の加減速操作(AP,BPの操作)にかかわらず、車両を減速させる制御である。
【0052】
加速制限制御は、減速制御に続いて実行され、車速を所定期間に亘って維持した後に加速制限を徐々に解除していく制御である。車両の減速は、エンジンEGの出力低減、変速機TMのシフトダウン、及び、車輪ブレーキのうちの少なくとも1つを用いて達成され、加速制限は、エンジンEGの出力低減を用いて達成される。
【0053】
減速制御では、車両の速度(車速)Vx、車両前方直近のカーブの形状、及び、カーブと車両との相対位置(カーブに対する車両の位置、カーブと車両との距離)に基づいて減速を開始する地点が決定され、この地点にて減速が開始される。そして、車速Vxが適正となったときに減速が終了される。
【0054】
以下、図2にフローチャートにより示したルーチン、及び、図3に示した車両の道路上の位置と車速との関係を表す図を参照しながら、カーブ走行支援制御について詳述していく。図2に示したルーチンは、例えば、所定の演算周期毎に実行される。
【0055】
図4に示すように、一般的な道路では、1つのカーブは、カーブ開始地点(カーブ入口)からカーブ終了地点(カーブ出口)に向けて順に、進入緩和曲線区間、一定曲率半径区間、及び退出緩和曲線区間から構成されている。緩和曲線は、例えば、クロソイド曲線で構成される。緩和曲線区間が設けられているのは、運転者に急激なステアリングホイール操作を要求することなく、運転者がステアリングホイールを徐々に切り込み、その後徐々に切り戻すことで車両がカーブを円滑に通過できるようにするためである。
【0056】
従って、以下、車両が通過するカーブとして図4に示すものを想定しながら説明を続ける。本明細書では、或る地点に対して車両に近い側、遠い側を、それぞれ「手前側」、「奥側」と称呼することもある。また、「カーブ開始地点の通過」を「カーブに進入」と称呼し、「カーブ終了地点の通過」を「カーブから退出」と称呼することもある。
【0057】
先ず、ステップ205では、車両前方のカーブを認識するための処理が実行される。カーブの認識処理は、ナビゲーション装置NAV、及び図示しない画像認識装置の少なくとも一方によって行われる。例えば、車両がカーブから所定距離の範囲内に近づいた場合にカーブの存在が認識される。
【0058】
ステップ210では、カーブが存在したか否かが判定され、カーブの存在が認識されていない場合、本ルーチンを終了する。一方、カーブの存在が認識されていると(図3において地点(点N)Pcnを参照)、ステップ215以降の処理が実行される。
【0059】
ステップ215では、現在の車速Vxが取得され、ステップ220では、車両前方直近のカーブの形状、及びカーブ周辺の形状が取得され、ステップ225では、形状が取得されたカーブと車両との相対位置が取得される。これらの情報は、車両内のネットワークを通して取得することができる。
【0060】
「カーブの形状」には、カーブの曲率半径Rc、カーブにおける道路の上り・下り勾配、カーブ上の標高(起伏)等に関する情報が含まれる。「カーブ周辺」とは、例えば、カーブに対して内側の領域、外側の領域等を指す。「カーブ周辺の形状」には、カーブ周辺(特に、カーブ内側の領域)の標高等に関する情報が含まれる。これらの情報は、記憶部MAPに記憶されている上記地図情報に含まれている。
【0061】
上記地図情報には予め、カーブの開始地点、カーブ終了地点等の位置と、各位置における曲率半径が記憶されている。また、道路上の特定の複数の点(ノード点)の位置と、各位置における曲率半径がそれぞれ記憶されている。図5に示すように、これらの点を幾何学的に滑らかに繋いだ近似曲線に基づいてカーブの曲率半径を推定することができる。この手法については、特許第3378490号公報に詳細に記載されている。
【0062】
カーブと車両との相対位置Pcは、ナビゲーション装置NAVの車両位置検出手段GPS、及び、上記地図情報を利用して取得される。より具体的には、車両位置検出手段GPSにより、地球に固定された座標上において現在の車両の位置(緯度、経度等)が検出される。更に、車両位置検出手段GPSにより車両の初期位置が決定された後に、ヨーレイトジャイロGYR、加速度センサGX,GY、及び車輪速度センサWS**等から得られる情報に基づいて前記初期位置からの車両の相対位置を逐次更新していくことで現在の車両の位置を推定することができる。一方、上記地図情報には、道路の位置(経度、緯度)が記憶されている。従って、現在の車両の位置と道路の位置とを照合することで、カーブと車両との相対位置を取得することができる。
【0063】
また、カーブと車両との相対位置、及び、カーブの形状(カーブの曲率半径)は、車両に搭載されたCCDカメラの画像処理を利用することで取得することもできる。より具体的には、車載されたステレオカメラの画像に基づいて、道路上の白線、或いは道路端が検出される。そして、ステレオ画像における対応する位置のズレ量と、三角測量の原理とに基づいて画像全体における距離分布が演算され、この演算結果に基づいて、車両からカーブまでの距離(即ち、カーブと車両との相対距離)、及びカーブの曲率半径が求められる。この手法については、特許第3378490号公報に詳細に記載されている。
【0064】
ステップ230では、許容横加速度(カーブを通過する際において車両が受ける横加速度の許容値)Gyo又はGypが演算される。許容横加速度は、予め設定された許容横加速度基準値Gya(一定)を後述するように補正することで演算される。この演算の詳細については後述する。
【0065】
ステップ235では、カーブの曲率半径(最小曲率半径Rm)と許容横加速度とに基づいて、適正車速Vqが決定される(図3を参照)。適正車速Vqは、例えば、下記(1)式、又は(2)式に従って決定される。この場合、適正車速Vqは、図6に示したように設定される。
【0066】
Vq=√(Gyo・Rm) …(1)
Vq=√(Gyp・Rm) …(2)
【0067】
ステップ240では、基準地点Pcrが決定される。基準地点Pcrは、適正車速Vqを達成するために目標とされる地点である。基準地点Pcrは、例えば、カーブ内において一定曲率半径区間の開始地点(曲率半径が一定の区間において車両に最も近い地点)に選択され得る。図4では、この点は、一定曲率半径区間開始地点Cs(=進入緩和曲線区間の終了地点)に対応する。また、基準地点Pcrは、カーブ内において曲率半径が最小となる地点に選択され得る。
【0068】
なお、一定曲率半径区間開始地点Csとは、図5における地点Cs1(複数のノード点を幾何学的に滑らかに繋いだ近似曲線から得られる一定曲率半径区間の範囲内における最も手前側のノード点に対応する地点)であっても、図5における地点Cs2(前記近似曲線から得られる一定曲率半径区間の開始地点(手前側の端点))であってもよい。
【0069】
減速制御中における減速の遅れ(例えば、自動変速機TMのシフトダウンの遅れ等)を見込んで、基準地点Pcrは、カーブ内において一定曲率半径区間の開始地点Cs(=進入緩和曲線区間の終了地点)に対して所定距離だけ手前側の地点に設定することができる。これにより、上記地点情報等が誤差を含んでいることを見込んで、基準地点Pcrよりも手前にて、車両を適正車速Vqにまで早めに減速させることができる。
【0070】
ステップ245では、図3にA−B線で示すように、基準地点Pcrにおける適正車速Vqを起点として、予め設定された減速特性(例えば、減速度Gxi)で車両を減速した場合における目標車速特性Vtが演算される。ここで、減速特性は、予め設定された一定値とすることができる。また、運転者の加速・減速操作、カーブの曲率半径、適正車速、カーブの上り・下り勾配、及び、路面摩擦係数のうちの少なくとも1つに基づいて調整することができる。
【0071】
図3に示すように、目標車速特性Vtは、道路上の位置に対する車速の減少特性の目標であり、車速が、基準地点Pcrにて適正車速Vqとなり且つ基準地点Pcrから車両に近い側(手前側)に向けて離れるほどより大きくなる特性である。なお、図3では、減速特性が一定の場合が示されている。この場合、正確には、A−B線は上に凸の曲線となるが、ここでは、理解を容易にするために、A−B線が直線で記載されている。
【0072】
ステップ250では、減速制御の開始条件が成立したか否かが判定される(開始判定)。開始判定は、図7に示すように、カーブと車両との相対距離、即ち、基準地点Pcrと車両との距離Lv、及び車速Vxに基づいて行われる。Lv=0は基準地点Pcrを意味する。図7において、目標車速特性Vtの左上方の領域(微細なドットで示した領域)が、減速制御が実行される領域(減速制御領域)を表す。
【0073】
車両がカーブに接近するにつれて、距離Lvが減少するとともに車速Vxが運転者の運転状態に応じて推移していく。これに伴って、図7の座標平面上にて点(Lv,Vx)が移動していく。この点(Lv,Vx)が特性Vtを横切った場合、減速制御の開始条件が成立して、減速制御が開始される。この減速制御は、制御開始前における運転者の加減速操作に係わらず実行される。
【0074】
例えば、図7において、概ね一定の車速で走行しているとき(車速Vxa)、ブレーキベダル操作を行って減速しているとき(車速Vxb)、アクセルペダル操作を行って加速しているとき(車速Vxc)の何れの場合も、点(Lv,Vx)が特性Vtを横切ったときに減速制御が開始される(点Aa,Ab,Acを参照)。図3では、特性Vhを表す線と車速Vxの推移を表す線とが交わった地点(点B)Pcsにて減速制御が開始される。
【0075】
以上のように、現在の車速が、目標車速特性Vtにおける「基準地点に対する車両の現在の位置Lv」での車速を超えた場合に減速制御が開始される(減速制御の開始条件が成立する)。
【0076】
減速制御の開始条件が成立した場合、ステップ255にて、減速制御が開始・実行される。図8は、減速制御に係わる機能ブロック図である。図8に示すように、目標車速特性取得手段B1にて、目標車速特性Vtから得られる現在の車両位置に対応する目標車速Vxtが演算される。車速取得手段B2では、現在の車速Vxが取得される。
【0077】
減速制御量演算手段B3では、車速Vxと目標車速Vxtとの偏差ΔVx(=Vx−Vxt、図3を参照)に基づいて、減速制御量Gstが決定される。減速制御量Gstは、偏差ΔVxが負の場合は「0」に決定され、偏差ΔVxが正の場合はΔVxが大きいほどより大きい値に決定される。
【0078】
