説明

車両制御システム及び制御装置

【課題】適正に内燃機関を始動することができる車両制御システム及び制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】制御装置6は、内燃機関7、回転電機10、及び、クラッチ9を制御し、クラッチ9をスリップ状態とし回転電機10側からの動力により内燃機関7の出力軸20を回転させた後に内燃機関7の燃焼室に燃料を噴射して点火し内燃機関7を始動する第1始動制御と、内燃機関7の出力軸の回転が停止した状態で内燃機関7の燃焼室に燃料を噴射して点火し出力軸20を回転させた後にクラッチ9を介した回転電機10側からの動力により出力軸20の回転をアシストし内燃機関を始動する第2始動制御とを実行可能である。そして、制御装置6は、第2始動制御を実行する場合、油圧制御装置28を制御して、クラッチ9に供給される作動流体の圧力の元圧であるライン圧を、第1始動制御を実行する場合より高くすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システム及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載され、車両を制御するための従来のシステムとして、例えば、特許文献1には、パラレルハイブリッド駆動部であって、ドライブトレーン内に内燃機関、特に燃料を直接噴射する機構を備えた内燃機関が統合されており、さらにこの内燃機関と少なくとも1つの電気駆動部との間には分離クラッチが配設されたハイブリッド駆動部が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−527411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような特許文献1に記載のハイブリッド駆動部は、クランクシャフトの停止位置が上死点100°〜120°である場合には直噴によりエンジン始動し、それ以外の場合には制御部によって分離クラッチが制御され、スタータ支援なしの動的な直結スタートによりエンジン始動を行っているが、例えば、クラッチ再係合時のショック抑制や応答性向上、燃費性能悪化抑制等の点で、更なる改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、適正に内燃機関を始動することができる車両制御システム及び制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る車両制御システムは、車両の走行用動力源である筒内直接噴射式の内燃機関及び回転電機と、前記内燃機関と前記回転電機とを連結可能であると共に、供給される作動流体の圧力に応じて作動するクラッチと、前記クラッチに供給される作動流体の圧力を制御する油圧制御装置と、前記内燃機関、前記回転電機、及び、前記クラッチを制御し、前記クラッチをスリップ状態とし前記回転電機側からの動力により前記内燃機関の出力軸を回転させた後に前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記内燃機関を始動する第1始動制御と、前記内燃機関の出力軸の回転が停止した状態で前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記出力軸を回転させた後に前記クラッチを介した前記回転電機側からの動力により前記出力軸の回転をアシストし前記内燃機関を始動する第2始動制御とを実行可能である制御装置とを備え、前記制御装置は、前記第2始動制御を実行する場合、前記油圧制御装置を制御して、前記クラッチに供給される作動流体の圧力の元圧であるライン圧を、前記第1始動制御を実行する場合より高くすることを特徴とする。
【0007】
また、上記車両制御システムでは、前記内燃機関は、始動時に前記出力軸を回転させるスタータを有し、前記制御装置は、前記スタータからの動力により前記内燃機関の出力軸を回転させた後に前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記内燃機関を始動する第3始動制御を実行可能であり、当該第3始動制御を実行する場合、前記油圧制御装置を制御して、前記ライン圧を、前記第1始動制御を実行する場合より高くするものとすることができる。
【0008】
また、上記車両制御システムでは、前記内燃機関又は前記回転電機からの動力を変速して前記車両の駆動輪側に出力する変速機を備え、前記制御装置は、前記内燃機関を始動する際に前記変速機における変速動作を伴う場合、前記油圧制御装置を制御して、前記ライン圧を、前記変速動作を伴わない場合より高くするものとすることができる。
【0009】
また、上記車両制御システムでは、前記変速動作は、ダウンシフトであるものとすることができる。
【0010】
また、上記車両制御システムでは、前記制御装置は、前記第2始動制御として、前記内燃機関の出力軸が回転しない程度に前記クラッチをスリップ状態とした後、前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記内燃機関の出力軸を回転させた後に前記クラッチの伝達トルクを増大させて前記内燃機関を始動するものとすることができる。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る制御装置は、車両の駆動輪への動力の伝達経路に対して、走行用動力源である筒内直接噴射式の内燃機関、クラッチ、走行用動力源である回転電機の順で配置されると共に油圧制御装置によって前記クラッチに供給される作動流体の圧力が制御される駆動装置を制御する制御装置であって、前記内燃機関、前記回転電機、及び、前記クラッチを制御し、前記クラッチをスリップ状態とし前記回転電機側からの動力により前記内燃機関の出力軸を回転させた後に前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記内燃機関を始動する第1始動制御と、前記内燃機関の出力軸の回転が停止した状態で前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記出力軸を回転させた後に前記クラッチを介した前記回転電機側からの動力により前記出力軸の回転をアシストし前記内燃機関を始動する第2始動制御とを実行可能であり、さらに、前記第2始動制御を実行する場合、前記油圧制御装置を制御して、前記クラッチに供給される作動流体の圧力の元圧であるライン圧を、前記第1始動制御を実行する場合より高くすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る車両制御システム、制御装置は、適正に内燃機関を始動することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、実施形態1に係る車両制御システムの概略構成図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る車両制御システムのエンジンの燃焼室を含む部分断面図である。
