説明

車両ボディ

【課題】簡易な構成にて車両の衝突時の衝撃の緩和又は軽減を可能にする構造の車両ボディを提供する。
【解決手段】空気、ガス又はその他の流体を保持するゴム引布などの柔軟な材料から成る袋状構造体16を外表面に有し、袋が衝突時に開口して流体を排出する部分を有することを特徴とする。開口して流体を排出する部分は、袋の一部に表面強度の弱い部分を設けることによって与えられてよく、車両が物体に衝突して、袋状構造体が圧縮されると、表面強度の弱い部分が開口して流体が排出され、衝撃エネルギーが流体の運動エネルギーに転化することによって衝撃が緩和される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に係り、より詳細には、ボディの外表面に空気又はその他の流体を保持する袋を有する車両に係る。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両のボディの外表面は、一般的には、鉄、プラスチック、カーボン等の硬い材料で構成されるところ、万が一、車両が某かの物体に衝突した際には、その衝撃で衝突された物体が損傷してしまう可能性がある。特に、近年、各方面より提案されている小型の軽車両(例えば、一人乗りの小型コミュータなど)の場合、その用途から歩道等が多い街中、小さな路地に進入することが多くなると予想され、通行人やその他の物体に近接する機会も多くなる。そこで、車両の衝突時の衝突された物体の損傷の回避或いは軽減を図るために、特許文献1に例示されている如く、車両のフロントバンパー又はその上部からエアバッグが展開される構成が提案されている。また、自動車等の車両のボディの外表面に於いて、空気、ガス又はその他の流体を保持する袋が装備された構成が従来よりいくつか提案されている。例えば、特許文献2には、陸上走行機能と水面上走行機能とを具備する水陸両用車のボディの前部及び両側部に於いて、気胴(浮き袋)が着脱自在に装備され、水面上走行する際に車両の浮力を与える構成が開示されている(しかしながら、同公報の気胴は、車両の衝突時の衝撃を軽減するための構造となっていない。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−220645
【特許文献2】特公平6−39201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に見られる如き、車両の衝突の際に車両のフロントバンパー又はその上部からエアバッグが展開される構成は、フロントバンパー近傍にエアバッグを収納するための構造、衝突の可能性を察知するためのセンサ、エアバッグを膨張させるためのインフレータ等の設備を必要とし、やや複雑と成り得る。かかるエアバッグを装備することは、特に、小型の軽車両の場合、車両ボディの軽量化、簡単化、低コスト化の観点に於いて有利ではない。
【0005】
かくして、本発明の主な課題は、従前よりも、より簡易な構成にて車両の衝突時の衝撃の緩和又は軽減を可能にする構造を有する車両ボディを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記の課題は、流体を保持する袋を外表面に有する車両であって、袋が衝突時に開口して流体を排出する部分を有することを特徴とする車両によって達成される。上記の構成に於いて、「流体を保持する袋」は、ゴムボートや救命胴衣に見られる如き、布をゴムでサンドイッチしたゴム引布等の柔軟なシート状部材を袋状にして空気、ガスその他の流体を封入した構造体であって、車両の外表面を成すように車両の一部に適宜固定されたものであってよい。特に、本発明の実施の形態に於いては、「流体を保持する袋」自体が、車両のボディとして形成され、車両のフレーム又はフェンダーライナ等に固定されるようになっていてよい。
【0007】
この本発明の構成によれば、車両が某かの物体に接触し、その外表面にある「流体を保持する袋」が圧迫されると、袋の内圧が増大して、袋が開口して流体が排出されることとなる。そうすると、衝突の際の衝撃のエネルギーが流体の運動エネルギーに変換され、これにより、衝撃が緩和されることとなる。「衝突時に開口して流体を排出する部分」は、袋の一部に表面強度の弱い部分を形成することにより与えられてよい。実施の形態に於いて、「流体を保持する袋」が車両のフロント部分(ノーズ部)から車両の前輪のフェンダー部にかけて装着され或いはフロント部分(ノーズ部)から前輪のフェンダー部までを構成し、車両がフロント部分から衝突したときには、フロント部分の袋の内圧が上昇し、これに応答して、表面強度の弱い部分が開裂して内部の流体が流出されるようになっていてよい。
【発明の効果】
【0008】
かくして、上記の本発明によれば、従前に比して簡易な構成にて、衝突時の衝撃の緩和又は軽減が提供される。本発明の構成に於いては、衝突時にのみ展開されるエアバッグ装置に必要な衝突を検知するセンサ、インフレータ、エアバッグ収納のための構造は、必要ないので、車両ボディの軽量化、簡単化及び/又は低コスト化が図られることとなる。また、「流体を保持する袋」が車両の外観の少なくとも一部を成すこととなるので、少なくとも部分的に表面が柔らかい車体となり、物体又は人と接触した場合にもその衝撃が吸収され、車両と該車両に接触した物体等における損傷の回避又は軽減が期待される。
【0009】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(A)は、本発明が適用される車両(小型軽車両、小型コミュータ)の模式的な斜視図である。同図に於いて、細線にて描かれたフレーム14上に装着されるボディ16、18は、図を明瞭にする目的で、車両の左半分のみ記載されている。図1(B)、(C)及び(D)は、それぞれ、図1(A)中の(B)、(C)及び(D)に於ける断面の模式図である。
【図2】図2(A)は、図1(A)の車両の前部ボディ16をその側方から見た模式図であり、図2(B)は、車両が前方から壁に衝突した際の前部ボディ16の変形の態様を模式的に表した図である。
【符号の説明】
【0011】
10…車両
12a、b…前輪
12c…後輪
14…フレーム(車枠)
15…乗員スペース
16…前部ボディ
18…後部ボディ
20…フェンダーライナ
22…クリップ
24…表面強度の弱い部分
