説明

車両パネル

【課題】1枚の板に凹凸部を設けることによって剛性を向上させたインナーパネルを備え、一次衝突及び二次衝突時の衝撃吸収性能に優れた軽量の車両パネルを提供すること。
【解決手段】インナーパネル2の凹凸部20は、12角錐形状または12角錐台形状を呈する第1突出部21と、その反対側に突出する6角錐形状又は6角錐台形状を呈する第2突出部22と、4角形状の平面である中間平面23とを有する。鉛直方向から見ると、第1突出部21は、仮想の略正六角形のうちの一つの略正六角形の中心点及び各頂点の位置に対応して規則的に分散配置されており、1つの第1突出部21の周囲を囲むように、6つの第2突出部22と6つの中間平面23とが交互に規則正しく配列されており、中間平面23は、隣接する第1突出部21同士を繋ぐように分散配置されており、第2突出部22は、第1突出部22及び中間平面23に囲まれた位置に分散配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にアウターパネルとインナーパネルにより構成される車両パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフードやドアなどの車両パネルは、一般的に、アウターパネルとインナーパネルとを積層して構成されている。近年では、軽量化を目的として、鋼板等によって構成されている部品の材料を、アルミニウム合金板製の軽い材料に置き換えることが検討、実施されている。この場合、軽量化の前提として、要求される剛性を確保することが必要である。アルミニウム合金のヤング率は鋼板のヤング率の1/3程度であり、鋼板と同じ剛性を保つには、板厚を厚くするか、剛性の高い形状に成形する必要がある。このうち、板厚を厚くすることは軽量化に逆行するため、剛性の高い形状を付与することが一般的に行われている。
【0003】
これまで、アルミニウム合金板製のインナーパネルとしては、ビーム型パネルやコーン型パネルがよく知られている(特許文献1〜3参照)。
特許文献1には、ビーム型のインナーパネル形状が提案されている。特許文献2には、コーン型のインナーパネル形状が提案されている。特許文献3には、2枚のインナーパネルを用いたコーン型パネル形状が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4287614号公報
【特許文献2】特許第3829715号公報
【特許文献3】特許第4336079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のビーム型のインナーパネルは、上記特許文献2のコーン型のインナーパネルよりもねじり剛性が低いことが知られている。
上記特許文献2のインナーパネルの凸部はアウターパネル側が頂部であり、エンジン等への二次衝突があった場合の衝撃吸収性能が、上記特許文献3の2枚組み合わせたインナーパネルよりも低くなることが知られている。
【0006】
一方、上記特許文献3のインナーパネルは、2枚から構成されているため、上記特許文献1、2の1枚の場合に比べて、部品点数が多くなり組立コストが高くなるという欠点と部品点数が増えた分だけ重量が増すという欠点がある。
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、1枚の板に凹凸部を設けることによって剛性を向上させたインナーパネルを備えた車両パネルであって、一次衝突及び二次衝突時の衝撃吸収性能に優れた軽量の車両パネルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルミニウム合金板よりなるアウターパネルと、該アウターパネルの裏面に向けて配置されたアルミニウム合金板よりなるインナーパネルとを有する車両パネルにおいて、
上記インナーパネルは、厚み方向に突出する凹凸部を有し、
上記凹凸部は、仮想の1つの平面である中間基準面を基準とし、
上記中間基準面上に底辺部を有する12角錐形状または12角錐台形状を呈する第1突出部と、
上記中間基準面上に底辺部を有すると共に上記第1突出部と反対側に突出する6角錐形状又は6角錐台形状を呈する第2突出部と、
上記中間基準面上に設けられた4角形状の平面である中間平面とを有し、
上記中間基準面の鉛直方向から見ると、上記第1突出部は、板全面を格子状に構成する仮想の略正六角形のうちの一つの略正六角形の中心点及び各頂点の位置に対応して規則的に分散配置されており、1つの上記第1突出部の周囲を囲むように、6つの上記第2突出部と6つの上記中間平面とが交互に規則正しく配列されており、
