説明

車両制御用地上子

【課題】外部からの制御条件により、電文の送信又は停止を制御し得る地上子を提供する。
【解決手段】 電力部321は、電力波受信コイル311に供給された電力波を駆動電力P1に変換する。信号生成部304は、電力部321から駆動電力P1の供給を受け、送信電文S2を生成して出力する。情報送信コイル312は、信号生成部304から供給された送信電文S2を送信する。スイッチ部303は、外部から制御信号S3が供給され、制御信号S3に応じて、電力部321から信号生成部304に至る電力供給回路を開閉する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電源型の車両制御用地上子に関する。
【背景技術】
【0002】
地上/車上間電文送信手段として、無電源型の車両制御用地上子が知られている。無電源型の地上子は、それ自体は、電源を持たず、車両が接近したとき、車上子から送信された電力波を受信し、受信した電力波を電源入力として動作する。
【0003】
この種の車両制御用地上子としては、単に1種類の電文を送信するだけの地上子(以下、単一電文型地上子と称する)と、複数の電文を送信し得る地上子(以下、複数電文型地上子)とが知られている。
【0004】
単一電文型地上子は、車両に対して、常に同じ電文を送信するという、簡単な動作しかできないから、使用できる範囲を限定せざるを得ず、例えば、ポイントや、急カーブなどの特定の個所において、そこを通過する車両に減速制御をかける目的などに使用される。
【0005】
複数電文型地上子は、例えば、特許文献1及び特許文献2などで知られている。複数電文型地上子では、複数の車両に向けられた電文を同時に送信するので、特定の車両以外の車両に向けられた電文については、無効電文を付して送信する。
【0006】
ところが、地上子による車両制御の場合は、単一電文型地上子の設置によって十分にカバーできる場合と、複数電文型地上子によらなければならない場合の2つに明確に分類されるものではなく、両者の中間に位置するような制御を必要とする場合もある。例えば、車庫から車両を出す場合には、進行許可及び不許可の2つの制御を加えなければならない。また、単線の車両制御等においても、車両の出発許可及び不許可を与えなければならない。
【0007】
このような場合では、単一電文型地上子では機能不足であるし、複数電文型地上子では、要求される機能に対して、過剰機能となり、不必要なコスト高を招く。
【特許文献1】特開平8−183454号公報
【特許文献2】特開平8−183455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、電文の送信又は停止を制御し得る車両制御用地上子を提供することである。
【0009】
本発明のもう1つの課題は、低コスト化を図り得る車両制御用地上子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明に係る車両制御用地上子は、電力波受信コイルと、電力部と、信号生成部と、情報送信コイルと、スイッチ部とを含む。電力部は、電力波受信コイルに供給された電力波を電力に変換する。信号生成部は、電力部から電力の供給を受け、送信電文を生成して出力する。情報送信コイルは、信号生成部から供給された送信電文を送信する。スイッチ部は、外部から制御信号が供給され、制御信号に応じて、電力部から信号生成部に至る電力供給回路を開閉する。
【0011】
上述した車両制御用地上子は、車上装置と組み合わされて、車両制御装置を構成する。車上装置の車上子が、地上子の電力波受信コイルと電磁的に結合すると、車上子から送信される電力波が、電力波受信コイルによって受信される。
【0012】
電力部は、電力波受信コイルに供給された電力波を電力に変換する。信号生成部は、電力部から電力の供給を受け、送信電文を生成して出力する。情報送信コイルは、信号生成部から供給された電文を送信する。
【0013】
上記の回路作用は、従来の単一電文型地上子においても得られていたものであるが、本発明においては、その特徴的構成として、スイッチ部を備える。スイッチ部は、外部から制御信号が供給され、制御信号に応じて、電力部から信号生成部に至る電力供給回路を開閉する。このスイッチ部による電力供給回路の開閉より、電力部から信号生成部に至る電力供給回路が制御され、電文を出力する状態と、電文を出力しない状態とを実現できる。
【0014】
この2段階的回路作用によれば、例えば、車両の車庫部分の制御や、単線の車両制御等において、車両を停止させるか否かの制御を行うことができる。
【0015】
しかも、スイッチ部という簡単な構成を用いるだけであるから、複数の電文設定部や、ROM等のメモリや、これらを動作させる回路等が必要な地上子と比較して、低コストになる。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたように、本発明によれば、電文の送信又は停止を制御し得る車両制御用地上子を提供することができる。
【0017】
本発明の他の特徴及びそれによる作用効果は、添付図面を参照し、実施例によって更に詳しく説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は本発明に係る車両制御用地上子を用いた車両制御装置の一例を示すブロック図である。図示の車両制御装置は、軌道6と、車両1と、地上子3とを含む。軌道6は、例えば、単線区間である。車両1は軌道6の上を矢印Xで示す方向に走行する。車両1は、車上装置22と、車上子21とを有している。車上子21は例えばバ−アンテナからなり、車上装置22の生成した電力波S1を、常時、地上側に送信する。
