説明

車両前部構造

【課題】内燃機関とサイドメンバの間の隙間が小さい場合であっても、車両の衝突時にサイドメンバによってダッシュパネルに伝達される衝撃を少なくすることができる車両前部構造を提供すること。
【解決手段】エンジン28の一部を構成する電動ウォータポンプ31がサイドメンバ22の車幅方向の内側に対向するようにパワーユニット30をサイドメンバ22、23に搭載するようにした車両前部構造21において、電動ウォータポンプ31の外部にサイドメンバ22に向かって突出するストッパー部37を設け、車両が前方から衝突してサイドメンバ22が車両の前後方向に変形したときに、ストッパー部37にサイドメンバ22が衝突するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関し、特に、車両の衝突時等にサイドメンバの変形による衝撃がダッシュパネルに伝達され難くした車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両前部構造としては、図12に示すようなものが知られている(例えば、特許文献1参照)。図12において、前輪駆動車等の車両前部のエンジンルームには、左右両側にそれぞれ前後のサイドメンバ1、2が設けられており、このサイドメンバ1、2の前部には車両の幅方向に延在するバンパリインフォースメント3が接続されているとともに、サイドメンバ1、2の後部にはエンジンルームと車室とを仕切るように幅方向に延在するダッシュパネル4が設けられている。
【0003】
また、エンジンルーム内にはエンジン5および変速機6とからなるパワーユニット7が設けられており、このパワーユニット7は、マウント部材8を介してサイドメンバ1、2に弾性的に当接されている。
【0004】
また、パワーユニット7の変速機6からは車幅方向外側となる左右両側へ向かって車軸9が延在しており、車軸9には前輪10が設けられている。また、サイドメンバ1、2は、車両の前方側の間隔が広くなっており、前方から後方に向かって傾斜部1a、2aを介して間隔が狭くなっている。このようにサイドメンバ1、2の幅が前方から後方に向かって狭くなるのは、車両の旋回時に前輪10の左右への揺動角を少ないスペースで確保するためである(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
このような構成を有する車両前部構造にあっては、クランク軸が車両の幅方向と同方向に延在する横置きエンジン5を、車幅が大きくならないように少ないスペースでサイドメンバ1、2に取付ける場合には、サイドメンバ1、2との間に僅かな隙間を介してエンジン5をサイドメンバ1、2に搭載することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−216907号公報
【特許文献2】特開2007−45261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来の車両前部構造にあっては、エンジン5をサイドメンバ1、2との間に僅かな隙間を介してサイドメンバ1、2に搭載する場合には、車両が障害物Eに衝突した時、特にオフセット(車両の前後方向中心軸に対して片側)衝突時に、衝突荷重Fの作用によりサイドメンバ1が、図13に示すように、傾斜部1aを境にして上面から見て車両の前後方向にZ字状に折れ曲がる、所謂Z字折れしてしまうことが考えられる。
【0008】
一般に、サイドメンバ1が車両の内側に大きく湾曲する場合には、サイドメンバ1の剛性が低下してサイドメンバ1の前方から後方のダッシュパネル4に伝達される衝撃を吸収することができるが、サイドメンバ1がZ字折れしてしまうと、サイドメンバ1が車両の前後方向に剛性を保ったままサイドメンバ1の前方から後方のダッシュパネル4に衝撃を伝達することになり、サイドメンバ1が衝撃を充分に吸収することができないおそれがあった。
【0009】
特に、燃費の改善を図るために、クランクシャフトによって駆動されるウォータポンプに代えて、図12、図13に示すように、電動ウォータポンプ11をエンジン5の側面に設置する場合には、エンジン5の車幅がより一層増大してしまうため、エンジン5とサイドメンバ1の間の隙間がより一層少なくなってしまう。
【0010】
このため、サイドメンバ1が内側に湾曲して衝撃を充分に吸収するためのスペースがより一層確保し難くなってしまい、サイドメンバ1とエンジン5の間の隙間を小さくしてエンジン5をサイドメンバ1に取付けるためには、未だ改善の余地がある。
