説明

車両前部構造

【課題】前突時の車室保護性能を向上させることができる車両前部構造を得る。
【解決手段】フロントサイドメンバ12の強度変化部Pにおいて、当該フロントサイドメンバ12の下壁12Aに凹ビード26が設けられている。これにより、フロントサイドメンバ12の強度変化部Pでは、フロントサイドメンバ12の下壁12Aが上壁12Bよりも強度が低くなっている。このため、当該強度変化部Pでは、フロントサイドメンバ12が上方へ向かって屈曲し、サスペンションタワー18が車両前方側へ向かって傾倒する。このため、サスペンションタワー18とダッシュパネル24との干渉を抑制することができ、前突時の車室保護性能を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、車両の前面衝突時(いわゆる前突時)にフロントサイドメンバの後部を車両幅方向外側へ屈曲させて衝突エネルギーを効率よく吸収するというフロントサイドメンバ構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−196544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、この先行技術ではフロントサイドメンバの後部を車両幅方向外側へ屈曲させるため、フロントサイドメンバの周囲に配設された部材が当該フロントサイドメンバと干渉し、予期せぬ方向へ移動する可能性がある。したがって、この先行技術は、前突時の車室保護性能を向上させる観点から改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、前突時の車室保護性能を向上させることができる車両前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の車両前部構造は、車両前部の左右両側部に配置された一対のサスペンションタワーと、前記サスペンションタワーの車両後方に配置され、エンジンルームと車室とを区画するダッシュパネルと、前記サスペンションタワーの下方に配置され、車両前後方向へ延在し後端側が前記ダッシュパネルと接合される一対のフロントサイドメンバと、前記フロントサイドメンバにおける前記サスペンションタワーの車両後方かつ前記ダッシュパネルの車両前方に位置し、車両上下方向の上部側よりも下部側の強度が低くなるように設定された強度変化部と、を有している。
【0007】
請求項1に記載の車両前部構造では、車両前部の左右両側部にはサスペンションタワーがそれぞれ配置されている。このサスペンションタワーの車両後方には、エンジンルームと車室とを区画するダッシュパネルが設けられている。
【0008】
また、サスペンションタワーの下方には一対のフロントサイドメンバが設けられており、車両前後方向へ延在し当該フロントサイドメンバの後端側がダッシュパネルに接合されている。ここで、このフロントサイドメンバにおけるサスペンションタワーの車両後方かつダッシュパネルの車両前方には強度変化部が設けられている。この強度変化部では、当該フロントサイドメンバの(車両上下方向の)上部側よりも下部側の強度が低くなるように設定されている。
【0009】
一般的に、車両の前面衝突時(いわゆる前突時)にフロントサイドメンバに前面衝突荷重が入力されると、当該フロントサイドメンバの前端側が軸方向に沿って圧縮変形し衝撃エネルギーを吸収するように設定されている。本発明では、フロントサイドメンバの強度変化部において、当該フロントサイドメンバの上部側よりも下部側の強度が低くなるように設定されている。
【0010】
このため、フロントサイドメンバに前面衝突荷重が入力されると、当該強度変化部において、フロントサイドメンバの下部側が上部側よりも先に屈曲しようとする。これにより、強度変化部において、フロントサイドメンバの下部側では、強度変化部の車両前方側と車両後方側とが互いに近接し、フロントサイドメンバが上方へ向かって屈曲する。このフロントサイドメンバの変形により衝撃エネルギーが吸収される。
【0011】
一方、フロントサイドメンバが軸方向に沿って圧縮変形すると、フロントサイドメンバの上方に位置するサスペンションタワーが当該サスペンションタワーの車両後方に設けられたダッシュパネルと干渉する可能性がある。強度変化部はサスペンションタワーの車両後方かつダッシュパネルの車両前方に位置するため、当該強度変化部においてフロントサイドメンバが上方へ向かって屈曲すると、サスペンションタワーは車両前方側へ向かって傾倒する。このように、サスペンションタワーが車両前方側へ向かって傾倒すると、サスペンションタワーの車両後方にダッシュパネルが配置されているため、当該サスペンションタワーはダッシュパネルから離間する方向へ向かって傾倒することとなる。
