説明

車両の駆動装置

【課題】エンジンの冷却水温が低い場合のエンジンの始動性を確保出来る車両の駆動装置を提供すること。
【解決手段】エンジン120と、蓄電器220と、蓄電器220から電力の供給を受けてエンジン120を始動するモータ140Aと、エンジンの冷却水温と回転数とに応じてエンジン120始動時の燃料噴射量を算出する車両の駆動装置であって、エンジン始動時に、エンジンの冷却水温が判定値未満の場合は、モータ140Aの出力を制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを有する車両の駆動装置に係るものであって、特にエンジンの冷却水温が低い場合のエンジンの始動性を向上させるものである。
【背景技術】
【0002】
エンジン始動時において、エンジンの冷却水温に応じて燃料噴射量を算出した後、算出した燃料噴射量をエンジンの回転数に応じて補正する技術が特開平11−173188号公報により開示されている。
【0003】
まず、エンジンの冷却水温よりエンジン始動時の燃料噴射量を算出する理由は、エンジンの冷却水温と、燃料の揮発性との相関関係に着目しているからである。エンジンの冷却水温が低い場合は燃料の揮発性が低くなり、燃料が引火しにくい。また、エンジンの冷却水温が高い場合は燃料の揮発性が高くなり、燃料が引火しやすい。ゆえに、エンジンの始動性を向上させるためには、エンジンの冷却水温が低い場合はエンジン始動時の燃料噴出量を多く、そしてエンジンの冷却水温が高い場合はエンジン始動時の燃料噴射量を低く設定することが望ましい。
【0004】
一方、エンジンの回転数よりエンジン始動時の燃料噴射量を補正する理由は、エンジンの回転数と、吸気管からシリンダ内へと発生する負圧との相関関係に着目しているからである。エンジンの回転数が低い場合には、吸気管からシリンダ内へと発生する負圧が低いため、吸気管内で噴射された燃料がシリンダ内へと入って行き難い。また、エンジンの回転数が高い場合には、吸気管からシリンダ内へと発生する負圧が高いため、吸気管内で噴射された燃料がシリンダ内へと入って行き易い。ゆえに、エンジンの始動性をさらに向上させるためには、エンジンの回転数が低い場合はエンジン始動時の燃料噴射量を大きく補正し、そしてエンジンの回転数が高い場合はエンジン始動時の燃料噴射量を小さく補正することが望ましい。
【0005】
尚、前述した事象(エンジン始動時にエンジンの回転数が変動する現象)は、例えば、エンジンの冷却水温に応じて変化する潤滑油の粘性やフリクションなどにより生ずることが知られている。
【0006】
前述した理由より、従来の車両においては、エンジンの冷却水温に応じてエンジン始動時の燃料噴射量を算出し、さらにエンジンの回転数に応じてエンジン始動時の燃料噴射量を補正することで、エンジン始動時の燃料噴射量を適切に設定することを可能としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−173188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、前述の従来技術を、近年開発が進められているハイブリッド車やプラグインハイブリッド車(以下、ハイブリッド車等と記す)に適用すると、以下に示す問題が生じる。
【0009】
ハイブリッド車等に搭載されるモータ及び蓄電器は、従来の始動を行っていたものと比べて高出力化が進められている。モータの出力はモータに電力を供給する蓄電器の最大許容出力によって決まり、蓄電器の最大許容出力が高い場合に高く、蓄電器の最大許容出力が低い場合に低く設定される。また、蓄電器の最大許容出力は蓄電器の残存容量により決まり、蓄電器の残存容量が高い場合に高く、蓄電器の残存容量が低い場合に低く設定される。ハイブリッド車等ではこのモータを用いてエンジンの始動を行うので、蓄電器の残存容量が高い場合は、エンジン始動時の回転数を従来より高く設定することが可能となった。
【0010】
前述の従来技術では、エンジン始動時のエンジンの回転数は低かったためエンジン始動時の燃料噴射量の補正は適切に行われていた。しかしながら、ハイブリッド車等では蓄電器の残存容量が高い場合はエンジンを始動するモータの出力が高くなり、その結果エンジン始動時のエンジンの回転数も高くなるので、エンジン始動時の燃料噴射量の補正が適切に行われない可能性がある。この事象がエンジンの冷却水温が高い場合に発生しても、前述の通りエンジンの冷却水温が高い場合は燃料の揮発性が高くエンジンの始動性が良いため、エンジンは始動する。しかしながら、この事象がエンジンの冷却水温が低い場合に発生すると、前述の通りエンジンの冷却水温が低い場合は燃料の揮発性が低くエンジンの始動性が悪いため、エンジンが燃料不足となりエンジンが始動しにくくなる虞がある。
