説明

車両前部構造

【課題】車両旋回時に作用する応力によるダッシュクロスメンバの変形を防止又は抑制できる車両前部構造を得る。
【解決手段】ダッシュクロスメンバ22の下横壁部26においてフロントサイドメンバ42Rの断面内に位置する部分に第1ビード部102Rを形成する。第1ビード部102Rは、その前端側が後端側に対して車幅方向内側に位置するように傾斜している。このため、車両が旋回する際にフロントサイドメンバ22からダッシュクロスメンバ22の下横壁部26に入力される応力に対して高い剛性を有することができ、このような応力によるダッシュクロスメンバ22の変形を防止又は抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントサイドメンバとダッシュクロスメンバとを含めて構成された車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ダッシュクロスメンバの上面部を覆うように設けられたダッシュクロスメンバサイドに第1接合部が形成されており、この第1接合部がフロントサイドメンバに設定された水平部に接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−314779号の公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の旋回時にはサスペンションメンバからフロントサイドメンバが車幅方向の横力が入力される。この横力が入力されたフロントサイドメンバは、横力に基づく応力をダッシュクロスメンバに付与し、ダッシュクロスメンバを変形させようとする。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、車両旋回時に作用する応力によるダッシュクロスメンバの変形を防止又は抑制できる車両前部構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明に係る車両前部構造は、車両の幅方向に対向する一対の縦壁部を有し、前記車両の幅方向側端側で前記車両の前後方向に沿って設けられるフロントサイドメンバと、長手方向が前記幅方向に沿った横壁部を有し、前記幅方向に沿って設けられて前記車両のエンジンルームと前記車両の室内とを仕切るダッシュパネルの前面に接合されると共に、前記フロントサイドメンバと交差して前記横壁部が前記フロントサイドメンバの前記一対の縦壁部に接合されるダッシュクロスメンバと、前記一対の縦壁部の間で前記横壁部に形成され、前記車両の前後方向に対して前記車両の幅方向へ傾斜した方向に沿うように延びる第1補強部を含めて構成された補強手段と、を備えている。
【0007】
上記構成の車両前部構造によれば、例えば、車両が旋回した際にはフロントサイドメンバの前端側に車両幅方向の横力が入力される。このフロントサイドメンバに対して車両の幅方向に交差するように設けられたダッシュクロスメンバは、その横壁部がフロントサイドメンバを構成する左右(車両の幅方向)一対の縦壁部に接合されている。このため、上記の横力が入力されたフロントサイドメンバは、この横力に応じた力をダッシュクロスメンバに伝える。
【0008】
ここで、上記のように、ダッシュクロスメンバの横壁部は、フロントサイドメンバを構成する左右一対の縦壁部にそれぞれ接合される。このため、上記の横力に応じてフロントサイドメンバからダッシュクロスメンバに入力される力は、車幅方向内側の縦壁部からダッシュクロスメンバに入力される力と、車幅方向外側の縦壁部からダッシュクロスメンバに入力される力とで前後方向に異なる。このため、ダッシュクロスメンバには車両の前後方向に対して幅方向に傾斜した向きの応力が作用する。
【0009】
ここで、ダッシュクロスメンバにおけるフロントサイドメンバの両縦壁部の間に位置する部分には補強手段が設定される。この補強手段は車両の前後方向に対して車両の幅方向へ傾斜した方向に沿うように延びる第1補強部を含めて構成される。このため、ダッシュクロスメンバは第1補強部に沿う向きの剛性が向上し、上記のような応力がダッシュクロスメンバに作用したとしても、ダッシュクロスメンバにおける座屈等の変形の発生を防止又は抑制できる。
