説明

車両前部構造

【課題】通常時には吸気ダクトの剛性及び強度を確保し、歩行者との衝突時にはフードの変形を阻害しない車両前部構造を得る。
【解決手段】吸気ダクト26の側壁58からカバー支持片72を張出させ、当該カバー支持片72によってカバーを支持している。カバー支持片72は片持ち状であるため、吸気ダクト26の剛性及び強度は維持されたまま、吸気ダクト26の変形荷重よりも低い荷重でカバー支持片72を変形させることができる。そして、これにより、吸気ダクト26を覆うカバー34を車両下方へ変形させることができ、当該カバー34の車両上方に位置するフード18を車両下方へ変形させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンルーム内に配置される吸気ダクトを支持する車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両前部において、フードに覆われるエンジンルーム内には吸気ダクトが設けられており、エンジンに供給される空気が導入される(例えば、特許文献1参照)。この吸気ダクトは、エンジンの吸気負圧による変形を防止するための剛性及び強度が必要とされるため、フードに歩行者が衝突し当該フードが吸気ダクトを押し潰しながら変形する際に、吸気ダクトの変形に必要な荷重が大きくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−203943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、通常時には吸気ダクトの剛性及び強度を確保し、歩行者との衝突時にはフードの変形を阻害しない車両前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明の車両前部構造は、エンジンルームを覆うフードと、前記フードの車両下方に配置され、エンジンに供給される空気が導入される吸気ダクトと、前記吸気ダクトと一体に設けられて前記吸気ダクトの通路外の外壁から張出し、前記フードの前部に車両下方への荷重が作用して当該フードが車両下方へ変形した際に、自ら変形することで当該フードの変形を許容する変形許容部材と、を有している。
【0006】
請求項1に記載の本発明の車両前部構造では、エンジンルームを覆うフードの車両下方には、エンジンに供給される空気が導入される吸気ダクトが配置されている。この吸気ダクトには変形許容部材が一体に設けられて当該吸気ダクトの通路外の外壁から張出している。この変形許容部材が、フードの前部に車両下方への荷重が作用して当該フードが車両下方へ変形した際に、自ら変形することで当該フードの変形を許容する。
【0007】
このように、変形許容部材を吸気ダクトの通路外の外壁から張出させることで、吸気ダクトの通路内の剛性及び強度は維持されたまま、吸気ダクトの通路内の変形荷重よりも低い荷重で変形許容部材を変形させることができる。このため、フードに歩行者が衝突したりして、フードの前部に車両下方への荷重が作用した際に、フードを車両下方へ変形させることができ、当該フードの変形によって、歩行者に対する衝突エネルギーを吸収することができる。
【0008】
請求項2に記載する本発明の車両前部構造は、請求項1記載の構成において、前記変形許容部材が、前記吸気ダクトの上面を覆うカバーを支持すると共に、前記カバーの車両下方への変形を許容するカバー支持片である。
【0009】
請求項2に記載する本発明の車両前部構造では、吸気ダクトの上面を覆うカバーを吸気ダクトの外壁から張出すカバー支持片で支持し、当該カバー支持片を変形許容部材として変形させることで、当該カバーの車両下方への変形を許容し、カバーの車両上方に位置するフードの車両下方への変形が許容される。
【0010】
請求項3に記載する本発明の車両前部構造は、請求項2記載の構成において、前記吸気ダクトの外壁から張出し、当該吸気ダクトをボディ側へ固定させる吸気ダクト固定片と前記カバー支持片とが一体的に設けられ、当該吸気ダクト固定片とカバー支持片との間が脆弱部で連結されている。
【0011】
請求項3に記載する本発明の車両前部構造では、吸気ダクトの外壁から張出し、当該吸気ダクトをボディ側へ固定させる吸気ダクト固定片とカバー支持片とを一体的に設けることで、カバー支持片は、吸気ダクトの上部を覆うカバーを支持するのに十分な剛性及び強度を得ることができる。
