説明

車両の隔壁構造

【課題】 リヤシートのシートバック背面を隔壁とする複数列シート仕様の車体構造と、専用の隔壁部材を設ける1列シート仕様の車体構造との共用化は容易でない。
【解決手段】 複数列シート仕様におけるリヤシートの骨格をなすシートバックフレームを、車両の居室Pと荷物室Lとを仕切る隔壁部材14の基体とし、この基体の周りをフロント面、リヤ面を有する被装体14Fr、14Rrで被装することにより、これを、複数列シート仕様の車体構造を1列シート仕様の車体構造に転用する際の隔壁部材としている。樹脂からパネル形状に成形された被装体14Fr、14Rrが、シートバックフレームに架設されたワイヤに係合可能な切欠き付係合片をその内面に一体的に有して成形され、係合片をワイヤに係合して被装体が基体に被装されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、居室と荷物室とを同一空間に有するタイプの車体形状での居室と荷物室とを仕切るための車両の隔壁構造、特に1列シート仕様に適用可能な車両の隔壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
荷物室としてのトランクルームを居室の背後に居室と区別することなく設けた車両の車体形状の一つとして、たとえばハッチバックが知られている。このハッチバックタイプの車両では、荷物室(トランクルーム)、居室が隔てられることなく同一空間内にあるため、2列シート等の複数列シート仕様においては、通常、ベンチシートからなるリヤシートのシートバック背面が居室と荷物室とを区分する隔壁として機能するように構成されている。
【0003】
ここで、ハッチバックタイプのシート仕様として、シートをフロントシート(運転席、助手席)の1列のみとした1列シート仕様(2シータ仕様とも称する)が、ラインナップの一つとして複数列シート仕様の他に別途要求されることがある。一般に、フロントシートは、1人掛けシートを個別に並置してなり、また、運転席、助手席は間隔をおいて配置されるため、このフロントシートのシートバック背面自体を居室と荷物室との隔壁として十分に機能させることは容易でない。
【0004】
そこで、このような場合に十分に機能し得る隔壁構造として、たとえば特開2009−078705号公報に開示の構成が知られている。この特開2009−078705号公報においては、居室と荷物室とを仕切る専用の隔壁部材が、車体のサイドメンバ間で車幅方向に沿って架設されたクロスメンバと、サイドメンバの外側に配設された左右一対のストラットタワーの上端部とを連結することによって車体に取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−078705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開2009−078705号公報記載のように、専用の隔壁部材を設けた公知の構成においては、車体自体が隔壁部材を取り付けるに適した構造およびレイアウトをなしている。つまり、リヤシートのシートバック背面を隔壁とする複数列シート仕様の車体構造と、専用の隔壁部材を設ける1列シート仕様の車体構造とは、必要とされるレイアウトおよび構造が異なるため、車体構造の共用化が容易でない。
【0007】
本発明は、車体側の構造変更、レイアウト変更を招くことなく、1列シート仕様の車体構造と複数列シート仕様の車体構造との共用化を可能とした車両の隔壁構造の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数列シート仕様におけるリヤシートのシートバックが隔壁部材としての機能性を十分に有している点に着目し、リヤシートのシートバックフレームを隔壁部材の基体として利用することで、複数列シート仕様の車体構造を、その車体構造に何ら変更を加えることなく1列シート仕様に転用可能とした構成となっている。
【0009】
すなわち、請求項1に係る本発明によれば、居室と荷物室とが同一空間にあるタイプの車体形状での居室と荷物室とを仕切るための車両の隔壁構造であり、複数列シート仕様におけるリヤシートの骨格をなすシートバックフレームを車両の居室と荷物室とを仕切る隔壁部材の基体とし、この基体の周りをフロント面、リヤ面を有する被装体で被装することにより、これを、複数列シート仕様の車体構造を1列シート仕様の車体構造に転用する際の隔壁部材としている。
請求項2に係る本発明によれば、被装体は樹脂からパネル形状に成形されている。
