説明

車両制御装置

【課題】シフトアップ直前の高回転域においても加速の伸びを運転者が楽しむことができるようにする。
【解決手段】コントローラ10は、シフトアップ操作が行われたエンジン回転速度を記憶し、記憶されたエンジン回転速度からシフトアップ操作が最も行われたエンジン回転速度を検索し、同一アクセル開度で加速した場合にシフトアップ操作が最も行われた回転速度までエンジントルクがエンジン回転速度の増加に伴い増加するようにエンジントルクを調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の運転操作に応じてエンジン及び変速機を制御する車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マニュアルモードを備えた無段変速機が開示されている。マニュアルモードを使用すれば、運転者は自分の意図したタイミング、すなわちエンジン回転速度で変速を行うことができて、ドライバビリティが向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−243031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、運転者がシフトアップ操作を行うエンジン回転速度が、エンジントルクが最大となるエンジン回転速度よりも高いと、シフトアップ直前の高回転域では、エンジンのトルクが最大トルクよりも落ち込み、運転者が期待する加速の伸びが得られない、という問題がある。
【0005】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、シフトアップ直前の高回転域においても加速の伸びを運転者が楽しむことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、シフトアップ操作が行われたエンジン回転速度を記憶し、記憶されたエンジン回転速度からシフトアップ操作が最も行われたエンジン回転速度を検索し、同一アクセル開度で加速した場合にシフトアップ操作が最も行われたエンジン回転速度までエンジントルクがエンジン回転速度の増加に伴い増加するようにエンジントルクを調整する。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によれば、運転者はシフトアップ直前の高回転域においても加速の伸びを楽しむことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る車両制御装置が適用される車両の概略構成図である。
【図2】マニュアルモード選択時の変速線図である。
【図3】コントローラによって実行されるプログラムのフローチャートである。
【図4】1→2変速時のエンジン回転速度のデータの蓄積例である。
【図5】エンジンのトルクカーブの補正を説明するための図である。
【図6】無段変速機の変速線の変更について説明するための図である。
【図7】無段変速機の変速線の変更について説明するための図である。
【図8】一部変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本発明に係る車両制御装置が適用される車両の概略構成を示している。車両は、エンジン1、トルクコンバータ2、前後進切換機構3、無段変速機4を備え、エンジン1の出力回転は、これらの機構を介して図示しない駆動輪へと伝達される。
【0011】
エンジン1は、トルク調整手段としての電子制御式スロットルバルブを備えたエンジン1であり、スロットル開度を調整することによって、エンジン1のトルクを調整することができる。
【0012】
無段変速機4は、一対のプーリ41、42の間にベルト43を巻き掛けて構成される所謂ベルト式無段変速機である。油圧制御回路44によってプーリ41、42への供給油圧を変更し、プーリ41、42の溝幅を変更することによって、入力回転速度と出力回転速度との比、すなわち変速比を無段階に変更することができる。
【0013】
また、無段変速機4は、スロットル開度及びエンジン回転速度に応じて変速比が自動的に無段階に変更される通常の自動変速モードに加え、マニュアルモードを備えている。マニュアルモードは、複数の変速段(固定変速比)を備えたモードであり、運転者がセレクトレバーを操作してマニュアルモードを選択し、この状態でシフトアップ操作又はシフトダウン操作を行うと、無段変速機4の変速段が変更され、無段変速機4の変速比が選択された変速段に対応する変速比に制御される。
【0014】
図2は、マニュアルモード用変速線を示している。変速段は1速段から6速段まであり、変速段それぞれについて固定の変速比が割り当てられている。
【0015】
コントローラ10は、エンジン1及び無段変速機4を統合的に制御するコントローラであり、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェース等で構成される。コントローラ10には、エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度センサ21、車速を検出する車速センサ22、セレクトレバー位置を検出するインヒビタスイッチ23、アクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサ24等からの信号が入力される。コントローラ10は、これら信号に基づき、エンジン1の燃料噴射量、スロットル開度及び点火時期、並びに、無段変速機4の変速比を制御する。
【0016】
スロットル開度を制御するにあたっては、コントローラ10のRAMにアクセル開度とスロットル開度との関係を規定したテーブルが記憶されており、コントローラ10は、これを参照してアクセル開度に対応するスロットル開度を求め、当該スロットル開度が実現されるようスロットルバルブを制御する。
