車両感知システム

【課題】路面に積雪がある場合のように入力レベルが背景レベルまで戻りにくい状況が生じても、感知ON時間が長くなりすぎるのを防止する。
【解決手段】道路R上の監視領域Aの温度を検出する検出部2から得られた入力レベルと、道路Rの温度レベルに基づく背景レベルと、の差に基づく値を比較値とし、前記比較値と閾値とを比較して車両の有無の判定を行う判定部32と、少なくとも車両有りの判定がされている間において、車両無しの判定をするために用いられる閾値Loの調整を行う閾値調整部34と、を備えている。前記閾値調整部34は、車両無しの判定から車両有りの判定に切り替わってから前記所定時間を経過したことを契機として、閾値Loを増加させる急増処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両感知システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
交通量や車両の占有時間を調べるために、道路における車両の有無を感知する車両感知システムが知られている。特許文献1には、このような車両感知システムが開示されている。
【0003】
特許文献1のシステムは、道路上の監視領域を通過する車両を感知するセンサを備えている。このセンサは、サーモパイル素子であり、車両や道路などの検知対象が発する赤外線を感知する。この感知結果は、入力レベルとしてシステムに与えられる。
車両は、その温度が、道路とは異なるため放射する赤外線の量も道路とは異なる。このため、センサの監視領域を車両が通過すると、その温度に応じて、センサからの入力レベルが変化する。この入力レベルの変化によって監視領域を通過する車両を感知することが可能である。
【0004】
より具体的には、特許文献1のシステムでは、センサから得られた入力レベルと道路の温度を示す背景レベルとの差に基づく値を比較値とし、この比較値と閾値とを比較して、車両の有無を判定する。
【特許文献1】特許第3719438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、監視領域を車両が通過し終えて、車両が存在しなくなった後も、しばらく車両有りの判定を継続してしまうことがあるということを発見した
【0006】
路面に積雪がある場合や降雨時においては、車両が監視領域を通過し終えても、入力レベルが背景レベルまでなかなか戻らず、一定の時間、両者の差が開いたままの状態となることがある。
【0007】
つまり、監視領域に車両が進入すると入力レベルが上昇する(天候の状態によっては車両の進入によって下降する)。しかし、路面に積雪がある場合等においては、その理由は明かではないものの、監視領域から車両が通過した後も検出部によって得られる入力レベルが、背景レベルにまでなかなか戻らず、車両通過後ある程度の時間が経ってから、入力レベルが背景レベルに戻るという現象が生じる。
【0008】
このような場合、入力レベルと背景レベルの差に基づく比較値は、車両通過後においても直ちに減少せず、車両通過後しばらくは、車両が実際には存在しないにもかかわらず車両が存在することを示す値となる場合がある。
【0009】
この結果、路面に積雪がある場合や降雨時においては、車両有りと判定している時間(感知ON時間)が、監視領域内に実際に車両が存在している時間(真の感知ON時間)よりも長くなってしまう。
ここで、感知ON時間は、車両の占有時間を算出し、渋滞判定や車両平均速度算出するなど、交通状態を把握するための基礎データとなるため、感知ON時間が実際より長くなると、交通状態の把握が厳密ではなくなる場合がある。
したがって、車両有りと判定している感知ON時間は、できるだけ正確に求めることが肝要である。
【0010】
そこで、本発明は、路面に積雪がある場合等であっても、精度良く感知ON時間を取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、道路上の監視領域の温度を検出する検出部から得られた入力レベルと、道路の温度レベルに基づく背景レベルと、の差に基づく値を比較値とし、前記比較値と閾値とを比較して車両の有無の判定を行う判定手段と、少なくとも車両有りの判定がされている間において、車両無しの判定をするために用いられる第1閾値の調整を行う閾値調整手段と、を備え、前記閾値調整手段は、車両無しの判定から車両有りの判定に切り替わってから前記所定時間を経過したことを契機として、前記第1閾値を増加させる急増処理を実行することを特徴とする車両感知システムである。
