説明

車両ガラスの氷結体解凍装置

【課題】 車両ガラスに付着した氷結体の解凍を迅速に、かつ的確に行うことのできる解凍装置を提供することである。
【解決手段】 ウォッシャータンク4内に取り付けた電熱ヒータ9によって、ウォッシャー液を加熱し、ウォッシャー蒸気を作り出す。このウォッシャー蒸気を第1ポンプ3により、第1パイプ材6に送出する。第1パイプ材6によって搬送されたウォッシャー蒸気は、各第1ノズル5から車両のフロントガラス1の所定領域に向かって噴出され、フロントガラス1にウォッシャー蒸気着している氷結体を解凍する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のガラスに付着した氷結体をウォッシャー蒸気によって解凍する車両ガラスの氷結体解凍装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冬期、寒冷地において車両を長時間に亘って駐車すると、車両のガラスが凍結する場合がある。この場合、使用者(運転者)は、車両のエンジンを始動し、当該車両が搭載しているヒータ装置(熱線)によってガラス面の氷結体を解凍するのである。しかし、ヒータ装置が作動するまでには一定の時間を必要とする。また、ヒータ装置が氷結体の厚さ、量によっては解凍するまでにさらに多くの時間を必要とする場合もある。
【0003】
迅速にガラス面の氷結体を解凍するために、使用者が加熱した湯(以下、加熱湯という。)をガラス面にかける場合がある(例えば、特許文献1を参照)。しかし、使用者が加熱湯を用意しなければならないこと、加熱湯がワイパブレード等に悪影響を及ぼすおそれがあること等の不具合が発生するおそれがある。
【0004】
上記の不具合を解消するために、特許文献2に開示される技術が存している。この技術では、加熱したウインドウォッシャー液をガラス面に噴出して、氷結体を解凍している。この技術の場合、加熱したウォッシャー液を氷結体に直接的に当てるため、解凍効率は良好となる。しかし、噴出した高温のウォッシャー液が周囲に飛散するおそれがあり、噴出時の安全性を確保するために、噴出量、噴出角度、加熱温度等の厳密な調整を必要とし、高価なものとなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−51385号公報
【特許文献2】特開2006−347297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した不具合に鑑み、車両ガラスに付着した氷結体の解凍を迅速に、かつ的確に行うことのできる解凍装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明は、
タンクに収容されたウインドウォッシャー液を加熱し、沸騰させてウォッシャー蒸気を作り出す加熱手段と、
前記ウォッシャー蒸気を送出し、このウォッシャー蒸気を送出するウォッシャー蒸気送出手段と、
前記ウォッシャー蒸気送出手段に接続されて、前記ウォッシャー蒸気を車両のガラスの所定領域に向かって誘導して噴出するウォッシャー蒸気誘導手段と、を備え、
前記車両のガラスに付着した氷結体を前記ウォッシャー蒸気によって解凍することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る解凍装置は、ウォッシャー液を沸騰させて作り出したウォッシャー蒸気を車両のガラスに噴出することにより、ガラスに付着した氷結体を解凍する。高温のウォッシャー蒸気を氷結体に直接的に吹き付けるため、解凍効率が良好である。また、噴出されるのがウォッシャー蒸気であるため、高温のウォッシャー液を噴出する場合と比較して、周囲の人物に危害を及ぼしたり、ワイパ等の部材が損傷したりするおそれはない。さらに、ガラスには何らの加工もしなくて済むため、安価である。
【0009】
前記ウォッシャー蒸気誘導手段は、前記車両のガラスの周縁部の一部又は全部に取り付けられるチューブ状の部材であり、その外周面には、前記ウォッシャー蒸気送出手段によって送出されたウォッシャー蒸気を前記車両のガラスの所定領域に向かって噴出する複数のノズルが設けられている。
【0010】
