説明

車両の駆動制御装置

【課題】駆動側が遠心式のベルト式無段変速機と電子スロットル部とを備える構成で、電子スロットル部のモードに合わせた適切なドリブン推力を設定し、燃料の節約を図ることができる車両の駆動制御装置を提供する。
【解決手段】電子スロットル制御部31は、選択された運転モードに応じて吸気絞り弁21の開度を制御し、従動側接圧力可変部36は、所定車速を越えると、又は、スロットルグリップ26の開度が一定の状態が継続すると、従動プーリー51とベルト45との接圧力を低減させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子スロットル部とベルト式無段変速機とを有する車両の駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、エンジンの吸気通路に設けられた吸気絞り弁を開閉する電子スロットル部を備え、アクセルを踏み込む速さからエンジン出力モードを決め、モードに応じたスロットル開度(吸気絞り弁の開度)にする制御が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、自動二輪車等の車両には、エンジンの駆動軸に設けた駆動プーリーと従動軸に設けた従動プーリーとの間にベルトを掛け渡し、エンジンの動力で生じる遠心力によって駆動プーリーの巻き掛け半径を可変する遠心ウエイトを有するベルト式無段変速機を備えるものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−206332号公報
【特許文献2】特許第3651628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の構成では、駆動側が遠心式なので、エンジン回転数の増加に伴い、従動側の推力がつり合うように上がってしまう。このため、過大な推力によりベルトの摩擦力が大きくなり、燃料消費量が上がってしまい、いわゆる燃費が悪くなる。
また、この種のベルト式無段変速機を備える車両に対し、電子スロットル部を搭載し、従来の電子スロットル部の制御を適用してエンジン出力モードを設定しようとした場合、そのモードに合わせたドリブン推力に設定することが求められる。
【0005】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、駆動側が遠心式のベルト式無段変速機と電子スロットル部とを備える構成で、電子スロットル部のモードに合わせた適切なドリブン推力を設定し、燃料の節約を図ることができる車両の駆動制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明は、エンジン(E)の吸気通路(15)に設けられた吸気絞り弁(21)を開閉する電子スロットル部(25)と、前記吸気絞り弁(21)の開度を、少なくともスロットル操作子(26)の操作に応じて制御する電子スロットル制御部(31)と、前記エンジン(E)の駆動軸(11)に設けた駆動プーリー(41)と従動軸(17)に設けた従動プーリー(51)との間にベルト(45)を掛け渡し、前記エンジン(E)の動力で生じる遠心力によって前記駆動プーリー(41)の巻き掛け半径を可変する遠心ウエイト(44)を有するベルト式無段変速機(M)とを備えた車両の駆動制御装置において、前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を可変する従動側接圧力可変部(36)と、運転モードを選択する運転モード選択部(27)とを備え、前記電子スロットル制御部(31)は、選択された前記運転モードに応じて前記吸気絞り弁(21)の開度を制御し、前記従動側接圧力可変部(36)は、所定車速(VA)を越えると、又は、前記スロットル操作子(26)のスロットル操作量が一定の状態が継続すると、前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を低減させることを特徴とする。
【0007】
上記構成において、前記運転モードは、前記エンジン(E)の吸気量を、スロットル操作量に応じた吸気量にする第1モードと、前記第1モードよりも少ない吸気量にする第2モードとを有し、前記従動側接圧力可変部(36)は、前記第2モードが選択されている場合に、前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を低減させるようにしてもよい。
また、上記構成において、前記第2モードが選択され、前記スロットル操作量が加速に対応する所定量以上の場合に、前記電子スロットル制御部(31)が、前記吸気絞り弁(21)の開度を予め定めた加速可能な開度(K2)に維持すると共に、前記従動側接圧力可変部(36)が、前記所定車速(VA)を越えると、前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を低減させるようにしてもよい。
【0008】
また、上記構成において、前記加速に対応する所定量は、スロットル操作量が最大操作量以上であるようにしてもよい。
また、上記構成において、前記従動側接圧力可変部(36)は、前記ベルト式無段変速機(M)がLOWレシオとTOPレシオの間のときに、前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を低減させるようにしてもよい。
【0009】
また、上記構成において、前記電子スロットル制御部(31)は、前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を低減させた後に、前記吸気絞り弁(21)の現在の開度で得られる最大車速近傍の車速(VC)になると、前記吸気絞り弁(21)の開度を増やすようにしてもよい。
また、上記構成において、車速一定で、かつ、前記吸気絞り弁(21)の開度が一定の状態が継続すると、クルーズ走行と判定するクルーズ走行判定部(33)を有し、前記従動側接圧力可変部(36)は、クルーズ走行と判定された場合、前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を低減させるようにしてもよい。
