説明

車両前部構造

【課題】前輪が車両前面部に接近した車両における空気抵抗の低減を図ること。
【解決手段】車両11の前面を形成する車両前面部20と、車両11の左右の側面41を形成する左右の車両側面部40と、左右のサイドコーナ部30と、を有している車両11である。左右の車両側面部40は、それぞれ前輪用ホイールアーチ43を有している。左右のサイドコーナ部30は、車両前方へ向かって膨出する左右の膨出部31を備える。左右の膨出部31の前端32は、左右のホイールアーチ43が位置している高さ方向の範囲において車両前面部20の前端27よりも車両前方に位置する。左右の膨出部31は、この左右の膨出部31の前端32から左右の車両側面部40へ向かって、なだらかに後退する湾曲状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を走行したときの車体の空気抵抗を低減するようにした、車両前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両は走行時に車体の前部に空気抵抗を受ける。車体の前部の空気抵抗を低減させる技術として、前部の車幅方向両側のサイドコーナ部に曲面を設ける技術が各種知られている(例えば、特許文献1(図1、図3)参照。)。
【0003】
この特許文献1に開示された車両前部構造は、車両のフロントバンパのサイドコーナ部に、曲面状の碗型突起面を形成したものである。車両前方からの空気流は碗型突起面を回り込み、車体の側面へ向かう空気流を整流し、空気流の剥離が抑制される。
【0004】
この技術は、前輪の前方の側部近傍が、後方側に向かって外側に傾斜したフロントバンパを有するデザインの車両に適応するための技術である。フロントバンパのサイドコーナ部に碗型突起面を設けなくても、特許文献1の図8の破線で示されるように、フロントバンパでのサイドコーナ部の後方側への傾斜角を緩やかにすることで、通常は空気抵抗が低減される。
【0005】
また、あるタイプの自動車において、仮に、サイドコーナ部に曲面を設けずに角張らせた場合、車両前方からの空気流は、サイドコーナ部を回り込む際に剥離し、空気抵抗が大きくなることが知られている。従って、車両前方からの空気流が剥離しない程度に、サイドコーナ部に小さな曲面を確保することが望ましい。
【0006】
一般的に、ワゴンやバンタイプの車両は、定められた全長及び全幅の中で車室内の容量を確保する為に、車両前面のサイドコーナ部が角張った形状のデザインを採用することがある為、フロントバンパを含む車両前面のサイドコーナ部の後方への傾斜を緩やかに形成でき、空気抵抗の低減を容易に行える。
【0007】
しかし、近年は、定められた全長及び全幅の中で車室内の容量をできるだけ大きくすることが求められていることから、車両の前面を形成するための車両前面部に対して、前輪を可能な限り接近させて配置することが考えられる。このような構成では、車両の左右の側面を形成するための車両側面部と車両前面部との間が過度に角張る形状になってしまう恐れがあり、車両前方からの空気流が剥離しない程度の緩やかな傾斜(小さな曲面)を形成することができず、車両側面部で空気量の剥離が発生し、空気抵抗の低減が困難となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3624609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前輪が車両前面部に接近した車両における、空気抵抗の低減を図ることができる車両前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、車両の前面を形成するように、車幅方向中央部から車幅外方へ略平面状に延びる車両前面部と、前記車両の左右の側面を形成するように、車両前後方向に延びるとともに、それぞれ前輪用ホイールアーチを有している左右の車両側面部と、前記車両前面部と前記左右の車両側面部との間が連続的に連なるように形成されている左右のサイドコーナ部と、を有している車両前部構造において、前記左右のサイドコーナ部は、車両前方へ向かって膨出する左右の膨出部を備え、前記左右の膨出部の前端は、前記左右のホイールアーチが位置している高さ方向