説明

車両前部構造

【課題】バンパ骨格部材を利用してパワーユニットを車体に支持させることができる車両前部構造を得る。
【解決手段】車両前部構造10は、それぞれ車両前後方向に長手とされ車幅方向に並列された一対のフロントサイドメンバ12と、車幅方向に長手とされ一対のフロントサイドメンバ12の前端部間を架け渡したバンパリインフォースメント28と、該バンパリインフォースメント28の車両後方に配置されると共に車幅方向に沿ったロール軸を有するパワーユニット50を一対のフロントサイドメンバ12のそれぞれに弾性的に連結させた一対の左右のエンジンマウント64と、パワーユニット50とバンパリインフォースメント28とを連結する連結部材66とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーユニットが配置された車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーユニットの車幅方向両端を左右一対のマウントを介して車体フレームに支持させると共に、該パワーユニットの下部を車両後方に延びるトルクロッドを介して車体下部のクロスメンバに連結したパワーユニットの支持構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、車両の前面衝突の際には、トルクロッドを破壊して車体のクラッシュストロークを確保する技術が知られている(例えば、特許文献2、3参照)。一方、エンジンの車両上方にラジエータを配置することでエンジンをフロンバンパ直後に配置した前部車体構造が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−313924号公報
【特許文献2】特開2005−195155号公報
【特許文献3】特開2004−243952号公報
【特許文献4】特開平6−328931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献4の如くエンジンルーム内における車両前後方向の前端部に配置されたエンジンについて、車体への搭載構造に改善の余地がある。
【0005】
本発明は、バンパ骨格部材を利用してパワーユニットを車体に支持させることができる車両前部構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明に係る車両前部構造は、それぞれ車両前後方向に長手とされ、車幅方向に並列された一対の車体骨格部材と、車幅方向に長手とされ、前記一対の車体骨格部材のそれぞれにおける車両前後方向の前端部に、該車両前後方向の後向きに荷重を伝達可能に連結されたバンパ骨格部材と、前記バンパ骨格部材に対する車両前後方向の後方に配置され車幅方向に沿った回転軸を有するパワーユニットを、前記一対の車体骨格部材のそれぞれに弾性的に連結させた一対のマウント部材と、前記パワーユニットと前記バンパ骨格部材とを連結する連結部材と、を備えている。
【0007】
請求項1記載の車両前部構造では、パワーユニットは、車幅方向の両側において、それぞれマウント部材を介して車体骨格部材に弾性的に支持されると共に、車両前後方向の前側において連結部材を介してバンパ骨格部材に支持されている。これにより、車幅方向に沿った回転軸を有するパワーユニットは、該車幅方向に略沿った軸線廻りのロールに対して安定して車体に支持される。
【0008】
ここで、例えばバンパ骨格部材に車両前後方向に前方から後向きの所定値以上の荷重が作用すると、この荷重は、バンパ骨格部材から直接的に、又は連結部材、パワーユニット、及びマウント部材を介して間接的に車体骨格部材に入力(支持)される。すなわち、バンパリインフォースメントからの荷重は、主に一対の車体骨格部材に支持される。このため、本車両前部構造では、例えば前面衝突の際に、パワーユニットを姿勢変化しないように車両後方に移動させて、衝突の衝撃を吸収することができる。すなわち、本車両前部構造では、衝撃吸収ストロークの確保と安定した衝撃吸収性能の確保(ピーク荷重の低減)が図られる。
【0009】
このように、請求項1記載の車両前部構造では、バンパ骨格部材を利用してパワーユニットを車体に支持させることができる。
【0010】
請求項2記載の発明に係る車両前部構造は、請求項1記載の車両前部構造において、前記一対の車体骨格部材のそれぞれにおける車両前後方向の前端部には、車両前後方向に作用する所定値以上の圧縮荷重によって変形される緩衝部材が設けられ、前記各緩衝部材と前記バンパ骨格部材との間には、弾性部材が介在されている。
【0011】
請求項2記載の車両前部構造では、バンパ骨格部材と緩衝部材(車体骨格部材)との間に弾性部材が介在されている。このため、連結部材を介して連結されたバンパ骨格部材とパワーユニットとは、車体に対しマウント部材及び弾性部材によって弾性(フローティング)支持されている。これにより、パワーユニットの振動が車体に伝達されることを抑制することができる。また、バンパ骨格部材の周辺は、例えばエンジンルームの下部等と比較して、弾性部材の配設スペースを確保することができるので、比較的大きな弾性部材を用いて振動吸収性能の向上を図ることができる。