【図3】図3は、実施形態1に係る車両制御システムのECUによる制御の一例を示すフローチャートである。
【図4】図4は、実施形態1に係る車両制御システムの動作の一例を説明するためのタイムチャートである。
【図5】図5は、実施形態1に係る車両制御システムの動作の一例を説明するためのタイムチャートである。
【図6】図6は、変形例に係る車両制御システムの概略構成図である。
【図7】図7は、実施形態2に係る車両制御システムのECUによる制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0015】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る車両制御システムの概略構成図、図2は、実施形態1に係る車両制御システムのエンジンの燃焼室を含む部分断面図、図3は、実施形態1に係る車両制御システムのECUによる制御の一例を示すフローチャート、図4、図5は、実施形態1に係る車両制御システムの動作の一例を説明するためのタイムチャート、図6は、変形例に係る車両制御システムの概略構成図である。
【0016】
本実施形態は、1つのモータジェネレータと1つのエンジンを備えたいわゆる1モータパラレルハイブリッド形式の車両制御システムである。本実施形態は、車両に適用されるものであり、典型的には、下記の構成要素を有している。
(1)直噴エンジン。
(2)エンジンとモータジェネレータとを接断自在なクラッチ。
【0017】
そして、本実施形態は、これらの構成要素によって、エンジン始動を行う場合に、例えば、異なる複数の始動モードを使い分けると共に、状況に応じて油圧制御系の元圧であるライン圧を適宜変更することで、より適正なエンジン始動を実現している。
【0018】
具体的には、本実施形態の車両制御システム1は、図1に示すように、車両2に搭載され、この車両2を制御するためのシステムであり、典型的には、車両2のエンジン停止状態からの始動を制御するエンジン始動制御システムである。車両2は、車両2を走行させるための走行用動力源(原動機)として、内燃機関としてのエンジン7と、回転電機としてのモータジェネレータ10とを搭載したいわゆる「ハイブリッド車両」である。より詳細には、車両2は、1つのモータジェネレータ10と自動変速機である変速機12とを備えたいわゆる1MG+AT型の「パラレルハイブリッド車両」である。
【0019】
車両制御システム1は、車両2の駆動輪3を駆動する駆動装置4と、車両2の状態を検出する状態検出装置5と、駆動装置4を含む車両2の各部を制御する制御装置としてのECU6とを備える。
【0020】
駆動装置4は、車両2においてパラレルハイブリッド形式のパワートレーンを構成し、1つのエンジン7と、1つのモータジェネレータ10とを有し、これらにより駆動輪3を回転駆動するものである。
【0021】
駆動装置4は、エンジン7と、ダンパ機構8と、クラッチとしてのK0クラッチ9と、モータジェネレータ10とを備える。さらに、駆動装置4は、トルクコンバータ11と、変速機12と、プロペラ軸13と、デファレンシャルギヤ14と、ドライブ軸15とを備える。また、トルクコンバータ11は、ロックアップ機構16と、流体伝達機構17とを含んで構成される。変速機12は、C1クラッチ18と、変速機本体19とを含んで構成される。
【0022】
この駆動装置4は、各構成要素が駆動輪3への動力の伝達経路に対して、エンジン7、ダンパ機構8、K0クラッチ9、モータジェネレータ10、トルクコンバータ11のロックアップ機構16、流体伝達機構17、変速機12のC1クラッチ18、変速機本体19、プロペラ軸13、デファレンシャルギヤ14、ドライブ軸15の順で相互に動力伝達可能に配置される。この場合、駆動装置4は、エンジン7の出力軸(内燃機関出力軸)であるクランク軸20とモータジェネレータ10の出力軸(電動機出力軸)であるロータ軸21とがダンパ機構8、K0クラッチ9を介して連結される。さらに、駆動装置4は、ロータ軸21と駆動輪3とがトルクコンバータ11、変速機12、プロペラ軸13、デファレンシャルギヤ14、ドライブ軸15等を介して連結される。
【0023】
より詳細には、エンジン7は、燃焼室71(図2参照)で燃料を燃焼させることにより燃料のエネルギを機械的仕事に変換して動力として出力する熱機関である。エンジン7は、燃料の燃焼に伴ってクランク軸20に機械的な動力(エンジントルク)を発生させ、この機械的動力をクランク軸20から出力可能である。
【0024】
ここで、本実施形態のエンジン7は、図2に示すように、いわゆる多気筒筒内直接噴射式の内燃機関である。すなわち、エンジン7は、燃料噴射装置(インジェクタ)70によって燃料噴霧70aを燃焼室71に直接噴射するものである。エンジン7は、シリンダボア72内に往復運動可能に設けられるピストン73が2往復する間に一連の4行程を行う、いわゆる4サイクルエンジンである。エンジン7は、典型的には、ピストン73がシリンダボア72内を吸気行程上死点から下降することで、吸気弁74の開弁に伴って、吸気管、サージタンク、インテークマニホールド、吸気ポート75等の吸気通路76を介して燃焼室71内に空気が吸入される(吸気行程)。そして、エンジン7は、ピストン73が吸気行程下死点を経てシリンダボア72内を上昇することで空気が圧縮される(圧縮行程)。このとき、エンジン7は、吸気行程又は圧縮行程にて燃料噴射装置70から燃焼室71内へ燃料が噴射され、この燃料と空気とが混合して混合気を形成する。そして、エンジン7は、ピストン73が圧縮行程上死点付近に近づくと点火プラグ77により混合気に点火され、該混合気が着火して燃焼し、その燃焼圧力によりピストン73を下降させる(膨張行程)。燃焼後の混合気は、ピストン73が膨張行程下死点を経て吸気行程上死点に向かって再び上昇することで、排気弁78の開弁に伴って、排気ポート79を介して排気ガスとして放出される(排気行程)。このピストン73のシリンダボア72内での往復運動は、コネクティングロッドを介してクランク軸20(図1参照)に伝えられ、ここで回転運動に変換され、出力として取り出される。そして、ピストン73は、カウンタウェイトと共にクランク軸20が慣性力によりさらに回転することで、このクランク軸20の回転に伴ってシリンダボア72内を往復する。このクランク軸20が2回転することで、ピストン73はシリンダボア72を2往復し、この間に吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行い、燃焼室71内で1回の爆発が行われる。
【0025】