【0010】
請求項2に記載の本発明に係る車両前部構造は、請求項1に記載の本発明において、前記第1補強部は、後端側に対して前端側が前記車両の幅方向内側に傾斜するように形成されている。
【0011】
上記構成の車両前部構造によれば、補強手段の第1補強部は、その後端側に対して前端側が車両幅方向内側に傾斜するように形成される。このため、ダッシュクロスメンバにおける車両前方に対して車両幅方向内方へ傾斜した向きの剛性が向上する。
【0012】
ところで、車両旋回時には、旋回半径方向外側(外輪側)に位置するフロントサイドメンバに接合されたダッシュクロスメンバに、車両前方から車両幅方向外方へ傾斜した向きの応力と、車両後方から車両幅方向内方へ傾斜した向きの応力とが作用する。ここで、上記のような第1補強部がダッシュクロスメンバに形成されることで、上記のような応力に対する剛性が向上しているので、上記のような応力がダッシュクロスメンバに作用したとしても、ダッシュクロスメンバにおける座屈等の変形の発生を防止又は抑制できる。
【0013】
請求項3に記載の本発明に係る車両前部構造は、請求項2に記載の本発明において、後端側に対して前端側が車幅方向外側を向くように傾斜した第2補強部を含めて前記補強手段を構成している。
【0014】
上記構成の車両前部構造によれば、補強手段が第1補強部のみならず第2補強部を含めて構成される。第2補強部は、その後端側に対して前端側が車両幅方向外側に傾斜するように形成される。このため、ダッシュクロスメンバにおける車両前方に対して車両幅方向外方へ傾斜した向きの剛性が向上する。
【0015】
ところで、車両旋回時には、旋回半径方向外内側(内輪側)に位置するフロントサイドメンバに接合されたダッシュクロスメンバに、車両前方から車両幅方向内方へ傾斜した向きの応力と、車両後方から車両幅方向外方へ傾斜した向きの応力とが作用する。ここで、上記のような第2補強部がダッシュクロスメンバに形成されることで、上記のような応力に対する剛性が向上しているので、車両が左右何れの向きに旋回したとしても、旋回時にダッシュクロスメンバに作用する応力に対し、第1補強部又は第2補強部によりダッシュクロスメンバにおける座屈等の変形の発生を防止又は抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の本発明に係る車両前部構造は、ダッシュクロスメンバにおいて補強手段の第1補強部が延びる向きに沿う剛性を向上させることができ、車両旋回時に受ける応力等によってダッシュクロスメンバに座屈等の変形が生じることを防止又は抑制できる。
【0017】
請求項2に記載の本発明に係る車両前部構造は、車両旋回時において外輪側に位置することで作用する応力に対する剛性が向上し、このような応力でダッシュクロスメンバに座屈等の変形が生じることを防止又は抑制できる。
【0018】
請求項3に記載の本発明に係る車両前部構造は、車両が左右何れの向きに旋回しても、旋回時にダッシュクロスメンバに作用する応力に対して第1補強部又は第2補強部が抗し、ダッシュクロスメンバに座屈等の変形が生じることを防止又は抑制できる。
【0019】
請求項4に記載の本発明に係る車両前部構造は、フロントサイドメンバの内側接合部と外側接合部との間でダッシュクロスメンバに補強手段が設定されるので、車両旋回時にダッシュクロスメンバに作用する応力によるダッシュクロスメンバの座屈等の変形を更に効果的に防止又は抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態に係る車両前部構造を適用した車両のボデーの要部を概略的に示す平面図である。
【図2】図1の2−2線に沿った概略的な側面断面図である。
【図3】図1の3−3線に沿った概略的な正面断面図である。
【図4】図2の4−4線に沿った概略的な拡大平面断面図である。
【図5】図4の5−5線に沿った概略的な拡大断面図である。