【0012】
上記本発明によれば、車両有りの判定がされている間において、車両無しの判定をするために用いられる第1閾値を増加させるため、路面に積雪がある場合のように入力レベルが背景レベルまで戻りにくい状況においても、感知ON時間が長くなりすぎるのを防止することができる。
【0013】
前記閾値調整手段は、車両無しの判定から車両有りの判定に切り替わってから前記所定時間が経過するまでの間は、前記入力レベルと前記背景レベルとの差に基づく値に応じて、第1閾値を増加させる通常学習処理を実行し、車両無しの判定から車両有りの判定に切り替わってから前記所定時間を経過すると、前記急増処理として、前記通常学習処理における増加度よりも大きい増加度で第1閾値を増加させる処理を実行するのが好ましい。この場合、前記所定時間までは通常学習処理により第1閾値が増加し、所定時間を経過すると急増処理によって第1閾値を増加させることができる。
【0014】
前記閾値調整手段は、前記急増処理の後は、車両有りの判定が続く間、前記第1閾値を前記急増処理で増加させた値に保持するのが好ましい。この場合、急増後に第1閾値を変動させる演算を行う必要がないため、演算負荷を軽減できる。
【0015】
前記閾値調整手段は、少なくとも車両無しの判定がされている間において、車両有りの判定をするために用いられる第2閾値の調整も行うように構成され、車両有りの判定から車両無しの判定に切り替わると、前記閾値調整手段は、車両無しの判定に切り替わったときの前記比較値を、車両無しの判定中における第2閾値の学習初期値として、前記入力レベルと前記背景レベルとの差に基づく値に一定値を加えた値となるように第2閾値の学習を行うのが好ましい。
【0016】
閾値として、車両無しの判定をするための第1閾値とは別に、車両有りの判定をするための第2閾値を設け、車両無しの判定の間において、入力レベルと前記背景レベルとの差に基づく値に一定値を加えた値となるように第2閾値を学習するようにした場合であっても、車両無しの判定に切り替わったときの比較値を、車両無しの判定中における第2閾値の学習初期値とすることで、急増処理がおこなわれても、車両無しの判定に切り替わったときの比較値と第2閾値との乖離を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、路面に積雪がある場合のように入力レベルが背景レベルまで戻りにくい状況においても、感知ON時間が不要に長くなるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1及び図2は、実施形態に係る車両感知システム1を示している。この車両感知システム1は、道路上の所定領域を監視領域Aとし、当該監視領域A内に車両Vが存在する場合には、それを感知するためのものである。
【0019】
車両感知システム1は、車両を検出するため監視領域Aの温度を検出する検出部2を備えている。検出部2から得られた入力レベル(監視領域Aの平均温度に相当する入力電圧値)は、感知処理部3に与えられる。感知処理部3では、監視領域内の車両の有無を判定し、車両有り(感知ON)又は車両無し(感知OFF)の信号を感知結果として出力することができる。
【0020】
感知結果は、図示しない交通信号制御機や交通管制センターに送信される。なお、交通信号制御機は、車両感知システム1の近傍に設置される。交通管制センター等では、複数の車両感知システムからの感知結果を集計して、交通量や車両の占有時間を算出し、渋滞判定や車両平均速度算出などが行われる。
【0021】
前記検出部2は、車両や道路が発する赤外線を感知することで、監視領域の温度を検出するサーモパイル素子によって構成されている。この検出部2は、図1に示すように、監視領域Aを道路R上に設定するため、道路脇の支柱4に取り付けられている。
検出部2は、感知処理部3と接続されており、検出部2から得られた入力レベルは当該感知処理部3に送信される。
感知処理部3は、前記支柱4に取り付けられた筐体5内に配置されている。なお、感知処理部3を検出部2と同一の筐体内に収める構成としてもよく、検出部2や感知処理部3の配置はここに示す構成に特に限定されるものではない。
【0022】
感知処理部3は、CPUや記憶部などを有するコンピュータを含むハードウェア等によって構成されており、記憶部に記憶されたコンピュータプログラムが実行されることで、車両感知のための処理を行う。
【0023】