【0012】
請求項3記載の発明に係る車両前部構造は、請求項2記載の車両前部構造において、前記弾性部材は、前記バンパ骨格部材に対する車両上下方向の両側にそれぞれ設けられており、前記バンパ骨格部材は、前記上下一対の前記弾性部材を介して前記緩衝部材に車両上下方向に挟まれている。
【0013】
請求項3記載の車両前部構造では、パワーユニットのロールに伴ってバンパ骨格部材が車両上下方向に振動されるが、この振動は、バンパ骨格部材を車両上下方向の上下から挟む一対の弾性部材によって良好に吸収される。
【0014】
請求項4記載の発明に係る車両前部構造は、請求項1〜請求項3の何れか1項記載の車両前部構造において、前記連結部材は、車両前後方向に作用する所定値以上の圧縮荷重によって変形されるように構成されている。
【0015】
請求項4記載の車両前部構造では、例えば前面衝突の際に、連結部材を圧縮変形させることで、マウント部材を介して車体骨格部材に支持されているパワーユニットにバンパ骨格部材が近接される。これにより、衝撃吸収ストロークが一層良好に確保される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明に係る車両前部構造は、バンパ骨格部材を利用してパワーユニットを車体に支持させることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る車体前部構造の概略全体構成を構成するパワーユニットの搭載構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車体前部構造の概略全体構成を構成するパワーユニットの搭載構造を模式的に示す側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る車体前部構造の概略全体構成を構成するパワーユニットの搭載構造を示す平面図である。
【図4】(A)は図3の3A−3A線に沿った断面図、(B)は図3の3B−3B線に沿った断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る車体前部構造を構成するフロントバンパを示す斜視図である。
【図6】本発明の実施形態に係る車体前部構造を模式的に示す側断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る車体前部構造を模式的に示す平面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る車体前部構造によるホイールベースの延長メカニズムを比較例との比較で説明するため模式的な側面図である。
【図9】本発明の実施形態との比較例に係る車体前部構造の概略全体構成を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係る車両前部構造10について、図1〜図8に基づいて説明する。先ず、車両前部構造10が適用された自動車Aの車体11の構成を説明し、次いで、エンジンルームE、インパネ空間Iへの各ユニットの概略搭載状態を説明し、その後、車体11へのパワーユニット50の搭載構造について説明することとする。なお、図中に適宜記す矢印FRは車両前後方向の前方向を、矢印UPは車両上下方向の上方向を、矢印INは車幅方向内側を、矢印OUTは車幅方向外側をそれぞれ示す。
【0019】
(車体の概略構成)
また、図6には、車両前部構造10が模式的な側断面図にて示されており、図7には、車両前部構造10が模式的な平断面図にて示されている。これらの図に示される如く、車体11は、車両前後方向に長手とされた左右一対の車体骨格部材としてのフロントサイドメンバ12を備えている。
【0020】
フロントサイドメンバ12の車両前後方向の後部12Aは、車両のフロアFに形成されたフロアトンネル14に沿って車両前後方向に延在するトンネルサイドメンバ15の車両前後方向の前端に連続されている。フロントサイドメンバ12はトンネルサイドメンバ15に対し車幅方向外側に位置しており、これらを連結するフロントサイドメンバ12の後部12Aが車両前後方向に対し傾斜されている。これにより、車両前部構造10では、図7に示される如く、左右のフロントサイドメンバ12、トンネルサイドメンバ15によって、平面視で略「Y」字状を成す車体骨格が形成されている。また、左右のトンネルサイドメンバ15は、フロアトンネル14の上側に形成された角部にそれぞれ固定されている。このようにフロアトンネル14の上部に配置されたトンネルサイドメンバ15は、側面視ではフロントサイドメンバ12にほぼ直線的に連続しており、該フロントサイドメンバ12との間にキック部(顕著なキック部)が形成されない構成とされている。
【0021】