【0011】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、内燃機関とサイドメンバの間の隙間が小さい場合であっても、車両の衝突時にサイドメンバによってダッシュパネルに伝達される衝撃を少なくすることができる車両前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る車両前部構造は、上記目的を達成するため、(1)内燃機関および前記内燃機関に連結された変速機から構成されるパワーユニットと、ダッシュパネルによって車室内側と隔離された車両前部のエンジンルーム内の下方の車両の幅方向両側に、車両の前後方向に沿って延在して設けられ、前記パワーユニットが搭載される一対のサイドメンバとを備え、前記内燃機関の一部を構成する内燃機関部材が前記一対のサイドメンバの一方の車幅方向の内側に対向するように前記パワーユニットを前記一対のサイドメンバに搭載するようにした車両前部構造において、前記内燃機関部材の外部に前記一方のサイドメンバに向かって突出するストッパー部を設け、前記車両が前方から衝突して前記一方のサイドメンバが前記車両の前後方向に変形したときに、前記ストッパー部に前記一方のサイドメンバが衝突するようにしたものから構成されている。
【0013】
この構成により、内燃機関部材の外部に一方のサイドメンバに向かって突出するストッパー部を設け、車両が前方から衝突して一方のサイドメンバが車両の前後方向に変形したときに、ストッパー部に一方のサイドメンバが衝突するようにしたので、車幅を小さくするために一方のサイドメンバと内燃機関の間の隙間が小さくなるようにパワーユニットがサイドメンバに搭載された車両において、車両が前方から衝突して一方のサイドメンバが車両の前後方向にZ字折れした場合に、内燃機関部品に設けられたストッパー部にZ字折れしたサイドメンバ部分が衝突すると、サイドメンバが前方への移動を拘束される。
【0014】
このため、ストッパー部から後方のサイドメンバ部分にダッシュパネルを始点とする曲げモーメントを発生させることができ、このサイドメンバ部分を車両の幅方向外方にくの字に屈曲させることができる。
【0015】
このように、ストッパー部から後方のサイドメンバ部分をくの字に屈曲させることで、サイドメンバの剛性を低下させてサイドメンバの前方から後方のダッシュパネルに伝達される衝撃を緩和しながら吸収することができ、ダッシュパネルを通して乗員に伝達される衝撃を緩和することができる。
【0016】
上記(1)に記載の車両前部構造において、(2)前記内燃機関部材が、前記内燃機関に冷却水を供給する電動ウォータポンプからなり、前記ウォータポンプのカバーに前記ストッパー部が設けられるものから構成されている。
【0017】
この構成により、一方のサイドメンバに対向する内燃機関の側面に電動ウォータポンプが設けられた場合には、車幅を小さくすると内燃機関と一方のサイドメンバの間の隙間がより一層小さくなってサイドメンバを内方に変形させるスペースを確保することができないが、電動ウォータポンプのカバーにストッパー部を設けることにより、車両が前方から衝突して一方のサイドメンバが車両の前後方向にZ字折れした場合に、カバーに設けられたストッパー部にZ字折れしたサイドメンバ部分を衝突させてストッパー部から後方のサイドメンバ部分を車両の幅方向外方にくの字に屈曲させることができる。
【0018】
このため、車幅を小さくするために一方のサイドメンバと内燃機関の間の隙間がより一層小さくなる場合であっても、サイドメンバの剛性を低下させてサイドメンバの前方から後方のダッシュパネルに伝達される衝撃を緩和しながら吸収することができ、ダッシュパネルを通して乗員に伝達される衝撃を緩和することができる。
【0019】
上記(2)に記載の車両前部構造において、(3)前記内燃機関部材が、前記内燃機関のクランクシャフトの回転を前記内燃機関に備えられた他の補機に伝達するタイミングチェーンを覆うチェーンカバーから構成されている。
【0020】
この構成により、一方のサイドメンバにチェーンカバーを対向させた場合には、チェーンカバーにストッパー部を設けることにより、車両が前方から衝突して一方のサイドメンバが車両の前後方向にZ字折れした場合に、カバーに設けられたストッパー部にZ字折れしたサイドメンバ部分を衝突させてストッパー部から後方のサイドメンバ部分を車両の幅方向外方にくの字に屈曲させることができる。
【0021】
