説明

車両位置推定装置

【課題】目印の位置データを予め記憶することなく、自車両の絶対位置を精度良く検出できる車両位置推定装置を提供する。
【解決手段】自車両の絶対位置及び自車両の絶対位置を基準とした周囲の目印(ランドマーク)の相対位置を複数回検出し、当該複数回検出された自車両の絶対位置及び目印の相対位置に基づいて誤差の最も小さい目印の絶対位置を推定すると共に、当該目印の絶対位置と検出される目印の相対位置に基づき自車両の絶対位置を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両位置推定装置に係り、特に、自車両の絶対位置を推定する車両位置推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、GPS(global positioning system)装置によって検出される自車両の絶対位置には数メートル〜数十メートル程度の誤差が含まれている。この誤差を補正して絶対位置を精度良く検出する技術として、特許文献1には、道路周囲に存在する反射板や照明灯等の固定物の位置データを予め記憶しておき、GPS装置によって絶対位置を検出すると共にレーダ装置によって道路周囲の固定物を検出し、レーダ装置によって検出された固定物の位置データと予め記憶されている固定物の位置データとを比較してGPS装置によって検出された絶対位置を補正する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平10−300493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1の技術を用いて自車両の正確な絶対位置を求める場合、対象とする全ての道路について周囲に存在する固定物などの目印の位置データを予め記憶しておく必要がある、という問題点があった。
【0004】
このように対象とする全ての道路の周囲に存在する目印の位置を計測するには、多大なコストが必要となる。また、当該位置データを記憶させるために車両位置推定装置に搭載される記憶装置のデータ量も膨大な量となるため現実的ではなかった。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消するためになされたものであり、目印の位置データを予め記憶することなく、自車両の絶対位置を精度良く検出できる車両位置推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、自車両の絶対位置を所定の精度で検出する自車両絶対位置検出手段と、前記自車両の絶対位置を基準とした周囲の目印の相対位置を検出する目印相対位置検出手段と、前記自車両絶対位置検出手段及び前記目印相対位置検出手段により各々複数回検出された前記自車両の絶対位置及び前記目印の相対位置に基づいて誤差の最も小さい前記目印の絶対位置を推定すると共に、当該目印の絶対位置と前記目印相対位置検出手段により検出される前記目印の相対位置に基づき前記自車両の絶対位置を推定する推定手段と、を備えている。
【0007】
請求項1記載の発明は、自車両絶対位置検出手段により、自車両の絶対位置が所定の精度で検出され、目印相対位置検出手段により、自車両の絶対位置を基準とした周囲の目印の相対位置が検出されるものとされている。
【0008】
そして、本発明では、推定手段により、自車両絶対位置検出手段及び目印相対位置検出手段により各々複数回検出された自車両の絶対位置及び目印の相対位置に基づいて誤差の最も小さい目印の絶対位置が推定されると共に、当該目印の絶対位置と目印相対位置検出手段により検出される目印の相対位置に基づき自車両の絶対位置が推定される。
【0009】
このように、請求項1記載の発明によれば、自車両の絶対位置及び自車両の絶対位置を基準とした周囲の目印の相対位置を複数回検出し、当該絶対位置及び相対位置に基づいて誤差の最も小さい目印の絶対位置を推定すると共に、当該目印の絶対位置と検出される自車両を基準とした目印の相対位置に基づき自車両の絶対位置を推定しているので、目印の位置データを予め記憶することなく、自車両の絶対位置を精度良く検出できる。
【0010】
なお、本発明は、請求項2記載の発明のように、前記推定手段により推定された目印の絶対位置を示す推定絶対位置情報を少なくとも前記目印相対位置検出手段により当該目印が検出されている間だけ一時的に記憶する記憶手段をさらに備え、前記推定手段が、前記記憶手段に記憶された前記推定絶対位置情報により示される前記目印の絶対位置と前記目印相対位置検出手段により検出される相対位置に基づき前記自車両の絶対位置を推定してもよい。なお、上記記憶手段には、RAM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ、コンパクトフラッシュ(登録商標)、xDピクチャーカード(登録商標)等の可搬型メモリ、ハードディスク等の固定記憶装置が含まれる。