の範囲において前記車両前面部の前端よりも車両前方に位置し、前記左右の膨出部は、この左右の膨出部の前端から前記左右の車両側面部へ向かって、なだらかに後退する湾曲状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明では、左右のホイールアーチは、車両前面部に最も接近した部位に前端部を有し、左右の膨出部の前端は、左右のホイールアーチの前端部と同じ高さに位置していることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、車両前面部と左右の膨出部との境界に左右の溝部が形成され、この左右の溝部は、左右のホイールアーチの前端部から上方へ向かうにつれて、車幅方向外側に傾斜していることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、左右の溝部は、左右のホイールアーチに沿うように、この左右のホイールアーチに対してほぼ同心円状に形成されるとともに、この左右のホイールアーチの上端部まで延びていることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、左右のサイドコーナ部には、左右のホイールアーチよりも上位に位置する左右のヘッドライトユニットが設けられ、この左右のヘッドライトユニットは、左右の車両側面部よりも車幅外方へ突出した左右の突出部を備え、左右の溝部は、左右の突出部の下面近傍まで延びていることを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明は、車両前面部は、空冷装置に空気流を導入するための導入口を有し、この導入口は、左右の膨出部の前端に対して略同じ高さに位置していることを特徴とする。
【0016】
請求項7に係る発明は、左右の膨出部間に連なっている前方延出部を有し、この前方延出部は、導入口の下方に且つ導入口よりも車両前方に位置していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明では、左右のサイドコーナ部は、左右の膨出部を備え、左右の膨出部の前端は、左右のホイールアーチが位置している高さ方向の範囲において車両前面部の前端よりも車両前方に位置し、左右の膨出部は、この左右の膨出部の前端から左右の車両側面部へ向かって、なだらかに後退する湾曲状に形成されている。仮に、車両前面部から直ぐに車両側面部に向かって湾曲すると、曲面の長さが短くなり、車両の走行時に空気流の剥離が発生し易い。この点、本発明では、膨出部が車両前面部よりも一旦車両前方に突出してから車両側面部に向かって湾曲するので、コーナー部全体としては曲率を小さくして前輪を車両前面部に接近させると共に、曲面の長さを長くできる。結果、空気流の車両側面部での剥離を抑制でき、ホイールアーチ近傍での空気流を整流し、空気抵抗の低減を図ることができる。
【0018】
請求項2に係る発明では、左右のホイールアーチは、車両前面部に最も接近した部位に前端部を有し、左右の膨出部の前端は、左右のホイールアーチの前端部と同じ高さに位置している。ホイールアーチが車両前面部に最も近づく位置で、車両前面部よりも車両前方に膨出部が突出することで、より一層、空気流の剥離を抑制でき、ホイールアーチ部分での空気流を整流することができる。
【0019】
請求項3に係る発明では、車両前面部と左右の膨出部との境界に左右の溝部が形成され、この左右の溝部は、左右のホイールアーチの前端部から上方へ向かうにつれて、車幅方向外側に傾斜している。この前端部と同じ高さの位置で、膨出部の曲面の長さを最も長くする必要があるが、溝部を設けることで膨出部の曲面の長さを十分な長さにすることができる。
【0020】
加えて、車両前面部に当たる空気流を溝部に沿わせて車両側面部に誘導することができる。さらに、溝部は上方に向かうにつれて車幅方向外側に傾斜しているので、車両前面部から車両側面部に向かう空気流を溝部に沿ってホイールアーチの上方に誘導することができ、ホイールアーチ部分へ流れる空気量を低減させることができる。
【0021】
