説明

車両挙動制御装置および車両挙動制御方法

【課題】車両の走行状態に応じた挙動制御をより適切に行うこと。
【解決手段】車速を取得する車速取得手段と、車体の上下挙動を取得する上下挙動取得手
段と、前記上下挙動取得手段が取得した車体の上下挙動の最大値を取得する上下挙動最大
値取得手段と、前記上下挙動最大値取得手段が取得した上下挙動の最大値と、前記車速取
得手段が取得した車速とに基づいて、制動力の上限を示す上限指令値を設定する上限指令
値設定手段と、前記上下挙動最大値取得手段が取得した上下挙動の最大値と、前記上限指
令値設定手段が設定した前記上限指令値とに基づいて、制動力の指令値を設定する制動力
指令値設定手段と、前記制動力指令値設定手段が設定した制動力の指令値に基づいて、車
輪に対する制動力を付与する制動手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の挙動を制御する車両挙動制御装置および車両挙動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の挙動を制御する技術として、サスペンション装置におけるショックアブソ
ーバの減衰力を制御するものがある。
例えば、特許文献1に記載の技術では、車両に作用する横力によってショックアブソー
バに生じる摩擦力を算出している。そして、バネ上部材とバネ下部材との相対運動を抑制
するために必要な目標要求減衰力から、算出した摩擦力を減じ、ショックアブソーバが発
生すべき目標発生減衰力を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−137796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、横力によって生じるショックアブソーバの摩擦力に応じて減衰力の制御
を行うのみでは、車両の上下挙動を十分に減衰させることができず、車両の走行状態に応
じた挙動制御を行えない可能性がある。
即ち、従来の技術においては、車両の走行状態に応じた適切な挙動制御を行うことが困
難であった。
本発明の課題は、車両の走行状態に応じた挙動制御をより適切に行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、本発明に係る車両挙動制御装置は、上限指令値設定手段が
、車体上下挙動の最大値と車速とに基づいて、制動力の上限を示す上限指令値を設定し、
制動力指令値設定手段が、車体上下挙動の最大値と上限指令値とに基づいて、制動力の指
令値を設定して、車輪に対する制動力を付与する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車両の走行状態に応じた制動力を付与することにより、各車輪のサス
ペンション装置におけるフリクションを変化させて上下挙動を制御することができる。
したがって、車両の走行状態に応じた挙動制御をより適切に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明を適用した車両挙動制御装置1Aを備える自動車1の概略構成図である。
【図2】車両挙動制御装置1Aの機能構成を示す図である。
【図3】ブレーキアクチュエータ60の構成を示すブロック図である。
【図4】コントローラ50の機能構成を示すブロック図である。
【図5】最大指令値算出部57の機能構成を示すブロック図である。
【図6】指令値生成部58の機能構成を示すブロック図である。
【図7】コントローラ50が実行する車両挙動制御処理を示すフローチャートである。
【図8】車両の走行状態と制御内容との関係を示す図である。
【図9】路面から単発の振動が入力した場合の(a)上下挙動および(b)制動力指令値の波形を示す図である。
【図10】路面から連続的な振動が入力した場合に、最大指令値Fmaxを更新する状態を示す図である。
【図11】路面から連続的な振動が入力した場合の(a)上下挙動および(b)制動力指令値の波形を示す図である。