このため、車幅を小さくするために一方のサイドメンバと内燃機関の間の隙間が小さくなる場合であっても、サイドメンバの剛性を低下させてサイドメンバの前方から後方のダッシュパネルに伝達される衝撃を緩和しながら吸収することができ、ダッシュパネルを通して乗員に伝達される衝撃を緩和することができる。
【0022】
上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の車両前部構造において、(4)前記一対のサイドメンバは、前記車両の前方の間隔が広く、傾斜部を介して車両の後方の間隔が狭くなるように構成され、前記内燃機関部材が一方のサイドメンバの前記傾斜部に対向するものから構成されている。
【0023】
この構成により、車両の前方からの衝突時にサイドメンバが傾斜部を境にしてZ字折れした場合に、Z字折れの車両後端側がストッパー部に確実に衝突するようにZ字折れの車両後端側を車両の幅方向内方に変形させることができる。
【0024】
上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の車両前部構造において、(5)前記変速機が前記一対のサイドメンバの他方の車幅方向の内側に対向するように、前記パワーユニットを前記一対のサイドメンバに搭載し、前記変速機のケースの外部に前記他方のサイドメンバに向かって突出するストッパー部を設け、前記車両が前方から衝突して前記他方のサイドメンバが変形したときに、前記ストッパー部に前記他方のサイドメンバが衝突するようにしたものから構成されている。
【0025】
この構成により、変速機のケースの外部に他方のサイドメンバに向かって突出するストッパー部を設け、車両が前方から衝突して他方のサイドメンバが車両の前後方向に変形したときに、ストッパー部に他方のサイドメンバが衝突するようにしたので、車幅を小さくするために一方のサイドメンバと変速機のケースの間の隙間が小さくなるようにパワーユニットがサイドメンバに搭載された車両において、車両が前方から衝突して他方のサイドメンバが車両の前後方向にZ字折れした場合に、変速機のケースに設けられたストッパー部にZ字折れしたサイドメンバ部分が衝突すると、サイドメンバが前方への移動を拘束される。
【0026】
このため、ストッパー部から後方のサイドメンバ部分にダッシュパネルを始点とする曲げモーメントを発生させることができ、このサイドメンバ部分を車両の幅方向外方にくの字に屈曲させることができる。
【0027】
このように、ストッパー部から後方のサイドメンバ部分をくの字に屈曲させることで、サイドメンバの剛性を低下させてサイドメンバの前方から後方のダッシュパネルに伝達される衝撃を緩和しながら吸収することができる。この結果、オフセット衝突およびフルラップ衝突(全突)において、ダッシュパネルを通して乗員に伝達される衝撃を緩和することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、内燃機関とサイドメンバの間の隙間が小さい場合であっても、車両の衝突時にサイドメンバによってダッシュパネルに伝達される衝撃を少なくすることができる車両前部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る車両前部構造の第1の実施の形態を示す図であり、車両前部構造の斜視図である。
【図2】本発明に係る車両前部構造の第1の実施の形態を示す図であり、車両前部構造の上面図である。
【図3】本発明に係る車両前部構造の第1の実施の形態を示す図であり、車両前部構造の側面図である。
【図4】本発明に係る車両前部構造の第1の実施の形態を示す図であり、サイドメンバと電動ウォータポンプの位置関係を示す車両前部構造の要部上面図である。
【図5】本発明に係る車両前部構造の第1の実施の形態を示す図であり、(a)は、電動ウォータポンプの斜視図、(b)は、同図(a)のA方向矢視図、(c)は、同図(A)のB方向矢視図である。
【図6】本発明に係る車両前部構造の第1の実施の形態を示す図であり、車両のオフセット衝突時のサイドメンバの挙動を示す車両前部構造の要部上面図である。
【図7】本発明に係る車両前部構造の第2の実施の形態を示す図であり、車両前部構造の上面図である。
【図8】本発明に係る車両前部構造の第2の実施の形態を示す図であり、チェーンカバーを取り外したときのエンジンの車幅方向側面図である。
【図9】本発明に係る車両前部構造の第2の実施の形態を示す図であり、エンジン、チェーンベルトおよびチェーンカバーの分解斜視図である。
【図10】本発明に係る車両前部構造の第3の実施の形態を示す図であり、車両前部構造の上面図である。
