説明

車両の駆動力制御装置

【課題】 前輪及び後輪の駆動力制御によって車体の挙動を制御するときに走行している車両に発生する前後力の変化を抑制する車両の駆動力制御装置を提供すること。
【解決手段】 電子制御ユニット30は、各輪11〜14について、車両Veを走行させるための走行用駆動力と車体Boの挙動を制御するための制御力との合力が、例えば、駆動力から制動力に反転するか否かを判定する。左右前輪11,12側の合力が反転する場合、インホイールモータ19〜22から減速機構G1〜G4を介して伝達されるモータトルクが反転するため、機構G1〜G4に設定されているバックラッシが詰まるまでモータトルクが伝達されない。このため、ユニット30は、合力が反転しない左右後輪13,14側の合力を、バックラッシが詰まるまでの一定時間保持する。これにより、走行している車両Veにおける前後力の変化を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前輪及び後輪で発生させる駆動力をそれぞれ独立して制御する車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車の一形態として、車輪のホイール内部もしくはその近傍に電動機(電気モータ)を配置し、この電動機により車輪を直接駆動する、所謂、インホイールモータ方式の車両が開発されている。このインホイールモータ方式の車両においては、前輪及び後輪にぞれぞれ設けた電動機を独立して回転制御する、すなわち、各電動機を独立して力行制御又は回生制御することにより、前輪及び後輪に付与する駆動力(駆動トルク)又は制動力(制動トルク)を制御して、車両の駆動力配分を走行状態に応じて適宜制御することができる。
【0003】
そして、このように前輪及び後輪に付与する駆動力(駆動トルク)又は制動力(制動トルク)をそれぞれ独立して制御できる、すなわち、駆動力配分を制御できることを利用して、車体の挙動変化を抑制する制御装置が提案されている。例えば、下記特許文献1には、路面の段差等を通過するときに発生するピッチ挙動に伴う車両の上下方向の振動(ピッチレート)を抑制するとともにヨー方向のヨー挙動を安定させるために、前輪及び後輪に異なる制駆動力を付与して、車両の重心回りに生じるピッチモーメント及びヨーモーメントの発生を制御する車両の制駆動力制御装置が示されている。又、下記特許文献2には、バウンシングもしくはピッチングを抑制するように制御するために、前輪及び後輪の一方に駆動力又は制動力を発生させ、前輪及び後輪の他方に制動力又は駆動力を発生させる車両の制御装置が示されている。更に、下記特許文献3には、検出されたバネ上加速度に基づいて計算される車体の平均バネ上変位及び平均バネ上速度に応じて各車輪に付加すべき駆動力又は制動力を計算し、走行時の駆動力に計算された駆動力又は制動力を付加することによって車体のバウンシングを抑制する車両の制駆動力制御装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−118898号公報
【特許文献2】特開2009−273275号公報
【特許文献3】特開2006−109642号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、上記従来の各制御装置においては、前輪及び後輪に発生させる駆動力(制動力)すなわち制御力を制御することにより、車体の挙動を制御することができる。この場合、車体の挙動によっては、前輪及び後輪の一方に発生させる制御力の向きが逆向き(反転)、具体的には、駆動力から制動力又は制動力から駆動力となる場合がある。この場合、走行している車両においては、走行状態を維持するための前後方向の駆動力も、前記制動力の反転に伴って逆向き(反転)する可能性がある。このように制御力の反転に伴って走行状態を維持するための前後方向の駆動力も反転するときには、駆動力の伝達系の位相遅れ(例えば、減速機構等におけるバックラッシ等)によって反転側における駆動力発生タイミングに遅れ(ずれ)が生じ、走行している車両の前後力が変化して運転者が違和感(ショック)を覚える可能性がある。
【0006】
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、前輪及び後輪の駆動力制御によって車体の挙動を制御するときに走行している車両に発生する前後力の変化を抑制する車両の駆動力制御装置を提供することにある。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車両のバネ下に配置された前輪及び後輪にそれぞれ独立して駆動力を伝達する駆動力発生機構と、前記駆動力発生機構から前記前輪及び後輪にそれぞれ独立して伝達される駆動力を制御して車両を走行させるための走行用駆動力及び車両のバネ上に配置された車体に発生した挙動を制御するための制御力の合力を前記前輪及び後輪に発生させる制御手段とを備えた車両の駆動力制御装置において、前記制御手段が、前記前輪及び後輪の一方に発生させる前記合力の向きが反転するときに、前記前輪及び後輪の他方に発生させる前記合力を保持することにある。尚、この場合、前記制御手段が、前記前輪及び後輪の一方に発生させる前記合力の向きが反転したか否かを判定する判定手段と、前記判定手段によって前記前輪及び後輪の一方に発生させる前記合力の向きが反転したと判定されたときに、前記前輪及び後輪の他方に発生させる前記合力を保持する保持手段とを備えることが可能である。
【0008】
又、この場合、前記制御手段が、前記前輪及び後輪の一方に発生させる前記合力の向きが反転することに伴って前記前輪及び後輪の一方に前記駆動力発生機構からの駆動力が伝達されない期間中は、前記前輪及び後輪の他方に発生させる前記合力を保持することができる。尚、この場合、前記保持手段は、前記判定手段によって前記合力の向きが反転したと判定されたときに、前記前輪及び後輪の一方に前記駆動力発生機構からの駆動力が伝達されない期間中で前記前輪及び後輪の他方に発生させる前記合力を保持することができる。
【0009】
又、これらの場合、前記制御手段が、前記前輪及び後輪の他方に発生させる前記合力を、前記前輪及び後輪の一方に発生させる前記合力の向きが反転した時点における合力から増減させることなく一定時間保持することができる。尚、この場合、前記保持手段は、前記判定手段によって前記合力の向きが反転したと判定されたときに、前記前輪及び後輪の他方に発生させる前記合力を、前記前輪及び後輪の一方に発生させる前記合力の向きが反転した時点における合力から増減させることなく一定時間保持することができる。
【0010】
