車両内装部材用表皮材
【課題】ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装部材用表皮材であって、湿熱環境下にさらされた後においても優れた布帛強度を有する車両内装部材用表皮材を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装部材用表皮材であって、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の、JIS L1096.8.12により測定した引張り強度が400N/50mm以上である。
【解決手段】ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装部材用表皮材であって、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の、JIS L1096.8.12により測定した引張り強度が400N/50mm以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装部材用表皮材であって、湿熱環境下にさらされた後においても優れた布帛強度を有する車両内装部材用表皮材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸フィラメントは、その原料である乳酸またはラクチドが天然物から製造されるため、地球環境に配慮した繊維として近年注目されており、かかるポリ乳酸フィラメントを用いて車両内装部材などの各種用途に展開することが検討されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸フィラメントは通常、ポリエチレンテレフタレートなどの石油由来の芳香族ポリエステルに比べて耐湿熱性に劣るため、厳しい環境にさらされる車両内装部材用表皮材として用いると、車両内装部材用表皮材の布帛強度が低下してしまうという問題があった。特に、車両内装部材用表皮材は通常、染色加工が施されているため、染色加工の際の湿熱によりポリ乳酸フィラメントの繊維強度が低下し、車両内装部材用表皮材の布帛強度がより一層低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−57095号公報
【特許文献2】特開2009−30217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装部材用表皮材であって、湿熱環境下にさらされた後においても優れた布帛強度を有する車両内装部材用表皮材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリ乳酸フィラメントを含む布帛を染色加工する際の染色時間を短くすることにより、染色加工による繊維強度の低下をおさえることができることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装材であって、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が400N/50mm以上であることを特徴とする車両内装部材用表皮材。」が提供される。
ただし、前記引張り強度は、JIS L1096.8.12により車両内装部材用表皮材の引張り強度を測定するものとする。
その際、前記ポリ乳酸フィラメントが、(i)重量平均分子量5万〜30万のポリL−乳酸(A成分)、(ii)重量平均分子量5万〜30万のポリD―乳酸(B成分)および(iii)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)または(2)で表される燐酸エステル金属塩を含有するフィラメントであることが好ましい。
【0008】
【化1】
【0009】
式中、R1は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2、R3は各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、M1はアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【0010】
【化2】
【0011】
式中、R4、R5およびR6は、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、M2はアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【0012】
また、前記ポリ乳酸フィラメントが仮撚捲縮加工糸であることが好ましい。また、前記布帛が、下記式で表されるカバーファクター(CF)が1800以上の織物であることが好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0013】
また、前記染色加工の条件が、温度110〜140℃かつ時間19分以下であることが好ましい。また、前記布帛に、含浸法により樹脂が布帛重量に対して0.3重量%以上固着されていることが好ましい。その際、前記樹脂がシリコン樹脂またはポリエチレン樹脂またはポリエチレンテレフタレート樹脂であることが好ましい。また、前記布帛にバッキング樹脂が塗布量30g/m2以上で塗布されていることが好ましい。その際、前記バッキング樹脂がアクリル樹脂を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装部材用表皮材であって、湿熱環境下にさらされた後においても優れた布帛強度を有する車両内装部材用表皮材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る車両内装材において、布帛にバッキング樹脂が塗布されている様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の車両内装部材用表皮材は、ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装部材用表皮材であって、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が400N/50mm以上である車両内装部材用表皮材である。ただし、前記引張り強度は、JIS L1096.8.12により車両内装部材用表皮材の引張り強度を測定するものとする。該引張り強度が400N/50mm未満の場合は、車両内装部材用表皮材を使用する際に経時的に布帛強度が低下してしまい、実用性に乏しく好ましくない。なお、前記引張り強度は大きければ大きいほどよいが実用的には、1000N/50mm以下でよい。
【0017】
本発明の車両内装部材用表皮材は例えば、以下の方法により製造することができる。まず、本発明で用いるポリ乳酸フィラメントは、ポリL−乳酸成分および/またはポリD−乳酸成分よりなるポリ乳酸からなるフィラメントである。特に、結晶性のあるポリL−乳酸成分、ポリD−乳酸成分を用いることが好ましく、光学純度の高いポリL−乳酸成分、ポリD−乳酸成分よりのポリ乳酸組成物からなるフィラメントが好ましい。
とりわけ好ましくは、融点が160℃以上の結晶性のポリL−乳酸成分、ポリD−乳酸成分を好適に用いることができる。
【0018】
前記ポリL−乳酸成分は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%のL−乳酸単位、さらに高融点を実現するためには99〜100モル%、加えてステレオ化度を優先するならば95〜99モル%のL−乳酸単位から構成されることがさらに好ましい。他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0019】
ポリD−乳酸成分は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%のD−乳酸単位、さらに高融点を実現するためには99〜100モル%、加えてステレオ化度を優先するならば95〜99モル%のD−乳酸単位から構成されることがさらに好ましい。他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0020】
共重合成分単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0021】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテオラメチレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0022】
ポリL−乳酸成分およびポリD−乳酸成分は、共に重量平均分子量が、好ましくは10万〜50万、より好ましくは15万〜35万である。また、ポリマー重量に対して10重量%以下であれば、他の成分がブレンドされていてもさしつかえない。
【0023】
前記ポリL−乳酸およびポリD−乳酸は、公知の方法で製造することができる。
例えば、L−またはD−ラクチドを金属重合触媒の存在下、加熱し開環重合させ製造することができる。また、金属重合触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または不活性ガス気流下で加熱し固相重合させ製造することができる。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。
【0024】
重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応器あるいは横型反応器を単独、または並列して使用することができる。また、回分式あるいは連続式あるいは半回分式のいずれでも良いし、これらを組み合わせてもよい。
重合開始剤としてアルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどを好適に用いることができる。
【0025】
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた、比較的低分子量の乳酸ポリエステルをプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲にて予め結晶化させることが、融着防止の面から好ましい形態と言える。結晶化させたプレポリマーは固定された縦型或いは横型反応容器、またはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器(ロータリーキルン等)中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0026】
ポリ乳酸重合時使用された金属含有触媒は、従来公知の失活剤で不活性化しておくのが好ましい。かかる失活剤としてはたとえば例えばイミノ基を有し且つ重合金属触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンド及びジヒドリドオキソリン(I)酸、ジヒドリドテトラオキソ二リン(II,II)酸、ヒドリドトリオキソリン(III)酸、ジヒドリドペンタオキソ二リン(III)酸、ヒドリドペンタオキソ二(II,IV)酸、ドデカオキソ六リン(III)III、ヒドリドオクタオキソ三リン(III,IV,IV)酸、オクタオキソ三リン(IV,III,IV)酸、ヒドリドヘキサオキソ二リン(III,V)酸、ヘキサオキソ二リン(IV)酸、デカオキソ四リン(IV)酸、ヘンデカオキソ四リン(IV)酸、エネアオキソ三リン(V,IV,IV)酸等の酸価数5以下の低酸化数リン酸、式 xH2O・yP2O5で表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸及びこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部をのこした網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタ燐酸系化合物と呼ぶことがある。)、及びこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステル、完全エスエテル、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体などが例示される。
【0027】
触媒失活能から、式 xH2O・yP2O5で表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸及びこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部をのこした網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタ燐酸系化合物と呼ぶことがある。)、及びこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステルリンオキソ酸あるいはこれらの酸性エステル類、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体及び上記のメタ燐酸系化合物が好適に使用される。
