説明

車両制動装置

【課題】より快適なフィーリングを実現し、エネルギー効率の低下と燃費の悪化を招くことを防止することができる車両制動装置を提供すること。
【解決手段】車両制動装置は、選択スイッチにより車両制御手段2cの動作が選択されないで、減速指令がある場合に、減速指令により定まる制動要求減速度が所定減速度以下である場合、ポンプが基礎油圧又は操作油圧を増圧して制御油圧を発生させる増圧制動処理を実行しない制動処理手段5aを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペダルの操作に基づく踏力ブレーキと、増圧されたポンプアップブレーキと、回生ブレーキを組み合わせて車両の制動を行う車両制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリーズ式、パラレル式、簡易式(マイルド式)を含むハイブリッド車両における車両制動装置としては、ペダルの操作に基づいてマスターシリンダで基礎油圧から操作油圧を発生して、操作油圧を増圧しないでそのまま供給油圧としてホイールシリンダに供給する踏力ブレーキと、操作油圧をポンプと差圧弁により増圧して制御油圧を発生してそれを供給油圧としてホイールシリンダに供給するポンプアップブレーキと、MGとバッテリによる回生ブレーキを適宜組み合わせて、車両の制動が行われている。このような、車両制動装置として、例えば特許文献1に記載されているようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−21745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような特許文献1に示す車両制動装置においては、主としてコストダウンを目的として、マスターシリンダとホイールシリンダが、ペダルストロークシミュレータとバイワイヤを介さないで油圧配管により直接接続される、所謂インライン式の油圧系統配管を適用されており、上述したポンプアップブレーキを使用した場合と、使用した後にホイールシリンダ内の制御油圧を抜く場合の双方において、油圧系統配管内の油がマスターシリンダから吸い出されてペダルが吸い込まれること及び脈動することが発生して運転者のフィーリングが低下するという問題が生じる。
【0005】
このため、一度ポンプアップブレーキを使用すると運転者のフィーリングを低下することを防止する観点から、ホイールシリンダ内の油圧を抜くことができず、回生ブレーキとポンプアップブレーキを併用した場合に、回生ブレーキに負担させる制動力が制限されて、エネルギー効率の低下と燃費の悪化を招くという問題をも生じる。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、より快適なフィーリングを実現し、エネルギー効率の低下と燃費の悪化を招くことを防止できる車両制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明に係わる車両制動装置は、
車速を設定車速に維持する又は車間距離を車速で除して算出された車間時間を設定車間時間に維持する車両制御手段と、前記車両制御手段の動作を選択する選択手段と、ペダルの操作に応じて基礎油圧から操作油圧を発生するマスターシリンダと、前記基礎油圧又は前記操作油圧を増圧して制御油圧を発生する増圧手段と、前記操作油圧又は前記制御油圧を供給油圧としてホイールシリンダに供給する供給手段と、を備えて、前記ペダルの操作による減速指令又は前記車両制御手段による減速指令に基づいて油圧制動を行う油圧制動手段と、前記ペダルの操作又は前記車両制御手段による減速指令に基づいて回生制動を行う回生制動手段と、前記選択手段により前記車両制御手段の動作が選択されないで、前記減速指令がある場合であって、前記減速指令により定まる制動要求減速度が所定減速度以下である場合に、前記増圧手段により前記基礎油圧又は前記操作油圧を増圧して前記制御油圧を発生させる増圧制動処理を実行することが適切でないと判定して、前記増圧制動処理を実行しない制動処理手段を備えることを特徴としてもよい。
【0008】
すなわち、前記車両制御手段すなわちACCの動作が選択されていない場合で、前記減速指令がある場合には、運転者はブレーキ用の前記ペダルを踏み込んでいることから、前記運転者のフィーリングを低下させることおそれがある場合であるので、制動要求減速度が低い場合には前記増圧手段が前記基礎油圧又は前記操作油圧を増圧して前記制御油圧を発生させる増圧制動処理を前記制動処理手段により実行させることを回避する。
【0009】
これによっても、前記増圧制動処理に伴って前記ペダルが吸い込まれること及び脈動することにより、前記運転者のフィーリングが低下することを防止することができる。
【0010】