このエンジン7は、車両2の停車中、走行中にかかわらず、作動状態と非作動状態とを切り替え可能である。ここで、エンジン7の作動状態(エンジン7を作動させた状態)とは、駆動輪3に作用させる動力を発生する状態であり、燃焼室71で燃料を燃焼して生じる熱エネルギをトルクなどの機械的エネルギの形で出力する状態である。つまり、エンジン7は、作動状態では燃焼室71で燃料を燃焼させて車両2の駆動輪3に作用させる動力を発生する。一方、エンジン7の非作動状態、すなわち、エンジン7の作動を停止させた状態とは、動力の発生を停止した状態であり、燃焼室71への燃料の供給をカットし(フューエルカット)、燃焼室71で燃料を燃焼させずトルクなどの機械的エネルギを出力しない状態である。
【0026】
図1に戻って、K0クラッチ9は、エンジン7のクランク軸20とモータジェネレータ10のロータ軸21とをダンパ機構8を介して連結可能である。K0クラッチ9は、クランク軸20とロータ軸21とを動力伝達可能に係合した係合状態と、この係合を解除した解放状態と、係合状態と解放状態との間のスリップ状態とに切り替え可能である。K0クラッチ9は、係合状態となることで、クランク軸20とロータ軸21とをダンパ機構8を介して一体回転可能に連結し、エンジン7とモータジェネレータ10との間での動力伝達が可能な状態となる。一方、K0クラッチ9は、解放状態となることでクランク軸20とロータ軸21とを切り離しエンジン7とモータジェネレータ10との間での動力伝達が遮断された状態となる。
【0027】
K0クラッチ9は、種々のクラッチを用いることができ、例えば、湿式多板クラッチや乾式単板クラッチ等の摩擦式ディスククラッチ装置を用いることができる。ここでは、K0クラッチ9は、例えば、K0クラッチ9に供給される作動流体としての作動油の油圧(圧力)であるクラッチ油圧に応じて作動する油圧式の装置である。K0クラッチ9は、クラッチ油圧に応じた係合力(クラッチ板を係合する押圧力)が0である場合に係合が完全に解除された解放状態となり、係合力が大きくなるにしたがってスリップ状態(半係合状態)を経て完全に係合した係合状態となる。K0クラッチ9における伝達トルクは、解放状態では0であり、スリップ状態では係合力に応じた大きさとなり、係合状態では最大となる。なお、以下で説明するC1クラッチ18、ロックアップクラッチ25についてもこのK0クラッチ9とほぼ同様である。
【0028】
モータジェネレータ10は、例えば、交流同期電動機等である。モータジェネレータ10は、固定子としてのステータ22がケース等に固定され、回転子としてのロータ23がステータ22の径方向内側に配置されてロータ軸21に一体回転可能に結合される。モータジェネレータ10は、インバータなどを介して蓄電装置としてのバッテリ24から供給された電力を機械的動力に変換する電動機としての機能(力行機能)と、入力された機械的動力を電力に変換しインバータなどを介してバッテリ24に充電する発電機としての機能(回生機能)とを兼ね備えた回転電機である。モータジェネレータ10は、例えば、バッテリ24からインバータを介して交流電力の供給を受けて駆動し、ロータ軸21に機械的な動力(モータトルク)を発生させ、この機械的動力をロータ軸21から出力可能である。
【0029】
トルクコンバータ11は、流体継手の一種であり、モータジェネレータ10のロータ軸21に連結される。トルクコンバータ11は、エンジン7又はモータジェネレータ10からの動力を、ロックアップクラッチ25を介して伝達するロックアップ機構16と、作動油(作動流体)を介して伝達する流体伝達機構17とを有する。ロックアップ機構16は、ロックアップクラッチ25を介してロータ軸21とトルクコンバータ11の出力軸(流体伝達装置出力軸)26とを連結可能である。流体伝達機構17は、ポンプ(ポンプインペラ)17p、タービン(タービンランナ)17t、ステータ17s、ワンウェイクラッチ17c等を含んで構成され、内部に作動流体としての作動油が充填される。ポンプ17pは、ロータ軸21と一体回転可能に連結され、タービン17tは、出力軸26と一体回転可能に連結される。ロックアップクラッチ25は、ロータ軸21とタービン17tとを動力伝達可能に係合した係合状態と、この係合を解除した解放状態と、係合状態と解放状態との間のスリップ状態とに切り替え可能である。トルクコンバータ11は、エンジン7又はモータジェネレータ10からの動力を、ロックアップクラッチ25の状態に応じて、ロックアップ機構16、又は、流体伝達機構17を介して出力軸26に伝達し、この出力軸26から出力することができる。
【0030】
変速機12は、トルクコンバータ11からの動力を、C1クラッチ18を介して変速機本体19に伝達し、変速機本体19にて変速して駆動輪3側に出力する。C1クラッチ18は、トルクコンバータ11の出力軸26と駆動輪3とを変速機本体19、プロペラ軸13、デファレンシャルギヤ14、ドライブ軸15等を介して連結可能である。ここでは、C1クラッチ18は、トルクコンバータ11の出力軸26と変速機本体19の入力軸27とを動力伝達可能に係合した係合状態と、この係合を解除した解放状態と、係合状態と解放状態との間のスリップ状態とに切り替え可能である。変速機本体19は、例えば、有段自動変速機(AT)、無段自動変速機(CVT)、マルチモードマニュアルトランスミッション(MMT)、シーケンシャルマニュアルトランスミッション(SMT)、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)などのいわゆる自動変速機である。ここでは、変速機本体19は、例えば、有段自動変速機が適用される。
【0031】
デファレンシャルギヤ14は、プロペラ軸13からの動力を、各ドライブ軸15を介して各駆動輪3に伝達する。デファレンシャルギヤ14は、車両2が旋回する際に生じる旋回の中心側、つまり内側の駆動輪3と、外側の駆動輪3との回転速度の差を吸収する。
【0032】
上記のように構成される駆動装置4は、エンジン7が発生させた動力をクランク軸20からダンパ機構8、K0クラッチ9、ロータ軸21、トルクコンバータ11、変速機12、プロペラ軸13、デファレンシャルギヤ14、ドライブ軸15を介して駆動輪3に伝達することができる。また、駆動装置4は、モータジェネレータ10が発生させた動力をロータ軸21から、K0クラッチ9を介さずに、トルクコンバータ11、変速機12、プロペラ軸13、デファレンシャルギヤ14、ドライブ軸15を介して駆動輪3に伝達することができる。この結果、車両2は、駆動輪3と路面との接地面に駆動力[N]が生じ、これにより走行することができる。
【0033】