ここで、監視領域Aにおける車両Vの有無を判定(感知判定)するための基本原理としては、車両が存在しないときの道路の温度を背景レベルとして有しておき、入力レベルと背景レベルに差があれば車両有り(感知ON)と判定し、入力レベルと背景レベルに差がなければ車両無し(感知OFF)と判定すればよい。
【0024】
ただし、本実施形態では、単純に入力レベルと背景レベルとを比較して感知判定するのではなく、より正確に感知判定を行うため、感知処理部3は、入力レベルと背景レベルとの差に基づく値を比較値として算出し、その比較値を閾値(感知判定用の閾値)と比較することで、感知結果(感知ON/感知OFF)を求める。
【0025】
このため、感知処理部3は、入力レベルと背景レベルとの差に基づく値を比較値として算出する比較値算出部31としての機能を備えている(図3(a)参照)。
さらに、感知処理部3は、比較値と、閾値と、を比較して、車両の有無を判定する判定部32としての機能を有している(図3(b)参照)。
【0026】
前記比較値算出部31は、本実施形態では、入力レベルと背景レベルとの差分を示す値(比較値)として、入力レベルと背景レベルの差の微積和を算出する。この微積和は、入力レベルと背景レベルの単純差から、ノイズの影響を低減し、当該単純差の変化分を強調して閾値との比較をし易くしたものである。
【0027】
図3(a)に示すように、比較値演算部31では、微積和を求めるため、まず、入力レベルと背景レベルとの差分を差分演算部31aによって求める。さらに、その差分の絶対値の積分値を積分演算部31bによって求める。
この積分値は、前記差分の時間平均値に相当し、差分からノイズの影響を低減したものを得ることができる。また、差分の絶対値の微分値を求める演算が微分演算部31cによって行われる。微分値は、前記差分の変化分を示すものである。
【0028】
前記積分値と前記微分値とは加算部31dによって加算され、この加算値が微積和(比較値)となる。
微積和は、ノイズが低減された積分値に変化分を示す微分値が加えられたものであるから、ノイズの影響が低減され、変化分を強調したものとなっている。
【0029】
前記判定部では、この微積和を用いて判定を行うため、より正確に感知判定を行うことができる。ただし、比較値としては、入力レベルと背景レベルとの差に基づくものであれば、前記微積和に限定されるものではない。
なお、比較値算出部31からは、前記積分値も出力される。この積分値も、入力レベルと背景レベルの差に基づく値であり、後述の閾値学習の際に用いられる。
【0030】
図3(b)に示すように、判定部32は、比較値算出部31によって算出された比較値(微積和)を用いて、感知結果(感知ON/感知OFF)を出力する感知判定を行う。
ここでの感知判定の基本原理は、比較値が閾値よりも大きければ(比較値>閾値)、感知ON(車両有り)と判定し、比較値が閾値よりも小さければ(比較値<閾値)、感知OFF(車両無し)と判定するものである。
【0031】
ただし、本実施形態では、感知ONから感知OFFに切り替わった直後や感知OFFから感知ONに切り替わった直後における感知結果のチャタリングを防止するため、感知判定用の閾値として「閾値Lo」(第1閾値)と「閾値Hi」(第2閾値)の2つが導入されている。
【0032】
第1の閾値である閾値Loは、感知ONの状態から感知OFFを判定するためのものであり、第2の閾値である閾値Hiは、感知OFFの状態から感知ONを判定するためのものである。
換言すると、閾値Loは、車両有りの判定(感知ON)がされている間において、車両無し(感知OFF)の判定するために用いられるものであり、閾値Hiは、車両無しの判定(感知OFF)がされている間において、車両有り(感知ON)の判定をするために用いられるものである。
【0033】
閾値Loは、通常、閾値Hiよりも所定値ほど減じた値に設定され(後述の急増モードの場合を除く)、これにより感知ON/OFF切り替わり時のチャタリングが防止される。
【0034】
図4に示すように、感知処理部3は、さらに、背景レベルを学習する背景レベル学習部33としての機能と、閾値(閾値Lo及び閾値Hi)を学習するための閾値学習部(閾値調整部)34としての機能と、を有している。
【0035】
背景レベル(道路の路面温度)は、太陽光によって道路が日向になったり日陰になったりするなど環境によって大きく変動するため、一定値を背景レベルとして採用すると真値(実際の道路の温度)とのズレが発生する。
そこで、図5(a)に示すように、車両が監視領域Aに存在しない感知OFF時には、入力レベルは道路Rの温度を示しているはずであるから、背景レベル学習部33は、入力レベルに追従するように背景レベルの学習を行う。