また、上記構成において、従動側接圧力可変部(36)は、前記スロットル操作量が最大操作量未満の場合、前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を、前記スロットル操作量に応じた接圧力に可変するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、電子スロットル制御部は、選択された運転モードに応じて吸気絞り弁の開度を制御し、ベルト式無段変速機の従動プーリーとベルトとの接圧力を可変する従動側接圧力可変部は、所定車速を越えると、又は、スロットル操作量が一定の状態が継続すると、従動プーリーとベルトとの接圧力を低減させるので、運転モードに応じて吸気絞り弁が制御され、かつ、接圧力の低減によりベルト式無段変速機の変速比を小さくしてエンジン回転数が低くされる。従って、電子スロットル部のモードに合わせた適切なドリブン推力を設定し、燃料の節約を図ることができる。
また、上記運転モードは、エンジンの吸気量を、スロットル操作量に応じた吸気量にする第1モードと、第1モードよりも少ない吸気量にする第2モードとを有し、従動側接圧力可変部は、第2モードが選択されている場合に、従動プーリーとベルトとの接圧力を低減させるようにすれば、低負荷走行のときに第2モードを選べば、低負荷走行に適した走行性を満足しつつ燃料を節約することができる。
また、第2モードが選択され、スロットル操作量が加速に対応する所定量以上の場合に、電子スロットル制御部が、吸気絞り弁の開度を予め定めた加速可能な開度に維持すると共に、従動側接圧力可変部が、所定車速を越えると、従動プーリーとベルトとの接圧力を低減させるようにすれば、ユーザーが加速を求めているときに、加速を行いつつ燃料を節約することができる。
また、加速に対応する所定開度は、スロットル操作量が最大操作量以上であるようにすれば、燃料を多く消費するスロットル操作状態のときに、燃料を節約することができる。
【0011】
また、従動側接圧力可変部は、ベルト式無段変速機がLOWレシオとTOPレシオの間のときに、従動プーリーとベルトとの接圧力を低減させるようにすれば、LOWレシオ時の発進性能を良好としつつ、迅速にTOPレシオに変速して燃料を節約することができる。
また、電子スロットル制御部は、従動プーリーとベルトとの接圧力を低減させた後に、吸気絞り弁の現在の開度で得られる最大車速近傍の車速になると、吸気絞り弁の開度を増やすようにすれば、TOPレシオでより高い車速まで加速することができると共に、エンジン回転数と車速とがほぼ完全に比例し、操作感覚を良好にすることができる。
また、車速一定で、かつ、吸気絞り弁の開度が一定の状態が継続すると、クルーズ走行と判定するクルーズ走行判定部を有し、従動側接圧力可変部は、クルーズ走行と判定された場合、従動プーリーとベルトとの接圧力を低減させるようにすれば、クルーズ走行時の伝達効率を上げて燃料を節約することができる。
また、従動側接圧力可変部は、スロットル操作量が最大操作量未満の場合、従動プーリーとベルトとの接圧力を、スロットル操作量に応じた接圧力に可変するようにすれば、接圧力が高すぎることに起因するエネルギーロスを減らし、その分、伝達効率を上げて燃料をより節約することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る駆動制御装置を示す図である。
【図2】従動プーリーを周辺構成と共に示す図である。
【図3】従動側接圧力可変部の作動態様を模式的に示す図である。
【図4】従動側接圧力可変部の制御を示す図である。
【図5】スロットルグリップ全開時の加速制御を示すフローチャートである。
【図6】(A)は各運転モードでのエンジン回転数Neと車速Vの関係を示し、(B)は、吸気絞り弁の開度(THB)と車速Vの関係を示し、(C)は、接圧力Fと車速Vの関係を示す図である。
【図7】(A)は第2実施形態の各運転モードでのエンジン回転数Neと時間Tの関係を示し、(B)は、吸気絞り弁の開度と時間Tの関係を示し、(C)は、接圧力Fと時間Tの関係を示し、(D)は車速Vと時間Tの関係を示す図である。
【図8】クルーズ制御を示すフローチャートである。
【図9】(A)はクルーズから通常走行へ復帰する場合のスロットル操作量と時間Tの関係を示し、(B)は、各運転モードでの吸気絞り弁の開度と時間Tの関係を示し、(C)は、接圧力Fと時間Tの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る駆動制御装置を示す図である。
このパワーユニットPは、自動二輪車1に搭載されるパワーユニットであり、エンジン(内燃機関)Eと、エンジンEの動力を変速して後輪(駆動輪)Wrに伝達する変速機Mとを一体に備えている。
エンジンEは、4サイクルエンジンであり、回転自在に支持されるクランク軸11と、このクランク軸11にコンロッド12を介して連結されるピストン13と、ピストン13を収容するシリンダ部14とを有している。
シリンダ部14には、吸気通路15と排気通路16とが連通し、吸気通路15の一部は、吸気絞り弁(スロットルバルブとも称する)21を有するスロットル・バイ・ワイヤ(TBW)形式のスロットルボディ22で構成される。吸気絞り弁21は、減速ギヤ23を介してモーター(弁駆動モーター)24の駆動軸に連結され、モーター24によって駆動される。すなわち、スロットルボディ22、減速ギヤ23及びモーター24によって、吸気絞り弁21を開閉駆動する電子スロットル部25が構成されている。
【0014】
この電子スロットル部25は、電子スロットル制御部31によって制御される。また、この自動二輪車1には、ユーザー(運転者)が右手で操作するスロットルグリップ(スロットル操作子)26の操作を検出するスロットル操作量検出部32と、ユーザーが左手で操作する運転モード切替スイッチ(運転モード選択部)27とが設けられ、これらの出力が電子スロットル制御部31に入力される。
電子スロットル制御部31は、予め記憶されたスロットル制御用基準マップデータに基づき、電子スロットル部25の吸気絞り弁21の開度を、スロットルグリップ26のスロットル操作量32aに応じた開度(以下、第1開度という)K1に制御する。
この第1開度K1に制御されることによって、ユーザー(運転者)はスロットルグリップ26の操作にリニアなエンジン出力を得ることができる。例えば、第1開度K1は、実験或いはシミュレーションによって得たリニアなエンジン特性を得る開度に設定されている。
【0015】