【図6】車幅方向中央を介して反対側の補強手段の構成を示す図4に対応した拡大平面断面図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る車両前部構造の変形例を示す図4に対応した拡大平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態を図1から図6の各図を用いて説明する。なお、各図において適宜示される矢印FRは本実施の形態が適用される車両10の前方を示し、矢印UPは本実施の形態が適用される車両10の上方を示し、矢印INは本実施の形態が適用された車幅方向内側(図1における車幅方向中心線C側)を示している。
【0022】
<本実施の形態の構成>
図1には本実施の形態に係る車両前部構造を適用した車両10のボデーの構造が概略的な平面図により示されている。この図に示されるように、車両10はダッシュパネル12を備えている。ダッシュパネル12は厚さ方向が概ね車両10の前後方向(以下、単に前後方向と称する)に沿った縦壁部14を備えている。ダッシュパネル12は縦壁部14の下端部にて屈曲しており、斜壁部16が縦壁部14の下端部から車両10の後下方へ延出されている。車両10は、ダッシュパネル12よりも前側がエンジンルームとされ、ダッシュパネル12よりも後方が車両10の室内とされる。
【0023】
縦壁部14の前側(エンジンルーム側)にはダッシュクロスメンバ22が設けられている。ダッシュクロスメンバ22は上横壁部24を備えている。上横壁部24は長手方向が概ね車両10の幅(左右)方向(以下、単に車幅方向と称する)に沿い、厚さ方向が概ね車両10の上下方向(以下、単に上下方向と称する)に沿った板状とされている。図2に示されるように、上横壁部24の下側には下横壁部26が設けられている。下横壁部26は長手方向が概ね車幅方向に沿い、厚さ方向が概ね上下方向に沿った板状とされ、上下方向に上横壁部24と対向している。上横壁部24及び下横壁部26の前側には縦壁部28が設けられている。縦壁部28は長手方向が概ね車幅方向に沿い、厚さ方向が概ね前後方向に沿った板状とされている。縦壁部28の上端は上横壁部24の前端に繋がっており、縦壁部28の下端は下横壁部26の前端に繋がっている。
【0024】
一方、上横壁部24の後端からは上方へ向けて上側フランジ部30が延出されている。上側フランジ部30は厚さ方向が概ね前後方向に沿っており、上側フランジ部30の厚さ方向後ろ側の面が縦壁部14の前面と対向し、ダッシュクロスメンバ22の上側フランジ部30とダッシュパネル12の縦壁部14とが溶接等によって互いに接合されている。これに対して、下横壁部26の後端からは車両10の後下方へ向けて板状の下側フランジ部32が延出されている。下側フランジ部32は上面が斜壁部16の下面と対向し、ダッシュクロスメンバ22の下側フランジ部32とダッシュパネル12の斜壁部16とが溶接等によって互いに接合されている。このようにして、ダッシュクロスメンバ22はその上側と下側とがダッシュパネル12に一体的に接合されている。
【0025】
また、図1に示されるように、車両10はフロントサイドメンバ42Rとフロントサイドメンバ42Lとを備えている。フロントサイドメンバ42Rは車両10の右側の端部に沿って設けられており、フロントサイドメンバ42Lは車両10の左側の端部に沿って設けられている。フロントサイドメンバ42Rとフロントサイドメンバ42Lとは左右対称(すなわち、図1における中心線Cを境に対称)の構造になっている。このため、以下、フロントサイドメンバ42Rとフロントサイドメンバ42Rに関する部分のみを説明し、フロントサイドメンバ42Lとフロントサイドメンバ42Lに関する部分については符号の数字の最後に付与するアルファベットの『R』を『L』に置き換えることでその説明を省略する。
【0026】
