説明

車両底部構造

【課題】車両に後突等が生じた場合に、支障を来たすことなく、高温になる排気系部品が燃料タンクに接触することを防止できる車両底部構造を提供する。
【解決手段】本発明にかかる車両底部構造100は、燃料タンク110とマフラーサイレンサ120との間に設置され車両幅方向に延びるサスペンション部材140と、サスペンション部材140とマフラーサイレンサ120との間にて車両底部に懸垂されマフラーサイレンサ120と上下方向の位置が重なる引止部材150とを備える。サスペンション部材140は、引止部材150が車両底部に懸垂された点を回動中心として車両前側へと回動する軌跡上に存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両底部に樹脂製の燃料タンクが積載され、燃料タンクの後側にマフラーサイレンサが設置され、車両前方から延びるマフラーパイプが燃料タンクの近傍を通ってマフラーサイレンサに接続される車両底部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車体フロア形状の複雑化に対応して、燃料タンクの材質が板金から樹脂に移行してきている。一般に燃料タンクは車両後側の底部に積載されるが、その周囲には高温になる排気系部品(マフラーパイプ、マフラーサイレンサ等)が配置される。燃料タンクが樹脂製の場合には、車両に後突等が生じた場合に、燃料タンクに排気系部品が接触しないよう対策を講じる必要がある。
【0003】
特許文献1には、マフラーサイレンサの後方に配置されるリアバンパステイに、リアバンパステイが前方に変位したときにマフラーサイレンサを下方に押圧する押圧ブラケットを設けた技術が開示されている。特許文献1によれば、車両に後突が生じた場合に、かかる押圧ブラケットによりマフラーサイレンサを強制的に下方に押し下げることができ、マフラーサイレンサが燃料タンクに接触することを防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−148981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術は、車両後突時に、マフラーサイレンサを強制的に下方に押し下げるので、マフラーパイプ等もこれに追従して下方に押し下げられる。すなわち、特許文献1に記載の技術は、マフラーサイレンサに接続する排気系部品を含め、下方への変位を積極的に許容する技術である。ここで、複数の排気系部品を積極的に下方へ変位させる場合、これらが地面に接触してしまうおそれがあり、またこの変位により必要以上に車体を壊してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、車両に後突等が生じた場合に、支障を来たすことなく、高温になる排気系部品が燃料タンクに接触することを防止できる車両底部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の代表的な構成は、車両底部に樹脂製の燃料タンクが積載され、燃料タンクの後側にマフラーサイレンサが設置され、車両前方から延びるマフラーパイプが燃料タンクの近傍を通ってマフラーサイレンサに接続される車両用の車両底部構造において、燃料タンクとマフラーサイレンサとの間に設置され車両幅方向に延びるサスペンション部材と、サスペンション部材とマフラーサイレンサとの間にて車両底部に懸垂されマフラーサイレンサと上下方向の位置が重なる引止部材とを備え、車両底部に懸垂された点を回動中心として引止部材が車両前側へと回動する軌跡上にサスペンション部材が存在することを特徴とする。
【0008】
かかる構成によれば、車両に後突等が生じ、マフラーサイレンサに車両前方への荷重が加わった場合、引止部材がマフラーサイレンサを受けつつ車両前側へと回動する。そして、回動軌跡上に存在するサスペンション部材に引止部材が当たって、マフラーサイレンサの変位が止められる。これにより、高温になる排気系部品、すなわちマフラーパイプやマフラーサイレンサが燃料タンクに接触することを防止できる。
【0009】
引止部材は、棒状の鋼材を環状に屈曲しその両端が車両底部に連結されるフレーム部を含むとよい。とりわけ、棒状の鋼材は、丸鋼であるとよい。車両に後突等が生じた場合にマフラーサイレンサを受ける部分として上記フレーム部を備えることで、必要な強度を確保しつつ低コストで製造することができる。
【0010】