電子スロットル制御部31は、車体の各部を電子制御する電子制御ユニット33の一部を構成し、この電子制御ユニット33には、上記スロットル操作量検出部32や運転モード切替スイッチ27の他、車速を検出する車速センサやエンジンEの点火装置や燃料噴射装置等の従来の自動二輪車が有する各種部品が電気的に接続され、これらの検出結果や制御結果を電子スロットル制御部31が適宜取得可能に構成されている。
エンジンEの吸気通路15には、不図示のエアクリーナで清浄化された空気が入り、吸気絞り弁21によってエンジンEへの吸気量が調整される。また、吸気通路15には、燃料噴射装置(不図示)が設けられ、この燃料噴射装置から吸気量に応じた燃料が噴射され、燃料と空気とが所定の混合比でエンジンEに供給される。
変速機Mは、Vベルト式無段変速機であり、エンジンEの駆動軸であるクランク軸11に設けられる駆動プーリー41と、クランク軸11の後方に平行に軸支される従動軸17に設けられる従動プーリー51と、両プーリー41,51間に掛け渡されるVベルト45とを備えている。
【0016】
駆動プーリー41は、クランク軸11に固定された駆動プーリー固定半体42と、クランク軸11に軸方向に移動自在に支持された駆動プーリー可動半体43と、遠心方向の移動により駆動プーリー可動半体43をクランク軸11の軸方向に移動させる遠心ウエイト44とを備え、駆動プーリー固定半体42と駆動プーリー可動半体43とは互いに対向して配置され、その間にVベルト45が挟持される。
遠心ウエイト44は、クランク軸11の回転で生じる遠心力によって遠心方向に移動し、駆動プーリー可動半体43を、駆動プーリー固定半体42に接近させ、両半体42,43間に挟持されるVベルト45の巻き掛け半径を大きくし、つまり、駆動プーリー41の巻き掛け半径を大きくし、これによって、変速機Mの変速比を可変させる。
【0017】
図2は、従動プーリー51を周辺構成と共に示す図である。
従動プーリー51は、従動軸17に固定された従動プーリー固定半体52と、従動軸17に軸方向に移動自在に支持された従動プーリー可動半体53とを備え、従動プーリー固定半体52と従動プーリー可動半体53とは互いに対向して配置され、その間にVベルト45が挟持される。
また、この従動プーリー51と従動軸17との間には、発進用の遠心式クラッチ61が設けられ、この遠心式クラッチ61を介して従動プーリー51と従動軸17とが断接(切断/接続)される。
【0018】
より具体的には、従動プーリー固定半体52は、ボールベアリング62とニードルベアリング63とを介して従動軸17に相対回転自在に支持される固定半体ボス部52Aを有し、この固定半体ボス部52Aの外周に、従動プーリー可動半体53の可動半体ハブ部53Aが、相対回転自在、かつ、軸方向に摺動自在に設けられる。
固定半体ボス部52Aは、従動プーリー可動半体53を貫通し、その端部に、径方向に拡径するプレート部材61Aが固定される。
このプレート部材61Aと従動プーリー可動半体53との間には、従動プーリー可動半体53を従動プーリー固定半体52に向けて付勢する付勢部材(以下、従動側付勢部材という。)71が介挿され、この従動側付勢部材71により、従動プーリー可動半体53にベルト45を押しつける推力が付与され、つまり、従動プーリー51とベルト45との間に接圧力が付与される。この接圧力は、ドリブン推力に相当する。
【0019】
上記プレート部材61Aは、遠心式クラッチ61のクラッチインナ(駆動側プレート)を兼用し、このプレート部材61Aの外周部には、クラッチシュー61Bを有するアーム部61Cが設けられ、アーム部61Cは、クラッチシュー61Bが、従動軸17に固定されたクラッチアウタ61Dの内周面から離れる方向に付勢部材(以下、クラッチ用付勢部材という)61Eにより付勢されている。
本構成では、クランク軸11が回転すると、このクランク軸11の回転が変速機Mの従動プーリー51に伝達され、この従動プーリー51とプレート部材61Aが一体に回転するので、その回転による遠心力で、クラッチ用付勢部材61Eの付勢力に抗してクラッチシュー61Bがクラッチアウタ61Dの内周面に接して、従動プーリー51とクラッチアウタ61Dとが一体に回転し、従動軸17が回転駆動される。この場合、エンジンEがアイドリング回転数を超えると、遠心式クラッチ61がつながり、自動二輪車1が発進する。
【0020】
本構成では、従動側付勢部材71のプレート部材61A側端部に当接するリテーナ71Bの位置を規制する規制部材71Aを軸方向に移動させる接圧力可変アクチュエータ34(図1,図2参照)と、接圧力可変アクチュエータ34を制御する従動側接圧力制御部35とを備え、これらによって、従動プーリー51とベルト45との間の接圧力を可変する従動側接圧力可変部36が構成される。
この従動側接圧力制御部35も、電子スロットル制御部31と同様に、車体の各部を電子制御する電子制御ユニット33の一部を構成しており、電子制御ユニット33に接続される各種センサの検出結果や制御結果を適宜に取得する。
この従動側接圧力制御部35は、予め記憶された接圧力制御用基準マップデータに基づき、従動プーリー51とベルト45との間の接圧力を、吸気絞り弁21の開度やエンジン回転数等に応じた接圧力に制御する。
【0021】
図3は、この従動側接圧力可変部36の作動態様を示している。この図では、従動プーリー51において、変速機MがLOWレシオ(Vベルト45の巻き掛け半径が大の状態)の場合と、変速機MがTOPレシオ(Vベルト45の巻き掛け半径が小の状態)の場合とを示している。
図3に示すように、規制部材71Aが従動プーリー51に近い程、従動側付勢部材71による付勢力が大となるため、従動プーリー51とベルト45との間の接圧力は高くなる。
この規制部材71Aは、従動側接圧力可変部36によって軸方向に多段階の位置に制御され、規制部材71Aが従動プーリー51に最も近い位置PHでは、高接圧力となり、後述の図4の領域Ar1に対応する。規制部材71Aが従動プーリー51から最も離れた位置PLでは、低接圧力となり、後述の図4の領域Ar3に対応する。また、位置PHと位置PLとの間の中間位置PMでは、中接圧力となり、後述の図4の領域Ar3に対応する。
【0022】
図2に示すように、可動半体ハブ部53Aには、トルクカム65のカム溝65Aが一体に形成されており、このカム溝65Aに、固定半体ボス部52Aに突設されたガイドピン65Bが摺動自在に係合する。