前記メタ燐酸系化合物は、3〜200程度の燐酸単位が縮合した環状のメタ燐酸あるいは立体網目状構造を有するウルトラ領域メタ燐酸あるいはそれらの塩(アルカル金属塩、アルカリ土類金属塩、オニウム塩)を包含する。
【0028】
なかでも環状メタ燐酸ナトリウムやウルトラ領域メタ燐酸ナトリウム、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体のジヘキシルホスホノエチルアセテート(以下DHPAと略称することがある)などが好適に使用される。
【0029】
前記ポリ乳酸組成物のラクチド含有量は0〜700ppmの範囲が選択される。さらに好ましくは0〜500ppm、より好ましくは0〜200ppm、特段に好ましくは0〜100ppmの範囲が選択される。
ポリ乳酸がかかる範囲のラクチド含有量を有することにより、溶融時の安定性を向上せしめ、効率よく安定に紡糸できる利点及び繊維製品の耐加水分解性を高めることが出来るからである。
ラクチド含有量をかかる範囲に低減させるには、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸の重合時点からポリ乳酸製造の終了までの任意の段階において、従来公知のラクチド軽減処理あるいはこれらを組み合わせて実施することによって達成することが可能である。
【0030】
前記ポリ乳酸組成物の重量平均分子量は、10万〜50万であることが好ましい。より好ましくは10万〜30万である。さらにより好ましくは10.5万〜25万である。
ポリ乳酸組成物の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比を分子量分散(Mw/Mn)という。分子量分散が大きいことは、平均分子量に比較し、大きな分子や小さな分子の割合が多いことを意味する。
【0031】
すなわち、分子量分散の大きなポリ乳酸組成物、例えば重量平均分子量が25万程度で、分子量分散の3超の組成物では、重量平均分子量値25万より大きい分子の割合が大きくなる場合があり、この場合、溶融粘度が大きくなり、紡糸、延伸工程上好ましくない。また10万程度の比較的小さい重量平均分子量で分子量分散の大きなポリ乳酸組成物では、重量平均分子量値10万より小さい分子の割合が大きくなる場合があり、この場合、繊維の機械的物性の耐久性が小さくなり、使用上好ましくない。かかる観点より分子量分散の範囲は、好ましくは1.5〜3.0、より好ましくは1.5〜2.5、さらに好ましくは1.6〜2.5の範囲である。
重量平均分子量、数平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量、数平均分子量値である。
【0032】
ポリ乳酸組成物におけるポリL−乳酸成分とポリD−乳酸成分との重量比は、90:10〜10:90の範囲であることが好ましい。75:25〜25:75の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは60:40〜40:60の範囲であり、できるだけ50:50に近いことが好ましい。
【0033】
前記ポリ乳酸組成物は、ポリL−乳酸成分およびポリD−乳酸成分からなるステレオコンプレックスポリ乳酸を含有することが好ましい。ここで、ステレオコンプレックスポリ乳酸の含有率、すなわちステレオ化度は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、ステレオコンプレックス結晶の融解に対応するピークの割合であり、下記式(a)で表され好ましくは80〜100%、より好ましくは95〜100%である。
【0034】
本発明でいう融点とはDSC測定による結晶融解ピーク温度であり、低温結晶融解ピーク温度とステレオコンプレックス結晶融解ピーク温度が存在する場合は後者を用いる。該温度が195℃以上(好ましくは195〜250℃の範囲、より好ましくは200〜240℃)であることが肝要である。ステレオコンプレックス結晶融解エンタルピーは、20J/g以上(より好ましくは30J/g以上)であることが好ましい。
【0035】
ステレオ化度=
[(ΔHms/ΔHms0)/(ΔHmh/ΔHmh0+ΔHms/ΔHms0)]×100 (a)
(ただし、ΔHms0=203.4J/g、ΔHmh0=142J/g、ΔHms=ステレオコンプレックス融点の融解エンタルピー、ΔHmh=ホモ結晶の融解エンタルピー)
前記ポリ乳酸組成物は、ポリL−乳酸成分単独、あるいはポリL−乳酸成分とポリD−乳酸成分とを所定の重量比で共存させ混合することにより製造することができる。
【0036】
混合は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒は、ポリL−乳酸とポリD−乳酸が溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。
また混合は、溶媒の非存在下で行うことができる。即ち、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とを所定量混合した後に溶融混練する方法、いずれか一方を溶融させた後に残る一方を加えて混練する方法を採用することができる。
あるいは、ポリL−乳酸セグメントとポリD−乳酸セグメントが結合している、ステレオブロックポリ乳酸もポリ乳酸組成物として好適に用いることが出来る。
【0037】
ステレオブロックポリ乳酸はポリL−乳酸セグメントとポリD−乳酸セグメントが分子内で結合してなる、ブロック重合体である。
このようなブロック重合体は、たとえば、逐次開環重合によって製造する方法や、ポリL−乳酸とポリD−乳酸を重合しておいてあとで鎖交換反応や鎖延長剤で結合する方法、ポリL−乳酸とポリD−乳酸を重合しておいてブレンド後固相重合して鎖延長する方法、立体選択開環重合触媒を用いてラセミラクチドから製造する方法など上記の基本的構成を持つブロック共重合体であれば製造法によらず用いることができる。
しかしながら、逐次開環重合によって得られる高融点のステレオブロック重合体、固相重合法によって得られる重合体を用いることが製造の容易さからより好ましい。
【0038】
本発明で用いるポリ乳酸組成物およびステレオブロックポリ乳酸は、そのステレオ化度が、90%以上であることが好ましく、より好ましくは100%である。ステレオ化度は、DSC測定において融点のエンタルピーを比較することによって上記数式(a)によって決定することができる。
【0039】
本発明で用いるポリ乳酸成分には、ステレオコンプレックス相の形成を安定的且つ高度に進めるために特定の添加物を添加することが好ましい。
たとえば、下記式(1)及びまたは(2)に示す燐酸金属塩が好ましい例として挙げることができる。
【0040】
【化3】
【0041】
式(1)において、R1は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。R1で表される炭素数1〜4のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基などが例示される。
【0042】
R2、R3は、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表す。炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、アミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tert−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tert−ドデシル基などが挙げられる。
【0043】
M1は、Na、K、Liなどのアルカリ金属原子またはMg、Ca等のアルカリ土類金属原子を表す。pは1または2を表す。
【0044】
式(1)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えばR1が水素原子、R2、R3がともにtert−ブチル基のものが挙げられる。
【0045】
【化4】
【0046】
式(2)においてR4、R5、R6は、各々独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基を表す。炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、アミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tert−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tert−ドデシル基などが挙げられる。
【0047】
M2は、Na、K、Liなどのアルカリ金属原子またはMg、Ca等のアルカリ土類金属原子を表す。pは1または2を表す。
【0048】
式(2)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えば、R4、R6がメチル基、R5がtert−ブチル基のものが挙げられる。燐酸エステル金属塩として、(株)ADEKA製の商品名、NA−11が挙げられる。燐酸エステル金属塩は公知の方法により合成することができる。
【0049】
特開2003−192884号公報に記載のように、式(1)または(2)で表される化合物はポリ乳酸の結晶核剤として知られた化合物である。しかし、本発明において、式(1)、式(2)中のM1およびM2は、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子であることを特徴とする。式(1)、式(2)中のM1およびM2が、アルミニウムなどの他の金属である場合、化合物自体の耐熱性が低く、紡糸時に昇華物が発生し、紡糸することが困難な場合がある。
【0050】
燐酸エステル金属塩(C成分)は、平均一次粒径が好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.05〜7μmである。粒径を0.01μmより小さくすることは工業的に困難であり、それほど小さくする必要もない。また10μmより大きいと、紡糸、延伸時、断糸の頻度が高まる。
これらの金属塩は、ポリ乳酸成分に対して、好ましくは0.05wt%から5wt%、より好ましくは0.05wt%から0.5wt%、さらに好ましくは0.05wt%から0.2wt%用いることが好ましい。少なすぎる場合には、ステレオ化度を向上する効果が小さく、多すぎると樹脂自体を劣化させるので好ましくない。
【0051】
本発明に用いるポリ乳酸成分には、耐湿熱性改善剤が含有されてなくてもよいし、含有されていてもよい。ポリ乳酸成分に耐湿熱性改善剤が含有される場合、耐湿熱性改善剤として、特定官能基を有するカルボキシル基封止剤が好適に適用できる。中でも、特定官能基がカルボジイミド基であるカルボジイミド化合物がカルボキシル基を効果的に封止できるとともに、ポリ乳酸繊維構造物の色相、ステレオコンプレックス相の形成促進、耐湿熱性等の観点より好ましく選択される。
【0052】
すなわち、カルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブイチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、オクチルデシルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジベンジルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−トリルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ビス(p−ニトロフェニル)カルボジイミド、ビス(p−アミノフェニル)カルボジイミド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)カルボジイミド、ビス(p−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−エチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−エチルフェニル)カルボジイミドビス(o−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(o−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,5−ジクロロフェニル)カルボジイミド、p−フェニレンビス(o−トルイルカルボジイミド)、p−フェニレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレンンビス(p−クロロフェニルカルボジイミド)、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、エチレンビス(フェニルカルボジイミド)、エチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−エチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−ブチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリブチルフェニル)カルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボシイミド、N−トリル−N’−シクロヘキシルカルボシイミド、N−トリル−N’−フェニルカルボシイミド等のモノまたはジカルボジイミド化合物が例示される。