そして、この減速制御量Gstに基づいて、エンジン出力低減手段B4によるエンジン出力の低減(スロットル開度の低減、点火時期の遅角、及び燃料噴射量の低減のうちの少なくとも1つ)、変速機制御手段B5による「減速比」の増大(シフトダウン等)、及び車輪ブレーキ制御手段B6による車輪ブレーキによる制動トルクの付与(制動圧力の付与)の何れか1つ以上が実行される。これにより、車速Vxが、目標車速特性Vtに沿うように減少していき、適正車速Vqにまで減少させられる。
【0079】
この減速制御は、車速Vxが概ね適正車速Vqに達した場合に終了する。具体的には、図3に示すように、減少していく車速Vxが適正車速Vqを含む微小範囲Hnに入った地点(点G)で減速制御は終了される。
【0080】
減速制御が終了すると、ステップ260にて加速制限制御の開始が判定されて、ステップ265にて、加速制限制御が開始・実行される。即ち、車輪ブレーキの制御は完全に終了する(制動トルク、制動圧力がゼロにされる)一方で、加速が制限された状態(スロットル開度の制限)、及び変速機TMにおいてシフトダウンがなされた状態が、継続値(「値」は距離又は時間)Ksg(図3を参照)に渡って継続される。
【0081】
減速制御は、運転者の加減速操作とは独立して実行されるため、減速制御中に運転者がアクセルペダルAPを操作している場合がある。このような場合において減速制御終了直後にて加速制限がなされていないと、車両が急加速する場合(駆動輪に過大な加速スリップが発生する場合)がある。このため、所定の継続値Ksgに渡って加速制限制御が実行される。
【0082】
加速制限制御では、図3に示すように、先ず、所定期間(車速維持期間)に亘って加速が完全に制限される(点Gから点Dまで、減速制御終了地点から地点Pcaまで)。その後、所定期間(加速制限期間)に亘って加速の制限度合いが徐々に緩められて許可される加速度合い(加速度Gxo)が徐々に大きくなっていく(点Dから点Cまで、地点Pcaから地点Pcoまで)。そして加速制限期間が終了すると、加速制限が解除される(点C、地点Pco)。
【0083】
ここで、カーブ終了地点に向けて運転者が加速したい場合もあるから、加速制限の解除後も、所定値(「値」は距離又は時間)の間、変速機TMにおいてシフトダウンがなされた状態を維持(即ち、減速比を一定に維持)することができる。
【0084】
また、運転者の加速意思をより直接的に反映させる場合、加速制限期間内にて運転者が加速操作を行ったときに加速制限制御を直ちに終了することができる。以上、カーブ走行支援制御について説明した。
【0085】
図9は、本装置によりカーブ走行支援制御が実行された場合の一例を示している。車両が上述した減速制御の開始条件が成立する地点Pcsを通過すると、減速制御が開始される。これにより、スロットル開度の制限(上限値までは許容されるが上限値より大きい値とはならない)、変速機TMの減速比の増大(変速段をTrからTsへ変更するシフトダウン)、及び、車輪ブレーキによる制動トルク(制動圧力)の付与が開始される。
【0086】
減速制御によって車両は徐々に減速され、車速Vxが適正車速Vqと概ね一致した地点(基準地点Pcrの付近)で減速制御は終了される。これにより、車輪ブレーキの制動トルクが「0」となる一方で、これに続けて上述の加速制限制御が開始される。このため、車両が地点Pcaを通過するまでは、スロットルの開度制限(上限値=0)が設けられ、その後、制限が徐々に弱められて、車両が地点Pcoを通過した時点にて制限が完全に解除される。このとき、運転者の加速操作に備えて、変速機TMについては、車両が地点Pceを通過するまではシフトダウンの状態(変速段=Ts)がなおも維持される。しかしながら、運転者の加速操作が行われない場合、変速段をTsからTrへと変更するシフトアップが行われる。
【0087】
(許容横加速度の演算)
次に、図2のステップ230における許容横加速度の演算について図10、図11を参照しながら説明する。図10は、許容横加速度基準値Gyaに補正係数を乗じて許容横加速度Gyoが調整される場合(調整が行われないときには補正係数は「1」)を示し、図11は、基準値Gyaに補正値を加算して許容横加速度Gypが調整される場合(調整が行われないときには補正値は「0」)を示している。許容横加速度は、カーブの曲率半径、登降坂勾配(上り・下り勾配)、ブラインドカーブ、及び勾配急減部分の4つの観点から補正される。
【0088】
<カーブ曲率半径>
図10の演算部A1、図11の演算部A1’では、カーブの最小曲率半径Rmに基づいて、曲率半径係数Kha、曲率半径補正値Gyhaが演算される。これにより、Rmが小さいほどKha、Gyhaがより大きい値に決定される。この結果、Rmが小さいほど許容横加速度がより大きい値に決定される。これは以下の理由に基づく。即ち、カーブ走行中において横加速度が同じ場合、旋回半径(即ち、カーブの曲率半径)が小さいほど車速が低くなる。車速が低いほど運転者の安心感が高くなる。運転者の安心感が高いほど許容横加速度(従って、適正車速Vq)をより大きい値に設定することができる。以上より、Rmが小さいほど許容横加速度がより大きい値に決定され、Rmが大きいほど許容横加速度がより小さい値に決定される。
【0089】
<登降坂勾配>
図10の演算部A2、図11の演算部A2’では、登降坂勾配Udwに基づいて、登降坂勾配係数Ktk、登降坂勾配補正値Gytkが演算される。Udwは、登坂(上り勾配)の場合に正の値に、降坂(下り勾配)の場合に負の値に決定される。これにより、Udw(正の値)が大きいほどKtk、Gytkがより大きい値に決定され、Udw(負の値)が小さい(絶対値が大きい)ほどKtk、Gytkがより小さい値に決定される。この結果、Udw(正の値)が大きいほど許容横加速度がより大きい値に決定され、Udw(負の値)が小さい(絶対値が大きい)ほど許容横加速度がより小さい値に決定される。
【0090】
これは以下の理由に基づく。即ち、登坂の場合、重力の作用による車速の減少が期待され得るから、登坂勾配が急なほど運転者の安心感は高くなる。従って、登坂勾配が急なほど許容横加速度がより大きい値に決定される。一方、降坂の場合、重力の作用による車速の増加が予想され得るから、降坂勾配が急なほど運転者の安心感が低くなる。従って、降坂勾配が急なほど許容横加速度がより小さい値に決定される。
【0091】
ここで、図12に示すように、登降坂勾配Udwは、車両の真下の路面の勾配ではなく、車両前方の所定区間Dpr内の登降坂勾配に基づいて演算される。例えば、Udwは、区間Dpr内の路面の勾配分布の平均値に演算され得る。或いは、Udwは、区間Dpr内の路面の勾配分布において車両に近い位置ほどより大きい重み係数を用いて勾配に重み付けを施した値から得られる値に演算される。これにより、以下の作用・効果が得られる。
【0092】
図13に示すように、下り勾配の場合であっても、その先の路面が平坦な場合や上り勾配の場合には、下り勾配が継続する場合に比較して、運転者の安心感は高い。このような場合、下り勾配が継続する場合に比較して、登降坂勾配Udwがより大きい値に演算されて、許容横加速度がより大きい値に演算され得る。
【0093】
同様に、図14に示すように、上り勾配の場合であっても、その先の路面が平坦な場合や下り勾配の場合には、上り勾配が継続する場合に比較して、運転者の安心感は低い。このような場合、上り勾配が継続する場合に比較して、登降坂勾配Udwがより小さい値に演算されて、許容横加速度がより小さい値に演算され得る。このように、車両前方の登降坂勾配に変化がある場合においても、運転者の安心感の高低を考慮して適切な許容横加速度(従って、適正車速Vq)を設定することができる。
【0094】
<ブラインドカーブ>
カーブ内側に崖、建造物等の遮蔽物があることで先の(カーブ終了地点付近の)見通しが悪いカーブは、一般に、ブラインドカーブと呼ばれる。ブラインドカーブは、例えば、図15に示すように、カーブの標高Herに対するカーブ内側の標高Heiの差ΔHet(=Hei−Her)が所定値H1以上であること、又はカーブ内側に所定値H1以上の高さを有する建造物が存在すること、で検出され得る。
【0095】
このような遮蔽物に起因してカーブ前方の見通しが悪い場合、運転者の安心感が低下する。この場合、カーブの長さLcv(カーブ開始地点からカーブ終了地点までの距離)、又は、カーブにおける一定曲率半径区間の距離Lit(図4を参照)が長いほど、又は、カーブの最小曲率半径Rmが小さいほど、先の見通しが悪くて運転者の安心感がより低くなる。
【0096】
以上のことを考慮して、ブラインドカーブにおける見通しの悪さの程度を表す指標Jbcが導入される。Jbcは、図16に示したテーブルに従って決定され、Lcv(Lit)が長いほど、Rmが小さいほど(即ち、運転者の安心感が低いほど)、より大きい値(>0)に設定される。
【0097】
図10の演算部A3、図11の演算部A3’では、ブラインドカーブの場合(ΔHe≧H1)、Jbcに基づいて、ブラインドカーブ係数Kbc、ブラインドカーブ補正値Gybcが演算される。これにより、Jbcが大きいほどKbc、Gybcがより小さい値に決定される。この結果、カーブの奥側の見通しが悪くなるほど(従って、運転者の安心感が低下するほど)、許容横加速度がより小さい値に決定される。なお、ブラインドカーブでない場合、Kbc=1、Gybc=0に設定される。
【0098】
<勾配急減部分>
図17に示すように、車両前方についての運転者の上下方向の視野角の下端は、運転者の眼の位置と車両前端の上側角部の位置との関係で決定される。この視野角の下端に対応する線分と、路面に水平な線分とのなす角度をθdrと呼ぶ。図17に示すように、カーブにおいて、例えば、上り勾配(勾配θup(正の値))から下り勾配(勾配θdw(負の値))へと変化する部分であって、且つ、勾配の変化角度ΔUdw(=θup−θdw)がθdrよりも大きい部分(以下、「勾配急減部分」という。)が存在する場合、勾配急減部分の先のカーブの見通しが悪くなる。
【0099】
このように、勾配急減部分に起因してカーブの見通しが悪い場合、運転者の安心感が低下する。この場合、勾配急減部分の勾配の変化角度ΔUdwが大きいほど、先の見通しが悪くて運転者の安心感がより低くなる。
【0100】
以上のことを考慮して、図10の演算部A4、図11の演算部A4’では、勾配急減部分が存在する場合(ΔUdw>θdr)、ΔUdwに基づいて、勾配急減係数Kmt、勾配急減補正値Gymtが演算される。これにより、ΔUdw(>θdr)が大きいほどKmt、Gymtがより小さい値に決定される。この結果、勾配急減部分に起因してカーブの見通しが悪くなるほど(従って、運転者の安心感が低下するほど)、許容横加速度がより小さい値に決定される。なお、勾配急減部分が存在しない場合、Kmt=1、Gymt=0に設定される。
