説明

車両塗装用の遮蔽カバー及び車両の塗装方法

【課題】車内への揮発性有機化合物の侵入を有効に抑止することが可能な車両塗装用の遮蔽カバー及び車両の塗装方法を提供すること。
【解決手段】ボディ側部3の前部乗降口の上方にマグネット14を取り付けることによって、前部乗降口が複数のシート材16によって遮蔽される。前部乗降口が複数のシート材16によって遮蔽されることで、揮発性有機化合物(VOC)を含有した空気の車室内への移動が規制される。VOCを含有した空気が複数のシート材16を通過する場合には、活性炭によってVOCが吸着されて、VOCの車室内への侵入が有効に抑止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両塗装用の遮蔽カバー及び車両の塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装ブース内における塗装排ガスを浄化して、外部に放出される排気による大気汚染を防止する塗装ブース装置が知られている。この塗装ブース装置として例えば、特許文献1に記載の塗装ブース装置がある。
【0003】
特許文献1の塗装ブース装置では、塗装ブースの前部に吸引室が設けられると共に、塗装ブースの天井部に吹出室が設けられ、塗装ブースの後側上部に給気室が設けられている。吹出室は、吸引室の上面部の排出口とダクトを介して連結している。吹出室及び給気室から塗装ブース内に供給された空気は吸引室内に吸引せしめられ、吸引室内に吸引された空気に含有されている有機溶剤成分は、吸引室内の有機溶剤除去フィルタを通過することによって浄化される。清浄された空気は、ダクトを介して吹出室に導入されると共に、ダクトの中間部に連結された排気ダンパーによって外部に放出される。
【0004】
【特許文献1】特開2002−336749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の塗装時においては、作業性の確保等のためにドア等の扉を開状態にして、乗降口等の開口部を開口させたまま塗装作業を行う場合がある。このような場合、特許文献1の構造では、塗装ブース内に供給された空気が吸引室に吸引されるまでの間に有機溶剤成分を含有し、開口部から有機溶剤成分を含有した空気が車内へ侵入して、車内が有機溶剤成分で汚染されてしまう恐れがある。
【0006】
このような不都合は、扉を閉状態にして開口部を閉止したまま塗装作業を行うことで回避可能であるが、作業性の確保等のために扉を開閉した場合においては、依然として有機溶剤成分を含有した空気が開口部から車内へ侵入してしまい、有機溶剤成分を含有した空気が車内に残存してしまう可能性がある。
【0007】
そこで、本発明は、車内への揮発性有機化合物の侵入を有効に抑止することが可能な車両塗装用の遮蔽カバー及び車両の塗装方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明の第1の態様の車両塗装用の遮蔽カバーは、扉によって開閉される開口と被塗装外面とを有する車両ボディの被塗装外面に揮発性有機化合物を含有する塗料を塗布する際に用いる遮蔽カバーであって、シート状の遮蔽部と支持部とを備える。シート状の遮蔽部は、揮発性有機化合物を吸着可能な吸着剤を含有する。支持部は、遮蔽部の上部に設けられ、車両ボディの開口の上方に着脱自在に取り付けられる。遮蔽部は、支持部が開口の上方に取り付けられた状態で、開口を遮蔽する。
【0009】
また、本発明にかかる塗装方法は、車両ボディの開口の上方に遮蔽カバーの支持部を取り付けた状態で、車両ボディの被塗装外面を塗装する。
【0010】
車両ボディの被塗装外面を塗装した後、車両ボディの周囲の雰囲気中に揮発性有機化合物が含まれていない状態のときに、遮蔽カバーの支持部を車両ボディから取り外してもよい。
【0011】
上記構成及び方法では、車両ボディの開口の上方に支持部を取り付けることによって、開口が遮蔽部によって遮蔽される。車両ボディの被塗装外面に揮発性有機化合物を含有する塗料を塗布すると、揮発性有機化合物が揮発して、車両ボディの周囲の空気中に揮発性有機化合物が含有される。このとき、開口を遮蔽部によって遮蔽しているため、揮発性有機化合物を含有した空気の車両ボディ内への移動が規制される。さらに、揮発性有機化合物を含有した空気が遮蔽部を通過する場合には、吸着剤によって揮発性有機化合物が吸着されて、揮発性有機化合物の車両ボディ内への侵入が抑止される。