上記中間平面は、隣接する上記第1突出部同士を繋ぐように分散配置されており、上記第2突出部は、上記第1突出部及び上記中間平面に囲まれた位置に分散配置されていることを特徴とする車両パネルにある(請求項1)。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両パネルにおける上記凹凸部は、上記特殊な形状の凹凸部を有している。上記第1突出部と上記第2突出部とが互いに逆方向に突出しており、上記中間平面が、隣接する第1突出部同士を繋ぐように分散配置されており、上記第2突出部は、上記第1突出部及び上記中間平面に囲まれた位置に分散配置されている。そのため、上記中間平面と上記第1突出部又は第2突出部が隣接する位置においては、上記中間平面と平行でない第1突出部又は第2突出部の側面が上記中間平面を囲み、また、第1突出部と第2突出部とが隣接する部位では、これらの側面が上記中間基準面を斜めに貫通する方向の面を形成する。このような形状を実現することによって、上記インナーパネルは、曲げ剛性に優れた高剛性の材料となる。
【0010】
さらに、上記凹凸部は、上記のごとく、上記第1突出部、第2突出部及び中間平面の各領域の外形形状をそれぞれ12角形、6角形及び4角形とすることによって、規則正しい分散配列を実現している。これにより、全体的に方向性のない特性を発揮し、どの方向に対しても剛性向上効果が得られる。
【0011】
このような優れた剛性を有するインナーパネルを用い、その第1突出部又は第2突出部に上記アウターパネルを対面させて少なくとも周囲を接合することにより、本発明の車両パネルが構成される。上記車両パネルにおいては、歩行者が衝突した際の一次衝突の衝撃は上記アウターパネル側に突出した第1突出部又は第2突出部が吸収し、エンジン等への二次衝突の衝撃は第2突出部又は第1突出部が吸収する。そして、上記中間基準面に存在する中間領域、上記第1突出部及び第2突出部が、上記特殊な位置関係で存在することによって、方向性がほとんどなく、どの方向においても上記一次衝突および二次衝突の衝撃吸収性能を従来と同等以上に高めることができる。
しかも、本発明の車両パネルは、1枚のアルミニウム合金板よりなるアウターパネルと1枚のアルミニウム合金板よりなるインナーパネルとによって構成されており、従来の鋼板製の車両パネルよりも格段に軽量化することができる。
【0012】
したがって、本発明によれば、軽量であり、従来と同等以上の一次衝突及び二次衝突時の衝撃吸収性能を有する車両パネルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1における、車両パネルの構成を示す展開説明図。
【図2】実施例1における、凹凸部の部分平面図。
【図3】実施例1における、凹凸部の部分斜視図。
【図4】実施例1における、図2のA−A線矢視断面図。
【図5】実施例1における、図2のB−B線矢視断面図。
【図6】実施例2における、凹凸部の部分平面図。
【図7】実施例2における、凹凸部の部分斜視図。
【図8】実施例2における、図6のA−A線矢視断面図。
【図9】実施例2における、図6のB−B線矢視断面図。
【図10】実施例2における、1つの第1突出部の形状を示す、(a)平面図、(b)斜視図、(c)正面図。
【図11】実施例2における、1つの第2突出部の形状を示す、(a)平面図、(b)斜視図、(c)正面図。
【図12】実施例3における、凹凸部の部分平面図。
【図13】実施例3における、凹凸部の部分斜視図。
【図14】実施例3における、図12のA−A線矢視断面図。
【図15】実施例3における、図12のB−B線矢視断面図。
【図16】実施例4における、凹凸部の部分平面図。
【図17】実施例4における、凹凸部の部分斜視図。
【図18】実施例4における、第1平面及び第2平面の無い場合の凹凸部の部分平面図。
【図19】実施例4における、第1平面及び第2平面の無い場合の凹凸部の部分斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、12角形、6角形、4角形、12角錐、6角錐、12角錐台、6角錐台等の表現は、いずれも幾何学上の狭義の概念に止まらず、一般的に上記の形状と認識できる形状を含むものであり、各辺が若干曲線になったり、各頂点部に丸みがあったり、角部や面に成形上必要な丸み等が生じることは当然に許容される。
【0015】
また、上記第1突出部と上記第2突出部の少なくとも一方は、上記中間基準面上の底辺部から所定量突出した基礎突出部と、該基礎突出部の頂点部に形成された平面とを有する1段形状を呈している構成とすることができる(請求項2)。