【0011】
また、本発明は、請求項3記載の発明のように、前記自車両絶対位置検出手段が、自車両の絶対位置を、偏った誤差を含む状態で検出するものであり、一部の目印の正確な絶対位置を記憶する記憶手段と、前記推定手段により絶対位置が推定された目印が前記記憶手段に記憶された一部の目印である場合に当該絶対位置と前記記憶手段に記憶された当該目印の絶対位置とを比較して前記偏った誤差を補正するための補正情報を導出する補正情報導出手段と、をさらに備え、前記推定手段が、前記自車両の絶対位置を前記補正情報に基づいて補正してもよい。
【0012】
また、本発明は、請求項4記載の発明のように、前記目印相対位置検出手段が、レーザーレーダ、ミリ波レーダ、及びカメラの少なくとも1つにより前記相対位置を検出するものとしてもよい。
【0013】
また、本発明は、請求項5記載の発明のように、前記目印が、柱状の物体、建物の角や稜線部分、ガードレールの切れ目部分、路上のマンホール、ガードレールに設けられたリフレクタ、路面に埋設された道路鋲、道路標示、及び縁石の切れ目の少なくとも1つを含むものとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、自車両の絶対位置及び自車両の絶対位置を基準とした周囲の目印の相対位置を複数回検出し、当該絶対位置及び相対位置に基づいて誤差の最も小さい目印の絶対位置を推定すると共に、当該目印の絶対位置と検出される自車両を基準とした目印の相対位置に基づき自車両の絶対位置を推定しているので、目印の位置データを予め記憶することなく、自車両の絶対位置を精度良く検出できる、という優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
[第1の実施の形態]
図1には、第1の実施の形態に係る車両位置推定装置10の構成が示されている。
【0017】
同図に示されるように、車両位置推定装置10は、自車両の絶対位置を所定の精度で検出する自車両絶対位置検出部12と、自車両の絶対位置を基準として周囲の立体物等の目印(以下、ランドマークという)の相対位置を検出するランドマーク相対位置検出部14と、自車両絶対位置検出部12及びランドマーク相対位置検出部14と接続され、マイクロコンピュータ等により構成された制御装置20と、を備えている。
【0018】
本実施の形態では、自車両絶対位置検出部12として誤差が数メートルから数十メートル程度の汎用のGPS装置を用いている。このGPS装置は、複数のGPS衛星からの信号を受信して自車両の緯度、経度、高度などの地球上での絶対位置を検出するものであり、検出した絶対位置を示す絶対位置情報を制御装置20へ出力する。なお、自車両絶対位置検出部12としてGPS装置に代えてジャイロセンサを用いても良く、また、GPS装置とジャイロセンサを共に用いたハイブリットタイプのものを用いてもよい。なお、以下ではGPS装置によって検出された自車両の緯度及び経度を2次元のXZ座標系(X,Z)で表している。
【0019】
また、本実施の形態では、ランドマーク相対位置検出部14として、赤外光パルスを照射する発光素子と、前方のランドマークから反射された赤外光パルスを受光する受光素子とを含んで構成され、車両の前方グリルまたはバンパなどに取り付けられたレーザレーダを用いている。このレーザレーダは、発光素子が発光して赤外光パルスが照射された時点を基準としてランドマークによって反射された赤外光パルスが受光素子で受光されるまでの時間及び当該赤外光パルスを照射した角度に基づいて、自車両を基準としたランドマークまでの距離r及び自車両の進行方向に対するランドマークの方位角θで表されたランドマークの相対位置を誤差数センチメートルの精度で検出することができる。ランドマーク相対位置検出部14は、自車両を基準とした周囲のランドマークの相対位置を所定の周期(例えば、10Hz)で検出しており、検出した相対位置を示す相対位置情報を制御装置20へ出力する。
【0020】
なお、ランドマーク相対位置検出部14としてレーザレーダに代えて、ミリ波レーダ、またはカメラを用いてもよい。また、これらを任意に組み合わせたものを用いても良い。なお、カメラを用いる場合は、1台のカメラで移動しながら同一領域を複数回撮像し、撮像された複数の画像から移動ステレオの手法によりランドマークまでの距離rを求めるものとしてもよい。また、1台カメラで撮像される画像中の全てのものは平面上にあると仮定して、カメラのパラメータに基づいて、画像中のランドマークの位置に応じて距離rを求めるものとしてもよい。形状などの特徴から画像内のランドマークが立体物だと判断できる場合は、その下端が平面上にあるものと仮定して、ランマークまでの距離rを求めるものしてもよい。さらに、所定距離を隔てて同一領域を撮像する複数台のカメラを設け、各カメラにより撮像された複数の画像からステレオ法によりランドマークまでの距離rを求めるものとしてもよい。