なかでも反応性、安定性の観点からビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カーボジイミド、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドが好ましい。またこれらのうち工業的に入手可能なジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミドの使用も好適である。
【0053】
また、ポリ(1,6−シクロヘキサンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(p−トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチルジソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド等が挙げられる。
【0054】
市販のポリカルボジイミド化合物としては例えば日清紡績株式会社より市販されている「カルボジライト」を用いることができ、具体的にはポリ乳酸樹脂改質剤として販売されている「カルボジライト」LA−1、あるいはポリエステル樹脂改質剤として販売されている「カルボジライト」HMV−8CA等を例示することができる。
【0055】
カルボジイミド化合物は、従来公知の方法により製造することもできる。例えば触媒として有機リン化合物または有機金属化合物を使用して、有機イソシアネートを70℃以上の温度で無溶媒あるいは不活性溶媒中で脱炭酸縮合反応に附することにより製造することができる。またポリカルボジイミド化合物は、従来公知のポリカルボジイミド化合物の製造法、例えば米国特許2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.Org.Chem.28, 2069−2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81 No.4、p619−621等により製造することができる。
【0056】
カルボジイミド化合物の含有量は、ポリ乳酸組成物100重量部当たり、好ましくは0.1〜5.0重量部、さらに好ましくは0.5〜2.0重量部である。かかる範囲のカルボジイミド化合物を含有するステレオコンプレックスポリ乳酸繊維は、100℃の沸水中30分間の処理後の分子量保持率が95%以上となり、さらに好ましい繊維を得ることができる。
また従来公知のカルボキシ末端封止剤の適用も好ましく選択される。
【0057】
本発明においてかかるカルボキシル基反応性の末端封止剤はポリ乳酸樹脂の末端カルボキシル基を封止するのみでなく、ポリ乳酸樹脂や各種添加剤の分解反応で生成するカルボキシ基や乳酸、ギ酸等の低分子化合物のカルボキシル基を封止することができる。また上記封止剤はカルボキシル基のみならず熱分解により酸性低分子化合物が生成する水酸基末端、あるいは樹脂組成物中に侵入する水分を封止できる化合物であることが好ましい。
カルボキシ末端封止剤としては、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、イソシアネート化合物から選択される少なくとも1種の化合物を使用することが好ましく、なかでもエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物が好ましい。
エポキシ化合物として、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリジジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、グリシジルアミド化合物、脂環式エポキシ化合物を好ましく使用することができる。
末端カルボキシル基末端封止剤を含有することで、カルボジイミド化合物の作用を向上させることができるのみならず、紡糸性、力学特性、耐熱性、耐久性に優れた繊維を得ることができる。
【0058】
本発明ポリ乳酸組成物中、上記の剤及び後述する各種添加剤の配合方法は、開環重合法においては重合の任意の段階で、好ましくは重合後期に直接反応容器内に添加混練することもできる。ポリ乳酸組成物中の均一分散、色相悪化防止能を考慮すると、エクストルーダーやニーダーでの混練が好ましい。すなわち反応器のポリマー吐出口を一軸、あるいは多軸のエクストルーダーに連結し、添加することもできる。また重合後チップ化されたポリ乳酸組成物あるいは固相重合後のポリ乳酸粉粒体に各種剤を添加、エクストルーダーやニーダーで混練する方法などが例示される。
このとき各種添加剤は、溶融液体、水溶液あるいは有機溶媒溶液あるいは分散液として直接エクストルーダーやニーダー中に計量添加するか、あるいはいわゆるサイドフィーダーよりポリ乳酸中に添加することもできる。
またチップあるいは微粉状のマスターバッチとしてエクストルーダーやニーダーでポリ乳酸組成物と混練することも好ましい実施態様である。
【0059】
次いで、前記ポリ乳酸組成物を常法により紡糸、延伸することにより、ポリ乳酸フィラメントを得ることができる。その際、延伸は1段でも2段以上の多段延伸でもよく、高強度の繊維を製造する観点から延伸倍率は3倍以上(より好ましくは4倍以上、特に好ましくは4〜10倍)が好ましい。延伸の予熱はロールの昇温のほか、平板状あるいはピン状の接触式ヒータでもよい。延伸温度は70〜140℃(より好ましくは80〜130℃)の範囲が好ましい。また、延伸後の熱処理は、テンション下で170〜200℃(より好ましくは180〜200℃)で行うことが好ましい。熱処理は、ホットローラー、接触式加熱ヒータ、非接触式熱版などで行うことができる。
【0060】
かくして得られたポリ乳酸フィラメントにおいて、示差走査熱量計(DSC)測定で、融解ピーク温度(融点)が195℃以上であることが好ましい。該融点が195℃よりも低いと、染色の際の熱履歴によりフィラメントの糸強度が低下したり、収縮して硬くなるため好ましくない。なお、該融点は高いほど好ましいが、240℃以下であれば十分である。
【0061】
また、かかるポリ乳酸フィラメントにおいて、糸強度が2.5cN/dtex以上(より好ましくは3.0cN/dtex以上)であると、内装材の布帛強度が向上するため好ましい。上限は高いほど好ましいが実際上は10cN/dtex程度となる。また、布帛の風合いの点で、単糸繊度が0.01〜20dtex(より好ましくは0.1〜7dtex)、総繊度が30〜500dtex、フィラメント数が20〜200本の範囲内であることが好ましい。
【0062】
次いで、前記ポリ乳酸フィラメントを用いて布帛を製編織する。その際、該フィラメントに撚糸や空気加工、仮撚捲縮加工など施してもよい。特に、ポリ乳酸フィラメントが仮撚捲縮加工糸であると、車両内装材がソフトな風合いを呈することになるため好ましい。また、該フィラメントに100〜600T/m程度の撚糸が施されていると布帛の耐摩耗性が向上するだけでなく、布帛を製編織する際の取扱い性が向上し好ましい。また、前記ポリ乳酸フィラメントのみを用いて布帛を製編織することが好ましいが、布帛重量に対して70重量%以下であれば、ポリエチレンテレフタレート繊維など他の繊維が含まれていてもさしつかえない。
【0063】
また、前記の布帛において、布帛構造は特に限定されないが、通常の織機または編機により製編織された織物または編物であることが好ましい。もちろん、不織布や、マトリックス繊維と熱接着性繊維とからなる繊維構造体でもよい。例えば、織物の織組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。編物の種類は、丸編物(よこ編物)であってもよいしたて編物であってもよい。丸編物(よこ編物)の組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。さらには、カットパイルおよび/またはループパイルからなる立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛であってもよい。
【0064】
次いで、前記の布帛を染色する。染色の方法は特に制限されず、染色加工の方法としては、ビーム染色、チーズ染色、パッケージ染色、液流染色など従来公知の染色加工方法でよい。また、染色加工条件としては、染色温度110〜140℃、染色時間19分以内(好ましくは10〜19分)の範囲が好ましい。かかる染色加工の時間が19分を越えると、染色加工の際の熱履歴によりポリ乳酸繊維の繊維強度が低下するため、最終的に得られる車両内装材の布帛強度が低下するおそれがある。なお、染色温度は染色加工の際のキープ温度であり、染色時間は染色加工の際のキープ時間である。なお、染色加工の際、染色浴中に分散染料だけでなく助剤や各種機能剤が含まれていてもよい。
【0065】
また、染色工程の前に、温度50〜100℃で弱アルカリ下の精錬や温度80〜100℃でアルカリ条件下で減量加工を行ってもよい。また、染色の前および/または後に温度140〜180℃で乾熱処理することは好ましいことである。
【0066】
また、染色工程の後に、シリコン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などの樹脂をパデング法などの含浸法により布帛に付与すると、布帛に含まれるポリ乳酸フィラメントが、前記樹脂により被覆されるため、車両内装材が湿熱環境下にさらされた後においても車両内装材に含まれるポリ乳酸フィラメントの繊維強度が低下し難くなり、優れた布帛強度が得られ好ましい。また同時に、布帛の耐摩耗性も向上し好ましい。その際、樹脂の付着量は布帛重量に対して0.5〜5.0重量%の範囲が好ましい。さらには、染色工程の前および/または後に、吸水加工、撥水加工、起毛加工、難燃剤、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0067】
かくして得られた布帛において、布帛に含まれるポリ乳酸フィラメントの糸強度が2.3cN/dtex以上であることが好ましい。特に、染色前のポリ乳酸フィラメントの糸強度に対して90%以上保持されることが好ましい。
【0068】
また、かかる布帛において、目付けとしては、30〜1000gr/m2の範囲内であることが好ましい。また、布帛が織物である場合は、下記式により算出されるカバーファクター(CF)が1800以上(より好ましくは2500〜4000)あることが、布帛強度、布帛の耐摩耗性および風合いの点で好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
また、前記布帛が編物である場合には、30〜100コース/2.54cm、20〜60ウエール/2.54cmの密度であると、布帛強度、布帛の耐摩耗性および風合いの点で好ましい。
【0069】
本発明の車両内装部材用表皮材は前記の布帛単独で構成されていてもよいが、図1に模式的に示すように、布帛の表裏どちらか一方にバッキング樹脂が塗布量30g/m2以上(好ましくは80〜120g/m2)で塗布されていると、布帛強度が向上し好ましい。その際、前記バッキング樹脂が、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、アクリルアミド樹脂などのアクリル樹脂を含むことが好ましい。なお、布帛にバッキング樹脂を塗布する方法としては従来公知の方法でよい。
