説明

車両パネル構造体及びその製造方法

【課題】外板に現れる溶接歪みを抑えることにより、鉄道車両の美観を向上させることができる車両パネル構造体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】鉄道車両の外壁となる外板20と、外板20の内側面に当接して配置された骨部材30と、を備え、予め設定された溶接ラインAx上に形成した溶接部によって外板20と骨部材30とを接合してなる車両パネル構造体10であって、溶接ラインAx上には、外板20と骨部材30とが当接する当接領域Tと、外板20と骨部材30とが当接しない非当接領域Sとが存在し、溶接部は、当接領域Tにおいて骨部材30から外板20に達するように形成された本溶接部W1と、非当接領域Sにおいて外板20にのみ形成された溶融凝固部Z1と、を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両パネル構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の分野の技術として、例えば特許文献1に記載の鉄道車両構体がある。この従来の鉄道車両構体では、2つの骨部材を縦横に配しており、一方の骨部材の端部が、他方の骨部材の側面に対向する関係を有して外板に溶接されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−341813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような骨部材と外板との接合には、例えばレーザ溶接が用いられる。一般に、レーザ溶接を用いる場合では、例えば抵抗スポット溶接で溶接する場合と比較して部材への入熱が少ないので、溶接後の骨部材や外板の溶接歪みを抑えることができる。しかしながら、レーザ溶接であっても完全に溶接歪みを無くすことは困難であり、溶接を行った箇所と溶接を行っていない箇所とでは、多少なりとも表面状態に差が生じることとなる。このように、骨部材と外板とを溶接して得られる車両パネル構造体では、外板に現れる溶接歪みを極力抑えることにより、鉄道車両の美観を向上させる技術が求められている。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、外板に現れる溶接歪みを均一化することにより、鉄道車両の美観を向上させることができる車両パネル構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明の車両パネル構造体は、鉄道車両の外壁となる外板と、外板の内側面に当接して配置された骨部材と、を備え、予め設定された溶接ライン上に形成した溶接部によって外板と骨部材とを接合してなる車両パネル構造体であって、溶接ライン上には、外板と骨部材とが当接する当接領域と、外板と骨部材とが当接しない非当接領域とが存在し、溶接部は、当接領域において骨部材から外板に達するように形成された本溶接部と、非当接領域において外板にのみ形成された溶融凝固部とを有していることを特徴とする。
【0007】
この車両パネル構造体では、外板と骨部材とが当接する当接領域において骨部材から外板に達する本溶接部により、外板と骨部材とが強固に接合されている。ここで、外板の表面側において、本溶接部が形成された部分ではその中心部分に向かう引張応力が生じ、引張応力に起因する外板の歪みが生じる。本溶接部が断続的または連続的に形成されている部分では、隣り合う本溶接部間での引張応力の向きが反対となり、応力がキャンセルされる一方で、溶接ラインの端部などのように、隣り合う本溶接部が存在しない部分では、応力がキャンセルされないため、外板の歪み量が不均一となって溶接歪みが目立ち易くなる。これに対し、この車両パネル構造体では、溶接ライン上において、外板と骨部材とが当接しない非当接領域において外板にのみ形成された溶融凝固部を有している。このため、隣り合う本溶接部が存在しない部分においても溶融凝固部によって本溶接部の応力がキャンセルされるので、外板の歪み量が均一化され、溶接歪みの目立ちにくい車両パネル構造体が得られる。従って、この車両パネル構造体を適用すると、良好な美観の鉄道車両を作製できる。
【0008】
また、上記骨部材は、第一の方向に配置された第一骨部材と、第一の方向に交差する第二の方向に配置された第二骨部材とを含み、第二骨部材は、第一骨部材との間に上記非当接領域が存在するように所定の間隔をもって配置されていることが好ましい。
【0009】
鉄道車両の外壁となる外板には、骨部材が交差して配置されることが比較的多い。交差して配置された一方の骨部材の端部は、他方の骨部材の側面に対向して配置される。この一方の骨部材の端部には、上述のような溶接に起因する引張応力によって、外板の歪みが生じやすい。そこで、交差して配置された第一骨部材と第二骨部材との間の非当接領域に溶融凝固部を導入することにより、一方の骨部材の端部に生じる応力をキャンセルする応力を意図的に付与することができる。よって、鉄道車両の外壁に多用される骨部材の交差領域に現れる溶接歪みを効果的に抑制できる。
【0010】
また、第一及び第二骨部材は、チャネル部と一対のフランジ部とからなるハット材であり、第二骨部材の一対のフランジ部と外板との当接によって形成される当接領域の内側の非当接領域には、溶融凝固部が形成されていることが好ましい。