又、これらの場合、前記制御手段は、例えば、運転者による車両を走行させるための操作状態及び前記車体に発生した運動状態に基づいて、前記車両を走行させるために必要な目標走行用駆動力を演算するとともに前記車体の挙動を制御するための目標運動状態量を演算し、前記演算した目標走行用駆動力及び目標運動状態量を実現するように前記前輪及び後輪に配分される前記走行用駆動力及び前記制御力を演算することができる。尚、この場合、前記制御手段は、更に、運転者による車両を走行させるための操作状態を検出する操作状態検出手段と、車両走行時における前記車体に発生した運動状態を検出する運動状態検出手段と、前記操作状態検出手段によって検出された前記操作状態及び前記運動状態検出手段によって検出された前記運動状態に基づいて、車両を走行させるために必要な目標走行用駆動力を演算するとともに、前記車体の挙動を制御するための目標運動状態量を演算する車体挙動制御値演算手段と、前記車体挙動制御値演算手段によって演算された前記目標走行用駆動力及び前記目標運動状態量を実現するように前記前輪及び後輪に配分される前記走行用駆動力及び前記制御力を演算する駆動力配分演算手段とを備えることができる。
【0011】
そして、この場合には、前記演算した目標走行用駆動力及び目標運動状態量を実現するように前記前輪及び後輪に配分される前記制御力を、大きさが同一であり、かつ、逆向きとすることができる。尚、この場合、駆動力配分演算手段は、前記演算した目標走行用駆動力及び目標運動状態量を実現するように前記前輪及び後輪に配分される前記制御力が、大きさが同一であり、かつ、逆向きとなるように演算することができる。
【0012】
更に、これらの場合、前記駆動力発生機構は、車両の前記前輪及び後輪にそれぞれ減速機構を介して組み付けられる電動機であり、前記制御手段は、前記合力に対応して前記前輪及び後輪に伝達される駆動力として、前記電動機が発生するトルクを制御することができる。
【0013】
これらによれば、車両を走行させるための走行用駆動力及び車両のバネ上に配置された車体に発生した挙動を制御するための制御力の合力が、例えば、車体の挙動を制御するための目標運動状態量を実現する制御力が走行用駆動力よりもその絶対値が大きく、かつ、逆向きの制御力として演算されると、走行用駆動力と制御力との合力が反転する。このように前輪及び後輪の一方の合力が反転する場合には、駆動力発生機構(例えば、前輪及び後輪に対して減速機構を介して組み付けられた電動機)が発生する駆動力の向きが反転する。このため、例えば、複数のギアからなる減速機構を備えている場合には、通常、バックラッシが設けられており、駆動力発生機構(電動機)の駆動力の向きが反転するときにはバックラッシが詰まるまで駆動力が前輪及び後輪に伝達されない期間(空走期間)が生じるものの、このときには、駆動力の伝達が可能な前輪及び後輪の他方の合力を増減させることなく一定時間保持することができる。
【0014】
これにより、車両全体の合力、言い換えれば、走行している車両の前後力としては、駆動力が前輪及び後輪に伝達されない期間においては変化することがない。従って、前輪及び後輪の一方にて合力の反転に伴って駆動力発生機構が駆動力を伝達するときの位相遅れ(例えば、減速機構におけるバックラッシ等)が生じて駆動力発生タイミングに遅れ(ずれ)が発生する場合であっても、前輪及び後輪の他方にて合力を保持することができるため、走行している車両の前後力が変化することを効果的に抑制することができて、運転者が違和感(ショック)を覚えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の車両の駆動力制御装置を適用可能な車両の構成を概略的に示す概略図である。
【図2】走行している車両の前輪及び後輪に発生させる走行用駆動力、制御力及び合力を説明するための概略図である。
【図3】前輪又は後輪の一方にて合力の反転に伴って駆動力が伝達されない空走期間が生じたときに車両に発生する前後力の変化を説明するための図である。
【図4】図1の電子制御ユニットにて実行される制駆動力反転時制御プログラムのフローチャートである。
【図5】前輪又は後輪の一方にて合力の反転に伴って駆動力が伝達されない空走期間が生じたときに、前輪又は後輪の一方にて空走期間に合力を保持することによって車両に前後力の変化が生じないことを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る車両の駆動力制御装置が搭載される車両Veの構成を概略的に示している。
【0017】
車両Veは、左右前輪11,12及び左右後輪13,14を備えている。そして左右前輪11,12は、互いに又はそれぞれ独立してサスペンション機構15,16を介して車両Veのバネ上としての車体Boに支持されている。又、左右後輪13,14は、互いに又はそれぞれ独立してサスペンション機構17,18を介して車両Veの車体Boに支持されている。
【0018】
ここで、サスペンション機構15〜18の構成については、本発明に直接関係しないため、その詳細な説明を省略するが、例えば、ショックアブソーバを内蔵したストラット、コイルスプリング及びサスペンションアーム等から構成されるストラット型サスペンションや、コイルスプリング、ショックアブソーバ及び上下のサスペンションアーム等から構成されるウィッシュボーン型サスペンション等の公知のサスペンションを採用することができる。
【0019】
左右前輪11,12のホイール内部には電動機19,20が、又、左右後輪13,14のホイール内部には電動機21,22がそれぞれ組み込まれていて、それぞれ左右前輪11,12及び左右後輪13,14に対して、例えば、複数のギアから構成される周知の減速機構G1〜G4を介して動力伝達可能に連結されている。すなわち、電動機19〜22は、所謂、インホイールモータ19〜22であり、左右前輪11,12及び左右後輪13,14とともに車両Veのバネ下に配置されている。そして、各インホイールモータ19〜22の回転をそれぞれ独立して制御することにより、左右前輪11,12及び左右後輪13,14に発生させる駆動力(駆動トルク)及び制動力(制動トルク)をそれぞれ独立して制御することができるようになっている。
【0020】
これらの各インホイールモータ19〜22は、例えば、交流同期モータにより構成されていて、インバータ23を介して、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置24の直流電力が交流電力に変換され、その交流電力が各インホイールモータ19〜22に供給されることにより各インホイールモータ19〜22が駆動(すなわち力行)されて、左右前輪11,12及び左右後輪13,14に対してそれぞれ各減速機構G1〜G4を介して駆動トルクが付与する。又、各インホイールモータ19〜22は、左右前輪11,12及び左右後輪13,14の回転エネルギーを利用して回生制御することも可能である。すなわち、各インホイールモータ19〜22の回生・発電時には、各減速機構G1〜G4を介して左右前輪11,12及び左右後輪13,14の回転が各インホイールモータ19〜22に伝達され、伝達された回転に伴う回転(運動)エネルギーが各インホイールモータ19〜22によって電気エネルギーに変換され、その際に生じる電力がインバータ23を介して蓄電装置24に蓄電される。このとき、左右前輪11,12及び左右後輪13,14には、回生・発電力に基づく制動トルクが付与される。従って、各インホイールモータ19〜22、減速機構G1〜G4、インバータ23及び蓄電装置24は本発明の駆動力発生機構を構成する。