【図12】上下挙動に対する補正を行った場合の最大指令値Fmaxを示す図である。
【図13】車速に対する補正を行った場合の最大指令値Fmaxを示す図である。
【図14】目標フリクションと目標制動力との対応表の他の例を示す図である。
【図15】コントローラ50が実行する車両挙動制御処理を示すフローチャートである。
【図16】路面から連続的な振動が入力した場合の(a)上下挙動および(b)制動力指令値の波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明に係る車両挙動制御装置および車両挙動制御方法の実施形態について図面
を参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
(全体構成)
図1は、本発明を適用した車両挙動制御装置1Aを備える自動車1の概略構成図である
。また、図2は、車両挙動制御装置1Aの機能構成を示す図である。
【0009】
図1および図2において、自動車1は、上下Gセンサ10と、車輪速センサ20FR,
20FL,20RR,20RLと、ブレーキペダル30と、マスタシリンダ40と、コン
トローラ50と、ブレーキアクチュエータ60と、ホイールシリンダ70FR,70FL
,70RR,70RLと、車輪80FR,80FL,80RR,80RLと、サスペンシ
ョン装置90FR,90FL,90RR,90RLと、車体100とを備えている。
【0010】
これらのうち、上下Gセンサ10、車輪速センサ20FR,20FL,20RR,20
RL、コントローラ50、ブレーキアクチュエータ60が車両挙動制御装置1Aを構成し
ている。
上下Gセンサ10は、車体100の上下方向の加速度を検出し、検出した加速度を示す
信号をコントローラ50に出力する。
車輪速センサ20FR,20FL,20RR,20RLは、車輪80FR,80FL,
80RR,80RLの回転速度を検出し、検出した回転速度を示す信号をコントローラ5
0に出力する。
【0011】
ブレーキペダル30は、運転者が制動操作を行うペダルであり、運転者のペダル踏力を
マスタシリンダ40に伝達する。
マスタシリンダ40は、運転者のペダル踏力に応じて2系統の液圧を作るタンデム式の
ものである。そして、マスタシリンダ40は、プライマリ側を左前輪・右後輪のホイール
シリンダ70FL・70RRに伝達し、セカンダリ側を右前輪・左後輪のホイールシリン
ダ70FR・70RLに伝達するダイアゴナルスプリット方式を採用している。
【0012】
コントローラ50は、自動車1全体を制御するもので、CPU(Central Processing U
nit)、RAM(Random Access Memory),ROM(Read Only Memory)等を備えたマイ
クロコンピュータで構成されている。そして、コントローラ50は、入力される各種信号
に基づいて、後述する車両挙動制御処理を実行し、ブレーキアクチュエータ60を制御す
るための指示信号を出力する。これにより、コントローラ50は、サスペンション装置9
0FR,90FL,90RR,90RLの摩擦力を変化させて車両の上下挙動を制御する

【0013】
ブレーキアクチュエータ60は、マスタシリンダ40と各ホイールシリンダ70FR,
70FL,70RR,70RLとの間に介装した液圧制御装置である。ブレーキアクチュ
エータ60は、コントローラ50からの指示信号に応じて、ホイールシリンダ70FR,
70FL,70RR,70RLの油圧を変化させることにより、各車輪80FR,80F
L,80RR,80RLに制動力を付与する。これにより、サスペンション装置90FR
,90FL,90RR,90RLの摩擦力が変化し、車両の上下挙動を制御することがで
きる。
【0014】
ホイールシリンダ70FR,70FL,70RR,70RLは、ディスクブレーキを構
成するブレーキパッドを、車輪80FR,80FL,80RR,80RLと一体に回転す