図2及び図3に示されるように、フロントサイドメンバ42Rは本体44Rを備えている。本体44Rは内側壁部46Rを備えている。内側壁部46Rは長手方向が概ね前後方向に沿い、厚さ方向が概ね車幅方向に沿った板状に形成されている。この内側壁部46Rの長手方向中間部より前側では、内側壁部46Rの上端部から車幅方向外方へ向けて上横壁部48Rが延出されている。上横壁部48Rは長手方向が概ね前後方向に沿い、厚さ方向が概ね上下方向に沿った板状に形成されている。この上横壁部48Rにおける車幅方向外側の端部からは上方へ向けて上側フランジ部50Rが延出されている。上側フランジ部50Rは長手方向が概ね前後方向に沿い、厚さ方向が概ね車幅方向に沿った板状とされている。
【0027】
一方、内側壁部46Rの長手方向中間部より前側では、内側壁部46Rの下端部から車幅方向外方へ向けて下横壁部52Rが延出されている。下横壁部52Rは長手方向が概ね前後方向に沿い、厚さ方向が概ね上下方向に沿った板状に形成されており、上下方向に上横壁部48Rと対向している。この下横壁部52Rにおける車幅方向外側の端部からは下方へ向けて下側フランジ部54Rが延出されている。下側フランジ部54Rは長手方向が概ね前後方向に沿い、厚さ方向が概ね車幅方向に沿った板状とされている。
【0028】
図1及び図3に示されるように、本体44Rの車幅方向外側には外側壁板56Rが設けられている。外側壁板56Rは長手方向が概ね前後方向に沿い、厚さ方向が概ね車幅方向に沿った板状に形成されている。図3に示されるように、本体44Rの上側フランジ部50Rは外側壁板56Rの上下方向中間部よりも上側にて外側壁板56Rと対向しており、本体44Rの下側フランジ部54Rは外側壁板56Rの上下方向中間部よりも下側にて外側壁板56Rと対向している。上側フランジ部50R及び下側フランジ部54Rの双方は溶接等により外側壁板56Rに接合されており、これにより、図3に示されるように、フロントサイドメンバ42Rは正面視で矩形の閉じ断面形状とされ、前方からの荷重に対して高い剛性を有している。
【0029】
図2に示されるように、フロントサイドメンバ42Rはダッシュパネル12の近傍(ダッシュパネル12よりも前側)にて車両10の後下方へ屈曲されており、ダッシュパネル12を構成する斜壁部16の下側を通過している。本体44Rにおいて斜壁部16の下側を通過する部分には上横壁部48Rや上側フランジ部50Rが形成されておらず、代わりに後側フランジ部58Rが形成されている。後側フランジ部58Rは長手方向が縦壁部14の下端部からの斜壁部16の延出方向に沿っており、内側壁部46Rの上端部から車幅方向内側へ延出されている。後側フランジ部58Rの上面は斜壁部16の下面と対向しており、溶接等によって後側フランジ部58Rが斜壁部16に接合されている。
【0030】
また、フロントサイドメンバ42Rがダッシュパネル12の近傍で車両10の後下方へ屈曲された部分に対応して外側壁板56Rもダッシュパネル12の近傍(ダッシュパネル12よりも前側)から車両10の後下方へ延びて斜壁部16の下側を通過している。図1及び図4に示されるように、外側壁板56Rにおける斜壁部16の下側に位置する部分では、外側壁板56Rの上端部から後側フランジ部60Rが車幅方向外方へ延出されている。後側フランジ部60Rは長手方向が縦壁部14の下端部からの斜壁部16の延出方向に沿っており、後側フランジ部60Rの上面が斜壁部16の下面と対向し、溶接等によって後側フランジ部60Rが斜壁部16に接合されている。
【0031】
さらに、このフロントサイドメンバ42Rにおけるダッシュパネル12の近傍部分ではダッシュクロスメンバ22の通過位置に対応して本体44Rに切欠部72Rが形成されている。切欠部72Rは側面視で略矩形とされており、切欠部72Rが形成された部分での内側壁部46Rの後端部74Rがダッシュクロスメンバ22の前後方向寸法分だけダッシュパネル12の縦壁部14から離間している。
【0032】
また、切欠部72Rが形成された部分での内側壁部46Rの上端部76Rが、切欠部72Rよりも前方側における内側壁部46Rの上端部よりも縦壁部28の上下方向寸法分だけ下がっている。上述したダッシュクロスメンバ22は切欠部72Rの内側(すなわち、フロントサイドメンバ42Rの断面の内側)を通過しており、切欠部72Rが形成された部分における内側壁部46Rの後端部74Rは縦壁部28に突き当たり、切欠部72Rが形成された部分における内側壁部46Rの上端部76Rは下横壁部26の下面に接している。