【0012】
つまり、本発明によれば、フロントサイドメンバにおいて、衝撃荷重入力による変形時に上方へ向かって屈曲させたい位置を特定することができる。そして、このフロントサイドメンバの変形を利用してサスペンションタワーを車両前方側へ向かって傾倒させるようにすることで、サスペンションタワーとダッシュパネルとの干渉を抑制することができる。
【0013】
請求項2に記載の車両前部構造は、請求項1に記載の車両前部構造において、前記強度変化部では、前記フロントサイドメンバの下部に脆弱部が設けられている。
【0014】
請求項2に記載の車両前部構造では、フロントサイドメンバの下部に、例えば、凹ビードを設けたり穴部を形成するなどして脆弱部が設けられる。これによって、強度変化部においてフロントサイドメンバの上部よりも下部の強度を低く設定することができる。
【0015】
請求項3に記載の車両前部構造は、請求項1に記載の車両前部構造において、前記強度変化部では、前記フロントサイドメンバの上部に補強部が設けられている。
【0016】
請求項3に記載の車両前部構造では、フロントサイドメンバの上部に補強部が設けられることによって、強度変化部においてフロントサイドメンバの上部の強度が他の部分よりも高くなる。これにより、強度変化部においてフロントサイドメンバの上部よりも下部の強度を相対的に低く設定することができる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の車両前部構造は、前突時の車室保護性能を向上させることができる、という優れた効果を有する。
【0018】
請求項2に記載の車両前部構造は、フロントサイドメンバの下部を加工するだけなので、本発明におけるフロントサイドメンバを簡単に製作することができる、という優れた効果を有する。
【0019】
請求項3に記載の車両前部構造は、従来の強度及び剛性を担保しつつ、強度変化部においてフロントサイドメンバの上部よりも下部の強度が低くなるように設定することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(A)は、本実施の形態に係る車両前部構造を示す車両左側から見た側面図であり、(B)は、当該車両前部構造の要部を拡大して示す斜視図である。
【図2】本実施の形態に係る車両前部構造を示す車両左側から見た側面図であり、 (A)は、前面衝突前の状態を示し、(B)は、前面衝突後の状態を示している。
【図3】図2(A)、(B)とそれぞれ対応する比較例である。
【図4】その他の実施形態(1)に係る車両前部構造の要部を拡大した斜視図である。
【図5】(A)は、その他の実施形態(2)に係る車両前部構造を示す車両左側から見た側面図であり、(B)は、当該車両前部構造の要部を拡大した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1には、本発明の実施の形態に係る車両前部構造が適用された車体前部10において、左方から見た概略的な側面図が示されている。なお、図中に適宜記す矢印FRは車両前後方向の前方向を、矢印UPは車両上下方向の上方向をそれぞれ示している。
【0022】
(車両前部構造)
図1(A)には、本実施の形態に係る車両前部構造が適用された車体前部10の車両左側から見た側面図が示されており、図1(A)に示す車体前部10の車両幅方向の両端側には、長尺矩形筒状のフロントサイドメンバ12が備わっている。図1(A)に示されるように、このフロントサイドメンバ12は車両前後方向に沿って延在されており、フロントサイドメンバ12の車両前端部は、車両幅方向に沿って配置されたフロントバンパリインフォースメント14に接合されている。なお、フロントバンパリインフォースメント14はフロントサイドメンバ12に直接接合される構成でも良いが、図示しないクラッシュボックスを両者の間に介在させても良い。
【0023】
フロントサイドメンバ12の車両後端側には、車両後方へ向かうにつれて車両下側へ向って傾斜するキック部16が設けられている。このキック部16の車両後方側は車両後方へ向かって略水平に延在されており、フロントサイドメンバ12の車両後端部は図示しないクロスメンバに接合されている。
【0024】