このため、従動プーリー可動半体53が従動プーリー固定半体52に対して軸方向に移動する場合には、従動プーリー可動半体53がガイドピン65Bを基準にカム溝65Aに沿って移動することになる。
このカム溝65Aは、図3に示すように、変速機MがLOWレシオ側のときは従動軸17の軸に対する傾斜角度θ1(本構成では45°)が相対的に大きく、変速機MがTOPレシオ側のときは従動軸17の軸に対する傾斜角度θ2(本構成では30°)が相対的に小さく形成される。
【0023】
このカム溝65Aによれば、変速機MがLOWレシオ側のときは、従動プーリー可動半体53を軸方向に移動するには従動プーリー可動半体53を、従動プーリー固定半体52に対して比較的大きく相対回転させる必要があり、ガイドピン65Bを軸方向に移動し難くなる。
従って、変速機MがLOWレシオ側にあり、エンジンEからベルト45を介して従動プーリー51に伝達される力が相対的に大きい場合には、ガイドピン65Bが接圧力を弱くする方向に動くことを抑制でき、LOWレシオ側でベルト45の滑りを抑制可能な高接圧力を確保することができる。
一方、変速機MがTOPレシオ側のときは、エンジンEからベルト45を介して従動プーリー51に伝達される力が比較的小さいため、ベルト45の滑りを抑制できる範囲で低接圧力とすることができる。
【0024】
このように、トルクカム65を構成するカム溝65Aを、従動プーリー可動半体53に一体に形成し、このカム溝65Aに入るガイドピン65Bを、従動プーリー固定半体52に設けたので、カム溝専用の部品やガイドピン支持専用の部品を配置する必要がなく、部品点数の増大を回避してコンパクトに配置することができる。また、従動側付勢部材71を押さえるプレート部材61Aが、遠心式クラッチ61のクラッチインナを兼用するので、これによっても部品点数の増大を回避することができる。
【0025】
図4は、従動側接圧力可変部36の制御を示す図である。なお、図中、横軸は、車速Vであり、縦軸は、エンジン回転数(クランク軸11の回転数)Neであり、符号Lは、変速機MがLOWレシオの特性曲線であり、符号Tは、変速機MがTOPレシオの特性曲線である。
吸気絞り弁21が全開の場合には、図4に矢印で示すように、従動側接圧力可変部36は、エンジン回転数Neが回転数Ne1(アイドリング回転数以上で、遠心式クラッチ61が接続する発進回転数Ne3未満)を超えるまでは、従動プーリー51とベルト45との間の接圧力を低接圧力に保持し、回転数Ne1を超えると、接圧力を中接圧力に切り換え、発進回転数Ne3の手前の回転数Ne2で接圧力を高接圧力にし、車速Vが、変速機MがLOWレシオとTOPレシオの間の中間の変速比となった車速Vkを超えるまで高接圧力の状態を保持する。
このため、高接圧力の状態で、自動二輪車1を発進させることができる。また、従動側接圧力可変部36は、車速Vkを超えると、接圧力を中接圧力に切り換え、ベルト45の滑りを抑制できる範囲で接圧力を抑えている。
【0026】
この図4において、符号Ar1は、吸気絞り弁21の開度、エンジン回転数Ne及び車速Vから、エンジンEから従動プーリー51に伝達されるトルクが予め定めた上限値以上となる領域を示し、符号Ar3は、エンジンEから従動プーリー51に伝達されるトルクが予め定めた下限値未満の領域を示し、符号Ar2は、領域Ar1と領域Ar3との間の領域、つまり、トルクが下限値以上、上限値未満の中間となる領域を示している。
この従動側接圧力可変部36では、電子スロットル制御部31によって制御される吸気絞り弁21の開度(θth(THB))、エンジン回転数Ne及び車速Vに基づいて、従動プーリー51とベルト45との間の接圧力を可変しており、上記領域Ar1では高接圧力に制御し、上記領域Ar2では中接圧力に制御し、上記領域Ar3では低接圧力に制御する。
本実施形態では、図4に示すように、従動側接圧力可変部36は、吸気絞り弁21の開度が全開未満の場合、従動プーリー51とベルト45との間の接圧力を吸気絞り弁21の開度に応じた接圧力に可変している。一般に、吸気絞り弁21の開度が低いほど、ベルト45の滑り防止に必要な接圧力が小さくなるため、吸気絞り弁21の開度に応じた接圧力に可変することによって、接圧力が過度に高くなる事態を回避でき、接圧力が高すぎることに起因するエネルギーロスを減らすことができる。
【0027】
図1に示すように、この自動二輪車1は、運転モード切替スイッチ(運転モード選択部)27を有しており、この運転モード切替スイッチ27が操作されることによって、運転モードを、高負荷走行に適したSモード(高負荷モード(第1モード))又は低負荷走行に適したDモード(低負荷モード(第2モード))に切り換え可能に構成されている。
このSモード及びDモードは、スロットル操作量32aが最大操作量以上、つまり、スロットルグリップ26が全開のときの特性を変更する運転モードであり、電子スロットル制御部31による電子スロットル部25の制御と、従動側接圧力可変部36による接圧力の制御とを異ならせている。
【0028】
図5は、スロットルグリップ26が全開のときの加速制御を示すフローチャートである。なお、前提として、Sモード又はDモードのいずれかが選択されているものとする。
また、図6(A)〜(C)は、スロットルグリップ26全開時のSモードとDモードの特性曲線を各々示しており、より具体的には、図6(A)は、各運転モードでのエンジン回転数Neと車速Vの関係を示し、図6(B)は、吸気絞り弁21の開度(θth(THB))と車速Vの関係を示し、図6(C)は、接圧力Fと車速Vの関係を示している。なお、図中、Sモードを太い実線で示し、Dモードを、一点鎖線で示している。
【0029】
まず、電子制御ユニット33は、スロットル操作量検出部32によってスロットル操作量32aを読み込み(ステップS1)、Sモードが選択されていた場合(ステップS2:Sモード)、電子スロットル制御部31により、予め記憶されたスロットル制御用基準マップデータに基づいて電子スロットル部25を制御させる(ステップS3)。これによって、吸気絞り弁21の開度が、スロットルグリップ26の操作量に応じた第1開度K1に制御される。
また、Sモードの場合、従動側付勢部材71の付勢力及びトルクカム65に沿って、従動プーリー可動半体53が回転するときの摩擦力によって接続力が発生する。なお、例えば、従動側接圧力制御部35は、予め記憶された接圧力制御用基準マップデータに基づき、図4に示すように、従動プーリー51とベルト45との間の接圧力を、吸気絞り弁21の開度やエンジン回転数Ne等に応じた接圧力に制御することもできる。