【0033】
また、図2に示されるように、切欠部72Rが形成された部分での内側壁部46Rの後端部74Rからは車幅方向内側へ向けて内側接合部としての内側縦フランジ部82Rが延出されている。内側縦フランジ部82Rは厚さ方向が概ね前後方向に沿っており、その後面がダッシュクロスメンバ22の縦壁部28の前面と対向し、内側縦フランジ部82Rと縦壁部28とが溶接等により接合されている。さらに、切欠部72Rが形成された部分での内側壁部46Rの上端部76Rからは車幅方向内側へ向けて内側接合部としての内側横フランジ部84Rが延出されている。内側横フランジ部84Rは厚さ方向が概ね上下方向に沿っており、その上面がダッシュクロスメンバ22の下横壁部26の下面と対向し、内側横フランジ部84Rと下横壁部26とが溶接等により接合されている。
【0034】
一方、図4に示されるように、切欠部72Rが形成された部分に対応して後側フランジ部58Rには各々が外側接合部としての外側縦フランジ部92R及び外側横フランジ部94Rが車幅方向外側へ向けて延出されている。外側縦フランジ部92Rは厚さ方向が概ね前後方向に沿っており、その後面がダッシュクロスメンバ22の縦壁部28の前面と対向し、外側縦フランジ部92Rと縦壁部28とが溶接等により接合されている。外側横フランジ部94Rは厚さ方向が概ね上下方向に沿っており、その上面がダッシュクロスメンバ22の下横壁部26の下面と対向し、外側横フランジ部94Rと下横壁部26とが溶接等により接合されている。
【0035】
さらに、図1及び図2に示されるように、上記の後端部74Rの上端部近傍からは後方へ向けて接合片98Rが延出されている。接合片98Rは上横壁部48Rの後端から連続しており、ダッシュクロスメンバ22の上横壁部24上に延びて、溶接等により上横壁部24に接合されている。このようにしてフロントサイドメンバ42Rがダッシュクロスメンバ22に接合されている。
【0036】
一方、図2及び図4に示されるように、ダッシュクロスメンバ22の下横壁部26には第1補強部として補強手段を構成する第1ビード部102Rが形成されている。図5に示されるように、第1ビード部102Rの断面形状は、下横壁部26の上面よりも上方へ突出していると共に下方へ向けて開口した逆V字形状とされている。
【0037】
また、図4に示されるように、第1ビード部102Rは、フロントサイドメンバ42Rの車幅方向内側におけるダッシュクロスメンバ22とフロントサイドメンバ42Rとの接合部分である内側縦フランジ部82R及び内側横フランジ部84Rと、フロントサイドメンバ42Rの車幅方向外側におけるダッシュクロスメンバ22とフロントサイドメンバ42Rとの接合部分である外側縦フランジ部92R及び外側横フランジ部94Rとの間に形成されている。第1ビード部102Rは、後端が縦壁部14の近傍に位置して、前端が縦壁部28の近傍に位置するように形成されており、更に、第1ビード部102Rの後端よりも第1ビード部102Rの前端が車幅方向内側に位置するように、第1ビード部102Rはその長手方向が前後方向に対して車幅方向に略45度傾斜している。
【0038】
なお、図4に示されるように、車幅方向右側に位置するフロントサイドメンバ42Rの断面内で下横壁部26に形成された第1ビード部102Rは、その長手方向前端が後端よりも車幅方向左側に位置しているが、図6に示されるように、車幅方向左側に位置するフロントサイドメンバ42Lの断面内で下横壁部26に形成された第1ビード部102Lは、第1ビード部102Rと左右対称になるため、その長手方向前端は後端よりも車幅方向右側に位置するように傾斜する。
【0039】
<本実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0040】