【0021】
又、各輪11〜14と、これらに対応する各インホイールモータ19〜22との間には、それぞれ、ブレーキ機構25,26,27,28が設けられている。各ブレーキ機構25〜28は、例えば、ディスクブレーキやドラムブレーキ等の公知の制動装置である。そして、これらのブレーキ機構25〜28は、例えば、図示を省略するマスタシリンダから圧送される油圧により、各輪11〜14に制動力を生じさせるブレーキキャリパのピストンやブレーキシュー(ともに図示省略)等を作動させるブレーキアクチュエータ29に接続されている。
【0022】
上記インバータ23及びブレーキアクチュエータ29は、各インホイールモータ19〜22の回転状態(駆動状態)、及び、ブレーキ機構25〜28の動作状態等を制御する電子制御ユニット30にそれぞれ接続されている。従って、電子制御ユニット30は本発明の制御手段を構成する。
【0023】
電子制御ユニット30は、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、後述するプログラムを含む各種プログラムを実行するものである。このため、電子制御ユニット30には、運転者による車両Veを走行させるための操作状態を検出する操作状態検出手段としての操作状態検出センサ31、走行している車両Veの車体Bo(バネ上)に発生した運動状態を検出する運動状態検出手段としての運動状態検出センサ32、走行している車両Veに作用する外乱を検出する外乱検出センサ33を含む各種センサからの各信号及びインバータ23からの信号が入力されるようになっている。
【0024】
ここで、操作状態検出センサ31は、例えば、図示を省略する操舵ハンドルに対する運転者の操作量(操舵角)を検出する操舵角センサや操作速度(操作角速度)を検出する操舵角速度センサ、図示を省略するアクセルペダルに対する運転者による操作量(踏み込み量や、角度、圧力等)を検出するアクセルセンサ、図示を省略するブレーキペダルに対する運転者による操作量(踏み込み量や、角度、圧力等)を検出するブレーキセンサ等から構成される。又、運動状態検出センサ32は、例えば、車体Bo(バネ上)の上下方向における上下加速度を検出するバネ上上下加速度センサや、車体Boの左右方向における横加速度を検出する横加速度センサ、車体Bo(車両Ve)の車速を検出する車速センサ、或いは、車体Bo(車両Ve)に発生したヨーレートを検出するヨーレートセンサ、車体Bo(車両Ve)に発生したピッチレートを検出するピッチレートセンサ、車体Bo(車両Ve)に発生したロールレートを検出するロールレートセンサ等から構成される。更に、外乱検出センサ33は、例えば、各サスペンション機構15〜18のストローク量を検出するストロークセンサや、各輪11〜14を含む車両Veのバネ下の上下方向における上下加速度を検出するバネ下上下加速度センサ等から構成される。
【0025】
このように、電子制御ユニット30に対して上記各センサ31〜33及びインバータ23が接続されて各信号が入力されることにより、電子制御ユニット30は車両Veの走行状態及び車体Boの挙動を把握して制御することができる。
【0026】
具体的に車両Veの走行状態の制御から説明すると、電子制御ユニット30は、操作状態検出センサ31から入力される信号に基づいて、例えば、運転者がアクセルペダルと操作しているときには、この操作に伴うアクセル操作量に応じた目標走行用駆動力としての走行用駆動力F、すなわち、車両Veを加速させて走行するために各インホイールモータ19〜22が発生すべき駆動力を演算することができる。又、電子制御ユニット30は、操作状態検出センサ31から入力される信号に基づいて、例えば、運転者がブレーキペダルを操作しているときには、この操作に伴うブレーキ操作量に応じた目標走行用駆動力としての走行用駆動力F、すなわち、車両Veを減速させるために各インホイールモータ19〜22及びブレーキ機構25〜28が協調して発生すべき制動力を演算することができる。尚、以下の説明において、運転者による操作入力に応じて車両Veの走行に必要な目標走行用駆動力としての走行用駆動力Fについて、左右前輪11,12及び左右後輪13,14がそれぞれ発生する駆動力(又は制動力)をFd1,Fd2,Fd3,Fd4とし、これら各駆動力(又は制動力)Fd1,Fd2,Fd3,Fd4を合計した4輪合計駆動力を走行用駆動力Fとする。そして、電子制御ユニット30は、インバータ23から入力される信号、具体的には、力行制御時(駆動力発生時)に各インホイールモータ19〜22に供給される電力量や電流値を表す信号や、回生制御時(制動力発生時)に各インホイールモータ19〜22から回生される電力量や電流値を表す信号に基づいて、走行用駆動力F(駆動力又は制動力)に対応する出力トルク(モータトルク)を各インホイールモータ19〜22に発生させる。
【0027】
これにより、電子制御ユニット30は、インバータ23を介して各インホイールモータ19〜22の回転をそれぞれ力行制御又は回生制御する信号やブレーキアクチュエータ29を介して各ブレーキ機構25〜28の動作をそれぞれ制御する信号を出力することができる。従って、電子制御ユニット30は、少なくとも、操作状態検出センサ31から入力される信号に基づいて車両Veを走行させるため走行用駆動力Fを求め、その走行用駆動力Fを発生させるように、力行・回生制御によって各インホイールモータ19〜22を作動させてモータトルクを発生させて、車両Veの走行状態を制御することができる。
【0028】
一方で、電子制御ユニット30は、操作状態検出センサ31、運動状態検出センサ32及び外乱検出センサ33から入力される信号に基づいて、車体Bo(バネ上)の挙動を制御することができる。具体的に、この実施形態における電子制御ユニット30は、各インホイールモータ19〜22のそれぞれが発生する駆動力(又は制動力)に対応するモータトルクの配分を適切に制御することにより、車両Veを上述したように走行させるとともに、駆動力(又は制動力)によるサスペンション反力によって車体Bo(バネ上)に発生した挙動、例えば、ピッチ挙動(ヒーブ挙動)や、ロール挙動、ヨー挙動等を制御する。尚、以下の説明においては、車体Bo(バネ上)に発生した挙動を制御するための駆動力(又は制動力)を制御力とも称呼する。
【0029】