るディスクロータに押し付けるための押圧力を発生する。
サスペンション装置90FR,90FL,90RR,90RLは、各車輪80FR,8
0FL,80RR,80RLと車体100との間に設置した懸架装置である。サスペンシ
ョン装置90FR,90FL,90RR,90RLは、車体100と各車輪側の部材とを
連結するリンク部材と、各車輪と車体100との相対運動を緩衝させるバネと、各車輪と
車体100との相対運動を減衰させるショックアブソーバとを有している。
【0015】
サスペンション装置90FR,90FL,90RR,90RLがバウンド側に変位する
と、各車輪の中心は車体100に対して上下方向の変位および前後方向の変位を生じる。
このとき、各車輪中心の車体前後方向における変位を吸収するために、各車輪は回転す
ることとなる。
そのため、各車輪の回転を制動力によって妨げると、これによりサスペンション装置9
0FR,90FL,90RR,90RLに拗れが生じ、摩擦力が変化する。
本発明においては、この摩擦力の変化を利用して、サスペンション装置の動作を変化さ
せ、車両の上下挙動を制御するものである。
【0016】
(ブレーキアクチュエータの構成)
次に、ブレーキアクチュエータ60の構成について説明する。
図3は、ブレーキアクチュエータ60の構成を示すブロック図である。
ブレーキアクチュエータ60は、アンチスキッド制御(ABS)、トラクション制御(
TCS)、スタビリティ制御(VDC:Vehicle Dynamics Control)等に用いられる制動
流体圧制御回路を利用したものであり、運転者のブレーキ操作に係らず各ホイールシリン
ダ70FR,70FL,70RR,70RLの液圧を増圧・保持・減圧できるように構成
されている。
【0017】
プライマリ側は、マスタシリンダ40およびホイールシリンダ70FL(70RR)間
の流路を閉鎖可能なノーマルオープン型の第1ゲートバルブ62Aと、第1ゲートバルブ
62Aおよびホイールシリンダ70FL(70RR)間の流路を閉鎖可能なノーマルオー
プン型のインレットバルブ63FL(63RR)と、ホイールシリンダ70FL(70R
R)およびインレットバルブ63FL(63RR)間に連通したアキュムレータ64と、
ホイールシリンダ70FL(70RR)およびアキュムレータ64間の流路を開放可能な
ノーマルクローズ型のアウトレットバルブ65FL(65RR)と、マスタシリンダ40
および第1ゲートバルブ62A間とアキュムレータ64およびアウトレットバルブ65F
L(65RR)間とを連通した流路を開放可能なノーマルクローズ型の第2ゲートバルブ
66Aと、アキュムレータ64およびアウトレットバルブ65FL(65RR)間に吸入
側を連通し、且つ第1ゲートバルブ62Aおよびインレットバルブ63FL(63RR)
間に吐出側を連通したポンプ67と、を備えている。また、ポンプ67の吐出側には、吐
出されたブレーキ液の脈動を抑制し、ペダル振動を弱めるダンパー室68が配設されてい
る。
【0018】
また、セカンダリ側も、プライマリ側と同様に、第1ゲートバルブ62Bと、インレッ
トバルブ63FR(63RL)と、アキュムレータ64と、アウトレットバルブ65FR
(65RL)と、第2ゲートバルブ66Bと、ポンプ67と、ダンパー室68と、を備え
ている。
【0019】
第1ゲートバルブ62A・62Bと、インレットバルブ63FL〜63RRと、アウト
レットバルブ65FL〜65RRと、第2ゲートバルブ66A・66Bとは、それぞれ、
2ポート2ポジション切換・シングルソレノイド・スプリングオフセット式の電磁操作弁
であって、第1ゲートバルブ62A・62Bおよびインレットバルブ63FL〜63RR
は、非励磁のノーマル位置で流路を開放し、アウトレットバルブ65FL〜65RRおよ
び第2ゲートバルブ66A・66Bは、非励磁のノーマル位置で流路を閉鎖するように構
成されている。
【0020】
また、アキュムレータ64は、シリンダのピストンに圧縮バネを対向させたバネ形のア