【0012】
このように、作業性の確保等のために扉を開状態にした場合であっても、遮蔽部によって開口を遮蔽することができる。また、遮蔽部に含有された吸着剤によって揮発性有機化合物を吸着することができるため、車両ボディ内への揮発性有機化合物の侵入を有効に抑止することができる。
【0013】
本発明の第2の態様の車両塗装用の遮蔽カバーは、上記第1の態様の車両塗装用の遮蔽カバーであって、遮蔽部が帯状の複数のシート材からなる。帯状の複数のシート材は、支持部が開口の上方に取り付けられた状態で、開口の幅方向に並んで配置されて開口を遮蔽する。また、シート材の幅方向の各端縁部は、隣接するシート材の端縁部と重なり合っている。
【0014】
上記構成では、遮蔽部が複数のシート材で形成されているため、作業員等は、支持部を取り外さずにシート材をかき分けて容易に車両ボディ内に入ることができる。また、作業員等がシート材をかき分けて車両ボディ内に入る際、シート材と作業員等とが必要以上に離間することがない。すなわち、シート材と作業員等との隙間が小さい状態で作業員等が車両ボディ内に入ることができるため、作業員等が車両ボディ内に入る際の揮発性有機化合物を含有した空気の車両ボディ内への移動を有効に抑止することができる。
【0015】
また、シート材の幅方向の各端縁部が隣接するシート材の端縁部と重なり合っているため、開口を遮蔽した状態において各シート材間に隙間ができにくく、揮発性有機化合物を含有した空気の車両ボディ内への移動を有効に抑止することができる。
【発明の効果】
【0016】
車内への揮発性有機化合物の侵入を有効に抑止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。図1は遮蔽カーテンが取り付けられたバスを示す斜視図、図2は遮蔽カーテンの正面図、図3は遮蔽カーテンの側面図、図4は図2のA−A矢視断面図である。図5はシート材の構成を示す模式図、図6は作業員が車室内へ入る際の遮蔽カーテンの状態を示した正面図、図7は作業員が車室内へ入る際の遮蔽カーテンの状態を示した側面図である。なお、以下の説明において、前後方向は車両の進行方向前後を示し、内外方向は車幅方向の内外を示す。
【0018】
図1及び図2に示すように、バス1は、被塗装外面としてのボディ後部(車両ボディ)2と一対のボディ側部(車両ボディ)3とボディ前部(車両ボディ)4とボディ上部(車両ボディ)5とボディ底部(車両ボディ)6とを有する。また、ボディ後部2とボディ側部3とボディ前部4とには、それぞれ窓ガラス7が設けられている。また、ボディ側部3には、後述する遮蔽カーテン(遮蔽カバー)8が設けられている。
【0019】
ボディ後部2は、バス1の後面を覆ってバス1の後端を区画している。ボディ側部3は、前部乗降口(開口)9と後部乗降口(開口)10とを有し、ボディ後部2の車幅方向外端から前方に延びてバス1の車幅方向外端を区画している。
【0020】
前部乗降口9及び後部乗降口10は、一対のボディ側部3うち、いずれか一方(本実施形態では車両前方から視て右側)に配置されている。前部乗降口9は、ボディ側部3の前端部にされ、後部乗降口10は、前部乗降口9よりも後方に配置されている。前部乗降口9及び後部乗降口10には、それぞれ前部扉(扉)11及び後部扉(扉)12が開閉自在に設けられている。前部扉11又は後部扉12が前部乗降口9又は後部乗降口10を開口させた開状態のとき、ボディ側部3の車幅方向内側、すなわち、バス1の車室内への作業員13の出入りが許容される(図7参照)。本実施形態では、後部扉12が後部乗降口10を閉塞する閉状態に設定され、前部扉11が開状態に設定されている。
【0021】
ボディ前部4は、各ボディ側部3の前端からそれぞれ車幅方向内側に延びてバス1の前端を区画している。ボディ上部5は、ボディ後部2の上端部と一対のボディ側部3の上端部とボディ前部4の上端部と接合してバス1の上端を区画している。ボディ底部6は、ボディ後部2の下端部と一対のボディ側部3の下端部とボディ前部4の下端部と接合してバス1の下端を区画している。
