説明

車両前部構造

【課題】 ウォータースクリーン現象を低減する車両前部構造を提供する。
【解決手段】 フロントバンパー11の後方下面をアンダーカバー20で覆う車両前部構造において、前記アンダーカバー20は、前記フロントバンパー11の下端部の後方に、上方に向かって開口する凹部20を画成する形状を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
SUV、RV、ピックアップトラックなど車高が高く、アプローチアングルが大きな自動車においては、水たまりなどを走行する際に、タイヤで跳ね上げた水飛沫がフロントガラスに被水する現象(ウォータースクリーン現象)が発生する場合がある。
【0003】
このような自動車の前部の側面図並びに下面図及び断面図を図7、図8に示す。これらの図面に示すように、フロントバンパー1には、タイヤTの周囲を覆うスプラッシュシールド2が連結され、スプラッシュシールド2の後方にはサイドシル3が連結されている。また、エンジンルームの下面でスプラッシュシールド2の間には、空気抵抗を低減するために、アンダーカバー5で覆って、車体下部を平坦化する処理が施される(特許文献1参照)。なお、アプローチアングルθは、タイヤTの前側接地部とフロントバンパー1の下側とを結ぶ直線と地面とのなす角をいう。
【0004】
このようなアプローチアングルθは、セダンの場合には10°前後であるが、車高の高いSUVなどでは28°前後または28°程度以上と大きくなり、タイヤTで跳ね上げた水や跳ね上げてフロントバンパー1やアンダーカバー5で跳ね返された水を再度跳ね上げた水からなる水飛沫がフロントガラス全面に被水する状態となり、前方視界が遮断され、危険な状態になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−276867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、ウォータースクリーン現象を低減する車両前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明は、フロントバンパーの後方下面をアンダーカバーで覆う車両前部構造において、前記アンダーカバーは、前記フロントバンパーの下端部の後方に、上方に向かって開口する凹部を画成する形状を具備することを特徴とする車両前部構造にある。
【0008】
かかる本発明では、タイヤで跳ね上げられた水飛沫が凹部に入り込み一時的に保持されるので、タイヤへの跳ね返りが著しく低減し、跳ね返された水が再度タイヤに跳ね上げられることが防止され、フロントガラスへの水飛沫の被水を低減することができる。
【0009】
ここで、前記凹部は前記フロントバンパーの後方の空間に連通しているのが好ましい。
【0010】
これによると、タイヤで跳ね上げられた水飛沫がフロントバンパーの後方の空間に一時的に保持されるので、タイヤへの跳ね返りがさらに確実に防止され、フロントガラスへの被水がより確実に低減される。
【0011】
また、前記凹部の後方側は、前記アンダーカバーの立ち上がり部で画成されているのが好ましい。
【0012】
これによると、タイヤで跳ね上げられた水飛沫がエンジンルーム内に入り込むのが防止される。
【0013】
また、前記凹部が車両の幅方向両側に設けられているのが好ましい。
【0014】
これによると、タイヤから前方並びに前方斜め内側に跳ね上げられた水飛沫が幅方向両側に設けられた凹部内に入り込み、中央部では凹部がないので、整流効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両前部構造では、タイヤで跳ね上げられた水飛沫が凹部に入り込み一時的に保持され、タイヤへの跳ね返りが著しく低減し、跳ね返された水が再度タイヤに跳ね上げられることが防止されるので、フロントガラスへの水飛沫の被水を低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例1に係る車両前部構造の側面図である。
【図2】本発明の実施例1に係る車両前部構造の下面図である。
【図3】図2のA−A′線断面図である。
【図4】本発明の実施例1に係るアンダーカバーの変形例を示す断面図である。
【図5】本発明の実施例2に係る車両前部構造の下面図である。
【図6】図5のB−B′線、C−C′線断面図である。
【図7】従来技術に係る車両前部構造の側面図である。
【図8】従来技術に係る車両前部構造の下面図及びD−D′線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の車両前部構造を実施例に基づいて説明する。
【0018】
図1〜図3には本発明の実施例1に係る車両前部構造の側面図、下面図及びそのA−A′線断面図を示す。
【0019】
これらの図面に示すように、フロントバンパー11の後方には、タイヤTの周囲を覆うスプラッシュシールド12が連結し、スプラッシュシールド12の後方にはサイドシル13が連結している。また、フロントバンパー11の後方下面、スプラッシュシールド12の間には、エンジンルームの下面を覆うアンダーカバー20が設けられている。
【0020】
本実施例のアンダーカバー20は、フロントバンパー11の下端部の後方に、車幅方向に亘って、上方に向かって開口する凹部30を画成する形状を具備する。すなわち、本実施例のアンダーカバー20は、凹部30の後方の部分がフロントバンパー11の下端に沿って車両の下面を覆うカバー本体部21となり、カバー本体部21より前側は、車幅方向に亘って、上方に向かって立ち上がった立ち上がり部22と、前方に向かって略水平に延びる上壁部23となり、凹部30の後方側及び上側を画成している。本実施例では、凹部30の前側は解放され、フロントバンパー11の裏側の空間に連通している。