【0011】
本発明は、上記の問題を解決するものであって、その目的はエンジンの冷却水温が低い場合のエンジンの始動性を確保出来る車両の駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、第1の発明に係る車両の駆動装置は、エンジンと、蓄電器と、前記蓄電器から電力の供給を受けて前記エンジンを始動するモータと、前記エンジンの冷却水温と回転数とに応じて該エンジン始動時の燃料噴射量を算出する車両の駆動装置であって、該エンジン始動時に、該エンジンの冷却水温が判定値未満の場合は、前記モータの出力を制限することを特徴とする。
【0013】
第2の発明に係る車両の駆動装置は、第1の発明の構成に加えて、前記エンジンの冷却水温に応じて該エンジン始動時の燃料噴射量を算出し、該エンジンの回転数に応じて該エンジン始動時の燃料噴射量を補正することで該エンジン始動時の燃料噴射量を算出することを特徴とする。
【0014】
第3の発明に係る車両の駆動装置は、第1及び第2の発明の構成に加えて、前記エンジンの冷却水温が判定値未満であり、且つ前記蓄電器の残存容量が所定値以上の場合に、前記モータの出力を制限することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明に係る車両の駆動装置によれば、エンジンの冷却水温が判定値未満の場合にエンジンの始動を行うモータの出力を制限することで、エンジン始動時のエンジンの回転数を低く抑える。よって、エンジン始動時の燃料噴射量を高くする必要があるエンジンの冷却水温が低い場合に、エンジンの回転数を低く抑えるので、エンジン始動時の燃料噴射量をより適切に算出することが出来る。
【0016】
第2の発明に係る車両の駆動装置によれば、エンジン始動時にエンジンの冷却水温に応じてエンジン始動時の燃料噴射量を算出し、エンジンの回転数に応じてエンジン始動時の燃料噴射量を補正するので、エンジン始動時の燃料噴射量をより適切に算出及び補正することが出来る。
【0017】
第3の発明に係る車両の駆動装置によれば、エンジン始動時にエンジンの冷却水温が低く且つ蓄電器の残存容量が高い場合にモータの出力を低く抑える。よって、エンジン始動時の燃料噴射量を高くする必要があり、さらにモータの出力が高くなる場合、つまりエンジンの冷却水温が低く、且つ蓄電器の残存容量が高い場合でもエンジンの回転数を低く抑えることが可能となるので、エンジン始動時の燃料噴射量をより適切に算出することが出来る。
【0018】
尚、本発明に係る車両の駆動装置は、モータの出力を制限しているが、モータの出力を制限する方法として、前述したようにモータの出力がモータに電力を供給する蓄電器の最大許容出力によって決まる場合は、蓄電器の最大許容出力を制限することによりモータの出力を制限することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の駆動装置の構造を示す図である。
【図2】図1の車両の駆動装置に設けられた電子制御装置に備えられた制御機能の要部を示す機能ブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る、エンジン始動時の燃料噴射量の算出方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る、蓄電器の最大許容出力よりエンジン始動時のモータ出力を算出するためのマップである。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る、エンジンの冷却水温及びエンジン回転数よりエンジン始動時の燃料噴射量を算出するマップである。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る、エンジンの冷却水温よりエンジン始動時の燃料噴射量を算出するためのマップである。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る、エンジンの回転数よりエンジン始動時の燃料噴射量の補正係数を算出するためのマップである。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る、エンジン始動時の燃料噴射量の算出方法を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る、時間に対するエンジン始動時のエンジンの回転数と燃料噴射量との変化を表したタイムチャートである。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る、時間に対するエンジン始動時の回転数、燃料噴射量及び補正係数の変化を表したタイムチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1の実施形態)