ここで、前記車両制動装置において、
車両の減速度と減速度の微分値を検出する減速度検出手段を備えるとともに、前記制動要求減速度が所定減速度以下であることに加えて、前記減速度と前記減速度の微分値により定まる緊急度が所定緊急度より低い場合に、前記制動処理手段が前記増圧制動処理を実行することが適切でないと判定することが好ましい。なお、前記緊急度は例えば前記減速度を横軸、前記微分値を縦軸に取ったマップである。
【0011】
これによれば、前記制動処理手段が前記判定をより正確に行うことができる。
【0012】
さらに、前記車両制動装置において、
前記回生制動手段が含む蓄電手段の蓄電量を検出する蓄電量検出手段を備え、前記制動処理手段が前記増圧制動処理を実行することが適切であると判定する場合であって、前記蓄電量が所定蓄電量以下である場合に、前記制動処理手段が、前記減速指令により定まる制動要求減速度から前記回生制動手段による回生制動限界減速度を減じて前記操作油圧の第三増圧量を演算し、前記増圧手段が前記第三増圧量だけ前記操作油圧を増圧して前記制御油圧を発生することが好ましい。
【0013】
ここで、前記増圧制動処理を実行することが適切であると前記制動処理手段が判定する場合とは、適切でないと判定する条件が成立しない場合を示す。すなわち、前記制動要求減速度が所定減速度より大きい場合、あるいは、前記制動要求減速度が所定減速度より大きく、前記緊急度が前記所定緊急度より大きい場合である。
【0014】
これによれば、前記制動処理手段が前記増圧制動処理を実行することが適切であると判定する場合であって、前記蓄電量が前記所定蓄電量以下であり、前記回生制動手段による回生制動が可能である場合に、前記回生制動限界減速度に応じて、前記操作油圧の第三増圧量を演算して、前記制御油圧を発生させて前記回生制動手段による回生制動と、前記油圧制動手段による油圧制動を併せて実行することができる。
【0015】
加えて、前記車両制動装置において、
前記蓄電量が前記所定蓄電量より大きい場合に、前記制動処理手段が前記回生制動手段による回生制動を停止させて、前記減速指令により定まる制動要求減速度から前記操作油圧の第四増圧量を演算し、前記増圧手段が前記第四増圧量だけ前記操作油圧を増圧して前記制御油圧を発生することが好ましい。
【0016】
これによれば、前記蓄電量が前記所定蓄電量より大きく、前記回生制動手段による回生制動が可能でない場合に、前記制動要求減速度に応じて、前記基礎油圧の第四増圧量を演算して、前記制御油圧を発生させて前記油圧制動手段による油圧制動のみを実行することができる。
【0017】
さらに、前記車両制動装置において、
前記制動処理手段が、前記増圧制動処理が終了した後に、前記増圧手段が含む調圧手段を制御して前記供給油圧を減圧する減圧処理を行う。より具体的には、
前記ペダルのストローク値を検出するペダルストローク検出手段を備え、前記ストローク値が停止用の所定ストローク値より大きい場合に、前記制動処理手段が前記減圧処理を行うことが好ましい。ここでも前記調圧手段とは前記増圧手段が含む差圧弁を指す。
【0018】
これによれば、前記供給油圧を前記ホイールシリンダから抜くにあたって、前記ストローク値が停止用の所定ストローク値より大きい場合には、前記車両の停止の手前であって、運転者により前記ペダルの戻し操作が直後に行われるとみなして、その場合にのみ、前記供給油圧を徐々に低下させることができる。
【0019】
これにより、前記供給油圧が前記ホイールシリンダから抜かれた場合に、前記ペダルが吸い込まれること及び脈動することが発生しても、その時点では、運転者は前記ペダルに踏み込んでおらず足をかけていないこととすることができるため、運転者のフィーリングの低下を抑制することができる。
【0020】
また、前記供給油圧を前記ホイールシリンダから適宜抜くことができるので、前記回生制動手段に負担させる制動力が制限されて、回生制動のエネルギー効率が低下して、燃費が悪化することを防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、より快適なフィーリングを実現し、エネルギー効率の低下と燃費の悪化を招くことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る車両制動装置の一実施形態の制御系統を示すブロック図である。
【図2】本発明に係わる車両制動装置の一実施形態の制御系統の制御対象となる油圧制動手段を構成するVSCアクチュエータを示す模式図である。
【図3】本発明に係わる車両制動装置の一実施形態の制御系統の制御対象となる回生制動手段を構成するRrMGを示す模式図である。
【図4】本発明による車両制動装置の制御内容を示すフローチャートである。
【図5】本発明による車両制動装置の制御内容を示すフローチャートである。