状態検出装置5は、車両2の状態を検出するものであり、車両2の状態を表す種々の状態量や物理量、スイッチ類の作動状態等を検出するものである。状態検出装置5は、ECU6と電気的に接続されており、相互に検出信号や駆動信号、制御指令等の情報の授受を行うことができる。状態検出装置5は、例えば、アクセル開度センサ50、ブレーキセンサ51、車速センサ52、クランク角センサ53、充電状態検出器54等を含む。アクセル開度センサ50は、運転者による車両2のアクセルペダルの操作量(アクセル操作量、加速要求操作量)に相当するアクセル開度を検出する。ブレーキセンサ51は、運転者による車両2のブレーキペダルの操作量(ブレーキ操作量、制動要求操作量)に相当するマスタシリンダ圧、あるいは、ブレーキ踏力等を検出する。車速センサ52は、車両2の走行速度である車速を検出する。クランク角センサ53は、クランク軸20の回転角度であるクランク角度を検出する。ECU6は、このクランク角度に基づいて、エンジン7の各気筒における吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程を判別すると共に、クランク軸20の回転数(回転速度)であるエンジン回転数を算出することができる。充電状態検出器54は、バッテリ24の蓄電量(充電量)やバッテリ電圧等に応じた蓄電状態SOCを検出する。
【0034】
ECU6は、車両制御システム1の全体の制御を統括的に行い、エンジン7やモータジェネレータ10等を協調して制御するための制御ユニットである。ECU6は、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路である。ECU6は、状態検出装置5が電気的に接続され、また、エンジン7の燃料噴射装置70、点火プラグ77、スロットル装置、モータジェネレータ10のインバータ、バッテリ24等が電気的に接続される。さらに、車両制御システム1は、油圧制御装置28を備え、ECU6は、K0クラッチ9、ロックアップクラッチ25、C1クラッチ18及び変速機本体19等に油圧制御装置28を介して接続され、油圧制御装置28を介してこれらの動作を制御する。ECU6は、状態検出装置5が検出した検出結果に対応した電気信号が入力され、入力された検出結果に応じてエンジン7、モータジェネレータ10のインバータ、油圧制御装置28等の駆動装置4の各部に駆動信号を出力しこれらの駆動を制御する。
【0035】
ここで、油圧制御装置28は、作動流体としての作動油(オイル)の油圧(圧力)によって、変速機本体19の変速動作やK0クラッチ9、ロックアップクラッチ25、C1クラッチ18等の係合要素の係合・解放・スリップ動作を制御するものである。油圧制御装置28は、ECU6により制御される種々の公知の油圧制御回路を含んで構成され、例えば、複数の油路、オイルリザーバ、オイルポンプ、複数の電磁弁などを含んで構成される。油圧制御装置28は、ECU6からの信号に応じて、K0クラッチ9、ロックアップクラッチ25、C1クラッチ18、変速機本体19等、駆動装置4の各部に供給される作動油の流量あるいは油圧を制御する。
【0036】
ECU6は、例えば、アクセル開度、車速等に基づいてエンジン7のスロットル装置を制御し、吸気通路76のスロットル開度を調節し、吸入空気量を調節して、その変化に対応して燃料噴射量を制御し、燃焼室71に充填される混合気の量を調節してエンジン7の出力を制御する。また、ECU6は、例えば、アクセル開度、車速等に基づいて油圧制御装置28を制御し、変速機本体19の変速動作やK0クラッチ9、ロックアップクラッチ25、C1クラッチ18等の係合・解放・スリップ動作等を制御する。
【0037】
上記のように構成される車両制御システム1は、ECU6が駆動装置4を制御し、エンジン7とモータジェネレータ10とを併用又は選択使用することで、車両2を様々な走行モードで走行させることができる。
【0038】
ECU6は、例えば、K0クラッチ9を係合状態(K0クラッチON)としかつエンジン7を作動させ、走行用動力源であるエンジン7とモータジェネレータ10とのうちエンジン7から出力する動力(エンジントルク)のみを駆動輪3に伝達させる。このとき、C1クラッチ18は、係合状態(C1クラッチON)となっている。これにより、車両制御システム1は、「エンジン走行」モードを実現することができる。したがって、車両2は、走行用動力源のうちエンジン7のみを用いて走行することができる。
【0039】
また、ECU6は、例えば、上記のようにK0クラッチ9を係合状態(K0クラッチON)としかつエンジン7を作動させた状態で、要求駆動力やバッテリ24の蓄電状態SOCに応じてモータジェネレータ10を力行させ、エンジン7から出力する動力と、モータジェネレータ10から出力する動力(モータトルク)とを統合して駆動輪3に伝達させる。このとき、C1クラッチ18は、係合状態(C1クラッチON)となっている。これにより、車両制御システム1は、「HV走行」モードを実現することができる。したがって、車両2は、エンジン7とモータジェネレータ10とを併用して走行することができる。
【0040】
さらに、ECU6は、例えば、K0クラッチ9を解放状態(K0クラッチOFF)としかつエンジン7を停止し非作動状態とした上で、モータジェネレータ10を力行させ、走行用動力源であるエンジン7とモータジェネレータ10とのうちモータジェネレータ10から出力する動力のみを駆動輪3に伝達させる。このとき、C1クラッチ18は、係合状態(C1クラッチON)となっている。また、エンジン7は、非作動状態でありかつK0クラッチ9が解放状態であるから、クランク軸20の回転も停止している。これにより、車両制御システム1は、「EV走行」モードを実現することができる。したがって、車両2は、走行用動力源のうちモータジェネレータ10のみを用いて走行することができる。このとき、車両2は、基本的にはクランク軸20とロータ軸21とがK0クラッチ9にて機械的に切り離された状態となり、エンジン7の回転抵抗が作用しない状態となる。
【0041】
また、ECU6は、例えば、車両2の減速走行時に、モータジェネレータ10を制御し、駆動輪3からロータ軸21に伝達される動力によってモータジェネレータ10にて回生により発電し、これに伴ってロータ軸21に生じる機械的動力(負のモータトルク)を駆動輪3に伝達する。このとき、C1クラッチ18は、係合状態(C1クラッチON)となっている。これにより、車両制御システム1は、「回生走行」モードを実現することができる。したがって、車両2は、モータジェネレータ10により回生制動されて減速走行することができる。
【0042】
そして、ECU6は、例えば、エンジン7が非作動状態でありクランク軸20の回転が停止した状態からエンジン7を始動する場合、異なる2つの始動モードでエンジン7を始動することができる。ECU6は、状況に応じて第1始動制御としてのK0始動制御と、第2始動制御としての着火始動制御とを使い分けることができる。
【0043】