図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る車両の駆動装置の構造を説明する。
【0021】
車両は、エンジン120と、エンジンを制御するENG_ECU280と、主に発電に用いられる第1のモータ140Aと、主に駆動に用いられる第2のモータ140Bと、第1のモータ140Aと第2のモータ140Bとを制御するMG_ECU300と、第1のモータ140Aと第2のモータ140Bとに電力を供給する蓄電器220と、蓄電器220を制御するBAT_ECU260と、ENG_ECU280、MG_ECU300及びBAT_ECU260を相互に管理制御するHV_ECU320とを含む。
【0022】
車両はその他にエンジン120で発生する動力を駆動輪160と第1のモータ140Aとに分割する動力分割機構200と、蓄電器220の直流電流を交流電流に、また第1のモータ140Aによって発電された交流電流を直流電流に変換するインバータ240と、エンジン120及び第2のモータ140Bにて発生した動力を駆動輪160に、また駆動輪160の駆動をエンジン120や第2のモータ140Bに伝達する減速機180と、蓄電器220とインバータ240との間に設けられ、蓄電器220から第1のモータ140A及び第2のモータ140Bへ電力を供給する場合は電力を昇圧し、逆に第1のモータ及び第2のモータ140Bより蓄電器220へ電力を供給する場合は電力を降圧するコンバータ242と、図示しない外部電源からの電力供給を受け蓄電器220を充電する充電器222とを含む。
【0023】
動力分割機構200には、エンジン120の動力を駆動輪160と発電機140Aとの両方に振り分けるため、プラネタリーキャリアと、サンギヤと、リングギヤとを備えた遊星歯車機構(プラネタリーギヤ)が使用される。エンジン120はプラネタリーキャリアに、発電機140Aはサンギヤに、電動機140B及び駆動輪160はリングギヤにそれぞれ接続される。エンジン120の出力はプラネタリーキャリアに入力され、それがサンギヤによって発電機140Aに、リングギヤによって電動機140B及び駆動輪160Bに伝えられる。エンジン120を始動させる場合には蓄電器220の電力を用いて発電機140Aを駆動してエンジン120を始動し、作動中のエンジン120を停止させる場合にはエンジン120の出力を発電機140Aを用いて電力に変換しエンジン120の回転数を下げていく。
【0024】
インバータ240は、図示しない6つのIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)と、各IGBTにそれぞれ並列に接続された図示しない6つのダイオードとを含み、モータECU300からの信号に基づいて、発電機140Aと電動機140Bとを制御する。インバータ240は発電機140Aを制御する場合は、各IGBTのゲートをオンまたはオフ(通電または遮断)して発電機140Aが発電した交流電力を直流電力に変換し、蓄電器220に充電する。インバータ240は電動機140Bを制御する場合は、各IGBTのゲートをオンまたはオフ(通電または遮断)して蓄電器220から供給された直流電力を交流電力に変換し、電動機140Bに供給する。
【0025】
コンバータ242は、蓄電器220とインバータ240との間に設けられる。蓄電器220の定格電圧が発電機140Aや電動機140Bの定格電圧よりも低いので、蓄電器220から発電機140Aや電動機140Bに電力を供給する場合にはコンバータ242で電力を昇圧する。尚、充電する場合には昇圧コンバータ242で降圧して蓄電器220に充電電力を供給する。
【0026】
充電器222は図示しない外部電源より蓄電器220に供給される電力の電圧及び電流を制御する。つまり、外部電源より供給される交流電流を直流電流に変換すると共に、必要に応じて外部電源からの電圧を調圧して蓄電器220に供給する。
【0027】
次に、図2の機能ブロック図を参照して、本発明の実施形態に係る車両の駆動装置に設けられたENG_ECU300、HV_ECU320等の電子制御装置の制御機能について説明する。
【0028】