キュムレータで構成されている。
また、ポンプ67は、負荷圧力に係りなく略一定の吐出量を確保できる歯車ポンプ、ピ
ストンポンプ等、容積形のポンプで構成されている。
以上の構成により、プライマリ側を例に説明すると、第1ゲートバルブ62A、インレ
ットバルブ63FL(63RR)、アウトレットバルブ65FL(65RR)、および第
2ゲートバルブ66Aが全て非励磁のノーマル位置にあるときに、マスタシリンダ40か
らの液圧がそのままホイールシリンダ70FL(70RR)に伝達され、通常ブレーキと
なる。
【0021】
また、ブレーキペダルが非操作状態であっても、インレットバルブ63FL(63RR
)、およびアウトレットバルブ65FL(65RR)を非励磁のノーマル位置にしたまま
、第1ゲートバルブ62Aを励磁して閉鎖すると共に、第2ゲートバルブ66Aを励磁し
て開放し、更にポンプ67を駆動することで、マスタシリンダ40の液を第2ゲートバル
ブ66Aを介して吸入し、吐出される液圧をインレットバルブ63FL(63RR)を介
してホイールシリンダ70FL(70RR)に伝達し、増圧させることができる。
【0022】
また、第1ゲートバルブ62A、アウトレットバルブ65FL(65RR)、および第
2ゲートバルブ66Aが非励磁のノーマル位置にあるときに、インレットバルブ63FL
(63RR)を励磁して閉鎖すると、ホイールシリンダ70FL(70RR)からマスタ
シリンダ40およびアキュムレータ64へのそれぞれの流路が遮断され、ホイールシリン
ダ70FL(70RR)の液圧が保持される。
【0023】
さらに、第1ゲートバルブ62Aおよび第2ゲートバルブ66Aが非励磁のノーマル位
置にあるときに、インレットバルブ63FL(63RR)を励磁して閉鎖すると共に、ア
ウトレットバルブ65FL(65RR)を励磁して開放すると、ホイールシリンダ70F
L(70RR)の液圧がアキュムレータ64に流入して減圧される。アキュムレータ64
に流入した液圧は、ポンプ67によって吸入され、マスタシリンダ40に戻される。
【0024】
セカンダリ側に関しても、通常ブレーキ・増圧・保持・減圧の動作は、上記プライマリ
側の動作と同様であるため、その詳細説明は省略する。
したがって、コントローラ50は、第1ゲートバルブ62A・62Bと、インレットバ
ルブ63FL〜63RRと、アウトレットバルブ65FL〜65RRと、第2ゲートバル
ブ66A・66Bと、ポンプ67とを駆動制御することによって、各ホイールシリンダ7
0FL〜70RRの液圧を増圧・保持・減圧することができる。
【0025】
(コントローラ50の機能構成)
次に、コントローラ50が車両挙動制御処理を行うために有している機能構成について
説明する。
図4は、コントローラ50の機能構成を示すブロック図である。
図4において、コントローラ50は、バンドパスフィルタ部51と、絶対値取得部52
と、上下挙動制御閾値記憶部53と、比較部54と、制御介入判定部55と、上下挙動最
大値記憶部56と、最大指令値算出部57と、指令値生成部58とを備えている。
【0026】
バンドパスフィルタ部51は、上下Gセンサ10から入力した上下挙動の検出値(上下
方向の加速度)から、設定した制御帯域内の値を抽出し、抽出した上下挙動の検出値(以
下、単に「上下挙動」と称する。)を絶対値取得部52に出力する。なお、ここでは上下
Gセンサ10によって車体100の上下挙動を取得する場合を例に挙げて説明するが、上
下挙動として、サスペンションストロークや車輪速等から推定した値を用いることも可能
である。
【0027】
絶対値取得部52は、バンドパスフィルタ部51から入力した上下挙動における絶対値
を取得する。即ち、絶対値取得部52は、上方向および下方向に変化するベクトル値から
なる上下挙動をスカラー値に直し、絶対値として取得する。
上下挙動制御閾値記憶部53は、コントローラ50によって車両挙動制御処理に基づく
制御介入を行うか否かについて定めた上下挙動の制御閾値を記憶している。