ECU6は、K0始動制御を実行する場合、モータジェネレータ10をエンジン7のスタータモータとして利用しエンジン7を始動させる。この場合、ECU6は、下記のようにしてK0始動制御を実行する。すなわち、ECU6は、エンジン7、モータジェネレータ10、及び、K0クラッチ9を制御し、まず、K0クラッチ9をスリップ状態としモータジェネレータ10側からの動力によりエンジン7のクランク軸20を回転(クランキング)させる。すなわち、ECU6は、K0クラッチ9をスリップ状態としモータジェネレータ10が出力する動力の一部をクランク軸20のクランキングトルク(始動トルク)として利用してクランク軸20を回転させる。そして、ECU6は、クランク軸20を回転させた後に、回転数が所定回転数を超えたら、燃料噴射装置70から燃焼室71に燃料を噴射し点火プラグ77によって点火しエンジン7を始動する(K0始動)。その後、ECU6は、エンジン回転数が自律運転可能な回転数となりエンジン7が完全に始動しエンジン回転数とモータ回転数とがほぼ同期した際にK0クラッチ9を完全に係合した係合状態とする。
【0044】
また、ECU6は、エンジン7が筒内直接噴射式の内燃機関であるため、下記のようにして着火始動制御を実行することでもエンジン7を始動させることができる。すなわち、ECU6は、エンジン7を制御し、クランク軸20の回転が停止した状態で燃料噴射装置70から燃焼室71に燃料を噴射し点火プラグ77によって点火してクランク軸20を回転させてエンジン7を始動する。ここでは、ECU6は、エンジン7、モータジェネレータ10、及び、K0クラッチ9を制御し、まず、クランク軸20の回転が停止した状態でエンジン7の燃焼室71、典型的には膨張行程で停止した気筒の燃焼室71に燃料を噴射して点火し、燃料の燃焼エネルギによってクランク軸20の回転を開始する。その後、ECU6は、燃焼によりクランク軸20が回転を開始した状態でK0クラッチ9の伝達トルクを増大させて、K0クラッチ9を介したモータジェネレータ10側からの動力の一部によりクランク軸20の回転をアシストしてエンジン7を始動する(着火始動)。その後、ECU6は、エンジン回転数が自律運転可能な回転数となりエンジン7が完全に始動しエンジン回転数とモータ回転数とがほぼ同期した際にK0クラッチ9を完全に係合した係合状態とする。
【0045】
このとき、ECU6は、この着火始動制御では混合気への点火が完了するまではK0クラッチ9のトルク容量(以下、「K0トルク容量」という場合がある。)をクランク軸20が回転し始めない程度の大きさの待機時トルク容量に設定しておく。つまり、ECU6は、着火始動制御として、点火が完了するまではクランク軸20が回転しない程度にK0クラッチ9をスリップ状態としK0トルク容量を待機時トルク容量とする。その後、ECU6は、燃焼室71に燃料を噴射して点火しクランク軸20を回転させた後にK0クラッチ9の伝達トルク(トルク容量)を増大させてエンジン7を始動する。これにより、この車両制御システム1は、燃焼が開始してクランク軸20の回転が始まったら、すぐにK0トルク容量を着火始動アシストトルク容量に増加し、K0クラッチ9を介してクランク軸20にアシストトルクを伝達することができる。この結果、車両制御システム1は、より確実にかつ迅速にエンジン7を始動することができる。なお、この待機時トルク容量は、0であってもよい。この場合、ECU6は、着火始動制御として、クランク軸20の回転が停止した状態で燃焼室71に燃料を噴射して点火しクランク軸20を回転させた後にK0クラッチ9をスリップ状態としK0クラッチ9の伝達トルク(トルク容量)を増大させてエンジン7を始動する。
【0046】
なお、ECU6は、油圧制御装置28を制御して、K0クラッチ9に供給されるクラッチ油圧であるK0圧を調節し、K0トルク容量を調節することで、エンジン7の始動時におけるK0クラッチ9の伝達トルク(以下、「K0トルク」という場合がある。)を調節することができる。ここでは、K0トルク容量は、K0始動と着火始動とを比較した場合、K0始動でのトルク容量の方が相対的に大きく、着火始動でのトルク容量の方が相対的に小さくなる。すなわち、着火始動制御でのクランク軸20のアシストトルクは、着火始動では燃焼室71での燃焼エネルギを利用してクランク軸20の回転を開始している分、K0始動制御でのクランク軸20のクランキングトルクよりも少なくてすむ。このため、K0トルク容量は、着火始動制御の方がK0始動制御の場合と比較して相対的に小さくてすむ。したがって、車両制御システム1は、着火始動制御では、その分、電力消費を抑制してモータジェネレータ10の負荷を相対的に低減することができる。ここでは、ECU6は、例えば、燃焼室71内の空気量の推定値やクランク軸20の停止位置(停止クランク角度)、エンジン停止後からの経過時間等に応じて、着火始動が可能な状況において積極的に着火始動制御を実行する。これにより、車両制御システム1は、電力消費を抑制し燃費性能を向上することができる。
【0047】
ところで、車両制御システム1は、エンジン7が始動しエンジン回転数とモータ回転数とがほぼ同期し、エンジントルクを駆動輪3側に伝達するためにK0クラッチ9を完全に係合した係合状態とする際、ECU6が油圧制御装置28を制御しK0圧を急増圧しK0トルク容量を急増させる。一方、車両制御システム1は、上記で説明したように、K0始動時と着火始動時とを比較した場合、K0始動時のK0トルク容量が相対的に大きく、着火始動時のK0トルク容量が相対的に小さくなっている。このため、この車両制御システム1は、K0始動時のK0圧の方が相対的に大きく、着火始動時のK0圧の方が相対的に小さくなっている。
【0048】
この結果、車両制御システム1は、着火始動時にエンジン回転数とモータ回転数とがほぼ同期し、K0クラッチ9を係合状態とするためにK0圧を急増圧させる場合、K0始動の場合と比較すると、K0圧の増圧幅が相対的に大きくなり、K0圧を所定の大きさまで増圧させるのに相対的に長い時間がかかる傾向にある。この場合、ECU6は、油圧制御装置28へのK0圧指示値を急増させたとしても、実際のK0圧の上昇は、時定数が元圧であるライン圧等に依存することから、K0圧指示値の急増に対して遅れることとなる。
【0049】
このとき、ECU6は、エンジン始動後、応答性よく駆動輪3に動力を伝達するべく、早期にエンジントルクを急増させると、エンジントルクがK0トルク容量より大きくなり、K0クラッチ9にて再スリップが生じるおそれがある。すなわち、車両制御システム1は、K0クラッチ9を係合させた際に、エンジントルクがK0トルク容量を超えると、K0クラッチ9の再スリップが生じ、これにより、ショックが発生するおそれがある。一方、ECU6は、エンジントルクの増加を緩やかにすると、K0クラッチ9での再スリップは生じないものの、いわゆるヘジテーション(応答性の悪化)が発生し運転者に違和感を与えるおそれがある。すなわち、車両制御システム1は、K0クラッチ9を係合させた際に、エンジントルクの増加を緩やかにさせると、例えば、運転者によるアクセルON操作等に対して実際の駆動力の立ち上がりの応答性が遅れて、駆動力のヘジテーションが発生するおそれがある。