このため、Sモードでは、スロットルグリップ26の操作にリニアなエンジン出力を得ることができると共に、このエンジン出力に従った従来のVベルト式無段変速機の変速特性で走行することができる。
【0030】
一方、ステップS2の判定で、Dモードが選択されていた場合(ステップS2:Dモード)、電子制御ユニット33は、エンジン回転数Ne及び車速Vに基づいて変速機MがLOWレシオか否かを判定する(ステップS4)。
ここで、LOWレシオでない場合(ステップS4:NO)、電子制御ユニット33は、スロットル操作量検出部32により、スロットルグリップ26が全開か否かを判定する(ステップS5)。
電子制御ユニット33は、スロットルグリップ26が全開でなければ(ステップS5:NO)、ステップS3の処理に移行し、全開であれば(ステップS5:YES)、電子スロットル制御部31により、吸気絞り弁21を第1開度K1よりも小さい開度(以下、第2開度という)K2(図6(B)参照)に制御する(ステップS6)。
この第2開度K2は、少なくとも自動二輪車1を加速可能な開度とされ、この第2開度K2に制御された状態でも、自動二輪車1を加速し続けることができる(図6(A)(B)参照)。
【0031】
続いて、電子制御ユニット33は、車速Vが予め定めた車速VA(図6(A)参照)を超えたか否かを判定する(ステップS7)。この車速VAは、吸気絞り弁21が全開で、変速機MがLOWレシオとTOPレシオの間の変速比にあるときの車速であり、Dモードが選択される可能性の高い市街地走行で頻繁に使用する速度域(通常速度域)の下限値より若干低い車速に設定される。ここで、本実施形態では、通常速度域を時速30km〜50kmとし、車速VAを25km程度に設定している。
車速VAを超えている場合(ステップS7:YES)、電子制御ユニット33は、従動側接圧力可変部36によって、規制部材71Aを低接圧力の位置PLに制御し、図6(C)に示すように、従動プーリー51とベルト45との間の接圧力を低減させる(ステップS8)。
【0032】
なお、図6(C)における車速V1(<車速VA)は、トルクカム65のカム溝65Aに係合するガイドピン65Bが、カム溝65AをLOWレシオ側からTOPレシオ側に移動するタイミングに相当している。このため、車速V1未満のLOWレシオ側では、トルクカム65によって高い接圧力に保持され、車速V1以上では接圧力が徐々に低減されている。
【0033】
上記したように、車速VAは、変速機MがLOWレシオとTOPレシオの間であり、この車速VAを超えた場合に上記ステップS8の処理によって接圧力を低減することにより、駆動プーリー41の遠心ウエイト44によって生じる推力(駆動プーリー可動半体43をベルト45に押しつける推力)が、従動プーリー51とベルト45との間の接圧力に釣り合うまでエンジン回転数Neを低下させることができると共に、従動プーリー固定半体52と従動プーリー可動半体53との間の間隔を拡げて変速機Mの変速比を小さくすることができる。
このため、図6(A)に示すように、エンジン回転数Neを下げながら変速機MをTOPレシオに近づけることができる。
【0034】
本構成では、ステップS8の処理でTOPレシオ時の接圧力(低接圧力の位置PL)まで下げるので、吸気絞り弁21の開度を、Sモードに比して低い第2開度K2に維持したまま(図6(B)参照)、図6(A)に示すように、Sモードの場合に比して低い車速(車速VB)でTOPレシオに変速させることができる。
しかも、車速VAを、通常速度域(時速30km〜50km)の下限値近傍の車速(時速25km程度)にしているので、上記車速VBを含む前後範囲VX(図6(A)参照)を、通常速度域に合わせることができ、通常速度域でのエンジン回転数Neを効率よく下げることができる。
【0035】
次に、電子制御ユニット33は、図5に示すように、車速Vが、現在の吸気絞り弁21の開度で得られる最大車速近傍の車速VC以上か否かを判定する(ステップS9)。そして、車速Vが車速VC以上になると(ステップS9:YES)、電子制御ユニット33は、電子スロットル制御部31によって、吸気絞り弁21の開度を、スロットル操作量32aに応じた第1開度K1に徐々に近づける(ステップS10(図6(B)参照))。
このため、車速VC以上では、図6(A)に示すように、TOPレシオを保った状態で、SモードでTOPレシオに到達する車速VDまで到達する。そして、この車速VD以上では、Sモードと同様にTOPレシオで加速する。以上がスロットルグリップ26全開時の制御である。
【0036】
このように、Dモードでは、Sモードよりも絞った吸気絞り弁21の開度(第2開度K2)で加速し、この第2開度K2で得られる最大車速近傍の車速VC以上に至ると、Sモードと同じ開度(第1開度K1)に制御されるので、Sモードと完全一致する車速VD(>車速VC)までは、Sモードに比して、吸気絞り弁21の開度を小さくし、かつ、エンジン回転数Neを低くすることができる。従って、燃料を節約しながら加速することが可能である。
しかも、変速機MがLOWレシオとTOPレシオの間の変速比のときの車速VAを超えると、接圧力を低減させて迅速にTOPレシオにするので、加速をしながらエンジン回転数Neを効率よく下げることができる。このため、接圧力を低減させずに(図中、波線fxで示す)、吸気絞り弁を第2開度K2に絞っただけの場合と比べても、燃料をより節約することができる。
【0037】
以上説明したように、本実施の形態によれば、電子スロットル制御部31は、選択された運転モードに応じて吸気絞り弁21の開度を制御し、従動側接圧力可変部36は、Dモード(低負荷モード)の場合に、所定の車速VAを越えると、従動プーリー51とベルト45との接圧力を低減させるので、Dモードでは、吸気絞り弁21の開度が絞られ、かつ、接圧力の低減により変速機Mの変速比を小さくしてエンジン回転数Neを低くできる。これにより、電子スロットル部25のモードに合わせた適切なドリブン推力を設定でき、燃料の節約を図ることができる
また、運転モードを、スロットル操作量32aに応じた吸気量にするSモード(高負荷モード)と、Sモードよりも少ない吸気量にするDモード(低負荷モード)とし、Dモードの場合に接圧力を低減させるので、低負荷走行のときにDモードを選べば、低負荷走行に適した走行性を満足しつつ燃料を節約することができる。