【図6】本発明による車両制動装置の制御内容を示すフローチャートである。
【図7】本発明による車両制動装置の制御に用いられるマップである。
【図8】本発明による車両制動装置の制御内容を示すフローチャートである。
【図9】本発明による車両制動装置の制御内容を示すフローチャートである。
【図10】本発明による車両制動装置の制御内容を示すフローチャートである。
【図11】本発明による車両制動装置の制御に用いられるマップである。
【図12】本発明による車両制動装置の制御に用いられるマップである。
【図13】本発明による車両制動装置の制御に用いられるマップである。
【図14】本発明による車両制動装置の効果を示す模式図である。
【図15】本発明に係わる車両制動装置の一実施形態の制御系統の制御対象となる回生制動手段を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0024】
図1は、本発明に係る車両制動装置の一実施形態の制御系統を示すブロック図である。また、図2は、本発明に係わる車両制動装置の一実施形態の制御系統の制御対象となる油圧制動手段を構成するVSCアクチュエータ(Vehicle Stability Control)を示す模式図である。図3は、本発明に係わる車両制動装置の一実施形態の制御系統の制御対象となる回生制動手段を構成するRrMG(Rear Motor Generator)を示す模式図である。
【0025】
図1に示すように車両制動装置1の制御系統は、ACCECU2(Adaptive Cruise Control Electronic Control Unit)と、測距センサ3と、エンジンECU4(Engine Electronic Control Unit)と、ブレーキECU5(Brake Electronic Control Unit)と、変速機ECU6(Transmission Electronic Control Unit)を備えて構成される。ACCECU2と、エンジンECU4と、ブレーキECU5と、変速機ECU6はCAN(Controller Area Network)等の通信規格により相互に接続される。
【0026】
ACCECU2は、例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスと入出力インターフェースから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが所定の処理を行うものであり、以下に述べる処理を行う車速検出手段2aと、車間距離検出手段2bと、車両制御手段2cを構成するものである。
【0027】
測距センサ3は、自車両のフロントグリル又はフロントバンパーに設けられる、例えばレーザレーダ又はミリ波レーダであり、自車両の前方に位置する先行車両と自車両との車間距離Lを測定して、その測定結果をACCECU2に出力するものである。
【0028】
エンジンECU4は例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスと入出力インターフェースから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが所定の処理を行うものであり、ACCECU2の車両制御手段2cからの指令に基づき、図3に示すエンジンENGのスロットル開度等を制御して、主にエンジンの回転数の制御を行って車両の加減速度の制御を行うものである。
【0029】
ブレーキECU5は例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスと入出力インターフェースから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが所定の処理を行うものである。
【0030】
ブレーキECU5は、車両の制動を行う制動処理手段5aを構成する。制動処理手段5aは、図2に示すブレーキ用のペダル7に設けられてペダル7のストローク値と減速指令を検出するペダルストローク検出手段を構成するストロークセンサ8からの減速指令、又は、ACCECU2の車両制御手段2cからの減速指令に基づき、車両の各車輪に対応させて設けられた油圧制動手段を構成する図2に示すVSCアクチュエータ13を制御して油圧制動を行い、車両の後輪に駆動結合された回生制動手段を構成するRrMGを制御して発電して図示しない蓄電手段を構成するバッテリを充電することにより回生制動を行う。
【0031】
これとともに、ブレーキECU5は、図示しない車輪速センサから車速を検出して検出結果を、CANを介してACCECU2に出力し、車速から減速度と減速度の微分値を検出する減速度検出手段5bを構成する。
【0032】