上記第1突出部と上記第2突出部の一方又は両方が上記1段形状の場合には、後述する複数段形状の場合よりも突出量を低減することが容易となり、厚み制限がある用途等において剛性向上効果を効率よく得る場合に有効である。なお、上記1段形状の場合、上記第1突出部は側面の途中で傾斜角度が変化する屈曲部を有さない12角錐台形状となる。同様に、上記1段形状の場合、上記第2突出部は側面の途中で傾斜角度が変化する屈曲部を有さない6角錐台形状となる(実施例1参照)。
【0016】
また、上記第1突出部と上記第2突出部の少なくとも一方は、上記中間基準面上の底辺部から所定量突出した基礎突出部と、該基礎突出部と傾斜角度が異なる延長突出部とを連ねた複数段形状を呈している構成をとることもできる(請求項3)。
上記複数段形状を採用した場合には、上記延長突出部の存在によって、さらなる剛性向上効果が期待できる。2段形状の場合、上記第1突出部は上記基礎突出部と上記延長突出部との境において側面の傾斜角度が変化する屈曲部を有する2段の12角錐形状又は12角錐台形状となる。同様に、2段形状の場合、上記第2突出部は上記基礎突出部と上記延長突出部との境において側面の傾斜角度が変化する屈曲部を有する2段の6角錐形状又は6角錐台形状となる(実施例2参照)。なお、3段以上の複数段形状は、上記延長突出部の途中においてさらに屈曲部を設けることで実現できる。
【0017】
また、上記第1突出部と上記第2突出部は、両者の上記基礎突出部の傾斜角度が同じであって、隣接部において連なって一平面をなしていることが好ましい(請求項4)。この場合には、上記基礎突出部の傾斜角度が同じであるので(実施例1〜3参照)、上記第1突出部と第2突出部とが隣接する位置における上記基礎突出部同士が1つの平面で連なることとなり、成形が容易になる。
なお、上記第1突出部の基礎突出部の傾斜角度と上記第2突出部の傾斜角度とを異なる角度として、上記中間基準面上に屈曲部を設ける構造とすることも可能である(実施例4参照)。
【0018】
また、上記延長突出部の側面の上記中間基準面に対する傾斜角度は5°〜60°の範囲にあることが好ましい(請求項5)。上記延長突出部の側面の傾斜角度が5°未満の場合には0°つまり平面の場合に比べて剛性向上効果少ない。一方、上記延長突出部の側面の傾斜角度が60°を超える場合には成形が困難になるという問題がある。
【0019】
また、上記基礎突出部の上記中間基準面に対する傾斜角度は10°〜90°の範囲にあることが好ましい(請求項6)。上記基礎突出部の傾斜角度が10°未満の場合には剛性の向上効果が少ないという問題がある。一方、上記基礎突出部の傾斜角度が90°を超える場合には凹凸部形成上困難であり、必要のない領域である。
【0020】
また、上記インナーパネルは、凹凸部形成前の板厚tが0.3mm〜2.0mmであることが好ましい(請求項7)。インナーパネルの板厚tを上記範囲内とすることによって、加工性を確保しつつ優れた剛性を得ることができる。一方、上記板厚tが0.3mm未満の場合には使用上必要な剛性を得ることが困難となり、板厚tが2.0mmを超える場合には成形が困難となる。なお、凹凸部形成前の板厚tによって規定する理由は、上記凹凸部をプレス加工やロール成形等の塑性加工によって加工することによって各部の板厚が変化する場合があるためである。
【0021】
また、上記第1突出部の上記中間基準面からの突出高さH1(mm)と凹凸部形成前の板厚t(mm)との比(H1/t)が、上記第1突出部の側面における最も大きい傾斜角度θ1(°)との関係において、1≦H1/t≦−2.5θ1+227の関係にあり、上記第2突出部の上記中間基準面からの突出高さH2(mm)と上記板厚t(mm)との比(H2/t)が、上記第2突出部の側面における最も大きい傾斜角度θ2(°)との関係において、1≦H2/t≦−2.5θ2+227の関係にあることが好ましい(請求項8)。
【0022】
上記比(H1/t)が1未満の場合には突出させない場合と比較して剛性向上効果が少ないおそれがあり、一方、比(H1/t)が−2.5θ1+227を超える場合には成形が困難になるおそれがある。
また、上記比(H2/t)が1未満の場合には突出させない場合と比較して剛性向上効果が少ないおそれがあり、一方、比(H2/t)が−2.5θ2+227を超える場合には成形が困難になるおそれがある。
【0023】
また、上記第1突出部の外形寸法D11(mm)と凹凸部形成前の板厚t(mm)との比(D11/t)が10〜500であり、上記第2突出部の底辺部の外形寸法D21(mm)と上記板厚t(mm)との比(D21/t)が10〜500であることが好ましい(請求項9)。