また、この実施形態では、フロントサイドメンバ12は、後部12Aの車両外側に分岐された分岐部12Bを有し、該分岐部12Bは、車体11の車幅方向外端で車両前後方向に延在する骨格部材であるロッカ16の車両前後方向の前端に連続されている。ロッカ16の前端は、図7及び図8に示される如く、車両上下方向に延在する骨格部材であるフロントピラー18の車両上下方向の下端に連結されている。
【0022】
車体11では、図6に示される如く、フロアトンネル14、トンネルサイドメンバ15の車両前後方向の後端は、車幅方向に延在して左右のロッカ16を連結するクロスメンバ20の車両前面に固定されている。クロスメンバ20は、車体11の前席シート22の支持用の骨格部材とされている。このため、車体11は、クロスメンバ20後方の車両のフロアF上にフロアトンネル14が存在しない構成とされており、図示しない後席シートのためのフロアFが車幅方向の各部において低くフラットに構成されている。
【0023】
一方、左右のフロントサイドメンバ12の車両前後方向の前端12C間は、車幅方向に延在するフロントバンパ26を構成するバンパ骨格部材としてのバンパリインフォースメント28にて架け渡されている。フロントバンパ26は、図5Aに示される如く、バンパリインフォースメント28がフロントバンパカバー30にて車両前方から覆われると共に、該バンパリインフォースメント28とフロントバンパカバー30との間にアブソーバ32が配設されて構成されている。この実施形態では、バンパリインフォースメント28と各フロントサイドメンバ12の前端12Cとの間には、後述するクラッシュボックス68が介在している。
【0024】
以上により、車体11では、前面衝突が生じた場合には、主にバンパリインフォースメント28、フロントサイドメンバ12、トンネルサイドメンバ15及びロッカ16を介して車両前後方向の後部に荷重が伝達されるようになっている。また、図示は省略するが、車体11の後部床下では、トンネルサイドメンバ15からクロスメンバ20に伝達された荷重を車両前後方向の後方に伝達するための骨格部材(ロッカ16以外のもの)が車両前後方向に延在されている。
【0025】
また、車体11では、左右のフロントサイドメンバ12における分岐部12Bの分岐部分に対する車両前後方向の前方において、これらフロントサイドメンバ12の車両上下方向の下方で車幅方向に延在するサスペンションメンバ(サブフレーム)33が支持されている。サスペンションメンバ33は、後述するフロントホイール60を車体に対し相対変位可能に支持する図示しないフロントサスペンションを支持している。
【0026】
そして、図6に示される如く、車体11では、バンパリインフォースメント28に対する車両前後方向の後方に、後述するパワーユニット50、エアコンユニット72、冷却ユニット74等が配設される車両前部空間であるエンジンルームEが形成されている。エンジンルームEの車両前後方向の後端は、該エンジンルームEと車室Cとを仕切るダッシュパネル34にて規定されている。ダッシュパネル34は、左右のフロントピラー18間の全幅に亘り車両上下方向に延在している。図6に示される如く、ダッシュパネル34の車両上下方向の上端は、カウルを構成するカウルリインフォースメント36に連結されている。カウルリインフォースメント36は、ウインドシールドガラスWSの車両上下方向の下端を固定的に支持している。
【0027】
このダッシュパネル34は、車室C側からインストルメントパネル38にて覆われている。インストルメントパネル38は、ダッシュパネル34との間に、後述するバッテリ76が配置されるインパネ空間Iを形成している。また、インパネ空間Iには、左右のフロントピラー18を架け渡した骨格部材であるインパネリインフォースメント40が配設されている(図6参照)。図示は省略するが、インパネ空間I内には、ステアリング装置の一部、各種エアバッグ装置等が配設されている。
【0028】
また、図6に示される如く、ダッシュパネル34には、エンジンルームE側からインパネ空間I内にアクセスするための窓部42が形成されている。この実施形態における窓部42は、ダッシュパネル34における車幅方向中央部で車両前後方向の後方に膨出された膨出部34Aに形成されている。
【0029】
(パワーユニット、エアコンユニット・冷却ユニット・バッテリの搭載状態)
図6及び図7に示される如く、エンジンルームE内におけるバンパリインフォースメント28に対する車両前後方向の後方には、自動車Aの走行駆動力を発生するパワーユニット50、車室Cの空調用のエアコンユニット72、及び冷却ユニット74が、車両前後方向の前側からこの順で配設されている。また、空調用のエアコンユニット72の車両前後方向の後方のインパネ空間I内には、バッテリ76が配設されている。
【0030】