そして、前記車両のガラスの所定領域は、前記車両の運転席と対応し、運転者が運転時に視認する領域である。
【0011】
ウォッシャー蒸気は、ガラスの周縁部の一部又は全部に取り付けられたチューブ状の部材に設けられた複数のノズルから噴出される。これにより、ウォッシャー蒸気をガラスの所定領域(例えば、フロントガラスにおける運転者の正面側のように、迅速に解凍することが要求される領域)に優先的に噴出させることができる。
【0012】
さらに、前記加熱手段によって加熱され、前記ウォッシャー蒸気送出手段によって送出されるウォッシャー蒸気が、前記ウォッシャー蒸気誘導手段によって前記車両のガラスに向かって噴出される前に、前記ウォッシャー蒸気を再加熱する再加熱手段を備えることが望ましい。
【0013】
搬送途中にウォッシャー蒸気の温度が低下しても、再加熱手段によって再過熱することにより、常に高温のウォッシャー蒸気を噴出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施例の解凍装置101の構成を示すブロック図である。
【図2】解凍装置101の作用を示すフローチャートである。
【図3】内部を2つの領域に区画したウォッシャータンク4を使用した解凍装置101の構成を示すブロック図である。
【図4】第2実施例の解凍装置102の構成を示すブロック図である。
【図5】第3実施例の解凍装置103の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は本発明の第1実施例の解凍装置101の構成を示すブロック図である。
【実施例1】
【0016】
本発明の第1実施例の解凍装置101について説明する。図1に示されるように、車両(図示せず)のフロントガラス1の周縁部には、細いパイプ材(第1パイプ材2)が設けられている。第1パイプ材2は、第1ポンプ3を介してウォッシャータンク4に連結されている。第1パイプ材2はウォッシャー蒸気(後述)を搬送するもので、所定の間隔で複数個の第1ノズル5が取り付けられている。各第1ノズル5は、フロントガラス2に向かってウォッシャー蒸気を噴出する機能を有する。このため、各第1ノズル5の噴出口は、いずれもフロントガラス1の中央部に向かっている。第1実施例の解凍装置101の場合、複数個の第1ノズル5は、フロントガラス1の上縁部と下縁部とに各4個、両側縁部に各2個ずつ取り付けられている。
【0017】
ウォッシャータンク4には、第1パイプ材2とは別に、第2パイプ材6が延設されている。第2パイプ材6は、第2ポンプ7を介してウォッシャータンク4に連結されている。第2パイプ材6の先の部分は二股に分岐されていて、それぞれの先端部に各第2ノズル8が取り付けられている。各第2ノズル8は、フロントガラス2に向かってウォッシャー液を噴出する機能を有する。このため、各第2ノズル8の噴出口は、いずれもフロントガラス1の中央部に向かっている。なお、第2ポンプ7及び第2ノズル8の機能は、従来のウォッシャー装置と同一である。
【0018】
次に、ウォッシャータンク4について説明する。ウォッシャータンク4には、電熱ヒータ9、液量センサ11及び液温センサ12が収容されている。電熱ヒータ9は、車両のバッテリ13に接続されていて、バッテリ13によって生成された電力によって作動する。電熱ヒータ9は、ウォッシャー液を加熱し、沸騰させてウォッシャー蒸気を作り出す。電熱ヒータ9のオン/オフは、スイッチ14によって切り換えられる。このスイッチ14は、例えば車両の運転席側のインストゥルメントパネル(図示せず)に取り付けられていて、運転者を含む車両の乗員が自在に操作することができる。
【0019】
第1ポンプ3、液量センサ11及び液温センサ12は、ECU15に接続されている。電熱ヒータ9の空焚きを防止するため、ECU15は、ウォッシャータンク4内のウォッシャー液量が一定値以下であれば、スイッチ14がオンとされても電熱ヒータ9を作動させないようにする。このとき、運転者にウォッシャー液量不足のメッセージを報知することが望ましい。また、液温センサ12は、ウォッシャー液の温度を常にモニタしている。ECU15は、液温センサ12からの指令により、ウォッシャー液が沸点以上に加熱されたら電熱ヒータ9の作動をいったん停止するように制御する。また、冬期や寒冷地において、ウォッシャー液の液温が一定値以下となったら、自動的に電熱ヒータ9を作動し、少なくともウォッシャー液が凍らないように制御する。