変速機ECU6は例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを接続するデータバスと入出力インターフェースとから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUが所定の処理を行うものであり、ACCECU2の車両制御手段2cからの指令に基づき、ここでは図示しない変速機の変速比のシフト制御を行うものである。
【0033】
これに加えて、ACCECU2の車速検出手段2aはブレーキECU5からCANを介して自車両の車速Vを検出し、ACCECU2の車間距離検出手段2bは、測距センサ3の測定結果に基づいて、図2に示すように、自車両と先行車両との車間距離Lを検出するとともに車間距離Lの微分値から自車両と先行車両との速度の差ΔVを検出する。
【0034】
さらに、ACCECU2の車両制御手段2cは、自車両の車速Vを運転者が選択手段を構成する図示しない選択スイッチにより動作が選択された条件の下、同じく選択スイッチにより選択された設定車速VSとなるように、エンジンECU4、ブレーキECU5及び変速機ECU6を制御するとともに、車間距離Lを自車両の車速Vで除して算出された車間時間Tを、これも運転者によって図示しない選択スイッチにより選択された設定車間時間TSとなるように、エンジンECU4、ブレーキECU5及び変速機ECU6にそれぞれ指令を出力して車両の加減速度及び速度を制御する。
【0035】
図2に示すように、ブレーキ用のペダル7はエンジンの負圧を利用して負圧を生成する負圧生成パイプ9に連通された倍力装置10に連結されて、ペダル7に運転者により入力された踏力が倍力装置10により倍力されて、その倍力された踏力によりマスターシリンダ12が操作されてリザーバ11内の基礎油圧からマスターシリンダ12により操作液圧が発生され、車両制動装置1の制御系統の制御対象となる油圧制動手段を構成するVSCアクチュエータ13の油圧配管の入口には、操作油圧又は基礎油圧が供給される。
【0036】
VSCアクチュエータ13は、#1系統と#2系統が備えられる。#1系統は例えば右前輪FRと左後輪RLを油圧制動し、#2系統は左前輪FLと右後輪RRを油圧制動するものであって、両者の構成は同一であるため、#1系統のみを説明する。
【0037】
VSCアクチュエータ13は油圧配管と、マスターカット弁と一体となった差圧弁14と、ポンプ15と、ポンプ15を駆動するモータ16と、絞り17と、保持弁18と、保持弁19と、減圧弁20と、減圧弁21と、リザーバ22と、マスターシリンダ圧センサ23と、ホイールシリンダ圧センサ24と、ホイールシリンダ圧センサ25とを備えて構成される。
【0038】
油圧配管は入口から下流側に向けて分岐点Aにおいてまず分岐され、マスターシリンダ圧センサ23は、分岐点Aの上流側に配置されて、マスターシリンダ12内の操作油圧又は基礎油圧(運転者がペダル7に踏力を付与しない場合は操作油圧=基礎油圧)を検出する操作油圧検出手段を構成する。
【0039】
油圧配管の分岐点Aから左側に分岐した後の下流側には差圧弁14が配置され、差圧弁14の下流側には分岐点Bが設けられて、分岐点Bの下流側の一方には右前輪FR用の保持弁18が、他方には左後輪RL用の保持弁19が設けられる。一方、差圧弁14の上流の分岐点Aから右側に分岐した油圧配管はリザーバ22に連通されて、リザーバ22と分岐点Bとはポンプ15と絞り17を介して油圧配管により連通される。
【0040】
保持弁18の下流側には分岐点Cが設けられ分岐点Cの下流側の一方の油圧配管には右前輪FRのホイールシリンダ26が連通され、他方の配管の分岐点Cの下流は減圧弁20を介してリザーバ22に連通される。同様に、保持弁19の下流側には分岐点Dが設けられ分岐点Dの下流側の一方の油圧配管には左後輪RLのホイールシリンダ27が連通され、他方の配管の分岐点Dの下流は減圧弁21を介してリザーバ22に連通される。
【0041】
油圧配管の分岐点Cとホイールシリンダ26との間にはホイールシリンダ圧センサ24が配置されて、ホイールシリンダ26内の供給油圧を検出する供給油圧検出手段を構成する。同様に、油圧配管の分岐点Dとホイールシリンダ27との間にはホイールシリンダ圧センサ25が配置されて、ホイールシリンダ27内の供給油圧を検出する供給油圧検出手段を構成する。
【0042】
ポンプ15及び差圧弁14はブレーキECU5の制動処理手段5aの指令に基づいて基礎油圧又は操作油圧を増圧して制御油圧を発生する増圧手段を構成し、差圧弁14はリニアソレノイドバルブにより構成されてブレーキECU5の制動処理手段5aの指令に基づいて制御油圧を調圧する調圧手段を構成し、保持弁18及び保持弁19は操作油圧又は制御油圧を供給油圧としてホイールシリンダ26、27に供給する供給手段を構成する。マスターシリンダ12と、VSCアクチュエータ13と、ホイールシリンダ26と、ホイールシリンダ27により、ペダル7の操作、ペダル7の操作による減速指令又は車両制御手段2cによる減速指令に基づいて油圧制動を行う油圧制動手段が構成される。