【0101】
以上、本発明の実施形態に係る運動制御装置によれば、運転者の安心感に影響を与える、カーブの曲率半径、登降坂勾配(上り・下り勾配)、ブラインドカーブ、及び勾配急減部分の4つの観点が考慮されて許容横加速度が演算される。この許容横加速度とカーブの曲率半径とに基づいて適正車速Vqが決定される(図6を参照)。そして、上述の減速制御の開始条件が成立すると、運転者の加減速操作の有無にかかわらず、減速制御が開始・実行されて、車速Vxが適正車速Vqまで減速される。
【0102】
このように、車両がカーブに進入する際において運転者の安心感が考慮されて許容横加速度(従って、適正車速Vq)が決定されるから、運転者に違和感を与えることなく、減速制御が実行され得る。
【0103】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、運転者の安心感が考慮されて演算された許容横加速度を使用して適正車速Vqが決定されているが、許容横加速度を使用することなく運転者の安心感を考慮して適正車速Vqを直接決定してもよい。
【0104】
この場合、例えば、カーブの曲率半径(最小曲率半径Rm)に基づいて適正車速の基準値(許容横加速度基準値Gyaに相当する値)を決定し、この適正車速の基準値を、図10に示した補正係数(特に、Ktk、Kbc、Kmt)、又は図11に示した補正値(特に、Gytk、Gybc、Gymt)で補正することで、適正車速Vqが決定され得る。
【0105】
また、上記実施形態においては、図10に示した4つの補正係数、又は図11に示した4つの補正値が考慮されて許容横加速度が演算されているが、図10に示した4つの補正係数、又は図11に示した4つの補正値のうちの何れか1つ、何れか2つ、或いは、何れか3つが考慮されて許容横加速度が演算されてもよい。
【0106】
また、カーブ内側に遮蔽物(崖、建造物等)がある地点(区間)をブラインドカーブ地点(区間)として地図情報に予め記憶しておき、記憶された地図情報に基づいて、ブラインドカーブ地点(区間)を通過する際に適正車速(或いは、許容横加速度)をより小さい値に決定(補正)してもよい。また、勾配急減部分に起因する先の見通しの悪い地点(区間)を勾配急減地点(区間)として地図情報に予め記憶しておき、記憶された地図情報に基づいて、勾配急減地点(区間)を通過する際に適正車速(或いは、許容横加速度)をより小さい値に決定(補正)してもよい。これらのように、見通しの悪い地点(区間)を予め地図情報に記憶しておくことで、見通しの悪さの程度の判定についての演算処理を省略し、演算処理を簡略化できる。
【0107】
加えて、上述したカーブ走行支援制御は、運転者の加減速操作とは独立して開始・実行されるようになっているが、運転者の減速操作があった場合にのみ開始・実行されるようにしてもよい。この「減速操作」は、加速操作量センサASにより検出されたアクセルペダル操作量Asが所定値以下(ゼロを含む)、及び制動操作量センサBSにより検出されたブレーキペダル操作量Bsが所定値以上(ゼロを含まない)の場合に「有」と判定される。このように、カーブ走行支援制御が運転者の減速操作があった場合にのみ開始・実行される場合、減速制御後の加速制限制御を省略することができる。
【符号の説明】
【0108】
BP…ブレーキペダル、AP…アクセルペダル、SF…シフトレバー、WS**…車輪速度センサ、PW**…制動圧力センサ、TS…スロットル弁開度センサ、HS…シフト位置センサ、TH…スロットルアクチュエータ、FI…燃料噴射アクチュエータ、BRK…ブレーキアクチュエータ、TM…自動変速機、EG…エンジン、ECU…電子制御ユニット、NAV…ナビゲーション装置、GPS…グローバル・ポジショニング・システム、MAP…記憶部
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運動制御装置に関し、特に、走行中の道路の車両前方にあるカーブを車両が通過する際に車両の自動減速(減速制御)を行うものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来より、この種の装置の一つとして特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載の装置では、車両がカーブを通過する際において車両が受ける横加速度の許容値(許容横加速度)が、車両の速度(車速)と路面摩擦係数とに基づいて決定される。カーブの曲率半径と許容横加速度とに基づいて、車両がカーブを通過する際における適正車速が決定される。そして、車速と、カーブに対する車両の相対位置とに基づいて、車両が上記適正車速でカーブを通過できるように車両を減速する減速制御が実行されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−230946号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、カーブが上り勾配を有する場合、重力の作用による車速の減少が期待され得るから、車両がカーブに進入する際において運転者が受ける安心感(以下、「運転者の安心感」ともいう。)は高い。一方、カーブが下り勾配を有する場合、重力の作用による車速の増加が予想され得るから、運転者の安心感は低い。
【0005】
また、カーブ上の起伏が大きいこと、或いは、カーブの標高に対してカーブ内側の標高が高いこと、又はカーブ内側に高さの高い建造物が存在すること等に起因して、カーブの見通しが悪い場合、運転者の安心感は低い。更には、カーブを同じ横加速度で通過する場合であっても、カーブの曲率半径が小さくて車速が低い場合、運転者の安心感は高く、一方、カーブの曲率半径が大きくて車速が高い場合、運転者の安心感は低い。以上のように、運転者の安心感は、カーブにおける道路の勾配、カーブの見通しの良否、カーブの屈曲度合い(カーブの通過車速の高低)等に起因して大きく左右され得る。
【0006】
他方、上述の減速制御において設定される上記適正車速(或いは、許容横加速度)は、運転者の安心感を考慮して決定されることが好ましいと考えられる。即ち、運転者の安心感が高いほど適正車速(或いは、許容横加速度)をより大きい値に設定することができる。これに対し、上記文献に記載の装置では、このような運転者の安心感が一切考慮されずに適正車速(或いは、許容横加速度)が決定されている。
【0007】
本発明は、係る問題に対処するためになされたものであり、その目的は、車両がカーブに進入する際において運転者が受ける安心感が考慮されて減速制御が実行される車両の運動制御装置(減速制御装置)を提供することにある。
【0008】
本発明に係る車両の運動制御装置は、車速取得手段と、曲率取得手段と、位置取得手段と、決定手段と、減速制御手段とを備えている。以下、これらの手段について順に説明する。以下、本明細書では、或る地点に対して車両に近い側、遠い側を、それぞれ「手前側」、「奥側」と称呼することもある。また、「カーブ開始地点の通過」を「カーブに進入」と称呼し、「カーブ終了地点の通過」を「カーブから退出」と称呼することもある。
【0009】
車速取得手段は、車輪速度センサの出力を利用する手法等、周知の手法の一つを利用して車両の速度(車速)を取得する。
【0010】
曲率取得手段は、前記車両が走行している道路の前記車両の前方にあるカーブの屈曲度合いを取得する。「カーブの屈曲度合い」が大きいとは、路面に平行な面内(水平方向、左右方向)におけるカーブの曲がりの程度が大きいことを意味し、例えば、曲率が大きいこと、曲率半径(=1/曲率)が小さいこと、最小曲率半径が小さいこと等を意味する。カーブの屈曲度合いは、例えば、前記車両に搭載されたナビゲーション装置に記憶された道路情報から取得され得る。
【0011】
位置取得手段は、前記カーブに対する前記車両の相対位置を取得する。この相対位置は、例えば、前記車両に搭載されたナビゲーション装置に記憶された道路情報と前記ナビゲーション装置に搭載されたグローバル・ポジショニング・システムから得られる車両の位置とから取得され得る。
【0012】
決定手段は、前記カーブの屈曲度合いに基づいて、前記車両が前記カーブを通過する際における適正車速を決定する。「適正車速」は、例えば、前記カーブの途中の地点である基準地点を前記車両が通過する際における適正車速である。「カーブの途中」とは、1つのカーブについてのカーブ開始地点とカーブ終了地点との間の地点である。
【0013】
前記基準地点は、例えば、前記カーブの進入側における緩和曲線区間の終了地点(一定曲率半径区間の開始地点)、又は前記終了地点に対して前記車両に近い側の地点に決定され得る。また、前記適正車速は、例えば、カーブにおける最小曲率半径が大きいほどより大きい値に設定され得る。
【0014】
減速制御手段は、前記車速と、前記相対位置とに基づいて、前記車両が前記適正車速で前記カーブを通過できるように前記車両の速度を減少させる減速制御を行う。減速制御は、例えば、所定の開始条件が成立した時点から開始され、前記車速が前記適正車速を含む所定範囲内に達したときに終了する。減速制御は、運転者の減速操作(制動操作)にかかわらず開始され得る。車両の減速は、例えば、車輪ブレーキ、駆動源の出力低減、変速機のシフトダウン(変速段を低い側へ移動、減速比の増大)等により達成され得る。
【0015】
本発明に係る車両の運動制御装置の特徴は、前記カーブにおける前記車両が走行する方向の道路の勾配を取得する勾配取得手段を備え、前記決定手段が、前記カーブの屈曲度合いに加えて、前記道路の勾配にも基づいて、前記適正車速を決定するように構成された点にある。
【0016】
ここで、前記決定手段は、前記カーブの屈曲度合いのみに基づいて決定される適正車速基準値を、前記道路の勾配に基づいて補正することで、前記適正車速を決定するように構成されてもよい。
【0017】
これによれば、カーブ進入時において運転者が受ける安心感を大きく左右する道路の勾配に基づいて前記適正車速が決定される。即ち、運転者の安心感が考慮されて適正車速が決定され、減速制御が実行され得る。
【0018】
この場合、前記決定手段は、前記勾配取得手段により取得された上り勾配(の程度)が大きいほど前記適正車速をより大きい値に決定するように、及び/又は前記勾配取得手段により取得された下り勾配(の程度)が大きいほど前記適正車速をより小さい値に決定するように構成されることが好適である。
【0019】