【0021】
本実施の形態では、ランドマークとして、電柱、標識、信号機等の柱状の物体、建物の角や建物の稜線部分、ガードレールの切れ目部分、路上のマンホール、ガードレールに設けられたリフレクタ、路面に埋設された道路鋲(所謂、キャッツアイ)、道路標示、縁石の切れ目などを想定しているが、これに限定されるものではなく、道路の周囲に存在している位置が変化しない物体であればいずれであってもよい。
【0022】
柱状の物体は道路の周囲に比較的頻繁に出現する物体であり、その太さも一定範囲内であるため、位置を特定しやすく、また、金属で製造されていることが多く、レーダの反射を得やすいなどの利点がある。例えば、レーザレーダでは、図4に示すような反射信号が得られ、柱状の物体は比較的強度の強い独立な点として得られることが多い。レーザレーダやミリ波レーダでは、反射強度と時系列の変化、反射点のグルーピングなどによって柱状の物体の候補を抽出する。また、モノクロカメラではモノクロの濃淡画像、カラーカメラではR(赤),G(緑),B(青)の色情報を含む濃淡画像が得られるため、得られた画像の画素毎の濃度値の微分などによってエッジを検出し、垂直方向のエッジが所定幅以内に2本検出された場合は柱状の物体と検出することができる。
【0023】
建物の角とは建物の面と面によってなされるエッジ部分を指し、建物の稜線とは背景との境界となる輪郭線を指す。住宅街のような建物が道路に近接している場合や、繁華街などのビル群の中では、道路周辺の建物の角や稜線部分は有効な検出対象となる。建物の角は、レーザレーダなどで検出しやくす、稜線はカメラで検出しやすい。ミリ波レーダは、建物の角や稜線を検出しづらいが、建物に金属物体が設置されている場合、当該金属物体からの反射波を得ることができる。
【0024】
ガードレールのポール部分は、連続して同じ形状の物体が並ぶため、時系列での対応付けが難しいが、ガードレールの切れ目部分の場合は、連続した柱状物体の端を示し、位置を特定しやすく、ミリ波レーダ、レーザーレーダ及びカメラで検出可能である。
【0025】
路上のマンホールは、出現頻度はさほど高くないが、円状あるいは四角形状をしているため特定しやすく、ミリ波レーダ、レーザーレーダ及びカメラで検出可能である。
【0026】
ガードレールに設けられたリフレクタや路面に埋設された道路鋲は夜間においても反射しやすく、レーザーレーダ及びカメラで検出可能である。また、リフレクタや道路鋲に金属部分が付随する場合はミリ波レーダでも検出可能である。
【0027】
道路標示(例えば、交差点マークや、一時停止線、ダイヤマーク、横断歩道が存在することを意味するひし形マーク、最高速度の標示、通行進行方向別通行区分を示す矢印、横断歩道など)は、道路の車線数が多い場合でも車線毎に存在するため、道路周辺の建物や柱状の物体の検出が難しい場合においてもランドマークとして用いやすい。カメラでは撮像した画像に基づいて形状を判別することにより道路標示を識別することができる。レーザレーダでは、道路に向けてレーザを照射して道路標示の白くペイントされた部分からの反射信号を得ることにより、道路標示を検出可能である。
【0028】
道路標示を検出した場合、例えば、画素毎の濃度値の微分値などから道路標示の頂点となる特徴点を抽出して特徴点の並びを判別することにより道路標示の識別することができる。
【0029】
道路標示として区画線(白線など)を検出する場合は、例えば、白線の切れ目や、追い越し可能な区域の白線、視覚誘導線である複合線部の白線、分岐や合流の白線、白線のつなぎ目、ゼブラゾーンの開始点終了点などを検出すればよい。
【0030】
縁石の切れ目は、レーザーレーダ及びカメラで検出可能である。
【0031】
すなわち、ランドマーク相対位置検出部14としてレーザレーダやミリ波レーダを用いた場合は、物体の形状や材質の違いによる反射率の違いを利用して、物体により反射された赤外光パルスやミリ波の強度を識別することにより物体を検出することができ、レーザレーダの場合は、柱状の物体、建物の角や稜線部分、ガードレールの切れ目部分、路上のマンホール、ガードレールに設けられたリフレクタ、道路鋲、道路標示、縁石の切れ目等を検出することができ、ミリ波レーダの場合は、柱状の物体、建物の角や稜線部分、ガードレールの切れ目部分、路上のマンホール、ガードレールに設けられたリフレクタ、道路鋲を検出することができる。
【0032】