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
【0013】
本発明の構成は、好適には、図1(A)にて模式的に描かれている如き、小型軽車両10(小型コミュータとも称される。)に適用されてよい。車両10は、左右前輪12a、b及び後輪12cが適宜装着されたフレーム14を有し、フレーム14上に、その略中央部に乗員スペース15が設けられるよう形成された前部ボディ16と後部ボディ18とが固定される。これらの前部ボディ16及び後部ボディ18は、好適には、ゴムボートや救命胴衣に用いられる如き、布をゴムでサンドイッチしたゴム引布を袋状に形成した構造からなり、かかる袋状構造体の内部に空気、ガス又はその他の流体が封入されて図示されている如き形状に形成される。そのうち、前部ボディ16は、車両のフロント部分を構成し、図2(A)に模式的に描かれている如く、フロント部分の最前部(ノーズ部16a)から後方へ向かって延在し、左右前輪のフェンダー部16bにて二股に分割し、左右前輪のフェンダーライナ20を上から覆うように固定される(図1(B)参照)。一方、後方ボディ18は、前部ボディ16の後端付近からフレーム14の両側を底側18aから囲繞し(図1(C)参照)、更に乗員スペース15よりも後方のフレーム14の部分と後輪12cとをそれらの上側及び両側から覆うように形成される(図1(D)参照)。上記の如く、車両のフレームの上に載置され固定されるボディとして、空気、ガス又はその他の流体を封入したゴム引布から成る袋状の構造体を採用することにより、車体の外表面が柔軟となり、車両が物体に接触又は衝突しても、車両と物体との間に於ける衝撃が吸収され、車両と物体の損傷の緩和又は軽減が期待されることとなる。また、上記のボディ構造に於いては、封入された空気、ガス又はその他の流体の圧力によって自然な曲面が形成されることとなり、通常の硬質の材料(鉄、プラスチック等)から成るボディの場合とは異なった外観・デザインが得られる。更に、ボディ内に封入される流体が空気又はその他のガスである場合には、ボディの重量が軽量化される点で有利である。
【0014】
ところで、上記の如く車両の外表面に空気、ガス又はその他の流体を封入したゴム引布の如き柔軟な袋状構造体が装着される構成に於いて、車両が物体に接触し、袋状構造体が圧迫されると、物体に接触した領域の流体が物体に接触していない領域へ押し出されるよう変形する。そこで、本実施形態では、かかる袋状構造体の変形作用を利用して、車両が物体に接触した際に、車両、物体及び/又は車両の乗員に対する衝撃がより軽減されるように袋状構造体の装着状態が変化すべく、袋状構造体の固定部位が適宜離脱するための構成が設けられてよい。具体的には、車両のフロント部を形成する前部ボディ16の後方部分、例えば、フェンダーライナ20上の部分が、図2(A)に例示されている如く、離脱可能なクリップ22などの、前部ボディ16の後方部分が膨張したときには離脱する固定具にて固定されてよい。かかる構成によれば、車両が前方から物体(例えば、壁)に衝突すると、ノーズ部16aが圧縮されて内部の流体が前部ボディ16の後方部分、即ち、フェンダー部16bへ押し出されることとなる(ノーズ部16a、フェンダー部16bの容積変化)。そうすると、図2(B)に例示されている如く、フェンダー部16bをフェンダーライナ20に固定しているクリップ22が、フェンダー部16bの膨張によって解離し、更に、フェンダー部16bが前方上方へせり上がることとなる。フェンダー部16bが図2(B)に例示されている如く形状変化すれば、一連の形状変化により衝撃のエネルギーが緩和されるとともに、万が一、乗員が車両前方へ投げ出された場合でも、せり上がったフェンダー部16bが緩衝材として機能し、乗員に対する衝撃を軽減することが期待される。
【0015】
更に、本発明によれば、上記の如き車両の外表面に空気、ガス又はその他の流体を封入したゴム引布の如き柔軟な袋状構造体が装着される構成に於いて、図2に示されている如く、袋状構造体の一部に表面強度が弱い部分24が設けられていてよい。かかる表面強度の弱い部分24が設けられている場合、車両の物体との接触により、袋状構造体(前部ボディ)の圧迫及び変形によって内圧が上昇したときに、表面強度の弱い部分24が開裂することとなる。そうすると、開裂した表面強度の弱い部分24が開口部となって、そこから、流体が排出されることとなり(図2B)、これにより、衝突時の衝撃のエネルギーが流体の運動エネルギーに転化するので、車両、物体及び/又は車両の乗員に対する衝撃がより軽減されることとなる。なお、流体を排出する部分は、袋状構造体内圧の上昇によって開口する任意の構成、例えば、圧力応答弁の如き構成によって達成されてもよく、そのような場合も本発明の範囲に属することは理解されるべきである。
【0016】
かくして、上記の本発明によれば、車両の外表面に装着された流体を保持する袋状構造体の一部に、衝突時に袋状構造体の内圧が上昇したときに開口して袋状構造体内部の流体が排出される構成を設けることによって、より簡易な構成にて、衝突時の衝撃を緩和又は軽減する構成が提供される。本発明の構成に於いては、例えば、エアバッグを展開するための複雑な構成を要しないので、車両ボディの軽量化、簡単化及び/又は低コスト化が図られることとなる。
【0017】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
【0018】
例えば、車両の衝突時に一部が開口する袋状構造体は、車両の任意の部位に設けられてよく、また、任意の車両に装備されてよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を保持する袋を外表面に有する車両であって、前記袋が衝突時に開口して前記流体を排出する部分を有することを特徴とする車両。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−101658(P2012−101658A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251221(P2010−251221)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】