上記課題を解決するために本発明の他の代表的な構成は、樹脂製の燃料タンクが積載され、燃料タンクの後側にマフラーサイレンサが設置され、車両前方から延びるマフラーパイプが燃料タンクの近傍を通ってマフラーサイレンサに接続される車両底部を備える車両底部構造において、燃料タンクとマフラーサイレンサとの間にて車両底部に懸垂されマフラーサイレンサと上下方向の位置が重なる引止部材を備え、引止部材は、車両底部からマフラーサイレンサの中途まで垂下する垂下部と、垂下部の下端からマフラーサイレンサに接近しながら下方に向かって延びる潜込部とを含むことを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、車両に後突等が生じ、車体リヤフロアが上方に持ち上げられるように変形した場合、車体リヤフロアの変形に追従して引止部材が車両後側へと回動するように変形する。そして、引止部材が車体リヤフロアとの間でマフラーサイレンサを挟み込んで、マフラーサイレンサの車両前方への変位を抑える。これにより、高温になる排気系部品が燃料タンクに接触することを防止できる。
【0012】
引止部材は、車両幅方向において、マフラーパイプがマフラーサイレンサに接続される側の車両底部に懸垂されるとよい。車両前方から延びるマフラーパイプが燃料タンクの近傍を通ってマフラーサイレンサに接続される側に引止部材を設置することで、排気系部品の燃料タンクへの接触を効果的に防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車両に後突等が生じた場合に、支障を来たすことなく、高温になる排気系部品が燃料タンクに接触することを防止できる車両底部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかる車両底部構造の第1実施形態が適用される車両の底面図である。
【図2】図1に示す車両の底面斜視図である。
【図3】図1に示す引止部材を下側から見た斜視図である。
【図4】図1に示す引止部材を上側から見た斜視図である。
【図5】図1のA−A断面図である。
【図6】本発明にかかる車両底部構造の第2実施形態の図5に対応した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
[第1実施形態]
図1は、本発明にかかる車両底部構造の第1実施形態(車両底部構造100)が適用される車両の底面図である。図2は、図1に示す車両の底面斜視図である。なお、図面において、矢印Rrは車両後側を表し、矢印Rhは車両右側を表す。
【0017】
図1および図2に示すように、車両底部構造100では、車両後側の底部に樹脂製の燃料タンク110が積載され、燃料タンク110の後側にマフラーサイレンサ120が設置される。また、車両前方のエンジンから延びるマフラーパイプ130が、車両右側で燃料タンク110の近傍を通って、マフラーサイレンサ120に接続される。燃料タンク110はマフラーパイプ130と干渉しないように、マフラーパイプ130が通過する部分が下方に突出せず、その厚みが抑えられている。この厚みが抑えられている部分を凹部112として図示する。
【0018】
燃料タンク110とマフラーサイレンサ120との間には、車両幅方向に延びるサスペンション部材140が設置される。サスペンション部材140は、いわゆるトーションビーム(クロスビームとも称する)であって、その左右がトレーリングアームと連結する。
【0019】
車両に後突等が生じた場合、マフラーサイレンサ120に車両前方への荷重が加わり、マフラーサイレンサ120が変位するおそれがある。マフラーサイレンサ120に接続するマフラーパイプ130についても、マフラーパイプ130は剛性のある部材で形成されるため変形しにくく、マフラーサイレンサ120とともに変位するおそれがある。
【0020】
車両底部構造100では、後突等が生じ、マフラーサイレンサ120やマフラーパイプ130が変位し、これらが燃料タンク110に接触することのないように、引止部材150が備えられる。引止部材150は、サスペンション部材140とマフラーサイレンサ120との間にて車両底部に懸垂される。ここでは、引止部材150は、車両幅方向において、マフラーパイプ130がマフラーサイレンサ120に接続される側の車両底部、すなわち車両右側の車両底部に懸垂される。
【0021】
図3は、図1に示す引止部材150を下側から見た斜視図である。図4は、図1に示す引止部材150を上側から見た斜視図である。図3および図4に示すように、本実施形態では、引止部材150は、車両底部に懸垂されるブラケット部152と、ブラケット部152に溶接され車両底部から下方へと延びる形状のフレーム部154とからなる。