【0043】
ブレーキECU5の制動処理手段5aは、選択スイッチによりACCECU2の車両制御手段2cの動作が選択されて、車両制御手段2cによる減速指令がある場合に、ポンプ15が基礎油圧又は操作油圧を増圧して制御油圧を発生させる増圧制動処理を実行する。
【0044】
ブレーキECU5は、前述したRrMGが充電するバッテリの蓄電量を検出する蓄電量検出手段5cを備え、蓄電量が所定蓄電量以下である場合に、制動処理手段5aが、減速指令により定まる制動要求減速度から回生制動手段を構成するRrMGによる回生制動限界減速度を減じて基礎油圧の第一増圧量を演算し、ポンプ15により第一増圧量だけ基礎油圧を増圧して制御油圧を発生して調圧弁14により制御油圧を調圧する。
【0045】
バッテリの蓄電量が所定蓄電量より大きい場合には、ブレーキECU5の制動処理手段5aは、RrMGによる回生制動を停止させて、減速指令により定まる制動要求減速度から基礎油圧の第二増圧量を演算し、ポンプ15が第二増圧量だけ基礎油圧を増圧して制御油圧を発生して調圧弁14により制御油圧を調圧する。
【0046】
さらにブレーキECU5の制動処理手段5aは、増圧制動処理が終了した後に、調圧弁14を制御して供給油圧を減圧する減圧処理を行う。この場合において、マスターシリンダ圧センサ23により検出した操作油圧と、ホイールシリンダ圧センサ24、25により検出した供給油圧との比較に基づいて、供給油圧が操作油圧より大きい場合に、制動処理手段5aが減圧処理を行う。
【0047】
これとともに、制動処理手段5aは、選択スイッチにより車両制御手段2cの動作が選択されないで、ペダル7による減速指令がある場合であって、減速指令により定まる制動要求減速度が所定減速度以下であり、減速度検出手段5bの検出した減速度と減速度の微分値により定まる緊急度が所定緊急度より低い場合に、ポンプ15により操作油圧を増圧して制御油圧を発生させる増圧制動処理を実行することが適切でないと判定して、増圧制動処理を実行しない。
【0048】
制動処理手段5aが増圧制動処理を実行することが適切であると判定する場合であって、ブレーキECU5の蓄電量検出手段5cの検出した蓄電量が所定蓄電量以下である場合に、制動処理手段5aが、減速指令により定まる制動要求減速度からRrMGによる回生制動限界減速度を減じて操作油圧の第三増圧量を演算し、ポンプ15が第三増圧量だけ操作油圧を増圧して制御油圧を発生し調圧弁14により制御油圧を調圧する。
【0049】
バッテリの蓄電量が所定蓄電量より大きい場合に、ブレーキECU5の制動処理手段5aは、RrMGによる回生制動を停止させて、減速指令により定まる制動要求減速度から操作油圧の第四増圧量を演算し、ポンプ15が第四増圧量だけ操作油圧を増圧して制御油圧を発生し調圧弁14により制御油圧を調圧する。
【0050】
ブレーキECU5の制動処理手段5aは、増圧制動処理が終了した後に、調圧弁14を制御して供給油圧を減圧する減圧処理を行う。ストロークセンサ8により検出したペダル7のストローク値に基づいて、ストローク値が所定ストローク値より大きい場合に、制動処理手段5aは減圧処理を行う。
【0051】
以下、本実施例の車両制動装置1の制御内容を、フローチャートとマップを用いて説明する。図4〜図6は、本発明による車両制動装置1の制御内容を示すフローチャートであり、図7は本発明による車両制動装置の制御に用いられるマップである。図8〜図10は、本発明による車両制動装置1の制御内容を示すフローチャートであり、図11〜13は本発明による車両制動装置の制御に用いられるマップである。
【0052】
図4に示すS1において、ブレーキECU5が車両の車速Vを検出し、S2において、ブレーキECU5の制動処理手段5aは、ACCECU2の車両制御手段2cの動作が選択スイッチにより選択されているかどうかを判定し、肯定であればS3にすすみ、否定であれば、S3、S4をとばしてS5にすすむ。S3において、ブレーキECU5の制動処理手段5aは、ACCECU2の車両制御手段2cの減速指令があるかどうかを判定し、肯定であればS4にすすみ、否定であれば、S4をとばしてS5にすすむ。
【0053】
図4のS4において、ブレーキECU5の制動処理手段5aは、図5のサブルーチンに示す増圧制動処理を行う。図5に示すように、S11において、制動処理手段5aは、蓄電量が少ないかどうかを判定し、蓄電量が所定蓄電量以下である場合には肯定と判定し、蓄電量が所定蓄電量よりも大きい場合には否定と判定する。
【0054】