【0011】
ハット材である第二骨部材において、一対のフランジ部と外板との当接領域に形成された本溶接部に起因して引張応力が発生する。しかし、当該当接領域の内側の側部では、引張応力がキャンセルされないため、外板の歪み量が不均一となって溶接歪みが目立ち易くなる。そこで、この当接領域の内側の非当接領域に、応力を打ち消すための溶融凝固部を形成することにより、外板の溶接歪みを効果的に抑制できる。
【0012】
また、外板の外側面には、溶接ラインと略平行な方向に沿った研磨加工が施されていることが好ましい。
【0013】
外板と骨部材との溶接ラインを外板の外側面の研磨加工方向と平行にすることにより、外板の美観を向上することができる。
【0014】
また、本溶接部及び溶融凝固部は、レーザ照射によって形成されていることが好ましい。
【0015】
レーザ照射の場合、例えばアーク放射の場合と比較して、骨部材や外板への入熱が少ないので、外板の歪みの発生をより抑制できる。
【0016】
また、本発明の車両パネル構造体の製造方法は、鉄道車両の外壁となる外板の内側面であって予め設定された溶接ライン上に骨部材を当接して配置する骨部材配置工程と、外板と骨部材とが当接する当接領域において、骨部材から外板に達する本溶接部を形成する本溶接部形成工程と、外板と骨部材とが当接しない非当接領域において、外板のみを溶融凝固させることにより溶融凝固部を形成する溶融凝固部形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0017】
この車両パネル構造体の製造方法によれば、外板と骨部材とが当接する当接領域において骨部材から外板に達する本溶接部により、外板と骨部材とが強固に接合される。ここで、外板の表面側において、本溶接部が形成される部分ではその中心部分に向かう引張応力が生じ、引張応力に起因する外板の歪みが生じる。本溶接部が断続的または連続的に形成されている部分では、隣り合う本溶接部間での引張応力の向きが反対となり、応力がキャンセルされる一方で、溶接ラインの端部などのように、隣り合う本溶接部が存在しない部分では、応力がキャンセルされないため、外板の歪み量が不均一となって溶接歪みが目立ち易くなる。これに対し、この車両パネル構造体の製造方法によれば、溶接ライン上において、外板と骨部材とが当接しない非当接領域において、外板のみを溶融凝固させた溶融凝固部を形成する。このため、隣り合う本溶接部が存在しない部分においても溶融凝固部によって本溶接部の応力がキャンセルされるので、外板の歪み量が均一化され、溶接歪みの目立ちにくい車両パネル構造体が得られる。従って、この車両パネル構造体の製造方法を適用すると、良好な美観の鉄道車両を作製できる。
【0018】
また、骨部材配置工程を実施した後、本溶接部形成工程に先立って、溶融凝固部形成工程を実施することができる。
【0019】
このように予め溶融凝固部を形成した後に本溶接部を形成しても、上記と同様に外板の歪みを効果的に抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、外板に現れる溶接歪みを均一化することにより、鉄道車両の美観を向上させることができる車両パネル構造体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明に係る車両パネル構造体を適用してなる鉄道車両構体の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図2(a)は、第一実施形態に係る断続的なレーザ照射を用いた車両パネル構造体の構成を示す斜視図である。図2(b)は、第一実施形態に係る連続的なレーザ照射を用いた車両パネル構造体の構成を示す斜視図である。
【図3】図3(a)は、断続的なレーザ照射による外板歪みの発生機構を示す模式図である。図3(b)は、連続的なレーザ照射による外板歪みの発生機構を示す模式図である。
【図4】図4(a)は、断続的なレーザ照射による外板歪みの調整を説明する図である。図4(b)は、連続的なレーザ照射による外板歪みの調整を説明する図である。
【図5】図5(a)は、第二実施形態に係る断続的なレーザ照射を用いた車両パネル構造体の構成を示す斜視図である。図5(b)は、第二実施形態に係る連続的なレーザ照射を用いた車両パネル構造体の構成を示す斜視図である。
【図6】図6(a)は、第三実施形態に係る断続的なレーザ照射を用いた車両パネル構造体の構成を示す斜視図である。図6(b)は、第三実施形態に係る連続的なレーザ照射を用いた車両パネル構造体の構成を示す斜視図である。
【図7】図7(a)は、第四実施形態に係る断続的なレーザ照射を用いた車両パネル構造体の構成を示す斜視図である。図7(b)は、第四実施形態に係る連続的なレーザ照射を用いた車両パネル構造体の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る車両パネル構造体及びその製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
(第一実施形態)
【0023】