上述のように、カーブが上り勾配を有する場合、運転者の安心感が高いから、適正車速を高めに設定できる。一方、カーブが下り勾配を有する場合、運転者の安心感が低いから、適正車速を低めに設定することが好ましい。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、カーブにおける勾配(重力に基づく加減速作用)に起因する運転者の安心感の高低が適切に考慮されて適正車速が決定され得る。
【0020】
また、本発明に係る車両の運動制御装置の特徴は、前記運転者による前記カーブの見通しの悪さを表す指標を取得する指標取得手段を備え、前記決定手段が、前記カーブの屈曲度合いに加えて、前記指標にも基づいて、前記適正車速を決定するように構成された点にある。
【0021】
ここで、前記決定手段は、前記カーブの屈曲度合いのみに基づいて決定される適正車速基準値を、前記指標に基づいて補正することで、前記適正車速を決定するように構成されてもよい。
【0022】
これによれば、カーブ進入時において運転者が受ける安心感を大きく左右するカーブの見通しの悪さに基づいて前記適正車速が決定される。即ち、運転者の安心感が考慮されて適正車速が決定され、減速制御が実行され得る。
【0023】
この場合、前記決定手段は、前記指標により表される前記カーブの見通しの悪さの程度が大きいほど前記適正車速をより小さい値に決定するように構成されることが好適である。
【0024】
上述のように、カーブの見通しが悪い場合、運転者の安心感が低いから、適正車速を低めに設定することが好ましい。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、カーブの見通しの悪さに起因する運転者の安心感の低さが適切に考慮されて適正車速が決定され得る。
【0025】
具体的には、前記指標取得手段は、前記カーブの標高に対して前記カーブの内側の標高が所定値以上高い場合、又は前記カーブの内側に所定値以上の高さを有する建造物が存在する場合(即ち、ブラインドカーブの場合)において、前記指標として、前記カーブの長さ、及び/又は前記カーブの屈曲度合いを取得するように構成され、前記決定手段は、前記カーブの標高に対して前記カーブの内側の標高が前記所定値以上高い場合、又は前記カーブの内側に前記所定値以上の高さを有する建造物が存在する場合、前記カーブの長さが長いほど前記適正車速をより小さい値に決定するように、及び/又は前記カーブの屈曲度合いが大きいほど前記適正車速をより小さい値に決定するように構成され得る。
【0026】
ブラインドカーブに起因してカーブの見通しが悪い場合、カーブの長さ(例えば、カーブ開始地点とカーブ終了地点との間の距離)が長いほど、又は、カーブの屈曲度合いが大きい(例えば、最小曲率半径が小さい)ほど、運転者の安心感がより低くなる。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、ブラインドカーブに起因する運転者の安心感の低さが適切に考慮されて適正車速が決定され得る。
【0027】
また、前記指標取得手段は、前記カーブにおいて勾配が下り方向に所定角度以上変化する部分である勾配急減部分が存在する場合において、前記指標として、前記勾配急減部分の勾配の変化角度を取得するように構成され、前記決定手段は、前記勾配急減部分が存在する場合において、前記勾配急減部分の勾配の変化角度が大きいほど前記適正車速をより小さい値に決定するように構成され得る。
【0028】
カーブ上に上記勾配急減部分が存在すると、カーブの見通しが悪くなる。このように、上記勾配急減部分に起因してカーブの見通しが悪い場合、上記勾配急減部分の勾配の変化角度が大きいほど、運転者の安心感がより低くなる。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、上記勾配急減部分に起因する運転者の安心感の低さが適切に考慮されて適正車速が決定され得る。
【0029】
次に、説明した本発明に係る運動制御装置において、演算手段により、前記カーブを通過する際において前記車両が受ける横加速度の許容値である許容横加速度が演算されて、決定手段により、前記カーブの屈曲度合いと前記許容横加速度とに基づいて前記適正車速が決定される場合を考える。
【0030】
この場合、前記演算手段は、前記カーブの屈曲度合いに基づいて、前記許容横加速度を演算するように構成され得る。ここで、前記許容横加速度は、予め設定された許容横加速度基準値を、前記カーブの屈曲度合いに基づいて補正することで、演算されてもよい。これによれば、カーブ進入時において運転者が受ける安心感を大きく左右するカーブの屈曲度合いに基づいて前記適正車速が決定される。即ち、運転者の安心感が考慮されて許容横加速度(従って、適正車速)が決定され、減速制御が実行され得る。
【0031】
具体的には、この場合、前記演算手段は、前記カーブの屈曲度合いが大きい(例えば、最小曲率半径が小さい)ほど、前記許容横加速度をより大きい値に演算するように、及び/又は前記カーブの屈曲度合いが小さい(例えば、最小曲率半径が大きい)ほど、前記許容横加速度をより小さい値に演算するように構成され得る。或る横加速度を受けながらカーブを走行している場合、カーブの曲率半径が小さいほど車速が低くなる。車速が低いほど運転者の安心感が高くなる。上記構成は、係る知見に基づく。これによれば、上記カーブの屈曲度合いに起因する運転者の安心感の高低が適切に考慮されて許容横加速度(従って、適正車速)が決定され得る。
【0032】
また、前記演算手段は、前記道路の勾配に基づいて、前記許容横加速度を演算するように構成され得る。ここで、前記許容横加速度は、予め設定された許容横加速度基準値を、前記道路の勾配に基づいて補正することで、演算されてもよい。この場合、上り勾配(の程度)が大きいほど前記許容横加速度をより大きい値に演算するように、及び/又は下り勾配(の程度)が大きいほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように構成されることが好ましい。これによれば、上記と同様、カーブにおける勾配(重力に基づく加減速作用)に起因する運転者の安心感の高低が適切に考慮されて許容横加速度(従って、適正車速)が決定され得る。
【0033】
また、前記演算手段は、前記指標に基づいて、前記許容横加速度を演算するように構成され得る。ここで、前記許容横加速度は、予め設定された許容横加速度基準値を、前記指標に基づいて補正することで、演算されてもよい。この場合、前記指標により表される前記カーブの見通しの悪さの程度が大きいほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように構成されることが好ましい。これによれば、カーブの見通しの悪さに起因する運転者の安心感の低さが適切に考慮されて許容横加速度(従って、適正車速)が決定され得る。
【0034】
具体的には、前記演算手段は、前記カーブの標高に対して前記カーブの内側の標高が前記所定値以上高い場合、又は前記カーブの内側に所定値以上の高さを有する建造物が存在する場合(即ち、ブラインドカーブの場合)において、前記カーブの長さが長いほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように、及び/又は前記カーブの屈曲度合いが大きいほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように構成され得る。これによれば、ブラインドカーブに起因する運転者の安心感の低さが適切に考慮されて許容横加速度(従って、適正車速)が決定され得る。
【0035】
また、前記演算手段は、前記勾配急減部分が存在する場合において、前記勾配急減部分の勾配の変化角度が大きいほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように構成され得る。これによれば、上記勾配急減部分に起因する運転者の安心感の低さが適切に考慮されて許容横加速度(従って、適正車速)が決定され得る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の運動制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示した装置の電子制御ユニットが実行する、カーブ走行支援制御を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図3】車両の道路上の位置と車速との関係の一例を示したグラフである。
【図4】カーブの形状の一例を示した図である。
【図5】道路上の位置とカーブの曲率半径との関係を示したグラフである。
【図6】最小曲率半径及び許容横加速度と、適正車速との関係を示したグラフである。
【図7】減速制御の開始条件を説明するための図である。
【図8】減速制御に係わる機能ブロック図である。
【図9】図1に示した装置によりカーブ走行支援制御が実行された場合の一例を示した図である。
【図10】許容横加速度基準値に補正係数を乗じて許容横加速度が調整される場合における許容横加速度の演算に係わるブロック図である。
【図11】許容横加速度基準値に補正値を加算して許容横加速度が調整される場合における許容横加速度の演算に係わるブロック図である。
【図12】登降坂勾配が、車両前方の所定区間内の登降坂勾配の分布に基づいて演算される様子を示した図である。
【図13】下り勾配の場合においてその先の路面が平坦な場合や上り勾配の場合における図12に対応する図である。
【図14】上り勾配の場合においてその先の路面が平坦な場合や下り勾配の場合における図12に対応する図である。
【図15】ブラインドカーブを説明するための図である。
【図16】ブラインドカーブにおける見通しの悪さの程度を表す指標の設定に使用されるテーブルを示したグラフである。
【図17】勾配急減部分を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明による車両の運動制御装置(減速制御装置)の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0038】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る運動制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。本装置は、車両の動力源であるエンジンEGと、自動変速機TMと、ブレーキアクチュエータBRKと、電子制御ユニットECUと、ナビゲーション装置NAVとを備えている。
【0039】