また、ランドマーク相対位置検出部14としてカメラを用いた場合は、撮像された画像に対してフィルタリングや微分等の画像処理を行ってエッジを検出して物体の形状を識別することにより、物体を検出することができ(例えば、撮像された画像内に垂直方向のエッジが所定幅以内に2本検出された場合は柱状の物体と検出する。)、柱状の物体、建物の角や稜線部分、ガードレールの切れ目部分、路上のマンホール、ガードレールに設けられたリフレクタ、道路鋲、道路標示、縁石の切れ目等を検出することができる。
【0033】
図2には、本実施の形態に係る制御装置20の機能構成を示すブロック図が示されている。
【0034】
同図に示されるように、制御装置20は、自車両の速度などの動きに関する情報や絶対位置の検出精度を導出する自車両位置評価部22と、検出されたランドマークの種別などのランドマークの属性に関する情報や相対位置の検出精度を導出する相対位置評価部24と、各種情報を一時的に記憶する一時記憶部26と、自車両絶対位置検出部12及びランドマーク相対位置検出部14により各々複数回検出された自車両の絶対位置及びランドマークの相対位置に基づいて誤差の最も小さいランドマークの絶対位置を推定すると共に、当該ランドマークの絶対位置とランドマーク相対位置検出部14により検出されるランドマークの相対位置に基づき自車両の絶対位置を推定する位置推定部32と、を備えている。
【0035】
自車両位置評価部22は、入力される絶対位置情報を新しい順に所定個だけ一時記憶部26に記憶させる制御を行っており、絶対位置情報が入力すると、入力した絶対位置情報により示される絶対位置を検出自車両位置情報として一時記憶部26に記憶させる。
【0036】
また、自車両位置評価部22は、自車両絶対位置検出部12によって検出される絶対位置の標準的な分散値を予め記憶しており、絶対位置情報が入力すると、予め記憶した標準的な分散値を絶対位置の検出精度を示す絶対位置評価情報として一時記憶部26に記憶させる。さらに、自車両位置評価部22は、絶対位置情報が入力すると、絶対位置情報が入力したことを示す信号を位置推定部32へ出力する。
【0037】
なお、GPS装置は、測位条件によって絶対位置の検出精度が変化する場合がある。このため、例えば、不揮発性の記憶装置(例えば、HDD)等に地図情報を予め記憶させておき、自車両位置評価部22は、地図情報に基づいて絶対位置情報により示される位置を求めて、当該位置が田園部のような場所であれば分散値σa、ビルが林立している都心部のような場所であれば分散値σb(>σa)と検出精度を変化させるものとしてもよい。また、自車両位置評価部22は、GPS装置から絶対位置情報と共に検出精度を示す値(例えば、DOP(Dilution of Precision))が入力する場合、その値に基づいて分散値を導出してもよい。さらに、自車両位置評価部22は、図3に示すように、一時記憶部26に記憶させる所定個の絶対位置情報により示される各絶対位置の最小二乗近似直線を求め、入力した絶対位置情報により示される絶対位置と最小二乗近似直線との差を求めて検出精度としてもよい。
【0038】
相対位置評価部24は、ランドマーク相対位置検出部14により検出されるランドマークとの距離r及び方位角θに応じた検出精度を求める式を予め記憶しており、相対位置情報が入力すると、当該相対位置情報により示されるランドマークの相対位置を検出相対位置情報として一時記憶部26に記憶させると共に、ランドマークの相対位置(距離rと方位角θ)に応じた検出精度に基づいて相対位置の分散値を導出して当該分散値を相対位置評価情報として一時記憶部26に記憶させる。また、相対位置評価部24は、相対位置情報が入力すると、相対位置情報が入力したことを示す信号を位置推定部32へ出力する。なお、ランドマーク相対位置検出部14がカメラである場合、ランドマークとカメラとの距離によって検出精度が異なるため、カメラの画素数、焦点距離などのパラメータを予め記憶しておき、それらに基づいて、検出された相対位置の分散を導出する。なお、相対位置評価部24は、ランドマーク相対位置検出部14により検出される信号の強度に基づいて信頼性を評価し、検出された相対位置の分散に信頼度の情報を付加するものとしてもよい。
【0039】
位置推定部32は、後述する拡張カルマンフィルタ(Extended Kalman Filter)を用いて、一時記憶部26に記憶されている検出自車両位置情報、検出相対位置情報、後述する前回推定されたランドマークの絶対位置、当該ランドマーク推定絶対位置情報の精度、前回推定された自車両の絶対位置、及び前回推定された自車両の絶対位置の精度に基づいて、誤差が最も小さいランドマークの絶対位置、当該ランドマークの絶対位置の精度を示す分散値、自車両の絶対位置、及び自車両の絶対位置の精度を示す分散値を推定する。そして、位置推定部32は、推定したランドマークの絶対位置をランドマーク推定絶対位置情報とし、ランドマークの絶対位置の分散値をランドマーク推定位置評価情報とし、推定した自車両の絶対位置を自車両絶対位置情報とし、自車両の絶対位置の分散値を自車両位置評価情報として一時記憶部26に記憶させる。