請求項4に係る発明では、左右の溝部は、左右のホイールアーチに沿うように、左右のホイールアーチの上端部まで延びている。溝部がホイールアーチの上端部まで延びるので、より一層ホイールアーチ部分へ流れる空気量を低減させることができる。加えて、ホイールアーチ前方から上方に向かって延びる溝部に流れる空気により、溝部に下向きの力が作用するので、前輪を地面に押し付けることができ、車両の走行性能を向上させることができる。
【0022】
請求項5に係る発明では、左右のサイドコーナ部のヘッドライトユニットは、左右の車両側面部よりも車幅外方へ突出した左右の突出部を備え、左右の溝部は、左右の突出部の下面近傍まで延びている。溝部は後方に向かうにつれてヘッドライトユニットに接近するように傾斜しているので、ヘッドライトユニットの下側と溝部との間の空気流路は狭くなる。結果、溝部に沿って流れる空気の流速がヘッドライトユニットの下方で速くなり、空気流を剥離し難くでき、溝部から剥離してホイールアーチ部分に流れる空気の量を低減させることができる。
【0023】
請求項6に係る発明では、車両前面部は、空冷装置に空気流を導入するための導入口を有し、この導入口は、左右の膨出部の前端に対して略同じ高さに位置している。膨出部は、空気流が車両前面部から車両側面部に迂回して流れるのを防ぐ壁の役割を果たすので、車両前面部から車両側面部へ直接流れる空気の量を低減させ、その低減させた分の空気を効率的に導入口に流し、冷却装置へ導入することができる。加えて、導入口に車両前面部の空気を導入することで、膨出部を乗り越えてホイールアーチ側へ流れる空気の量を低減させることができる。
【0024】
請求項7に係る発明では、左右の膨出部間に連なっている前方延出部を有し、この前方延出部は、導入口の下方に且つ導入口よりも車両前方に位置している。前方延出部は、空気流が車両前面部から車両の下方に迂回して流れるのを防ぐ壁の役割を果たし、導入口の位置から車両の下方へ空気が流れ込むことを抑制することができる。加えて、前方延出部と膨出部が連なるので、前方延出部の上端に沿って車幅方向へ流れた空気を膨出部で遮ることで、より一層、導入口に空気を導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る車両の正面図である。
【図2】図1に示された車両前部の側面図である。
【図3】図2に示された車両前部の平面図である。
【図4】図1の4−4線断面図である。
【図5】図1の5−5線断面図である。
【図6】図1の6−6線断面図である。
【図7】図1に示されたヘッドライトユニットの正面図である。
【図8】車両前部の作用を説明する平面図である。
【図9】車両前部の作用を説明する正面図である。
【図10】車両前部の作用を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を実施するための形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0027】
先ず、本発明に係る車両の前部構造を図1〜図7に基づいて説明する。図1〜図3は、本発明に係る車両前部構造を備えた車両10の前部を説明する図である。
【0028】
図1〜図3に示される車両10の車体11は、車両10の前面を形成するとともに鉛直線に沿うようにして略平面的に延びる車両前面部20と、この車両前面部20の左右にそれぞれ連なる左右のサイドコーナ部30と、これらの左右のサイドコーナ部30にそれぞれ連なり車両10の左右の側面41を形成する左右の車両側面部40と、車体11の前側上面を覆うボンネット12と、を有する。
【0029】
車両前面部20は、車幅外方へ略平面状に延びる車両11の前面の上部に設けられるフロントグリル22と、前面の中央部に設けられ車幅方向に横長に形成されるとともにエンジンルームに空気流(車両10が走行したときの走行風)を導入する中央部導風口23と、前面の下部に設けられダクト24(図3参照)を介して冷却装置26に空気流を導入する導入口25と、からなる。
【0030】
左右のサイドコーナ部30は、車両前面部20と左右の車両側面部40との間が連続的に連なるように形成される。また、左右のサイドコーナ部30は、車両前方へ向かって膨出する左右の膨出部31と、フロントグリル22の車幅方向側方に設けられる左右のヘッドライトユニット35と、を有する。
【0031】