図5のS11において肯定と判定される場合には、S12にすすみ、ブレーキECU5の制動処理手段5aが、減速指令により定まる制動要求減速度G1からRrMGによる回生制動限界減速度G2を減じて増圧要求減速度G3を演算し、つづいてS13において増圧要求減速度Gから基礎油圧の第一増圧量を演算し、S14において、ポンプ15により第一増圧量だけ基礎油圧を増圧して制御油圧を発生して調圧弁14により制御油圧を調圧する第一増圧制動を実行する。S12〜S14において制動処理手段5aはRrMGを併せて制御して回生制動を行う。
【0055】
図5のS15においては、バッテリの蓄電量が所定蓄電量より大きい場合であるので、ブレーキECU5の制動処理手段5aは、RrMGによる回生制動を停止させて、減速指令により定まる制動要求減速度から基礎油圧の第二増圧量を演算し、ポンプ15が第二増圧量だけ基礎油圧を増圧して制御油圧を発生して調圧弁14により制御油圧を調圧する第二増圧制動を行う。
【0056】
つづいて、ブレーキECU5の制動処理手段5aは、図4のS5において、図6のサブルーチンに示す減圧処理を行う。図6のS21において、制動処理手段5aは、マスターシリンダ圧センサ23により検出した操作油圧と、ホイールシリンダ圧センサ24、25により検出した供給油圧との比較を行い、供給油圧が操作油圧より大きいかを判定して、肯定である場合にはS22にすすんで、制動処理手段5aが差圧弁14によりホイールシリンダ26、27から供給油圧を徐々に抜く減圧処理を行う。
【0057】
なお、図4〜6に示した処理においては、制動処理手段5aの制御に基づいて、マスターカット弁が閉となり差圧弁14が油圧配管に連通するように図示しないソレノイドにより差圧弁14は移動され、保持弁18、19は開状態とし、減圧弁20、21は閉状態とされる。
【0058】
また、図5のS12からS14に示した処理においては、上述したように回生制動が併せて実行されるが、回生制動による制動力とポンプ15により増圧された供給油圧による油圧制動による制動力の比率は図6に示したようなものとなる。すなわち、ペダル7に踏力が入力された場合の踏力による供給油圧に対して、図6中ポンプ15により増圧された供給油圧が高くなるように制御される。
【0059】
さらに、図8に示すS31において、ブレーキECU5が車両の車速Vを検出し、S32において、ブレーキECU5の制動処理手段5aは、ACCECU2の車両制御手段2cの動作が選択スイッチにより選択されているかどうかを判定し、肯定であればS33にすすみ、否定であれば、S33、S34、S35をとばしてS36にすすむ。S33において、ブレーキECU5の制動処理手段5aは、運転者のペダル7の踏み込みによる減速指令があるかどうかを判定し、肯定であればS34にすすみ、否定であれば、S34、S35をとばしてS36にすすむ。
【0060】
図8のS34において、ブレーキECU5の制動処理手段5aは、所定減速度以上の制動要求減速度である減速指令があるかを判定する。より具体的には、制動処理手段5aは、減速指令すなわちペダル7の踏力に比例するストロークセンサ8により検出されたストローク値から、図11に示すストローク値と制動要求減速度のマップを用いて制動要求減速度G1を演算し、減速指令により定まる制動要求減速度G1が所定減速度より大きく緊急領域にあり、減速度検出手段5bの検出した減速度と減速度の微分値が、図12に示すような減速度と減速度の微分値ジャークにより定まる緊急度のマップにおいて、所定緊急度より高い領域○4及び○5に位置している場合に、ポンプ15により操作油圧を増圧して制御油圧を発生させる増圧制動処理を実行することが適切であると肯定の判定を行う。
【0061】
なお、S34において、制動要求減速度G1が図11に示す緊急領域を超えてABS作動領域(Anti-Lock Brake System)である場合には、図12のマップを使用することなく、増圧制動呂利を実行することが適切であると肯定の判定を行う。
【0062】
S34において、肯定であると判定される場合にはS35にすすんで、増圧制動処理を実行し、否定であると判定される場合にはS37にすすんで、RrMGを用いての回生制動と通常のペダル7に入力された踏力に基づく操作油圧を供給油圧とする油圧制動を併せて行い、増圧制動処理は行わない。
【0063】
図9のS41において肯定と判定される場合には、S42にすすみ、ブレーキECU5の制動処理手段5aが、減速指令により定まる制動要求減速度G1からRrMGによる回生制動限界減速度G2を減じて増圧要求減速度G3を演算し、つづいてS43において増圧要求減速度Gから操作油圧の第三増圧量を演算し、S34において、ポンプ15により第三増圧量だけ操作油圧を増圧して制御油圧を発生して調圧弁14により制御油圧を調圧する第三増圧制動を実行する。S42〜S44において制動処理手段5aはRrMGを併せて制御して回生制動を行う。