【0012】
一方、吸気ダクト固定片とカバー支持片との間を、例えば他の部分よりも薄肉に形成したり切欠きを形成したりして脆弱化された脆弱部によって連結することで、カバー支持片は、当該脆弱部が設けられていない場合よりも剛性及び強度が脆弱している分、変形し易くなる。このように、カバー支持片の変形によって、カバーの車両下方への変形を許容することで、カバーの車両上方に位置するフードの車両下方への変形が許容される。
【0013】
請求項4に記載する本発明の車両前部構造は、請求項3記載の構成において、前記脆弱部が切欠き部の形成によって設けられている。
【0014】
請求項4に記載する本発明の車両前部構造では、切欠き部を設けることによって吸気ダクト固定片とカバー支持片との間を脆弱化させ、カバー支持片が変形し易くなるようにしている。
【0015】
請求項5に記載する本発明の車両前部構造は、請求項2〜4の何れか1項に記載の構成において、平面視で前記吸気ダクト固定片と前記カバー支持片との位置がずれている。
【0016】
請求項5に記載する本発明の車両前部構造では、平面視で吸気ダクト固定片とカバー支持片との位置をずらすことにより、カバー支持片が吸気ダクト固定片と干渉しないようにすることができ、カバー支持片の変形が吸気ダクト固定片によって拘束されないようにしている。
【0017】
請求項6に記載する本発明の車両前部構造は、請求項1〜5の何れか1項に記載の構成において、前記吸気ダクトの通路内の上壁と下壁とを繋ぐリブが、車両前後方向に沿って延設され、前記上壁の車両前端部が切り欠かれ、当該上壁と前記リブの車両前端上部との間に隙間が設けられている。
【0018】
請求項6に記載する本発明の車両前部構造では、吸気ダクトの通路内の上壁と下壁とをリブで繋ぐことによって、吸気ダクトの剛性及び強度を向上させることができ、エンジンの吸気負圧による吸気ダクトの変形を防止することができる。そして、吸気ダクトの上壁の車両前端部を切り欠き、上壁とリブの車両前端上部との間に隙間を設けることで、上壁の車両前端部の強度は他の部分よりも低く設定され、吸気ダクトの上壁は変形し易くなる。つまり、フードに歩行者が衝突した場合に、吸気ダクトの車両前端部が変形し、フードの変形が阻害されない。このように、フードが変形することで、歩行者に対する衝突エネルギーが吸収される。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の車両前部構造によれば、通常時には吸気ダクトの剛性及び強度を確保し、歩行者との衝突時にはフードの変形を阻害しないという優れた効果を有する。
【0020】
請求項2に記載の車両前部構造によれば、カバー支持片を変形させることで、カバー及びフードの変形が阻害されないという優れた効果を有する。
【0021】
請求項3に記載の車両前部構造によれば、脆弱部の変形荷重により、カバー支持片の変形荷重を容易に設定することができるという優れた効果を有する。
【0022】
請求項4に記載の車両前部構造によれば、吸気ダクト固定片とカバー支持片との間で切欠き部の形状を変えるだけで、カバー支持片の変形荷重を容易に設定することができるという優れた効果を有する。
【0023】
請求項5に記載の車両前部構造によれば、吸気ダクト固定片と干渉することなく、カバー支持片を変形させることができるという優れた効果を有する。
【0024】
請求項6に記載の車両前部構造によれば、フードの変形がさらに許容されるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る車両前部構造を構成する吸気ダクトを示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両前部構造を示す車両前部の平面図である。
【図3】(A)は本発明の実施形態に係る車両前部構造を示す要部拡大正面図であり、(B)は吸気ダクトのカバー支持片とカバーとが変形した状態を示す動作説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る車両前部構造の車両前後方向に沿った断面で見た、吸気ダクトのカバー支持片、カバー及びフードの動作説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る車両前部構造の車両前後方向に沿った断面で見た吸気ダクトの前端部とカバーの動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明における車両前部構造の実施形態を図面に基づき説明する。なお、図中の矢印UPは車両の上方向、矢印FRは車両の前方向をそれぞれ示す。