図1は、本発明に係る車両パネル構造体を適用してなる鉄道車両構体の一実施形態を示す斜視図である。同図に示すように、鉄道車両構体1は、床構体2と、側構体3と、屋根構体4と、妻構体5とを備える。これらの各構体が相互に接合されることにより、乗客を収容する空間を内部に有する箱型形状をなしている。
【0024】
床構体2は、車両の床部を構成する構体として鉄道車両構体1の底部に配置されている。側構体3及び妻構体5は、車両の側部を構成する構体として、床構体2の左右の縁部及び前後の縁部を囲むように立設されている。側構体3には、乗客や乗員が乗り降りするためのドア部6が等間隔に複数(例えば3ヶ所)設けられている。
【0025】
また、ドア部6,6間と側構体3の両端部とには、窓部7が設けられている。妻構体5は、乗客や乗員らが車両間を行き来するための出入口部8が設けられている。屋根構体4は、車両の屋根部を構成する構体として鉄道車両の構体の上部に空間に蓋をするように配置されている。車両の屋根構体4には、上部に車内の温度を調整するためのエアコンディショナーやパンタグラフ(図示しない)などが備えられている。
【0026】
次に、側構体3に適用された車両パネル構造体の構成について更に詳細に説明する。図2は、第一実施形態に係る車両パネル構造体の構成の一例を示す斜視図である。図2に示すように、車両パネル構造体10は、鉄道車両の外壁となる外板20と、外板20の内側面に当接して配置された第一横骨部材30と、を備えている。
【0027】
外板20は、例えば厚さ1.2mm程度のステンレス鋼(SUS301L)からなり、長さ940mmの矩形状をなしている。第一横骨部材30は、長方形状の頂部31と、頂部31の幅方向の両側部から起立するウェブ部32,32と、ウェブ部32,32の先端から外側に突出する一対のフランジ部33,33とを有する断面ハット状の部材(ハット材)である。頂部31とウェブ部32,32は、チャネル部35をなす。第一横骨部材30は、例えば厚さ0.8mmのステンレス鋼(SUS301L)からなり、外板20の長さに対応する長尺状をなしている。また、頂部31の幅は例えば50mmとなっており、ウェブ部32の高さは例えば35mmとなっている。
【0028】
外板20と第一横骨部材30とは、予め設定された溶接ラインAx上に形成した溶接部によって接合されている。溶接ラインAx上には、外板20と第一横骨部材30とが当接する当接領域Tと、外板20と第一横骨部材30とが当接しない非当接領域Sとが存在している。なお、図2に示す例では、非当接領域Sは、外板20の一端部20aに存在している。本実施形態では、第一横骨部材30は、外板20に対して横方向に配置されている。すなわち、図2の例では、溶接ラインAxの延在方向は横方向である。
【0029】
溶接部は、本溶接部W1と溶融凝固部Z1とを有している。本溶接部W1は、当接領域Tにおいて、外板20及び第一横骨部材30が溶接されたものであり、第一横骨部材30から外板20に達するように形成されている。本溶接部W1及び溶融凝固部Z1は、溶接ラインAxに沿って形成されている。本溶接部W1は、例えばレーザ溶接、アーク溶接などにより形成されている。本溶接部W1は、例えば、図2(a)に示すように、断続的なレーザ照射による複数のスポット溶接によって点列に形成されている。本溶接部W1がスポット溶接から形成されている場合、隣り合う本溶接部W1のピッチ間隔は、例えば5mm〜10mmであり、スポット径は、例えば0.8mm〜1.6mmである。本溶接部W1は、あるいは図2(b)に示すように、連続的なレーザ照射による連続溶接によって線状に形成されている。
【0030】
第一横骨部材30は、頂部31が車両の内側に向いた状態で、フランジ部33,33に沿って形成された本溶接部W1によって、外板20に強固に接合されている。この構成により、第一横骨部材30と外板20との間には、第一横骨部材30の長手方向に沿って中空部34が形成されている。なお、本実施形態では、第一横骨部材30の長手方向は、溶接ラインAxに平行である。
【0031】
溶融凝固部Z1は、非当接領域Sにおいて、外板20を構成する材料のみが溶融凝固して外板20にのみ形成されており、外板20及び第一横骨部材30の接合そのものには寄与していない。溶融凝固部Z1は、例えば図2(a)に示すように、断続的なレーザ照射によって点状に形成されている。なお、図2(a)の例では、溶融凝固部Z1が、非当接領域Sに、溶接ラインAxに沿って6つ形成されているが、溶融凝固部Z1の数は特に限定されない。あるいは、溶融凝固部Z1は、図2(b)に示すように、連続的なレーザ照射によって線状に形成されている。この場合、本溶接部W1と溶融凝固部Z1とは、線状に連続して形成されている。
【0032】
次に、本実施形態の車両パネル構造体の製造方法について、図2を用いて説明する。まず、鉄道車両の外壁となる外板20の内側面であって予め設定された溶接ラインAx上に、第一の方向に配置される第一横骨部材30を当接して配置する骨部材配置工程を行う。図2に示す例では、第一の方向は外板20に対して横方向である。
【0033】
次いで、外板20と第一横骨部材30とが当接する当接領域Tにおいて、第一横骨部材30から外板20に達する本溶接部W1を形成する本溶接部形成工程を行う。これにより、第一横骨部材30と外板20とが溶接接合される。溶接方法として、外板20の内側面から例えばレーザ照射やアーク放射を行う。溶接は、溶接ラインAxに沿って行う。本溶接部W1形成用のレーザ溶接には、例えば図2(a)に示すような断続的なレーザ照射、あるいは図2(b)に示すような連続的なレーザ照射を用いる。断続的なレーザ照射を用いる場合、隣り合う本溶接部W1のピッチ間隔は、例えば5mm〜10mmとする。