エンジンEGは、例えば、内燃機関である。即ち、運転者によるアクセルペダル(加速操作部材)APの操作に応じてスロットルアクチュエータTHによりスロットル弁TVの開度が調整される。スロットル弁TVの開度に応じて調整される吸入空気量に比例した量の燃料が燃料噴射アクチュエータFI(インジェクタ)により噴射される。これにより、運転者によるアクセルペダルAPの操作に応じた出力トルクが得られるようになっている。
【0040】
自動変速機TMは、複数の変速段を有する多段自動変速機、或いは、変速段を有さない無段自動変速機である。自動変速機TMは、エンジンEGの運転状態、及びシフトレバー(変速操作部材)SFの位置に応じて、減速比(EG出力軸(=TM入力軸)の回転速度/TM出力軸の回転速度)を自動的に(運転者によるシフトレバーSFの操作によることなく)変更可能となっている。
【0041】
ブレーキアクチュエータBRKは、複数の電磁弁、液圧ポンプ、モータ等を備えた周知の構成を有している。ブレーキアクチュエータBRKは、非制御時では、運転者によるブレーキペダル(制動操作部材)BPの操作に応じた制動圧力(ブレーキ液圧)を車輪WH**のホイールシリンダWC**にそれぞれ供給し、制御時では、ブレーキペダルBPの操作(及びアクセルペダルAPの操作)とは独立してホイールシリンダWC**内の制動圧力を車輪毎に調整できるようになっている。
【0042】
なお、各種記号等の末尾に付された「**」は、各種記号等が何れの車輪に関するものであるかを示す「fl」,「fr」等の包括表記であり、「fl」は左前輪、「fr」は右前輪、「rl」は左後輪、「rr」は右後輪を示している。例えば、ホイールシリンダWC**は、左前輪ホイールシリンダWCfl, 右前輪ホイールシリンダWCfr, 左後輪ホイールシリンダWCrl, 右後輪ホイールシリンダWCrrを包括的に示している。
【0043】
本装置は、車輪WH**の車輪速度を検出する車輪速度センサWS**と、ホイールシリンダWC**内の制動圧力を検出する制動圧力センサPW**と、ステアリングホイールSWの(中立位置からの)回転角度を検出するステアリングホイール角度センサSAと、車体のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサYRと、車体前後方向の加速度(減速度)を検出する前後加速度センサGXと、車体横方向の加速度を検出する横加速度センサGYと、エンジンEGの出力軸の回転速度を検出するエンジン回転速度センサNEと、アクセルペダルAPの操作量を検出する加速操作量センサASと、ブレーキペダルBPの操作量を検出する制動操作量センサBSと、シフトレバーSFの位置を検出するシフト位置センサHSと、スロットル弁TVの開度を検出するスロットル弁開度センサTSを備えている。
【0044】
電子制御ユニットECUは、パワートレイン系及びシャシー系を電子制御するマイクロコンピュータである。電子制御ユニットECUは、上述の各種アクチュエータ、上述の各種センサ、及び自動変速機TMと、電気的に接続され、又はネットワークで通信可能となっている。電子制御ユニットECUは、互いに通信バスCBで接続された複数の制御ユニット(ECU1〜ECU3)から構成される。
【0045】
電子制御ユニットECU内のECU1は、車輪ブレーキ制御ユニットであり、車輪速度センサWS**、前後加速度センサGX、横加速度センサGY、ヨーレイトセンサYR等からの信号に基づいてブレーキアクチュエータBRKを制御することで、周知のアンチスキッド制御(ABS制御)、トラクション制御(TCS制御)、車両安定性制御(ESC制御)等の制動圧力制御(車輪ブレーキ制御)を実行するようになっている。
【0046】
電子制御ユニットECU内のECU2は、エンジン制御ユニットであり、加速操作量センサAS等からの信号に基づいてスロットルアクチュエータTH及び燃料噴射アクチュエータFIを制御することでエンジンEGの出力トルク制御(エンジン制御)を実行するようになっている。
【0047】
電子制御ユニットECU内のECU3は、自動変速機制御ユニットであり、シフト位置センサHS等からの信号に基づいて自動変速機TMを制御することで減速比制御(変速機制御)を実行するようになっている。
【0048】
ナビゲーション装置NAVは、ナビゲーション処理装置PRCを備えていて、ナビゲーション処理装置PRCは、車両位置検出手段(グローバル・ポジショニング・システム)GPS、ヨーレイトジャイロGYR、入力部INP、記憶部MAP、及び表示部(ディスプレー)MTRと電気的に接続されている。ナビゲーション装置NAVは、電子制御ユニットECUと、電気的に接続され、又は無線で通信可能となっている。
【0049】
車両位置検出手段GPSは、人工衛星からの測位信号を利用した周知の手法の一つにより車両の位置(緯度、経度等)を検出可能となっている。ヨーレイトジャイロGYRは、車体の角速度(ヨーレイト)を検出可能となっている。入力部INPは、運転者によるナビゲーション機能に係わる操作を入力するようになっている。記憶部MAPは、地図情報、道路情報等の各種情報を記憶している。
【0050】
ナビゲーション処理装置PRCは、車両位置検出手段GPS、ヨーレイトジャイロGYR、入力部INP、及び記憶部MAPからの信号を総合的に処理し、その処理結果(ナビゲーション機能に係わる情報)を表示部MTRに表示するようになっている。
【0051】
(カーブ走行支援制御)
以下、上記のように構成された本装置により実行されるカーブ走行支援制御について説明する。カーブ走行支援制御とは、減速制御と加速制限制御とから構成される。減速制御は、車両がカーブを適正に通過できる速度よりも高い車速をもってカーブに進入しようとしている場合において、車両がカーブを適正に通過できるように、運転者の加減速操作(AP,BPの操作)にかかわらず、車両を減速させる制御である。
【0052】
加速制限制御は、減速制御に続いて実行され、車速を所定期間に亘って維持した後に加速制限を徐々に解除していく制御である。車両の減速は、エンジンEGの出力低減、変速機TMのシフトダウン、及び、車輪ブレーキのうちの少なくとも1つを用いて達成され、加速制限は、エンジンEGの出力低減を用いて達成される。
【0053】
減速制御では、車両の速度(車速)Vx、車両前方直近のカーブの形状、及び、カーブと車両との相対位置(カーブに対する車両の位置、カーブと車両との距離)に基づいて減速を開始する地点が決定され、この地点にて減速が開始される。そして、車速Vxが適正となったときに減速が終了される。
【0054】
以下、図2にフローチャートにより示したルーチン、及び、図3に示した車両の道路上の位置と車速との関係を表す図を参照しながら、カーブ走行支援制御について詳述していく。図2に示したルーチンは、例えば、所定の演算周期毎に実行される。
【0055】
図4に示すように、一般的な道路では、1つのカーブは、カーブ開始地点(カーブ入口)からカーブ終了地点(カーブ出口)に向けて順に、進入緩和曲線区間、一定曲率半径区間、及び退出緩和曲線区間から構成されている。緩和曲線は、例えば、クロソイド曲線で構成される。緩和曲線区間が設けられているのは、運転者に急激なステアリングホイール操作を要求することなく、運転者がステアリングホイールを徐々に切り込み、その後徐々に切り戻すことで車両がカーブを円滑に通過できるようにするためである。
【0056】
従って、以下、車両が通過するカーブとして図4に示すものを想定しながら説明を続ける。本明細書では、或る地点に対して車両に近い側、遠い側を、それぞれ「手前側」、「奥側」と称呼することもある。また、「カーブ開始地点の通過」を「カーブに進入」と称呼し、「カーブ終了地点の通過」を「カーブから退出」と称呼することもある。
【0057】
先ず、ステップ205では、車両前方のカーブを認識するための処理が実行される。カーブの認識処理は、ナビゲーション装置NAV、及び図示しない画像認識装置の少なくとも一方によって行われる。例えば、車両がカーブから所定距離の範囲内に近づいた場合にカーブの存在が認識される。
【0058】
ステップ210では、カーブが存在したか否かが判定され、カーブの存在が認識されていない場合、本ルーチンを終了する。一方、カーブの存在が認識されていると(図3において地点(点N)Pcnを参照)、ステップ215以降の処理が実行される。
【0059】
ステップ215では、現在の車速Vxが取得され、ステップ220では、車両前方直近のカーブの形状、及びカーブ周辺の形状が取得され、ステップ225では、形状が取得されたカーブと車両との相対位置が取得される。これらの情報は、車両内のネットワークを通して取得することができる。
【0060】
「カーブの形状」には、カーブの曲率半径Rc、カーブにおける道路の上り・下り勾配、カーブ上の標高(起伏)等に関する情報が含まれる。「カーブ周辺」とは、例えば、カーブに対して内側の領域、外側の領域等を指す。「カーブ周辺の形状」には、カーブ周辺(特に、カーブ内側の領域)の標高等に関する情報が含まれる。これらの情報は、記憶部MAPに記憶されている上記地図情報に含まれている。
【0061】
上記地図情報には予め、カーブの開始地点、カーブ終了地点等の位置と、各位置における曲率半径が記憶されている。また、道路上の特定の複数の点(ノード点)の位置と、各位置における曲率半径がそれぞれ記憶されている。図5に示すように、これらの点を幾何学的に滑らかに繋いだ近似曲線に基づいてカーブの曲率半径を推定することができる。この手法については、特許第3378490号公報に詳細に記載されている。
【0062】
カーブと車両との相対位置Pcは、ナビゲーション装置NAVの車両位置検出手段GPS、及び、上記地図情報を利用して取得される。より具体的には、車両位置検出手段GPSにより、地球に固定された座標上において現在の車両の位置(緯度、経度等)が検出される。更に、車両位置検出手段GPSにより車両の初期位置が決定された後に、ヨーレイトジャイロGYR、加速度センサGX,GY、及び車輪速度センサWS**等から得られる情報に基づいて前記初期位置からの車両の相対位置を逐次更新していくことで現在の車両の位置を推定することができる。一方、上記地図情報には、道路の位置(経度、緯度)が記憶されている。従って、現在の車両の位置と道路の位置とを照合することで、カーブと車両との相対位置を取得することができる。
【0063】
また、カーブと車両との相対位置、及び、カーブの形状(カーブの曲率半径)は、車両に搭載されたCCDカメラの画像処理を利用することで取得することもできる。より具体的には、車載されたステレオカメラの画像に基づいて、道路上の白線、或いは道路端が検出される。そして、ステレオ画像における対応する位置のズレ量と、三角測量の原理とに基づいて画像全体における距離分布が演算され、この演算結果に基づいて、車両からカーブまでの距離(即ち、カーブと車両との相対距離)、及びカーブの曲率半径が求められる。この手法については、特許第3378490号公報に詳細に記載されている。