【0027】
(車両前部構造の構成)
図2は、車両前部を示す平面図であり、車両10の車体前端部には、フロントバンパ12が車幅方向に沿って設けられており、車両10の車体前方側両側部には、フロントフェンダパネル14が車両前後方向に沿って設けられている。フロントフェンダパネル14の車両後端部には、車幅方向に沿ってダッシュパネル(図示省略)が設けられており、ダッシュパネル、フロントフェンダパネル14及びフロントバンパ12によってエンジンルーム16が区画されている。また、フロントフェンダパネル14の内側に位置するエプロンアッパメンバ(図示省略)には、フード18(図4参照)が開閉可能に設けられており、当該フード18によって、エンジンルーム16が覆われるようになっている。
【0028】
なお、図2ではフード18が開放された状態となっており、後述するエンジン、エアクリーナ、ECU(電子制御ユニット)等の各部品は、それぞれカバー20、22、24によって覆われている。ここで、当該カバー20、22、24の下部には、それぞれエンジン、エアクリーナ、ECU以外の部品も配設されているが、エンジン、エアクリーナ、ECUについて、便宜上、カバー20、22、24をそれぞれ指して説明する。
【0029】
エンジンルーム16の車両後方側の中央部には、エンジン20が配設されており、エンジン20の車両前方には、吸気ダクト26が配設されている。この吸気ダクト26は、車両前方へ向かってエンジン20の車幅方向右側に配設されたエアクリーナ22に接続されており、吸気ダクト26から導入された空気が、当該エアクリーナ22を経てエンジン20に供給される。
【0030】
また、車両前方へ向かってエンジン20の車幅方向左側には、車両10を総合的に制御するECU24が配設されている。このECU24は、マイクロプロセッサで構成され、当該ECU24には、図示はしないが、アクセル位置センサ、車輪速度センサ、モータジェネレータの温度センサ、電流センサ、回転速度センサなどの各種センサから出力される運転条件を示す信号が入力される。そして、入力された信号に基づいて、車両10に関する種々の制御が統合的に行なわれる。
【0031】
さらに、吸気ダクト26の車両下方には、エンジン20の冷却水を冷却するためのラジエータ(図示省略)が配置されている。このラジエータは薄型構造体であり、車両正面視で略矩形状を成している。一方、フロントフェンダパネル14の車両前端側には、ラジエータサポートアッパ30(図4参照)が、車幅方向に亘って架け渡された状態でボディ32側に固定されている。ラジエータの上端部は、このラジエータサポートアッパ30に固定されており、当該ラジエータは、車両水平面に対して略垂直に立設された状態で、車幅方向に沿って配置されている。
【0032】
また、図4に示されるように、ラジエータサポートアッパ30の上面には、吸気ダクト26が固定されており(後述する)、図2に示されるように、ラジエータサポートアッパ30と吸気ダクト26のフロントバンパ12側は、カバー34で覆われている。このカバー34はボディ32側に固定されており、カバー34には車幅方向に沿って開口部36が形成され、当該開口部36を通じて吸気ダクト26内へ空気が導入されるようになっている。
【0033】
また、ラジエータサポートアッパ30の上面には、フード18の閉止状態を維持するフードロック(図示省略)が設けられている。このフードロックには、フード18の自由端側に位置しエンジンルーム16側へ突出するストライカ(図示省略)が係合可能とされている。ストライカがフードロックに係合された状態で、フード18はエンジンルーム16を覆うようになっているが、フード18がエンジンルーム16を覆った状態で、フード18とカバー34の間には、隙間が設けられている。
【0034】
(吸気ダクト)
ここで、本発明における車両前部構造を構成する変形許容部材を備えた吸気ダクト26の構成について説明する。
【0035】