すなわち、電子制御ユニット30は、運動状態検出センサ32から入力した信号に基づいて、例えば、車体Bo(車両Ve)の車速や、車体Boにおけるピッチレート、ロールレート及びヨーレート等を取得する。そして、電子制御ユニット30は、公知の演算手法に従って、車体Boに発生した挙動を制御するための制御目標値として、例えば、目標ピッチモーメントMy、目標ロールモーメントMx及び目標ヨーモーメントMz等を演算する。このように、目標ピッチモーメントMy、目標ロールモーメントMx及び目標ヨーモーメントMz等を演算すると、電子制御ユニット30は、目標ロールモーメントMx、目標ピッチモーメントMy及び目標ヨーモーメントMzを車両Veの重心位置にて発生させるために、各輪11〜14に制御力(駆動力又は制動力)を配分し、左前輪11における制御力Fc1、右前輪12における制御力Fc2、左後輪13における制御力Fc3及び右後輪14における制御力Fc4を演算する。尚、この駆動力の配分については、従来から知られているように、例えば、車両Veにおける各輪11〜14及びサスペンション機構15〜18の幾何学的な配置に基づいて決定されるものである。そして、電子制御ユニット30は、例えば、各輪11〜14のタイヤ半径や減速機構G1〜G4のギア比を用いて、各制御力Fc1,Fc2,Fc3,Fc4に対応して各インホイールモータ19〜22が発生すべきモータトルクT1,T2,T3,T4を演算する。
【0030】
ところで、上記のように、車体Bo(バネ上)に発生した挙動を制御するときには、発生させるべき目標ピッチモーメントMy、目標ロールモーメントMx及び目標ヨーモーメントMz等の大きさや向きによっては、左右前輪11,12に設けられたインホイールモータ19,20が制御力Fc1,Fc2に対応して発生するモータトルクT1,T2の向きと、左右後輪13,14に設けられたインホイールモータ21,22が制御力Fc3,Fc4に対応して発生するモータトルクT3,T4の向きが異なる状況が生じる。具体的に、図2に示すように、車両Veが通常走行している状況において、各インホイールモータ19〜22が進行方向(車両Veに前方)にて上述した走行用駆動力Fすなわち各駆動力Fd1,Fd2,Fd3,Fd4に対応するモータトルクT1,T2,T3,T4を発生させているときに、例えば、外乱の入力によって車体Boに発生したピッチ挙動を制御する必要が生じたとする。この場合、上述したように演算された目標ピッチモーメントMy等を発生させるための駆動力配分により、例えば、左右前輪11,12に設けられたインホイールモータ19,20は継続して走行用駆動力Fすなわち駆動力Fd1,Fd2と同一方向の制御力(駆動力)Fc1,Fc2との合力に対応するモータトルクT1,T2を発生させ、左右後輪13,14に設けられたインホイールモータ21,22は走行用駆動力Fすなわち駆動力Fd3,Fd4と駆動力Fd3,Fd4に対して逆向きとなる制御力(制動力)Fc3,Fc4との合力に対応するモータトルクT3,T4を発生させる状況が生じる場合がある。この場合、左右後輪13,14に設けられたインホイールモータ21,22においては、車両Veを走行させるために必要な走行用駆動力Fすなわち駆動力Fd3,Fd4の大きさに比して車体Boのピッチ挙動を制御するために必要な制御力(制動力)Fc3,Fc4の大きさが大きくなると、図2に示すように、左右後輪13,14における合力として駆動力を発生させている状態から制動力を発生させる状態に駆動方向を反転する、すなわち、発生させるモータトルクT3,T4を逆向きに反転させる必要が生じる。
【0031】
ここで、各インホイールモータ19〜22は、各輪11〜14に対して、減速機構G1〜G4を介して動力伝達可能に連結されている。この場合、特に、減速機構G1〜G4が複数のギアから構成される場合には、通常、これらギア間に所定の大きさのバックラッシが設定されている。このため、インホイールモータ19〜22が発生するモータトルクT1,T2,T3,T4の向き、すなわち、インホイールモータ19〜22の駆動方向(回転方向)が逆転する状況では、減速機構G1〜G4に設定されたバックラッシが詰まるまでの間各輪11〜14に対して反転した駆動力(又は制動力)が伝達されない状態、所謂、空走期間が生じることになる。具体的に、上述したように、左右前輪11,12に設けられたインホイールモータ19,20が継続して駆動力に対応するモータトルクT1,T2を発生させ、左右後輪13,14に設けられたインホイールモータ21,22が駆動力に対して逆向きとなる制動力に対応するモータトルクT3,T4を発生させる状況では、図3(a)に概略的に示すように、左右前輪11,12側では継続して駆動力に対応するモータトルクT1,T2を発生させているために減速機構G1,G2のバックラッシの影響を受けることなく空走期間は生じず、図3(b)に概略的に示すように、左右後輪13,14側では駆動力から制動力への変化に対応してモータトルクT3,T4の向きが逆転するときに空走期間が生じることになる。
【0032】
そして、このように、左右前輪11,12側及び左右後輪13,14側の一方のみに空走期間が生じる状況において、図3(a)に概略的に示したように、空走期間が生じない側のモータトルク(上記例ではインホイールモータ19,20が駆動力に対応して発生しているモータトルクT1,T2)が車体Boの挙動を制御するために変化(具体的には増減)する場合には、図3(b)に概略的に示したように、空走期間が生じている側のモータトルク(上記例ではインホイールモータ21,22が駆動力に対応して発生しているモータトルクT3,T4)による相殺がなされないため、図3(c)に概略的に示すように、インホイールモータ19〜22のモータトルクT1,T2,T3,T4を合計したモータトルク、すなわち、走行している車両Veにおける前後力が変化し、車両Veの乗員はこの前後力の変化に起因する違和感を覚える可能性がある。
【0033】
そこで、電子制御ユニット30は、図4に示す制駆動力反転時制御プログラムを実行することにより、車体Boの挙動制御に伴って走行している車両Veの各輪11〜14にて発生している合力が反転する状況、すなわち、各輪11〜14にて発生している駆動力が制動力に反転する又は制動力が駆動力に反転する状況下で車両Veの前後力の変化を効果的に抑制する。以下、この制駆動力反転時制御プログラムを詳細に説明する。
【0034】
上述したように、操作状態検出センサ31から入力される信号に基づいて走行用駆動力Fが演算されて車両Veが走行を開始すると、電子制御ユニット30は、所定の短い時間間隔により、図4のフローチャートに従って制駆動力反転時制御プログラムを繰り返し実行する。具体的に、電子制御ユニット30は、ステップS10にて制駆動力反転時制御プログラムの実行を開始し、続くステップS11にて、上述した車体Boの挙動制御を実行(開始)しているか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット30は、操作状態検出センサ31、運動状態検出センサ32及び外乱検出センサ33から入力される信号に基づいて車体Boの挙動制御を開始している状況であれば、「Yes」と判定してステップS12に進む。一方、未だ車体Boの挙動制御を開始していない(実行していない)状況であれば、電子制御ユニット30は、車体Boの挙動制御を開始する状況となるまで繰り返し「No」と判定し続ける。
【0035】