かくして得られた本発明の車両内装部材用表皮材において、前述のように、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が400N/50mm以上であることが肝要である。なお、該引張り強度を得るには、例えば前記のように、ポリ乳酸フィラメントとしてステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントを用いて高密度織物を製織し、染色加工の際の染色時間を短くし、含浸法により樹脂を布帛に付与し、布帛の表裏どちらか一方にバッキング樹脂を塗布するとよい。これらの相乗作用により、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度を400N/50mm以上とすることができる。
【0070】
本発明の車両内装部材用表皮材は、湿熱環境下にさらされた後においても優れた布帛強度を有するので、カーシート表皮材、車両床材、車両天井材などの車両内装部材として好適に使用される。
【実施例】
【0071】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)重量平均分子量(Mw)
ポリマーの重量平均分子量はGPC(カラム温度40℃、クロロホルム)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
(2)ガラス転移点、融点、ステレオ化度
TAインストルメンツ製 TA−2920示差走査熱量測定計DSCを用いた。測定は、試料10mgを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から260℃まで昇温した。第一スキャンで、ホモ結晶融解温度、ガラス転移点、ステレオコンプレックス結晶融解温度を求めた。ステレオ化度は、下記式により算出した。
S(%)=[(ΔHms/ΔHms0)/(ΔHmh/ΔHmh0+ΔHms/ΔHms0)]×100
(ただし、ΔHms0=203.4J/g、ΔHmh0=142J/g、ΔHms=ステレオコンプレックス融点の融解エンタルピー、ΔHmh=ホモ結晶の融解エンタルピー)
(3)フィラメントの強伸度
JIS−L−1013に基づいて定速伸長引張試験機であるオリエンテック(株)社製テンシロンを用いて、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて測定した。
【0072】
(4)捲縮率
供試フィラメント糸条を、周長が1.125mの検尺機のまわりに巻きつけて、乾繊度が3333dtexのかせを調製した。
前記かせを、スケール板の吊り釘に懸垂して、その下部分に6gの初荷重を付加し、さらに600gの荷重を付加したときのかせの長さL0を測定した。その後、直ちに、前記かせから荷重を除き、スケール板の吊り釘から外し、このかせを沸騰水中に30分間浸漬して、捲縮を発現させた。沸騰水処理後のかせを沸騰水から取り出し、かせに含まれる水分をろ紙により吸収除去し、室温において24時間風乾する。この風乾されたかせを、スケール板の吊り釘に懸垂し、その下部分に、600gの荷重をかけ、1分後にかせの長さL1aを測定し、その後かせから荷重を外し、1分後にかせの長さL2aを測定した。供試フィラメント糸条の捲縮率(CP)を、下記式により算出した。
CP(%)=((L1a−L2a)/L0)×100
【0073】
(5)目付け
JIS L1096.8.5.1により目付け(gr/m2)を測定した。
(6)布帛の耐摩耗性
JIS L1096.8.17.3 C法により平面摩耗を級判定した。5級が最高であり、1級が最低である。
(7)布帛の風合い
試験者3人が官能評価により、(3級)ソフトである、(2級)普通である、(1級)硬い、の3段階に評価した。
(8)車両内装部材用表皮材の引張り強度
JIS L1096.8.12により、車両内装部材用表皮材の引張り強度を測定した。
【0074】
[製造例1](ポリL−乳酸の製造)
Lラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量の燐酸を添加しその後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリL−乳酸を得た。
得られたL−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0075】
[製造例2](ポリD−乳酸の製造)
Dラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量の燐酸を添加しその後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリD−乳酸を得た 得られたポリD−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0076】
[製造例3](ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂の製造)
製造例1で得られたポリL−乳酸ならびに製造例2のポリD−乳酸を各50重量部と、リン酸エステル金属塩(燐酸2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)ナトリウム塩、平均粒径5μm、株式会社ADEKA(旧:旭電化工業株式会社)製アデカスタブNA−11)0.1重量部とをシリンダー温度230℃で混練押出して、水槽中にストランドを取り、チップカッターにてチップ化してステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を得た。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂のMwは13.5万、融点(Tm)は217℃、ステレオ化度は100%であった。
【0077】
[実施例1]
前記、製造例3で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を110℃で2時間、150℃で5時間乾燥し樹脂の水分率を80ppmとしたあと0.27φmmの吐出孔36ホールを有する紡糸口金を用いて、紡糸温度255℃で8.35g/分の吐出量で紡糸した後に500m/分の速度で未延伸糸を巻き取った。巻き取られた未延伸糸を延伸機にて予熱80℃で4.9倍に延伸し延伸糸を巻き取った。次いで、該延伸糸に通常の仮撚捲縮加工を施してポリ乳酸仮撚捲縮加工糸(ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメント)を得た。該ポリ乳酸仮撚捲縮加工糸において、繊度167dTex/36fil、捲縮1.4%、強度3.1cN/dTex、伸度34%、融点213℃であった。
次いで、該ポリ乳酸仮撚捲縮加工糸を2本合糸し、160T/mの撚りを施した後、経糸および緯糸に配して、通常のドビー織機を用いてドビー織物を製織(カバーファクター3534)した後、該織物を、液流染色機を用いて、温度130℃で15分間の染色を行った。その際、分散染料を用いた。さらに、パデング機により該布帛にシリコン樹脂を布帛重量に対して1.5重量%付与し、温度130℃で10分間乾燥した後に温度160℃、2分間の乾熱セットを施した。
次いで、難燃性の向上を目的に、三酸化アンチモン20wt%、デカブロモジフェニルエーテル40wt%、アクリルエステル樹脂40wt%からなるバッキング樹脂を前記布帛の一方の面に常法により塗布し、カーシート用生地(車両内装材)を得た。その際、塗布時のバッキング樹脂の塗布量は100g/m2とした。
得られたカーシート用生地において目付は550g/m2、カバーファクターは3534であった。また、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が617N/50mmであった。
【0078】
[実施例2]
実施例1において、ドビー織物のかわりにジャガード織機を用いてジャガード織物を用いること以外は実施例1と同様にした。
得られたカーシート用生地において目付は600g/m2、カバーファクターは3816であった。また、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が430N/50mmであった。
【0079】
[比較例1]
実施例1において、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂のかわりに製造例1で得られたポリL乳酸を用いること以外は実施例1と同様とした。
得られたカーシート用生地において目付は575g/m2、カバーファクターは3711であったが、130℃染色の際の熱履歴で収縮し、硬化する現象を確認した。また、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が140N/50mmと風合い・強度とも実使用に耐えられないものとなった。
【0080】
[比較例2]
実施例1において染色加工の染色時間を30分に変更すること以外は実施例1と同様とした。
得られたカーシート用生地において目付は540g/m2、カバーファクターは3463であった。また、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が325N/50mmと実使用に耐えられないものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装部材用表皮材であって、湿熱環境下にさらされた後においても優れた布帛強度を有する車両内装部材用表皮材が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【符号の説明】
【0082】
1:布帛
2:バッキング樹脂
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装部材用表皮材であって、湿熱環境下にさらされた後においても優れた布帛強度を有する車両内装部材用表皮材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸フィラメントは、その原料である乳酸またはラクチドが天然物から製造されるため、地球環境に配慮した繊維として近年注目されており、かかるポリ乳酸フィラメントを用いて車両内装部材などの各種用途に展開することが検討されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸フィラメントは通常、ポリエチレンテレフタレートなどの石油由来の芳香族ポリエステルに比べて耐湿熱性に劣るため、厳しい環境にさらされる車両内装部材用表皮材として用いると、車両内装部材用表皮材の布帛強度が低下してしまうという問題があった。特に、車両内装部材用表皮材は通常、染色加工が施されているため、染色加工の際の湿熱によりポリ乳酸フィラメントの繊維強度が低下し、車両内装部材用表皮材の布帛強度がより一層低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−57095号公報
【特許文献2】特開2009−30217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装部材用表皮材であって、湿熱環境下にさらされた後においても優れた布帛強度を有する車両内装部材用表皮材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリ乳酸フィラメントを含む布帛を染色加工する際の染色時間を短くすることにより、染色加工による繊維強度の低下をおさえることができることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装材であって、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が400N/50mm以上であることを特徴とする車両内装部材用表皮材。」が提供される。
ただし、前記引張り強度は、JIS L1096.8.12により車両内装部材用表皮材の引張り強度を測定するものとする。
その際、前記ポリ乳酸フィラメントが、(i)重量平均分子量5万〜30万のポリL−乳酸(A成分)、(ii)重量平均分子量5万〜30万のポリD―乳酸(B成分)および(iii)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)または(2)で表される燐酸エステル金属塩を含有するフィラメントであることが好ましい。
【0008】
【化1】
【0009】
式中、R1は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2、R3は各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、M1はアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【0010】
【化2】
【0011】
式中、R4、R5およびR6は、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、M2はアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【0012】