一方、フロントサイドメンバ12の車両前端側の上方にはサスペンションタワー18が設けられている。このサスペンションタワー18の車両後方には、エンジンルーム20と車室22とを区画するダッシュパネル24が設けられている。
【0025】
ここで、フロントサイドメンバ12におけるサスペンションタワー18の車両後方かつダッシュパネル24の車両前方に位置する強度変化部P(屈曲部位)には、図1(B)に示されるように(なお、図1(B)は、図1(A)の要部を拡大した斜視図である)、フロントサイドメンバ12の下部に位置する下壁12Aの車両幅方向の全域に亘って脆弱部としての凹ビード26が設けられている。
【0026】
この凹ビード26はフロントサイドメンバ12の下壁12Aが上壁12Bへ向かって屈曲し、側面視で略三角形を成す形状に形成されている。これにより、フロントサイドメンバ12の強度変化部Pでは、フロントサイドメンバ12の下壁12Aが上壁12Bよりも強度が低くなっている。
【0027】
なお、ここでは、凹ビード26は側面視で略三角形状を成しているが、凹ビード26の形状はこれに限るものではない。例えば、図示はしないが、凹ビードが側面視で円弧状を成していても良い。
【0028】
(車両前部構造における作用・効果)
一般的に、図2(A)に示すフロントサイドメンバ12の車両前端側では、フロントサイドメンバ12の他の部位よりも軸方向への圧縮強度が低く設定されており、車両の前面衝突時(いわゆる前突時)にフロントサイドメンバ12に前面衝突荷重が入力されると、図2(B)に示されるように、フロントサイドメンバ12の車両前端側が軸方向に沿って圧縮変形し、衝撃エネルギーが吸収されるようになっている。
【0029】
本実施形態では、図1(A)、(B)に示されるように、フロントサイドメンバ12の強度変化部Pにおいて、当該フロントサイドメンバ12の下壁12Aに凹ビード26が設けられている。これにより、フロントサイドメンバ12の強度変化部Pでは、フロントサイドメンバ12の下壁12Aが上壁12Bよりも強度が低くなっている。
【0030】
このため、フロントサイドメンバ12に前面衝突荷重が入力されると、フロントサイドメンバ12の強度変化部Pでは、フロントサイドメンバ12の下壁12Aが上壁12Bよりも先に屈曲しようとする。これにより、フロントサイドメンバ12の強度変化部Pにおいて、フロントサイドメンバ12の下壁12A側では、当該強度変化部Pの車両前方側と車両後方側とが互いに近接し、図2(B)に示されるように、フロントサイドメンバ12が上方へ向かって屈曲する。このフロントサイドメンバ12の変形により衝撃エネルギーが吸収される。
【0031】
一方、本実施形態に係る車両前部構造が適用されていない車体前部100では、図3(B)に示されるように、フロントサイドメンバ102の車両前端側が軸方向に沿って圧縮変形すると、フロントサイドメンバ102の上方に位置するサスペンションタワー18が当該サスペンションタワー18の車両後方に位置するダッシュパネル24と干渉する可能性がある。
【0032】
フロントサイドメンバ12の強度変化部Pはサスペンションタワー18の車両後方に位置するため、当該強度変化部Pにおいてフロントサイドメンバ12が上方へ向かって屈曲すると、サスペンションタワー18は車両前方側へ向かって傾倒する。上述のように、サスペンションタワー18の車両後方にはダッシュパネル24が配置されているため、サスペンションタワー18が車両前方側へ向かって傾倒すると、当該サスペンションタワー18はダッシュパネル24から離間する方向へ向かって傾倒することとなる。
【0033】
つまり、本実施形態によれば、フロントサイドメンバ12において、衝撃荷重入力による変形時に上方へ向かって屈曲させたい位置(強度変化部P)を特定することができる。そして、このフロントサイドメンバ12の変形を利用してサスペンションタワー18を車両前方側へ向かって傾倒させるようにすることで、サスペンションタワー18とダッシュパネル24との干渉を抑制することができる。このため、前突時の車室保護性能を向上させることができる。
【0034】
(その他の実施形態)
【0035】
(1)本実施形態では、図1(B)に示されるように、フロントサイドメンバ12の強度変化部Pにおいて、当該フロントサイドメンバ12の下壁12Aに脆弱部としての凹ビード26を設けた。しかし、本実施形態では、フロントサイドメンバ12の強度変化部Pにおいて、下壁12Aが上壁12Bよりも強度が低くなるように、当該下壁12Aに脆弱部を設ければ良いため、これに限るものではない。