【0019】
地上子3は、無電源地上子であり、電力波受信コイル311と、電力部321と、スイッチ部303と、信号生成部304と、情報送信コイル312とを含む。電力波受信コイル311及び情報送信コイル312は、一体化されていても、されていなくともよい。
【0020】
電力波受信コイル311は、地上側に配置され、車上子21から送信された電力波S1を受信する。電力部321は、例えば、整流回路であり、電力波受信コイル311によって受信された電力波を、駆動電力P1に変換する機能を有する。
【0021】
スイッチ部303は、電力部321から信号生成部304に至る電力供給回路に設けられている。スイッチ部303は、外部から制御信号S3が供給され、制御信号S3に応じて、電力部321から信号生成部304に至る電力供給回路を開閉する機能を有する。スイッチ部303は、例えば、フォトカプラ、トランジスタ回路等を用いて構成してもよい。
【0022】
図示のスイッチ部303は、リレーPRで構成され、その落下接点PR1を、電力部321から信号生成部304に至る電力供給回路に直列に入れて、これを開閉するようになっている。制御信号S3が制御条件「あり」(以下、論理値1として表現する)となり、スイッチ部303のリレーPRが励磁され、落下接点PR1がオフになると、信号生成部304に対する駆動電力P1の供給が遮断される。
【0023】
制御信号S3が制御条件「なし」(以下、論理値0として表現する)となり、スイッチ部303のリレーPRが無励磁になると、落下接点PR1が落下してオンとなり、駆動電力P1が落下接点PR1を通って、信号生成部304に供給される。落下接点PR1を、扛上接点に変更した場合は、接点の開閉と、制御信号S3の論理関係が上記とは逆になる。
【0024】
制御信号S3は、車両1の制御条件として、外部から与えられる。制御内容としては、例えば、車両1を停止させるか否かの制御、車両1を減速させるか否かの制御、車両1に注意を喚起させる必要があるか否かの制御、車内放送をするか否かの制御、車内照明のON/OFF制御等を挙げることができる。
【0025】
信号生成部304は、電力部321から駆動電力P1の供給を受け、1種類の送信電文S2のみを生成する簡単な構造を有する。図において、信号生成部304は、電文設定部341と、変調部342と、増幅部343とを含む。情報送信コイル312は、信号生成部304から供給された送信電文S2を送信する機能を有する。
【0026】
次に、動作について説明する。まず、車両1が地上子3に接近すると、電源部302の電力波受信コイル311は、車両1から出力された電力波S1を受信し、受信した電力波S1を電力部321に供給する。電力部321は、電力波S1の電圧を整流して、信号生成部304を駆動するための駆動電力P1に変換する。
【0027】
このとき、制御信号S3が論理値0であれば、スイッチ部303のリレーPRが無励磁となり、落下接点PR1が落下してオンになり、駆動電力P1が落下接点PR1を通って、信号生成部304に供給される。
【0028】
信号生成部304は、駆動電力P1が供給された場合に、1種類の送信電文S2を生成し、出力する。信号生成部304が出力した送信電文S2は、情報送信コイル312を介して、車両1に送信される。具体的には、駆動電力P1が供給された場合、信号生成部304は、電文設定部341により電文を設定し、変調部342により電文を変調し、増幅部343により電文を増幅して、送信電文S2を生成し、出力する。
【0029】
一方、制御信号S3が論理値1になると、スイッチ部303のリレーPRが励磁され、落下接点PR1がオフとなり、信号生成部304に対する駆動電力P1の供給が停止される。この場合は、電文設定部341、変調部342及び増幅部343は、動作停止状態となり、送信電文S2を生成しない。
【0030】
これにより、地上子に接近した車両1は、送信電文S2を受信したとき、送信電文S2に基づいて、所定の制御を実行し、送信電文S2を受信しないとき、所定の制御を行わないように動作させることができる。
【0031】
また、別の制御方法として、地上子に接近した車両1は、送信電文S2を受信しないとき、所定の制御を実行し、送信電文S2を受信したとき、所定の制御を行わないように動作させることもできる。
【0032】
上述したように、本発明に係る地上子では、電力波受信コイル311が、車上子と電磁的に結合したとき、車上子から送信される電力波を受信し、この電力波を電力部321により駆動電力P1に変換することができるから、無電源の地上子を実現できる。
【0033】
また、電力部321から駆動電力P1の供給を受け、信号生成部304において送信電文S2を生成し、情報送信コイル312により、送信電文S2を送信することができるから、必要な情報を車両1に与えることができる。
【0034】
しかも、スイッチ部303は、外部から供給される制御信号S3が論理値1か、論理値0かに応じて、電力部321から信号生成部304に至る電力供給回路を開閉するから、信号生成部304から送信電文S2が出力される状態と、送信電文S2が出力されない状態とを実現できる。
【0035】
また、スイッチ部303という簡単な構成を用いて、送信電文S2を送信する状態と、送信しない状態とを選択することができるから、複数の電文設定部や、ROM等のメモリや、これらを動作させる回路等が必要な地上子と比較して、低コスト化を実現できる。
【0036】