【0064】
ステップ230では、許容横加速度(カーブを通過する際において車両が受ける横加速度の許容値)Gyo又はGypが演算される。許容横加速度は、予め設定された許容横加速度基準値Gya(一定)を後述するように補正することで演算される。この演算の詳細については後述する。
【0065】
ステップ235では、カーブの曲率半径(最小曲率半径Rm)と許容横加速度とに基づいて、適正車速Vqが決定される(図3を参照)。適正車速Vqは、例えば、下記(1)式、又は(2)式に従って決定される。この場合、適正車速Vqは、図6に示したように設定される。
【0066】
Vq=√(Gyo・Rm) …(1)
Vq=√(Gyp・Rm) …(2)
【0067】
ステップ240では、基準地点Pcrが決定される。基準地点Pcrは、適正車速Vqを達成するために目標とされる地点である。基準地点Pcrは、例えば、カーブ内において一定曲率半径区間の開始地点(曲率半径が一定の区間において車両に最も近い地点)に選択され得る。図4では、この点は、一定曲率半径区間開始地点Cs(=進入緩和曲線区間の終了地点)に対応する。また、基準地点Pcrは、カーブ内において曲率半径が最小となる地点に選択され得る。
【0068】
なお、一定曲率半径区間開始地点Csとは、図5における地点Cs1(複数のノード点を幾何学的に滑らかに繋いだ近似曲線から得られる一定曲率半径区間の範囲内における最も手前側のノード点に対応する地点)であっても、図5における地点Cs2(前記近似曲線から得られる一定曲率半径区間の開始地点(手前側の端点))であってもよい。
【0069】
減速制御中における減速の遅れ(例えば、自動変速機TMのシフトダウンの遅れ等)を見込んで、基準地点Pcrは、カーブ内において一定曲率半径区間の開始地点Cs(=進入緩和曲線区間の終了地点)に対して所定距離だけ手前側の地点に設定することができる。これにより、上記地点情報等が誤差を含んでいることを見込んで、基準地点Pcrよりも手前にて、車両を適正車速Vqにまで早めに減速させることができる。
【0070】
ステップ245では、図3にA−B線で示すように、基準地点Pcrにおける適正車速Vqを起点として、予め設定された減速特性(例えば、減速度Gxi)で車両を減速した場合における目標車速特性Vtが演算される。ここで、減速特性は、予め設定された一定値とすることができる。また、運転者の加速・減速操作、カーブの曲率半径、適正車速、カーブの上り・下り勾配、及び、路面摩擦係数のうちの少なくとも1つに基づいて調整することができる。
【0071】
図3に示すように、目標車速特性Vtは、道路上の位置に対する車速の減少特性の目標であり、車速が、基準地点Pcrにて適正車速Vqとなり且つ基準地点Pcrから車両に近い側(手前側)に向けて離れるほどより大きくなる特性である。なお、図3では、減速特性が一定の場合が示されている。この場合、正確には、A−B線は上に凸の曲線となるが、ここでは、理解を容易にするために、A−B線が直線で記載されている。
【0072】
ステップ250では、減速制御の開始条件が成立したか否かが判定される(開始判定)。開始判定は、図7に示すように、カーブと車両との相対距離、即ち、基準地点Pcrと車両との距離Lv、及び車速Vxに基づいて行われる。Lv=0は基準地点Pcrを意味する。図7において、目標車速特性Vtの左上方の領域(微細なドットで示した領域)が、減速制御が実行される領域(減速制御領域)を表す。
【0073】
車両がカーブに接近するにつれて、距離Lvが減少するとともに車速Vxが運転者の運転状態に応じて推移していく。これに伴って、図7の座標平面上にて点(Lv,Vx)が移動していく。この点(Lv,Vx)が特性Vtを横切った場合、減速制御の開始条件が成立して、減速制御が開始される。この減速制御は、制御開始前における運転者の加減速操作に係わらず実行される。
【0074】
例えば、図7において、概ね一定の車速で走行しているとき(車速Vxa)、ブレーキベダル操作を行って減速しているとき(車速Vxb)、アクセルペダル操作を行って加速しているとき(車速Vxc)の何れの場合も、点(Lv,Vx)が特性Vtを横切ったときに減速制御が開始される(点Aa,Ab,Acを参照)。図3では、特性Vhを表す線と車速Vxの推移を表す線とが交わった地点(点B)Pcsにて減速制御が開始される。
【0075】
以上のように、現在の車速が、目標車速特性Vtにおける「基準地点に対する車両の現在の位置Lv」での車速を超えた場合に減速制御が開始される(減速制御の開始条件が成立する)。
【0076】
減速制御の開始条件が成立した場合、ステップ255にて、減速制御が開始・実行される。図8は、減速制御に係わる機能ブロック図である。図8に示すように、目標車速特性取得手段B1にて、目標車速特性Vtから得られる現在の車両位置に対応する目標車速Vxtが演算される。車速取得手段B2では、現在の車速Vxが取得される。
【0077】
減速制御量演算手段B3では、車速Vxと目標車速Vxtとの偏差ΔVx(=Vx−Vxt、図3を参照)に基づいて、減速制御量Gstが決定される。減速制御量Gstは、偏差ΔVxが負の場合は「0」に決定され、偏差ΔVxが正の場合はΔVxが大きいほどより大きい値に決定される。
【0078】
そして、この減速制御量Gstに基づいて、エンジン出力低減手段B4によるエンジン出力の低減(スロットル開度の低減、点火時期の遅角、及び燃料噴射量の低減のうちの少なくとも1つ)、変速機制御手段B5による「減速比」の増大(シフトダウン等)、及び車輪ブレーキ制御手段B6による車輪ブレーキによる制動トルクの付与(制動圧力の付与)の何れか1つ以上が実行される。これにより、車速Vxが、目標車速特性Vtに沿うように減少していき、適正車速Vqにまで減少させられる。
【0079】
この減速制御は、車速Vxが概ね適正車速Vqに達した場合に終了する。具体的には、図3に示すように、減少していく車速Vxが適正車速Vqを含む微小範囲Hnに入った地点(点G)で減速制御は終了される。
【0080】
減速制御が終了すると、ステップ260にて加速制限制御の開始が判定されて、ステップ265にて、加速制限制御が開始・実行される。即ち、車輪ブレーキの制御は完全に終了する(制動トルク、制動圧力がゼロにされる)一方で、加速が制限された状態(スロットル開度の制限)、及び変速機TMにおいてシフトダウンがなされた状態が、継続値(「値」は距離又は時間)Ksg(図3を参照)に渡って継続される。
【0081】
減速制御は、運転者の加減速操作とは独立して実行されるため、減速制御中に運転者がアクセルペダルAPを操作している場合がある。このような場合において減速制御終了直後にて加速制限がなされていないと、車両が急加速する場合(駆動輪に過大な加速スリップが発生する場合)がある。このため、所定の継続値Ksgに渡って加速制限制御が実行される。
【0082】
加速制限制御では、図3に示すように、先ず、所定期間(車速維持期間)に亘って加速が完全に制限される(点Gから点Dまで、減速制御終了地点から地点Pcaまで)。その後、所定期間(加速制限期間)に亘って加速の制限度合いが徐々に緩められて許可される加速度合い(加速度Gxo)が徐々に大きくなっていく(点Dから点Cまで、地点Pcaから地点Pcoまで)。そして加速制限期間が終了すると、加速制限が解除される(点C、地点Pco)。
【0083】
ここで、カーブ終了地点に向けて運転者が加速したい場合もあるから、加速制限の解除後も、所定値(「値」は距離又は時間)の間、変速機TMにおいてシフトダウンがなされた状態を維持(即ち、減速比を一定に維持)することができる。
【0084】
また、運転者の加速意思をより直接的に反映させる場合、加速制限期間内にて運転者が加速操作を行ったときに加速制限制御を直ちに終了することができる。以上、カーブ走行支援制御について説明した。
【0085】
図9は、本装置によりカーブ走行支援制御が実行された場合の一例を示している。車両が上述した減速制御の開始条件が成立する地点Pcsを通過すると、減速制御が開始される。これにより、スロットル開度の制限(上限値までは許容されるが上限値より大きい値とはならない)、変速機TMの減速比の増大(変速段をTrからTsへ変更するシフトダウン)、及び、車輪ブレーキによる制動トルク(制動圧力)の付与が開始される。
【0086】
減速制御によって車両は徐々に減速され、車速Vxが適正車速Vqと概ね一致した地点(基準地点Pcrの付近)で減速制御は終了される。これにより、車輪ブレーキの制動トルクが「0」となる一方で、これに続けて上述の加速制限制御が開始される。このため、車両が地点Pcaを通過するまでは、スロットルの開度制限(上限値=0)が設けられ、その後、制限が徐々に弱められて、車両が地点Pcoを通過した時点にて制限が完全に解除される。このとき、運転者の加速操作に備えて、変速機TMについては、車両が地点Pceを通過するまではシフトダウンの状態(変速段=Ts)がなおも維持される。しかしながら、運転者の加速操作が行われない場合、変速段をTsからTrへと変更するシフトアップが行われる。
【0087】
(許容横加速度の演算)
次に、図2のステップ230における許容横加速度の演算について図10、図11を参照しながら説明する。図10は、許容横加速度基準値Gyaに補正係数を乗じて許容横加速度Gyoが調整される場合(調整が行われないときには補正係数は「1」)を示し、図11は、基準値Gyaに補正値を加算して許容横加速度Gypが調整される場合(調整が行われないときには補正値は「0」)を示している。許容横加速度は、カーブの曲率半径、登降坂勾配(上り・下り勾配)、ブラインドカーブ、及び勾配急減部分の4つの観点から補正される。
【0088】
<カーブ曲率半径>
図10の演算部A1、図11の演算部A1’では、カーブの最小曲率半径Rmに基づいて、曲率半径係数Kha、曲率半径補正値Gyhaが演算される。これにより、Rmが小さいほどKha、Gyhaがより大きい値に決定される。この結果、Rmが小さいほど許容横加速度がより大きい値に決定される。これは以下の理由に基づく。即ち、カーブ走行中において横加速度が同じ場合、旋回半径(即ち、カーブの曲率半径)が小さいほど車速が低くなる。車速が低いほど運転者の安心感が高くなる。運転者の安心感が高いほど許容横加速度(従って、適正車速Vq)をより大きい値に設定することができる。以上より、Rmが小さいほど許容横加速度がより大きい値に決定され、Rmが大きいほど許容横加速度がより小さい値に決定される。