図1に示されるように、吸気ダクト26は、吸気部40及び排気部42を備えており、吸気部40と排気部42とは互いに連通している。排気部42は、吸気部40の車両下方に配置されており、吸気ダクト26の平面視における面積が小さくなっている。吸気部40は、車幅方向に沿って薄く広がるように平面視で略扇形を成しており、扇形の弧の部分に相当する領域には、略全域に亘って吸気口(通路)44が設けられている。
【0036】
一方、排気部42は略直方体状を成しており、エアクリーナ22側へ向かって開口する略矩形状の排気口46が形成されている。排気口46には、エアクリーナ22に接続されたダクト47(図2参照)が接続されており、吸気口44から導入された空気は、当該排気口46から排出され、ダクト47を経てエアクリーナ22へ案内される。
【0037】
ところで、吸気部40の上壁48と下壁50とは、リブ52によって繋がれており、車幅方向に沿って複数配置されると共に、当該リブ52は、車両前後方向に沿って延設されている。また、リブ52の車両前端上部は切欠き部52Aによって略三角状に切欠かれており、リブ52の車両前端上部と上壁48との間には隙間54が設けられている。
【0038】
吸気ダクト26の上面の車両前後方向の略中央部には、車幅方向に沿って段部56が設けられており、車両前側よりも車両後側の方が高くなっている。この段部56に沿って吸気ダクト26の車両前側がカバー34で覆われ、カバー34の表面と吸気ダクト26の車両後側の表面とが略面一の状態となる。
【0039】
また、吸気ダクト26の吸気口44外の側壁58の略中央部には、断面が角柱状を成す突設部60が設けられており、側壁58よりも肉厚とされている。この突設部60の車両前端部の両側から、ラジエータサポートアッパ30(図4参照)に固定される吸気ダクト固定片62が張出している。
【0040】
図1及び図3(A)に示されるように、吸気ダクト固定片62は、断面クランク状を成しており、突設部60から水平方向へ張出した後、斜め下方へ向かって屈曲し、ラジエータサポートアッパ30の表面に接触する位置で、当該ラジエータサポートアッパ30の表面に沿って屈曲し、延出する部分が吸気ダクト固定部64とされている。
【0041】
この吸気ダクト固定部64の中央部には孔部66が形成されており、ボルト68が挿通可能とされている。ラジエータサポートアッパ30には、当該ボルト68がねじ込み可能なネジ孔(図示省略)が形成されており、孔部66を挿通させた状態で当該ネジ孔にボルト68をねじ込むことで、吸気ダクト固定部64を介して吸気ダクト26がラジエータサポートアッパ30に固定される。
【0042】
また、図1に示されるように、吸気ダクト固定片62の車両後方には、吸気ダクト固定片62に隣接してカバー支持片(変形許容部材)72が、吸気ダクト26の吸気口44外の側壁58から張出している。このカバー支持片72は断面略L字状を成しており、突設部60の上面に対して略垂直に起立した後、吸気ダクト26の上面よりも低い位置で略水平に屈曲し、延出する部分がカバー支持部74とされている。このカバー支持部74の中央部には孔部76が形成されており、クリップ(図示省略)が係止可能とされている。
【0043】
カバー支持部74と吸気ダクト固定部64との間には高低差が設けられており、カバー支持部74の方が吸気ダクト固定部64よりも車両上方側に位置している。また、カバー支持片72と吸気ダクト固定片62との間は立壁(脆弱部)78によって繋がれており、当該立壁78は、切欠き部80によって突設部60を介してカバー支持片72と吸気ダクト固定片62の基部側が連結された形状とされている。
【0044】
一方、図3(A)に示されるように、カバー支持部74に支持されるカバー34の裏面からは略円柱状の足部82が突出しており、足部82の底面中央部には、図示しない孔部が形成されている。この孔部にクリップが挿通した状態で、当該クリップがカバー支持部74の孔部76に係止され、足部82を介してカバー支持部74にカバー34が支持される。そして、この状態で、カバー34はボディ32側に固定される。カバー34がボディ32側に固定された状態で、カバー34と吸気ダクト26の間には隙間が設けられるが、カバー34の裏面にはスポンジ(図示省略)が貼着されており、当該隙間内にはスポンジが配置される。
【0045】
(車両前部構造の作用・効果)