【0024】
上記比(D11/t)が10未満の場合には成形が困難になるおそれがあり、一方、比(D11/t)が500を超える場合には凹凸形状の単位形状が大きくなりすぎて実用的には取り扱いが困難となったり、剛性向上効果が十分に得られないおそれがある。
また、上記比(D21/t)が10未満の場合には成形が困難になるおそれがあり、一方、比(D21/t)が500を超える場合には凹凸形状の単位形状が大きくなりすぎて実用的には取り扱いが困難となったり、剛性向上効果が十分に得られないおそれがある。
【0025】
また、本発明の車両パネルは、自動車のフードに限らず、ドアー、ルーフ、フロアー、トランクリッドなどのパネルとして使用可能である。
上記アウターパネルを構成するアルミニウム合金板としては、たとえば、比較的安価であるという理由により6000系合金板が好適である。また、上記インナーパネルを構成するアルミニウム合金板としては、たとえば、比較的成形性がよいという理由により5000系合金板が好適である。
【0026】
また、上記凹凸部は、次のようにリブ構造を含む構造に変形させることもできる。
即ち、複数の上記第1突出部の頂点中心部分を結ぶ直線又は曲線上を通る第1頂面部を有する第1リブ部を1又は複数有し、該第1リブ部は、平面状の上記第1頂面部と、該第1頂面部の両側部から上記中間基準面に向かって徐々に拡開するよう傾斜した左右一対の第1側壁部とを有し、該第1側壁部と交わる上記第1突出部は、上記第1側壁部と交わる位置までの狭い領域に制限された変形第1突出部となり、上記第1側壁部と交わる上記第2突出部は、上記第1側壁部と交わる位置までの狭い領域に制限された変形第2突出部となり、上記第1側壁部と交わる上記中間平面は、上記第1側壁部と交わる位置までの狭い領域に制限された変形中間平面となっている構成とすることができる。
【0027】
また、複数の上記第2突出部の頂点中心部分を結ぶ直線又は曲線上を通る第2頂面部を有する第2リブ部を1又は複数有し、該第2リブ部は、平面状の上記第2頂面部と、該第2頂面部の両側部から上記中間基準面に向かって徐々に拡開するよう傾斜した左右一対の第2側壁部とを有し、該第2側壁部と交わる上記第1突出部は、上記第2側壁部と交わる位置までの狭い領域に制限された変形第1突出部となり、上記第2側壁部と交わる上記第2突出部は、上記第2側壁部と交わる位置までの狭い領域に制限された変形第2突出部となり、上記第2側壁部と交わる上記中間平面は、上記第2側壁部と交わる位置までの狭い領域に制限された変形中間平面となっている構成とすることができる。
【0028】
これらの場合には、上記第1リブ部と第2リブ部の少なくとも一方を設けることによって、これを設けない場合に比べて、歩行者が衝突した場合の衝撃力の調整が容易である。即ち、第1リブ部あるいは第2リブ部を設ける範囲、数、形状等を変更することによって容易に衝撃力の設計変更を行うことができる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる車両パネルにつき、図1〜図5を用いて説明する。
本例の車両パネル1は、図1に示すごとく、アルミニウム合金板よりなるアウターパネル10と、該アウターパネル10の裏面に向けて配置されたアルミニウム合金板よりなるインナーパネル2とを有する車両パネルである。インナーパネル2は、その外周部においてアウターパネル10とヘム加工等により接合されている。なお、外周部以外の任意の箇所で接合することもできる。
【0030】
アウターパネル10は、材質:6000系、板厚1.0mmのアルミニウム合金板よりなる。
インナーパネル2は、材質:5000系、凹凸部形成前板厚tが0.9mmのアルミニウム合金板よりなる。
【0031】
インナーパネル2は、図1に示すごとく、外周部を除く中央部分に、厚み方向に突出する凹凸部20を有している。本例では、インナーパネル2の凹凸部20は、一対の金型を用いたプレス成形により成形した。なお、この成形方法は、表面に所望の凹凸形状をつけた一対の成形ロールによって成形するロール成形等の他の塑性加工方法を採用することも可能である。この凹凸部20は次のように構成されている。
【0032】
図4、図5に示すごとく、凹凸部20は、仮想の1つの平面である中間基準面K3を基準とし、中間基準面K3上に底辺部を有する12角錐台形状を呈する第1突出部21と、中間基準面K3上に底辺部を有すると共に第1突出部21と反対側に突出する6角錐台形状を呈する第2突出部22と、中間基準面K3上に設けられた4角形状の平面である中間平面23とを有する。