図2は、本発明に係る地上子を用いた車両制御装置の別の一例を示すブロック図であって、分岐器割出事故を防止するために用いられる例を示している。図示の車両制御装置は、地上子31〜33と、車両1と、軌道6と、分岐器21、22と、方向条件リレーPR71〜73とを含む。参照符号A、B、Cは、車庫留置線であり、地点Dは出口である。方向条件リレーPR71〜73は、分岐器21、22に連動する接点21KR及び22KRを有する。地上子31〜33は、図1に示したものである。以下の説明において、地上子31〜33について言及するときは、図1を参照するものとする。
【0037】
図2において、車両1が地点Dから車庫留置線A〜Cの方向へ走行する場合は、分岐器21、22がどちらを向いていても割出事故にはならない。
【0038】
まず、分岐器21が定位、分岐器22が反位にある場合は、地点Dから車庫留置線Aへの開通方向条件が成立していることを意味するから、割出事故は起こらない。分岐器21が定位、分岐器22が反位にあるときは、方向条件リレーPR71では、接点21KRが分岐器21に連動して定位となり、接点22KRが分岐器22に連動して反位となる。この状態では、制御信号S3は論理値1であり、リレーPRが励磁され、落下接点PR1がオフになるので、電文は送信されない。従って、車両1は停車することなく、車庫留置線Aに向かって走行することができる。
【0039】
次に、分岐器21、分岐器22が共に定位にある場合は、地点Dから車庫留置線Bへの開通方向条件が成立していることを意味するから、割出事故は起こらない。このとき、方向条件リレーPR72では、接点21KRが分岐器21に連動して定位となり、接点22KRも分岐器22に連動して定位となっている。この状態では、制御信号S3は論理値1であり、リレーPRが励磁され、落下接点PR1がオフになっている。従って、電文が送信されないので、車両1は停車することなく、車庫留置線Bに向かって走行できる。
【0040】
さらに、分岐器21が反位にある場合は、地点Dから車庫留置線Cへの開通方向条件が成立しているから、割出事故は起こらない。方向条件リレーPR73では、接点21KRが分岐器21に連動して反位となっている。この状態では、制御信号S3は論理値1であり、スイッチ部303を構成するリレーPRが励磁され、落下接点PR1がオフになり、電文が送信されないので、車両1は停車することなく、車庫留置線Cに向かって走行できる。
【0041】
次に、車両1が、車庫留置線A〜Cから地点Dへ向かって走行する場合は、分岐器21、22の開通方向に応じて、地上子31〜33から電文を送信すべき状態か、又は、送信を停止すべき状態かが判断されなければならない。
【0042】
例えば、分岐器22が定位にあるときは、車庫留置線Aから地点Dへ向かう進路が開通していない。この場合は、方向条件リレー71から出力される制御信号S3が論理値0になるので、地上子31のスイッチ部303の落下接点PR1がオンとなり、地上子31から即時に停止情報が送信され、車庫留置線Aから地点Dへ向かう車両1に対し、直ちに停車制御が加わる。これにより、割出事故が防止される。
【0043】
次に、分岐器21及び分岐器22の何れかが反位にあるときは、車庫留置線Bから地点Dへ向かう進路が開通していない。この場合は、方向条件リレー72から出力される制御信号S3が論理値0になるので、地上子32のスイッチ部303の落下接点PR1がオンとなり、地上子32から即時に停止情報が送信され、車庫留置線Bから地点Dへ向かう車両1に対し、直ちに停車制御が加わる。これにより、割出事故が防止される。
【0044】
さらに、分岐器21が定位にあるときは、車庫留置線Cから地点Dへ向かう進路が開通していない。この場合は、方向条件リレー73から出力される制御信号S3が論理値0になるので、地上子33のスイッチ部303の落下接点PR1がオンとなり、地上子33から即時に停止情報が送信され、車庫留置線Cから地点Dへ向かう車両1に対し、直ちに停車制御が加わる。これにより、割出事故が防止される。
【0045】
以上、実施の形態を参照して説明したが、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内において、種々の変形、変更が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る地上子を用いた車両制御装置の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る車両制御装置の別の実施例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0047】
3 地上子
302 電源部
303 スイッチ部
304 信号生成部
311 電力波受信コイル
312 情報送信コイル
321 電力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力波受信コイルと、電力部と、信号生成部と、情報送信コイルと、スイッチ部とを含む車両制御用地上子であって、
前記電力部は、前記電力波受信コイルによって受信された電力波を電力に変換し、
前記信号生成部は、前記電力部から前記電力の供給を受け、送信電文を生成して出力し、
前記情報送信コイルは、前記信号生成部から供給された前記送信電文を送信し、
前記スイッチ部は、外部から制御信号が供給され、前記制御信号に応じて、前記電力部から前記信号生成部に至る電力供給回路を開閉する
車両制御用地上子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−56293(P2006−56293A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237623(P2004−237623)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】