また、前記ポリ乳酸フィラメントが仮撚捲縮加工糸であることが好ましい。また、前記布帛が、下記式で表されるカバーファクター(CF)が1800以上の織物であることが好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【0013】
また、前記染色加工の条件が、温度110〜140℃かつ時間19分以下であることが好ましい。また、前記布帛に、含浸法により樹脂が布帛重量に対して0.3重量%以上固着されていることが好ましい。その際、前記樹脂がシリコン樹脂またはポリエチレン樹脂またはポリエチレンテレフタレート樹脂であることが好ましい。また、前記布帛にバッキング樹脂が塗布量30g/m2以上で塗布されていることが好ましい。その際、前記バッキング樹脂がアクリル樹脂を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装部材用表皮材であって、湿熱環境下にさらされた後においても優れた布帛強度を有する車両内装部材用表皮材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る車両内装材において、布帛にバッキング樹脂が塗布されている様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の車両内装部材用表皮材は、ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装部材用表皮材であって、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が400N/50mm以上である車両内装部材用表皮材である。ただし、前記引張り強度は、JIS L1096.8.12により車両内装部材用表皮材の引張り強度を測定するものとする。該引張り強度が400N/50mm未満の場合は、車両内装部材用表皮材を使用する際に経時的に布帛強度が低下してしまい、実用性に乏しく好ましくない。なお、前記引張り強度は大きければ大きいほどよいが実用的には、1000N/50mm以下でよい。
【0017】
本発明の車両内装部材用表皮材は例えば、以下の方法により製造することができる。まず、本発明で用いるポリ乳酸フィラメントは、ポリL−乳酸成分および/またはポリD−乳酸成分よりなるポリ乳酸からなるフィラメントである。特に、結晶性のあるポリL−乳酸成分、ポリD−乳酸成分を用いることが好ましく、光学純度の高いポリL−乳酸成分、ポリD−乳酸成分よりのポリ乳酸組成物からなるフィラメントが好ましい。
とりわけ好ましくは、融点が160℃以上の結晶性のポリL−乳酸成分、ポリD−乳酸成分を好適に用いることができる。
【0018】
前記ポリL−乳酸成分は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%のL−乳酸単位、さらに高融点を実現するためには99〜100モル%、加えてステレオ化度を優先するならば95〜99モル%のL−乳酸単位から構成されることがさらに好ましい。他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0019】
ポリD−乳酸成分は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%のD−乳酸単位、さらに高融点を実現するためには99〜100モル%、加えてステレオ化度を優先するならば95〜99モル%のD−乳酸単位から構成されることがさらに好ましい。他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0020】
共重合成分単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0021】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテオラメチレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0022】
ポリL−乳酸成分およびポリD−乳酸成分は、共に重量平均分子量が、好ましくは10万〜50万、より好ましくは15万〜35万である。また、ポリマー重量に対して10重量%以下であれば、他の成分がブレンドされていてもさしつかえない。
【0023】
前記ポリL−乳酸およびポリD−乳酸は、公知の方法で製造することができる。
例えば、L−またはD−ラクチドを金属重合触媒の存在下、加熱し開環重合させ製造することができる。また、金属重合触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または不活性ガス気流下で加熱し固相重合させ製造することができる。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。
【0024】
重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応器あるいは横型反応器を単独、または並列して使用することができる。また、回分式あるいは連続式あるいは半回分式のいずれでも良いし、これらを組み合わせてもよい。
重合開始剤としてアルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどを好適に用いることができる。
【0025】
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた、比較的低分子量の乳酸ポリエステルをプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲にて予め結晶化させることが、融着防止の面から好ましい形態と言える。結晶化させたプレポリマーは固定された縦型或いは横型反応容器、またはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器(ロータリーキルン等)中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0026】
ポリ乳酸重合時使用された金属含有触媒は、従来公知の失活剤で不活性化しておくのが好ましい。かかる失活剤としてはたとえば例えばイミノ基を有し且つ重合金属触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンド及びジヒドリドオキソリン(I)酸、ジヒドリドテトラオキソ二リン(II,II)酸、ヒドリドトリオキソリン(III)酸、ジヒドリドペンタオキソ二リン(III)酸、ヒドリドペンタオキソ二(II,IV)酸、ドデカオキソ六リン(III)III、ヒドリドオクタオキソ三リン(III,IV,IV)酸、オクタオキソ三リン(IV,III,IV)酸、ヒドリドヘキサオキソ二リン(III,V)酸、ヘキサオキソ二リン(IV)酸、デカオキソ四リン(IV)酸、ヘンデカオキソ四リン(IV)酸、エネアオキソ三リン(V,IV,IV)酸等の酸価数5以下の低酸化数リン酸、式 xH2O・yP2O5で表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸及びこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部をのこした網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタ燐酸系化合物と呼ぶことがある。)、及びこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステル、完全エスエテル、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体などが例示される。
【0027】
触媒失活能から、式 xH2O・yP2O5で表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸及びこれらの混合物、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部をのこした網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタ燐酸系化合物と呼ぶことがある。)、及びこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステルリンオキソ酸あるいはこれらの酸性エステル類、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体及び上記のメタ燐酸系化合物が好適に使用される。
前記メタ燐酸系化合物は、3〜200程度の燐酸単位が縮合した環状のメタ燐酸あるいは立体網目状構造を有するウルトラ領域メタ燐酸あるいはそれらの塩(アルカル金属塩、アルカリ土類金属塩、オニウム塩)を包含する。
【0028】
なかでも環状メタ燐酸ナトリウムやウルトラ領域メタ燐酸ナトリウム、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体のジヘキシルホスホノエチルアセテート(以下DHPAと略称することがある)などが好適に使用される。
【0029】
前記ポリ乳酸組成物のラクチド含有量は0〜700ppmの範囲が選択される。さらに好ましくは0〜500ppm、より好ましくは0〜200ppm、特段に好ましくは0〜100ppmの範囲が選択される。
ポリ乳酸がかかる範囲のラクチド含有量を有することにより、溶融時の安定性を向上せしめ、効率よく安定に紡糸できる利点及び繊維製品の耐加水分解性を高めることが出来るからである。
ラクチド含有量をかかる範囲に低減させるには、ポリL−乳酸及びポリD−乳酸の重合時点からポリ乳酸製造の終了までの任意の段階において、従来公知のラクチド軽減処理あるいはこれらを組み合わせて実施することによって達成することが可能である。
【0030】
前記ポリ乳酸組成物の重量平均分子量は、10万〜50万であることが好ましい。より好ましくは10万〜30万である。さらにより好ましくは10.5万〜25万である。
ポリ乳酸組成物の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比を分子量分散(Mw/Mn)という。分子量分散が大きいことは、平均分子量に比較し、大きな分子や小さな分子の割合が多いことを意味する。
【0031】
すなわち、分子量分散の大きなポリ乳酸組成物、例えば重量平均分子量が25万程度で、分子量分散の3超の組成物では、重量平均分子量値25万より大きい分子の割合が大きくなる場合があり、この場合、溶融粘度が大きくなり、紡糸、延伸工程上好ましくない。また10万程度の比較的小さい重量平均分子量で分子量分散の大きなポリ乳酸組成物では、重量平均分子量値10万より小さい分子の割合が大きくなる場合があり、この場合、繊維の機械的物性の耐久性が小さくなり、使用上好ましくない。かかる観点より分子量分散の範囲は、好ましくは1.5〜3.0、より好ましくは1.5〜2.5、さらに好ましくは1.6〜2.5の範囲である。
重量平均分子量、数平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量、数平均分子量値である。
【0032】
ポリ乳酸組成物におけるポリL−乳酸成分とポリD−乳酸成分との重量比は、90:10〜10:90の範囲であることが好ましい。75:25〜25:75の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは60:40〜40:60の範囲であり、できるだけ50:50に近いことが好ましい。
【0033】
前記ポリ乳酸組成物は、ポリL−乳酸成分およびポリD−乳酸成分からなるステレオコンプレックスポリ乳酸を含有することが好ましい。ここで、ステレオコンプレックスポリ乳酸の含有率、すなわちステレオ化度は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、ステレオコンプレックス結晶の融解に対応するピークの割合であり、下記式(a)で表され好ましくは80〜100%、より好ましくは95〜100%である。
【0034】
本発明でいう融点とはDSC測定による結晶融解ピーク温度であり、低温結晶融解ピーク温度とステレオコンプレックス結晶融解ピーク温度が存在する場合は後者を用いる。該温度が195℃以上(好ましくは195〜250℃の範囲、より好ましくは200〜240℃)であることが肝要である。ステレオコンプレックス結晶融解エンタルピーは、20J/g以上(より好ましくは30J/g以上)であることが好ましい。
【0035】
ステレオ化度=
[(ΔHms/ΔHms0)/(ΔHmh/ΔHmh0+ΔHms/ΔHms0)]×100 (a)