【0033】
図2に示すごとく、中間基準面K3の鉛直方向から見ると、第1突出部21は、板全面を格子状に構成する仮想の正六角形のうちの一つの正六角形の中心点a及び各頂点bの位置に対応して規則的に分散配置されており、1つの第1突出部21の周囲を囲むように、6つの第2突出部22と6つの中間平面23とが交互に規則正しく配列されている。中間平面23は、隣接する第1突出部21同士を繋ぐように分散配置されており、第2突出部22は、第1突出部21及び中間平面23に囲まれた位置に分散配置されている。そして、この配置が規則正しく四方に連続している。
以下、さらに詳説する。
【0034】
本例のインナーパネル2は、上述したごとく、凹凸部形成前板厚tが0.9mmの5000系アルミニウム合金よりなる。なお、図中における厚み等の寸法は、説明の都合上強調して表しており、正確なものではない。また、図2、図3においては、外観上実際に表れない第1突出部21と第2突出部22との境界部を破線Pにより示した(後述する図6、図7、図12、図13も同様)。図2は、凹凸部20の一部の範囲についての平面図である。
凹凸部20は、一対の金型を用いたプレス成形により成形する。なお、この成形方法としては、表面に所望の凹凸形状をつけた一対の成形ロールによって成形するロール成形等の他の塑性加工方法を採用することも可能である。
【0035】
図2〜図5に示すごとく、上記第1突出部21は、中間基準面K3上の底辺部から所定量突出した第1基礎突出部211と、第1基礎突出部211の頂部に形成された第1平面215とを有する1段の12角錐台形状を呈している。第1基礎突出部211の側面は中間基準面K3に対して傾斜角度α傾斜し、その頂部の第1平面215は、中間基準面K3との間隔S1をあけて平行に配された仮想の第1基準面K1上に配されている。本例では、傾斜角度α=45°、間隔S1=6mmとした。間隔S1は、第1突出部21の突出量H1と合致する。そのため、第1突出部21の中間基準面K3からの突出高さH1(mm)と凹凸部形成前の板厚t(mm)との比(H1/t)は6.7である。
【0036】
また、第2突出部22は、中間基準面K3上の底辺部から所定量突出した第2基礎突出部221と、第2基礎突出部221の頂部に形成された第2平面225とを有する1段の6角錐台形状を呈している。第2基礎突出部221の側面は中間基準面K3に対して傾斜角度β傾斜し、その頂部の第2平面225は、中間基準面K3との間隔S2をあけて平行に配された仮想の第2基準面K2上に配されている。本例では、傾斜角度β=45°、間隔S2=6mmとした。間隔S2は、第2突出部22の突出量H2と合致する。そのため、第2突出部22の中間基準面K3からの突出高さH2(mm)と凹凸部形成前の板厚t(mm)との比(H2/t)は6.7である。
【0037】
図4、図5に示すごとく、隣り合う第1突出部21の第1基礎突出部211の側面と第2突出部22の第2基礎突出部221の側面とは、上記のごとく同じ傾斜角度であるため、1つの平面によって連なった形態を示し、中間基準面K3上に外観上の折り曲げ部等は表れていない。なお、両者の境界部は上述したごとく破線Pにより図2、図3に示した。
【0038】
図2に示すごとく、第1突出部21の外形寸法D11は125mmであり、凹凸部形成前の板厚t(mm)との比(D11/t)は138.9である。第2突出部22の底辺部の外形寸法D21は94mmであり、上記板厚t(mm)との比(D21/t)は104.4である。
【0039】
本例のインナーパネル2は、上記のごとく、第1突出部21、第2突出部22及び中間平面23という3つの領域を有する特殊な形状の凹凸部20を有している。そのため、インナーパネル2は、曲げ剛性に優れた高剛性の材料となる。そして、図1に示すごとく、インナーパネル2とアウターパネル10とを組み合わせることによって衝撃吸収性能に優れた車両パネル1が得られる。しかも、本例の車両パネル1はアルミニウム合金板よりなるため、軽量化することができる。
【0040】
(FEM解析)
本例のインナーパネル2の剛性向上効果を定量的に判断するためのFEM(有限要素法)解析を行った。
FEM解析方法は、図3に示す大きさの凹凸部20のみよりなる試験片の一端Z1を固定して、他端Z2を自由端とする片持ち梁を想定し、自由端に1Nの荷重をかけた場合の撓み量から剛性を求めるものである。試験片のサイズは300mm×346mmであり、凹凸部20をプレス成形する前の板厚tが0.9mm、成形後は0.8mmであるとした。