【0034】
続いて、外板20と第一横骨部材30とが当接しない非当接領域Sにおいて、外板20のみを溶融凝固させることにより溶融凝固部Z1を形成する溶融凝固部形成工程を行う。この外板20の溶融凝固には、例えばレーザ照射やアーク照射を用いる。溶融凝固部Z1の形成には、例えば図2(a)に示すように、断続的なレーザ照射を用いることができる。断続的なレーザ照射の場合、隣り合う溶融凝固部Z1のピッチ間隔は、例えば5mmとする。あるいは、図2(b)に示すように、溶融凝固部Z1の形成には、連続的なレーザ照射を用いることができる。連続的なレーザ照射の場合、本溶接部W1形成用のレーザ照射と溶融凝固部Z1形成用のレーザ照射とを連続して行うことができる。
【0035】
本溶接部W1及び溶融凝固部Z1形成用のレーザには、例えばYAGレーザやファイバレーザを用いることができる。本溶接部W1を形成するときのレーザの出力強度は、例えば4000Wとする。また、溶融凝固部Z1を形成するときのレーザの出力強度は、例えば3200Wとする。以上により、本実施形態の車両パネル構造体を得る。
【0036】
図3を用いて、外板歪みについて説明する。図3(a)は、断続的なレーザ照射による外板歪みの発生機構を模式的に示す図である。図3(b)は、連続的なレーザ照射による外板歪みの発生機構を模式的に示す図である。
【0037】
レーザ照射によって溶接した金属が固まる際、レーザ照射点の中心に収縮しようとする力が働く。つまり、金属の溶融凝固により、溶接箇所には引張応力に起因する歪みが発生する。図3において、引張応力を矢印で示す。
【0038】
図3(a)は、第一横骨部材30を外板20にスポット溶接した例である。この例では、本溶接部W1が、予め設定された溶接ラインAx方向に沿って、点列に形成されている。この場合、点列に形成された本溶接部W1の個々では、溶接中心に向かう向きに引張応力が生じる(図3(a)中の矢印参照)。理想的には、互いに逆向きで等しい応力が存在すれば打ち消しあって相殺される。つまり、点列に形成された本溶接部W1の個々では、対向する方向に応力が存在すれば外板20の歪みは目立ちにくい。しかし、応力に起因する外板の歪みは、溶接ラインAx上に形成される当接領域Tの中央付近と端部とでは一様とはならない。当接領域Tの中央付近においては、隣り合う本溶接部W1同士では互いに逆向きの応力が存在するため、引張応力が打ち消されるので、本溶接部W1間の外板20の歪みは目立ちにくい。一方、当接領域Tの端部、すなわち第一横骨部材30の一端部30aにおいては、引張応力を打ち消すための溶接部が隣に存在しないため、歪みが目立ってしまう。
【0039】
図3(b)は、第一横骨部材30を外板20に連続溶接した例である。この例では、本溶接部W1が、予め設定された溶接ラインAx方向に沿って、線状に形成されている。この場合、引張応力は、線状の本溶接部W1の周囲に発生する(図3(b)中の矢印参照)。本溶接部W1の形成された当接領域Tの中央付近においては、互いに対向する応力が一様に存在するので、引張応力が打ち消されて、外板20の歪みは目立ちにくい。一方、本溶接部W1の形成された当接領域Tの端部、すなわち第一横骨部材30の一端部30aでは、一端部30aを囲うように引張応力が発生するものの、その応力を打ち消す応力が存在しない。よって、線状に形成された本溶接部W1の一端部30aでの歪みが目立ってしまう。
【0040】
そこで、本発明では、非当接領域Sに溶融凝固部Z1を導入する。図4(a)は、断続的なレーザ照射における外板歪みの抑制を説明する図である。図4(b)は、連続的なレーザ照射における外板歪みの抑制を説明する図である。図4(a)や図4(b)に示すように、第一横骨部材30の一端部30aに隣接する非当接領域Sには、外板20のみを溶融凝固させた溶融凝固部Z1が形成されている。この非当接領域Sに導入された溶融凝固部Z1により、本溶接部W1の形成された当接領域Tの端部に生じる応力をキャンセルするような応力を意図的に付与することができる。よって、外板20の歪み量が均一化され、溶接歪みの目立ちにくい車両パネル構造体が得られる。従って、この車両パネル構造体を適用すると、良好な美観の鉄道車両を作製できる。
【0041】
また、溶融凝固部Z1は、本来、外板20と第一横骨部材30とを溶接しない非当接領域Sに意図的に形成される。このように意図的に存在する非当接領域Sは、圧延や熱処理により耐力や強度を高められた材料では溶融凝固によりその耐力や強度が低くなるので、衝撃を吸収する衝撃緩衝部としても有効である。
【0042】
また、溶融凝固部Z1を断続的なレーザ照射によって形成する場合、第一横骨部材30の一端部30aの本溶接部W1と、最も近距離の溶融凝固部Z1との間隔を、本溶接部W1のピッチ間隔と同じにすると、より外板の歪みを目立ちにくくできる。
【0043】
また、外板20の外側面は、溶接ラインAxと略平行な方向に沿った研磨加工が施されていることが好ましい。溶接ラインAxを研磨加工の方向Kと平行にすることにより、外板の美観を一層向上することができる。
【0044】