車両10が左に旋回した場合、車両の左側の前輪やサスペンションは旋回時の遠心力に抗しようとし、このときに生じる反力がサスペンション及びサスペンションメンバ(何れも図示省略)を介してフロントサイドメンバ42Rの長手方向前端側に左側への横力として伝わる。この横力が入力されたフロントサイドメンバ42Rは、その車幅方向右側に位置する内側縦フランジ部82R及び内側横フランジ部84Rがダッシュクロスメンバ22を前方へ引っ張ろうとし、フロントサイドメンバ42Rにおいて車幅方向左側に位置する外側縦フランジ部92R及び外側横フランジ部94Rがダッシュクロスメンバ22を後方へ押圧する。
【0041】
これにより、ダッシュクロスメンバ22の下横壁部26には前後のせん断応力が作用し、この結果、内側横フランジ部84Rと下横壁部26との接合部分における前端側から右後方へ向けて下横壁部26が圧縮されると共に、外側横フランジ部94Rと下横壁部26との接合部分における後端側から左前方へ向けて下横壁部26が圧縮される。
【0042】
ここで、下横壁部26においてフロントサイドメンバ42Rの断面内に位置する部分で且つ内側横フランジ部84Rと外側横フランジ部94Rとの間に位置する部分では、前端が後端よりも左側に位置するように延びた第1ビード部102Rが形成され、これにより、下横壁部26は、第1ビード部102Rの長手方向に沿う向きの剛性が向上している。このため、上述したようにせん断応力が下横壁部26に作用して、内側横フランジ部84Rと下横壁部26との接合部分における前端側から右後方へ向けて下横壁部26が圧縮されて、外側横フランジ部94Rと下横壁部26との接合部分における後端側から左前方へ向けて下横壁部26が圧縮されたとしても、これに起因する下横壁部26の座屈等の変形の発生を防止又は効果的に抑制できる。
【0043】
なお、上記のように車両10が左に旋回した場合、フロントサイドメンバ42Lもフロントサイドメンバ42Rと同じような挙動を示し、下横壁部26においてフロントサイドメンバ42Lの断面内に位置する部分にも上述したような応力が作用する。しかしながら、車両10が左に旋回した場合、車両10の左側の前輪は遠心力によって浮き上がろうとし、これにより、フロントサイドメンバ42Rに比べるとフロントサイドメンバ42Lに入力される横力は小さい。このため、フロントサイドメンバ42Lの断面内において下横壁部26に作用する応力も小さく、応力による影響も少ない。
【0044】
一方、車両10が右に旋回した場合には、フロントサイドメンバ42Lや下横壁部26においてフロントサイドメンバ42Lの断面内に位置する部分にて、これまでに説明したような車両10が左旋回した場合にフロントサイドメンバ42Rや下横壁部26においてフロントサイドメンバ42Rの断面内に位置する部分で奏した作用と左右逆の作用を奏することになる。
【0045】
ここで、下横壁部26においてフロントサイドメンバ42Lの断面内に位置する部分で且つ内側横フランジ部84Lと外側横フランジ部94Lとの間に位置する部分では、前端が後端よりも右側に位置するように延びた第1ビード部102Lが形成され、これにより、下横壁部26は、第1ビード部102Lの長手方向に沿う向きの剛性が向上している。このため、上述したようにせん断応力が下横壁部26に作用して、内側横フランジ部84Lと下横壁部26との接合部分における前端側から右後方へ向けて下横壁部26が圧縮されて、外側横フランジ部94Lと下横壁部26との接合部分における後端側から左前方へ向けて下横壁部26が圧縮されたとしても、これに起因する下横壁部26の座屈等の変形の発生を防止又は効果的に抑制できる。
【0046】
このように、本実施の形態を適用することで、車両10が旋回した場合にダッシュクロスメンバ22の下横壁部26においてフロントサイドメンバ42Rやフロントサイドメンバ42Lの断面内に位置する部分に作用する応力に対して高い剛性を付与することができ、このような応力によるダッシュクロスメンバ22における座屈等の変形の発生を防止又は効果的に抑制することができる。
【0047】