【0064】
図9のS45においては、バッテリの蓄電量が所定蓄電量より大きい場合であるので、ブレーキECU5の制動処理手段5aは、RrMGによる回生制動を停止させて、減速指令により定まる制動要求減速度から操作油圧の第四増圧量を演算し、ポンプ15が第四増圧量だけ操作油圧を増圧して制御油圧を発生して調圧弁14により制御油圧を調圧する第四増圧制動を行う。
【0065】
つづいて、ブレーキECU5の制動処理手段5aは、図8のS36において、図10のサブルーチンに示す減圧処理を行う。図10のS51において、制動処理手段5aは、ストロークセンサ8により検出したストローク値が所定ストローク値より大きい場合に、制動処理手段5aが差圧弁14によりホイールシリンダ26、27から供給油圧を徐々に抜く減圧処理を行う。
【0066】
なお、図8〜10に示した処理においても、制動処理手段5aの制御に基づいて、マスターカット弁が閉となり差圧弁14が油圧配管に連通するように図示しないソレノイドにより差圧弁14は移動され、保持弁18、19は開状態とし、ABS作動領域以外では減圧弁20、21は閉状態とされる。
【0067】
また、図9のS42からS44に示した処理においては、上述したように回生制動が併せて実行されるが、回生制動による制動力とポンプ15により増圧された供給油圧による油圧制動による制動力の比率は図13に示したようなものとなる。すなわち、踏力の増加に対して供給油圧が高くなるように制御される。
【0068】
以上述べた制御内容により実現される本実施例の車両制動装置1によれば、以下のような作用効果を得ることができる。すなわち、ACCECU2の動作が選択スイッチにより選択されている場合には、運転者はブレーキ用のペダル7を踏み込んでいないことから、運転者のフィーリングを低下させることがない場合であることを考慮して、車両制御手段2cからの減速指令がある場合に、ポンプ15が基礎油圧を増圧して制御油圧を発生させる増圧制動処理すなわちポンプアップブレーキを実行させることを許容することにより、増圧制動処理に伴ってペダル7が吸い込まれること及び脈動することにより、運転者のフィーリングが低下することを防止することができる。
【0069】
加えて、ACCECU2の動作が選択されている場合において、供給油圧をホイールシリンダ26、27から抜くにあたって、操作油圧の低下に伴わせて徐々に低下させることができるので、ペダル7が吸い込まれること及び脈動を抑制して、運転者がペダル7に足をかけていてもフィーリングの低下を抑制することができる。
【0070】
また、供給油圧をホイールシリンダ26、27から適宜抜くことができるので、回生制動手段を構成するRrMGに負担させる制動力が図14(b)に示すように、従来技術において抜くことができなかった供給油圧により制限されることを防止することができる。これにより、図14(a)に示すような所望した比率の制動力を回生制動に負担させて、回生制動のエネルギー効率を高めて、燃費が悪化することを防止することができる。
【0071】
また上述した実施例によれば、ACCECU2すなわち車両制御手段2cの動作が選択スイッチにより選択されていない場合で、減速指令がある場合には、運転者はブレーキ用のペダル7を踏み込んでいることから、運転者のフィーリングを低下させることおそれがある場合であるので、ポンプ15が操作油圧を増圧して制御油圧を発生させる増圧制動処理を制動処理手段5aにより実行させることを制動要求減速度が低い場合には回避することにより、増圧制動処理に伴ってペダル7が吸い込まれること及び脈動することにより、運転者のフィーリングが低下することを防止することができる。
【0072】
また、上述した実施例によれば、供給油圧をホイールシリンダ26、27から抜くにあたって、ストローク値が所定ストローク値より大きい場合には、車両の停止の手前の図14(a)の右側端に示すような制動であって、運転者によりペダル7の戻し操作が直後に行われるとみなして、その場合にのみ、供給油圧を差圧弁14により徐々に低下させることができる。
【0073】
これにより、供給油圧がホイールシリンダ26、27から抜かれた場合に、ペダル7が吸い込まれること及び脈動することが発生しても、その時点では、運転者はペダル7を踏み込んでおらず足をかけていないこととすることができるため、運転者のフィーリングの低下を抑制することができる。
【0074】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。
【0075】