ステップS12においては、電子制御ユニット30は、走行用駆動力F、言い換えれば、4輪合計駆動力Fが「0」よりも大きいか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット30は、上述したように、操作状態検出センサ31から入力される信号に基づいて駆動力として走行用駆動力Fを演算していれば、4輪合計駆動力Fが「0」よりも大きいため、「Yes」と判定してステップS13に進む。一方、操作状態検出センサ31から入力される信号に基づいて制動力として走行用駆動力Fを演算していれば、4輪合計駆動力Fが「0」以下となるため、電子制御ユニット30は「No」と判定してステップS21以降の各ステップ処理を実行する。
【0036】
ステップS13においては、電子制御ユニット30は、現在、走行用駆動力Fによって走行している車両Veの左前輪11にて発生している合力に反転(具体的には、駆動力から制動力への反転)が生じたか否かを判定する。具体的に、電子制御ユニット30は、運転者による操作入力に応じて車両Veの走行に必要な走行用駆動力Fを実現するための駆動力Fd1と、車体Boの挙動を制御するための制御力Fc1とを合算して合力を演算する。この場合、制御力Fc1が制動力として演算されており、この制動力Fc1の絶対値が正の値として演算されている駆動力Fd1の絶対値よりも大きい場合には、符号を考慮すると合力が負の値すなわち「0」よりも小さくなる。すなわち、この場合には、合力に反転が生じており、減速機構G1に設定されたバックラッシが詰まるまで空走期間が生じる。従って、電子制御ユニット30は、駆動力Fd1と制御力Fc1とを合算した合力の値が「0」よりも小さくなっていれば、「Yes」と判定してステップS14に進む。一方、駆動力Fd1と制御力Fc1とを合算した合力の値が「0」以上であれば、合力に反転が生じていないため、電子制御ユニット30は、「No」と判定してステップS15に進む。
【0037】
ステップS14においては、電子制御ユニット30は、走行している車両Veに無用な前後力の変化が生じないように、左前輪11にて発生する制御力Fc1と対応する(バランスする)左後輪13の制御力Fc3を一定時間保持する。具体的に説明すると、前記ステップS13の判定処理により、現在、左前輪11においては合力に反転が生じている。すなわち、左前輪11においては、インホイールモータ19が発生するモータトルクT1が反転、言い換えれば、インホイールモータ19の回転方向が逆転する状況が生じており、その結果、減速機構G1のバックラッシに起因する空走期間が発生している。このとき、対応する左後輪13のインホイールモータ21が継続して増大する制御力(駆動力)Fc3に対応するモータトルクT3を発生させていると、図3を用いて説明したように、空走期間が生じているインホイールモータ19はインホイールモータ21が発生しているモータトルクT3(すなわち制御力(駆動力)Fc3)を相殺することができず、走行している車両Veに前後力の変化が生じる。
【0038】
このため、電子制御ユニット30は、ステップS14にて、図5(a),(b)に概略的に示すように、空走期間が生じている左前輪11に対応する左後輪13のインホイールモータ21によるモータトルクT3をモータトルクT1が反転した時点で発生していた大きさにより一定時間だけ保持する。尚、この場合の一定時間としては、例えば、左前輪11に生じている空走期間が経過するまでの時間、すなわち、バックラッシが詰まるまでの時間とすることができる。このように、左後輪13のインホイールモータ21によるモータトルクT3を一定時間だけ保持(維持)することにより、左前輪11に空走期間が生じている間は、左後輪13に発生する制御力Fc3が変化することなく一定に保持されるため、図5(c)に概略的に示すように、左前後輪11,13にて発生する制御力Fc1,Fc3(すなわち、インホイールモータ19,21が発生するモータトルクT1,T3)の合計は一定となる。これにより、走行している車両Veにおける前後力は、変化することなく一定に維持される。そして、電子制御ユニット30は、一定時間だけ左後輪13の制御力Fc3を保持すると、ステップS15に進む。
【0039】
ステップS15においては、電子制御ユニット30は、現在、走行用駆動力Fによって走行している車両Veの右前輪12にて発生している合力に反転(具体的には、駆動力から制動力への反転)が生じたか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット30は、前記ステップS13と同様にして、運転者による操作入力に応じて車両Veの走行に必要な走行用駆動力Fを実現するための駆動力Fd2と、車体Boの挙動を制御するための制御力Fc2とを合算して合力を演算し、この合力の値が「0」よりも小さくなっていれば、合力に反転が生じているため、「Yes」と判定してステップS16に進む。一方、駆動力Fd2と制御力Fc2とを合算した合力の値が「0」以上であれば、合力に反転が生じていないため、電子制御ユニット30は、「No」と判定してステップS17に進む。
【0040】
ステップS16においては、電子制御ユニット30は、走行している車両Veに無用な前後力の変化が生じないように、右前輪12にて発生する制御力Fc2と対応する(バランスする)右後輪14の制御力Fc4を一定時間保持する。すなわち、電子制御ユニット30は、前記ステップS14と同様にして、図5(a),(b)に概略的に示したように、空走期間が生じている右前輪12に対応する右後輪14のインホイールモータ22によるモータトルクT4をモータトルクT2が反転した時点で発生していた大きさにより一定時間だけ保持する。このように、右後輪14のインホイールモータ22によるモータトルクT4を一定時間だけ保持(維持)することにより、右前輪12に空走期間が生じている間は、右後輪14に発生する制御力Fc4が変化することなく一定に保持されるため、図5(c)に概略的に示したように、右前後輪12,14にて発生する制御力Fc2,Fc4(すなわち、インホイールモータ20,22が発生するモータトルクT2,T4)の合計は一定となる。これにより、走行している車両Veにおける前後力は、変化することなく一定に維持される。そして、電子制御ユニット30は、一定時間だけ右後輪14の制御力Fc4を保持すると、ステップS17に進む。
【0041】
ステップS17においては、電子制御ユニット30は、現在、走行用駆動力Fによって走行している車両Veの左後輪13にて発生している合力に反転(具体的には、駆動力から制動力への反転)が生じたか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット30は、前記ステップS13と同様にして、運転者による操作入力に応じて車両Veの走行に必要な走行用駆動力Fを実現するための駆動力Fd3と、車体Boの挙動を制御するための制御力Fc3とを合算して合力を演算し、この合力の値が「0」よりも小さくなっていれば、合力に反転が生じているため、「Yes」と判定してステップS18に進む。一方、駆動力Fd3と制御力Fc3とを合算した合力の値が「0」以上であれば、合力に反転が生じていないため、電子制御ユニット30は、「No」と判定してステップS19に進む。