なお、本実施の形態では、第1ビード部102R、Lの断面形状を略逆V字形状としたが、第1ビード部102R、Lの断面形状がこのような形状に限定されるものではなく、第1ビード部102R、Lの断面形状は逆U字形状であってもよいし、逆凹形状であってもよい。
【0048】
また、本実施の形態では、下横壁部26を部分的に変形させて第1ビード部102R、Lを形成したが、例えば、L字形状に屈曲させた金属平板等によりダッシュクロスメンバ22とは別体で第1ビード部102L、Rを形成し、このような第1ビード部102L、Rを下横壁部26上に溶接等により接合する構成としてもよい。但し、このような構成の場合、ダッシュクロスメンバ22とは別に第1ビード部102L、Rを成形し、更に、第1ビード部102L、Rを下横壁部26に接合しなくてはならない。このため、部品点数の増加の抑制や製造工数の増加の抑制という観点では、本実施の形態のように下横壁部26を部分的に変形させて第1ビード部102R、Lを形成する方がよい。
【0049】
さらに、本実施の形態では、第1ビード部102L、Rはその前端側が後端側よりも車幅方向内側に位置するように、長手方向が前後方向に対して車幅方向に略45度傾斜した構成であった、しかしながら、第1ビード部102L、Rの傾斜角度が45度に限定されるものではなく、基本的に第1ビード部102L、Rはその前端側が後端側よりも車幅方向内側に位置するように傾斜していればよく、車両10が旋回した際に下横壁部26に作用する応力の向きや大きさにより適宜に設定すればよい。
【0050】
また、本実施の形態では、下横壁部26に第1ビード部102L、Rだけを形成した構成であったが、例えば、図7に示されるように、第1ビード部102Rに加えて更に第2補強部として補強手段を構成する第2ビード部122Rを下横壁部26に形成する構成としてもよい。この第2ビード部122Rは、その形成範囲は第1ビード部102Rと同じであるが、前端側が後端側よりも車幅方向外側に位置するように、長手方向が前後方向に対して車幅方向に所定角度(一例としては、45度)傾斜している点で第1ビード部102Rとは構成が異なり、その長手方向中間部にて第1ビード部102Rと交差している。
【0051】
このような構成とすることで、例えば、車両が右旋回した際(すなわち、第2ビード部122Rの形成位置が内輪側に位置する場合)に下横壁部26に作用する応力による下横壁部26の変形を防止又は効果的に抑制できる。
【符号の説明】
【0052】
10 車両
12 ダッシュパネル
22 ダッシュクロスメンバ
42R フロントサイドメンバ
42L フロントサイドメンバ
102R 第1ビード部(第1補強部、補強手段)
102L 第1ビード部(第1補強部、補強手段)
122R 第2ビード部(第2補強部、補強手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の幅方向に対向する一対の縦壁部を有し、前記車両の幅方向側端側で前記車両の前後方向に沿って設けられるフロントサイドメンバと、
長手方向が前記幅方向に沿った横壁部を有し、前記幅方向に沿って設けられて前記車両のエンジンルームと前記車両の室内とを仕切るダッシュパネルの前面に接合されると共に、前記フロントサイドメンバと交差して前記横壁部が前記フロントサイドメンバの前記一対の縦壁部に接合されるダッシュクロスメンバと、
前記一対の縦壁部の間で前記横壁部に形成され、前記車両の前後方向に対して前記車両の幅方向へ傾斜した方向に沿うように延びる第1補強部を含めて構成された補強手段と、
を備える車両前部構造。
【請求項2】
前記第1補強部は、後端側に対して前端側が前記車両の幅方向内側に傾斜するように形成された請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
後端側に対して前端側が車幅方向外側を向くように傾斜した第2補強部を含めて前記補強手段を構成した請求項2に記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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