【0036】
一方、車両が監視領域Aに存在する感知ON時には、入力レベルは主に車両Vの温度を示しているはずであるから、背景レベル学習部33は、背景レベルの学習を行わず、感知OFFから感知ONに切り替わったときの背景レベルを保持する。
このように、背景レベル学習部33は、感知結果(感知ON/感知OFF)に応じて、学習方法(学習の有無)を切り替えて、背景レベルの学習を行う。
以上のような背景レベル学習を行うことで、路面温度の変化に応じて、背景レベルを変化させることができる。
【0037】
さらに、本実施形態では、前述のように、背景レベルだけでなく、閾値(閾値Lo及び閾値Hi)の学習(調整)も行う。
ここで、感知OFF時(車両無しの場合)においては、車両の有無を判定するために比較値と比較される閾値は、原理的には、一定値でもよい。
すなわち、感知OFF(車両無し)での定常状態が続くと、入力レベルと背景レベルの差(比較値)は原理的には0となる。そして、この状態で車両が監視領域Aを通過すると入力レベルが変化して、入力レベルと背景レベルの差(比較値)が大きくなる。
このため、感知OFF時においては、前記閾値は、車両が監視領域に進入することで、入力レベルと背景レベルとの差が、車両によって、0よりも大きくなったことを判定できるものであれば足りる。
したがって、閾値は、前述のように、感知OFF時においては、原理的には一定値でよい。
【0038】
ただし、実際には、感知OFFであっても、外乱などの要因によって、入力レベルと背景レベルの差(比較値)が0になるとは限らず、時間によって変動する。
このため、本実施形態では、より正確に感知ONを判定するため、図5(b)に示すように、感知OFF時においては、比較値(微積和)に一定値を加えたものを目標に学習する。つまり、感知OFFにおける定常状態においては、比較値に一定値を加えた値が閾値となる。
【0039】
より具体的には、本実施形態の閾値学習部34は、感知OFF時において、閾値Hiについては、比較値(微積和)に一定値を加えたものを目標に学習を行い、閾値Loについては、前記閾値Hiから一定値を減じた値にする
この結果、本実施形態では、感知OFF時において、閾値Hiと閾値Loとは、前記一定値分の間隔を保ちつつ、比較値(微積和)よりも少し高い値で、比較値の変化に追従することになる。
【0040】
また、感知ON時(車両存在時)においては、前記閾値は、車両が監視領域に存在していることで大きくなっている比較値(入力レベルと背景レベルとの差)が、車両が監視領域から存在しなくなることによって、小さくなったことを判定できるものであれば足りる。したがって、原理的には、感知ON時の閾値は、感知OFF時の閾値と同じでよい。
ただし、上記のように感知OFF時に閾値が比較値に追従して変動するようにした場合であっても、感知ON時の比較値は入力レベルと背景レベルとの差を示しているため、感知OFF時のように閾値を比較値に追従させるわけにはいかない。そこで、感知ON中は、感知OFFから感知ONに切り替わったときの閾値を保持することが考えられる。
【0041】
しかし、感知ON中に閾値を保持するだけでは、次のような問題に対処できないため、本実施形態では、閾値学習部(閾値調整部)34は、感知ON中に、閾値の学習(調整)を行う。
すなわち、信号待ちなどで車両Vが長時間、監視領域Aに停車した場合、車両通過前後で路面温度に差が生じることがある。
つまり、路面温度は車両Vの長時間停車の影響を受けて変化するため、感知OFFから感知ONになる直前(車両Vが監視領域Aに進入する直前)の路面温度と、感知ONから感知OFFになった直後(車両Vが監視領域Aを通過した直後)の路面温度とに差が生じる。
【0042】
このような場合であっても、前記背景レベル学習部33は、感知ON中においては背景レベル学習が行えないため、感知OFFから感知ONになったときの背景レベルを保持する。この結果、車両Vが監視領域Aから抜け出して、感知ONから感知OFFになったときには、背景レベルの値が、真値(監視領域Aに停止した車両Vによって影響を受けて変化した路面温度)からずれることになる。
【0043】
このように、感知ONとなっている間(車両Vが監視領域Aに存在する間)においては、時間の経過とともに、背景レベルが真値から徐々に乖離して行く。この背景レベルと真値との乖離は、入力レベルと背景レベルとの差を示す比較値(微積和)に影響を与える。
つまり、感知ON中は時間の経過とともに、比較値が当該乖離分ほど大きくなる。