【0042】
ステップS18においては、電子制御ユニット30は、走行している車両Veに無用な前後力の変化が生じないように、左後輪13にて発生する制御力Fc3と対応する(バランスする)左前輪11の制御力Fc1を一定時間保持する。すなわち、電子制御ユニット30は、前記ステップS14と同様にして、図5(a),(b)に概略的に示したように、空走期間が生じている左後輪13に対応する左前輪11のインホイールモータ19によるモータトルクT1をモータトルクT3が反転した時点で発生していた大きさにより一定時間だけ保持する。このように、左前輪11のインホイールモータ19によるモータトルクT1を一定時間だけ保持(維持)することにより、左後輪13に空走期間が生じている間は、左前輪11に発生する制御力Fc1が変化することなく一定に保持されるため、図5(c)に概略的に示したように、左前後輪11,13にて発生する制御力Fc1,Fc3(すなわち、インホイールモータ19,21が発生するモータトルクT1,T3)の合計は一定となる。これにより、走行している車両Veにおける前後力は、変化することなく一定に維持される。そして、電子制御ユニット30は、一定時間だけ左前輪11の制御力Fc1を保持すると、ステップS19に進む。
【0043】
ステップS19においては、電子制御ユニット30は、現在、走行用駆動力Fによって走行している車両Veの右後輪14にて発生している合力に反転(具体的には、駆動力から制動力への反転)が生じたか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット30は、前記ステップS13と同様にして、運転者による操作入力に応じて車両Veの走行に必要な走行用駆動力Fを実現するための駆動力Fd4と、車体Boの挙動を制御するための制御力Fc4とを合算して合力を演算し、この合力の値が「0」よりも小さくなっていれば、合力に反転が生じているため、「Yes」と判定してステップS20に進む。一方、駆動力Fd4と制御力Fc4とを合算した合力の値が「0」以上であれば、合力に反転が生じていないため、電子制御ユニット30は、「No」と判定してステップS29に進み、制駆動力反転時制御プログラムの実行を一旦終了する。
【0044】
ステップS20においては、電子制御ユニット30は、走行している車両Veに無用な前後力の変化が生じないように、右後輪14にて発生する制御力Fc4と対応する(バランスする)右前輪12の制御力Fc2を一定時間保持する。すなわち、電子制御ユニット30は、前記ステップS14と同様にして、図5(a),(b)に概略的に示したように、空走期間が生じている右後輪14に対応する右前輪12のインホイールモータ20によるモータトルクT2をモータトルクT4が反転した時点で発生していた大きさにより一定時間だけ保持する。このように、右前輪12のインホイールモータ20によるモータトルクT2を一定時間だけ保持(維持)することにより、右後輪14に空走期間が生じている間は、右前輪12に発生する制御力Fc2が変化することなく一定に保持されるため、図5(c)に概略的に示したように、右前後輪12,14にて発生する制御力Fc2,Fc4(すなわち、インホイールモータ20,22が発生するモータトルクT2,T4)の合計は一定となる。これにより、走行している車両Veにおける前後力は、変化することなく一定に維持される。そして、電子制御ユニット30は、一定時間だけ右前輪12の制御力Fc2を保持すると、ステップS29に進み、制駆動力反転時制御プログラムの実行を一旦終了する。
【0045】
一方、前記ステップS12にて「No」と判定すると、電子制御ユニット30は、制動力として走行用駆動力Fが演算されている場合に実行されるステップS21以降の各ステップ処理を実行する。
【0046】
ステップS21においては、電子制御ユニット30は、現在、走行用駆動力Fによって走行(減速)している車両Veの左前輪11にて発生している合力に反転(具体的には、制動力から駆動力への反転)が生じたか否かを判定する。具体的に、電子制御ユニット30は、運転者による操作入力に応じて車両Veの減速に必要な走行用駆動力Fを実現するための制動力Fd1と、車体Boの挙動を制御するための制御力Fc1とを合算して合力を演算する。この場合、制御力Fc1が駆動力として演算されており、この駆動力Fc1の絶対値が負の値として演算されている制動力Fd1の絶対値よりも大きい場合には、符号を考慮すると合力が正の値すなわち「0」よりも大きくなる。すなわち、この場合には、合力に反転が生じており、減速機構G1に設定されたバックラッシが詰まるまで空走期間が生じる。従って、電子制御ユニット30は、制動力Fd1と制御力Fc1とを合算した合力の値が「0」よりも大きくなっていれば、「Yes」と判定してステップS22に進む。一方、制動力Fd1と制御力Fc1とを合算した合力の値が「0」以下であれば、減速状態にて合力に反転が生じていないため、電子制御ユニット30は、「No」と判定してステップS23に進む。
【0047】
ステップS22においては、電子制御ユニット30は、走行(減速)している車両Veに無用な前後力の変化が生じないように、左前輪11にて発生する制御力Fc1と対応する(バランスする)左後輪13の制御力Fc3を一定時間保持する。具体的に説明すると、前記ステップS21の判定処理により、現在、左前輪11においては合力に反転が生じている。すなわち、左前輪11においては、インホイールモータ19が発生するモータトルクT1が反転、言い換えれば、インホイールモータ19の回転方向が逆転する状況が生じており、その結果、減速機構G1のバックラッシに起因する空走期間が発生している。このとき、対応する左後輪13のインホイールモータ21が継続して増大する制御力(制動力)Fc3に対応するモータトルクT3を発生させていると、車両Veが減速している状況であっても、図3を用いて説明したように、空走期間が生じているインホイールモータ19はインホイールモータ21が発生しているモータトルクT3(すなわち制御力(制動力)Fc3)を相殺することができず、減速している車両Veに前後力の変化が生じる。
【0048】
このため、電子制御ユニット30は、ステップS22にて、図5(a),(b)に概略的に示すように、減速状態により空走期間が生じている左前輪11に対応する左後輪13のインホイールモータ21によるモータトルクT3をモータトルクT1が反転した時点で発生していた大きさにより一定時間だけ保持する。このように、左後輪13のインホイールモータ21によるモータトルクT3を一定時間だけ保持(維持)することにより、左前輪11に空走期間が生じている間は、左後輪13に発生する制御力Fc3が変化することなく一定に保持されるため、図5(c)に概略的に示すように、左前後輪11,13にて発生する制御力Fc1,Fc3(すなわち、インホイールモータ19,21が発生するモータトルクT1,T3)の合計は一定となる。これにより、減速している車両Veにおける前後力は、変化することなく一定に維持される。そして、電子制御ユニット30は、一定時間だけ左後輪13の制御力Fc3を保持すると、ステップS23に進む。