【0017】
さらに、コントローラ10は、ドライバビリティの向上、特に、高回転域における加速の伸びを向上させるために、以下に説明する制御によってエンジン1のトルクカーブの補正、及び、無段変速機4の変速線の変更を行う。
【0018】
具体的には、コントローラ10は、運転者がシフトアップ操作を行うエンジン回転速度をRAMに蓄積し、これに基づき、運転者がシフトアップ操作を最も行うエンジン回転速度を求める。そして、コントローラ10は、運転者がシフトアップ操作を最も行うエンジン回転速度までエンジントルクが上昇傾向を継続するようにエンジン1のトルクカーブを補正し、かつ、シフトアップでエンジン回転速度が低下してもエンジントルクがトルクバンド下限値以上になるように、すなわち、エンジントルクが所定のトルクバンドに収まるよう無段変速機4の変速線を変更する。
【0019】
図3は、コントローラ10に上記機能を実装するためのプログラムの内容を示したフローチャートである。本プログラムは、コントローラ10のROMに記憶されており、RAMに読み出されてCPUによって実行される。
【0020】
これについて説明すると、まず、S1では、コントローラ10は、インヒビタスイッチ23からの信号に基づき、マニュアルモードが選択されているか判断する。マニュアルモードが選択されている場合は処理がS2に進み、そうでない場合は処理がS1に戻る。
【0021】
次に、S2では、コントローラ10は、運転者がシフトアップ操作を行ったエンジン回転速度をコントローラ10のRAMに蓄積する。この蓄積は、変速段毎に行われる。
【0022】
図4は、コントローラ10のRAMに蓄積されたデータの一例で、この例では1速段において1→2変速が行われた回数が、エンジン回転速度毎に蓄積されている。コントローラ10のRAMには同様のデータが変速段毎に蓄積される。
【0023】
S3では、コントローラ10は、エンジン1のキーオフがなされたか判断する。キーオフがなされたとの判断がなされた場合は、処理がS4に進み、そうでない場合は処理がS1に戻る。
【0024】
S4では、コントローラ10は、RAMに蓄積されたデータ量が十分か、すなわち、蓄積されたデータが信頼できるものかを判断する。データ量は、例えば、各変速段のデータの個数が200個を超えた場合に十分であると判断される。データ量が十分と判断された場合は処理がS5に進み、そうでない場合は処理がS1に戻る。
【0025】
S5では、コントローラ10は、エンジン1のトルクカーブの補正と、無段変速機4の変速線の変更とを行う。
【0026】
まず、エンジン1のトルクカーブの補正について説明する。
【0027】
ここでは、無段変速機4の変速段が1速の場合について説明する。まず、記憶手段かつ検索手段かつ制御手段としてのコントローラ10は、RAMに記憶されている、1速段においてシフトアップ操作が行われたエンジン回転速度のデータから、シフトアップ操作が行われた回数が最も多いエンジン回転速度を検索し、これをNe1upとする。
【0028】
そして、アクセル開度一定の状態で車両が加速した場合に、エンジン回転速度がゼロからNe1upまで増加するにつれエンジントルクが継続して増大するように、すなわち、エンジントルク上昇率が常に正となるように、かつ、エンジン回転速度がNe1upの時にエンジントルクが最大になるように、エンジン1のスロットル開度を補正し、これによってトルクカーブを補正する。具体的には、アクセル開度とスロットル開度との関係を規定したテーブルが補正される。
【0029】
図5は、エンジン1のトルクカーブの補正が行われる様子を示したものである。
【0030】
補正前のトルクカーブ(図中丸1)では、エンジン回転速度がNe1maxの時にエンジントルクが最大になるが、エンジントルクはその後、エンジン回転速度がシフトアップ操作が最も行われるエンジン回転速度であるNe1upになるまで減少し続ける。この結果、シフトアップ操作直前の高回転域では、エンジントルクの落ち込みによって、加速が鈍ることになる。
【0031】
これに対し、上記トルクカーブの補正によれば、中低速域ではスロットル開度が減少補正されるとともに、シフトアップ操作直前の高回転域ではスロットル開度が増大補正され、図中丸1’で示されるように、シフトアップ操作が最も行われるエンジン回転速度であるNe1upまでエンジントルクの増加傾向が継続し、かつ、Ne1upでエンジントルクが最大になる。
【0032】
無段変速機の変速段が2速以上の場合についても同様の補正が行われ、変速段毎にエンジン1のトルクカーブが補正される。
【0033】
次に、無段変速機4の変速線の変更について説明する。
【0034】
上記エンジン1のトルクカーブの補正によれば、シフトアップ操作が行われるまでエンジントルクが継続して増大し、運転者は加速の伸びを楽しむことができる。しかしながら、シフトアップ後のエンジン回転速度の落ち込みが大きいと、エンジントルクの落ち込みも大きく、シフトアップ後に加速の伸びを継続させることができない。
【0035】
そこで、コントローラ10は、さらに、シフトアップ後のエンジントルクが所定のトルクバンド下限値以上になるように、2速段以上の変速線の変更も併せて行う。
【0036】
図6及び図7は、2速段の変速線が変更される様子を示したものである。
【0037】
1速段で走行中にエンジン回転速度がNe1upに到達し、シフトアップ操作が行われると、無段変速機4の変速段が1速段から2速段にシフトアップされる。この時、2速段の変速線の変更が行われないと、エンジン回転速度はNe2まで落ち込み、これに伴い、エンジントルクもトルクバンド下限値以下に落ち込む(図6)。このようなエンジントルクの落ち込みが生じると、シフトアップ直後は加速が鈍り、運転者は加速の伸びを楽しむことができない。