【図11】本発明に係る車両前部構造の第3の実施の形態を示す図であり、車両のフルラップ衝突時のサイドメンバの挙動を示す車両前部構造の要部上面図である。
【図12】従来の車両前部構造の上面図である。
【図13】車両のオフセット衝突時の従来のサイドメンバの挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る車両前部構造の実施の形態について、図面を用いて説明する。
(第1の実施の形態)
まず、構成を説明する。
図1〜図3において、車両前部構造21は、車両の車幅方向両端部に車両の前後方向に沿ってサイドメンバ22、23が配設されており、左右のサイドメンバ22、23の前端部にはバンパリインフォースメント24が架設され、車両が前方から衝突した場合には、バンパリインフォースメント24に入力する衝突荷重を左右のサイドメンバ22、23で受けるようになっている。
【0031】
また、サイドメンバ22、23の後部にはダッシュパネル25が取付けられており、このダッシュパネル25により、アクセルペダル、ブレーキプダル等のペダル26aを有する車室であるキャビン26と車両の前部のエンジンルーム27が仕切られている。すなわち、本実施の形態のサイドメンバ22、23は、エンジンルーム27内の下方の車両の幅方向両側に、車両の前後方向に沿って延在して設けられている。
なお、図1〜図3において、X方向が車両の前方、Y方向が車両の後方、UP方向が上方を示している。
【0032】
また、サイドメンバ22、23は、車両の前後方向から見た断面形状が矩形の閉断面構造となっており、鉄またはアルミニウム等の金属材料から構成されている。また、サイドメンバ22、23には内燃機関であるエンジン28と変速機29から構成されるパワーユニット30が設けられており、エンジン28と変速機29は車幅方向に直列に設置されている。
【0033】
このエンジン28は、横置きに、すなわち、クランク軸が車幅方向に平行になるように設置された直列多気筒ガソリンエンジンから構成されており、エンジン28の気筒数、燃料の種類、燃焼方式、噴射方式等には特に制限されるものではない。
【0034】
また、エンジン28の車幅方向側面にはエンジン28の一部を構成する内燃機関部材としての電動ウォータポンプ31のカバー32が取付けられており、電動ウォータポンプ31は、エンジン28内で冷却水を循環させるものであって、電動モータと、電動モータの回転を制御するためにコイルへの通電を切換え制御する通電制御回路とを備えている。
【0035】
電動モータは、冷却水を吸入するとともに吐出する金属製のロータ(羽根部材)と、ロータを先端に取付けてロータと一体に回転するシャフトと、エンジンに対して固定されるハウジングと、シャフトをハウジングに対して相対回転可能に支持する軸受と、シャフトの外周面に形成される磁石と、ハウジング内周に配設されるコアと、各コアに巻回されて磁石とともに磁気回路を構成可能な複数のコイルとを備えたDCブラシレスモータである。電動モータおよび通電制御回路を覆うようにカバー32がエンジン28のシリンダブロックの側面に取付けられている。なお、カバー32は、アルミニウム製である。
【0036】
また、パワーユニット30の変速機29からは車幅方向外側となる左右両側に向かって車軸33が延在しており、車軸33には前輪34が設けられている。また、サイドメンバ22、23は、車両の前方の間隔が広くなっており、延在方向途中に車幅方向内方に向かって傾斜する傾斜部22a、23aを備え、傾斜部22a、23aから車両の後方の間隔が狭くなるように構成されている。
以下、傾斜部22a、23aに対して、車両の前方側のサイドメンバ22、23の部分を前サイドメンバ22b、23bといい、車両の後方側のサイドメンバ22、23の部分を後サイドメンバ22c、23cという。
【0037】
このように前サイドメンバ22b、23bに対して後サイドメンバ22c、23cの間隔が狭くなっているのは、図2に示すように、車両の旋回時に前輪34の左右への揺動角を少ないスペースで確保するためである。
【0038】
また、電動ウォータポンプ31は、サイドメンバ22に対向するようにエンジン28に取付けられており、電動ウォータポンプ31とサイドメンバ22の高さは、同一となっている。
【0039】
すなわち、本実施の形態のパワーユニット30は、内燃機関部材である電動ウォータポンプ31がサイドメンバ22の一方の車幅方向の内側に対向するようにサイドメンバ22、23に搭載されている。具体的には、エンジン28は、マウント部材35を介してサイドメンバ22に弾性的に支持されており、変速機29は、マウント部材36を介してサイドメンバ23に弾性的に支持されている。なお、サイドメンバ22の車幅方向内側とは車両の前後方向中心軸側に対向するサイドメンバ22の内周面をいう。