【0040】
次に、本実施の形態に係る位置推定部32で採用したランドマークの絶対位置及び分散と自車両の絶対位置及び分散を同時に推定する拡張カルマンフィルタについて説明する。
【0041】
本実施の形態では、下記(1)〜(5)式の関係式により示される拡張カルマンフィルタを用いて、一時刻前に推定したランドマークの絶対位置及び自車両の絶対位置と、検出(観測)された自車両の絶対位置、ランドマークの相対位置、及びそれぞれの分散に基づいて現時点で誤差分散が最も小さいと推定される自車両とランドマークの絶対位置をそれぞれ推定している。
【0042】
【数1】

【0043】
なお、推定される自車両とランドマークの位置に関する推定値は以下の(6)式のパラメータを有するものとし、検出された観測値は以下の(7)式のパラメータを有するものとする。
【0044】
【数2】

【0045】
【数3】

【0046】
自車両の運動は状態遷移Fを下記の(8)式のように定義すると、検出される観測値と推定値との関係は下記の(9)式のように表される。本実施の形態では拡張カルマンフィルタを用いているため、観測行列は予測値周りで線形化した(10)式のように定義される。
【0047】
【数4】

【0048】
【数5】

【0049】
【数6】

【0050】
ここで、例えば、検出されるランドマークが1つ(i=1)しかなかった場合は、x=(XV0,ZV0,φ,V,ω,XL1,ZL1)が推定パラメータとなり、このときの推定値の誤差共分散行列は以下の(11)式のように示される。
【0051】
【数7】

【0052】
この誤差共分散行列のσXL1XL1,σXL1ZL1,σZL1XL1,σZL1ZL1の4つがランドマークの分散を表している。
【0053】
なお、初期値を定めて演算を行う必要があり、特に最初にランドマークを検出した際の分散値は慎重に設定する必要がある。分散は以下の(12)式の関係を有しており、m個ランドマークが検出済みで、次にm+1個目のランドマークが検出されたときのm+1個目のランドマークの分散は、以下の(13)式として定められる。
【0054】
【数8】

【0055】
【数9】

【0056】
次に、自車両の絶対位置を導出する際の車両位置推定装置10の作用を説明する
自車両絶対位置検出部12は、複数のGPS衛星からの信号を受信して自車両の地球上での絶対位置を検出し、絶対位置を検出する毎に当該絶対位置を示す絶対位置情報を制御装置20へ出力する。
【0057】
一方、ランドマーク相対位置検出部14は、自車両を基準とした周囲のランドマークの相対位置を所定の周期で検出し、相対位置を検出する毎に当該相対位置を示す相対位置情報が制御装置20へ出力する。
【0058】
図4には、ランドマーク相対位置検出部14により検出された相対位置情報により示されるランドマークの相対位置をプロットした平面図が示されている。
【0059】
自車両位置評価部22は、自車両絶対位置検出部12より絶対位置情報が入力すると、入力される絶対位置情報及び予め記憶した絶対位置の標準的な分散値を絶対位置評価情報として新しい順に所定個だけ一時記憶部26に記憶させ、また、絶対位置情報が入力したことを示す信号を位置推定部32へ出力する。
【0060】
相対位置評価部24は、ランドマーク相対位置検出部14より相対位置情報が入力すると、入力した相対位置情報を検出相対位置情報として一時記憶部26に記憶させると共に、予め記憶した相対位置の標準的な相対位置の分散値を相対位置評価情報として一時記憶部26に記憶させ、また、相対位置情報が入力したことを示す信号を位置推定部32へ出力する。
【0061】
位置推定部32は、図示しない外部装置と接続されており、当該外部装置から検出処理開始を指定する信号が入力されると、一時記憶部26に記憶された所定個の絶対位置情報に基づいて自車両の現在の速度Vの初期値を導出した後に、後述する位置推定処理を開始する。
【0062】
図5には、位置推定部32において実行される位置推定処理の流れを示すフローチャートが占めされている。この位置推定処理は、図示しない外部装置から位置推定部32に検出処理開始を指定する信号が入力された際に実行される。
【0063】
同図のステップ100では、相対位置評価部24より相対位置情報が入力したことを示す信号が入力したか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ102へ移行し、否定判定となった場合はステップ110へ移行する。
【0064】
次のステップ102では、自車両位置評価部22より絶対位置情報が入力したことを示す信号が入力したか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ106へ移行し、否定判定となった場合はステップ104へ移行する。