【0049】
ステップS23においては、電子制御ユニット30は、現在、走行用駆動力Fによって走行(減速)している車両Veの右前輪12にて発生している合力に反転(具体的には、制動力から駆動力への反転)が生じたか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット30は、前記ステップS21と同様にして、運転者による操作入力に応じて車両Veの減速に必要な走行用駆動力Fを実現するための制動力Fd2と、車体Boの挙動を制御するための制御力Fc2とを合算して合力を演算し、この合力の値が「0」よりも大きくなっていれば、合力に反転が生じているため、「Yes」と判定してステップS24に進む。一方、制動力Fd2と制御力Fc2とを合算した合力の値が「0」以下であれば、減速状態にて合力に反転が生じていないため、電子制御ユニット30は、「No」と判定してステップS25に進む。
【0050】
ステップS24においては、電子制御ユニット30は、走行(減速)している車両Veに無用な前後力の変化が生じないように、右前輪12にて発生する制御力Fc2と対応する(バランスする)右後輪14の制御力Fc4を一定時間保持する。すなわち、電子制御ユニット30は、前記ステップS22と同様にして、図5(a),(b)に概略的に示したように、減速状態により空走期間が生じている右前輪12に対応する右後輪14のインホイールモータ22によるモータトルクT4をモータトルクT2が反転した時点で発生していた大きさにより一定時間だけ保持する。このように、右後輪14のインホイールモータ22によるモータトルクT4を一定時間だけ保持(維持)することにより、右前輪12に空走期間が生じている間は、右後輪14に発生する制御力Fc4が変化することなく一定に保持されるため、図5(c)に概略的に示したように、右前後輪12,14にて発生する制御力Fc2,Fc4(すなわち、インホイールモータ20,22が発生するモータトルクT2,T4)の合計は一定となる。これにより、減速している車両Veにおける前後力は、変化することなく一定に維持される。そして、電子制御ユニット30は、一定時間だけ右後輪14の制御力Fc4を保持すると、ステップS25に進む。
【0051】
ステップS25においては、電子制御ユニット30は、現在、走行用駆動力Fによって走行(減速)している車両Veの左後輪13にて発生している合力に反転(具体的には、制動力から駆動力への反転)が生じたか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット30は、前記ステップS21と同様にして、運転者による操作入力に応じて車両Veの減速に必要な走行用駆動力Fを実現するための制動力Fd3と、車体Boの挙動を制御するための制御力Fc3とを合算して合力を演算し、この合力の値が「0」よりも大きくなっていれば、合力に反転が生じているため、「Yes」と判定してステップS26に進む。一方、制動力Fd3と制御力Fc3とを合算した合力の値が「0」以下であれば、減速状態にて合力に反転が生じていないため、電子制御ユニット30は、「No」と判定してステップS27に進む。
【0052】
ステップS26においては、電子制御ユニット30は、走行(減速)している車両Veに無用な前後力の変化が生じないように、左後輪13にて発生する制御力Fc3と対応する(バランスする)左前輪11の制御力Fc1を一定時間保持する。すなわち、電子制御ユニット30は、前記ステップS22と同様にして、図5(a),(b)に概略的に示したように、減速状態により空走期間が生じている左後輪13に対応する左前輪11のインホイールモータ19によるモータトルクT1をモータトルクT3が反転した時点で発生していた大きさにより一定時間だけ保持する。このように、左前輪11のインホイールモータ19によるモータトルクT1を一定時間だけ保持(維持)することにより、左後輪13に空走期間が生じている間は、左前輪11に発生する制御力Fc1が変化することなく一定に保持されるため、図5(c)に概略的に示したように、左前後輪11,13にて発生する制御力Fc1,Fc3(すなわち、インホイールモータ19,21が発生するモータトルクT1,T3)の合計は一定となる。これにより、減速している車両Veにおける前後力は、変化することなく一定に維持される。そして、電子制御ユニット30は、一定時間だけ右後輪14の制御力Fc1を保持すると、ステップS27に進む。
【0053】
ステップS27においては、電子制御ユニット30は、現在、走行用駆動力Fによって走行している車両Veの右後輪14にて発生している合力に反転(具体的には、制動力から駆動力への反転)が生じたか否かを判定する。すなわち、電子制御ユニット30は、前記ステップS21と同様にして、運転者による操作入力に応じて車両Veの走行に必要な走行用駆動力Fを実現するための制動力Fd4と、車体Boの挙動を制御するための制御力Fc4とを合算して合力を演算し、この合力の値が「0」よりも大きくなっていれば、合力に反転が生じているため、「Yes」と判定してステップS28に進む。一方、制動力Fd4と制御力Fc4とを合算した合力の値が「0」以下であれば、減速状態にて合力に反転が生じていないため、電子制御ユニット30は、「No」と判定してステップS29に進み、制駆動力反転時制御プログラムの実行を一旦終了する。
【0054】
ステップS28においては、電子制御ユニット30は、走行している車両Veに無用な前後力の変化が生じないように、右後輪14にて発生する制御力Fc4と対応する(バランスする)右前輪12の制御力Fc2を一定時間保持する。すなわち、電子制御ユニット30は、前記ステップS22と同様にして、図5(a),(b)に概略的に示したように、減速状態により空走期間が生じている右後輪14に対応する右前輪12のインホイールモータ20によるモータトルクT2をモータトルクT4が反転した時点で発生していた大きさにより一定時間だけ保持する。このように、右前輪12のインホイールモータ20によるモータトルクT2を一定時間だけ保持(維持)することにより、右後輪14に空走期間が生じている間は、右前輪12に発生する制御力Fc2が変化することなく一定に保持されるため、図5(c)に概略的に示したように、右前後輪12,14にて発生する制御力Fc2,Fc4(すなわち、インホイールモータ20,22が発生するモータトルクT2,T4)の合計は一定となる。これにより、減速している車両Veにおける前後力は、変化することなく一定に維持される。そして、電子制御ユニット30は、一定時間だけ右前輪12の制御力Fc2を保持すると、ステップS29に進み、制駆動力反転時制御プログラムの実行を一旦終了する。