BAT_ECU260は、蓄電器残存容量算出手段262と、蓄電器最大許容出力算出手段264とを有する。
【0029】
蓄電器残存容量算出手段262は、図示しないセンサより検出された蓄電器220の電圧値、電流値、温度より蓄電器220の残存容量SOCを算出する。
【0030】
蓄電器最大許容出力算出手段264は、蓄電器残存容量算出手段262より算出された蓄電器220の残存容量SOCを読み込み、蓄電器220の残存容量SOCと蓄電器220の温度とより蓄電器220の最大許容出力Woutを算出する。
【0031】
ENG_ECU280はエンジン制御手段282と、エンジン回転数検出手段284と、冷却水温検出手段286とを有する。
【0032】
エンジン制御手段282は、後述するエンジン始動制御手段322により算出されたエンジン120始動時の燃料噴射量Fegを読み込み、図示しない燃料噴射弁よりエンジン120始動時の燃料噴射量Fegを噴射するようエンジン120を制御する。
【0033】
エンジン回転数検出手段284は、図示しないセンサを用いてエンジン120の回転数Negを検出する。
【0034】
エンジン冷却水温検出手段286は、図示しないセンサを用いてエンジン120の冷却水温Tegを検出する。
【0035】
MG_ECU300はモータ制御手段302を有する。モータ制御手段302はエンジン120を始動する場合に、後述するエンジン始動制御手段322が算出したエンジン120を始動するための第1のモータ140Aの出力を読み込み、第1のモータ140Aを制御してエンジン120の始動を行う。
【0036】
HV_ECU320はエンジン始動制御手段322を有する。
【0037】
エンジン始動制御手段322は、車両が所定の条件(ドライバの要求する駆動力を第2のモータ140Bの出力のみで満足することが出来なくなった場合、蓄電器220の残存容量SOCが所定値未満となった場合等)を満足した場合に、蓄電器最大許容出力算出手段264より蓄電器220の最大許容出力Woutと、エンジン冷却水温検出手段286よりエンジン120の冷却水温Tegと、エンジン回転数検出手段284よりエンジン120の回転数Negとをそれぞれ読み込む。そして、読み込んだ蓄電器220の最大許容出力Woutを基に第1のモータ140Aの出力Wmgを算出し、さらに読み込んだエンジン120の冷却水温Tegが判定値Tlim未満なら、第1のモータ140Aの出力Wmgを制限するために上限値Wlimを設ける。そして、エンジン始動制御手段322は読み込んだエンジン120の冷却水温Tegと読み込んだエンジン120の回転数Negとによりエンジン120始動時の燃料噴射量Fegを算出する。
【0038】
つまり、エンジン始動制御手段322はエンジン120の冷却水温Tegが判定値Tlim未満の場合にエンジン120の始動を行う第1のモータ140Aの出力Wmgを制限するために上限値Wlimを設けることで、エンジン120始動時のエンジン120の回転数Negを低く抑える。よって、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegを高くする必要があるエンジン120の冷却水温Tegが低い場合に、エンジン120の回転数Negを低く抑えるので、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegをより適切に算出することが出来る。
【0039】
このような制御機能を有する本発明の実施形態に係る車両の駆動装置は、デジタル回路やアナログ回路の構成を主体としたハードウェアでも、単一又は複数のECU内に含まれるCPU(Central Processing Unit)およびメモリとメモリから読み出されてCPUで実行されるプログラムとを主体としたソフトウェアでも実現することが可能である。
【0040】
次に、図3のフローチャートを参照して、ENG_ECU300、ハイブリッドECU320等の電子制御装置の制御作動のうち、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegを算出する場合に実行するエンジン始動制御手段322の制御作動について説明する。
【0041】
図3において、ステップ(以下、Sと記す)10では、車両が所定の条件(ドライバの要求する駆動力を第2のモータ140Bの出力のみで満足することが出来なくなった場合、蓄電器220の残存容量SOCが所定値未満となった場合等)を満足した場合に、エンジン始動制御手段322はエンジン120を始動する必要があるとして、エンジン冷却水温検出手段286により検出されたエンジン120の冷却水温Tegを読み込み、エンジン120の冷却水温Tegが判定値Tlim未満か否かを判断する。エンジン120の冷却水温Tegが判定値Tlim未満の場合はS10の判断を肯定してS20を実行する。エンジン120の冷却水温Tegが判定値Tlim以上ならS10の判断を否定してS30を実行する。