【0065】
ステップ104では、自車両の絶対位置が未検出であるため、推定に用いる絶対位置を一時刻(Δt)前に推定した自車両位置評価情報に基づいてい上述した(3)式から予測し、当該予測した自車両の絶対位置を用い、自車両の絶対位置の観測値は得られないものとして後述するステップ106の処理を行う。
【0066】
次のステップ106では、上述した拡張カルマンフィルタを用いて、一時記憶部26に記憶されている検出自車両位置情報、検出相対位置情報、一時刻前に推定されたランドマーク推定絶対位置情報、ランドマーク推定位置評価情報、自車両絶対位置情報、及び自車両位置評価情報に基づいて、誤差が最も小さいと推定されるランドマークの絶対位置、当該ランドマークの絶対位置の分散値、自車両の絶対位置、及び自車両の絶対位置の分散値を推定する。
【0067】
すなわち、自車両絶対位置検出部12により検出される自車両の絶対位置、及びランドマーク相対位置検出部14により検出される自車両を基準としたランドマークとの相対位置にはそれぞれ誤差が含まれるが、本自車両位置推定処理のステップ100〜後述するステップ122の処理を繰り返してランドマークの絶対位置の推定を繰り返すことにより、図6の<1>〜<3>に示されるように、推定されるランドマークの絶対位置の誤差(分散)が縮小するため、当該ランドマークの絶対位置及び相対位置情報に基づいて推定される自車両の絶対位置の精度も向上する。
【0068】
そして、ステップ106では、推定したランドマークの絶対位置をランドマーク推定絶対位置情報とし、ランドマークの絶対位置の分散値をランドマーク推定位置評価情報とし、推定した自車両の絶対位置を自車両絶対位置情報とし、自車両の絶対位置の分散値を自車両位置評価情報として一時記憶部26に記憶させる。
【0069】
一方、ステップ110では、上述したステップ102と同様に、自車両位置評価部22より絶対位置情報が入力したことを示す信号が入力したか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ112へ移行し、否定判定となった場合はステップ114へ移行する。
【0070】
ステップ112では、ランドマークの相対位置が未検出であるため、推定に用いる絶対位置を一時刻(Δt)前に推定した自車両位置評価情報と検出された現在の自車両絶対位置情報に基づいてランドマークの観測情報に関するパラメータを除いた拡張カルマンフィルタを用いて誤差が最も小さいと推定される自車両の絶対位置、及び自車両の絶対位置の分散値を推定し、推定した自車両の絶対位置を自車両絶対位置情報とし、自車両の絶対位置の分散値を自車両位置評価情報として一時記憶部26に記憶させる。
【0071】
一方、ステップ114では、自車両の絶対位置及びランドマークの相対位置が共に未検出であるため、一時刻(Δt)前に推定した自車両位置評価情報に基づいてい上述した(3)式から現在の自車両の絶対位置を予測し、当該予測した自車両の絶対位置を自車両絶対位置情報として一時記憶部26に上書きして記憶させる。また、自車両位置評価情報により示される分散値に基づき、(5)式により算出した値を、予測した分散値とする。
【0072】
次のステップ120では、一時記憶部26に記憶されている自車両絶対位置情報及び自車両位置評価情報を読み出し、当該自車両絶対位置情報及び自車両位置評価情報を外部装置へ出力する。
【0073】
次のステップ122では、図示しない外部装置から位置推定部32に検出処理終了を指定する信号が入力されたか否かを判定し、肯定判定であった場合は処理終了となり、否定判定であった場合は、現在時刻tから所定時間Δt待機して現在時刻がt+Δtになった時点でステップ100に戻る。
【0074】
このように、本実施の形態によるステップ100〜ステップ122の処理が繰り返されて、同一のランドマークに対して上述した拡張カルマンフィルタを用いたランドマークの絶対位置の推定が複数回行われることにより、推定されるランドマークの絶対位置の精度が向上し、自車両の絶対位置の精度も向上する。
【0075】
なお、一時記憶部26に記憶されているランドマークに関する各情報は、少なくともランドマーク相対位置検出部14により当該ランドマークが検出されている間だけ一時的に記憶していればよい。
【0076】
本実施の形態に係る位置推定部32は、ランドマークがランドマーク相対位置検出部14による検出範囲外となった場合に当該ランドマークに関する各情報を一時記憶部26から削除する。これにより、一時記憶部26の必要な記憶容量を少なく抑えることができる。
【0077】
以上のように第1の実施の形態によれば、自車両絶対位置検出手段(ここでは、自車両絶対位置検出部12)により、自車両の絶対位置を所定の精度で検出し、目印相対位置検出手段(ここでは、ランドマーク相対位置検出部14)により、自車両の絶対位置を基準とした周囲の目印の相対位置を検出する。