また、本実施形態では、骨部材として、外板20に対して横方向に配置されている第一横骨部材30である例を示したが、本発明は、骨部材として、外板20に対して縦方向に配置されている縦骨部材であってもよく、この場合も同様の効果を奏する。
【0045】
なお、上記の製造方法では、骨部材配置工程の後、溶融凝固部形成工程に先立って、本溶接部形成工程を実施する例を示した。しかし、骨部材配置工程の後、本溶接部形成工程に先立って、溶融凝固部形成工程を実施しても良い。このように予め溶融凝固部を形成した後に本溶接部を形成しても、上記と同様に外板の歪みを効果的に抑制できる。
(第二実施形態)
【0046】
第二実施形態に係る車両パネル構造体が、第一実施形態に係る車両パネル構造体と異なるのは、第二横骨部材40を更に備える点である。図5は、第二実施形態に係る車両パネル構造体の構成を示す斜視図である。
【0047】
本実施形態では、第二横骨部材40は、第一横骨部材30と所定の間隔をもって、外板20に対して横方向に配置されている。第二横骨部材40は、長方形状の頂部41と、頂部41の幅方向の両側部から起立するウェブ部42,42と、ウェブ部42,42の先端から外側に突出する一対のフランジ部43,43とを有する断面ハット状の部材(ハット材)である。頂部41とウェブ部42,42は、チャネル部45をなす。第二横骨部材40は、例えば厚さ0.8mmのステンレス鋼(SUS301L)からなり、外板20の長さに対応する長尺状をなしている。また、頂部41の幅は例えば50mmとなっており、ウェブ部32の高さは例えば35mmとなっている。
【0048】
溶接ラインAx上には、外板20と第一横骨部材30とが当接する当接領域Tと、外板20と骨部材とが当接しない非当接領域Sと、外板20と第二横骨部材40とが当接する当接領域Tとが存在している。非当接領域Sは、外板20と第一横骨部材30とが当接する当接領域Tと外板20と第二横骨部材40とが当接する当接領域Tとの間に存在している。
【0049】
本実施形態では、溶接部は、当接領域Tにおいて、第一横骨部材30から外板20に達して形成された本溶接部W1及び第二横骨部材40から外板20に達して形成された本溶接部W2と、非当接領域Sにおいて外板20にのみ形成された溶融凝固部Z1とを有している。なお、図4の例では、溶融凝固部Z1が非当接領域Sに4つ形成されているが、溶融凝固部Z1の数は特に限定されない。また、溶融凝固部Z1は、外板20及び第一横骨部材30の接合、あるいは外板20及び第二横骨部材40の接合には寄与しない。
【0050】
本溶接部W2は、例えば図4(a)に示すように、断続的なレーザ照射によって点状に形成されている。あるいは本溶接部W2は、図4(b)に示すように、連続的なレーザ照射によって線状に形成されている。本溶接部W2が断続的なレーザ照射で形成されている場合、隣り合う本溶接部W2のピッチ間隔は、例えば5mm〜10mmであり、スポット径は、例えば0.8mm〜1.6mmである。
【0051】
第二横骨部材40のフランジ部43,43には、外板20及び第二横骨部材40が溶接された本溶接部W2が、溶接ラインAxに沿って形成されている。第二横骨部材40は、頂部41が鉄道車両の内側に向いた状態で、フランジ部43,43に沿って形成された本溶接部W2によって、外板20に強固に接合されている。この構成により、第二横骨部材40と外板20との間には、第二横骨部材40の長手方向に沿って中空部44が形成されている。なお、本実施形態では、第二横骨部材40の長手方向は、溶接ラインAxに平行である。
【0052】
次に、第二実施形態に係る車両パネル構造体の製造方法について説明する。第二実施形態に係る車両パネル構造体の製造方法では、第一実施形態に係る車両パネル構造体の製造方法において、溶融凝固部Z1を形成する溶融凝固部形成工程の前に、外板20の内側面に溶接ラインAxに沿って、第一横骨部材30と所定の間隔をもって、第二横骨部材40を配置する骨部材配置工程を行う。これにより、外板20と第一横骨部材30とが当接する当接領域Tと、外板20と骨部材とが当接しない非当接領域Sと、外板20と第二横骨部材40とが当接する当接領域Tとが存在することとなる。
【0053】
第二横骨部材40を配置する骨部材配置工程の後、外板20と第二横骨部材40とが当接する当接領域Tにおいて、第二横骨部材40から外板20に達する本溶接部W2を形成する本溶接部形成工程を行う。これにより、第二横骨部材40と外板20とが、溶接ラインAxに沿って溶接接合される。
【0054】
溶接には、例えばレーザ溶接、アーク溶接を用いる。例えば図5(a)に示すように、本溶接部W1,W2及び溶融凝固部Z1を断続的なレーザ照射によって形成する場合、第一横骨部材30及び第二横骨部材40の骨部材配置工程の後、外板20と第一横骨部材30との当接領域T、非当接領域S、外板20と第二横骨部材40との当接領域Tの順に、溶接ラインAxに沿って、断続的なレーザ照射を行う。あるいは、第一横骨部材30及び第二横骨部材40の骨部材配置工程の後、例えば、外板20と第一横骨部材30との当接領域T、外板20と第二横骨部材40との当接領域Tにそれぞれ断続的なレーザ照射を溶接ラインAxに沿って行い、その後、外板20の非当接領域Sに断続的なレーザ照射を行ってもよい。
【0055】