【0042】
S20では、S10にてエンジン120の冷却水温Tegが判定値Tlim未満であると判断したので、エンジン120の始動性を向上させるためにエンジン120始動時のエンジン120の回転数Negを低く抑え、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegを大きくする必要があるため、エンジン始動制御手段322は第1のモータ140Aの出力Wmgを制限するために上限値Wlimを設けてS40を実行する。
【0043】
S30では、蓄電器最大出力算出手段264により算出された蓄電器220の最大許容出力Woutを読み込み、図4のマップを用いて第1のモータ140Aの出力Wmgを算出してS40を実行する。尚、S20にて第1のモータ140Aの出力Wmgに上限値Wlimを設けている場合は、第1のモータ140Aの出力Wmgは上限値Wlim以下となるよう算出される。
【0044】
S40では、S30にて算出した第1のモータ140Aの出力Wmgを出力するようモータ制御手段302に信号を送信し、S50を実行する。尚、モータ制御手段302はこの信号を受け、エンジン始動制御手段322が算出した第1のモータ140Aの出力Wmgを読み込み、第1のモータ140Aを制御して、エンジン120の始動を行う。
【0045】
S50では、エンジン冷却水温検出手段286よりエンジン120の冷却水温Tegと、エンジン回転数検出手段284よりエンジン120の回転数Negとを読み込み、図5のマップを用いてエンジン120始動時の燃料噴射量Fegを算出してS60を実行する。
【0046】
S60では、S50にて算出したエンジン120始動時の燃料噴射量Fegを図示しない燃料噴射弁より噴射するようエンジン制御手段282に信号を送信し、S70を実行する。
【0047】
S70では、エンジン回転数検出手段284より検出されたエンジン120の回転数Negを読み込み、エンジン120の回転数Negが完爆判定値γより大きいか否かを判断する。エンジン120の回転数Negが完爆判定値γより大きい場合はS70の判断を肯定して、エンジン120が完爆したと判断して本ルーチンを終了したあと、次の制御サイクルを開始する。エンジン120の回転数Negが完爆判定値γより以下場合はS70の判断を否定して、エンジン120が完爆していないと判断してS50を再び実行する。
【0048】
以上のように、本発明の第1の実施形態に係る車両の駆動装置によれば、エンジン始動制御手段322はエンジン120の冷却水温Tegが判定値Tlim未満の場合にエンジン120の始動を行う第1のモータ140Aの出力Wmgを制限するために上限値Wlimを設けることで、エンジン120始動時のエンジン120の回転数Negを低く抑える。よって、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegを高くする必要があるエンジン120の冷却水温Tegが低い場合に、エンジン120の回転数Negを低く抑えるので、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegをより適切に算出することが出来る。
【0049】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態に係る車両の駆動装置は前述の第1の実施形態に係る車両の駆動装置と比較して、エンジン120始動時の燃料噴射量の算出方法Fegが異なる。これら以外の構成及びENG_ECU300、ハイブリッドECU320等の電子制御装置の制御作動は、前述の第1の実施形態に係る車両の駆動装置と同じであるため、本発明の第2の実施形態でも第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0050】
第2の実施形態に係る車両の駆動装置のエンジン始動制御手段322は、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegを算出する場合に、エンジン冷却水温検出手段286よりエンジン120の冷却水温Tegと、そしてエンジン回転数検出手段284よりエンジン120の回転数Negとを読み込む。そして、読み込んだエンジン120の冷却水温Tegと図6のマップとを基にエンジン120始動時の燃料噴射量Fegを、そして読み込んだエンジン120の回転数Negと図7のマップとを基に補正係数Fhkを算出し、補正係数Fhkをエンジン120始動時の燃料噴射量Fegに乗じることでエンジン120始動時の燃料噴射量Fegの補正を行う。