請求項3に係る本発明によれば、被装体は、シートバックフレームに架設されたワイヤに係合可能な切欠き付係合片をその内面に一体的に有して成形されている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る本発明では、複数列シート仕様においてもともと装備されているリヤシートのシートバックフレームを1列シート仕様における隔壁部材の基体としているため、シートバックフレーム(基体)を被装体で被装するだけで隔壁部材が構成できる。そして、1列シート仕様の際には複数列シート仕様におけるリヤシートのヒンジ機構、ロック機構などが隔壁部材にそのまま利用できるため、車体側の構造変更、レイアウト変更を伴うことなく、複数列シート仕様の車体構造を1列シート仕様の車体構造に転用することができる。従って、車体側の構造変更、レイアウトの変更を招くことなく、1列シート仕様の車体構造と複数列シート仕様の車体構造との共用化が可能となる。しかも、基体となるシートバックフレームは略矩形の枠体にワイヤを縦横に架設した剛性の高い部材であるため、隔壁部材は剛性の高いものになるとともに、リヤシートのシートバックフレームをそのままの形態で残すことから、1列シート仕様においてもその剛性は車体の剛性強化に十分に寄与する。
請求項2に係る本発明では、被装体が樹脂からなるため、シートバックフレームに対応したパネル形状に容易かつ安価さらには軽量に成形できる。
請求項3に係る本発明では、内面の係合片をシートバックフレームのワイヤに係合することにより被装体がシートバックフレームに被装され、隔壁部材が工具を必要とすることなく迅速に組み立てられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】1列シート仕様における本発明の一実施例に係る車両の隔壁構造の概略斜視図を示す。
【図2】隔壁部材の基体となるリヤシートのシートバックフレームの平面図を示す。
【図3】(A)(B)は隔壁部材のフロント側、リヤ側の被装体の平面図を示す。(C)は(A)のX−X線に沿った断面に対応する被装体の部分断面図であり、ボルト止めによる一例を示す。
【図4】複数列シート(2列シート)仕様における車両の隔壁構造の概略斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
複数列シート仕様におけるリヤシートの骨格をなすシートバックフレームを車両の居室と荷物室とを仕切る隔壁部材の基体とし、この基体の周りをフロント面、リヤ面を有する被装体で被装することにより、これを、複数列シート仕様の車体構造を1列シート仕様の車体構造に転用する際の隔壁部材としている。樹脂からパネル形状に成形された被装体は、シートバックフレームに架設されたワイヤに係合可能な切欠き付係合片をその内面に一体的に有して成形され、係合片をワイヤに係合して被装体が基体に被装される。
【実施例】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について詳細に説明する。
図1は1列シート仕様における本発明の一実施例に係る車両の隔壁構造の概略斜視図、図2は隔壁部材の基体となるリヤシートのシートバックフレームの平面図、図3(A)(B)は隔壁部材のフロント側、リヤ側の被装体の平面図、(C)は(A)のX−X線に沿った断面に対応する被装体の部分断面図、図4は複数列シート(2列シート)仕様における車両の隔壁構造の概略斜視図を示す。
【0014】
一般的な複数列シート仕様、たとえば2列シート仕様のハッチバックタイプの車両においては、たとえば、図4に示すように、第1列のシート(フロントシート)111の後方にベンチシートからなる第2列のシート(セカンドシート、リヤシート)112が装備されている。そして、リヤシート112の背面にシートバックパネル114を設けて隔壁部材とすることにより、同一空間としてなるシート111、112の配置された空間(居室)Pと荷物を収納する空間(荷物室)Lとの間を区分している。
【0015】
ここで、本発明においては、この2列シート仕様の車体構造を利用して、1列シート仕様における隔壁部材をフロントシートの後方に設置している。
【0016】
すなわち、リヤシート112からシートクッション112Cが除かれるとともに、シートバック112Bから、このシートバックの骨格をなすシートバックフレーム(図2参照)12Fを残して内部のシートクッションが除かれる。そして、残されたリヤシートのシートバックフレーム12Fを隔壁部材の基体とし、その基体の周りをフロント面(Fr側の面)、リヤ面(Rr側の面)を有する被装体14Fr、14Rr(図3(A)(B)参照)で被装して、1列シート仕様における隔壁部材14を形成している。
【0017】