【0022】
遮蔽カーテン8は、図1〜図4に示すように、マグネット(支持部)14と支持部材(支持部)15と複数のシート材(遮蔽部)16とを有している。
【0023】
マグネット14は略矩形板形状であり、長手方向の長さが前部乗降口9の前後方向の長さよりも大きく形成されている。マグネット14は、磁力によってバス1の車室内側面又は車外側面に対して着脱自在に固定される。支持部材15は、例えば合成樹脂で形成された略矩形板形状であり、マグネット14の他端に接合されている。
【0024】
図4及び図5に示すように、シート材16は帯形状であり、活性炭不織布17と一対の通気シート18とを有する。シート材16は柔軟性を有し、長手方向(上下方向)の一端が支持部材15に固定されている。シート材16の長手方向の長さは、前部乗降口9の上下方向の長さよりも長く形成されている。シート材16の短手方向(横幅方向)の端縁部20は、隣接する他のシート材16の短手方向の端縁部20と重なり合っている。
【0025】
活性炭不織布17は、ポリエステル繊維を絡み合わせたシート状の部材であり、活性炭(吸着剤)19を含有している。活性炭19は粒状に形成され、活性炭不織布17を通過する空気中の揮発性有機化合物(以下、VOCと称す)を吸着する。なお、活性炭不織布17がポリエステル繊維を絡み合わせたシート状の部材である場合に限られず、例えば、繊維状の活性炭や木綿等で形成されていてもよい。また、活性炭19が粒状に形成されている場合に限られず、例えば、繊維状や粉末状に形成されていてもよい。
【0026】
通気シート18は、微細通気孔が複数設けられたシート状の合成樹脂であり、活性炭不織布17に熱融着されている。なお、本実施形態では、シート材16が通気シート18と活性炭不織布17とを有する場合を説明するが、シート材16が活性炭不織布17のみで形成されていてもよい。また、通気シート18が合成樹脂で形成されている場合に限られず、例えば、木材パルプ等他の材質で形成されていてもよい。
【0027】
次に、遮蔽カーテン8を用いたバス1の塗装方法について説明する。
【0028】
被塗装外面であるボディ後部2と一対のボディ側部3とボディ前部4とボディ上部5とボディ底部6とに塗装する際に、マグネット14を前部乗降口9の上方に配置して、マグネット14の一端を磁力によってボディ側部3の車幅方向外側面に対して固定し、シート材16によって前部乗降口9を遮蔽する。この状態でボディ前部4等に塗装を行い、塗装終了後に、VOCを含有しない雰囲気中にバス1を移動させて、マグネット14をボディ側部3から取り外す。
【0029】
本実施形態では、ボディ側部3の前部乗降口9の上方にマグネット14を取り付けることによって、前部乗降口9が複数のシート材16によって遮蔽される。ボディ前部4等にVOCを含有する塗料を塗布すると、VOCが揮発して、バス1の周囲の空気中にVOCが含有される。前部乗降口9が複数のシート材16によって遮蔽されることで、VOCを含有した空気の車室内への移動が規制される。さらに、VOCを含有した空気が複数のシート材16を通過する場合には、活性炭19によってVOCが吸着されて、VOCの車室内への侵入が抑止される。
【0030】
このように、本実施形態によれば、前部扉11を開状態に設定したまま塗装作業を行う場合であっても、前部乗降口9を複数のシート材16によって遮蔽することができる。また、前部乗降口9を遮蔽する複数のシート材16に含有された活性炭19によってVOCを吸着することができるため、車室内へのVOCの侵入を抑止することができる。
【0031】
また、遮蔽カーテン8が複数のシート材16で形成されているため、図6及び図7に示すように、作業員13は、複数のシート材16をかき分けて容易に車室内に入ることができる。また、作業員13がシート材16をかき分けて車室内に入る際、シート材16と作業員13とが必要以上に離間することがない。すなわち、シート材16と作業員13との隙間が小さい状態で作業員13が車室内に入ることができるため、作業員13が車室内に入る際のVOCを含有した空気の車室内への移動を有効に抑止することができる。
【0032】