剛性の評価は、凹凸部20形成前の平板状の元板について同様のFEM解析を行った結果得られた撓み量との比で行い、剛性が何倍に向上したかにより行った。その結果、本例の凹凸部20は、平板状の元板の場合と比べて、剛性が7.1倍に向上することが分かった。
【0041】
(実施例2)
本例は、凹凸部の形状を実施例1と変えた例である。ただし、凹凸部形成前板厚tが0.9mmの5000系アルミニウム合金よりなる。本例の凹凸部202は、図6〜図11に示すごとく、厚み方向において一方に突出した第1突出部21と、他方に突出した第2突出部22と、これらの中間に位置する中間平面23とを有している。なお、説明の都合上、形状が異なっても同じ種類の部位は実施例1と同じ符号を用いる(以下、同様)。
【0042】
図6に示すごとく、インナーパネル2の鉛直方向から見ると、第1突出部21は、板全面を格子状に構成する仮想の正六角形のうちの一つの正六角形の中心点a及び各頂点bの位置に対応して規則的に分散配置されており、1つの第1突出部21の周囲を囲むように、6つの第2突出部22と6つの中間平面23とが交互に規則正しく配列されている。
【0043】
図6〜図11に示すごとく、第1突出部21は、中間基準面K3上の底辺部から所定量突出した第1基礎突出部211と、第1基礎突出部211よりも傾斜角度が緩い第1延長突出部212とを連ね、その頂部に第1平面215を備えた2段の12角錐台形状を呈している。第1基礎突出部211の側面は中間基準面K3に対して傾斜角度α1傾斜し、第1延長突出部212の側面は中間基準面K3に対して傾斜角度α2傾斜し、第1基礎突出部211と第1延長突出部212との境界の第1屈曲部213は中間基準面K3との間隔S1をあけて平行に配された仮想の第1基準面K1上に配されている。本例では、傾斜角度α1=45°、α2=10°、間隔S1=6mmとした。第1突出部21の中間基準面K3からの突出高さH1は12mmであり、凹凸部形成前の板厚t(mm)との比(H1/t)は13.3である。
【0044】
第2突出部22は、中間基準面K3上の底辺部から所定量突出した第2基礎突出部221と、第2基礎突出部221よりも傾斜角度が緩い第2延長突出部222とを連ね、その頂部に第2平面225を備えた2段の6角錐台形状を呈している。第2基礎突出部221の側面は中間基準面K3に対して傾斜角度β1傾斜し、第2延長突出部222の側面は中間基準面K3に対して傾斜角度β2傾斜し、第2基礎突出部221と第2延長突出部222との境界の第2屈曲部223は中間基準面K3との間隔S2をあけて平行に配された仮想の第2基準面K2上に配されている。本例では、傾斜角度β1=45°、β2=15°、間隔S1=6mmとした。第2突出部22の中間基準面K3からの突出高さH2は12mmであり、凹凸部形成前の板厚t(mm)との比(H2/t)は13.3である。
【0045】
図10には、第1突出部21のみを抜き出し、その平面図(a)、斜視図(b)、正面図(c)を示した。同様に、図11には、第2突出部22のみを抜き出し、その平面図(a)、斜視図(b)、正面図(c)を示した。
図10(a)に示すごとく、第1突出部21における第1基礎突出部211の底辺部の外形寸法D11は125mm、第1延長突出部212の底辺部の外形寸法D12は110mmに設定した。したがって、上記板厚t(mm)との比(D11/t)は、138.9である。
また、図11(a)に示すごとく、第2突出部22における第2基礎突出部221の底辺部の外形寸法D21は94mm、第2延長突出部222の底辺部の外形寸法D22は80mmに設定した。したがって、上記板厚t(mm)との比(D21/t)は、104.4である。なお、外形寸法D11、D21は、いずれも各底辺部の外形輪郭の外接円の直径である。
【0046】
また、図10(a)に示すごとく、第1突出部21の頂点部における12角形状の第1平面215は、その外形寸法D15を40mmとして上記D11の32%に設定た。
また、図11(a)に示すごとく、第2突出部22の頂点部における6角形状の第2平面225は、その外形寸法D25を30mmとして上記D21の31.9%に設定た。
【0047】
また、図6に示すごとく、中間基準面K3に直交する方向から見て、第2突出部22と中間平面23の中心間距離L1は50mm、第1突出部21と第2突出部22の中心間距離L2は100mm、第1突出部21と中間平面23の中心間距離L3は86.6mmとした。
【0048】
(FEM解析)
本例の凹凸部202の剛性向上効果を定量的に判断するためのFEM解析を行った。