図7に示される如く、パワーユニット50は、駆動源として内燃機関であるエンジン52と、電動モータ54とを備えている。したがって、自動車Aは、2つの駆動源を有するハイブリッド自動車とされている。具体的には、パワーユニット50は、車幅方向に沿ったクランクシャフト(図示省略)を有する横置きのエンジン52と、該エンジン52に動力伝達可能に連結されたトランスアクスル56とを主要部として構成されている。トランスアクスル56は、電動モータ54、図示しないジェネレータ、動力分割機構、無段変速機等である変速機等を含んで構成されている。また、この実施形態では、トランスアクスル56には、電動モータ54、ジェネレータ、及びバッテリ76に電気的に接続されたインバータを含んで構成されている。したがって、この実施形態に係るパワーユニット50は、パワープラントとして捉えることも可能である。
【0031】
このパワーユニット50の出力軸である車幅方向に延在するドライブシャフト58は、図7に示される如く、フロントホイール60に駆動力を伝達可能に連結されている。また、フロントホイール60は、ステアリング装置を構成するタイロッド62に、ステアリングホイールの操舵による転舵可能に連結されている。
【0032】
そして、図6、図7に示される如く、車両前部構造10では、パワーユニット50がバンパリインフォースメント28の車両前後方向の後方に近接して配置されている。すなわち、車両前部構造10では、バンパリインフォースメント28とパワーユニット50との間には、後述する比較例(図9)に係る自動車には配置されるラジエータ114やエアコンコンデンサ116が配置されていない。そして、車両前部構造10では、このラジエータ114やエアコンコンデンサ116が存在しないことにより得られたスペースを利用して、パワーユニット50がバンパリインフォースメント28に近接配置されている。
【0033】
また、エアコンユニット72は、車両用エアコン装置のうち、冷凍サイクルを構成する冷房用のエバポレータ、暖房用のヒータコア、送風用のブロア、送風口切り替え用のダンパ装置等をエアコンケース内に収容して構成されている。図6の例では、エアコンユニット72からは、車室乗員に向けて送風するためのレジスタノズル72A、ウインドシールドガラスWSに送風するためのデフロスタノズル72Bの接続状態が図示されている。この他にエアコンユニット72には、足元送風用の足元ノズル、サイドレジスタノズル、後席送風用の後席ノズル(何れも図示省略)等が接続されている。さらに、エアコンユニット72には、冷却ユニット74を冷却するための冷却ノズル88が設けられている。
【0034】
冷却ユニット74は、熱交換部と、熱交換部に冷却風を導くためのファンと、熱交換部及びファンをそれぞれの周縁部から覆うファンシュラウドとを主要部として構成されている。熱交換部は、パワーユニット50の冷却用のラジエータと、車両用エアコン装置の冷凍サイクルを構成するコンデンサとがモジュール化されて構成されている。すなわち、熱交換部は、エンジン冷却水と冷却風(空気)との熱交換器と、エアコン冷媒と冷却風との熱交換器とで構成されており、比較例におけるラジエータ114及びエアコンコンデンサ116に代えて設けられた部品として捉えることができる。
【0035】
そして、この実施形態における冷却ユニット74は、エアコンユニット72にモジュール化されている。この実施形態では、左右一対のブラケット78を介してエアコンユニット72と冷却ユニット74とを一体に取り扱い可能に連結している。また、図示は省略するが、熱交換部を構成するエアコンコンデンサは、車載前の状態でエアコンユニット72の冷媒循環路を成す配管に接続されている。
【0036】
エアコンユニット72にモジュール化された冷却ユニット74は、車体に支持された状態で、図示しないシール部材を介してフロアトンネル14の車両前向きの開口端を車両前方から閉止している。これにより、この実施形態では、冷却ユニット74は、その熱交換部での熱交換に供された空気(冷却風)を、フロアトンネル14を通じて車外に排出するようになっている。
【0037】
さらに、車両前部構造10では、熱交換部に冷却風を導くためのダクト82を備えている。ダクト82は、エンジンルームEを車両上下方向の下方から覆うアンダカバー84の一部を車両上下方向の上方に膨出させて、上記の如く構成されている。また、車両前部構造10では、冷却ユニット74に対する直下方に、板状のフラップ86が設けられている。フラップ86は、自動車Aの走行風を受けて、その車両前後方向の後方(空気流の下流側)に負圧部を生じさせるようになっている。この負圧により、車両前部構造10では、冷却風が熱交換部を通過することが促進される構成とされている。
【0038】
バッテリ76は、パワーユニット50の電動モータ54を駆動するための電力を蓄える蓄電池とされている。バッテリ76は、高密度であることによって、ダッシュパネル34の窓部42を通じてインパネ空間I内における車幅方向中央部に配置される寸法で、十分な充電容量を有している。図6に示される如く、バッテリ76は、エアコンユニット72に対する車両前後方向の後側に配置され、該エアコンユニット72にモジュール化されている。
【0039】