左右の車両側面部40は、車体11の前後方向に延びる左右の側面41と、前輪42を収納する左右のホールアーチ43と、左右のサイドコーナ部30から連続して形成されるとともに左右のホイールアーチ43に沿って同心円状に形成される左右の膨出部31と、を有する。
【0032】
また、図2に示すように、ホイールアーチ43が位置する高さ方向の範囲Hにおいて、膨出部31の前端32は、車両前面部20の前端27よりも車両前方に位置する。ホイールアーチ43の中心44と同じ高さにおいて、ホイールアーチ43は車両前面部20に最も接近する前端部45を有する。この前端部45と同じ高さに、膨出部31の前端32が位置する。ホイールアーチ43は、中心44より上側では略半円状の形状を呈し、中心より下側では、半円の端部から直線的に下方に延びる。
【0033】
さらに、図1に示すように、左右の膨出部31の前端32と略同じ高さに導入口25が位置する。車体11は、車両前面部20とは別に、左右の膨出部31間に連なる前方延出部61を有する。前方延出部61は導入口25よりも下方に位置し、且つ、導入口25より車両前方に位置する(図3参照)。
【0034】
前方延出部61は、車両正面視で、車体11の下端部を略一定の幅で車幅方向に横長に延ばされ、左右の膨出部31に連続的に繋がる。また、前方延出部61の上下の幅は導入口25の上下の幅よりも狭く、比較的狭い幅であるため、上下方向のスペースをあまり必要としない。結果、導入口25の上下方向の幅を大きく取ることができ、導入口25の面積を広くすることができ、冷却装置26に効率よく空気流を導くことができる。
【0035】
中央部導風口23は、車両前面部20から若干窪んだ位置に配置される。窪みにより空気流が中央部導風口23に導かれ易くなり、エンジンルーム内に効率よく空気流を導くことができる。
【0036】
また、車両前面部20と左右の膨出部31との境界に左右の溝部51が形成される。これらの左右の溝部51は、ホイールアーチ43の前端部45の高さから上方に向けて車幅方向外側に傾斜する傾斜部52を有する。そして、図2に示すように、溝部51は、ホイールアーチ43に沿うようにして形成され、ホイールアーチ43の上端部46まで延ばされる。ホイールアーチ43の上端部46は、ホイールアーチ43の中心44を通り上下に延びる中心線47上に設けられている。
【0037】
また、図3に示すように、左右サイドコーナ部30に左右の膨出部31を設けることで、前輪41の前端から車体11の前端(左右の膨出部31の前端32)までの距離R1を延ばすことができ、左右のサイドコーナ部30の曲面の長さを大きくすることができる。
【0038】
次に車体の高さ方向の各断面における膨出部31の位置について図4〜図6に基づいて説明する。
図4に示されるように、溝部51の近傍では、膨出部31は、車両前面部20の法線方向に車両前面部20よりも突出している。膨出部31の前端33は、車両前後方向において車両前面部の前端28よりも車両後方側に位置する。なお、膨出部31の前端33及び車両前面部20の前端28は、それぞれ、図4の高さの断面において、最も車両前方に位置する端部である。
【0039】
図5に示されるように、溝部51の近傍では、膨出部31は、車両前面部20の法線方向に車両前面部20よりも突出している。膨出部31の前端34は、車両前後方向において車両前面部20の前端29とよりも車両後方側に位置するが、図4に比較すると、膨出部31の前端34は車両前面部20の前端29に接近している。なお、膨出部31の前端34及び車両前面部20の前端29は、それぞれ、図5の高さの断面において、最も車両前方に位置する端部である。
【0040】
図6に示されるように、溝部51の近傍では、膨出部31は、車両前面部20の法線方向に車両前面部20よりも突出している。膨出部31の前端32は、車両前後方向において車両前面部20の前端27よりも車両前方側に位置する。なお、膨出部31の前端32及び車両前面部20の前端27は、それぞれ、図6の高さの断面において、最も車両前方に位置する端部である。
【0041】