【0051】
以上のように、本発明の第2の実施形態に係る車両の駆動装置によれば、エンジン始動制御手段322はエンジン120の冷却水温Tegに応じてエンジン120始動時の燃料噴射量Fegを、そしてエンジン120の回転数Negに応じて補正係数Fhkを算出し、補正係数Fhkをエンジン120始動時の燃料噴射量Fegに乗じることでエンジン120始動時の燃料噴射量Fegの補正を行うので、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegをエンジン120の冷却水温Tegやエンジン120の回転数Negに応じてより適切に算出することが出来る。
【0052】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。第3の実施形態に係る車両の駆動装置は第1及び第2の実施形態に係る車両の駆動装置と比較して、エンジン始動制御手段322で実行される第1のモータ140Aの出力Wmgに上限値Wlimを設ける条件が異なる。これら以外の構成及びENG_ECU300、ハイブリッドECU320等の電子制御装置の制御作動は、第1及び第2の実施形態に係る車両の駆動装置と同じ構成であるため、本発明の第3の実施形態でも第1及び第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【0053】
図8のフローチャートを参照して、ENG_ECU300、ハイブリッドECU320等の電子制御装置の制御作動のうち、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegを算出する場合に実行するエンジン始動制御手段322の制御作動等について説明する。尚、図8のフローチャートのS11以外の処理、つまりS10及びS20乃至S70については図3のフローチャートと同じ処理であるため、詳細な説明は行わない。
【0054】
本発明の第3の実施形態では、S11にて、エンジン始動制御手段322は蓄電器残存容量算出手段262にて算出された蓄電器220の残存容量SOCを読み込み、蓄電器220の残存容量SOCが判定値SOClimより大きいか否かを判断する。蓄電器220の残存容量SOCが判定値SOClimより大きい場合はS11の判断を肯定しS20を実行する。蓄電器220の残存容量SOCが判定値SOClim以下の場合はS11の判断を否定しS30を実行する。
【0055】
以上のように、第3の実施形態に係る車両の駆動装置によれば、エンジン始動制御手段322はエンジン120の冷却水温Tegが判定値Tlim未満であり、且つ蓄電器220の残存容量SOCが判定値SOClimより大きい場合に第1のモータ140Aの出力Wmgに上限値Wlimを設ける。よって、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegを高くする必要があり、さらに第1のモータ140Aの出力Wmgが高くなる場合、つまりエンジン120の冷却水温Tegが低く、且つ蓄電器220の残存容量SOCが高い場合でもエンジン120の回転数Negを低く抑えることが可能となるので、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegをより適切に算出することが出来る。
【0056】
最後に、図9及び図10のタイムチャートを用いて第1及び第2の実施形態における時間に対するエンジン120の回転数Neg、エンジン120始動時の燃料噴射量Feg及び補正係数Fhkの変化を説明する。尚、第3の実施形態は第1及び第2の実施形態と比較し第1のモータ140Aの出力Wmgに上限値Wlimを設ける条件が異なるが、第1のモータ140Aの出力Wmgの上限値Wlimは変わらず、エンジン120の回転数Negやエンジン120始動時の燃料噴射量Feg、補正係数Fhkの変化に影響は与えないため、詳細な説明は行わない。
【0057】
図9は第1の実施形態における時間に対するエンジン120の回転数Neg及びエンジン120始動時の燃料噴射量Fegの変化を表している。図9(a)は時間に対するエンジン120の回転数Negの変化を表している。図9(b)は、時間に対するエンジン120始動時の燃料噴射量Fegの変化を表している。尚、エンジン120の冷却水温が−20度以上の時は実線で、−20度以下の時は点線で表している。
【0058】