【0022】
フレーム部154は、丸棒状の丸鋼を環状に屈曲して形成され、その両端がブラケット部152を介して車両底部に連結される。丸鋼を用いているのは環状に屈曲させるなどの成形が容易であり、製造コストを抑えることができるからである。またフレーム部154として必要な強度を容易に確保することができるからである。ただし角鋼その他の形状の棒状の鋼材を用いてもよい。材質についても鋼材に限られず、適度な剛性および弾性(荷重吸収性)を有していればいかなる素材を用いてもよい。なお、ここではフレーム部154の両端をブラケット部152に溶接することで車両底部に連結しているが、直接フレーム部154を車両底部に溶接(連結)してもよい。
【0023】
軽量化の要請、適度に変形しやすいなどの理由によって、本実施形態ではフレーム部154を環状としているが、かかる形状に限定するものではなく、例えば板状の部材としてもよい。
【0024】
ブラケット部152は、車両底部に備えられる車体フロアブレース160に固定される。車体フロアブレース160の上部は、補強部品162をスポット溶接することで補強される。補強部品162にはスタッドボルト164の一端が埋め込まれ、また補強部品162の上部には2つの溶接ナット166a、166bが設けられる。
【0025】
引止部材150のブラケット部152は、スタッドボルト164・ナット168、ボルト170a、170b・溶接ナット166a、166bにより、車体フロアブレース160および補強部品162に締結される。スタッドボルト164は、補強部品162、車体フロアブレース160を貫通して出ているため、引止部材150のブラケット部152の締結の際の位置決めピンとして利用することができる。引止部材150のブラケット部152をボルト・ナットで締結固定する方法とすることで、工場での組付の自由度が広がる効果を奏する。
【0026】
図5は、図1のA−A断面図である。図5は、理解を容易にするために簡略化して模式的に図示したものである。図5中、後突等が生じた場合のマフラーサイレンサ120および引止部材150の変位を二点鎖線で図示する。
【0027】
図5に実線で示すように、車両底部構造100では、マフラーサイレンサ120および引止部材150の上下方向の位置が重なる(車両前後方向から見て重なる)ように設定される。そして、車両底部に懸垂された点を回動中心として引止部材150が車両前側へと回動する軌跡上に、サスペンション部材140が存在するように設定される。
【0028】
換言すれば、引止部材150は、車両前後方向において、マフラーサイレンサ120とサスペンション部材140とによって挟まれる位置に配置される。なお、燃料タンク110に関しても、引止部材150、マフラーサイレンサ120、サスペンション部材140と上下方向の位置が重なっている(車両前後方向で重なっている)。
【0029】
図5に二点鎖線で示すように、車両底部構造100では、車両に後突等が生じ、マフラーサイレンサ120に車両前方への荷重が加わった場合、引止部材150がマフラーサイレンサ120を受けつつ車両前側へと回動する。そして、最終的には、回動軌跡上に存在するサスペンション部材140に引止部材150が当たって、マフラーサイレンサ120の変位が止められる。
【0030】
これより、高温になる排気系部品、すなわちマフラーパイプ130やマフラーサイレンサ120が燃料タンク110に接触することを防止できる。本実施形態では、マフラーパイプ130が燃料タンク110の近傍を通ってマフラーサイレンサ120に接続される側に引止部材150が設置されているので、排気系部品の燃料タンク110への接触を効果的に防止できる。
【0031】
車両底部構造100は、上記背景技術にて例示した強制的にマフラーサイレンサを下方に押し下げる技術のように、積極的にその変位を許容するものではない。すなわち、車両底部構造100は、マフラーサイレンサ120に車両前方への荷重が加わった場合、引止部材150によってマフラーサイレンサ120を受け止めその変位を抑えるものであり、その変位を促すものではない。よって、かかる車両底部構造100を採用しても、車体を壊してしまう等の支障を来たすことはない。
【0032】
[第2実施形態]
図6は、本発明の第2実施形態にかかる車両底部構造200の図5に対応した断面図である。図6は、理解を容易にするために簡略化して模式的に図示したものである。図6中、後突等が生じた場合のマフラーサイレンサ120、引止部材250、車体リヤフロア202等の変位を二点鎖線で図示する。
【0033】