【0028】
比較部54は、絶対値取得部52が取得した上下挙動の絶対値と、上下挙動制御閾値記
憶部53が記憶している上下挙動の制御閾値とを比較し、比較結果を制御介入判定部55
に出力する。
制御介入判定部55は、比較部54から入力する比較結果に応じて、車両挙動制御処理
に基づく制御介入を行うか否かを判定する。具体的には、制御介入判定部55は、比較部
54から入力する比較結果が、取得した上下挙動の絶対値が記憶している上下挙動の制御
閾値以上となっている場合に、車両挙動制御処理に基づく制御介入を行うものと判定する
。このとき、制御介入判定部55は、比較部54から入力する比較結果が、取得した上下
挙動の絶対値が記憶している上下挙動の制御閾値以上となる度に、車両挙動制御処理に基
づく制御介入を行い、後述する上下挙動最大値記憶部56に記憶する上下挙動の最大値を
更新する。
【0029】
上下挙動最大値記憶部56は、絶対値取得部52によって取得した上下挙動の絶対値が
、上下挙動の制御閾値以上となった後の最大値を記憶する。また、上下挙動最大値記憶部
56は、制御介入判定部55が制御介入を行うものと判定した場合、記憶している最大値
を更新する。
最大指令値算出部57は、車輪速センサ20FR,20FL,20RR,20RLから
入力する車輪の回転速度を示す信号と、上下挙動最大値記憶部56が記憶している上下挙
動の最大値と、制御介入判定部55から入力する判定結果とを基に、各車輪について制動
力の最大指令値(制動力の上限値を示す指令値)を算出する。
【0030】
図5は、最大指令値算出部57の機能構成を示すブロック図である。
図5に示すように、最大指令値算出部57は、実車実験により定めた、上下挙動の最大
値に対するゲイン(上下挙動ゲイン)の対応表(0以上1以下)と、車速(ここでは車輪
の回転速度)に対するゲイン(車速ゲイン)の対応表(0以上1以下)とを記憶している
。そして、最大指令値算出部57は、これらの対応表を基に、上下挙動の最大値および車
速それぞれから、上下挙動ゲインおよび車速ゲインを算出する。さらに、最大指令値算出
部57は、上下挙動ゲインと車速ゲインとを乗算する。また、最大指令値算出部57は、
その乗算結果に、実車実験により定めた、いかなる車両状態においても超えると違和感を
与えるとみなせる制動力の大きさを示す指令値(限界指令値)を乗じ、最大指令値(Fmax
)を算出する。
【0031】
ここで、ブレーキの液圧を上げると車体100を制振させるエネルギーが増え制御効果
が上がる一方、過度にブレーキの液圧を上げれば運転者に減速感を与える。
また、その減速感は車両の状態によって変化する。車両挙動の制御効果を高めつつ、運
転者に減速感を与えないため、本実施形態においては、車両の状態に応じて最大指令値を
算出する。
【0032】
具体的には、本実施形態では、上下挙動の入力が大きいほど、車両の動きが複合されて
運転者が減速感を受けにくくなるため、制動力の最大指令値を上下挙動の入力が大きいほ
ど増加させる。
上述の通り、制御介入の判定に使用する上下挙動は、上下挙動の制御閾値を超えた後の
最大値とする。なお、制御閾値を一旦下回った後、制御閾値を再度上回った時は、上下挙
動の最大値を更新し、最大指令値Fmaxを更新する。
【0033】
即ち、車速が大きいほど車両の持っている運動エネルギーが大きく、ブレーキによるエ
ネルギー損出の割合が小さくなり、減速感を受けにくくなるため、車速に応じて制動力の
最大指令値を増加させる。制御介入の判定に使用する車速は、上下挙動が制御閾値を上回
る時の車速、または制御閾値を超えた後の最大値とする。
指令値生成部58は、最大指令値算出部57から入力する最大指令値と、上下挙動最大
値記憶部56が記憶している上下挙動の最大値とを基に、車両挙動制御処理に基づく制動
力の指令値を算出する。
【0034】
図6は、指令値生成部58の機能構成を示すブロック図である。
図6に示すように、指令値生成部58は、実車実験(若しくは運動方程式)によって求