【0078】
そして、第1の実施の形態によれば、推定手段(ここでは、位置推定部32)により、自車両絶対位置検出手段及び目印相対位置検出手段により各々複数回検出された自車両の絶対位置及び目印の相対位置に基づいて誤差の最も小さい目印の絶対位置を推定すると共に、当該目印の絶対位置と前記目印相対位置検出手段により検出される目印の相対位置に基づき自車両の絶対位置を推定しているので、目印の位置データを予め記憶することなく、自車両の絶対位置を精度良く検出できる。
【0079】
また、第1の実施の形態によれば、推定手段により推定された目印の絶対位置を示す推定絶対位置情報を少なくとも目印相対位置検出手段により当該目印が検出されている間だけ一時的に記憶する記憶手段(ここでは、一時記憶部26)をさらに備え、推定手段は、記憶手段に記憶された推定絶対位置情報により示される目印の絶対位置と目印相対位置検出手段により検出される相対位置に基づき自車両の絶対位置を推定しているので、目印が検出できなくなった場合に推定絶対位置情報を削除することにより、記憶手段の記憶容量を少なく抑えることができる。
【0080】
なお、本実施の形態では、拡張カルマンフィルタを用いてランドマークの絶対位置と自車両の絶対位置を共に推定する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、パーティクルフィルタを採用してもよい。また、例えば、自車両絶対位置検出部12及びランドマーク相対位置検出部14によって各々自車両の絶対位置及び自車両を基準としたランドマークの相対位置を複数回検出し、その検出された自車両の絶対位置及びランドマークの相対位置に基づいてランドマークの絶対位置を複数回求め、求めた複数のランドマークの絶対位置の平均値を求めることによりランドマークの絶対位置を推定してもよい。また、複数のランドマークの絶対位置のユークリッド距離の和が最小となる位置をランドマークの絶対位置と推定してもよい。そして、その推定したランドマークの絶対位置を基準として、ランドマーク相対位置検出部14により検出される自車両を基準としたランドマークの相対位置に基づいて自車両の絶対位置を推定するものとしてもよい。絶対位置の分散については、過去に推定した複数回のランドマークの絶対位置の分散を用いてもよく、過去に推定した複数回のランドマークの絶対位置の分散の平均値をとってもよい。
【0081】
[第2の実施の形態]
ここで、GPS装置により検出される絶対位置には、GPS衛星の配置(軌道の偏り)や電離層と対流圏遅延などにより偏りを持った誤差が含まれる場合があり、ある限定された時間内において、検出された複数の絶対位置の平均に偏りが発生する場合がある。
【0082】
そこで、第2の実施の形態では、GPS装置が偏りをもった誤差を含んだ自車両の絶対位置を検出する場合に、誤差の偏りを補正して自車両の位置を精度良く検出する形態例について説明する。
【0083】
図7には、第2の実施の形態に係る車両位置推定装置10の構成が示されている。なお、同図における図1と同一の構成要素には図1と同一の符号を付して、その説明を省略する。また、第2の実施の形態に係る制御装置20の機能構成は図2と同様であるため、その説明を省略する。
【0084】
第2の実施の形態に係る車両位置推定装置10は、ポイントにとなる一部のランドマークの正確な絶対位置を予め記憶した地図情報記憶部50と、制御装置20により絶対位置が推定されたランドマークが地図情報記憶部50に記憶されたランドマークである場合に絶対位置の照合を行うランドマーク照合部52と、をさらに備えている。
【0085】
例えば、路上のマンホールは、下水道工事の設計のために正確な地図も下水道関係団体が作成して保有しているため、地図情報記憶部50にマンホールの正確な絶対位置を予め記憶させる。
【0086】
ランドマーク照合部52は、制御装置20により推定されたランドマークの種類が地図情報記憶部50に記憶されたランドマークである場合に制御装置20により推定された絶対位置と地図情報記憶部50に記憶された当該ランドマークの絶対位置を比較して絶対位置の誤差を検出し、誤差を補正するための補正情報を導出して制御装置20に出力する。
【0087】
制御装置20は、ランドマーク照合部52より補正情報が入力すると、当該補正情報を一時記憶部26に記憶させる。
【0088】
そして、制御装置20は、記憶した補正情報に基づいて自車両絶対位置情報を補正して表示制御部54へ出力する。これにより、GPS装置が偏りをもった誤差を検出する場合であっても自車両の絶対位置を正確に求めることができる。
【0089】