次に、本実施形態に係る車両前部構造の作用・効果について説明する。
【0046】
図1及び図3(A)に示されるように、本実施形態では、吸気ダクト26の吸気口44外の側壁58からカバー支持片72を張出させ、カバー支持部74によってカバー34を支持している。カバー支持片72は片持ち状であるため、吸気ダクト26の剛性及び強度は維持されたまま、吸気ダクト26の変形荷重よりも低い荷重でカバー支持片72を変形させることができる。
【0047】
そして、カバー支持片72自らの変形により、図4に示されるように、フード18の前部に車両下方への荷重が作用して当該フード18が車両下方へ変形した際に、吸気ダクト26を覆うカバー34を車両下方へ変形させることができる。これにより、当該カバー34の車両上方に位置するフード18を車両下方へ変形させることができる。したがって、フード18に歩行者が衝突したりして、フード18の前部に車両下方への荷重が作用した際に、フード18を車両下方へ変形させることができ、当該フード18の変形によって、歩行者に対する衝突エネルギーを吸収することができる。
【0048】
また、カバー支持片72と吸気ダクト固定片62との間を立壁78によって繋いでいる。これにより、カバー支持部74は、吸気ダクト26の上部を覆うカバー34を支持するのに十分な剛性及び強度を得ることができる。そしてさらに、切欠き部80によって、立壁78を、突設部60を介してカバー支持片72と吸気ダクト固定片62の基部側が連結された形状とすることで、カバー支持片72の自由端側において、立壁78により拘束されることなく弾性変形させることができる。このように、カバー支持片72と吸気ダクト固定片62との間で切欠き部80の形状を変えるだけで、カバー支持片72の変形荷重を容易に設定することができる。
【0049】
また、カバー支持部74と吸気ダクト固定部64との間には高低差が設けられており、カバー支持部74の方が吸気ダクト固定部64よりも車両上方側に位置している。このため、カバー支持部74と吸気ダクト固定部64と高低差分、カバー支持片72は吸気ダクト固定片62と干渉することなく変形可能となる。そしてさらに、吸気ダクト固定片62の車両後方に吸気ダクト固定片62を隣接させ、平面視でカバー支持片72と吸気ダクト固定片62との位置をずらすようにしている。これにより、カバー支持片72の変形が吸気ダクト固定片62によって拘束されないようにしている。つまり、吸気ダクト固定片62と干渉することなく、カバー支持片72を変形させることができる。
【0050】
ここで、フード18に歩行者が衝突した場合、入力荷重はフード18の前側上方から後側下方へ向かって入力されることとなる。このため、吸気ダクト固定片62の車両後方にカバー支持片72を設けることで、カバー支持片72が後側下方へ変形したとしても吸気ダクト固定片62とは干渉しないため、当該吸気ダクト固定片62によってカバー支持片72の変形が拘束されることはない。
【0051】
ところで、吸気部40の上壁48と下壁50とを繋ぐリブ52の車両前端上部は切欠き部52Aによって切欠かれており、リブ52の車両前端上部と上壁48との間には隙間54が設けられている。吸気ダクト26の上壁48と下壁50とをリブ52で繋ぐことによって、吸気ダクト26の剛性及び強度を向上させることができ、エンジン20の吸気負圧による吸気ダクト26の変形を防止することができる。
【0052】
その一方で、上壁48の車両前端部とリブ52の車両前端上部との間に隙間54を設けることで、吸気ダクト26の車両前端部の強度は他の部分よりも低く設定され、変形し易くなる。これにより、フード18に歩行者が衝突した場合に、吸気ダクト26の車両前端部が変形し、フード18の変形を確保することができる。このため、フード18の変形がさらに許容されることとなる。つまり、通常時には吸気ダクト26の剛性及び強度を確保し、歩行者との衝突時にはフード18の変形が阻害されない。
【0053】
[実施形態の補足説明]
上記実施形態では、図1に示されるように、吸気ダクト固定片62に隣接してカバー支持片72を設けたが、吸気ダクト固定片62とカバー支持片72とは、それぞれ独立した状態で配置されていても良い。また、カバー支持片72は、吸気ダクト26の車幅方向の両端部に設けられているが、少なくとも1つ設けられていれば良い。
【0054】