【0089】
<登降坂勾配>
図10の演算部A2、図11の演算部A2’では、登降坂勾配Udwに基づいて、登降坂勾配係数Ktk、登降坂勾配補正値Gytkが演算される。Udwは、登坂(上り勾配)の場合に正の値に、降坂(下り勾配)の場合に負の値に決定される。これにより、Udw(正の値)が大きいほどKtk、Gytkがより大きい値に決定され、Udw(負の値)が小さい(絶対値が大きい)ほどKtk、Gytkがより小さい値に決定される。この結果、Udw(正の値)が大きいほど許容横加速度がより大きい値に決定され、Udw(負の値)が小さい(絶対値が大きい)ほど許容横加速度がより小さい値に決定される。
【0090】
これは以下の理由に基づく。即ち、登坂の場合、重力の作用による車速の減少が期待され得るから、登坂勾配が急なほど運転者の安心感は高くなる。従って、登坂勾配が急なほど許容横加速度がより大きい値に決定される。一方、降坂の場合、重力の作用による車速の増加が予想され得るから、降坂勾配が急なほど運転者の安心感が低くなる。従って、降坂勾配が急なほど許容横加速度がより小さい値に決定される。
【0091】
ここで、図12に示すように、登降坂勾配Udwは、車両の真下の路面の勾配ではなく、車両前方の所定区間Dpr内の登降坂勾配に基づいて演算される。例えば、Udwは、区間Dpr内の路面の勾配分布の平均値に演算され得る。或いは、Udwは、区間Dpr内の路面の勾配分布において車両に近い位置ほどより大きい重み係数を用いて勾配に重み付けを施した値から得られる値に演算される。これにより、以下の作用・効果が得られる。
【0092】
図13に示すように、下り勾配の場合であっても、その先の路面が平坦な場合や上り勾配の場合には、下り勾配が継続する場合に比較して、運転者の安心感は高い。このような場合、下り勾配が継続する場合に比較して、登降坂勾配Udwがより大きい値に演算されて、許容横加速度がより大きい値に演算され得る。
【0093】
同様に、図14に示すように、上り勾配の場合であっても、その先の路面が平坦な場合や下り勾配の場合には、上り勾配が継続する場合に比較して、運転者の安心感は低い。このような場合、上り勾配が継続する場合に比較して、登降坂勾配Udwがより小さい値に演算されて、許容横加速度がより小さい値に演算され得る。このように、車両前方の登降坂勾配に変化がある場合においても、運転者の安心感の高低を考慮して適切な許容横加速度(従って、適正車速Vq)を設定することができる。
【0094】
<ブラインドカーブ>
カーブ内側に崖、建造物等の遮蔽物があることで先の(カーブ終了地点付近の)見通しが悪いカーブは、一般に、ブラインドカーブと呼ばれる。ブラインドカーブは、例えば、図15に示すように、カーブの標高Herに対するカーブ内側の標高Heiの差ΔHet(=Hei−Her)が所定値H1以上であること、又はカーブ内側に所定値H1以上の高さを有する建造物が存在すること、で検出され得る。
【0095】
このような遮蔽物に起因してカーブ前方の見通しが悪い場合、運転者の安心感が低下する。この場合、カーブの長さLcv(カーブ開始地点からカーブ終了地点までの距離)、又は、カーブにおける一定曲率半径区間の距離Lit(図4を参照)が長いほど、又は、カーブの最小曲率半径Rmが小さいほど、先の見通しが悪くて運転者の安心感がより低くなる。
【0096】
以上のことを考慮して、ブラインドカーブにおける見通しの悪さの程度を表す指標Jbcが導入される。Jbcは、図16に示したテーブルに従って決定され、Lcv(Lit)が長いほど、Rmが小さいほど(即ち、運転者の安心感が低いほど)、より大きい値(>0)に設定される。
【0097】
図10の演算部A3、図11の演算部A3’では、ブラインドカーブの場合(ΔHe≧H1)、Jbcに基づいて、ブラインドカーブ係数Kbc、ブラインドカーブ補正値Gybcが演算される。これにより、Jbcが大きいほどKbc、Gybcがより小さい値に決定される。この結果、カーブの奥側の見通しが悪くなるほど(従って、運転者の安心感が低下するほど)、許容横加速度がより小さい値に決定される。なお、ブラインドカーブでない場合、Kbc=1、Gybc=0に設定される。
【0098】
<勾配急減部分>
図17に示すように、車両前方についての運転者の上下方向の視野角の下端は、運転者の眼の位置と車両前端の上側角部の位置との関係で決定される。この視野角の下端に対応する線分と、路面に水平な線分とのなす角度をθdrと呼ぶ。図17に示すように、カーブにおいて、例えば、上り勾配(勾配θup(正の値))から下り勾配(勾配θdw(負の値))へと変化する部分であって、且つ、勾配の変化角度ΔUdw(=θup−θdw)がθdrよりも大きい部分(以下、「勾配急減部分」という。)が存在する場合、勾配急減部分の先のカーブの見通しが悪くなる。
【0099】
このように、勾配急減部分に起因してカーブの見通しが悪い場合、運転者の安心感が低下する。この場合、勾配急減部分の勾配の変化角度ΔUdwが大きいほど、先の見通しが悪くて運転者の安心感がより低くなる。
【0100】
以上のことを考慮して、図10の演算部A4、図11の演算部A4’では、勾配急減部分が存在する場合(ΔUdw>θdr)、ΔUdwに基づいて、勾配急減係数Kmt、勾配急減補正値Gymtが演算される。これにより、ΔUdw(>θdr)が大きいほどKmt、Gymtがより小さい値に決定される。この結果、勾配急減部分に起因してカーブの見通しが悪くなるほど(従って、運転者の安心感が低下するほど)、許容横加速度がより小さい値に決定される。なお、勾配急減部分が存在しない場合、Kmt=1、Gymt=0に設定される。
【0101】
以上、本発明の実施形態に係る運動制御装置によれば、運転者の安心感に影響を与える、カーブの曲率半径、登降坂勾配(上り・下り勾配)、ブラインドカーブ、及び勾配急減部分の4つの観点が考慮されて許容横加速度が演算される。この許容横加速度とカーブの曲率半径とに基づいて適正車速Vqが決定される(図6を参照)。そして、上述の減速制御の開始条件が成立すると、運転者の加減速操作の有無にかかわらず、減速制御が開始・実行されて、車速Vxが適正車速Vqまで減速される。
【0102】
このように、車両がカーブに進入する際において運転者の安心感が考慮されて許容横加速度(従って、適正車速Vq)が決定されるから、運転者に違和感を与えることなく、減速制御が実行され得る。
【0103】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、運転者の安心感が考慮されて演算された許容横加速度を使用して適正車速Vqが決定されているが、許容横加速度を使用することなく運転者の安心感を考慮して適正車速Vqを直接決定してもよい。
【0104】
この場合、例えば、カーブの曲率半径(最小曲率半径Rm)に基づいて適正車速の基準値(許容横加速度基準値Gyaに相当する値)を決定し、この適正車速の基準値を、図10に示した補正係数(特に、Ktk、Kbc、Kmt)、又は図11に示した補正値(特に、Gytk、Gybc、Gymt)で補正することで、適正車速Vqが決定され得る。
【0105】
また、上記実施形態においては、図10に示した4つの補正係数、又は図11に示した4つの補正値が考慮されて許容横加速度が演算されているが、図10に示した4つの補正係数、又は図11に示した4つの補正値のうちの何れか1つ、何れか2つ、或いは、何れか3つが考慮されて許容横加速度が演算されてもよい。
【0106】
また、カーブ内側に遮蔽物(崖、建造物等)がある地点(区間)をブラインドカーブ地点(区間)として地図情報に予め記憶しておき、記憶された地図情報に基づいて、ブラインドカーブ地点(区間)を通過する際に適正車速(或いは、許容横加速度)をより小さい値に決定(補正)してもよい。また、勾配急減部分に起因する先の見通しの悪い地点(区間)を勾配急減地点(区間)として地図情報に予め記憶しておき、記憶された地図情報に基づいて、勾配急減地点(区間)を通過する際に適正車速(或いは、許容横加速度)をより小さい値に決定(補正)してもよい。これらのように、見通しの悪い地点(区間)を予め地図情報に記憶しておくことで、見通しの悪さの程度の判定についての演算処理を省略し、演算処理を簡略化できる。
【0107】
加えて、上述したカーブ走行支援制御は、運転者の加減速操作とは独立して開始・実行されるようになっているが、運転者の減速操作があった場合にのみ開始・実行されるようにしてもよい。この「減速操作」は、加速操作量センサASにより検出されたアクセルペダル操作量Asが所定値以下(ゼロを含む)、及び制動操作量センサBSにより検出されたブレーキペダル操作量Bsが所定値以上(ゼロを含まない)の場合に「有」と判定される。このように、カーブ走行支援制御が運転者の減速操作があった場合にのみ開始・実行される場合、減速制御後の加速制限制御を省略することができる。
【符号の説明】
【0108】
BP…ブレーキペダル、AP…アクセルペダル、SF…シフトレバー、WS**…車輪速度センサ、PW**…制動圧力センサ、TS…スロットル弁開度センサ、HS…シフト位置センサ、TH…スロットルアクチュエータ、FI…燃料噴射アクチュエータ、BRK…ブレーキアクチュエータ、TM…自動変速機、EG…エンジン、ECU…電子制御ユニット、NAV…ナビゲーション装置、GPS…グローバル・ポジショニング・システム、MAP…記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の速度を取得する車速取得手段と、
前記車両が走行している道路における前記車両の前方にあるカーブの屈曲度合いを取得する曲率取得手段と、
前記カーブに対する前記車両の相対位置を取得する位置取得手段と、
前記カーブの屈曲度合いに基づいて、前記車両が前記カーブを通過する際における適正車速を決定する決定手段と、
前記車速と、前記相対位置とに基づいて、前記車両が前記適正車速で前記カーブを通過できるように前記車両の速度を減少させる減速制御を行う減速制御手段と、
を備えた車両の運動制御装置であって、
前記運転者による前記カーブの見通しの悪さを表す指標を取得する指標取得手段を備え、
前記決定手段は、
前記カーブの屈曲度合いに加えて、前記指標にも基づいて、前記適正車速を決定するように構成された車両の運動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の運動制御装置において、
前記決定手段は、