【0038】
このため、コントローラ10は、2速段の変速線を図7に示すようにロー側に変更し、(図中四角2から四角2’)、シフトアップ後のエンジン回転速度が、エンジントルクがトルクバンド下限値となるNe2’よりも落ち込まないようにする。
【0039】
これにより、2速段にシフトアップしても、エンジントルクがトルクバンド下限値よりも落ち込むことがなくなる。すなわち、エンジントルクがシフトアップ後も所定のトルクバンドに入るようになり、運転者は加速の伸びを楽しむことができる。
【0040】
なお、ここでは2速段の変速線の変更について説明したが、3速段以上の変速線の変更についても同様にシフトアップ後のエンジントルクがトルクバンド下限値以上になるようにロー側に変更される。
【0041】
以上のようにしてエンジン1のトルクカーブの補正、及び、無段変速機4の変速線の変更が行われ、次回のキーオンからは、補正されたトルクカーブ及び変更された変速線を用いてエンジン1及び無段変速機4が制御される。
【0042】
続いて、上記実施形態の作用効果について説明する。
【0043】
上記実施形態によれば、シフトアップ操作が最も行われたエンジン回転速度までエンジントルクがエンジン回転速度の増加に伴い増加するようにスロットル開度が補正されるので、運転者はシフトアップ直前の高回転域においても加速の伸びを楽しむことができる。
【0044】
また、上記実施形態では、シフトアップ操作が最も行われたエンジン回転速度においてエンジントルクが最大になるようにしたので、エンジン1の性能を最大限活かした加速が可能となる。
【0045】
また、シフトアップ操作が行われるエンジン回転速度は変速段によって異なるが、上記実施形態によれば、トルクカーブの補正は変速段毎に行われるので、いずれの変速段で加速する場合であっても、上記作用効果が奏される。
【0046】
また、シフトアップ操作後のエンジントルクがトルクバンド下限値以上になるように無段変速機4の変速線を変更するようにしたことによって、シフトアップ後のトルクの落ち込みを抑え、シフトアップ後も良好な加速の伸びを継続させることができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0048】
例えば、上記実施形態では、エンジン1のトルクカーブの補正を、スロットル開度を補正することによって行っているが、エンジン1を、圧縮比可変機構を持ったエンジンとし、エンジン1の圧縮比を補正することで、エンジン1のトルクカーブを補正するようにしてもよい。
【0049】
図8は、スロットル開度を補正することに代えてエンジン1の圧縮比を補正して1速段におけるエンジン1のトルクカーブを補正した場合を示している。
【0050】
このように、エンジン1のトルクカーブの補正をエンジン1の圧縮比を補正することによって行っても同様の作用効果が奏される。
【0051】
なお、エンジン1のトルクカーブの補正は、スロットル開度の補正とエンジン1の圧縮比の補正とを組み合わせ行うようにしても構わない。
【0052】
また、上記実施形態におけるエンジン1のトルクカーブの補正は、車両に搭載される変速機が有段変速機であっても適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 エンジン
4 無段変速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン、前記エンジンの出力回転を変速する変速機、及び、前記エンジンのトルクを調整するトルク調整手段を備えた車両制御装置であって、
シフトアップ操作が行われたエンジン回転速度を記憶する記憶手段と、
前記記憶されたエンジン回転速度からシフトアップ操作が最も行われたエンジン回転速度を検索する検索手段と
同一アクセル開度で加速した場合に前記シフトアップ操作が最も行われたエンジン回転速度までエンジントルクがエンジン回転速度の増加に伴い増加するように前記トルク調整手段によってエンジントルクを調整する制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記制御手段は、前記シフトアップ操作が最も行われたエンジン回転速度においてエンジントルクが最大になるように前記トルク調整手段によってエンジントルクを調整する、
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両制御装置であって、
前記記憶手段は、変速段毎に前記シフトアップ操作が行われたエンジン回転速度を記憶し、
前記検索手段は、前記シフトアップ操作が最も行われたエンジン回転速度を変速段毎に検索し、
前記制御手段は、変速段毎に、同一アクセル開度で加速した場合に前記シフトアップ操作が最も行われたエンジン回転速度までエンジントルクがエンジン回転速度の増加に伴い増加するように前記トルク調整手段によってエンジントルクを調整する、
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかひとつに記載の車両制御装置であって、
前記変速機は無段変速機であり、
シフトアップ操作後のエンジントルクがトルクバンド下限値以上になるように前記変速機の変速線を変更する、
ことを特徴とする車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−44243(P2013−44243A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180601(P2011−180601)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】