FEM解析方法は、図7に示す大きさの凹凸部202のみよりなる試験片の一端Z1を固定して、他端Z2を自由端とする片持ち梁を想定し、自由端に1Nの荷重をかけた場合の撓み量から剛性を求めるものである。試験片のサイズは300mm×346mmであり、凹凸部202をプレス成形する前の板厚tが0.9mm、成形後は0.8mmであるとした。
剛性の評価は、凹凸部202形成前の平板状の元板について同様のFEM解析を行った結果得られた撓み量との比で行い、剛性が何倍に向上したかにより行った。その結果、本例の凹凸部は、平板状の元板の場合と比べて、剛性が8.4倍に向上することが分かった。
【0049】
(実施例3)
本例は、実施例2における第1突出部21および第2突出部22の形状を変更した凹凸部203を有するインナーパネル2を有する例である。インナーパネル2は、凹凸部203形成前の板厚t=0.9mm、材質5000系アルミニウム合金よりなる。
即ち、図12〜図15に示すごとく、第1突出部21は、中間基準面K3上の底辺部から所定量突出した12角錐台形状の第1基礎突出部211と、第1基礎突出部211よりも傾斜角度が緩い12角錐形状の第1延長突出部212とを連ね、その頂部に平面を設けていない2段の12角錐形状を呈している。
【0050】
同図に示すごとく、第2突出部22は、中間基準面K3上の底辺部から所定量突出した6角錐台形状の第2基礎突出部221と、第2基礎突出部221よりも傾斜角度が緩い6角錐形状の第2延長突出部222とを連ね、その頂部に平面を設けていない2段の6角錐形状を呈している。また、図14に示すごとく、第1突出部21の突出高さH1(mm)及び第2突出部22の突出高さH2(mm)は、いずれも16mmとした。
その他は、実施例2と同様である。なお、第1突出部21および第2突出部22の頂点部分は成形上の問題から若干丸みを帯びる。
この場合も、実施例2とほぼ同様の作用効果が得られる。
【0051】
(実施例4)
本例の凹凸部204を有するインナーパネル2も、図16、図17に示すごとく、厚み方向において一方に突出した第1突出部21と、他方に突出した第2突出部22と、これらの中間に位置する中間平面23とを有している。インナーパネル2は、凹凸部204形成前の板厚t=0.9mm、材質5000系アルミニウム合金板よりなる。
【0052】
本例の凹凸部204は、実施例1と同様に、第1突出部は1段の12角錐台形状を呈し、第2突出部22は1段の6角錐台形状を呈している。一方、実施例1と異なり、第1突出部21の第1基礎突出部211の側面と第2突出部22の第2基礎突出部221の傾斜角度を異なる角度にして、両者の境界部が明確に外観上に表れる形状に変更した。
【0053】
図示は省略するが、各部の寸法を実施例1の場合と同じ符号で示すと、第1基礎突出部211を構成する12角錐台形状の側面の傾斜角度αは18°、第2基礎突出部221を構成する6角錐台形状の側面の傾斜角度βは25°とした。
また、第1突出部21の外形寸法D11は、125mmに設定した。したがって、板厚t(mm)との比(D11/t)は、138.9である。また、第2突出部22の外形寸法D21は、94mmに設定した。したがって、板厚t(mm)との比(D21/t)は、104.4である。
【0054】
また、第1突出部21の突出高さH1は18mmとした。そのため、比(H1/t)は20である。また、第2突出部22の突出高さH2は18mmとした。そのため、比(H2/t)は20である。
また、第2突出部22と中間平面23の中心間距離L1は50mm、第1突出部21と第2突出部22の中心間距離L2は100mm、第1突出部21と中間平面23の中心間距離L3は86.6mmとした。
【0055】
(FEM解析)
本例の凹凸部204の剛性向上効果を定量的に判断するために、実施例2の場合と同様にFEM解析を行った。その結果、本例の凹凸部は、平板状の元板の場合と比べて、剛性が9.3倍に向上することが分かった。
【0056】
なお、図18、図19に示すごとく、上記第1平面215をなくして第1突出部21を1段の12角錐形状とし、上記第2平面225をなくして第2突出部22を1段の6角錐形状とした凹凸部205を有するインナーパネル2とすることもでき、この場合も上記とほぼ同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0057】
1 車両パネル
2 インナーパネル
20、202、203、204、205 凹凸部
21 第1突出部
211 第1基礎突出部
212 第2延長突出部
215 第1平面
22 第2突出部
221 第2基礎突出部
222 第2延長突出部
225 第2平面