【0020】
第1実施例の解凍装置101の作用について、図2のフローチャートを参照しながら説明する。フロントガラス1に氷結体が付着していない状態で、運転者が例えばフロントガラス1の清掃を行う場合には、従来のウォッシャー装置では、運転者がウォッシャー装置のスイッチ(第2ポンプ7の起動スイッチ)をオンとする。第2ポンプ7が作動し、ウォッシャータンク4内のウォッシャー液が第2パイプ材6に進入する。このウォッシャー液は、各第2ノズル8からフロントガラス1のガラス面に向かって噴出される。この後、運転者が車両のワイパ装置(図示せず)を作動させる。なお、ウォッシャー液が噴出されると、それに連動してワイパ装置が作動する場合もある。
【0021】
冬期や寒冷地において、車両を戸外で長時間に亘って駐車すると、フロントガラス1に氷、雪、霜等による氷結体が付着する場合がある(ステップS11)。この氷結体を解凍する場合、運転者は車両のエンジンを始動(ステップS12)した後、電熱ヒータ9のスイッチ14を操作してオンとする(ステップS13)。液量センサ11が、ウォッシャータンク4に一定量以上のウォッシャー液が入っていることを検知すると電熱ヒータ9が作動し、ウォッシャー液を加熱する。電熱ヒータ9を作動させるための電力は、車両のバッテリ13から供給される。このとき、車両のエンジンを始動しない状態で電熱ヒータ9を作動させることも可能であるが、バッテリ13が充電不足となることを防止するため、例えば警告音を鳴動させることによって運転者に報知することが望ましい。
【0022】
電熱ヒータ9の機能により、ウォッシャー液が加熱され、沸騰する(ステップS14における「Yes」)。液温センサ12によってウォッシャー液の沸騰が検知されると、第1ポンプ3が作動する(ステップS15)。ウォッシャータンク4で作り出されたウォッシャー蒸気は、第1ポンプ3によって送出されて第1パイプ材2に進入し、フロントガラス1の周縁部まで搬送される。そして、各第1ノズル5からフロントガラス1のガラス面に向かって噴出される(ステップS16)。図1において、ウォッシャー蒸気が噴出する方向を各矢印で示す。フロントガラス1に付着している氷結体(氷、雪、霜等)は、高温のウォッシャー蒸気と接触して解凍される。
【0023】
本実施例の解凍装置101は、高温のウォッシャー蒸気を、直接的にフロントガラス1に噴出することにより、フロントガラス1に付着した氷結体を解凍するものである。このため、従来の車両のデフォッガ等による氷結体の解凍装置(霜取装置)と比較して、迅速に氷結体を解凍することができる。また、フロントガラスに何らの加工を施す必要がないため、安価である。さらに、噴出されるものがウォッシャー蒸気であるため、作動中に周囲に飛散しても運転者等に不測の危害を及ぼすおそれは小さい。なお、ウォッシャー液を加熱して沸騰させても、ウォッシャー蒸気が作り出されるのはウォッシャー液の液面近傍であり、ウォッシャータンクの底部にはウォッシャー液が液体のまま残存する。このため、フロントガラス1を清掃するために第2ノズル8からウォッシャー液を噴出させる操作に支障が生ずることはない。
【0024】
図3に示されるウォッシャータンク16のように内部を2室に区画し、電熱ヒータ9によってウォッシャー液が沸騰されてウォッシャー蒸気が作り出される領域と、ウォッシャー液をそのまま(即ち、液体のまま)使用するための領域とに分別してもよい。即ち、ウォッシャータンク4の内部に隔壁17が形成され、その内部が、第1領域18(ウォッシャー液が加熱されて、沸騰する領域)と、第2領域19(ウォッシャー液が液体のまま存在する領域)に区画されている。この場合、第1領域18を狭くして、ウォッシャー蒸気を沸騰させるための液量が少なくすることにより、いっそう迅速にウォッシャー蒸気を作り出すことができる。
【実施例2】
【0025】
図4に示される第2実施例の解凍装置102のように、第1パイプ材2をフロントガラス1の周縁部だけでなく、サイドガラス21の周縁部にまで延設し、フロントガラス1と同様にサイドガラス21に付着した氷結体を解凍することもできる。