したがって、背景レベルの真値との乖離の発生を考慮すると、感知ON中は、感知OFFの判定するための「感度」を、時間の経過によって高くして、比較値の低下度合いが小さくでも感知OFFの判定ができるようにする必要がある。
【0044】
そこで、本実施形態では、感知ON中は、感知OFFの判定するための「感度」を、時間の経過とともに高くするため、前記積分値(入力レベルと背景レベルの差に基づく値)の90%を目標に、徐々に閾値を増加させる学習を行う。ここでは、この学習を、「通常学習」とよぶ。
この通常学習は、閾値を積分値の90%にすること自体が目的ではなく、前記積分値に含まれる背景レベルの乖離分を閾値に反映させるとともに、前記乖離分が徐々に大きくなるのに応じて閾値を徐々に大きくするためのものである。
したがって、この通常学習においては、閾値の増加度合いは比較的緩やかである。
【0045】
より具体的には、本実施形態の閾値学習部34は、図5(b)に示すように、感知ON時において、閾値Hiについては、積分値(入力レベルと背景レベルとの差に基づく値)の90%を目標に学習を行い、閾値Loについては、前記閾値Hiから一定値を減じた値にする。
【0046】
さらに、本実施形態では、閾値学習部34は、感知ON時において、閾値の通常学習だけでなく、閾値の急増処理も行う。
この急増処理は、図5(b)に示すように、感知ONになってから、所定時間(200msec)経過したことを契機として実行される処理であり、閾値を大幅に増加させる。
つまり、所定時間(200msec)が経過するまでは、閾値(閾値Hi及び閾値Lo)は、前記通常学習処理によって徐々に増加し、所定時間(200msec)になると、閾値Loのみ通常学習処理の緩やかな増加度よりも大きい増加度で増加する。
【0047】
この急増処理は、路面に積雪がある場合や降雨の場合であっても、感知ON時間が、実際に車両が監視領域Aに存在する時間よりも長くなるのを防止するための処理である。
つまり、路面に積雪がある場合や降雨の場合には、図6(a)に示すように、車両が監視領域Aに存在する状態から車両が通過した車両無しの状態になっても、検出部2から得られる入力レベルは、なだらかに低下し、背景レベルまでなかなか戻らない現象が生じる。
【0048】
このような現象が生じると、入力レベルと背景レベルの差を示す比較値(微積和)は、実際には車両が通過した後も、比較的大きな値となる。つまり、実際には車両が存在しなくても、入力レベルが高くなるため、比較値(微積和)は、車両が存在するかのような値を示す。
この結果、図6(b)に示すように、比較値(微積和)が閾値を下回るのが、実際に車両が通過した時点t1よりも遅れて、t2の時点となる。このため、感知ON時間が、本来、感知ONとなるべき時間よりも長くなる。
【0049】
なお、図6(b)では、感知ONの間、常に通常学習処理によって閾値を増加させるとともに、感知OFFの間は、微積和に一定値を加えたものを目標に閾値の学習を行った場合の閾値を示した。なお、理解の容易のため、閾値は、閾値Hiと閾値Loとを区別せずに1本の線で示されている。
【0050】
ここで、通常学習処理は、背景レベルの乖離の影響に伴って感知OFF判定の感度を徐々に高めるために、閾値を緩やかに増加させるものであるから、通常学習処理によって緩やかに閾値を増加させたとしても、上記のような積雪又は降雨による入力レベルの異常によって、感知ON時間が長くなりすぎるという問題に対して、十分に対処できない。
しかも、感知ON中において、通常学習処理を行わず、感知ON中の閾値を感知ONになったときの閾値の値に保持するようにした場合には、上記のような入力レベルの異常が生じると、図6(b)よりも感知ON時間がさらに長くなる。
【0051】
そこで、本実施形態では、図6(c)及び図7に示すように、感知ONになってから所定時間(200msec)が経過するまでは(ステップS1)、閾値学習部34は通常学習モードにあって通常学習処理によって閾値を増加させるものの(ステップS2)、所定時間(200msec)が経過すると(ステップS1)、これを契機として、閾値学習部34は閾値Loを大きく増加させる急増モードに移行し、閾値の急増処理を行う(ステップS3)。
【0052】
この急増処理の結果、比較値(微積和)が最大値から多少減少すると直ぐに、比較値が閾値Loを下回るようになり、感知ON時間が図6(b)よりも短縮される。これにより、感知ON時間が、長くなりすぎることを防ぐことができる。
【0053】