前記指標により表される前記カーブの見通しの悪さの程度が大きいほど前記適正車速をより小さい値に決定するように構成された車両の運動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の運動制御装置において、
前記指標取得手段は、
前記カーブの標高に対して前記カーブの内側の標高が所定値以上高い場合、又は前記カーブの内側に所定値以上の高さを有する建造物が存在する場合において、前記指標として、前記カーブの長さ、及び/又は前記カーブの屈曲度合いを取得するように構成され、
前記決定手段は、
前記カーブの標高に対して前記カーブの内側の標高が前記所定値以上高い場合、又は前記カーブの内側に所定値以上の高さを有する建造物が存在する場合において、前記カーブの長さが長いほど前記適正車速をより小さい値に決定するように、及び/又は前記カーブの屈曲度合いが大きいほど前記適正車速をより小さい値に決定するように構成された車両の運動制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車両の運動制御装置において、
前記指標取得手段は、
前記カーブにおいて勾配が下り方向に所定角度以上変化する部分である勾配急減部分が存在する場合において、前記指標として、前記勾配急減部分の勾配の変化角度を取得するように構成され、
前記決定手段は、
前記勾配急減部分が存在する場合において、前記勾配急減部分の勾配の変化角度が大きいほど前記適正車速をより小さい値に決定するように構成された車両の運動制御装置。
【請求項5】
車両の速度を取得する車速取得手段と、
前記車両が走行している道路における前記車両の前方にあるカーブの屈曲度合いを取得する曲率取得手段と、
前記カーブに対する前記車両の相対位置を取得する位置取得手段と、
前記カーブを通過する際において前記車両が受ける横加速度の許容値である許容横加速度を演算する演算手段と
前記カーブの屈曲度合いと前記許容横加速度とに基づいて、前記車両が前記カーブを通過する際における適正車速を決定する決定手段と、
前記車速と、前記相対位置とに基づいて、前記車両が前記適正車速で前記カーブを通過できるように前記車両の速度を減少させる減速制御を行う減速制御手段と、
を備えた車両の運動制御装置であって、
前記運転者による前記カーブの見通しの悪さを表す指標を取得する指標取得手段を備え、
前記演算手段は、
前記指標に基づいて、前記許容横加速度を演算するように構成された車両の運動制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両の運動制御装置において、
前記演算手段は、
前記指標により表される前記カーブの見通しの悪さの程度が大きいほど前記許容横加速度をより小さい値に決定するように構成された車両の運動制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両の運動制御装置において、
前記指標取得手段は、
前記カーブの標高に対して前記カーブの内側の標高が所定値以上高い場合、又は前記カーブの内側に所定値以上の高さを有する建造物が存在する場合において、前記指標として、前記カーブの長さ、及び/又は前記カーブの屈曲度合いを取得するように構成され、
前記演算手段は、
前記カーブの標高に対して前記カーブの内側の標高が前記所定値以上高い場合、又は前記カーブの内側に所定値以上の高さを有する建造物が存在する場合において、前記カーブの長さが長いほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように、及び/又は前記カーブの屈曲度合いが大きいほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように構成された車両の運動制御装置。
【請求項8】
請求項6に記載の車両の運動制御装置において、
前記指標取得手段は、
前記カーブにおいて勾配が下り方向に所定角度以上変化する部分である勾配急減部分が存在する場合において、前記指標として、前記勾配急減部分の勾配の変化角度を取得するように構成され、
前記演算手段は、
前記勾配急減部分が存在する場合において、前記勾配急減部分の勾配の変化角度が大きいほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように構成された車両の運動制御装置。
【請求項1】
車両の速度を取得する車速取得手段と、
前記車両が走行している道路における前記車両の前方にあるカーブの屈曲度合いを取得する曲率取得手段と、
前記カーブに対する前記車両の相対位置を取得する位置取得手段と、
前記カーブの屈曲度合いに基づいて、前記車両が前記カーブを通過する際における適正車速を決定する決定手段と、
前記車速と、前記相対位置とに基づいて、前記車両が前記適正車速で前記カーブを通過できるように前記車両の速度を減少させる減速制御を行う減速制御手段と、
を備えた車両の運動制御装置であって、
前記運転者による前記カーブの見通しの悪さを表す指標を取得する指標取得手段を備え、
前記決定手段は、
前記カーブの屈曲度合いに加えて、前記指標にも基づいて、前記適正車速を決定するように構成された車両の運動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の運動制御装置において、
前記決定手段は、
前記指標により表される前記カーブの見通しの悪さの程度が大きいほど前記適正車速をより小さい値に決定するように構成された車両の運動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の運動制御装置において、
前記指標取得手段は、
前記カーブの標高に対して前記カーブの内側の標高が所定値以上高い場合、又は前記カーブの内側に所定値以上の高さを有する建造物が存在する場合において、前記指標として、前記カーブの長さ、及び/又は前記カーブの屈曲度合いを取得するように構成され、
前記決定手段は、
前記カーブの標高に対して前記カーブの内側の標高が前記所定値以上高い場合、又は前記カーブの内側に所定値以上の高さを有する建造物が存在する場合において、前記カーブの長さが長いほど前記適正車速をより小さい値に決定するように、及び/又は前記カーブの屈曲度合いが大きいほど前記適正車速をより小さい値に決定するように構成された車両の運動制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車両の運動制御装置において、
前記指標取得手段は、
前記カーブにおいて勾配が下り方向に所定角度以上変化する部分である勾配急減部分が存在する場合において、前記指標として、前記勾配急減部分の勾配の変化角度を取得するように構成され、
前記決定手段は、
前記勾配急減部分が存在する場合において、前記勾配急減部分の勾配の変化角度が大きいほど前記適正車速をより小さい値に決定するように構成された車両の運動制御装置。
【請求項5】
車両の速度を取得する車速取得手段と、
前記車両が走行している道路における前記車両の前方にあるカーブの屈曲度合いを取得する曲率取得手段と、
前記カーブに対する前記車両の相対位置を取得する位置取得手段と、
前記カーブを通過する際において前記車両が受ける横加速度の許容値である許容横加速度を演算する演算手段と
前記カーブの屈曲度合いと前記許容横加速度とに基づいて、前記車両が前記カーブを通過する際における適正車速を決定する決定手段と、
前記車速と、前記相対位置とに基づいて、前記車両が前記適正車速で前記カーブを通過できるように前記車両の速度を減少させる減速制御を行う減速制御手段と、
を備えた車両の運動制御装置であって、
前記運転者による前記カーブの見通しの悪さを表す指標を取得する指標取得手段を備え、
前記演算手段は、
前記指標に基づいて、前記許容横加速度を演算するように構成された車両の運動制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両の運動制御装置において、
前記演算手段は、
前記指標により表される前記カーブの見通しの悪さの程度が大きいほど前記許容横加速度をより小さい値に決定するように構成された車両の運動制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車両の運動制御装置において、
前記指標取得手段は、
前記カーブの標高に対して前記カーブの内側の標高が所定値以上高い場合、又は前記カーブの内側に所定値以上の高さを有する建造物が存在する場合において、前記指標として、前記カーブの長さ、及び/又は前記カーブの屈曲度合いを取得するように構成され、
前記演算手段は、
前記カーブの標高に対して前記カーブの内側の標高が前記所定値以上高い場合、又は前記カーブの内側に所定値以上の高さを有する建造物が存在する場合において、前記カーブの長さが長いほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように、及び/又は前記カーブの屈曲度合いが大きいほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように構成された車両の運動制御装置。
【請求項8】
請求項6に記載の車両の運動制御装置において、
前記指標取得手段は、
前記カーブにおいて勾配が下り方向に所定角度以上変化する部分である勾配急減部分が存在する場合において、前記指標として、前記勾配急減部分の勾配の変化角度を取得するように構成され、
前記演算手段は、
前記勾配急減部分が存在する場合において、前記勾配急減部分の勾配の変化角度が大きいほど前記許容横加速度をより小さい値に演算するように構成された車両の運動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−236597(P2012−236597A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−158301(P2012−158301)
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【分割の表示】特願2008−21627(P2008−21627)の分割
【原出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【分割の表示】特願2008−21627(P2008−21627)の分割
【原出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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