【0055】
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、電子制御ユニット30は、各輪11〜14について、車両Veを走行させるための走行用駆動力Fを実現する駆動力Fc1,Fc2,Fc3,Fc4及び車両Veのバネ上に配置された車体Boに発生した挙動を制御するための制御力Fc1,Fc2,Fc3,Fc4の合力が反転しているか否かを判定することができる。そして、合力が反転していれば、合力の反転が生じた車輪(左右前輪11,12又は左右後輪13,14)に対応する車輪(左右後輪13,14又は左右前輪11,12)の合力を一定時間保持することができる。
【0056】
これにより、車両Ve全体の合力、言い換えれば、走行している車両Veの前後力としては、左右前輪11,12又は左右後輪13,14に発生した空走期間においては変化することがない。従って、左右前輪11,12又は左右後輪13,14にて合力の反転に伴ってインホイールモータ19,20又はインホイールモータ21,22がモータトルクT1,T2又はモータトルクT3,T4を伝達するときの位相遅れ(例えば、減速機構G1,G2又は減速機構G3,G4におけるバックラッシ等)が生じてモータトルクT1,T2又はモータトルクT3,T4の伝達タイミングに遅れ(ずれ)が発生する場合であっても、合力の反転が生じた車輪(左右前輪11,12又は左右後輪13,14)に対応する車輪(左右後輪13,14又は左右前輪11,12)にて合力を保持することができるため、走行している車両の前後力が変化することを効果的に抑制することができて、運転者が違和感(ショック)を覚えることがない。
【0057】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態においては、電子制御ユニット30が制御力Fc1,Fc2,Fc3,Fc4をそれぞれ独立して制御するように実施した。この場合、車両Veの前後方向運動に影響を与えない、言い換えれば、車両Veに加減速度を生じさせないように、左右前輪11,12側で発生させる制御力Fc1,Fc2と左右後輪13,14側とで発生させる制御力Fc3,Fc4とを互いに逆方向であり、かつ、その絶対値を同一として実施することも可能である。これにより、左右前輪11,12側で発生させる制御力Fc1,Fc2と左右後輪13,14側で発生させる制御力Fc3,Fc4とで駆動力差(又は制動力差)が互いに相殺し合うため、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0059】
又、上記実施形態においては、電子制御ユニット30が制御力Fc1,Fc2,Fc3,Fc4をそれぞれ独立して制御するように実施した。この場合、例えば、電子制御ユニット30が、左右前輪11,12が協働して発生させる前輪側の制御力(駆動力又は制動力)と左右後輪13,14が協働して発生させる後輪側の制御力(駆動力又は制動力)をそれぞれ演算するように実施することも可能である。これによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0060】
11,12…前輪、13,14…後輪、15,16,17,18…サスペンション機構、19,20,21,22…電動機(インホイールモータ)、23…インバータ、24…蓄電装置、25,26,27,28…ブレーキ機構、29…ブレーキアクチュエータ、30…電子制御ユニット、31…操作状態検出センサ、32…運動状態検出センサ、33…外乱検出センサ、G1,G2,G3,G4…減速機構、Ve…車両、Bo…車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のバネ下に配置された前輪及び後輪にそれぞれ独立して駆動力を伝達する駆動力発生機構と、前記駆動力発生機構から前記前輪及び後輪にそれぞれ独立して伝達される駆動力を制御して車両を走行させるための走行用駆動力及び車両のバネ上に配置された車体に発生した挙動を制御するための制御力の合力を前記前輪及び後輪に発生させる制御手段とを備えた車両の駆動力制御装置において、
前記制御手段が、
前記前輪及び後輪の一方に発生させる前記合力の向きが反転するときに、前記前輪及び後輪の他方に発生させる前記合力を保持することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両の駆動力制御装置において、
前記制御手段が、
前記前輪及び後輪の一方に発生させる前記合力の向きが反転することに伴って前記前輪及び後輪の一方に前記駆動力発生機構からの駆動力が伝達されない期間中は、前記前輪及び後輪の他方に発生させる前記合力を保持することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
請求項1及び請求項2の記載した車両の駆動力制御装置において、
前記制御手段が、
前記前輪及び後輪の他方に発生させる前記合力を、前記前輪及び後輪の一方に発生させる前記合力の向きが反転した時点における合力から増減させることなく一定時間保持することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか一つに記載した車両の駆動力制御装置において、
前記制御手段は、
運転者による車両を走行させるための操作状態及び前記車体に発生した運動状態に基づいて、前記車両を走行させるために必要な目標走行用駆動力を演算するとともに前記車体の挙動を制御するための目標運動状態量を演算し、
前記演算した目標走行用駆動力及び目標運動状態量を実現するように前記前輪及び後輪に配分される前記走行用駆動力及び前記制御力を演算することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載した車両の駆動力制御装置において、
前記演算した目標走行用駆動力及び目標運動状態量を実現するように前記前輪及び後輪に配分される前記制御力は、大きさが同一であり、かつ、逆向きであることを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか一つに記載した車両の駆動力制御装置において、
前記駆動力発生機構は、車両の前記前輪及び後輪にそれぞれ減速機構を介して組み付けられる電動機であり、
前記制御手段は、
前記合力に対応して前記前輪及び後輪に伝達される駆動力として、前記電動機が発生するトルクを制御することを特徴とする車両の駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−85375(P2013−85375A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223582(P2011−223582)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】