本実施形態では、急増処理によって閾値Loを急増させた後、感知ONが続く限り、閾値Loを急増後の値に保持する(ステップS4)。急増処理後は、再び、通常学習処理を行ってもよいが、急増処理によって閾値Loが大きくなっているため、急増処理後は、通常学習処理を行う必要性は低い。そこで、上述のように、急増処理後は、値を保持することで、通常学習処理のための演算を省略でき、演算負荷を軽減することができる。
なお、図7の処理は、感知結果が感知OFFになると、その時点で終了する。
【0054】
さて、本実施形態において、急増処理によって引き上げられたときの閾値Loの値は、(1)及び(2)の値のうち、小さい方となる。
(1){(感知ON直後の積分値)+(感知ON中の積分値の最大値−感知ON直後の積分値)×0.2}×補正値
(2)感知ON直後の積分値×補正値+一定値
【0055】
閾値Loの引き上げ後の値は、上記(1)(2)に限られるものではなく、感知ON中における積分値(又は微積和)の最大値を超えない範囲で、比較的大きい値(積分値(又は微積和)のおよそ80%程度)となればよい。なお、上記(1)(2)の場合、一般に、(2)の方が小さくなるため、(2)における「一定値」が、引き上げ分の上限値となる。
【0056】
ここで、急増処理を実行するタイミングは、感知ONになってから200msecに限定されるものではないが、感知ONになってから所定時間をおいて、比較値(微積和)が十分に大きくなった時点(比較値が最大値をとるタイミングの近傍)で実行すべきである。
急増処理のタイミングが早すぎたり遅すぎたりすると、比較値が小さいため閾値Loを十分に増加させることができず、感知ON時間が長すぎるのを防止するのが困難になるからである。
なお、本実施形態では、急増させる閾値Loを比較値に対して学習させるようにしているため、仮に急増処理のタイミングが早すぎてそのときの比較値が小さくても、その後、比較値の増加に伴い閾値Loも大きくなるため、急増処理の作動タイミングが早すぎることの影響については限定的なものとすることができている。
【0057】
例えば、監視領域Aの大きさが、車両進行方向に約75cm、車幅方向に約100cmであり、車長を6mと仮定すると、例えば、60km/hの車両Vが監視領域Aにさしかかってから完全に抜けるまでに要する時間は、(0.75[m]+6[m])/(60[km/h]×1000/3600)=0.405[sec]である。
したがって、200msecのタイミングであれば、車両Vが監視領域Aにおいて車両進行方向中央位置に存在し、比較値(微積和)が最大となることが期待される。
【0058】
このように、監視領域Aの大きさ及び車両Vの想定速度から鑑みて、比較値が最大値をとることが期待されるタイミングで急増処理を実行することで、比較値の最大値よりも少し低い値(例えば、最大値の80%)に閾値Loを調整することが可能となる。
【0059】
また、急増処理における閾値の引き上げは、図8に示すように、閾値Loのみについて行われ、閾値Loの急増処理が作動した後も、閾値Hiは通常学習処理を継続する。
つまり、感知OFFから感知ONになってから所定時間(200msec)が経過するまでは、閾値Hiは通常学習処理による学習値であり、閾値Loは、閾値Hiから一定値減じた値である。
【0060】
そして、感知OFFから感知ONになってから所定時間(200msec)が経過すると、急増処理によって閾値Loは引き上げられ、その値で保持される。一方、閾値Hiについては、前記急増処理は実行されず、感知OFFから感知ONになってから所定時間(200msec)が経過した後も、通常学習処理が行われる。このため、前記所定時間経過後は、閾値Hiよりも閾値Loの方が大きくなる。
【0061】
そして、比較値(微積和)が、引き上げられた閾値Loを下回ると、感知OFFとなる。このとき、閾値Hiには、閾値Lo(閾値Lo>閾値Hi)の値が代入される。つまり、閾値Hiの値が、閾値Loまで引き上げられる。
このように、感知ONから感知OFFに切り替わると、感知ONから感知OFFに切り替わったときの閾値Lo(第1閾値)の値が、閾値Hiの学習初期値とされる。閾値Loを学習初期値とする閾値Hiについては、感知OFFの間、比較値(微積和)に一定値を加えたものを目標に学習が行われる。
【0062】
このように、感知OFF時の閾値Hiの学習方法は、「比較値(微積和)に一定値を加えたものを目標」に学習するものであるため、感知ONから感知OFFになったときの閾値Hi(学習初期値)が、比較値(微積和)(=閾値Lo)と一致していると、学習目標値に素早く到達することができる。
【0063】