この実施形態では、エアコンユニット72とバッテリ76とは、ダッシュパネル34の窓部42を塞ぐ仕切パネル90及びゴムブッシュ92を介して、締結等によって一体に取り扱い可能にモジュール化されている。したがって、この実施形態では、エアコンユニット72、冷却ユニット74、バッテリ76の3つの部品(ユニット)がモジュール化されている。また、この実施形態では、エアコンユニット72には、バッテリ76を冷却するためのバッテリ冷却ダクト94、バッテリ冷却吹出口96が設けられている。
【0040】
上記の通り窓部42を通じてインパネ空間I内に収容されたバッテリ76は、バッテリマウントブラケット98を介して、フロアトンネル14上に支持されている。これにより、バッテリ76、エアコンユニット72、及び冷却ユニット74から成るモジュールは、仕切パネル90のダッシュパネル34への固定、バッテリ76のバッテリマウントブラケット98に対する弾性支持によって、全体として車体11に支持されている。
【0041】
(パワーユニット系の搭載構造)
図1及び図3に示される如く、車両前部構造10では、パワーユニット50は、フロントサイドメンバ12及びバンパリインフォースメント28を介して車体11に支持されている。具体的には、パワーユニット50は、それぞれマウント部材としての左右のエンジンマウント64を介して、左右のフロントサイドメンバ12における前端12Cの近傍に弾性的に支持されている。各エンジンマウント64は、金属製の内筒と外筒との間にゴムが同軸的に充填された部材とされる。各エンジンマウント64は、例えば外筒がフロントサイドメンバ12に固定されると共に内筒がパワーユニット50に固定されることで、該フロントサイドメンバ12にパワーユニット50を弾性支持させる構成である。
【0042】
またさらに、パワーユニット50の車両前側部分と、バンパリインフォースメント28の背面とは連結部材66を介して結合されている。連結部材66は、パワーユニット50及びバンパリインフォースメント28の少なくとも一方に対し、図示しないボルト・ナットを用いた締結等によって、着脱可能に連結されている。これにより、車幅方向に沿ったロール軸を有するパワーユニットは、該ロールに対して安定して車体に支持される。
【0043】
そして、左右のフロントサイドメンバ12とバンパリインフォースメント28との間には、それぞれ緩衝部材としてのクラッシュボックス68が介在されている。クラッシュボックス68は、所定値以上の車両前方からの荷重によって車両前後方向に軸圧縮破壊されることで、該荷重(衝撃エネルギ)を吸収するように構成されている。この実施形態では、図4(A)に示される如くクラッシュボックス68とバンパリインフォースメント28との間に、さらに弾性部材としてのゴムブッシュ(ゴムマウント)70が介在されている。
【0044】
ゴムブッシュ70は、バンパリインフォースメント28を車両上下方向の両側から挟むように設けられ、該車両上下方向の両側からクラッシュボックス68の上下支持部68Aによって支持されている。したがって、この実施形態では、連結部材66を介して連結されたバンパリインフォースメント28とパワーユニット50とが、左右のエンジンマウント64及び左右のゴムブッシュ70を介して弾性支持(フローティング支持)された構成とされている。
【0045】
これにより、車両前部構造10では、パワーユニット50の振動が車体11に伝達されることを抑制する振動吸収効果が得られるようになっている。このため、フロントバンパカバー30に取り付けられたアブソーバ32とバンパリインフォースメント28との間には、隙間が形成されており、パワーユニット50側と車体11側との振動に伴う干渉を防止するようになっている。なお、アブソーバ32をバンパリインフォースメント28に設けた構成では、該間にアブソーバ32とフロントバンパカバー30との間に隙間を設定することとなる。
【0046】
また、車両前部構造10では、連結部材66は、所定値以上の車両前方からの荷重によって車両前後方向に軸圧縮破壊されることで、該荷重(衝撃エネルギ)を吸収するように構成されている。すなわち、連結部材66は、クラッシュボックスに相当する部材としてバンパリインフォースメント28とパワーユニット50との間に介在されている。これにより、車両前部構造10では、連結部材66及びクラッシュボックス68によって、フロントサイドメンバ12に支持されたパワーユニット50への衝突荷重の伝達が抑制されるようになっている。
【0047】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0048】