【0050】
そこで、本実施形態の車両制御システム1は、ECU6が着火始動制御を実行する場合、油圧制御装置28を制御して、K0圧の元圧であるライン圧を、K0始動制御を実行する場合より高くすることで、適正なエンジン7の始動を実現している。つまり、ECU6は、着火始動時のライン圧をK0始動時のライン圧より高く設定する。
【0051】
この結果、車両制御システム1は、着火始動時にライン圧を相対的に高く設定することで、ライン圧が相対的に低い場合と比較して、K0圧指示値の急増に対する実際のK0圧の上昇の応答性を向上することができ、K0圧の増圧勾配(単位時間当たりの増加量)を大きくすることができる。よって、車両制御システム1は、K0クラッチ9を係合状態とする際にK0圧の増圧幅が相対的に大きい着火始動の場合でも、早期にK0圧を所定の大きさまで増圧させることができ、すみやかにK0クラッチ9を係合しK0トルク容量を増加させることができる。したがって、車両制御システム1は、着火始動の場合でも、エンジン7が始動しエンジン回転数とモータ回転数とがほぼ同期し、K0クラッチ9を係合状態とする際に、早期にK0圧を増圧しK0トルク容量をエンジントルクよりも大きくすることができる。
【0052】
これにより、車両制御システム1は、着火始動時にエンジン7の始動後、K0クラッチ9を係合状態とし早期にエンジントルクを急増させても、エンジントルクがK0トルク容量より大きくなることが抑制され、K0クラッチ9にて再スリップが生じることが抑制される。この結果、車両制御システム1は、着火始動時にK0クラッチ9を係合させた際に早期にエンジントルクを急増させても、K0クラッチ9の再スリップに起因してショックが発生することを抑制することができる。そして、車両制御システム1は、エンジントルクを急増させても、K0クラッチ9にて再スリップが発生することを抑制することができるので、例えば、運転者によるアクセルON操作等に対して実際の駆動力の立ち上がりの応答性が遅れることを抑制することができ、駆動力のヘジテーションが発生することを抑制することができる。
【0053】
そして、本実施形態のECU6は、常時、ライン圧を高くして維持するのではなく、着火始動時にライン圧を相対的に高くする一方、K0クラッチ9を係合状態とする際のK0圧の増圧幅が相対的に小さいK0始動時にはライン圧を相対的に低くする。この結果、車両制御システム1は、K0始動時には、例えば、エンジン7からの動力やモータジェネレータ10からの動力によって作動するオイルポンプのポンプ負荷を低減することができ、燃費性能の悪化を抑制することができる。
【0054】
次に、図3のフローチャートを参照して車両制御システム1におけるECU6による制御の一例を説明する。なお、これらの制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される。
【0055】
まず、ECU6は、状態検出装置5による検出結果に応じて、エンジン7の始動要求があるか否かを判定する(ST1)。ECU6は、例えば、加速要求操作量に相当するアクセル開度、蓄電状態SOC等に基づいて、エンジン7の始動要求があるか否かを判定する。
【0056】
ECU6は、エンジン7の始動要求がないと判定した場合(ST1:No)、ライン圧PL指示値をライン圧PLSとして油圧制御装置28を制御し(ST2)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。ライン圧PLSは、エンジン7の始動時でない場合の通常のライン圧であり、例えば、車両2の状態等に応じて変更される。
【0057】
ECU6は、ST1にてエンジン7の始動要求があると判定した場合(ST1:Yes)、状態検出装置5による検出結果や各部の作動状態に基づいて、着火始動制御を実行し着火始動を実施するか否かを判定する(ST3)。
【0058】
ECU6は、着火始動を実施すると判定した場合(ST3:Yes)、ライン圧PL指示値をライン圧PLDとして油圧制御装置28を制御し(ST4)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。ライン圧PLDは、エンジン7の着火始動時の場合のライン圧であり、典型的には、上記のライン圧PLS、後述のライン圧PLKよりも高いライン圧である。
【0059】
ECU6は、ST3にて着火始動を実施しないと判定した場合(ST3:No)、すなわち、K0始動を実施すると判定した場合、ライン圧PL指示値をライン圧PLKとして油圧制御装置28を制御し(ST5)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。ライン圧PLKは、エンジン7のK0始動時の場合のライン圧であり、典型的には、上記のライン圧PLSよりも高く、上記のライン圧PLDよりも低いライン圧である(PLD>PLK>PLS(変動))。
【0060】
次に、図4、図5のタイムチャートを参照して上記のように構成された車両制御システム1の動作の一例を説明する。図4、図5は、横軸を時間軸とし、縦軸を回転数、K0圧、トルクとしている。図4は、K0始動と着火始動とで、ライン圧PLKとライン圧PLDとを同等にした場合を表している。図4中、実線L1はモータ回転数、実線L2はエンジン回転数、実線L3は着火始動時のK0圧指示値、実線L4は着火始動時の実際のK0圧、点線L5はK0始動時のK0圧指示値、点線L6はK0始動時の実際のK0圧、実線L7は着火始動時のK0トルク容量、実線L8は着火始動時のエンジントルク、点線L9はK0始動時のK0トルク容量、点線L10はK0始動時のエンジントルクを表している。図5は、着火始動時にライン圧PLKとライン圧PLDとを同等にした場合と、ライン圧PLDをライン圧PLKより高くした場合とを表している。図5中、実線L1、実線L2、実線L3、実線L4、実線L7、実線L8は図4と同様である。そして、図5中、点線L4H、点線L7H、点線L8Hは、それぞれライン圧PLDをライン圧PLKより高くした場合の着火始動時の実際のK0圧、着火始動時のK0トルク容量、着火始動時のエンジントルクを表している。
【0061】
車両制御システム1は、仮に始動モードにかかわらず、常時、ライン圧をライン圧PLKとした場合、図4に例示するように、K0圧が相対的に低い着火始動時(実線L3、L4)では、K0圧が相対的に高いK0始動時時(点線L5、L6)と比較して、エンジン回転数(実線L2)とモータ回転数(実線L1)とがほぼ同期した後、K0クラッチ9の係合後のK0トルク容量(実線L7)の上昇に比較的に時間がかかる。この場合、車両制御システム1は、着火始動時ではエンジントルク(実線L8)を緩やかに増加させなければ、エンジントルクがK0トルク容量を上回ってK0クラッチ9が再スリップしてしまうおそれがある。
【0062】