まず、エンジン始動制御手段322はエンジン120の始動が必要と判断すると、第1のモータ140Aの出力Wmgを算出し、モータ制御手段302が第1のモータ140Aを用いてエンジン120を始動させる。尚、図9(a)において、点線(エンジン120の冷却水温Tegが−20度未満の場合のエンジン120の回転数Neg)の上昇が実線(エンジン120の冷却水温Tegが−20度以上の場合のエンジン120の回転数Neg)と比べて遅いのは、前述したようにエンジン120の冷却水温Tegが判定値Tlim未満の場合に第1のモータ140Aの出力Wmgに上限値Wlimを設けているからである。その結果、エンジン120の冷却水温Tegが−20度未満の場合は、エンジン120の冷却水温Tegが−20度以上の場合よりエンジン120始動時の燃料噴射量Fegが高く算出されるので、エンジン120の始動性が向上される。そして、燃料を噴射するに従いエンジン120は徐々に自律駆動を始めるので、エンジン120の回転数Negはエンジン120が自律駆動をしている分上昇していく。
【0059】
エンジン120の回転数Negが低い時は、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegは高く設定される。そしてエンジン120始動時の燃料噴射量Fegはエンジン120の回転数Negが完爆判定値γとなった場合に最小値αとなるよう、エンジン120の回転数Negが上昇するにつれ小さくなっていく。尚、最小値αとはエンジン120を駆動するのに最低限必要な燃料噴射量である。
【0060】
そして、エンジン120の回転数Negが完爆判定値γより大きくなると(−20度以上ではt1、−20未満下ではt2)、エンジン始動制御手段322はエンジン120が完爆したと判断し、第1のモータ140Aの出力Wmgの制限を解除し、第1のモータ140Aを用いたエンジン120の始動制御を終了する。
【0061】
図10は第3の実施形態における時間に対するエンジン120始動時のエンジン120の回転数Neg、エンジン120始動時の燃料噴射量Feg及び補正係数Fhkの変化を表している。図10(a)は時間に対するエンジン120始動時のエンジン120の回転数Negの変化を表している。図10(b)は、時間に対するエンジン120始動時の燃料噴射量Fegの変化を表している。図10(c)は、時間に対する補正係数Fhkの変化を表している。尚、エンジン120の冷却水温が−20度以上の時は実線で、−20度以下の時は点線で表している。
【0062】
まず、エンジン始動制御手段322はエンジン120の始動が必要と判断すると、第1のモータ140Aの出力Wmgを算出してモータ制御手段302に送信し、モータ制御手段302はこれを受け第1のモータ140Aを用いてエンジン120を始動させる。尚、図10(a)において、点線(エンジン120の冷却水温Tegが−20度未満の場合のエンジン120の回転数Neg)の上昇が実線(エンジン120の冷却水温Tegが−20度以上の場合のエンジン120の回転数Neg)と比べて遅いのは、前述したようにエンジン120の冷却水温Tegが判定値Tlim未満の場合に第1のモータ140Aの出力Wmgに上限を設けているからである。その結果、エンジン120の冷却水温Tegが−20度未満の場合は、エンジン120の冷却水温Tegが−20度以上の場合よりエンジン120始動時の燃料噴射量Feg及び補正係数Fhkが高く算出されるので、エンジン120の始動性が向上される。そして、燃料を噴射するに従いエンジン120が徐々に自律駆動を始めるので、エンジン120の回転数はエンジン120が自律駆動をしている分上昇していく。
【0063】
エンジン120の回転数Negが低い場合は、エンジン120始動時の燃料噴射量Feg及び補正係数Fhkは高く設定される。そしてエンジン120始動時の燃料噴射量Feg及び補正係数Fhkはエンジン120の回転数Negが完爆判定値γとなった場合に、エンジン120始動時の燃料噴射量は最小値α、補正係数は最小値βとなるよう、エンジン120の回転数が上昇するにつれ小さくなっていく。尚、最小値αと最小値βとはエンジン120を駆動するのに最低限必要なエンジン120始動時の燃料噴射量Feg及び補正係数Fhkである。
【0064】
そして、エンジン120の回転数Negが完爆判定値γより大きくなると(−20度以上ではt1、−20度以下ではt2)、エンジン始動制御手段322はエンジン120が完爆したと判断し、第1のモータ140Aの出力Wmgの制限を解除し、第1のモータ140Aを用いたエンジン120の始動制御を終了する。
【0065】