【0038】
また、Dモードが選択され、スロットル操作量32aが加速に対応する最大操作量以上の場合(全開の場合)に、電子スロットル制御部31が、吸気絞り弁21の開度を予め定めた加速開度である第2開度K2に維持すると共に、従動側接圧力可変部36が、上記車速VAを越えると、従動プーリー51とベルト45との接圧力を低減させるので、ユーザーが加速を求めているときに、加速を行いつつ燃料を節約することができる。
ここで、スロットル操作量32aが最大操作量以上のときは、燃料を多く消費する状態であり、本構成では、このときの燃料を節約する運転モードを選ぶことができるので、スロットル操作量32aが最大操作量未満の走行時には影響を与えることなく、燃料を節約することができる。
【0039】
さらに、従動側接圧力可変部36は、変速機MがLOWレシオとTOPレシオの間のときに、従動プーリー51とベルト45との接圧力を低減させるので、LOWレシオ時の発進性能を良好としつつ、迅速にTOPレシオに変速して燃料を節約することができる。
また、電子スロットル制御部31は、従動プーリー51とベルト45との接圧力を低減させた後に、吸気絞り弁21の現在の開度で得られる最大車速近傍の車速VCになると、吸気絞り弁21の開度を増やすので、TOPレシオでより高い車速まで加速することができる。この場合、エンジン回転数NEと車速とがほぼ完全に比例することになり、操作感覚を良好にすることができる。
また、従動側接圧力可変部36は、図4に示すように、スロットル操作量32aが最大操作量未満の場合、従動プーリー51とベルト45との接圧力を、スロットル操作量32aに応じた接圧力に可変するので、接圧力が高すぎることに起因するエネルギーロスを減らし、その分、伝達効率を上げて燃料をより節約することができる。
【0040】
<第2実施形態>
第2実施形態では、Dモードが選択されている場合、スロットルグリップ26が全開のときは上記第1実施形態と同様の制御を行い、スロットルグリップ26が全開でない所定開度の範囲(少なくともクルーズ走行時の開度を含む開度範囲)では、吸気絞り弁21の開度を、リニアなエンジン出力を得る第1開度K1よりも小さい開度である第2開度K2に制御している。
ここで、図7(A)〜(D)は、スロットルグリップ26が全開でない所定開度のときのSモードとDモードのタイミングチャートを各々示している。より具体的には、図7(A)は、各運転モードでのエンジン回転数Neと時間Tの関係を示し、図7(B)は、吸気絞り弁21の開度(θth(THB)と時間Tの関係を示し、図7(C)は、接圧力Fと時間Tの関係を示し、図7(D)は車速Vと時間Tの関係を示している。
【0041】
図7(A)〜(D)に示すように、Sモードが選択されている場合、吸気絞り弁21の開度は第1開度K1(図7(B)参照)に制御され、Dモードが選択されている場合、吸気絞り弁21の開度は第2開度K2(図7(B)参照)に制御されているものとする。なお、第1開度K1及び第2開度K2は、異なる開度でも良いし、同一でも良い、例えば、スロットル操作量32aが所定量以上の場合には異なるが、所定量未満の場合には同一としてもよく、全開時の所定開度K2に準じている。
ところで、クランク軸11の回転数が同じであっても、一定車速で走行するクルーズ走行時と、加速走行時とでは、従動プーリー51とベルト45との間の滑りを抑制するのに必要な接圧力が異なり、加速走行時の方がクルーズ走行時よりも高い接圧力が必要になる。
一般に、本構成の変速機Mのような遠心ウエイト44で変速比を可変するVベルト式変速機では、クランク軸11の回転数で変速比がほぼ決まるので、クルーズ走行や加速走行時でも、接圧力が殆ど同じであり、加速走行に合わせて接圧力を設定すると、クルーズ走行時の接圧力が過大となってしまう。
そこで、本構成では、クルーズ走行時には接圧力を低減するクルーズ制御を行うようにしている。
【0042】
図8は、クルーズ制御を示すフローチャートである。
まず、電子制御ユニット33は、エンジン回転数Ne及び車速Vに基づいて変速機MがLOWレシオとTOPレシオの間の変速比にあるか否かを判定し(ステップS11)、ステップS11の判定が否定であった場合にはこのクルーズ制御を一端終了し、肯定であった場合には、続くステップS12の処理へ移行する。なお、クルーズ制御を終了しても、所定の割り込み周期で当該ステップS11の処理は再実行される。
ステップS12では、電子制御ユニット33は、車速Vが一定で、かつ、吸気絞り弁21の開度が一定の状態が、予め設定した設定時間以上、継続したか否かを判定し、判定が否定であった場合にはこのクルーズ制御を一端終了し、肯定であった場合には、クルーズ走行と判定する(ステップS13)。すなわち、電子制御ユニット33は、クルーズ走行か否かを判定するクルーズ走行判定部として機能する。
【0043】
クルーズ走行と判定した場合、電子制御ユニット33は、Sモードが選択されていた場合(ステップS14:Sモード)、Sモードの吸気絞り弁21の開度を一定に維持した状態で、従動側接圧力可変部36によって従動プーリー51とベルト45との間の接圧力を低減させる(ステップS15)。
また、Dモードが選択されていた場合(ステップS14:Dモード)も、電子制御ユニット33は、Dモードの吸気絞り弁21の開度を一定に維持した状態で、従動側接圧力可変部36によって、従動プーリー51とベルト45との間の接圧力を低減させる(ステップS16)。
【0044】
このステップS15及びS16の制御によれば、駆動プーリー41の遠心ウエイト44によって生じる推力(駆動プーリー可動半体43をベルト45に押しつける推力)が、従動プーリー51とベルト45との間の接圧力に釣り合うまでエンジン回転数Neが低下し、かつ、従動プーリー51の巻き掛け半径が小さくなり、変速機Mの変速比が小さくなる。
【0045】
このクルーズ制御による動作を図7を参照しつつ説明する。
まず、図7において、時間taは、クルーズ走行と判定したタイミングを示している。Sモード及びDモードのいずれの場合も、この時間taのタイミングで、接圧力が直ちに低減制御され、時間tbのタイミングで接圧力の低減制御が終了し、時間tb以後は接圧力が下げた状態に保持される。また、吸気絞り弁21の開度はSモードでは第1開度K1、Dモードでは第2開度K2に保持されたままである。