【0040】
一方、カバー32の外部にはストッパー部37が一体的に設けられており、図4、図5に示すように、ストッパー部37は、カバー32の外周部から傾斜部22aに向かって突出し、車幅方向と平行な平面を有する係止板部37aと、係止板部37aに一体的に設けられ、係止板部37aの背面から車両の前方に向かうに従って徐々に高さが低くなる複数の傾斜板部37bとを有し、傾斜板部37bによって係止板部37aが補強されるようになっている。
【0041】
本実施の形態では、横置き式のエンジン28を有するパワーユニット30がサイドメンバ22、23に搭載されるため、車幅方向長さを短くしてパワーユニット30をサイドメンバ22、23に搭載する場合、すなわち、サイドメンバ22、23の間隔を狭くしてパワーユニット30をサイドメンバ22、23に搭載する場合に、サイドメンバ22と電動ウォータポンプ31の間の隙間を非常に小さくする必要があるため(図4参照)、車両が前方から衝突してサイドメンバ22が車両の前後方向に変形したときに、ストッパー部の係止板部37aにサイドメンバ22を衝突させるようにしている。
【0042】
次に、車両の前方からのオフセット(車両の前後方向中心軸に対して片側)衝突時のサイドメンバ22の挙動について説明を行う。
車幅方向長さを短くして横置き式のエンジン28を有するパワーユニット30をサイドメンバ22、23に搭載する場合には、パワーユニット30とサイドメンバ22、23の間の隙間が非常に小さくなる。
【0043】
特に、燃費の改善を図るために、クランクシャフトによって駆動されるウォータポンプに代えて、電動ウォータポンプ31をエンジン28の側面に設置する場合には、エンジン28の車幅がより一層増大してしまうため、エンジン28とサイドメンバ22との隙間がより一層少なくなってしまう。
【0044】
そして、図6に示すように、車両が前方の障害物Eにオフセット衝突した場合に、サイドメンバ22が車両の幅方向内方に変形するスペースを確保できないことから、サイドメンバ22が傾斜部22aを境に上方から見て車両の前後方向に折れる、所謂Z字折れが発生する。
具体的には、前サイドメンバ22b、23bに対して後サイドメンバ22c、23cの間隔が狭くなっているので、Z字折れ部38の車両後端側(以下、単に後端38aという)がストッパー部37の係止板部37aに確実に衝突するように後端38aが車両の幅方向内方に変形する。
【0045】
このとき、電動ウォータポンプ31のカバー32の外周部に設けられたストッパー部37の係止板部37aにZ字折れ部38の後端38aが衝突するため、サイドメンバ22が前方への移動を拘束される。
【0046】
このため、車両の衝突の衝撃時の車両の慣性力により後サイドメンバ22cにダッシュパネル25を始点とする曲げモーメントMを発生させることができ、後サイドメンバ22cを車両の幅方向外方にくの字に屈曲させることができる。
【0047】
このように、後サイドメンバ22cをくの字に屈曲させることで、サイドメンバ22の剛性を低下させてサイドメンバ22の前方から後方のダッシュパネル25に伝達される衝撃を緩和しながら吸収することができ、ダッシュパネル25を通して乗員に伝達される衝撃を緩和することができる。
【0048】
なお、本実施の形態では、ストッパー部37をカバー32と一体的に設けているが、ストッパー部37をカバー32と別体に設け、ボルト等によってカバー32に後付けするようにしてもよい。
【0049】
(第2の実施の形態)
図7〜図9に基づいて第2の実施の形態の車両前部構造の説明を行うが、本実施の形態では、第1の実施の形態と同一の構成には同一の符号を用いて説明を省略する。
図7において、サイドメンバ22に対向するエンジン28の内燃機関部材であるチェーンカバー41が設けられており、このチェーンカバー41はエンジン28の車幅方向側面に設けられたチェーンベルト42を覆うようになっている。
【0050】
図8に示すように、チェーンベルト42は、エンジン28のクランクシャフト43の端部に設けられたスプロケット44と、補機である吸気カムシャフト45および排気カムシャフト46の端部に設けられたスプロケット47、48とに巻回されており、クランクシャフト43から吸気カムシャフト45および排気カムシャフト46に駆動力を伝達するようになっている。
【0051】