また、図5(b)に示すように、本溶接部W1,W2及び溶融凝固部Z1を連続的なレーザ照射によって形成する場合、第一横骨部材30及び第二横骨部材40の骨部材配置工程の後、例えば、外板20と第一横骨部材30との当接領域T、非当接領域S、外板20と第二横骨部材40との当接領域Tの順に、溶接ラインAxに沿って、連続的なレーザ照射を一括して行う。以上により、本溶接部W1,W2及び溶融凝固部Z1が形成され、本実施形態の車両パネル構造体を得る。
【0056】
第一実施形態で述べたように、応力に起因する外板20の歪みは、溶接ラインAx上に形成される当接領域Tの中央付近と端部とでは一様とはならない。すなわち、当接領域Tの端部の周辺であって、第一横骨部材30の一端部30aと第二横骨部材40の一端部40aとの間に存在する非当接領域Sには、外板20と、第一横骨部材30又は第二横骨部材40とのレーザ溶接に起因する外板20の歪みが生じ易い。そこで、本実施形態では、この非当接領域Sに溶融凝固部Z1を導入することにより、第一横骨部材30の一端部30a及び第二横骨部材40の一端部40aに生じる応力をキャンセルする応力を意図的に付与することができる。従って、外板20と、第一横骨部材30又は第二横骨部材40とをレーザ溶接することによって生じる外板20の歪みを効果的に低減できる。
【0057】
また、本実施形態では、骨部材として、外板20に対して横方向に配置されている第一横骨部材30及び第二横骨部材40を用いる例を示したが、本発明は、骨部材として、外板20に対して縦方向に配置される2つの縦骨部材であってもよく、この場合も同様の効果を奏する。
(第三実施形態)
【0058】
第三実施形態に係る車両パネル構造体が、第一実施形態に係る車両パネル構造体と異なるのは、縦骨部材50を更に備える点である。図6は、第三実施形態に係る車両パネル構造体の構成を示す斜視図である。
【0059】
図6に示す例では、第一横骨部材30は、外板20に対して横方向に配置されている。一方、縦骨部材50は、第一横骨部材30の配置方向と交差する方向、すなわち、外板20に対して縦方向に配置されている。この縦骨部材50は、少なくとも第一横骨部材30との間に非当接領域Sが存在するように、第一横骨部材30と所定の間隔をもって配置されている。
【0060】
縦骨部材50は、長方形状の頂部51と、頂部51の幅方向の両側部から起立するウェブ部52,52と、ウェブ部52,52の先端から外側に突出する一対のフランジ部53,53とを有する断面ハット状の部材(ハット材)である。頂部51とウェブ部52,52は、チャネル部55をなす。縦骨部材50は、例えば厚さ0.8mmのステンレス鋼(SUS301L)からなり、外板20の高さに対応する長尺状をなしている。また、頂部51の幅は例えば50mmとなっており、ウェブ部52の高さは例えば35mmとなっている。この構成により、縦骨部材50と外板20との間には、縦骨部材50の長手方向に沿って中空部54が形成されている。なお、本実施形態では、縦骨部材50の長手方向は、溶接ラインAx方向と交差する方向に平行である。
【0061】
縦骨部材50には、外板20及び縦骨部材50がレーザ溶接された本溶接部Y1が、溶接ラインAxと交差する方向に沿って形成されている。本溶接部Y1は、例えば図6(a)に示すように、断続的なレーザ照射による複数のスポット溶接によって点列に形成されている。本溶接部Y1は、あるいは図6(b)に示すように、連続的なレーザ照射による連続溶接によって線状に形成されている。
【0062】
溶融凝固部Z1は、非当接領域Sに形成されている。なお、溶融凝固部Z1は、外板20及び第一横骨部材30の接合、あるいは外板20及び縦骨部材50の接合には寄与しない。縦横に交差して配置された第一横骨部材30及び縦骨部材50の間の非当接領域Sには、外板20に溶接歪みが生じ易い。この非当接領域Sに、溶融凝固部Z1を導入することにより、外板20に現れる溶接歪みを効果的に抑制できる。
【0063】
また、縦骨部材50の一対のフランジ部53,53と外板20との当接によって形成される当接領域Tの内側の非当接領域Sにも、溶融凝固部Z1が形成されていることが好ましい。ハット材である縦骨部材50において、一対のフランジ部53,53と外板20との当接領域Tに形成された本溶接部Y1に起因して引張応力が発生する。しかし、当該当接領域Tの内側の側部には、引張応力をキャンセルする力が存在しないので、当該当接領域Tの内側の非当接領域Sでは外板20の歪みが目立ってしまう。そこで、この当接領域Tの内側の非当接領域Sに、応力を打ち消すための溶融凝固部Z1を形成することにより、外板20の溶接歪みを効果的に抑制できる。
【0064】
溶融凝固部Z1は、例えば、縦骨部材50の一側部50aと第一横骨部材30の一端部30aとの間の非当接領域S、縦骨部材50の中空部54の下の非当接領域S、並びに縦骨部材50の他側部50b側の非当接領域Sに、形成されている。図6(a)に示すように、溶融凝固部Z1を断続的なレーザ照射によって形成する場合、溶融凝固部Z1は、例えば、縦骨部材50の一側部50aと第一横骨部材30の一端部30aとの間の非当接領域Sに1つ、縦骨部材50の中空部54の下の非当接領域に2つ、並びに縦骨部材50の他側部50b側の非当接領域Sに2つの計5つ形成することができる。
【0065】