23 中間平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板よりなるアウターパネルと、該アウターパネルの裏面に向けて配置されたアルミニウム合金板よりなるインナーパネルとを有する車両パネルにおいて、
上記インナーパネルは、厚み方向に突出する凹凸部を有し、
上記凹凸部は、仮想の1つの平面である中間基準面を基準とし、
上記中間基準面上に底辺部を有する12角錐形状または12角錐台形状を呈する第1突出部と、
上記中間基準面上に底辺部を有すると共に上記第1突出部と反対側に突出する6角錐形状又は6角錐台形状を呈する第2突出部と、
上記中間基準面上に設けられた4角形状の平面である中間平面とを有し、
上記中間基準面の鉛直方向から見ると、上記第1突出部は、板全面を格子状に構成する仮想の略正六角形のうちの一つの略正六角形の中心点及び各頂点の位置に対応して規則的に分散配置されており、1つの上記第1突出部の周囲を囲むように、6つの上記第2突出部と6つの上記中間平面とが交互に規則正しく配列されており、
上記中間平面は、隣接する上記第1突出部同士を繋ぐように分散配置されており、上記第2突出部は、上記第1突出部及び上記中間平面に囲まれた位置に分散配置されていることを特徴とする車両パネル。
【請求項2】
請求項1に記載の車両パネルにおいて、上記第1突出部と上記第2突出部の少なくとも一方は、上記中間基準面上の底辺部から所定量突出した基礎突出部と、該基礎突出部の頂点部に形成された平面とを有する1段形状を呈していることを特徴とする車両パネル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両パネルにおいて、上記第1突出部と上記第2突出部の少なくとも一方は、上記中間基準面上の底辺部から所定量突出した基礎突出部と、該基礎突出部と傾斜角度が異なる延長突出部とを連ねた複数段形状を呈していることを特徴とする車両パネル。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の車両パネルにおいて、上記第1突出部と上記第2突出部は、両者の上記基礎突出部の傾斜角度が同じであって、隣接部において連なって一平面をなしていることを特徴とする車両パネル。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の車両パネルにおいて、上記延長突出部の側面の上記中間基準面に対する傾斜角度は5°〜60°の範囲にあることを特徴とする車両パネル。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載の車両パネルにおいて、上記基礎突出部の上記中間基準面に対する傾斜角度は10°〜90°の範囲にあることを特徴とする車両パネル。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両パネルにおいて、上記インナーパネルは、凹凸部形成前の板厚tが0.3mm〜2.0mmであることを特徴とする車両パネル。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両パネルにおいて、上記第1突出部の上記中間基準面からの突出高さH1(mm)と凹凸部形成前の板厚t(mm)との比(H1/t)が、上記第1突出部の側面における最も大きい傾斜角度θ1(°)との関係において、1≦H1/t≦−2.5θ1+227の関係にあり、上記第2突出部の上記中間基準面からの突出高さH2(mm)と上記板厚t(mm)との比(H2/t)が、上記第2突出部の側面における最も大きい傾斜角度θ2(°)との関係において、1≦H2/t≦−2.5θ2+227の関係にあることを特徴とする車両パネル。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の車両パネルにおいて、上記第1突出部の外形寸法D11(mm)と凹凸部形成前の板厚t(mm)との比(D11/t)が10〜500であり、上記第2突出部の底辺部の外形寸法D21(mm)と上記板厚t(mm)との比(D21/t)が10〜500であることを特徴とする車両パネル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2011−110954(P2011−110954A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266140(P2009−266140)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】