上記構成の車両前部構造10では、フロントバンパ26に衝突体が衝突して自動車Aの前面衝突に至ると、バンパリインフォースメント28、クラッシュボックス68、フロントサイドメンバ12を介する経路で、トンネルサイドメンバ15、ロッカ16に衝突荷重が伝達(支持)され、この衝突荷重がさらに車体後部に伝達される。また、車両前部構造10では、バンパリインフォースメント28、連結部材66、パワーユニット50を介する経路で、フロントサイドメンバ12に衝突荷重が伝達され、この衝突荷重がさらにトンネルサイドメンバ15、ロッカ16を介して車体後部に伝達される。この際、連結部材66、クラッシュボックス68は圧縮破壊されて、フロントサイドメンバ12に伝達される衝撃荷重が緩和される。
【0049】
ここで、車両前部構造10では、パワーユニット50が左右のエンジンマウント64及び連結部材66を介して車体11を構成するフロントサイドメンバ12、バンパリインフォースメント28に支持されている。このため、車両前部構造10では、自動車Aの前面衝突の際に、車両上下方向の上下両側でバランス良く変形され、これにより安定した衝撃吸収効果が得られる。
【0050】
この点を図9に示す比較例に係る車両前部構造100と比較しつつ補足する。比較例に係る車両前部構造100では、左右一対のフロントサイドメンバ102は、それぞれの車両前後方向の後部が斜め後下方に延びるキック部102Aとされており、これらのキック部102Aにおいてフロアアンダメンバ104に連続している。この車両前部構造100では、キック部102Aに対する車両下方には車幅方向に延在するサスペンションメンバ106が取り付けられている。そして、パワーユニット105は、左右のエンジンマウント108を介して左右のフロントサイドメンバ102に支持されると共に、トルクロッド110を介してサスペンションメンバ106に支持されている。車両前部構造100では、トルクロッド110によってパワーユニット105の車幅方向に沿った軸線廻りのロールを抑制するようになっている。この車両前部構造100が適用された自動車が前面衝突に至ると、車両上下方向の上部においては、クラッシュボックス112、フロントサイドメンバ102の変形によって、図9にS1、S2にて示す衝撃吸収ストロークが確保される。一方、車両上下方向の下部においては、トルクロッド110が突っ張ることとなって、上部に対して衝撃吸収ストロークが短くなる。このため、車両前部構造100では、適用された自動車の前面衝突の際には、図9に想像線にて示される如く、キック部102Aの車両後端近傍を支点にしてフロントサイドメンバ102を車両前端が持ち上がる(後傾する)方向に曲げ(変形させ)ようとするモーメントが作用する。このため、車両前部構造100では、前面衝突に対する所要の衝撃吸収性能(ストローク)を確保するために車体が大型化したり、キック部102Aの曲げを抑制するための補強により車重が増したりすることとなる。
【0051】
これに対して車両前部構造10では、パワーユニット50がトルクロッド110を介して車体11における車両上下方向の下部に支持されることがないので、車両上下方向の下部においても衝撃吸収ストロークを確保することができる。一方、車両前部構造10は、車両上下方向の上部においては、パワーユニット50のロールを抑制するための連結部材66が前面衝突に伴い圧縮変形されるので、該連結部材66を設けることによって衝撃吸収ストロークが減少されることはない。
【0052】
これらによって車両前部構造10では、前面衝突の際に車両上下方向の上部と下部とでバランス良く変形され、安定した発生荷重(衝撃吸収に伴い作用する荷重)の確保、衝撃吸収性能(クラッシャブル性能)の確保を図ることができる。このように車両前部構造10は、前面衝突に対する衝突安全において有利な形態をとるので、車体の大型化や車重の増加に頼ることなく、所要の衝突安全性能を確保することができる(車体の小型軽量化への寄与については後に補足する)。
【0053】
また、車両前部構造10では、上記比較例に係る車両前部構造100に対し、パワーユニット50の振動遮断(吸収)性においても有利である。すなわち、車両前部構造100では、車両下部における車幅方向の略中央部の狭い空間にトルクロッド110を配置する構成であるため、該トルクロッド110を構成するゴムブッシュの寸法に制約がある。また、車両前部構造100では、車幅方向に長手のサスペンションメンバ106に対する該長手方向の略中央部に、トルクロッド110からの荷重が、曲げ荷重として常に入力される構成であるため、パワーユニット50の起振力によってサスペンションメンバ106に生じる振動(振幅)が大きくなりやすい。
【0054】
これに対して車両前部構造10では、サスペンションメンバ33ではなく車体骨格を構成するバンパリインフォースメント28が、連結部材66を介してパワーユニット50のロールを抑制する構造である。また、車両前部構造10では、左右一対の連結部材66を介してパワーユニット5がバンパリインフォースメント28に支持される構造であるため、ゴムブッシュ70の配置スペースが確保しやすく、十分な容量のゴムブッシュ70が採用されている。これらにより、車両前部構造10では、パワーユニット50の振動が車体11に伝達されることを効果的に抑制することができる。
【0055】