次に、第三実施形態に係る車両パネル構造体の製造方法について説明する。第三実施形態に係る車両パネル構造体の製造方法では、第一実施形態に係る車両パネル構造体の製造方法において、溶融凝固部Z1を形成する溶融凝固部形成工程後、縦骨部材50を配置する骨部材配置工程を行う。縦骨部材50は、外板20の内側面において、第一横骨部材30の配置方向(例えば横方向)と交差する方向(例えば縦方向)に、第一横骨部材30との間に所定の間隔をもって、配置する。これにより、第一横骨部材30と縦骨部材50との間には、第一横骨部材30と縦骨部材50とが当接しない非当接領域Sが存在することとなる。
【0066】
縦骨部材50を配置する骨部材配置工程後、外板20と縦骨部材50とが当接する当接領域Tにおいて、縦骨部材50から外板20に達する本溶接部Y1を形成する本溶接部形成工程を行う。これにより、外板20と縦骨部材50とが溶接接合される。
【0067】
縦骨部材50の溶接には、例えばレーザ溶接、アーク溶接を用いることができる。図6(a)及び図6(b)に示すように、本溶接部Y1は、例えば、断続的なレーザ照射による複数のスポット溶接として形成することができる。あるいは、本溶接部Y1は、連続的なレーザ照射による連続溶接として形成することもできる。なお、図6に示すように、外板20と縦骨部材50とが当接する当接領域Tは、外板20とフランジ部53,53とが当接する領域である。これにより、本溶接部Y1が、フランジ部53,53に複数形成される。
【0068】
なお、縦骨部材50の中空部54の下の非当接領域Sに溶融凝固部Z1を設ける場合、予め、当該溶融凝固部Z1を形成する工程を実施した後、縦骨部材50を配置する骨部材配置工程と、縦骨部材50から外板20に達する本溶接部Y1を形成する本溶接部形成工程とを実施すればよい。この場合、縦骨部材50の一側部50aと第一横骨部材30の一端部30aとの間の非当接領域S、あるいは縦骨部材50の他側部50b側の非当接領域Sに溶融凝固部Z1を形成する工程と、第一骨部材30における本溶接部形成工程とは、上記縦骨部材50の中空部54の下の非当接領域Sに溶融凝固部Z1を設ける工程、縦骨部材50を配置する骨部材配置工程、縦骨部材50から外板20に達する本溶接部Y1を形成する本溶接部形成工程のいずれの工程の前後で行ってもよい。以上により、本実施形態の車両パネル構造体を得る。
【0069】
上述したように、非当接領域Sには、外板20に溶接歪みが生じ易い。この非当接領域Sに、溶融凝固部Z1を導入することにより、外板20に現れる溶接歪みを効果的に抑制できる。また、縦骨部材50の一対のフランジ部53,53と外板20との当接によって形成される当接領域Tの内側の非当接領域Sにおいても、外板20に溶接歪みが生じ易い。この非当接領域Sにおいても、溶融凝固部Z1を導入することにより、外板20に現れる溶接歪みを一層効果的に抑制できる。
(第四実施形態)
【0070】
第四実施形態に係る車両パネル構造体が、第二実施形態に係る車両パネル構造体と異なるのは、縦骨部材50を更に備える点である。縦骨部材50は、第三実施形態で用いたものと同じとすることができる。図7は、第四実施形態に係る車両パネル構造体の構成を示す斜視図である。
【0071】
第四実施形態に係る車両パネル構造体では、溶融凝固部Z1は、第一横骨部材30と第二横骨部材40との間の非当接領域Sに形成されている。より具体的には、溶融凝固部Z1は、例えば、縦骨部材50の一側部50aと第一横骨部材30の一端部30aとの間の非当接領域S、縦骨部材50の中空部54の下の非当接領域S、縦骨部材50の他側部50bと第二横骨部材40の一端部40aとの間の非当接領域Sに形成されている。なお、この溶融凝固部Z1は、外板20及び第一横骨部材30の接合、外板20及び第二横骨部材40の接合、あるいは外板20及び縦骨部材50の接合には寄与しない。
【0072】
図7(a)に示すように、溶融凝固部Z1が断続的なレーザ照射によって形成される場合、溶融凝固部Z1は、例えば、縦骨部材50の一側部50aと第一横骨部材30の一端部30aとの間の非当接領域に1つ、縦骨部材50の中空部54の下の非当接領域Sに2つ、並びに縦骨部材50の他側部50bと第二横骨部材40の一端部40aとの間の非当接領域に1つの計4形成される。
【0073】
次に、第四実施形態に係る車両パネル構造体の製造方法について説明する。第四実施形態に係る車両パネル構造体の製造方法では、第二実施形態に係る車両パネル構造体の製造方法において、溶融凝固部Z1を形成する溶融凝固部形成工程後、外板20の内側面において、第一横骨部材30及び第二横骨部材40とのそれぞれの間に、所定の間隔をもって、縦骨部材50を配置する骨部材配置工程を行う。この際、縦骨部材50を、第一横骨部材30及び第二横骨部材40の配置方向(例えば横方向)と交差する方向(例えば縦方向)に配置する。すなわち、縦骨部材50を、第一横骨部材30と第二横骨部材40との間に、溶接ラインAxと交差する方向に配置する。これにより、縦骨部材50と、第一横骨部材30及び第二横骨部材40との間のそれぞれに非当接領域Sが存在することなる。
【0074】
縦骨部材50を配置する骨部材配置工程後、外板20と縦骨部材50とが当接する当接領域Tにおいて、縦骨部材50から外板20に達する本溶接部Y1を形成する本溶接部形成工程を行う。これにより、外板20と縦骨部材50とが溶接接合される。