【0036】
例えば、図4に示されるように、フロントサイドメンバ28の強度変化部Pにおいて、下壁28A又は側壁28Bに貫通穴30を複数形成しても良い。なお、下壁28A及び側壁28Bに貫通穴30を形成しても良い。以上の実施形態では、フロントサイドメンバ12、28の下壁12A、28Aを加工するだけなので、本実施形態におけるフロントサイドメンバ12、28を簡単に製作することができる。
【0037】
(2)また、以上の実施形態では、フロントサイドメンバ12、28の強度変化部Pにおいて、下壁12A、28Aの強度を上壁12B、28Cよりも低くなるように設定したが、上壁12B、28Cの強度を下壁12A、28Aの強度よりも高くなるように設定しても良い。
【0038】
例えば、図5(A)、(B)に示されるように、フロントサイドメンバ32の強度変化部Pに補強材34を設けても良い。補強材34は、例えば、車両後方視で矩形状を成しており、車両側面視で前端部34A側の下半分から側壁34Bの下部の長手方向の略半分の位置に架けて車両後方へ向かって膨らむ円弧状の切欠き部36が形成されている。この切欠き部36が形成されている部分では、他の部分と比較して強度が低くなっている。つまり、補強材34の下壁34Cは上壁34Dよりも強度が低くなっている。
【0039】
したがって、フロントサイドメンバ32の強度変化部Pにおいて、フロントサイドメンバ32の下壁32A側の方が上壁32B側よりも強度が低くなる。このため、当該強度変化部Pにおいて、フロントサイドメンバ32を上方へ向かって屈曲させることができる。
【0040】
また、このような補強材34をフロントサイドメンバ32内に設け、補強材34の前端部34Aを強度変化部Pの位置に合わせて配置することで、強度変化部Pにおいて、車両前方側と車両後方側とで強度差が得られる。つまり、フロントサイドメンバ32の強度変化部Pを基準として、車両前方側は車両後方側よりも強度が低くなっているため、強度変化部Pにおいてフロントサイドメンバ32をより確実に屈曲させることができる。
【0041】
つまり、本実施形態では、従来の強度及び剛性を担保しつつ、強度変化部Pでフロントサイドメンバ32を車両上方側へ屈曲させることができる。なお、補強材34において、下壁34Cの強度が上壁34Dよりも低くなるように設定することができれば良いため、この形状に限るものではない。例えば、切欠き部36の形状は角状であっても良い。
【0042】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0043】
10 車体前部(車両前部構造)
12 フロントサイドメンバ
12A 下壁(下部側)
12B 上壁(上部側)
18 サスペンションタワー
24 ダッシュパネル
26 凹ビード(脆弱部)
28 フロントサイドメンバ
28A 下壁(脆弱部)
28B 側壁(脆弱部)
32 フロントサイドメンバ
34 補強材(補強部)
P 強度変化部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部の左右両側部に配置された一対のサスペンションタワーと、
前記サスペンションタワーの車両後方に配置され、エンジンルームと車室とを区画するダッシュパネルと、
前記サスペンションタワーの下方に配置され、車両前後方向へ延在し後端側が前記ダッシュパネルと接合される一対のフロントサイドメンバと、
前記フロントサイドメンバにおける前記サスペンションタワーの車両後方かつ前記ダッシュパネルの車両前方に位置し、車両上下方向の上部側よりも下部側の強度が低くなるように設定された強度変化部と、
を有する車両前部構造。
【請求項2】
前記強度変化部では、前記フロントサイドメンバの下部に脆弱部が設けられている請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記強度変化部では、前記フロントサイドメンバの上部に補強部が設けられている請求項1に記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−43562(P2013−43562A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182925(P2011−182925)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】