このステップS15及びS16の制御では、エンジン回転数Neが低下し、かつ、変速機Mの変速比が小さくなっても、図7(D)に示すように、車速Vを一定に維持する。つまり、ステップS15及びS16の制御は、各モードで車速Vを一定に維持したまま、エンジン回転数Neの低下と変速機Mの変速比の低下とを生じさせるように、接圧力を低減する制御である。
この制御は、例えば、車速V、吸気絞り弁21の開度等と、接圧力の制御内容とを対応づけたマップデータ、或いは、計算式を予め記憶しておき、このマップデータ又は計算式によって得た値に基づいて行うようにすればよい。また、図7(C)の例では、従動側接圧力可変部36は、Sモードの場合、規制部材71Aを、中接圧力の位置PMから、接圧力を下げる位置PLSに制御する一方、Dモードの場合、規制部材71Aを、Sモードの位置PLSよりも接圧力をさらに下げる位置PLDに制御している。ここで、Dモードの位置PLDは、接圧力(ドリブン推力)をぎりぎり(必要最低限)まで下げる位置である。
【0046】
なお、図7(A)(C)において、二点鎖線は、接圧力を低減しない場合(比較例)を示している。本構成では、この比較例と比較して、エンジン回転数Neを低減できる分、燃料を節約することができる。つまり、一定の車速Vで走行している場合の接圧力が過大とならないように接圧力を下げ、これにより、接圧力が過大となる場合に生じるエネルギーロスを減らし、伝達効率を上げ、その分、燃料を節約することができる。
【0047】
続いてクルーズから通常走行への復帰について説明する。
図9(A)〜(C)は、この場合のタイミングチャートを各々示し、図9(A)は、スロットル操作量32aと時間Tとの関係を示し、図9(B)は、各運転モードでの吸気絞り弁21の開度(θth(THB)と時間Tの関係を示し、図9(C)は、接圧力Fと時間Tの関係を示している。
図9(A)において、符号G1は、クルーズ時のグリップ操作量であり、図9(A)には、スロットルグリップ26が、時間t1から時間t2の間に全開に操作された場合を示している。また、図9(B)において、符号KXは、クルーズ時の吸気絞り弁21の開度である。
【0048】
電子制御ユニット33は、時間t1において、スロットル操作量32aの変化を検出すると、クルーズ走行終了と判定し、吸気絞り弁21の開度を各モードに応じた開度に変更する制御と、接圧力Fを変更する制御とを行う。
この場合の吸気絞り弁21の制御については、図9(B)に示すように、電子制御ユニット33は、Sモードの場合には、吸気絞り弁21の開度を、グリップ操作量に合わせた第1開度K1(ここでは最大開度)に直ちに制御する一方、Dモードの場合には、吸気絞り弁21の開度を、グリップ操作量に合わせた第2開度K2に直ちに合わせるのではなく、開度変化をなだらかにする予め定めた開度特性に従って、第2開度K2に制御する。
このため、Dモードでは、吸気絞り弁21がゆっくり開いて、グリップ操作が終了する時間t2よりも遅れたタイミング(時間t4)で第2開度K2に制御される。
なお、第2開度K2は、第1開度K1よりも絞った開度であり、スロットルグリップ26が全開であっても、第2開度K2は最大開度よりも絞った開度である。
【0049】
また、接圧力Fを変更する制御については、図9(C)に示すように、電子制御ユニット33は、Sモードの場合には、吸気絞り弁21の開度に合わせた接圧力に直ちに制御する一方、Dモードの場合には、吸気絞り弁21が第2開度K2に復帰するタイミング(時間t4)よりも前のタイミング(時間t3)に接圧力を復帰させる。但し、この接圧力が復帰するタイミングは、スロットルグリップ26の操作が終了するタイミング(時間t2)よりも遅いタイミングであり、この接圧力についてもゆっくり上昇させている。
このようにして、クルーズから通常走行に復帰することで、Dモードの加速時に必要最低限の接圧力として加速時の燃費を向上できる。
【0050】
本構成では、Dモードでは、吸気絞り弁21を予め定めた開度特性に従ってゆっくり開くので、燃費の向上を図ることができると共に、接圧力(ドリブン推力)の上昇を待ってベルト45の滑りを防止することができる。
また、Dモードでは、接圧力(ドリブン推力)をSモードに比してゆっくり立ち上げるので、過大な接圧力によるベルト摩擦力の増大が回避され、これによっても燃費の向上を図ることができる。しかも、接圧力が、吸気絞り弁21よりも先に復帰するので、ベルト45の滑りをより確実に防止することができる。
【0051】
以上説明したように、本実施の形態によれば、車速Vが一定で、かつ、吸気絞り弁21の開度が一定の状態が継続すると、クルーズ走行と判定し、クルーズ走行と判定した場合、従動側接圧力可変部36が、従動プーリー51とベルト45との接圧力を低減させるので、クルーズ走行時に接圧力が過大とならず、接圧力が高すぎることに起因するエネルギーロスを減らし、その分、伝達効率を上げて燃料を節約することができる。
なお、車速Vと吸気絞り弁21とに基づいてクルーズ走行か否かを判定する場合を説明したが、これに限らず、少なくとも吸気絞り弁21が一定の状態が継続すると、クルーズ走行と判定し、接圧力を低減させるようにしてもよい。
【0052】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。
例えば、上記実施形態において、Dモードの場合、車速VAを超えたとき、従動プーリー51とベルト45との間の接圧力を低減させることに加え、図6(B)に符号fb(二点鎖線)で示すように、吸気絞り弁21の開度を短時間だけ小さくしてもよい。この構成によれば、エンジン回転数Neをより迅速に下げてTOPレシオにより迅速に変速させることができ、燃料をより節約することができる。
また、上記実施形態では、運転モード切替スイッチ27のスイッチ操作に基づいて運転モードを選択する場合を説明したが、これに限らず、スロットルグリップ26を回転する速さから運転モードを選択するようにしてもよい。この場合、例えば、電子スロットル制御部31が、スロットル操作量検出部32の検出結果に基づき、スロットルグリップ26の操作速度が、予め定めた閾値以上であればSモード(高負荷モード)を選択し、閾値未満であれば、Dモード(低負荷モード)を選択するようにすればよい。
【0053】