ただし、仮に、感知ON時間が十分に長い場合、急増処理後に保持している閾値Loの値が、通常学習処理を継続している閾値Hiの値を上回ることがあり得る。
この場合、感知ONの途中において、保持している閾値Loの値よりも通常学習処理を継続している閾値Hiの値から導出した閾値Loの値(閾値Hiから一定値を減じた値)の方が大きくなる。この場合、閾値Loは保持している値をとり続けるのではなく、閾値Hiから導出する値になり、閾値Hiの通常学習処理に従い徐々に増加することになる。
【0064】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、上記実施形態においては、感知ONの間において所定時間が経過するまでは、通常学習処理を実行しているが、通常学習処理の実行に代えて、感知ONになったときの閾値を保持するようにして、所定時間になったときに保持している値を急増するようにしてもよい。
また、閾値としては、閾値Hiと閾値Loの2種類を設けずに、一つにまとめてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】道路に設置された車両感知システムを示す斜視図である。
【図2】車両感知システムのブロック図である。
【図3】感知処理部の一部の機能を示すブロック図であり、(a)は比較値算出部を示し、(b)は判定部を示す。
【図4】感知処理部の一部の機能を示すブロック図であり、(a)は背景レベル学習部を示し、(b)は閾値学習部(閾値調整部)を示す。
【図5】感知処理部によって実行される学習方法を示す表であり、(a)は背景レベルの学習方法を示し、(b)は閾値の学習方法を示す。
【図6】積雪や降雨時の説明図であり、(a)は入力レベルと背景レベルの関係を示し、(b)は急増処理を行わない場合の微積和と閾値の関係を示し、(c)は急増処理を行った場合の微積和と閾値の関係を示す。
【図7】感知ON時の閾値の学習処理を示すフローチャートである。
【図8】閾値を閾値Loと閾値Hiを区別した図6(c)の対応拡大図である。
【符号の説明】
【0066】
1:車両感知システム
2:検出部
3:感知処理部
4:支柱
31:比較値算出部
32:判定部
33:背景レベル学習部
34:閾値学習部(閾値調整部)
R:道路
A:監視領域
V:車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路上の監視領域の温度を検出する検出部から得られた入力レベルと、道路の温度レベルに基づく背景レベルと、の差に基づく値を比較値とし、前記比較値と閾値とを比較して車両の有無の判定を行う判定手段と、
少なくとも車両有りの判定がされている間において、車両無しの判定をするために用いられる第1閾値の調整を行う閾値調整手段と、を備え、
前記閾値調整手段は、車両無しの判定から車両有りの判定に切り替わってから前記所定時間を経過したことを契機として、前記第1閾値を増加させる急増処理を実行する
ことを特徴とする車両感知システム。
【請求項2】
前記閾値調整手段は、
車両無しの判定から車両有りの判定に切り替わってから前記所定時間が経過するまでの間は、前記入力レベルと前記背景レベルとの差に基づく値に応じて、第1閾値を増加させる通常学習処理を実行し、
車両無しの判定から車両有りの判定に切り替わってから前記所定時間を経過すると、前記急増処理として、前記通常学習処理における増加度よりも大きい増加度で第1閾値を増加させる処理を実行する
請求項1記載の車両感知システム。
【請求項3】
前記閾値調整手段は、前記急増処理の後は、車両有りの判定が続く間、前記第1閾値を前記急増処理で増加させた値に保持する請求項1又は2記載の車両感知システム。
【請求項4】
前記閾値調整手段は、少なくとも車両無しの判定がされている間において、車両有りの判定をするために用いられる第2閾値の調整も行うように構成され、
車両有りの判定から車両無しの判定に切り替わると、前記閾値調整手段は、車両無しの判定に切り替わったときの前記比較値を、車両無しの判定中における第2閾値の学習初期値として、前記入力レベルと前記背景レベルとの差に基づく値に一定値を加えた値となるように第2閾値の学習を行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両感知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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