【実施例3】
【0026】
図5に示されるよう第3実施例の解凍装置103のように、第1ノズル5の取付け位置をフロントガラス1における運転者側の領域に限定し、この領域のみに集中的にウォッシャー蒸気が噴出されるようにしてもよい。これにより、フロントガラス1における運転者側の領域に付着した氷結体を、より迅速に解凍することができる。このとき、第1パイプ材を、フロントガラス1における運転席側のみに設けてもよい。
【0027】
また、第1パイプ材2の途中に、搬送されたウォッシャー蒸気の再加熱手段22(例えば、第1パイプ材2に熱線を巻き付ける。)を取り付けてもよい。これにより、第1パイプ材2の搬送されるときにウォッシャー蒸気の温度が低下しても、高温のウォッシャー蒸気をフロントガラス1に噴出することができる。
【0028】
さらに、ウォッシャータンク4内に圧力センサ23を取り付け、この圧力センサ23によってウォッシャータンク4内の圧力が一定値以上になったことが検知されたら、自動的に第1ポンプ3を作動するようにしてもよい。また、ウォッシャータンク4内にリリーフ弁(圧力調整弁。図示せず)を取り付け、このリリーフ弁によってウォッシャータンク内の圧力が一定値以上になったことが検知されたら、圧力を調整するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、車両のガラスに付着した氷結体を回答するための解凍装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
101〜103 解凍装置
1 フロントガラス(ガラス)
2 第1パイプ材(ウォッシャー蒸気誘導手段)
3 第1ポンプ(ウォッシャー蒸気送出手段)
4,16 ウォッシャータンク(タンク)
5 第1ノズル(ノズル)
9 電熱ヒータ(加熱手段)
21 サイドガラス(ガラス)
22 再加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクに収容されたウインドウォッシャー液を加熱し、沸騰させてウォッシャー蒸気を作り出す加熱手段と、
前記ウォッシャー蒸気を送出し、このウォッシャー蒸気を送出するウォッシャー蒸気送出手段と、
前記ウォッシャー蒸気送出手段に接続されて、前記ウォッシャー蒸気を車両のガラスの所定領域に向かって誘導して噴出するウォッシャー蒸気誘導手段と、を備え、
前記車両のガラスに付着した氷結体を前記ウォッシャー蒸気によって解凍することを特徴とする車両ガラスの氷結体解凍装置。
【請求項2】
前記ウォッシャー蒸気誘導手段は、前記車両のガラスの周縁部の一部又は全部に取り付けられるチューブ状の部材であり、その外周面には、前記ウォッシャー蒸気送出手段によって送出されたウォッシャー蒸気を前記車両のガラスの所定領域に向かって噴出する複数のノズルが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両ガラスの氷結体解凍装置。
【請求項3】
前記車両のガラスの所定領域は、前記車両の運転席と対応し、運転者が運転時に視認する領域であることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両ガラスの氷結体解凍装置。
【請求項4】
前記加熱手段によって加熱され、前記ウォッシャー蒸気送出手段によって送出されるウォッシャー蒸気が、前記ウォッシャー蒸気誘導手段によって前記車両のガラスに向かって噴出される前に、前記ウォッシャー蒸気を再加熱する再加熱手段を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両ガラスの氷結体解凍装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−96652(P2012−96652A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245849(P2010−245849)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】