めた、車両に生じた上下挙動の大きさと、車両が設定した挙動以下に減衰するまでの時間
(収束時間)との対応表と、実車実験で求めた、車両に生じた上下挙動の大きさと、その
車両挙動を抑えるために必要なフリクション(目標フリクション)との対応表と、目標フ
リクションと実車実験で求めた制動力(目標制動力)との対応表とを記憶している。そし
て、指令値生成部58は、入力した上下挙動の最大値から、上下挙動の大きさと収束時間
との対応表を基に収束時間を算出する。また、指令値生成部58は、入力した上下挙動の
最大値から、入力した上下挙動の大きさと目標フリクションとの対応表を基に目標フリク
ションを算出する。さらに、指令値生成部58は、算出した目標フリクションから、目標
フリクションと目標制動力との対応表を基に目標制動力を算出する。そして、指令値生成
部58は、最大指令値算出部57から入力する最大指令値と、算出した収束時間および目
標制動力とを基に、制御開始から制御終了までの制動力の指令値の波形を設定して、制動
力の指令値を生成する。
【0035】
即ち、指令値生成部58は、図6の指令値の波形に示すように、算出した収束時間T0
を設定し、制御開始から、設定した勾配を持って最大指令値まで制動力を立ち上げて制動
力を保持する。そして、指令値生成部58は、制御開始時に目標制動力F0、収束時間T
0に制動力をゼロとする一定勾配の仮想直線が最大指令値と交差する時点から、仮想直線
に沿って制動力指令値を生成する。
【0036】
つまり、本実施形態においては、制御介入の判定を行った場合、最大指令値算出部56
で算出した最大指令値まで制動力の指令値を変化させる。制御介入中は車体100の上下
挙動を取得し、その後の上下挙動の変化(減衰振動)の推定結果から、車体100の挙動
が十分に減衰するまでの時間T0を取得する。なお、上下挙動の変化は、リアルタイムに
減衰振動を算出して推定したり、減衰振動を予め想定した結果を用いて推定したりするこ
とができる。さらに、制御介入からの経過時間に応じて、その推定結果に対応する制動力
の指令値を出力する。また、制御中に入力値が閾値を再度超えた場合は、最大指令値の算
出および車両挙動の推定を再度行い、新たに制動力の指令値を算出する。
【0037】
(車両挙動制御処理)
次に、図4に示す機能構成を実現するために、コントローラ50が実行する車両挙動制
御処理について説明する。
図7は、コントローラ50が実行する車両挙動制御処理を示すフローチャートである。
コントローラ50は、イグニションオンと共に車両挙動制御処理を起動し、イグニショ
ンオフとなるまで繰り返し実行する。
【0038】
図7において、車両挙動制御処理を開始すると、コントローラ50は、車両の上下挙動
および車速を取得する(ステップS1)。
次に、コントローラ50は、取得した車両の上下挙動が制御閾値以上であるか否かの判
定を行い(ステップS2)、車両の上下挙動が制御閾値以上でないと判定した場合、ステ
ップS1の処理を繰り返す。
【0039】
一方、ステップS2において、車両の上下挙動が制御閾値以上であると判定した場合、
コントローラ50は、設定した期間内における上下挙動(絶対値)の最大値を取得し、上
下挙動最大値記憶部56に記憶する(ステップS3)。このように、車両の上下挙動に関
する制御閾値を設定することで、挙動制御が必要な大きさの上下挙動に対してのみ制御を
行うことができ、制御がハンチングすることを抑制できる。
【0040】
次いで、コントローラ50は、上下挙動の最大値を更新したか否か(即ち、新たに上下
挙動最大値記憶部56に値を記憶したか、あるいは、記憶している値を上回る値を取得し
たか否か)の判定を行う(ステップS4)。
ステップS4において、上下挙動の最大値を更新したと判定した場合、コントローラ5
0は、最大指令値算出部57によって制動力の最大指令値Fmaxを算出する(ステップS5
)。なお、ステップS4において、上下挙動の最大値を更新していないと判定した場合、
コントローラ50は、ステップS8の処理に移行する。
【0041】
そして、コントローラ50は、指令値生成部58によって、上下挙動の最大値から収束
時間T0を算出し(ステップS6)、さらに、上下挙動の最大値から目標制動力F0を算
出する(ステップS7)。
次に、コントローラ50は、指令値生成部58によって、収束時間T0と、目標制動力
F0と、最大指令値Fmaxとを基に、制動力の指令値の波形(図6参照)を設定する(ステ
ップS8)。
【0042】
続いて、コントローラ50は、上下挙動が制御閾値を超えた時点からの経過時間に応じ
て、制動力の指令値の波形を参照して制動力の指令値をブレーキアクチュエータ60に出
力する(ステップS9)。このとき、コントローラ50は、ステップS112において設
定した制動力の指令値に対し、車速に応じた補正(例えば、車速が大きいほど指令値を減
じる補正等)を加えることが可能である。
そして、コントローラ50は、制動力の指令値がゼロであるか否か(即ち、収束時間T
0が経過したか否か)の判定を行い(ステップS10)、制動力の指令値がゼロでないと
判定した場合(即ち、収束時間T0が経過していないと判定した場合)、上下挙動を取得
する(ステップS11)。
【0043】
次いで、コントローラ50は、上下挙動が制御閾値以上であるか否かの判定を行い(ス
テップS12)、上下挙動が制御閾値以上でないと判定した場合、ステップS9の処理に
移行し、上下挙動が制御閾値以上であると判定した場合、ステップS3の処理に移行する

また、ステップS10において、制動力の指令値がゼロであると判定した場合(即ち、
収束時間T0が経過したと判定した場合)、コントローラ50は、上下挙動最大値記憶部
56に記憶している最大値を消去し(ステップS13)、ステップS1の処理に移行する

【0044】
(走行状態と制御内容との関係)
上記構成により、本実施形態における自動車1は、種々の走行状態に応じた制動力の付
与を行い、上下挙動を制御する。
図8は、車両の走行状態と制御内容との関係を示す図である。
【0045】
なお、図8における「×」は制御を行わないことを示し、「−」は値がないことを示し
ている。また、図8において、路面から入力する振動の周波数については、バネ上共振周
波数付近を中周波域、バネ上共振周波数付近以下を低周波域、バネ上共振周波数付近から
バネ下共振周波数を高周波域として示している。
【0046】
図8に示すように、自動車1は、上下挙動の大きさ(小、中、大程度)、路面からの入
力状態(単発であるか連続であるか)、車速(低速域、中速域、高速域)、および、入力
する振動の周波数(低周波域、中周波域、高周波域)に応じて、付与する制動力および制
御時間を変化させる。
具体的には、自動車1は、上下挙動の大きさが制御閾値未満(小程度)の場合、車両挙
動制御処理による制動力の付与を行わない。
【0047】
一方、上下挙動の大きさが制御閾値以上の一定範囲(中程度)の場合、単発および連続
的な路面からの振動入力のいずれにおいても、車速が中速域で入力する振動周波数が中周
波域であるときに、小程度の制動力を短時間付与する。また、車速が高速域で入力する振
動周波数が中周波域であるときに、中程度の制動力を中程度の時間付与する。なお、車速
が低速域および高速域である場合、および、車速が中速域で、入力する振動周波数が低周
波域および高周波域の場合には、車両挙動制御処理による制動力の付与を行わない。
【0048】
また、上下挙動の大きさが制御閾値を一定以上超える範囲(大程度)の場合、単発およ
び連続的な路面からの振動入力のいずれにおいても、車速が中速域で入力する振動周波数
が中周波域であるときに、大程度の制動力を長時間付与する。また、車速が高速域で入力
する振動周波数が中周波域であるときに、最大の制動力を最長時間付与する。さらに、車
速が高速域で入力する振動周波数が高周波域であるときに、小程度の制動力を短時間付与
する。