【0021】
このような車両前部構造では、水溜まりなどを走行する際にタイヤTで跳ね上げられた水飛沫Wは、凹部30内に、さらには、フロントバンパー11の裏側の空間31内に入り込み、一時的に保持され、跳ね返りがほとんどないので、跳ね返った水飛沫Wが再度タイヤTで跳ねとばされるのが防止され、ウォータースクリーン現象が著しく低減される。
【0022】
実施例1では、アプローチアングルθが28°程度の例を例示したが、このような効果は、アプローチアングルθが20°程度以上の車種で効果があることが確認できている。
【0023】
図4には、上述した実施例1のアンダーカバー20の変形例を示す。
図4(a)のアンダーカバー20Aは、カバー本体部21Aと、立ち上がり部22Aと、上壁部23Aとを具備し、立ち上がり部22Aと上壁部23Aとで凹部30を画成する点は上述した実施例1と同様であるが、上壁部23Aは、フロントバンパー11の裏面まで延びている。これによると、タイヤTで跳ね上げられた水飛沫Wがエンジンルーム内に入り込むのが防止されるという効果がある。
【0024】
図4(b)のアンダーカバー20Bは、カバー本体部21Bと、立ち上がり部22Bと、上壁部23Bとを具備する点は実施例1と同様であるが、上壁部23Bに連続して前壁部24Bを具備し、立ち上がり部22Bと上壁部23Bと前壁部24Bとで凹部30を画成する形状となっている。この場合、凹部30がフロントバンパー11の裏面の空間31に連通して多量の水飛沫Wを保持するという効果の点では上述した各実施例より劣るが、これでも水飛沫Wを一時的に保持する効果がある点では共通し、ウォータースクリーン現象を低減する効果を奏する。
【0025】
図4(c)のアンダーカバー20Cは、カバー本体部21Cのみからなり、カバー本体部21Cがフロントバンパー11との間に凹部30の開口を画成するように後方に離間して設けられている。これによっても、実施例1と同様な効果を奏するのはいうまでもない。
【0026】
図5及び図6には、実施例2の下面図及びそのB−B′線、C−C′線断面図を示す。これらの図面に示すように、本実施例のアンダーカバー20Dは、フロントバンパー11の下端部の後方に、車幅方向の両側に、上方に向かって開口する凹部30Aをそれぞれを画成する形状を具備する。すなわち、本実施例のアンダーカバー20Dは、カバー本体部21Dの凹部30Aの後方側には立ち上がり部22Dと、前方に向かって略水平に延びる上壁部23Dとを具備し、凹部30Aの間の領域には、カバー本体部21Dがそのまま水平に延びる延設部25Dを具備する。
【0027】
このような本実施例においては、タイヤTにより前方及び前方内側斜め方向に跳ねとばされた水飛沫Wを幅方向両側の凹部30A内に取り込んで一時的に保持すると共に、凹部30Aの間の中央部では、フロントバンパー11の下端部から延設部25D及びカバー本体部21Dが略水平に延びており、整流効果が発揮されるという効果を奏する。
【0028】
本実施例では、凹部30Aの前側は解放され、フロントバンパー11の裏側の空間31に連通している。
【0029】
このような実施例2においても、凹部30Aを画成する構造としては、図4(a)〜(c)に示したような変形例が採用できることはいうまでもない。
【0030】
また、上述した各実施例に示した構造に限定されるものではないことはいうまでもない。例えば、アンダーカバーのカバー本体部として説明した部分は、平面形状を有している必要ななく、また、水平ではなくてもよく、傾斜していたり、多少の波打ち形状や屈曲等を有していてもよいことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、アプローチアングルの大きな車両全般に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
11 フロントバンパー
12 スプラッシュシールド
13 サイドシル
20、20A〜20D アンダーカバー
21、21A〜21D カバー本体部
22、22A〜22B、22D 立ち上がり部
23、23A〜23B、23D 上壁部
24B 前壁部
25D 延設部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントバンパーの後方下面をアンダーカバーで覆う車両前部構造において、前記アンダーカバーは、前記フロントバンパーの下端部の後方に、上方に向かって開口する凹部を画成する形状を具備することを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両前部構造において、
前記凹部は前記フロントバンパーの後方の空間に連通していることを特徴とする車両前部構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両前部構造において、前記凹部の後方側は、前記アンダーカバーの立ち上がり部で画成されていることを特徴とする車両前部構造。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の車両前部構造において、前記凹部が車両の幅方向両側に設けられていることを特徴とする車両前部構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−82409(P2013−82409A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225372(P2011−225372)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】