また、膨出部31は、左右の溝部51から車両前方側に一旦突出し、前端32から左右の車両側面部40へ向かって、なだらかに後退する湾曲状に形成されている。結果、サイドコーナ部30の曲面の距離は、膨出部31がない場合に比較して、膨出部31の曲面の距離Sを長くすることができる。図2に示したホイールアーチ43の前端部45と同じ高さの位置で、膨出部31の曲面の長さSを最も長くする必要があるが、溝部51を設けることで膨出部31の曲面の長さSを十分な長さにすることができる。
【0042】
次にヘッドライトユニット35について説明する。
図7に示されるように、ヘッドライトユニット35は、上下方向の幅がほぼ同じ幅で車幅方向に延びるとともにホイールアーチ43よりも上方に位置し、前照灯36と、車幅灯37と有する。また、車幅灯37のレンズ38は、車幅方向中心側が円弧状を呈し、車幅方向外方側が車両側面部40に沿って上下に延びる略直線状を呈する。
【0043】
レンズ38は、車両側面部40よりも車幅外方に突出した突出部39を有する。突出部39の車幅方向外方側は、車両側面部40に沿って上下に延びる略直線状を呈する。溝部51は、突出部39の下面近傍まで延びるので、車両前面視において、突出部39、車両側面部40、溝部51及び膨出部31で囲まれた部分に略コ字状の凹部53が形成される。
【0044】
ヘッドライトユニット35の下端は、車体中心側から車幅外方に向けて水平より若干上方へ傾斜する。ヘッドライトユニット35の下端の傾斜角は、溝部51の傾斜部52の傾斜角よりも小さい。よって、車両前面視において、ヘッドライトユニット35の下端と溝部51との間隔は、車両中心側から車幅外方に向けて、徐々に小さくなる。
【0045】
また、車両正面視において、膨出部31は、その上部に溝部51から車幅方向外方に円弧を描くようにして延びる円弧部31aを有し、円弧部31の途中から下方に略直線に延びる直線部31bを有する。
【0046】
図2に戻って、突出部39の車両後方側の端部54は、ホイールアーチ43の中心44を通り上下方向に延びる中心線47の近傍まで延ばされる。凹部53は、車両10の前方側では上下方向に幅が広く、車両10の後方側に向かうにつれて上下方向の幅が徐々に狭くなる。すなわち、走行時、車両10の前方からくる空気流の通路となる凹部53が徐々に狭まる形状を呈する。
【0047】
以上の述べた車両前部構造の作用を次に述べる。
図8に示されるように、車両平面視において、車体11の前方からの空気流は矢印aのように流れ、車両前面部20により車幅外方に矢印bのように流れる。さらに、空気流は、膨出部31を矢印cのように回り込み、車両側面部40に沿って矢印dのように流れる。
【0048】
図9に示されるように、車両前面視において、車両前方から車両前面部20にぶつかった空気流の一部は、前方延出部61に阻まれて、車体11の下側に回り込まずに導入口25に矢印eのように導かれる。導入口25に入らない空気流は、溝部51に沿って矢印fのように流れ、凹部53から車両側面部40(図8参照)へと流れていく。このとき、矢印fのように流れる空気流により、溝部51は下向きの力を受ける。また、車両前面部20の中央部付近にぶつかった空気流は、車両前面部20に沿って矢印hのように流れ、車両側面部40と導かれる。
【0049】
図10に示されるように、車両側面視において、サイドコーナ部30に流れてきた空気流は、矢印iのように流れて凹部53から車両側面部40に沿って矢印jのように車両後方へと流れていく。空気流が溝部51に沿って流れることで、ホイールアーチ43側に回り込む空気流が低減される。また、図8に戻って、車体11の前方からの空気流の一部は、左右の膨出部31を乗り越えて矢印kのように流れる。サイドコーナ部30の曲面の長さは、膨出部31により十分な長さであるため、空気流を剥離させずに流すことができる。この矢印kの空気流は、車両正面視では図9のように示される。そして、図10に示すように、空気流の一部は矢印kのようにホイールアーチ43側に流れるが、溝部51によって、ホイールアーチ43側に流れる空気量は低減される。
【0050】
本発明に係る車両前部構造の説明をまとめると、次の通りである。
図1〜図3に示されるように、左右のサイドコーナ部30は、左右の膨出部31を備え、左右の膨出部31の前端32は、左右のホイールアーチ43が位置している高さ方向の範囲Hに、且つ車両前面部20の前端27よりも車両前方に位置し、左右の膨出部31は、この左右の膨出部31の前端32から左右の車両側面部40へ向かって、なだらかに後退する湾曲状に形成されている。