さらに、シート材16の短手方向の端縁部20が、隣接する他のシート材16の短手方向の端縁部20と重なり合っているため、前部乗降口9を遮蔽した状態において各シート材16間に隙間ができにくく、VOCを含有した空気の車室内への移動を有効に抑止することができる。
【0033】
また、マグネット14の磁力によって支持部材15をボディ側部3に対して固定できるため、遮蔽カーテン8の取付又は取外作業も容易である。
【0034】
なお、マグネット14によって遮蔽カーテン8をボディ側部3に固定する場合に限られず、例えば、支持部材15に吸盤を設け、吸盤の吸着力によって遮蔽カーテン8をボディ側部3に対して固定してもよい。
【0035】
また、マグネット14をボディ側部3の車幅方向外側面に対して固定する場合に限られず、ボディ側部3の車幅方向内側面に対して固定してもよい。
【0036】
また、活性炭不織布17に活性炭19を含有させる場合に限られず、例えば、酸化チタン等の光触媒を活性炭不織布17に含有させてもよい。
【0037】
また、本実施形態では、遮蔽カーテン8が複数のシート材16を有する場合を説明したが、複数のシート材16である場合に限られず、例えば、前部乗降口9とほぼ同じ面積を有する一のシート状部材であってもよい。
【0038】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、扉によって開閉される開口と被塗装外面とを有する車両に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】遮蔽カーテンが取り付けられたバスを示す斜視図である。
【図2】遮蔽カーテンの正面図である。
【図3】遮蔽カーテンの側面図である。
【図4】図2のA−A矢視断面図である。
【図5】シート材の構成を示す模式図である。
【図6】作業員が車室内へ入る際の遮蔽カーテンの状態を示した正面図である。
【図7】作業員が車室内へ入る際の遮蔽カーテンの状態を示した側面図である。
【符号の説明】
【0041】
2 ボディ後部(車両ボディ)
3 ボディ側部(車両ボディ)
4 ボディ前部(車両ボディ)
5 ボディ上部(車両ボディ)
6 ボディ底部(車両ボディ)
8 遮蔽カーテン(遮蔽カバー)
9 前部乗降口(開口)
10 後部乗降口(開口)
11 前部扉(扉)
12 後部扉(扉)
14 マグネット(支持部)
15 支持部材(支持部)
16 シート材(遮蔽部)
19 活性炭(吸着剤)
20 端縁部
VOC 揮発性有機化合物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
扉によって開閉される開口と被塗装外面とを有する車両ボディの前記被塗装外面に揮発性有機化合物を含有する塗料を塗布する際に用いる遮蔽カバーであって、
前記揮発性有機化合物を吸着可能な吸着剤を含有するシート状の遮蔽部と、
前記遮蔽部の上部に設けられ、前記車両ボディの前記開口の上方に着脱自在に取り付けられる支持部と、を備え、
前記遮蔽部は、前記支持部が前記開口の上方に取り付けられた状態で、前記開口を遮蔽する
ことを特徴とする車両塗装用の遮蔽カバー。
【請求項2】
請求項1に記載の遮蔽カバーであって、
前記遮蔽部は、前記支持部が前記開口の上方に取り付けられた状態で、前記開口の幅方向に並んで配置されて該開口を遮蔽する帯状の複数のシート材からなり、
前記シート材の前記幅方向の各端縁部は、隣接するシート材の端縁部と重なり合っている
ことを特徴とする車両塗装用の遮蔽カバー。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の遮蔽カバーを用いた塗装方法であって、
前記車両ボディの前記開口の上方に前記遮蔽カバーの前記支持部を取り付けた状態で、前記車両ボディの前記被塗装外面を塗装する
ことを特徴とする車両の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−195782(P2009−195782A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38179(P2008−38179)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】