例えば、上述した実施例においてはハイブリッド車の形態を簡易式すなわちマイルド式のものとしたが、図15に示すような、エンジン、モータ、プラネタリギヤ、ジェネレータ、パワーコントロールユニット、バッテリを備えたパラレル式のものとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、車両制動装置に関するものであり、より快適なフィーリングを実現し、エネルギー効率の低下と燃費の悪化を招くことを防止することができるので、乗用車、トラック、バス等の様々な車両に適用して有益なものである。
【符号の説明】
【0077】
1 車両制動装置
2 ACCECU
2a 車速検出手段
2b 車間距離検出手段
2c 車両制御手段
3 測距センサ
4 エンジンECU
5 ブレーキECU
5a 制動処理手段
5b 減速度検出手段
5c 蓄電量検出手段
6 変速機ECU
7 ペダル
8 ストロークセンサ
9 負圧生成パイプ
10 倍力装置
11 リザーバ
12 マスターシリンダ
13 VSCアクチュエータ
14 差圧弁
15 ポンプ
16 モータ
17 絞り
18 保持弁
19 保持弁
20 減圧弁
21 減圧弁
22 リザーバ
23 マスターシリンダ圧センサ
24 ホイールシリンダ圧センサ
25 ホイールシリンダ圧センサ
26 ホイールシリンダ
27 ホイールシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車速を設定車速に維持する又は車間距離を車速で除して算出された車間時間を設定車間時間に維持する車両制御手段と、前記車両制御手段の動作を選択する選択手段と、ペダルの操作に応じて基礎油圧から操作油圧を発生するマスターシリンダと、前記基礎油圧又は前記操作油圧を増圧して制御油圧を発生する増圧手段と、前記操作油圧又は前記制御油圧を供給油圧としてホイールシリンダに供給する供給手段と、を備えて、前記ペダルの操作による減速指令又は前記車両制御手段による減速指令に基づいて油圧制動を行う油圧制動手段と、前記ペダルの操作又は前記車両制御手段による減速指令に基づいて回生制動を行う回生制動手段と、前記選択手段により前記車両制御手段の動作が選択されないで、前記減速指令がある場合であって、前記減速指令により定まる制動要求減速度が所定減速度以下である場合に、前記増圧手段により前記基礎油圧又は前記操作油圧を増圧して前記制御油圧を発生させる増圧制動処理を実行することが適切でないと判定して、前記増圧制動処理を実行しない制動処理手段を備えることを特徴とする車両制動装置。
【請求項2】
車両の減速度と減速度の微分値を検出する減速度検出手段を備えるとともに、前記減速度と前記減速度の微分値により定まる緊急度が所定緊急度より低い場合に、前記制動処理手段が前記増圧制動処理を実行することが適切でないと判定することを特徴とする請求項1に記載の車両制動装置。
【請求項3】
前記回生制動手段が含む蓄電手段の蓄電量を検出する蓄電量検出手段を備え、前記制動処理手段が前記増圧制動処理を実行することが適切であると判定する場合であって、前記蓄電量が所定蓄電量以下である場合に、前記制動処理手段が、前記減速指令により定まる制動要求減速度から前記回生制動手段による回生制動限界減速度を減じて前記操作油圧の第三増圧量を演算し、前記増圧手段が前記第三増圧量だけ前記操作油圧を増圧して前記制御油圧を発生することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両制動装置。
【請求項4】
前記蓄電量が前記所定蓄電量より大きい場合に、前記制動処理手段が前記回生制動手段による回生制動を停止させて、前記減速指令により定まる制動要求減速度から前記操作油圧の第四増圧量を演算し、前記増圧手段が前記第四増圧量だけ前記操作油圧を増圧して前記制御油圧を発生することを特徴とする請求項3に記載の車両制動装置。
【請求項5】
前記制動処理手段が、前記増圧制動処理が終了した後に、前記増圧手段が含む調圧手段を制御して前記供給油圧を減圧する減圧処理を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両制動装置。
【請求項6】
前記ペダルのストローク値を検出するペダルストローク検出手段を備え、前記ストローク値が停止用の所定ストローク値より大きい場合に、前記制動処理手段が前記減圧処理を行うことを特徴とする請求項5に記載の車両制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−6596(P2013−6596A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−168446(P2012−168446)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【分割の表示】特願2008−211882(P2008−211882)の分割
【原出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】