【0051】
仮に、車両前面部20から直ぐに車両側面部40に向かって湾曲すると、曲面の長さが短くなり、車両の走行時に空気流の剥離が発生し易い。この点、本発明では、膨出部31が車両前面部20よりも一旦車両前方に突出してから車両側面部40に向かって湾曲するので、サイドコーナ部30全体としては曲率を小さくして前輪42を車両前面部40に接近させると共に、曲面の長さS(図6参照)を長くできる。結果、空気流の車両側面部40での剥離を抑制でき、ホイールアーチ43近傍での空気流を整流し、空気抵抗の低減を図ることができる。
【0052】
図2及び図3に示されるように、左右のホイールアーチ43は、車両前面部20に最も接近した部位に前端部45を有し、左右の膨出部31の前端32は、左右のホイールアーチ43の前端部45と同じ高さに位置している。ホイールアーチ43の中心44を通る高さの位置、すなわちホイールアーチ43が車両前面部20に最も近づく位置で、車両前面部20よりも車両前方に膨出部31が突出することで、より一層、空気流の剥離を抑制でき、ホイールアーチ43部分での空気流を整流することができる。
【0053】
図1及び図2に示されるように、車両前面部20と左右の膨出部31との境界に左右の溝部51が形成され、この左右の溝部51は、左右のホイールアーチ43の前端部45から上方へ向かうにつれて、車幅方向外側に傾斜している。この前端部45と同じ高さの位置で、膨出部31の曲面の長さS(図6参照)を最も長くする必要があるが、溝部51を設けることで膨出部31の曲面の長さSを十分な長さにすることができる。
【0054】
加えて、車両前面部20に当たる空気流を溝部に沿わせて車両側面部40に誘導することができる。さらに、溝部51は上方に向かうにつれて車幅方向外側に傾斜しているので、車両前面部20から車両側面部40に向かう空気流を溝部51に沿ってホイールアーチ43の上方に誘導することができ、ホイールアーチ43部分へ流れる空気量を低減させることができる。
【0055】
図1及び図2に示されるように、左右の溝部51は、左右のホイールアーチ43に沿うように、左右のホイールアーチ43の上端部46まで延びている。溝部51がホイールアーチ43の上端部46まで延びるので、より一層ホイールアーチ43部分へ流れる空気量を低減させることができる。加えて、ホイールアーチ43前方から上方に向かって延びる溝部51に流れる空気により、溝部51に下向きの力が作用するので、前輪42を地面に押し付けることができ、車両の走行性能を向上させることができる。
【0056】
図1、図2、図7に示されるように、左右のサイドコーナ部30のヘッドライトユニット35は、左右の車両側面部40よりも車幅外方へ突出した左右の突出部39を備え、左右の溝部51は、左右の突出部31の下面近傍まで延びている。溝部51は後方に向かうにつれてヘッドライトユニット35に接近するように傾斜しているので、ヘッドライトユニット35の下側と溝部51との間の空気流路は狭くなる。結果、溝部に沿って流れる空気の流速がヘッドライトユニット35の下方で速くなり、空気流を剥離し難くでき、溝部51から剥離してホイールアーチ43部分に流れる空気の量を低減させることができる。
【0057】
図1及び図2に示されるように、車両前面部20は、空冷装置に空気流を導入するための導入口25を有し、この導入口25は、左右の膨出部31の前端32に対して略同じ高さに位置している。膨出部31は、空気流が車両前面部20から車両側面部40に迂回して流れるのを防ぐ壁の役割を果たすので、車両前面部20から車両側面部40へ直接流れる空気の量を低減させ、その低減させた分の空気を効率的に導入口25に流し、冷却装置26へ導入することができる。加えて、導入口25に車両前面部20の空気を導入することで、膨出部31を乗り越えてホイールアーチ43側へ流れる空気の量を低減させることができる。
【0058】