(ただし、ΔHms0=203.4J/g、ΔHmh0=142J/g、ΔHms=ステレオコンプレックス融点の融解エンタルピー、ΔHmh=ホモ結晶の融解エンタルピー)
前記ポリ乳酸組成物は、ポリL−乳酸成分単独、あるいはポリL−乳酸成分とポリD−乳酸成分とを所定の重量比で共存させ混合することにより製造することができる。
【0036】
混合は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒は、ポリL−乳酸とポリD−乳酸が溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。
また混合は、溶媒の非存在下で行うことができる。即ち、ポリL−乳酸とポリD−乳酸とを所定量混合した後に溶融混練する方法、いずれか一方を溶融させた後に残る一方を加えて混練する方法を採用することができる。
あるいは、ポリL−乳酸セグメントとポリD−乳酸セグメントが結合している、ステレオブロックポリ乳酸もポリ乳酸組成物として好適に用いることが出来る。
【0037】
ステレオブロックポリ乳酸はポリL−乳酸セグメントとポリD−乳酸セグメントが分子内で結合してなる、ブロック重合体である。
このようなブロック重合体は、たとえば、逐次開環重合によって製造する方法や、ポリL−乳酸とポリD−乳酸を重合しておいてあとで鎖交換反応や鎖延長剤で結合する方法、ポリL−乳酸とポリD−乳酸を重合しておいてブレンド後固相重合して鎖延長する方法、立体選択開環重合触媒を用いてラセミラクチドから製造する方法など上記の基本的構成を持つブロック共重合体であれば製造法によらず用いることができる。
しかしながら、逐次開環重合によって得られる高融点のステレオブロック重合体、固相重合法によって得られる重合体を用いることが製造の容易さからより好ましい。
【0038】
本発明で用いるポリ乳酸組成物およびステレオブロックポリ乳酸は、そのステレオ化度が、90%以上であることが好ましく、より好ましくは100%である。ステレオ化度は、DSC測定において融点のエンタルピーを比較することによって上記数式(a)によって決定することができる。
【0039】
本発明で用いるポリ乳酸成分には、ステレオコンプレックス相の形成を安定的且つ高度に進めるために特定の添加物を添加することが好ましい。
たとえば、下記式(1)及びまたは(2)に示す燐酸金属塩が好ましい例として挙げることができる。
【0040】
【化3】
【0041】
式(1)において、R1は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。R1で表される炭素数1〜4のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基などが例示される。
【0042】
R2、R3は、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表す。炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、アミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tert−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tert−ドデシル基などが挙げられる。
【0043】
M1は、Na、K、Liなどのアルカリ金属原子またはMg、Ca等のアルカリ土類金属原子を表す。pは1または2を表す。
【0044】
式(1)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えばR1が水素原子、R2、R3がともにtert−ブチル基のものが挙げられる。
【0045】
【化4】
【0046】
式(2)においてR4、R5、R6は、各々独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基を表す。炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、アミル基、tert−アミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、iso−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、iso−ノニル基、デシル基、iso−デシル基、tert−デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、tert−ドデシル基などが挙げられる。
【0047】
M2は、Na、K、Liなどのアルカリ金属原子またはMg、Ca等のアルカリ土類金属原子を表す。pは1または2を表す。
【0048】
式(2)で表される燐酸エステル金属塩のうち好ましいものとしては、例えば、R4、R6がメチル基、R5がtert−ブチル基のものが挙げられる。燐酸エステル金属塩として、(株)ADEKA製の商品名、NA−11が挙げられる。燐酸エステル金属塩は公知の方法により合成することができる。
【0049】
特開2003−192884号公報に記載のように、式(1)または(2)で表される化合物はポリ乳酸の結晶核剤として知られた化合物である。しかし、本発明において、式(1)、式(2)中のM1およびM2は、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子であることを特徴とする。式(1)、式(2)中のM1およびM2が、アルミニウムなどの他の金属である場合、化合物自体の耐熱性が低く、紡糸時に昇華物が発生し、紡糸することが困難な場合がある。
【0050】
燐酸エステル金属塩(C成分)は、平均一次粒径が好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.05〜7μmである。粒径を0.01μmより小さくすることは工業的に困難であり、それほど小さくする必要もない。また10μmより大きいと、紡糸、延伸時、断糸の頻度が高まる。
これらの金属塩は、ポリ乳酸成分に対して、好ましくは0.05wt%から5wt%、より好ましくは0.05wt%から0.5wt%、さらに好ましくは0.05wt%から0.2wt%用いることが好ましい。少なすぎる場合には、ステレオ化度を向上する効果が小さく、多すぎると樹脂自体を劣化させるので好ましくない。
【0051】
本発明に用いるポリ乳酸成分には、耐湿熱性改善剤が含有されてなくてもよいし、含有されていてもよい。ポリ乳酸成分に耐湿熱性改善剤が含有される場合、耐湿熱性改善剤として、特定官能基を有するカルボキシル基封止剤が好適に適用できる。中でも、特定官能基がカルボジイミド基であるカルボジイミド化合物がカルボキシル基を効果的に封止できるとともに、ポリ乳酸繊維構造物の色相、ステレオコンプレックス相の形成促進、耐湿熱性等の観点より好ましく選択される。
【0052】
すなわち、カルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブイチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、オクチルデシルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジベンジルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N’−トリルカルボジイミド、ジ−o−トルイルカルボジイミド、ジ−p−トルイルカルボジイミド、ビス(p−ニトロフェニル)カルボジイミド、ビス(p−アミノフェニル)カルボジイミド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)カルボジイミド、ビス(p−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−クロロフェニル)カルボジイミド、ビス(o−エチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−エチルフェニル)カルボジイミドビス(o−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(o−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(p−イソブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,5−ジクロロフェニル)カルボジイミド、p−フェニレンビス(o−トルイルカルボジイミド)、p−フェニレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド、p−フェニレンンビス(p−クロロフェニルカルボジイミド)、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、エチレンビス(フェニルカルボジイミド)、エチレンビス(シクロヘキシルカルボジイミド)、ビス(2,6−ジメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジエチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−エチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2−ブチル−6−イソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリイソプロピルフェニル)カルボジイミド、ビス(2,4,6−トリブチルフェニル)カルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボシイミド、N−トリル−N’−シクロヘキシルカルボシイミド、N−トリル−N’−フェニルカルボシイミド等のモノまたはジカルボジイミド化合物が例示される。
なかでも反応性、安定性の観点からビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カーボジイミド、2,6,2’,6’−テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドが好ましい。またこれらのうち工業的に入手可能なジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミドの使用も好適である。
【0053】
また、ポリ(1,6−シクロヘキサンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(p−トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチルジソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド等が挙げられる。
【0054】
市販のポリカルボジイミド化合物としては例えば日清紡績株式会社より市販されている「カルボジライト」を用いることができ、具体的にはポリ乳酸樹脂改質剤として販売されている「カルボジライト」LA−1、あるいはポリエステル樹脂改質剤として販売されている「カルボジライト」HMV−8CA等を例示することができる。
【0055】
カルボジイミド化合物は、従来公知の方法により製造することもできる。例えば触媒として有機リン化合物または有機金属化合物を使用して、有機イソシアネートを70℃以上の温度で無溶媒あるいは不活性溶媒中で脱炭酸縮合反応に附することにより製造することができる。またポリカルボジイミド化合物は、従来公知のポリカルボジイミド化合物の製造法、例えば米国特許2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.Org.Chem.28, 2069−2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81 No.4、p619−621等により製造することができる。
【0056】
カルボジイミド化合物の含有量は、ポリ乳酸組成物100重量部当たり、好ましくは0.1〜5.0重量部、さらに好ましくは0.5〜2.0重量部である。かかる範囲のカルボジイミド化合物を含有するステレオコンプレックスポリ乳酸繊維は、100℃の沸水中30分間の処理後の分子量保持率が95%以上となり、さらに好ましい繊維を得ることができる。
また従来公知のカルボキシ末端封止剤の適用も好ましく選択される。
【0057】
本発明においてかかるカルボキシル基反応性の末端封止剤はポリ乳酸樹脂の末端カルボキシル基を封止するのみでなく、ポリ乳酸樹脂や各種添加剤の分解反応で生成するカルボキシ基や乳酸、ギ酸等の低分子化合物のカルボキシル基を封止することができる。また上記封止剤はカルボキシル基のみならず熱分解により酸性低分子化合物が生成する水酸基末端、あるいは樹脂組成物中に侵入する水分を封止できる化合物であることが好ましい。