以上のように第2の実施の形態によれば、自車両絶対位置検出手段は、自車両の絶対位置を、偏った誤差を含む状態で検出するものであり、一部の目印の正確な絶対位置を記憶する記憶手段(ここでは、地図情報記憶部50)と、推定手段により絶対位置が推定された目印が前記記憶手段に記憶された一部の目印である場合に当該絶対位置と前記記憶手段に記憶された当該目印の絶対位置とを比較して前記偏った誤差を補正するための補正情報を導出する補正情報導出手段(ランドマーク照合部52)と、をさらに備え、推定手段は、自車両の絶対位置を補正情報に基づいて補正しているので、検出される絶対位置に偏った誤差を含まれる場合であっても自車両の絶対位置を精度良く検出できる。
【0090】
さらに、本実施の形態で説明した車両位置推定装置10及び制御装置20の構成(図1、図2、図7参照。)は、一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0091】
また、本実施の形態で説明した自車両位置推定処理の流れ(図5参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】第1の実施の形態に係る車両位置推定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態に係る制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【図3】絶対位置の最小二乗近似直線の一例を示すグラフである。
【図4】レーザレーダにより検出されたランドマークの位置の一例を示す図である。
【図5】実施の形態に係る自車両位置推定処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】自車両位置推定の流れを模式的に示した図である。
【図7】第2の実施の形態に係る車両位置推定装置の概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0093】
10 車両位置推定装置
12 自車両絶対位置検出部
14 ランドマーク相対位置検出部
26 一時記憶部
32 位置推定部
50 地図情報記憶部
52 ランドマーク照合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の絶対位置を所定の精度で検出する自車両絶対位置検出手段と、
前記自車両の絶対位置を基準とした周囲の目印の相対位置を検出する目印相対位置検出手段と、
前記自車両絶対位置検出手段及び前記目印相対位置検出手段により各々複数回検出された前記自車両の絶対位置及び前記目印の相対位置に基づいて誤差の最も小さい前記目印の絶対位置を推定すると共に、当該目印の絶対位置と前記目印相対位置検出手段により検出される前記目印の相対位置に基づき前記自車両の絶対位置を推定する推定手段と、
を備えた車両位置推定装置。
【請求項2】
前記推定手段により推定された目印の絶対位置を示す推定絶対位置情報を少なくとも前記目印相対位置検出手段により当該目印が検出されている間だけ一時的に記憶する記憶手段をさらに備え、
前記推定手段は、前記記憶手段に記憶された前記推定絶対位置情報により示される前記目印の絶対位置と前記目印相対位置検出手段により検出される相対位置に基づき前記自車両の絶対位置を推定する
請求項1記載の車両位置推定装置。
【請求項3】
前記自車両絶対位置検出手段は、自車両の絶対位置を、偏った誤差を含む状態で検出するものであり、
一部の目印の正確な絶対位置を記憶する記憶手段と、
前記推定手段により絶対位置が推定された目印が前記記憶手段に記憶された一部の目印である場合に当該絶対位置と前記記憶手段に記憶された当該目印の絶対位置とを比較して前記偏った誤差を補正するための補正情報を導出する補正情報導出手段と、をさらに備え、
前記推定手段は、前記自車両の絶対位置を前記補正情報に基づいて補正する
請求項1又は請求項2記載の車両位置推定装置。
【請求項4】
前記目印相対位置検出手段は、レーザーレーダ、ミリ波レーダ、及びカメラの少なくとも1つにより前記相対位置を検出する
請求項1乃至請求項3の何れか1項記載の車両位置推定装置。
【請求項5】
前記目印は、柱状の物体、建物の角や稜線部分、ガードレールの切れ目部分、路上のマンホール、ガードレールに設けられたリフレクタ、路面に埋設された道路鋲、道路標示、及び縁石の切れ目の少なくとも1つを含む
請求項1乃至請求項4の何れか1項記載の車両位置推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−303841(P2007−303841A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129621(P2006−129621)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】