また、上記実施形態では、スロットルグリップ26が全開のときに所定の車速(車速VA)を超えると接圧力を下げる場合を説明したが、これに限らず、スロットルグリップ26の開度が全開以外の開度(例えば、全開近傍の開度等の加速に対応する所定開度)のときに、所定車速を超えると接圧力を下げるようにしてもよい。
また、上記実施形態では、Vベルト式無段変速機を有する自動二輪車1に本発明を適用する場合について説明したが、Vベルト式に限らず、公知のベルト式無段変速機を有する自動二輪車に本発明を広く適用することができる。
また、自動二輪車の駆動制御装置に本発明を適用する場合を説明したが、これに限らず、鞍乗り型車両等の車両の駆動制御装置に本発明を広く適用することができる。なお、鞍乗り型車両とは、車体に跨って乗車する車両全般を含み、自動二輪車(原動機付き自転車も含む)のみならず、ATV(不整地走行車両)に分類される三輪車両や四輪車両を含む車両である。
【符号の説明】
【0054】
1 自動二輪車(鞍乗り型車両)
11 クランク軸(駆動軸)
15 吸気通路
17 従動軸
21 吸気絞り弁
25 電子スロットル部
26 スロットルグリップ(スロットル操作子)
27 運転モード切替スイッチ(運転モード選択部)
31 電子スロットル制御部
33 電子制御ユニット(クルーズ走行判定部)
36 従動側接圧力可変部
41 駆動プーリー
44 遠心ウエイト
45 Vベルト
51 従動プーリー
P パワーユニット
E エンジン
M 変速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(E)の吸気通路(15)に設けられた吸気絞り弁(21)を開閉する電子スロットル部(25)と、
前記吸気絞り弁(21)の開度を、少なくともスロットル操作子(26)の操作に応じて制御する電子スロットル制御部(31)と、
前記エンジン(E)の駆動軸(11)に設けた駆動プーリー(41)と従動軸(17)に設けた従動プーリー(51)との間にベルト(45)を掛け渡し、前記エンジン(E)の動力で生じる遠心力によって前記駆動プーリー(41)の巻き掛け半径を可変する遠心ウエイト(44)を有するベルト式無段変速機(M)とを備えた車両の駆動制御装置において、
前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を可変する従動側接圧力可変部(36)と、運転モードを選択する運転モード選択部(27)とを備え、
前記電子スロットル制御部(31)は、選択された前記運転モードに応じて前記吸気絞り弁(21)の開度を制御し、前記従動側接圧力可変部(36)は、所定車速(VA)を越えると、又は、前記スロットル操作子(26)のスロットル操作量が一定の状態が継続すると、前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を低減させることを特徴とする車両の駆動制御装置。
【請求項2】
前記運転モードは、前記エンジン(E)の吸気量を、前記スロットル操作量に応じた吸気量にする第1モードと、前記第1モードよりも少ない吸気量にする第2モードとを有し、
前記従動側接圧力可変部(36)は、前記第2モードが選択されている場合に、前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を低減させることを特徴とする請求項1に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項3】
前記第2モードが選択され、前記スロットル操作量が加速に対応する所定量以上の場合に、前記電子スロットル制御部(31)が、前記吸気絞り弁(21)の開度を予め定めた加速可能な開度(K2)に維持すると共に、前記従動側接圧力可変部(36)が、前記所定車速(VA)を越えると、前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を低減させることを特徴とする請求項2に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項4】
前記加速に対応する所定量は、前記スロットル操作量が最大操作量であることを特徴とする請求項3に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項5】
前記従動側接圧力可変部(36)は、前記ベルト式無段変速機(M)がLOWレシオとTOPレシオの間のときに、前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を低減させることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項6】
前記電子スロットル制御部(31)は、前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を低減させた後に、前記吸気絞り弁(21)の現在の開度で得られる最大車速近傍の車速(VC)になると、前記吸気絞り弁(21)の開度を増やすことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項7】
車速一定で、かつ、前記吸気絞り弁(21)の開度が一定の状態が継続すると、クルーズ走行と判定するクルーズ走行判定部(33)を有し、
前記従動側接圧力可変部(36)は、クルーズ走行と判定された場合、前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を低減させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の車両の駆動制御装置。
【請求項8】
前記従動側接圧力可変部(36)は、前記スロットル操作量が最大操作量未満の場合、前記従動プーリー(51)と前記ベルト(45)との接圧力を、前記スロットル操作量に応じた接圧力に可変することを特徴とする請求項4に記載の車両の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−197017(P2012−197017A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61982(P2011−61982)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】