チェーンカバー41は、エンジン28の側部にボルト等によって固定されるようになっており、チェーンカバー41は、サイドメンバ22との間に僅かな隙間を介してサイドメンバ22に対向している。
【0052】
また、図7、図9に示すように、チェーンカバー41にはストッパー部51が設けられており、このストッパー部51は、サイドメンバ22に対向するようにチェーンカバー41に取付けられており、ストッパー部51とサイドメンバ22の高さは、同一となっている。
【0053】
図9(b)に示すように、ストッパー部51は、チェーンカバー41の外周部から傾斜部22aに向かって突出し、車幅方向と平行な平面を有する係止板部51aと、係止板部51aに一体的に設けられ、係止板部51aの背面から車両の前方に向かうに従って徐々に高さが低くなる複数の傾斜板部51bとを有し、傾斜板部51bによって係止板部51aが補強されるようになっている。
【0054】
本実施の形態では、第1の実施の形態の図6と同様に、車両が前方の障害物Eにオフセット衝突した場合に、サイドメンバ22が車両の幅方向内方に変形するスペースを確保できないことから、サイドメンバ22が傾斜部22aを境に上方から見て車両の前後方向に折れる、所謂Z字折れが発生する。
【0055】
このとき、チェーンカバー41の外周部に設けられたストッパー部51の係止板部51aにZ字折れ部38の後端38aが衝突するため、サイドメンバ22が前方への移動を拘束される。
【0056】
このため、車両の衝突の衝撃時の車両の慣性力により後サイドメンバ22cにダッシュパネル25を始点とする曲げモーメントMを発生させることができ、後サイドメンバ22cを車両の幅方向外方にくの字に屈曲させることができる。
【0057】
本実施の形態にあっても、後サイドメンバ22cをくの字に屈曲させることで、サイドメンバ22の剛性を低下させてサイドメンバ22の前方から後方のダッシュパネル25に伝達される衝撃を緩和しながら吸収することができ、ダッシュパネル25を通して乗員に伝達される衝撃を緩和することができる。
【0058】
なお、本実施の形態では、ストッパー部51をチェーンカバー41と一体的に設けているが、ストッパー部51をチェーンカバー41と別体に設け、ボルト等によってチェーンカバー41に後付けするようにしてもよい。
【0059】
この場合には、電動ウォータポンプを用いる場合には、電動ウォータポンプをエンジン28の前側、すなわち、バンパリインフォースメント24側に設けてもよい。また、電動ウォータポンプを用いない場合には、クランクシャフト43の動力がチェーンベルト42によって伝達されることにより駆動されるウォータポンプを用いてもよい。
【0060】
(第3の実施の形態)
図10、図11に基づいて第2の実施の形態の車両前部構造の説明を行うが、本実施の形態では、第1の実施の形態と同一の構成には同一の符号を用いて説明を省略する。
図10において、変速機29のケース29aの車幅方向側面には図5、図9(b)と同様に係止板部51aおよび傾斜板部51bを有するストッパー部51が設けられており、このストッパー部51は、サイドメンバ23の高さと同一の高さとなるように変速機29のケース29aに取付けられている。
【0061】
なお、このストッパー部51は、変速機29のケース29aに一体的に設けてもよく、変速機29のケース29aと別体に設け、ボルト等によって変速機29のケース29aに後付けするようにしてもよい。
【0062】
次に、車両の前方からのフルラップ衝突(全突)時のサイドメンバ22、23の挙動について説明を行う。
図11に示すように、車両が前方の障害物Eにオフセット衝突した場合に、サイドメンバ22、23が車両の幅方向内方に変形するスペースを確保できないことから、サイドメンバ22、23が傾斜部22a、23aを境に上方から見て車両の前後方向に折れる、所謂Z字折れが発生する。
【0063】
具体的には、前サイドメンバ22b、23bに対して後サイドメンバ22c、23cの間隔が狭くなっているので、Z字折れ部38の後端38aがストッパー部37の係止板部37aに確実に衝突するように後端38aが車両の幅方向内方に変形する。
【0064】
このとき、電動ウォータポンプ31のカバー32の外周部に設けられたストッパー部37の係止板部37aおよび変速機29のケース29aの外周部に設けられたストッパー部51の係止板部51aにZ字折れ部38の後端38aが衝突するため、サイドメンバ22が前方への移動を拘束される。
【0065】