これに対し、車両制御システム1は、図5に例示するように、着火始動時にライン圧PLDをライン圧PLKより高くすることで、K0圧(点線L4H)の上昇勾配が相対的に大きくなる。これにより、車両制御システム1は、K0クラッチ9の係合後のK0トルク容量(点線L7H)の上昇が相対的に早くなる。この結果、車両制御システム1は、着火始動時であってもエンジントルク(点線L8H)をすみやかに増加させても、エンジントルクがK0トルク容量を上回ってしまうことを抑制することができ、K0クラッチ9が再スリップしてしまうことを抑制することができる。
【0063】
以上で説明した実施形態に係る車両制御システム1、ECU6は、着火始動制御を実行する場合、油圧制御装置28を制御して、K0クラッチ9に供給される作動流体の圧力(K0圧)の元圧であるライン圧を、K0始動制御を実行する場合より高くする。したがって、車両制御システム1、ECU6は、エンジン始動時のクラッチ再係合の際にショックが発生することを抑制した上で、ヘジテーションを抑制し駆動力の立ち上がりの応答性を向上することができ、さらに、燃費性能悪化をも抑制することができ、適正にエンジン7を始動することができる。
【0064】
なお、以上で説明した車両制御システム1は、図6に示すように、エンジン7自体にスタータ7aを備えて、このスタータ7aによってエンジン7のクランク軸20を回転(クランキング)し、エンジン7を始動させる第3始動制御としてのスタータ始動制御を併用してもよい。すなわちこの場合、エンジン7は、始動時にクランク軸20を回転させるスタータ(モータ)7aを有する。そして、ECU6は、スタータ7aからの動力によりエンジン7のクランク軸20を回転させた後にエンジン7の燃焼室71に燃料を噴射して点火しエンジン7を始動するスタータ始動制御を実行可能である。
【0065】
より詳細には、ECU6は、エンジン7のスタータ7a、K0クラッチ9を制御し、まず、K0クラッチ9を解放状態としスタータ7aからの動力によりエンジン7のクランク軸20を回転(クランキング)させる。そして、ECU6は、クランク軸20を回転させた後に、回転数が所定回転数を超えたら、燃料噴射装置70から燃焼室71に燃料を噴射し点火プラグ77によって点火しエンジン7を始動する(スタータ始動)。その後、ECU6は、エンジン回転数が自律運転可能な回転数となりエンジン7が完全に始動しエンジン回転数とモータ回転数とがほぼ同期した際にK0クラッチ9を完全に係合した係合状態とする。このスタータ始動でのK0トルク容量は、着火始動、K0始動の場合のトルク容量よりさらに小さく設定される。そして、ECU6は、スタータ始動制御を実行する場合、油圧制御装置28を制御して、ライン圧を、K0始動制御を実行する場合より高くする。ECU6は、例えば、スタータ始動でのライン圧をライン圧PLDと同等に設定し、ライン圧PLKよりも高いライン圧に設定する。
【0066】
この結果、車両制御システム1は、着火始動時にライン圧を相対的に高く設定することで、ライン圧が相対的に低い場合と比較して、K0圧指示値の急増に対する実際のK0圧の上昇の応答性を向上することができ、K0圧の増圧勾配(単位時間当たりの増加量)を大きくすることができる。よって、車両制御システム1は、K0クラッチ9を係合状態とする際にK0圧の増圧幅が相対的に大きいスタータ始動の場合でも、早期にK0圧を所定の大きさまで増圧させることができ、すみやかにK0クラッチ9を係合しK0トルク容量を増加させることができる。したがって、車両制御システム1は、スタータ始動の場合でも、エンジン7が始動しエンジン回転数とモータ回転数とがほぼ同期し、K0クラッチ9を係合状態とする際に、早期にK0圧を増圧しK0トルク容量をエンジントルクよりも大きくすることができる。
【0067】
これにより、車両制御システム1は、スタータ始動時に実際のK0圧の上昇の応答性を向上することができ、K0クラッチ9を係合させた際に早期にエンジントルクを急増させても、K0クラッチ9の再スリップに起因してショックが発生することを抑制することができる。したがって、車両制御システム1、ECU6は、スタータ始動制御を併用する場合であっても、エンジン始動時のクラッチ再係合の際にショックが発生することを抑制した上で、ヘジテーションを抑制し駆動力の立ち上がりの応答性を向上することができ、さらに、燃費性能悪化をも抑制することができ、適正にエンジン7を始動することができる。
【0068】
[実施形態2]
図7は、実施形態2に係る車両制御システムのECUによる制御の一例を示すフローチャートである。実施形態2に係る車両制御システム、制御装置は、さらに、変速動作を伴う内燃機関始動の際にもライン圧を高くする点で実施形態1とは異なる。なお、実施形態2に係る車両制御システムの各構成については、適宜、図1を参照する。
【0069】
本実施形態の車両制御システム201(図1参照)は、上述したようにエンジン7又はモータジェネレータ10からの動力を変速して車両2の駆動輪3側に出力する変速機12を備える。本実施形態のECU6は、エンジン7を始動する際に変速機12における変速動作、ここでは、変速比が増加側に変更されるダウンシフトを伴う場合、油圧制御装置28を制御して、ライン圧を、ダウンシフトを伴わない場合より高くする。つまり、ECU6は、例えば、車両2の走行中においてアクセルが踏み込まれてダウンシフト(パワーオンダウンシフト)を伴うエンジン始動が行われる際に、このダウンシフトを伴うエンジン始動時のライン圧を、ダウンシフトを伴わないエンジン始動時のライン圧より高く設定する。
【0070】
これにより、車両制御システム201は、ダウンシフトを伴うエンジン始動時に実際のK0圧の上昇の応答性を向上することができ、K0クラッチ9を係合させた際にすみやかにエンジントルクを急増させても、K0クラッチ9の再スリップに起因してショックが発生することを抑制することができる。したがって、ECU6は、K0クラッチ9の係合後、早期にエンジントルクを増加させて、変速機12の入力軸27の回転数を上昇させて、変速進行を早めることができ、変速動作を速やかに完了させることができる。したがって、車両制御システム201は、変速時間を短縮することができ、例えば、応答性よくすみやかな加速を実現することができる。
【0071】
次に、図7のフローチャートを参照して車両制御システム201におけるECU6による制御の一例を説明する。ここでも、図3の説明と重複する説明はできる限り省略する。
【0072】
ECU6は、ST1にてエンジン7の始動要求があると判定した場合(ST1:Yes)、状態検出装置5による検出結果や変速機12の作動状態に基づいて、ダウンシフトを実行中であるか否かを判定する(ST203)。
【0073】