しかも、車両前部構造10では、バンパリインフォースメント28の上下に設けられたゴムブッシュ70がクラッシュボックス68の上下支持部68Aによって挟み込まれた構造であるため、パワーユニット50のロールをゴムブッシュ70の圧縮によって良好に支持(吸収)することができる。すなわち、パワーユニット50の前方に配置されたバンパリインフォースメント28は、該パワーユニット50のロールによって車両上下方向に振動されるが、この車両上下方向の振動が上下のゴムブッシュ70によって良好に吸収(遮断)される。
【0056】
さらに、車両前部構造10では、フロントサイドメンバ12及びバンパリインフォースメント28によってパワーユニット50を支持している。このため、連結部材66によって連結されたバンパリインフォースメント28とパワーユニット50とをモジュールとして車両前方からフロントサイドメンバ12に組み付けることができる。これにより、車両前部構造10では、比較例に係る車両前部構造100のようにパワーユニット50の組付のために車体11を持ち上げる等の工程が不要となり、自動車Aの生産性、メンテナンス性が向上する。
【0057】
さらにまた、車両前部構造10では、パワーユニット50がエンジンルームEの車両前後方向の前端部にパワーユニット50が配置されているため、自動車Aの前面衝突の際に慣性質量の大きいパワーユニット50の車両前後方向の前方への移動が短時間で停止される。
【0058】
またここで、車両前部構造10では、パワーユニット50がエンジンルームE内の車両前後方向の前端部に位置するため、フロアトンネル14内に配置されるトンネルサイドメンバ15とフロントサイドメンバ12とを連続させる構成が実現された。これにより、自動車Aの前面衝突の際には、フロントサイドメンバ12、トンネルサイドメンバ15を介して車両前後方向の後方に荷重が伝達される。換言すれば、自動車Aの重心G(図6参照)の近くで後向きの荷重が伝達される。このため、車両前部構造10では、フロントサイドメンバ12、トンネルサイドメンバ15は、前突荷重による曲げに対する要求強度が低くなる。
【0059】
例えば、比較例に係る車両前部構造100では、フロントサイドメンバ102への荷重入力点(車両上下方向における車両重心Gの近傍)から車両上下方向の下方に大きく離間したフロア下のフロアアンダメンバ104で衝突荷重が支持される。しかも、前面衝突の際にトルクロッド110が突っ張ることで、パワーユニット105を上後方に持ち上げる如き力が作用する。これらのため、キック部102Aの上記曲げ(図9の想像線にて示す変形)に対する要求強度が高く、他の要求等に対しては過度な補強を施す必要がある。このため、この比較例では、車体11が重くなる。
【0060】
これに対して車両前部構造10では、上記の通りフロア下を通さないトンネルサイドメンバ15にフロントサイドメンバ12を連続させる構成、及び車両上下方向の上下両側をバランス良く変形させる構成によって、上記の曲げに対する要求強度が低くされており、これによって車体11の軽量化に寄与している。また、車両前部構造10では、パワーユニット50を支持することのないサスペンションメンバ33は、車両前部構造100を構成するサスペンションメンバ106に対し小型化することができ、これによっても車体11の軽量化に寄与している。
【0061】
さらにここで、車両前部構造10では、図6に示される如く、パワーユニット50がバンパリインフォースメント28の直後方、すなわちエンジンルームE内の車両前後方向の前端部に配置されている。すなわち、車両前部構造10では、ラジエータ114やエアコンコンデンサ116がエンジンルームE内の前端部に配置された車両前部構造100との比較において、パワーユニット50が車両前方に配置されている(前方に移動されている)。このため、車両前部構造10では、パワーユニット50と共にフロントホイール60を車両前方に位置させて、車体11を大型化することなくホイールベースを長くすることができる。そして、車両前部構造10は、この構成によって、車体11の軽量化によって自動車A全体を効果的に軽量化することに寄与する。
【0062】
この点について補足する。例えばボディ外板の材料の変更(高張力鋼板化や樹脂化)、内装材の軽量化によって車体が軽量化された場合、パワーユニット50が相対的に重たくなる。このため、例えば図8の上段に示される比較例において単に車体200のみを軽量化しただけでは、フロントホイール60とリヤホイール102との分担荷重のバランスが崩れる。具体的には、フロントホイール60の荷重分担割合が過大となり、ホイールベースの延長が必要なる。図8の中段に示される如くホイールベースの延長(矢印A参照)のために、車体210を車体200に対し車両前後方向の後方に延ばす(矢印B参照)のでは、車体が大型化されるので、車体の軽量化効果が薄れてしまう。
【0063】