【0075】
縦骨部材50の溶接には、例えばレーザ溶接、アーク溶接を用いることができる。図7(a)及び図7(b)に示すように、本溶接部Y1は、例えば、断続的なレーザ照射による複数のスポット溶接として形成することができる。あるいは、本溶接部Y1は、連続的なレーザ照射による連続溶接として形成することもできる。なお、図7に示すように、外板20と縦骨部材50とが当接する当接領域Tは、外板20とフランジ部53,53とが当接する領域である。これにより、本溶接部Y1が、フランジ部53,53に複数形成される。
【0076】
なお、縦骨部材50の中空部54の下の非当接領域Sに溶融凝固部Z1を設ける場合、予め、当該溶融凝固部Z1を形成する工程を実施した後、縦骨部材50を配置する骨部材配置工程と、縦骨部材50から外板20に達する本溶接部Y1を形成する本溶接部形成工程とを実施すればよい。この場合、縦骨部材50の一側部50aと第一横骨部材30の一端部30aとの間の非当接領域S、あるいは縦骨部材50の他側部50b側の非当接領域Sに溶融凝固部Z1を形成する工程と、第一骨部材30における本溶接部形成工程と、第二骨部材40における本溶接部形成工程とは、上記縦骨部材50の中空部54の下の非当接領域Sに溶融凝固部Z1を設ける工程、縦骨部材50を配置する骨部材配置工程、縦骨部材50から外板20に達する本溶接部Y1を形成する本溶接部形成工程のいずれの工程の前後で行ってもよい。以上により、本実施形態の車両パネル構造体を得る。
【0077】
縦骨部材50と第一横骨部材30との間の非当接領域S、縦骨部材50の中空部54の下の非当接領域S、あるいは縦骨部材50と第二横骨部材40との間の非当接領域Sには、外板20と、第一横骨部材30、第二横骨部材40、又は縦骨部材とのレーザ溶接に起因する外板20の歪みが生じ易い。これらの非当接領域Sに、溶融凝固部Z1を導入することにより、外板20の歪みを効果的に低減できる。
【0078】
上記第一実施形態から第四実施形態では、第一横骨部材30、第二横骨部材40、または縦骨部材50が、断面ハット状の部材である例を示したが、これに限定されず、例えば断面Z状の部材などでも、同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0079】
1…鉄道車両、10…車両パネル構造体、20…外板、20a…一端部、30…第一横骨部材、30a…一端部、31…頂部、32…ウェブ部、33…フランジ部、35…チャネル部、40…第二横骨部材、40a…一端部、41…頂部、42…ウェブ部、43…フランジ部、45…チャネル部、50…縦骨部材、51…頂部、52…ウェブ部、53…フランジ部、55…チャネル部、S…非当接領域、T…当接領域、Ax…溶接ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の外壁となる外板と、前記外板の内側面に当接して配置された骨部材と、を備え、予め設定された溶接ライン上に形成した溶接部によって前記外板と前記骨部材とを接合してなる車両パネル構造体であって、
前記溶接ライン上には、前記外板と前記骨部材とが当接する当接領域と、前記外板と前記骨部材とが当接しない非当接領域とが存在し、
前記溶接部は、前記当接領域において前記骨部材から前記外板に達するように形成された本溶接部と、前記非当接領域において前記外板にのみ形成された溶融凝固部とを有していることを特徴とする車両パネル構造体。
【請求項2】
前記骨部材は、第一の方向に配置された第一骨部材と、前記第一の方向に交差する第二の方向に配置された第二骨部材とを含み、
前記第二骨部材は、前記第一骨部材との間に前記非当接領域が存在するように所定の間隔をもって配置されている請求項1に記載の車両パネル構造体。
【請求項3】
前記第一及び第二骨部材は、チャネル部と一対のフランジ部とからなるハット材であり、
前記第二骨部材の前記一対のフランジ部と前記外板との当接によって形成される前記当接領域の内側の前記非当接領域には、前記溶融凝固部が形成されている請求項2に記載の車両パネル構造体。
【請求項4】
前記外板の外側面には、前記溶接ラインと略平行な方向に沿った研磨加工が施されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両パネル構造体。
【請求項5】
前記本溶接部及び前記溶融凝固部は、レーザ照射によって形成されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両パネル構造体。
【請求項6】
鉄道車両の外壁となる外板の内側面において、予め設定された溶接ライン上に骨部材を当接して配置する骨部材配置工程と、
前記外板と前記骨部材とが当接する当接領域において、前記骨部材から前記外板に達する本溶接部を形成する本溶接部形成工程と、
前記外板と前記骨部材とが当接しない非当接領域において、前記外板のみを溶融凝固させることにより溶融凝固部を形成する溶融凝固部形成工程と、を備える車両パネル構造体の製造方法。
【請求項7】
前記骨部材配置工程を実施した後、前記本溶接工程に先立って、前記溶融凝固部形成工程を実施する請求項6に記載の車両パネル構造体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate