説明

車両持ち上げ装置および巻上げ機

【課題】 鉄道車両における複数の昇降駆動点のそれぞれを、特別な駆動制御を行うことなく適切な速度で昇降させることができる車両持ち上げ装置、およびそれらに使用できる巻上げ機を提供する。
【解決手段】 鉄道車両1を昇降させるため、当該車両1またはそれを載せるレールに対し昇降駆動点を複数(4A・4B等)設け、各昇降駆動点に吊上げ用のロープ3を連結した車両持ち上げ装置において、上記ロープ3のそれぞれを、各昇降駆動点の昇降所要量に比例した直径の直径部分DA〜DDを有する巻取りドラム13・14の、該当する各直径部分に巻き付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、車庫への保管やメンテナンス等の目的で鉄道車両を昇降させる車両持ち上げ装置、および同装置等に使用する巻上げ機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両のための車庫は、地上に平面的に車両を保管するよう構成されるのが一般的である。しかし近年、都心部では、土地の有効活用等の観点から、上下複数段に車両を保管する立体車庫の有用性が見直されている。そのような立体車庫に車両を保管する場合、車両を昇降させるための装置が、立体車庫の内部またはその前後の部分に設けられる。
【0003】
立体車庫については下記の特許文献1・2等に記載がある。文献1・2のいずれにおいても、立体車庫の車両格納部分の前部に、車両を昇降させる昇降装置が設けられている。たとえば特許文献1では、図6のように、複数台の巻上げ機2’を用い、車両1を吊り上げて昇降させる装置Wが立体車庫Vの前部にある。また特許文献2では、図7のように、複数の油圧シリンダ2”により車両1を押し上げて昇降させる装置Yが、やはり立体車庫Xの格納部分の前部に設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−10526号公報
【特許文献2】特開平10−25919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図6に示す昇降装置のように、複数台の巻上げ機により車両を吊り上げて昇降させる場合、多数の巻上げ機が必要であって、コストおよび配置スペースの課題がともなううえ、車両が傾くのを防ぐための制御上の課題が付随する。つまり、車両を水平に保って昇降させるために各巻上げ機の巻上げ速度を適切に制御して、各巻上げ機からのロープが接続された車両上の各昇降駆動点を等速度で昇降させる必要があり、制御が容易でない。
また、図7の昇降装置のように複数台の油圧シリンダを用いて車両を昇降させる場合にも、昇降時に車両を水平に保つべく油圧シリンダの速度を正確に同期させねばならない。図7の例では油圧シリンダの数が少ないが、架構(図中の符号6’)を小型化し軽量化するためには多数の油圧シリンダで多数箇所の昇降駆動点を持ち上げる必要があり、図6の場合と同様にコストや配置スペース、および制御面での課題が深刻になる。
【0006】
車両を水平に昇降させるのではなく、たとえば、車両の角度(鉛直面内での傾斜角度。勾配)を変更しながら昇降させる場合には、巻上げ機や油圧シリンダの制御はさらに容易でなくなる。巻上げ機や油圧シリンダを連結した各昇降駆動点を、駆動点ごとに異なる適切な速度で持ち上げる必要があるからである。各駆動点の速度が適切でなければ、特定の巻上げ機等に負荷が集中したり、予定外の角度に車両が傾斜したり、鉛直面内でレール等に曲げが生じたりする可能性もある。
【0007】
請求項に係る発明は、上記のような課題を解決することを目的として、鉄道車両における複数の昇降駆動点のそれぞれを、特別な駆動制御を行うことなく適切な速度で昇降させることができる好ましい車両持ち上げ装置、およびそれらに使用できる巻上げ機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の車両持ち上げ装置は、鉄道車両を昇降させるため、当該車両またはそれを載せるレールに対し昇降駆動点を複数設け、各昇降駆動点に吊上げ用のロープを連結した装置について、上記ロープのそれぞれを、各昇降駆動点の昇降所要量に比例した直径をもつ直径部分を複数有する巻取りドラムの、該当する各直径部分に巻き付けたことを特徴とする。すなわち、直径の異なる複数の直径部分を巻取りドラムに設けることとし、各昇降駆動点に至る各ロープを巻き付けた各直径部分の直径を、各昇降駆動点での車両各部の昇降所要量に比例するようにそれぞれ定めたのである。
この車両持ち上げ装置によれば、巻取りドラムを駆動して回転させると、そのドラムの各直径部分に巻き付けられたロープが、それぞれ各直径部分の直径に比例する速度で巻き取られ、または巻き出される。各直径部分の直径は、各昇降駆動点での昇降所要量に比例するように定められているので、上記によって各昇降駆動点が、各昇降駆動点の昇降所要量に比例した速度で上昇または下降することとなる。そのためこの装置では、鉄道車両を水平状態に保って昇降させる場合にも、また、鉛直面内で角度を変更しながら昇降させる場合にも、巻取りドラムを回転させることにより、各昇降駆動点を適切な速度で持ち上げて望ましい昇降を実現することができる。つまり、巻上げに関して特別な制御を行わなくとも、特定の巻上げ機等に負荷が集中したり、予定外の角度に車両が傾斜したりレール等に曲げが生じたりする不都合が生じない。
なお、発明の車両持ち上げ装置は、鉄道車両を上下複数段に保管する立体車庫における車両格納手段としても使用でき、また、本線レールに続く導入路から上記立体車庫の各段の高さに車両を昇降させる昇降手段としても使用することができる。
【0009】
上記巻取りドラムの各直径部分は、一体の巻取りドラム上、または同期伝動手段で連結された複数の巻取りドラム上に形成するのが好ましい。同期伝動手段とは、同一回転速度で回転するよう、滑りを生じることなく動力を伝達する手段をいい、ギヤやチェーン等を介する伝動手段をさす。
上記した各直径部分は、独立した複数の巻取りドラムに分けて形成することも可能である。しかし、そのようにした場合、それぞれの巻取りドラムの回転速度を同一にしないと各昇降駆動点を上記のように適切な速度で持ち上げることはできない。その点、各直径部分を一体の巻取りドラム上、または同期伝動手段で連結された複数の巻取りドラム上に形成するなら、いずれの直径部分についても回転速度が同一となり、したがって、巻取りドラムを任意の速度で回転させることにより、昇降駆動点を上記のように適切な速度で持ち上げて鉄道車両を適切に昇降させることができる。
【0010】
上記の車両持ち上げ装置においては、とくに、鉄道車両における一部の昇降駆動点に連結したロープと、当該車両における他の一部の昇降駆動点に連結したロープとを、上記巻取りドラムに対し逆の向きから接続して巻き付けるのがよい。たとえば図1〜図3の例のように、巻取りドラム(図示の例では2つある)に対して図の左右それぞれからロープを巻き付けるのである。
巻取りドラムに対して上記のようにロープを逆向きに接続して巻き付けると、ロープに張力が作用するとき、向きの異なる張力が相殺しあうことによって、巻上げ機(巻取りドラムやその駆動源等を含むユニット。図1の例における符号2)に作用する力が小さくなる。そしてそれにより、巻上げ機の据え付けや支持のための構造が簡単になる。なお、このような利点を享受するうえでは、巻取りドラムを複数設ける場合、一体の共通台板(図1・図2の例では符号16)上に各ドラムを組み付けるのが好ましい。
【0011】
上記の昇降は、1編成中の全数または一部の鉄道車両を載せたレールを直線状に保ちながら、その傾斜角度(勾配)を変更することにより行うこととするのがとくに有意義である。たとえば図4または図5のような形態で鉄道車両を昇降させるのである。
発明の車両持ち上げ装置は各昇降駆動点を適切な速度で持ち上げ得ることから、鉄道車両を水平状態に保って昇降させる場合にも使用できて望ましい昇降を実現する。しかし、そのように昇降させることは、巻上げ機や油圧シリンダの速度を同一にすることによって従来も比較的容易に実現が可能であった(特許文献1・2参照)。その点、上のようにレールを直線状に保ちながらその傾斜角度を変更する昇降を実施することは、各昇降駆動点の速度が同一でないため複雑な制御手段が不可欠である。発明の装置によれば、特別な制御を行わなくとも、上記のような、レールを直線状に保ちながら傾斜角度を変更する昇降を実現することができ、とくに有利である。なお、鉄道車両の昇降を、1編成中の全数または一部の車両を載せたレールを直線状に保ちながらその傾斜角度を変更することによって行うと、全体を水平に保ったまま昇降させるよりもレール等の支持構造を簡単にし、昇降に要するエネルギーを低減することが可能になる。
【0012】
またさらに、レールの長さ方向の中ほどをヒンジで連結し、上記の昇降を、1編成のうち上記ヒンジの一側にある一部車両を載せたレールについては傾斜角度を変更しながら行い、残りの車両を載せたレールについては傾斜角度を変更せずに行うこととするのも有意義である。図3に示す鉄道車両の昇降はその一例である。なお、ヒンジによる上記の連結は、レール同士を直接に連結するものであってもよいが、レールを取り付けたフレーム等でレールを間接的に連結するものでもよい。
このように昇降させる場合には、各昇降駆動点の昇降速度が同一でないうえ全点の速度が比例関係にあるわけでもないため、従来の巻上げ機で実施するには相当複雑な制御手段が必要である。しかし発明の装置によれば、巻取りドラムの各直径部分の直径等を適切に定めるだけで、特別な制御を行わなくともそのような昇降を行うことができ、技術的意義は格別である。なお、上記のように昇降させると、傾斜角度を変更せず昇降させる上記一部の車両の昇降高さを半分にして昇降所要エネルギーを少なくすることが可能である。
【0013】
発明の巻上げ機は、一体の巻取りドラム、または同期伝動手段で連結された複数の巻取りドラムに、合計で複数本の吊上げ用のロープを巻き付けていて、巻取りドラムにおける各ロープの巻き付け部分の直径を、各ロープの(したがって吊上げ対象物における各昇降駆動点の)昇降所要量に比例して定めていることを特徴とする。
このような巻上げ機を使用すると、鉄道車両を含む長尺の吊上げ対象物、すなわち相当の長さを有するために複数の吊上げ用ロープを用いて昇降させ、しかも各ロープの昇降速度をコントロールする必要のあるものを、適切かつ簡単に昇降させることができる。前述のように、巻取りドラムを任意の速度で回転させるだけで各昇降駆動点を適切な速度で持ち上げることができ、吊上げ対象物を水平に保つ昇降や、直線を維持して傾斜角度を変更しながらの昇降等を円滑に実現できるからである。
【0014】
上記の巻上げ機については、とくに、複数本のうち一部のロープと残りのロープとを巻取りドラムから互いに逆向きに延ばして吊上げ対象物(の各昇降駆動点)に延ばすのがよい。
そのようにすると、ロープに作用する張力の向きが反対になって張力が互いに打ち消し合うため、全体として巻上げ機に作用する力が小さくなり、巻上げ機の据え付けや支持のための構造を簡単にすることができる。
【発明の効果】
【0015】
発明の車両持ち上げ装置によれば、鉄道車両を水平状態に保って昇降させる場合にも、また、鉛直面内で角度を変更しながら昇降させる場合にも、巻取りドラムを回転させることによって望ましい昇降を実現することができ、巻取りドラムの回転速度等について特別な制御を施す必要がない。とくに、巻取りドラムの各直径部分を一体の巻取りドラム上、または同期伝動手段で連結された複数の巻取りドラム上に形成するなら、巻取りドラムの速度は全くの任意でよい。さらに、鉄道車両における一部の昇降駆動点に連結したロープと、当該車両における他の一部の昇降駆動点に連結したロープとを、上記巻取りドラムに対し逆の向きから接続して巻き付けると、巻上げ機の据え付けや支持のための構造が簡単になる。
また、発明の巻上げ機によれば、鉄道車両以外の長尺の吊上げ対象物であっても、上記と同様、巻上げについて特別な制御を行わなくとも、適切かつ簡単に昇降させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】発明の車両持ち上げ装置に使用する巻上げ機2を示す正面図である。
【図2】図1の巻上げ機2についての平面図である。
【図3】発明による車両持ち上げ装置の全体を示す側面図である。
【図4】発明による他の車両持ち上げ装置の全体を示す側面図である。
【図5】発明によるさらに他の車両持ち上げ装置の全体を示す側面図である。
【図6】車両を昇降させる従来の装置を含む立体車庫等の側面図である。
【図7】車両を昇降させる従来の他の装置を含む立体車庫等の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1〜図3によって発明の一実施形態を紹介する。車両持ち上げ装置の全体を図3に示し、その持ち上げ装置の一部である巻上げ機2を図1・図2に示している。
【0018】
図3に示す車両持ち上げ装置は、レールを敷設した昇降フレーム6・7とともに鉄道車両1を持ち上げ、その下にあるフレーム8上のレールにも別の車両を入れることによって上下に鉄道車両を保管するという、2段の立体車庫を構成する装置である。車両1を持ち上げる手段として、装置全長の中ほどの位置に巻上げ機2を設置するとともに、当該巻上げ機2に接続したワイヤロープ3のそれぞれを、レールに沿って立設した複数の支持柱4上に設けた滑車5に掛けたうえフレーム6・7の各部に接続している。巻上げ機2を駆動すると、上記の各ロープ3が、各支持柱4の位置においてフレーム6・7の各昇降駆動点4A〜4Gに力を及ぼすことにより、フレーム6・7を、その上のレールおよび車両1とともに昇降させることができる。
【0019】
フレーム6・7は両者を一直線に保って同時に昇降させてもよいが、図示の例では、中間部分にヒンジ7aを設け、これを境にフレーム6・7の昇降の態様が異なるようにしている。詳しく述べると、昇降に必要なエネルギーを節約することを目的として、フレーム6・7等の昇降をつぎのように行うこととしている。すなわち、
a) 奥の位置にある昇降フレーム7は、あらかじめ鉄道車両1の全高の半分程度の高さ位置に保ち、進入路(図示左方端)側の昇降フレーム6は、ヒンジ7aでの高さをフレーム7に一致させるとともに進入路付近を地上高さに合わせた傾斜状態にしておく。
【0020】
b) 上記a)のようにしたフレーム6・7のレール上に図示のように鉄道車両1が進入すると、フレーム6・7を車両1の全高を超える高さにまで上昇させる。このとき、フレーム6については、ヒンジ7aに近い側の昇降駆動点4C・4Dよりも進入路側の昇降駆動点4A・4Bを速く上昇させることによって、フレーム6とレールを直線に保ちながら傾斜角度を変更し、フレーム7については、すべての昇降駆動点4D〜4Gを比較的遅い速度(フレーム6のヒンジ7a付近での速度)で水平のまま上昇させる。そのようにすると、フレーム6・7とも昇降量が少なくなるので、昇降の際のエネルギー消費を抑制することができる。
【0021】
c) フレーム6・7が上昇し終わると、それらの下にあるフレーム8上のレールに別の鉄道車両を進入させ、上下2段に車両を保管する。
【0022】
d) 保管した鉄道車両を出庫させる際には、下段の車両を進入路から出したのち、上にあるフレーム6・7を図示の状態にまで下降させ、下降完了後に上段の車両1を進入路から出す。下降の際、フレーム6・7は、各昇降駆動点の速度を上昇時の上記b)と同様の比率にして下向きに移動させる。
【0023】
上記b)およびd)のように各部において均一でない速度でフレーム6・7を昇降させる場合、各昇降駆動点に掛けたロープ3をそれぞれ適切な速度で巻取り・巻出しするには、一般には複雑な制御が必要であり制御手段に相当のコストがかかる。そこで、この車両持ち上げ装置では、巻上げ機2として図1・図2に示すものを使用し、その制御を簡単化している。
【0024】
図1および図2の巻上げ機2は、1台のモータ11にて駆動する2台の巻取りドラム13・14のそれぞれに、上記した各昇降駆動点4A〜4Gの昇降所要量に比例(昇降速度にも比例)するよう直径を定めた複数の直径部分DA〜DDを形成したものである。図示の例では、巻き取りドラム13における直径部分DA・DB・DCおよび巻き取りドラム14の直径部分DDの半径を、対応する駆動地点4A・4B・4Cおよび4D〜4Gの昇降量に合わせ、1:0.83:0.67:0.5に設定している。そして、各直径部分DA・DB・DCともう一つの直径部分DDには、フレーム6の各昇降駆動点4A・4B・4Cと、フレーム6・7の昇降駆動点4D・4E・4F・4Gに至る各ロープ3A・3B・3Cおよび3D・3E・3F・3Gを、図のようにそれぞれ巻き付けている。なお、図1・図2において符号12は歯車減速機、同15は軸受、同16は支持台板である。
【0025】
このような巻上げ機2を使用すると、モータ11を任意の速度で回転させることのみによって、巻取りドラム13・14に巻き付けられた各ロープ3(3A〜3G)をそれぞれ適切な速度で巻取り・巻出しすることができる。そしてそれにより、フレーム6・7の各昇降駆動点4A〜4Gを適切な速度配分で上げ下げして、上記b)・d)に示す好ましい昇降を実現することができる。
【0026】
巻取りドラム13・14に巻き付けたロープ3のうち、3本(3A〜3C)は図示左方(車両1の前方部分)に延びていて、残りの4本(3D〜3G)は図示右方(車両1の後方部分)に延びている。巻取りドラム13・14は支持台板16上に一体的に取り付けているため、各ロープ3から作用する張力は巻上げ機2において打ち消し合うことになる。そのため、巻上げ機2を設置する際、支持台板16の固定に必要な強度が小さくてすむことになる。
【0027】
つづく図4には、別の実施形態としての車両持ち上げ装置を示している。すなわち、1編成の鉄道車両1を載せたレールおよびそれを有する昇降フレーム6を、車両1の全長にわたって直線状に保ちながら傾斜角度を変更して昇降させる形式の装置である。ピン支持部分6aによって支持されたフレーム6について、地上に立設した複数の支持柱4の位置を複数の昇降駆動点とし、各昇降駆動点に連結したロープ3のそれぞれによって、レールおよび車両1とともにフレーム6を昇降させる。図4(a)の状態で車両1をフレーム6上に進入させ、同(b)のように車両1とともに上昇させたフレーム6の下に別の車両を進入させることとして、上下2段の立体車庫とする。
【0028】
この例でも、各昇降駆動点に連結した各ロープ3の速度は同一でなく、適切な比率にされる必要があることから、図1・図2に準じた構成を有する巻上げ機2に各ロープ3を接続する。つまり、各昇降駆動点の昇降所要量(および昇降所要速度)に比例させて各直径を形成した直径部分を巻取りドラム上に複数形成し、昇降所要量と直径とが対応するように各ロープ3を各直径部分に巻き付ける。巻取りドラムは、一体とするか、または複数設けるとしても歯車減速機等の同期伝動手段で連結して同期回転させるのがよい。そうすると、特別な制御を行わなくとも、任意の速度で巻取りドラムを回転させることにより、フレーム6や車両1を直線に保ちながら適切に昇降させることができる。
【0029】
図5の持ち上げ装置はさらに別の実施形態に関するもので、車両1の全長の約半分を載せるフレーム6のみを、ピン支持部分(ヒンジ)6aを中心に傾斜角度を変更しながら昇降させる(車両1の残りの部分は昇降させない)立体車庫である。フレーム6の下にフレーム8を連結しておき、フレーム6を昇降させるときフレーム8も、ヒンジ8aを中心に傾斜角度を変えながら昇降するようにしている。図5(a)のようにフレーム6・8を下げたときは、フレーム6の端部が地上高さになって車両1Aがフレーム6を経由して進入可能となり、同(b)のようにフレーム6・8を上げたときは、下段のフレーム8を経由して車両1Bが進入できる。フレーム6につづく上段のフレーム6S(昇降しない)を、図のように鉄道車両1の全高の半分程度の高さに設けると、上昇時および下降時のフレーム6・8の傾斜を緩くすることができる。
【0030】
この図5の例でも、各支持柱4の位置に設けるフレーム6(およびフレーム8)の各昇降駆動点の速度は適切な比率にされる必要があるため、図1・図2に準じた構成の巻上げ機を使用する。つまり、各昇降駆動点の昇降所要量(および昇降所要速度)に比例させて各直径を形成した直径部分を巻取りドラム上に複数形成し、各昇降駆動点でフレーム6に接続したロープのそれぞれを、昇降所要量と直径とが対応するように各直径部分に巻き付ける。巻取りドラムは一体とするか、または複数設けるとしても歯車減速機等の同期伝動手段で連結して同期回転させるのがよい。そうすることにより、特別な制御を行わなくとも、フレーム6やその上にある車両1Aの一部を直線に保ちながら適切に昇降させることができる。
【0031】
以上、発明による車両持ち上げ装置を例示したが、発明の実施はこれらに限るものではない。鉄道車両(または同様に長寸法の物)を持ち上げるにあたり、各昇降駆動点の昇降速度を均一でなく特定比率に配分せねばならない場合等に、図1・図2に例示した巻上げ機2、つまり適切に直径を定めた直径部分を巻取りドラム上に複数有するものを、持ち上げ装置のうちに適切に使用することにより、好ましい昇降を実現することができる。
【符号の説明】
【0032】
1(1A・1B) 車両
2 巻上げ機
3(3A〜3G) ロープ
4 支持柱
4A〜4G 昇降駆動点
6・7 昇降フレーム
13・14 巻取りドラム
DA〜DD 直径部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両を昇降させるため、当該車両またはそれを載せるレールに対し昇降駆動点が複数設けられ、各昇降駆動点に吊上げ用のロープが連結された車両持ち上げ装置であって、
上記ロープのそれぞれが、各昇降駆動点での昇降所要量に比例した直径をもつ直径部分を複数有する巻取りドラムの各該当直径部分に巻き付けられていることを特徴とする車両持ち上げ装置。
【請求項2】
上記巻取りドラムの各直径部分が、一体の巻取りドラム上、または同期伝動手段で連結された複数の巻取りドラム上に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両持ち上げ装置。
【請求項3】
鉄道車両における一部の昇降駆動点に連結されたロープと、当該車両における他の昇降駆動点に連結されたロープとが、上記巻取りドラムに対し逆の向きから接続されて巻き付けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両持ち上げ装置。
【請求項4】
上記の昇降を、1編成中の全数または一部の鉄道車両を載せたレールを直線状に保ちながら、その傾斜角度を変更することにより行うよう構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両持ち上げ装置。
【請求項5】
レールの長さ方向の中ほどをヒンジで連結し、上記の昇降を、1編成のうち上記ヒンジの一側にある一部車両を載せたレールについては傾斜角度を変更しながら行い、残りの車両を載せたレールについては傾斜角度を変更せずに行うよう構成されていることを特徴とする請求項4に記載の車両持ち上げ装置。
【請求項6】
一体の巻取りドラム、または同期伝動手段で連結された複数の巻取りドラムに、合計で複数本の吊上げ用のロープが巻き付けられていて、
巻取りドラムにおける各ロープの巻き付け部分の直径が、各ロープの昇降所要量に比例して定められていることを特徴とする巻上げ機。
【請求項7】
複数本のうち一部のロープと残りのロープとが、巻取りドラムから逆向きに延びていることを特徴とする請求項6に記載の巻上げ機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−235261(P2010−235261A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85181(P2009−85181)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)