2列シート仕様においてもともと装備されているリヤシートのシートバックフレーム12Fを1列シート仕様における隔壁部材の基体としており、シートバックフレーム(基体)のフロント面、リヤ面を被装体14Fr、14Rrで被装するだけで隔壁部材14が構成できる。そして、1列シート仕様の際には、2列シート仕様におけるリヤシートのヒンジ機構13h(図1参照)やロック機構13rがシートバックフレーム12F、ひいては隔壁部材14の連結部材あるいは支持部材としてそのまま利用できるため、車体側の構造変更、レイアウト変更を伴うことなく、2列シート仕様の車体構造を1列シート仕様の車体構造に転用できる。従って、車体側の構造変更、レイアウトの変更を招くことなく、1列シート仕様の車体構造と複数列シート仕様の車体構造との共用化が可能となる。
【0018】
しかも、通常、図2に示すように、リヤシートのシートバックフレーム12Fは、略矩形の枠体12Fa間にワイヤ12Fbを縦横に架設した構成とされ、剛性の高い部材であり、剛性の高いシートバックフレームを基体としているため、剛性の高い隔壁部材14が得られるとともに、リヤシートのシートバックフレームをそのままの形態で残すことから、1列シート仕様においてもその剛性は車体の剛性強化に十分に寄与する。
【0019】
隔壁部材14がセカンドシートのシートバックフレーム12Fを転用して構成され、隔壁部材が第1列シート(フロントシート)から離反された位置(リヤシート、セカンドシートのあった位置)に設けられるため、ドライバーなどのフロントシート11の着座者が隔壁部材から十分に隔離され、着座者の安全性が確保される。
【0020】
被装体14Fr、14Rrは、たとえば、ポリプロピレン(PP)などの樹脂から射出成形でパネル形状に成形され、図1、図3(A)に示すようにフロント面の被装体14Frは左右に凹みを持つ凹凸形状に、図3(B)に示すようにリヤ面の被装体14Rrは凹凸のない略平面形状に形成される。もちろん、凹凸形状、略平面形状の面形状は一例であり、被装体14Fr、14Rrの面形状がこれに限定されないことはいうまでもない。
【0021】
被装体14Fr、14Rrは樹脂による成形に限定されず、たとえば、鋼板やアルミニウムを素材とする鋳造品などのパネルから形成してもよい。しかしながら、被装体14Fr、14Rrを樹脂から成形すれば、シートバックフレームの形状や隔壁部材に要求される形状に対応した形状の被装体が容易かつ安価、さらには軽量に成形できる。
【0022】
隔壁部材14の基体をシートバックフレーム12Fから転用しており、ワイヤ12Fbがシートバックフレームの枠体12Fa間で縦横に架設されているから、被装体14Fr、14Rrはワイヤ12Fbを利用してシートバックフレームに組み込まれて被装されることが好ましい。
【0023】
図3(A)にX−X線に沿った断面で示すように、たとえば、被装体14Fr、14Rrは切欠き付の係合片14aをその内面に一体的に多数有して成形されている。係合片14aは肉薄の切欠き付樹脂体であるため、シートバックフレームのワイヤ12Fbに係合可能な弾性片として機能する。そのため、ワイヤ12Fbに整列させて係合片14aを押し込めば、係合片がワイヤに係合されて、被装体14Fr、14Rrがシートバックフレーム(基体)12Fに組み込まれ、被装される。
【0024】
被装体14Fr、14Rrの内面の係合片14aを図3(A)(B)に示すように、左右上下に略対称な位置に設ければ、被装体が左右上下に均等な把持力で被装されるが、係合片の配置はこれに限定されず、係合片を非対称に配置してもよい。
【0025】
また、シートバックフレームのワイヤ12Fbへの係合片14aの係合による被装体の組み込みは、係合片をワイヤに整列させて押し込むだけで被装体14Fr、14Rrを基体(シートバックフレーム12F)に組み込むことができ、基体への被装体の被装が迅速に行え、隔壁部材14が工具なしで迅速に組み立てられる。
【0026】
フロント面、リヤ面のいずれか一方のみに被装体14を組み込んだ状態では、当然ながら、組み込まれた被装体の内側は露出し目視できるから、係合でなく、その被装体をワイヤ12Fbにボルト止めによって取り付けることもできる。
【0027】
図3(C)は、図3(A)のX−X線に沿った断面に対応する被装体の部分断面図であり、ボルト止めによる一例を示す。たとえば、被装体内面に突部14bが形成され、この突部は2つのボルト穴14b1と、ボルト穴の中間にワイヤ12Fbのための係止溝14b2とを有して形成されている。そして、中央が円弧形の帯状の押圧片14cでワイヤ12Fbを係止溝14b2に押圧しながらボルト14dをボルト穴14b1に螺合すれば、ワイヤに被装体14はボルト止めされ、被装体が係合によるよりも強固に基体(シートバックフレーム12F)に取り付けられる。