図1〜図3に示されるように、左右の膨出部31間に連なっている前方延出部61を有し、この前方延出部61は、導入口25の下方に且つ導入口25よりも車両前方に位置している。前方延出部61は、空気流が車両前面部20から車両の下方に迂回して流れるのを防ぐ壁の役割を果たし、導入口25の位置から車両の下方へ空気が流れ込むことを抑制することができる。加えて、前方延出部61と膨出部31が連なるので、前方延出部61の上端に沿って車幅方向へ流れた空気を膨出部31で遮ることで、より一層導入口25に空気を導入することができる。
【0059】
尚、実施例では、空気流の導入口25が車両前面部20の下部に配置された車両に適用したが、これに限定されず、空気流の導入口が車両前面部の中央部等、他の位置に配置されていても差し支えない。また、前輪42が車両前面部20に接近した車両に適用したが、これに限定されず、前輪42が車両前面部20から車両後方側に離れた車両に適用しても差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の車両前部構造は、前輪が車両前面部に接近した自動車に好適である。
【符号の説明】
【0061】
10…車両前部構造、11…車両(車体)、20…車両前面部、25…導入口、27…車両前面部の前端、30…左右のサイドコーナ部、31…左右の膨出部、32…膨出部の前端、35…左右のヘッドライトユニット、39…左右の突出部、40…左右の車両側面部、41…左右の側面、43…左右のホイールアーチ、45…ホイールアーチの前端部、46…ホイールアーチの上端部、51…溝部、61…前方延出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前面を形成するように、車幅方向中央部から車幅外方へ略平面状に延びる車両前面部と、
前記車両の側面を形成するように、車両前後方向に延びるとともに、それぞれ前輪用ホイールアーチを有している車両側面部と、
前記車両前面部と前記車両側面部との間が連続的に連なるように形成されているサイドコーナ部と、を有している車両前部構造において、
前記サイドコーナ部は、車両前方へ向かって膨出する膨出部を備え、
前記膨出部の前端は、前記ホイールアーチが位置している高さ方向の範囲において前記車両前面部の前端よりも車両前方に位置し、
前記膨出部は、この膨出部の前端から前記車両側面部へ向かって、なだらかに後退する湾曲状に形成されていることを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
前記ホイールアーチは、前記車両前面部に最も接近した部位に前端部を有し、
前記膨出部の前端は、前記ホイールアーチの前記前端部と同じ高さに位置していることを特徴とする請求項1記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記車両前面部と前記膨出部との境界に溝部が形成され、
この溝部は、前記ホイールアーチの前記前端部から上方へ向かうにつれて、車幅方向外側に傾斜していることを特徴とする請求項2記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記溝部は、前記ホイールアーチに沿うように、このホイールアーチに対してほぼ同心円状に形成されるとともに、この前記ホイールアーチの上端部まで延びていることを特徴とする請求項3記載の車両前部構造。
【請求項5】
前記サイドコーナ部には、前記ホイールアーチよりも上位に位置するヘッドライトユニットが設けられ、
このヘッドライトユニットは、前記車両側面部よりも車幅外方へ突出した突出部を備え、
前記溝部は、前記突出部の下面近傍まで延びていることを特徴とする請求項4記載の車両前部構造。
【請求項6】
前記車両前面部は、空冷装置に空気流を導入するための導入口を有し、
この導入口は、前記膨出部の前端に対して略同じ高さに位置していることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の車両前部構造。
【請求項7】
前記膨出部間に連なっている前方延出部を有し、
この前方延出部は、前記導入口の下方に且つ前記導入口よりも車両前方に位置していることを特徴とする請求項6記載の車両前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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