また、カバー支持片72と吸気ダクト固定片62とを繋ぐ立壁78において、本実施形態では、切欠き部80を形成して脆弱化を図ったが、カバー支持片72と吸気ダクト固定片62とを繋ぐ連結部が脆弱化されていれば良いため、これに限るものではない。このため、当該切欠き部80に代えて肉厚を薄くすることによって立壁78を脆弱化させても良く、また、立壁78自体を取り除いても良い。
【0055】
また、上記実施形態では、フード18に歩行者が衝突した場合に、カバー支持片72を弾性変形させることで、カバー34及びフード18の変形を阻害しないようにしたが、カバー34及びフード18の変形が阻害されなければ良いため、カバー支持片72の弾性変形に限るものではない。例えば、所定値以上の入力荷重が作用すると、カバー支持片72を破断させるようにしても良い。但し、この場合、カバー支持片72の通常時の剛性及び強度が高くなるため、カバー支持片72の弾性変形によってカバー34及びフード18の変形を許容させた方が好ましい。
【0056】
さらに、上記実施形態では、吸気部40の上壁48と下壁50とを繋ぐリブ52の車両前端上部と上壁48との間に隙間54を設け、吸気ダクト26の車両前端部の強度を他の部分よりも低く設定し変形し易くなるようにしたがこれに限るものではない。例えば、上記に加え、吸気ダクト26の側壁58の上壁48側に切欠き部(図示省略)を設けることで、吸気ダクト26の上壁48がさらに変形し易くなる。また、これ以外にも、吸気ダクト26の上壁48や側壁58に溝部を形成して薄肉にし、当該上壁48を変形し易くしても良い。
【0057】
一方、吸気ダクト26において、フード18の変形を阻害しない領域を設けるという観点では、カバー支持片72が必ずしもカバー34を支持する必要はなく、カバー34以外のものを支持しても良く、さらには、吸気ダクト26がむき出しの状態であっても良い。
【0058】
また、本発明は、要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0059】
10 車両
16 エンジンルーム
18 フード
26 吸気ダクト
34 カバー
44 吸気口(通路)
52 リブ
54 隙間
58 側壁(外壁)
62 吸気ダクト固定片
72 カバー支持片(変形許容部材)
78 立壁(脆弱部)
80 切欠き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームを覆うフードと、
前記フードの車両下方に配置され、エンジンに供給される空気が導入される吸気ダクトと、
前記吸気ダクトと一体に設けられて前記吸気ダクトの通路外の外壁から張出し、前記フードの前部に車両下方への荷重が作用して当該フードが車両下方へ変形した際に、自ら変形することで当該フードの変形を許容する変形許容部材と、
を有する車両前部構造。
【請求項2】
前記変形許容部材が、前記吸気ダクトの上面を覆うカバーを支持すると共に、前記カバーの車両下方への変形を許容するカバー支持片である請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記吸気ダクトの外壁から張出し、当該吸気ダクトをボディ側へ固定させる吸気ダクト固定片と前記カバー支持片とが一体的に設けられ、当該吸気ダクト固定片とカバー支持片との間が脆弱部で連結された請求項2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記脆弱部が切欠き部の形成によって設けられた請求項3に記載の車両前部構造。
【請求項5】
平面視で前記吸気ダクト固定片と前記カバー支持片との位置がずれている請求項2〜4の何れか1項に記載の車両前部構造。
【請求項6】
前記吸気ダクトの通路内の上壁と下壁とを繋ぐリブが、車両前後方向に沿って延設され、前記上壁の車両前端部が切り欠かれ、当該上壁と前記リブの車両前端上部との間に隙間が設けられた請求項1〜5の何れか1項に記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−66611(P2012−66611A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210750(P2010−210750)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】