カルボキシ末端封止剤としては、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、イソシアネート化合物から選択される少なくとも1種の化合物を使用することが好ましく、なかでもエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物が好ましい。
エポキシ化合物として、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリジジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、グリシジルアミド化合物、脂環式エポキシ化合物を好ましく使用することができる。
末端カルボキシル基末端封止剤を含有することで、カルボジイミド化合物の作用を向上させることができるのみならず、紡糸性、力学特性、耐熱性、耐久性に優れた繊維を得ることができる。
【0058】
本発明ポリ乳酸組成物中、上記の剤及び後述する各種添加剤の配合方法は、開環重合法においては重合の任意の段階で、好ましくは重合後期に直接反応容器内に添加混練することもできる。ポリ乳酸組成物中の均一分散、色相悪化防止能を考慮すると、エクストルーダーやニーダーでの混練が好ましい。すなわち反応器のポリマー吐出口を一軸、あるいは多軸のエクストルーダーに連結し、添加することもできる。また重合後チップ化されたポリ乳酸組成物あるいは固相重合後のポリ乳酸粉粒体に各種剤を添加、エクストルーダーやニーダーで混練する方法などが例示される。
このとき各種添加剤は、溶融液体、水溶液あるいは有機溶媒溶液あるいは分散液として直接エクストルーダーやニーダー中に計量添加するか、あるいはいわゆるサイドフィーダーよりポリ乳酸中に添加することもできる。
またチップあるいは微粉状のマスターバッチとしてエクストルーダーやニーダーでポリ乳酸組成物と混練することも好ましい実施態様である。
【0059】
次いで、前記ポリ乳酸組成物を常法により紡糸、延伸することにより、ポリ乳酸フィラメントを得ることができる。その際、延伸は1段でも2段以上の多段延伸でもよく、高強度の繊維を製造する観点から延伸倍率は3倍以上(より好ましくは4倍以上、特に好ましくは4〜10倍)が好ましい。延伸の予熱はロールの昇温のほか、平板状あるいはピン状の接触式ヒータでもよい。延伸温度は70〜140℃(より好ましくは80〜130℃)の範囲が好ましい。また、延伸後の熱処理は、テンション下で170〜200℃(より好ましくは180〜200℃)で行うことが好ましい。熱処理は、ホットローラー、接触式加熱ヒータ、非接触式熱版などで行うことができる。
【0060】
かくして得られたポリ乳酸フィラメントにおいて、示差走査熱量計(DSC)測定で、融解ピーク温度(融点)が195℃以上であることが好ましい。該融点が195℃よりも低いと、染色の際の熱履歴によりフィラメントの糸強度が低下したり、収縮して硬くなるため好ましくない。なお、該融点は高いほど好ましいが、240℃以下であれば十分である。
【0061】
また、かかるポリ乳酸フィラメントにおいて、糸強度が2.5cN/dtex以上(より好ましくは3.0cN/dtex以上)であると、内装材の布帛強度が向上するため好ましい。上限は高いほど好ましいが実際上は10cN/dtex程度となる。また、布帛の風合いの点で、単糸繊度が0.01〜20dtex(より好ましくは0.1〜7dtex)、総繊度が30〜500dtex、フィラメント数が20〜200本の範囲内であることが好ましい。
【0062】
次いで、前記ポリ乳酸フィラメントを用いて布帛を製編織する。その際、該フィラメントに撚糸や空気加工、仮撚捲縮加工など施してもよい。特に、ポリ乳酸フィラメントが仮撚捲縮加工糸であると、車両内装材がソフトな風合いを呈することになるため好ましい。また、該フィラメントに100〜600T/m程度の撚糸が施されていると布帛の耐摩耗性が向上するだけでなく、布帛を製編織する際の取扱い性が向上し好ましい。また、前記ポリ乳酸フィラメントのみを用いて布帛を製編織することが好ましいが、布帛重量に対して70重量%以下であれば、ポリエチレンテレフタレート繊維など他の繊維が含まれていてもさしつかえない。
【0063】
また、前記の布帛において、布帛構造は特に限定されないが、通常の織機または編機により製編織された織物または編物であることが好ましい。もちろん、不織布や、マトリックス繊維と熱接着性繊維とからなる繊維構造体でもよい。例えば、織物の織組織としては、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。編物の種類は、丸編物(よこ編物)であってもよいしたて編物であってもよい。丸編物(よこ編物)の組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。さらには、カットパイルおよび/またはループパイルからなる立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛であってもよい。
【0064】
次いで、前記の布帛を染色する。染色の方法は特に制限されず、染色加工の方法としては、ビーム染色、チーズ染色、パッケージ染色、液流染色など従来公知の染色加工方法でよい。また、染色加工条件としては、染色温度110〜140℃、染色時間19分以内(好ましくは10〜19分)の範囲が好ましい。かかる染色加工の時間が19分を越えると、染色加工の際の熱履歴によりポリ乳酸繊維の繊維強度が低下するため、最終的に得られる車両内装材の布帛強度が低下するおそれがある。なお、染色温度は染色加工の際のキープ温度であり、染色時間は染色加工の際のキープ時間である。なお、染色加工の際、染色浴中に分散染料だけでなく助剤や各種機能剤が含まれていてもよい。
【0065】
また、染色工程の前に、温度50〜100℃で弱アルカリ下の精錬や温度80〜100℃でアルカリ条件下で減量加工を行ってもよい。また、染色の前および/または後に温度140〜180℃で乾熱処理することは好ましいことである。
【0066】
また、染色工程の後に、シリコン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などの樹脂をパデング法などの含浸法により布帛に付与すると、布帛に含まれるポリ乳酸フィラメントが、前記樹脂により被覆されるため、車両内装材が湿熱環境下にさらされた後においても車両内装材に含まれるポリ乳酸フィラメントの繊維強度が低下し難くなり、優れた布帛強度が得られ好ましい。また同時に、布帛の耐摩耗性も向上し好ましい。その際、樹脂の付着量は布帛重量に対して0.5〜5.0重量%の範囲が好ましい。さらには、染色工程の前および/または後に、吸水加工、撥水加工、起毛加工、難燃剤、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0067】
かくして得られた布帛において、布帛に含まれるポリ乳酸フィラメントの糸強度が2.3cN/dtex以上であることが好ましい。特に、染色前のポリ乳酸フィラメントの糸強度に対して90%以上保持されることが好ましい。
【0068】
また、かかる布帛において、目付けとしては、30〜1000gr/m2の範囲内であることが好ましい。また、布帛が織物である場合は、下記式により算出されるカバーファクター(CF)が1800以上(より好ましくは2500〜4000)あることが、布帛強度、布帛の耐摩耗性および風合いの点で好ましい。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
また、前記布帛が編物である場合には、30〜100コース/2.54cm、20〜60ウエール/2.54cmの密度であると、布帛強度、布帛の耐摩耗性および風合いの点で好ましい。
【0069】
本発明の車両内装部材用表皮材は前記の布帛単独で構成されていてもよいが、図1に模式的に示すように、布帛の表裏どちらか一方にバッキング樹脂が塗布量30g/m2以上(好ましくは80〜120g/m2)で塗布されていると、布帛強度が向上し好ましい。その際、前記バッキング樹脂が、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、アクリルアミド樹脂などのアクリル樹脂を含むことが好ましい。なお、布帛にバッキング樹脂を塗布する方法としては従来公知の方法でよい。
かくして得られた本発明の車両内装部材用表皮材において、前述のように、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が400N/50mm以上であることが肝要である。なお、該引張り強度を得るには、例えば前記のように、ポリ乳酸フィラメントとしてステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメントを用いて高密度織物を製織し、染色加工の際の染色時間を短くし、含浸法により樹脂を布帛に付与し、布帛の表裏どちらか一方にバッキング樹脂を塗布するとよい。これらの相乗作用により、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度を400N/50mm以上とすることができる。
【0070】
本発明の車両内装部材用表皮材は、湿熱環境下にさらされた後においても優れた布帛強度を有するので、カーシート表皮材、車両床材、車両天井材などの車両内装部材として好適に使用される。
【実施例】
【0071】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)重量平均分子量(Mw)
ポリマーの重量平均分子量はGPC(カラム温度40℃、クロロホルム)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
(2)ガラス転移点、融点、ステレオ化度
TAインストルメンツ製 TA−2920示差走査熱量測定計DSCを用いた。測定は、試料10mgを窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から260℃まで昇温した。第一スキャンで、ホモ結晶融解温度、ガラス転移点、ステレオコンプレックス結晶融解温度を求めた。ステレオ化度は、下記式により算出した。
S(%)=[(ΔHms/ΔHms0)/(ΔHmh/ΔHmh0+ΔHms/ΔHms0)]×100
(ただし、ΔHms0=203.4J/g、ΔHmh0=142J/g、ΔHms=ステレオコンプレックス融点の融解エンタルピー、ΔHmh=ホモ結晶の融解エンタルピー)
(3)フィラメントの強伸度
JIS−L−1013に基づいて定速伸長引張試験機であるオリエンテック(株)社製テンシロンを用いて、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて測定した。
【0072】
(4)捲縮率
供試フィラメント糸条を、周長が1.125mの検尺機のまわりに巻きつけて、乾繊度が3333dtexのかせを調製した。
前記かせを、スケール板の吊り釘に懸垂して、その下部分に6gの初荷重を付加し、さらに600gの荷重を付加したときのかせの長さL0を測定した。その後、直ちに、前記かせから荷重を除き、スケール板の吊り釘から外し、このかせを沸騰水中に30分間浸漬して、捲縮を発現させた。沸騰水処理後のかせを沸騰水から取り出し、かせに含まれる水分をろ紙により吸収除去し、室温において24時間風乾する。この風乾されたかせを、スケール板の吊り釘に懸垂し、その下部分に、600gの荷重をかけ、1分後にかせの長さL1aを測定し、その後かせから荷重を外し、1分後にかせの長さL2aを測定した。供試フィラメント糸条の捲縮率(CP)を、下記式により算出した。
CP(%)=((L1a−L2a)/L0)×100
【0073】
(5)目付け
JIS L1096.8.5.1により目付け(gr/m2)を測定した。
(6)布帛の耐摩耗性
JIS L1096.8.17.3 C法により平面摩耗を級判定した。5級が最高であり、1級が最低である。
(7)布帛の風合い
試験者3人が官能評価により、(3級)ソフトである、(2級)普通である、(1級)硬い、の3段階に評価した。
(8)車両内装部材用表皮材の引張り強度
JIS L1096.8.12により、車両内装部材用表皮材の引張り強度を測定した。
【0074】
[製造例1](ポリL−乳酸の製造)
Lラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量の燐酸を添加しその後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリL−乳酸を得た。