【0028】
被装体14Fr、14Rrを基体(シートバックフレーム12F)に強固に取り付けられるとはいえ、係合片14aによる係合のすべてをボルト止めとする必要はなく、係合片による係合の一部だけをボルト止めで置き換えればよい。
荷物室Lの荷物が隔壁部材14に当たったとき、その衝撃でリヤ面の被装体14Frよりもフロント面の被装体14Rrの方がワイヤ12Fbから離脱しやすいから、フロント面の被装体14Frにおいて係合片14aによる係合の一部をボルト止めに置き換えるとよい。
【0029】
上記のように本発明によれば、2列シート仕様においてもともと装備されているリヤシートのシートバックフレームを、1列シート仕様における隔壁部材の基体として転用しているため、シートバックフレーム(基体)を被装体で被装するだけで隔壁部材が構成できる。そして、1列シート仕様の際には、2列シート仕様におけるリヤシートのシートバックフレームのヒンジ機構、ロック機構などがそのまま利用できるため、車体側の構造変更、レイアウト変更を伴うことなく、2列シート仕様の車体構造を1列シート仕様の車体構造に転用することができる。したがって、車体側の構造変更、レイアウトの変更を招くことなく、1列シート仕様の車体構造と複数列シート仕様の車体構造との共用化が可能となる。しかも、基体となるシートバックフレームは略矩形の枠体にワイヤを縦横に架設した剛性の高い部材であるため、隔壁部材は剛性の高いものになるとともに、リヤシートのシートバックフレームをそのままの形態で残すことから、1列シート仕様においてもその剛性は車体の剛性強化に十分に寄与する。
【0030】
上述した実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を何等限定するものでなく、本発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全て本発明に包含されることはいうまでもない。
たとえば、実施例では、リヤシートをセカンドシートのみとした2列シート仕様の車両として図示しているが、リヤシートをセカンドシート、サードシートとした3列シートの車両を本発明のもとで一列シート仕様に変更してもよい。この仕様変更では、サードシートはすべて取り外され、セカンドシートのシートバックフレームのみが残されて隔壁部材の基体とされ、基体(セカンドシートのシートバックフレーム)に被装部材が被装されて隔壁部材が構成される。
また、実施例では、ハッチバックタイプを車体形状として例示しているが、居室、荷物室を同一空間に有する車体形状であれば足りるため、これに限定されず、たとえばミニバンやステーションワゴン等にこの発明を応用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、居室と荷物室とを同一空間に有するタイプの車体形状における隔壁構造として広範囲に応用できる。
【符号の説明】
【0032】
11、111 フロントシート(第1列シート)
112 リヤシート(第2列シート;セカンドシート)
12F リヤシートのシートバックフレーム(隔壁部材の基体)
13h、13r リヤシートのヒンジ機構、ロック機構
14(14Fr、14Rr) 隔壁部材(フロント面、リア面の被装体)
14a 係合片
P、L 居室、荷物室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
居室と荷物室とが同一空間にあるタイプの車体形状での居室と荷物室とを仕切るための車両の隔壁構造において、
複数列シート仕様におけるリヤシートの骨格をなすシートバックフレームを車両の居室と荷物室とを仕切る隔壁部材の基体とし、この基体の周りをフロント面、リヤ面を有する被装体で被装することにより、これを複数列シート仕様の車体構造を1列シート仕様の車体構造に転用する際の隔壁部材とすることを特徴とした車両の隔壁構造。
【請求項2】
被装体が樹脂からパネル形状に成形された請求項1記載の車両の隔壁構造。
【請求項3】
被装体が、シートバックフレームに架設されたワイヤに係合可能な切欠き付係合片をその内面に一体的に有して成形されている請求項2記載の車両の隔壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−84245(P2011−84245A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240363(P2009−240363)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000133098)株式会社タチエス (454)
【Fターム(参考)】