尚、第2の実施形態では、エンジン120の回転数Negを用いてエンジン120始動時の燃料噴射量Fegの補正を行うため、図10(b)におけるエンジン120始動時の燃料噴射量は、図9(b)におけるエンジン120始動時の燃料噴射量と比べて低く設定されている。
【0066】
以上のように、本実施形態に係る車両の駆動装置によれば、エンジン始動制御手段322はエンジン120の冷却水温Tegが判定値Tlim未満の場合にエンジン120の始動を行う第1のモータ140Aの回転数を制限するために上限値Nlimを設けることで、エンジン120始動時のエンジン120の回転数Negを低く抑える。よって、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegを高くする必要があるエンジン120の冷却水温Tegが低い場合に、エンジン120の回転数Negを低く抑えるので、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegをより適切に算出することが出来る。
【0067】
また、本実施形態に係る車両の駆動装置によれば、エンジン始動制御手段322はエンジン120の冷却水温Tegに応じてエンジン120始動時の燃料噴射量Fegを、そしてエンジン120の回転数Negに応じて補正係数Fhkを算出し、補正係数Fhkをエンジン120始動時の燃料噴射量Fegに乗じることでエンジン120始動時の燃料噴射量Fegの補正を行うので、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegをエンジン120の冷却水温Tegやエンジン120の回転数Negに応じてより適切に算出することが出来る。
【0068】
また、本実施形態に係る車両の駆動装置によれば、エンジン始動制御手段322はエンジン120の冷却水温Tegが判定値Tlim未満であり、且つ蓄電器220の残存容量SOCが判定値SOClimより大きい場合に第1のモータ140Aの出力Wmgに上限値Wlimを設ける。よって、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegを高くする必要があり、さらに第1のモータ140Aの出力Wmgが高くなる場合、つまりエンジン120の冷却水温Tegが低く、且つ蓄電器220の残存容量SOCが高い場合でもエンジン120の回転数Negを低く抑えることが可能となるので、エンジン120始動時の燃料噴射量Fegをより適切に算出することが出来る。
【0069】
140A:第1のモータ、140B:第2のモータ、160:駆動輪、180:減速機、200:動力分割機構、Neg:エンジンの回転数、Wmg:第1のモータの出力、Teg:エンジンの冷却水温、Wout:蓄電器の最大許容出力、α:燃料噴射量の最小値、β:補正係数の最小値、γ:完爆判定値、Feg:燃料噴射量、Fhk:補正係数、Wlim:第1のモータの出力の上限値、Tlim:エンジンの冷却水温の判定値、SOClim:蓄電器の残存容量の判定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
蓄電器と、
前記蓄電器から電力の供給を受けて前記エンジンを始動するモータと、
前記エンジンの冷却水温と回転数とに応じて該エンジン始動時の燃料噴射量を算出する車両の駆動装置であって、
該エンジン始動時に、該エンジンの冷却水温が判定値未満の場合は、前記モータの出力を制限することを特徴とする、
車両の駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両の駆動装置であって、
前記エンジンの冷却水温に応じて該エンジン始動時の燃料噴射量を算出し、該エンジンの回転数に応じて該エンジン始動時の燃料噴射量を補正することで該エンジン始動時の燃料噴射量を算出することを特徴とする。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両の駆動装置であって、
前記エンジンの冷却水温が判定値未満であり、且つ前記蓄電器の残存容量が所定値以上の場合に、前記モータの出力を制限することを特徴とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−112256(P2012−112256A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259827(P2010−259827)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】