このため、車両の衝突の衝撃時の車両の慣性力により後サイドメンバ22c、23cにダッシュパネル25を始点とする曲げモーメントMを発生させることができ、後サイドメンバ22c、23cを車両の幅方向外方にくの字に屈曲させることができる。
【0066】
このように、後サイドメンバ22c、23cをくの字に屈曲させることで、サイドメンバ22、23の剛性を低下させてサイドメンバ22、23の前方から後方のダッシュパネル25に伝達される衝撃を緩和しながら吸収することができ、ダッシュパネル25を通して乗員に伝達される衝撃を緩和することができる。
なお、サイドメンバ23に衝撃が加わるオフセット衝突時のサイドメンバ23の挙動も上述したもの同様となる。
【0067】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0068】
以上のように、本発明に係る車両前部構造は、内燃機関とサイドメンバの隙間が小さい場合であっても、車両の衝突時にサイドメンバによってダッシュパネルに伝達される衝撃を少なくすることができるという効果を有し、車両の衝突時等にサイドメンバの変形による衝撃がダッシュパネルに伝達され難くした車両前部構造等として有用である。
【符号の説明】
【0069】
21 車両前部構造
22、23 サイドメンバ
22a、23a 傾斜部
25 ダッシュパネル
27 エンジンルーム
28 エンジン
29 変速機
29a ケース
30 パワーユニット
31 電動ウォータポンプ(内燃機関部材)
32 カバー
37 ストッパー部
41 チェーンカバー(内燃機関部材)
42 チェーンベルト
51 ストッパー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関および前記内燃機関に連結された変速機から構成されるパワーユニットと、
ダッシュパネルによって車室内側と隔離された車両前部のエンジンルーム内の下方の車両の幅方向両側に、車両の前後方向に沿って延在して設けられ、前記パワーユニットが搭載される一対のサイドメンバとを備え、
前記内燃機関の一部を構成する内燃機関部材が前記一対のサイドメンバの一方の車幅方向の内側に対向するように前記パワーユニットを前記一対のサイドメンバに搭載するようにした車両前部構造において、
前記内燃機関部材の外部に前記一方のサイドメンバに向かって突出するストッパー部を設け、前記車両が前方から衝突して前記一方のサイドメンバが前記車両の前後方向に変形したときに、前記ストッパー部に前記一方のサイドメンバが衝突するようにしたことを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
前記内燃機関部材が、前記内燃機関に冷却水を供給する電動ウォータポンプからなり、前記ウォータポンプのカバーに前記ストッパー部が設けられることを特徴とする請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記内燃機関部材が、前記内燃機関のクランクシャフトの回転を前記内燃機関に備えられた他の補機に伝達するタイミングチェーンを覆うチェーンカバーから構成されることを特徴とする請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記一対のサイドメンバは、前記車両の前方の間隔が広く、傾斜部を介して車両の後方の間隔が狭くなるように構成され、前記内燃機関部材が一方のサイドメンバの前記傾斜部に対向することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の車両前部構造。
【請求項5】
前記変速機が前記一対のサイドメンバの他方の車幅方向の内側に対向するように、前記パワーユニットを前記一対のサイドメンバに搭載し、
前記変速機のケースの外部に前記他方のサイドメンバに向かって突出するストッパー部を設け、前記車両が前方から衝突して前記他方のサイドメンバが変形したときに、前記ストッパー部に前記他方のサイドメンバが衝突するようにしたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1の請求項に記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−184674(P2010−184674A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31584(P2009−31584)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】