ECU6は、ダウンシフトを実行中であると判定した場合(ST203:Yes)、ライン圧PL指示値をライン圧PLKDとして油圧制御装置28を制御し(ST204)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。ライン圧PLKDは、ダウンシフトを伴うエンジン始動時の場合のライン圧であり、典型的には、上記のライン圧PLS、ライン圧PLKよりも高いライン圧である。
【0074】
ECU6は、ST203にてダウンシフトを実行中でないと判定した場合(ST203:No)、ライン圧PL指示値をライン圧PLKとして油圧制御装置28を制御し(ST205)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。ライン圧PLKは、ダウンシフトを伴わないエンジン始動時の場合のライン圧であり、典型的には、上記のライン圧PLSよりも高く、上記のライン圧PLKDよりも低いライン圧である(PLKD>PLK>PLS(変動))。
【0075】
以上で説明した実施形態に係る車両制御システム201、ECU6は、エンジン始動時のクラッチ再係合の際にショックが発生することを抑制した上で、ヘジテーションを抑制し駆動力の立ち上がりの応答性を向上することができ、さらに、燃費性能悪化をも抑制することができ、適正にエンジン7を始動することができると共に、変速時間を短縮することができる。
【0076】
なお、上述した本発明の実施形態に係る車両制御システム及び制御装置は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。本実施形態に係る車両制御システム及び制御装置は、以上で説明した各実施形態の構成要素を適宜組み合わせることで構成してもよい。
【0077】
以上で説明した車両制御システム1、201は、ダンパ機構8等を備えない構成であってもよい。
【符号の説明】
【0078】
1、201 車両制御システム
2 車両
3 駆動輪
4 駆動装置
5 状態検出装置
6 ECU(制御装置)
7 エンジン(内燃機関)
7a スタータ
9 K0クラッチ(クラッチ)
10 モータジェネレータ(回転電機)
12 変速機
20 クランク軸(出力軸)
28 油圧制御装置
71 燃焼室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行用動力源である筒内直接噴射式の内燃機関及び回転電機と、
前記内燃機関と前記回転電機とを連結可能であると共に、供給される作動流体の圧力に応じて作動するクラッチと、
前記クラッチに供給される作動流体の圧力を制御する油圧制御装置と、
前記内燃機関、前記回転電機、及び、前記クラッチを制御し、前記クラッチをスリップ状態とし前記回転電機側からの動力により前記内燃機関の出力軸を回転させた後に前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記内燃機関を始動する第1始動制御と、前記内燃機関の出力軸の回転が停止した状態で前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記出力軸を回転させた後に前記クラッチを介した前記回転電機側からの動力により前記出力軸の回転をアシストし前記内燃機関を始動する第2始動制御とを実行可能である制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記第2始動制御を実行する場合、前記油圧制御装置を制御して、前記クラッチに供給される作動流体の圧力の元圧であるライン圧を、前記第1始動制御を実行する場合より高くすることを特徴とする、
車両制御システム。
【請求項2】
前記内燃機関は、始動時に前記出力軸を回転させるスタータを有し、
前記制御装置は、前記スタータからの動力により前記内燃機関の出力軸を回転させた後に前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記内燃機関を始動する第3始動制御を実行可能であり、当該第3始動制御を実行する場合、前記油圧制御装置を制御して、前記ライン圧を、前記第1始動制御を実行する場合より高くする、
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記内燃機関又は前記回転電機からの動力を変速して前記車両の駆動輪側に出力する変速機を備え、
前記制御装置は、前記内燃機関を始動する際に前記変速機における変速動作を伴う場合、前記油圧制御装置を制御して、前記ライン圧を、前記変速動作を伴わない場合より高くする、
請求項1又は請求項2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記変速動作は、ダウンシフトである、
請求項3に記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記第2始動制御として、前記内燃機関の出力軸が回転しない程度に前記クラッチをスリップ状態とした後、前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記内燃機関の出力軸を回転させた後に前記クラッチの伝達トルクを増大させて前記内燃機関を始動する、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の車両制御システム。
【請求項6】
車両の駆動輪への動力の伝達経路に対して、走行用動力源である筒内直接噴射式の内燃機関、クラッチ、走行用動力源である回転電機の順で配置されると共に油圧制御装置によって前記クラッチに供給される作動流体の圧力が制御される駆動装置を制御する制御装置であって、
前記内燃機関、前記回転電機、及び、前記クラッチを制御し、前記クラッチをスリップ状態とし前記回転電機側からの動力により前記内燃機関の出力軸を回転させた後に前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記内燃機関を始動する第1始動制御と、前記内燃機関の出力軸の回転が停止した状態で前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射して点火し前記出力軸を回転させた後に前記クラッチを介した前記回転電機側からの動力により前記出力軸の回転をアシストし前記内燃機関を始動する第2始動制御とを実行可能であり、
さらに、前記第2始動制御を実行する場合、前記油圧制御装置を制御して、前記クラッチに供給される作動流体の圧力の元圧であるライン圧を、前記第1始動制御を実行する場合より高くすることを特徴とする、
制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−95156(P2013−95156A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236510(P2011−236510)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】