図6に実線で示すように、車両底部構造200では、燃料タンク110とマフラーサイレンサ120との間にて車両底部に懸垂される引止部材250が備えられる。引止部材250は、第1実施形態と同様に、車両底部に懸垂されるブラケット部152と、丸棒状の丸鋼を環状に屈曲して形成されその両端がブラケット部152に溶接されるフレーム部254とからなる。
【0034】
フレーム部254は、車両底部からマフラーサイレンサ120の中途まで垂下する垂下部256と、垂下部256の下端からマフラーサイレンサ120に接近しながら下方に向かって延びる潜込部258とを含む。
【0035】
図6に二点鎖線で示すように、車両底部構造200では、車両に後突等が生じ、車体リヤフロア202が上方に持ち上げられるように荷重Xがかかって変形した場合、車体リヤフロア202の変形に追従して引止部材250が車両後側へと回動するように変形する。そして、引止部材250の潜込部258が車体リヤフロア202との間でマフラーサイレンサ120を挟み込んで、マフラーサイレンサ120の車両前方への変位を抑える。これにより、高温になる排気系部品が燃料タンク110に接触することを防止できる。
【0036】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、車両底部に樹脂製の燃料タンクが積載され、燃料タンクの後側にマフラーサイレンサが設置され、車両前方から延びるマフラーパイプが燃料タンクの近傍を通ってマフラーサイレンサに接続される車両底部構造に利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
100、200…車両底部構造、110…燃料タンク、112…凹部、120…マフラーサイレンサ、130…マフラーパイプ、140…サスペンション部材、150、250…引止部材、152…ブラケット部、154、254…フレーム部、160…車体フロアブレース、162…補強部品、164…スタッドボルト、166a、166b…溶接ナット、168…ナット、170a、170b…ボルト、202…車体リヤフロア、256…垂下部、258…潜込部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両底部に樹脂製の燃料タンクが積載され、該燃料タンクの後側にマフラーサイレンサが設置され、車両前方から延びるマフラーパイプが前記燃料タンクの近傍を通って前記マフラーサイレンサに接続される車両用の車両底部構造において、
前記燃料タンクと前記マフラーサイレンサとの間に設置され車両幅方向に延びるサスペンション部材と、
前記サスペンション部材と前記マフラーサイレンサとの間にて前記車両底部に懸垂され前記マフラーサイレンサと上下方向の位置が重なる引止部材とを備え、
前記車両底部に懸垂された点を回動中心として前記引止部材が車両前側へと回動する軌跡上に前記サスペンション部材が存在することを特徴とする車両底部構造。
【請求項2】
前記引止部材は、棒状の鋼材を環状に屈曲しその両端が前記車両底部に連結されるフレーム部を含むことを特徴とする請求項1に記載の車両底部構造。
【請求項3】
前記棒状の鋼材は、丸鋼であることを特徴とする請求項2に記載の車両底部構造。
【請求項4】
樹脂製の燃料タンクが積載され、該燃料タンクの後側にマフラーサイレンサが設置され、車両前方から延びるマフラーパイプが前記燃料タンクの近傍を通って前記マフラーサイレンサに接続される車両底部を備える車両底部構造において、
前記燃料タンクと前記マフラーサイレンサとの間にて前記車両底部に懸垂され前記マフラーサイレンサと上下方向の位置が重なる引止部材を備え、
前記引止部材は、前記車両底部から前記マフラーサイレンサの中途まで垂下する垂下部と、該垂下部の下端から前記マフラーサイレンサに接近しながら下方に向かって延びる潜込部とを含むことを特徴とする車両底部構造。
【請求項5】
前記引止部材は、車両幅方向において、前記マフラーパイプが前記マフラーサイレンサに接続される側の車両底部に懸垂されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両底部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−6573(P2013−6573A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142339(P2011−142339)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】