ここで、車両前部構造10は、図8の下段に模式的に示される如く、パワーユニット50を車両前方に移動することでホイールベースを延ばす構成である。このため、車体200に対し前後に延長することのない車体11で、車体200に対しホイールベースを延長する(矢印C参照)ことが実現される。そして、このホイールベースの延長によって、軽量化した車体11を用いた構成で、前後輪の分担荷重のバランスをとることができる。したがって、上記した通り、車両前部構造10では、車体11の軽量化によって自動車A全体を効果的に軽量化することに寄与する。
【0064】
また、車両前部構造10では、上記の通り車体200や車体210と比較してフロントホイール60が車両前方に移動するため、フロントオーバハングが短縮される。これにより、例えば、自動車Aの運動性能の向上や取り回し性の向上に寄与する。さらに、車両前部構造10では、エンジンルームEの車両前後方向の前端部にパワーユニット50が配置されているため、ラジエータやエアコンコンデンサを各フロントサイドメンバ12の前端12Cに支持させるためのサポート部材等を廃止することができる。またさらに、車両前部構造10では、パワーユニット50の車両前後方向の後方に配置されたエアコンユニット72は前後輪間に配置されるので、自動車Aの重量バランスの向上、これに基づく運動性能の一層の向上に寄与する。
【0065】
なお、上記した実施形態では、パワーユニット50が駆動源として内燃機関であるエンジン52及び電動モータ54を共に有する例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、パワーユニット50が本発明における駆動源としてエンジン52及び電動モータ54の何れか一方のみ有する構成としても良い。例えばパワーユニット50としてエンジン52のみを備える構成において、駆動源としての電気モータを車両前後方向の後部や車輪内に配置した構成を採用しても良い。
【0066】
また、上記した実施形態では、クラッシュボックス68とバンパリインフォースメント28との間にゴムブッシュ70を介在させると共に、連結部材66を介してパワーユニット50をバンパリインフォースメント28に剛的に結合する例を示したが本発明はこれに限定されず、例えば、クラッシュボックス68をバンパリインフォースメント28に剛的に結合すると共に、連結部材66とパワーユニット50又はバンパリインフォースメント28との間にゴムブッシュ70を介在させた構成としても良い。
【0067】
その他、本発明は、上記の実施形態の構成に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲で、各種変形して実施可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0068】
10 車両前部構造
12 フロントサイドメンバ(車体骨格部材)
28 バンパリインフォースメント(バンパ骨格部材)
50 パワーユニット
64 エンジンマウント(マウント部材)
66 連結部材
68 クラッシュボックス(緩衝部材)
70 ゴムブッシュ(弾性部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ車両前後方向に長手とされ、車幅方向に並列された一対の車体骨格部材と、
車幅方向に長手とされ、前記一対の車体骨格部材のそれぞれにおける車両前後方向の前端部に、該車両前後方向の後向きに荷重を伝達可能に連結されたバンパ骨格部材と、
前記バンパ骨格部材に対する車両前後方向の後方に配置され車幅方向に沿った回転軸を有するパワーユニットを、前記一対の車体骨格部材のそれぞれに弾性的に連結させた一対のマウント部材と、
前記パワーユニットと前記バンパ骨格部材とを連結する連結部材と、
を備えた車両前部構造。
【請求項2】
前記一対の車体骨格部材のそれぞれにおける車両前後方向の前端部には、車両前後方向に作用する所定値以上の圧縮荷重によって変形される緩衝部材が設けられ、
前記各緩衝部材と前記バンパ骨格部材との間には、弾性部材が介在されている請求項1記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記弾性部材は、前記バンパ骨格部材に対する車両上下方向の両側にそれぞれ設けられており、
前記バンパ骨格部材は、前記上下一対の前記弾性部材を介して前記緩衝部材に車両上下方向に挟まれている請求項2記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記連結部材は、車両前後方向に作用する所定値以上の圧縮荷重によって変形されるように構成されている請求項1〜請求項3の何れか1項記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−195134(P2010−195134A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40615(P2009−40615)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】