得られたL−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0075】
[製造例2](ポリD−乳酸の製造)
Dラクチド(株式会社武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、攪拌翼のついた反応機にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し1.2倍当量の燐酸を添加しその後、13.3kPaで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリD−乳酸を得た 得られたポリD−乳酸の重量平均分子量は15万、ガラス転移点(Tg)63℃、融点は180℃であった。
【0076】
[製造例3](ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂の製造)
製造例1で得られたポリL−乳酸ならびに製造例2のポリD−乳酸を各50重量部と、リン酸エステル金属塩(燐酸2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)ナトリウム塩、平均粒径5μm、株式会社ADEKA(旧:旭電化工業株式会社)製アデカスタブNA−11)0.1重量部とをシリンダー温度230℃で混練押出して、水槽中にストランドを取り、チップカッターにてチップ化してステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を得た。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂のMwは13.5万、融点(Tm)は217℃、ステレオ化度は100%であった。
【0077】
[実施例1]
前記、製造例3で得られたステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を110℃で2時間、150℃で5時間乾燥し樹脂の水分率を80ppmとしたあと0.27φmmの吐出孔36ホールを有する紡糸口金を用いて、紡糸温度255℃で8.35g/分の吐出量で紡糸した後に500m/分の速度で未延伸糸を巻き取った。巻き取られた未延伸糸を延伸機にて予熱80℃で4.9倍に延伸し延伸糸を巻き取った。次いで、該延伸糸に通常の仮撚捲縮加工を施してポリ乳酸仮撚捲縮加工糸(ステレオコンプレックスポリ乳酸フィラメント)を得た。該ポリ乳酸仮撚捲縮加工糸において、繊度167dTex/36fil、捲縮1.4%、強度3.1cN/dTex、伸度34%、融点213℃であった。
次いで、該ポリ乳酸仮撚捲縮加工糸を2本合糸し、160T/mの撚りを施した後、経糸および緯糸に配して、通常のドビー織機を用いてドビー織物を製織(カバーファクター3534)した後、該織物を、液流染色機を用いて、温度130℃で15分間の染色を行った。その際、分散染料を用いた。さらに、パデング機により該布帛にシリコン樹脂を布帛重量に対して1.5重量%付与し、温度130℃で10分間乾燥した後に温度160℃、2分間の乾熱セットを施した。
次いで、難燃性の向上を目的に、三酸化アンチモン20wt%、デカブロモジフェニルエーテル40wt%、アクリルエステル樹脂40wt%からなるバッキング樹脂を前記布帛の一方の面に常法により塗布し、カーシート用生地(車両内装材)を得た。その際、塗布時のバッキング樹脂の塗布量は100g/m2とした。
得られたカーシート用生地において目付は550g/m2、カバーファクターは3534であった。また、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が617N/50mmであった。
【0078】
[実施例2]
実施例1において、ドビー織物のかわりにジャガード織機を用いてジャガード織物を用いること以外は実施例1と同様にした。
得られたカーシート用生地において目付は600g/m2、カバーファクターは3816であった。また、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が430N/50mmであった。
【0079】
[比較例1]
実施例1において、ステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂のかわりに製造例1で得られたポリL乳酸を用いること以外は実施例1と同様とした。
得られたカーシート用生地において目付は575g/m2、カバーファクターは3711であったが、130℃染色の際の熱履歴で収縮し、硬化する現象を確認した。また、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が140N/50mmと風合い・強度とも実使用に耐えられないものとなった。
【0080】
[比較例2]
実施例1において染色加工の染色時間を30分に変更すること以外は実施例1と同様とした。
得られたカーシート用生地において目付は540g/m2、カバーファクターは3463であった。また、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が325N/50mmと実使用に耐えられないものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装部材用表皮材であって、湿熱環境下にさらされた後においても優れた布帛強度を有する車両内装部材用表皮材が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【符号の説明】
【0082】
1:布帛
2:バッキング樹脂
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装部材用表皮材であって、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が400N/50mm以上であることを特徴とする車両内装部材用表皮材。
ただし、前記引張り強度は、JIS L1096.8.12により車両内装部材用表皮材の引張り強度を測定するものとする。
【請求項2】
前記ポリ乳酸フィラメントが、(i)重量平均分子量5万〜30万のポリL−乳酸(A成分)、(ii)重量平均分子量5万〜30万のポリD―乳酸(B成分)および(iii)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)または(2)で表される燐酸エステル金属塩を含有するフィラメントである、請求項1に記載の車両内装部材用表皮材。
【化1】
式中、R1は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2、R3は各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、M1はアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【化2】
式中、R4、R5およびR6は、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、M2はアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【請求項3】
前記ポリ乳酸フィラメントが仮撚捲縮加工糸である、請求項1または請求項2に記載の車両内装部材用表皮材。
【請求項4】
前記布帛が、下記式で表されるカバーファクター(CF)が1800以上の織物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両内装部材用表皮材。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【請求項5】
前記染色加工の条件が、温度110〜140℃かつ時間19分以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両内装部材用表皮材。
【請求項6】
前記布帛に、含浸法により樹脂が布帛重量に対して0.3重量%以上固着されてなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両内装部材用表皮材。
【請求項7】
前記樹脂がシリコン樹脂またはポリエチレン樹脂またはポリエチレンテレフタレート樹脂である、請求項6に記載の車両内装部材用表皮材。
【請求項8】
前記布帛にバッキング樹脂が塗布量30g/m2以上で塗布されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の車両内装部材用表皮材。
【請求項9】
前記バッキング樹脂がアクリル樹脂を含む、請求項8に記載の車両内装部材用表皮材。
【請求項1】
ポリ乳酸フィラメントを含みかつ染色加工が施された布帛で構成される車両内装部材用表皮材であって、温度50℃、湿度95%RHの環境下に1000時間暴露した後の引張り強度が400N/50mm以上であることを特徴とする車両内装部材用表皮材。
ただし、前記引張り強度は、JIS L1096.8.12により車両内装部材用表皮材の引張り強度を測定するものとする。
【請求項2】
前記ポリ乳酸フィラメントが、(i)重量平均分子量5万〜30万のポリL−乳酸(A成分)、(ii)重量平均分子量5万〜30万のポリD―乳酸(B成分)および(iii)A成分とB成分との合計100重量部当たり0.05〜5重量部の下記式(1)または(2)で表される燐酸エステル金属塩を含有するフィラメントである、請求項1に記載の車両内装部材用表皮材。
【化1】
式中、R1は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R2、R3は各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、M1はアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【化2】
式中、R4、R5およびR6は、各々独立に水素原子または炭素数1〜12のアルキル基を表し、M2はアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表し、pは1または2を表す。
【請求項3】
前記ポリ乳酸フィラメントが仮撚捲縮加工糸である、請求項1または請求項2に記載の車両内装部材用表皮材。
【請求項4】
前記布帛が、下記式で表されるカバーファクター(CF)が1800以上の織物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両内装部材用表皮材。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
【請求項5】
前記染色加工の条件が、温度110〜140℃かつ時間19分以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両内装部材用表皮材。
【請求項6】
前記布帛に、含浸法により樹脂が布帛重量に対して0.3重量%以上固着されてなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両内装部材用表皮材。
【請求項7】
前記樹脂がシリコン樹脂またはポリエチレン樹脂またはポリエチレンテレフタレート樹脂である、請求項6に記載の車両内装部材用表皮材。
【請求項8】
前記布帛にバッキング樹脂が塗布量30g/m2以上で塗布されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の車両内装部材用表皮材。
【請求項9】
前記バッキング樹脂がアクリル樹脂を含む、請求項8に記載の車両内装部材用表皮材。
【図1】
【公開番号】特開2011−63898(P2011−63898A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214049(P2009−214049)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【出願人】(510045438)TBカワシマ株式会社 (16)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【上記2名の代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【出願人】(510045438)TBカワシマ株式会社 (16)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【上記2名の代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
【Fターム(参考)】
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