これにより、車速や路面から入力する振動周波数を含む車両の走行状態に応じて、運転
者に減速感を与えることを抑制しながら、上下挙動を制御することが可能となる。
【0049】
(動作)
次に、動作を説明する。
本発明に係る車両挙動制御装置1Aを備えた自動車1は、走行中に路面からの振動が入
力すると、車両挙動制御処理によって各車輪に制動力を与え、車体100の上下挙動を制
御する。
以下、路面から単発の振動が入力した場合と、路面から連続的な振動が入力した場合と
の制御パターン例について説明する。
【0050】
(単発の振動が入力した場合)
図9は、路面から単発の振動が入力した場合の(a)上下挙動および(b)制動力指令
値の波形を示す図である。なお、図9(a)において、実線は車両挙動(上下挙動)、2
点鎖線は車両挙動の推定値、破線は制御閾値を示している。
図9に示すように、路面からの振動によって上下挙動が制御閾値以上となると、コント
ローラ50が上下挙動の最大値を記憶すると共に、車両挙動の推定を行う。
【0051】
車両挙動の推定方法としては、例えば、上下挙動の最大加速度値から車体質量・バネ定
数・減衰係数を基に定義した運動方程式(式(1)参照)を解くことにより随時算出する
方法を用いることができる。また、他の方法として、計算負荷低減のため、上下挙動の最
大加速度値の検出時に、その時点から十分に減衰するまでの時間T0だけを求め、線形的
に繋ぐ方法を用いることができる。
【数1】

【0052】
ただし、上記運動方程式は、1輪2自由度モデルに基づくものである。
そして、コントローラ50は、収束時間T0、目標制動力F0および最大指令値Fmaxを
基に制動力の指令値の波形を設定する。
以後、コントローラ50は、制御介入からの経過時間に応じて、設定した制動力の指令
値の波形に対応する制動力の指令値をブレーキアクチュエータ60に出力し、ブレーキア
クチュエータ60が各車輪に指令値に応じた制動力を付与する。
これにより、各車輪のサスペンション装置において、サスペンション装置のフリクショ
ンを変化させて上下挙動を制御することが可能となる。
【0053】
(連続的な振動が入力した場合)
以下、例として、2回の振動が連続して入力した場合について説明する。ただし、3回
以上の振動が連続して入力した場合も、新たな振動の入力に対して、以下に説明する2回
目の振動入力時と同様の動作によって上下挙動の制御を行う。
【0054】
まず、最大指令値Fmaxの更新について説明する。
図10は、路面から連続的な振動が入力した場合に、最大指令値Fmaxを更新する状態を
示す図である。
図10に示すように、コントローラ50は、1回目の振動入力において、取得した上下
挙動の最大値に対する最大指令値Fmaxを算出する。
【0055】
そして、2回目の振動入力において、上下挙動が制御閾値を超えた場合、その上下挙動
が1回目の振動入力において取得した上下挙動の最大値以下であれば、コントローラ50
は、その最大値を保持する。この場合、コントローラ50は、最大指令値Fmaxも1回目の
振動入力時に算出した値を保持する。
さらに、2回目の振動入力において取得した上下挙動が、1回目に取得した上下挙動の
最大値を超えると、コントローラ50は、上下挙動の最大値を更新し、その最大値に対応
する最大指令値Fmaxを新たに算出する。
【0056】
なお、図10において、1点鎖線で示すように、上下挙動が制御閾値を下回っている場
合、最大指令値を漸減させることが可能である。この場合、車体100の減衰振動に合わ
せて制動力の上限値を減少させることができ、運転者に減速感をより与えにくくすること
ができる。
【0057】
次に、制動力の制御について説明する。
図11は、路面から連続的な振動が入力した場合の(a)上下挙動および(b)制動力
指令値の波形を示す図である。なお、図11(a)において、実線は車両挙動(上下挙動
)、2点鎖線は車両挙動の推定値、破線は制御閾値を示している。
図11に示すように、路面からの振動によって上下挙動が制御閾値以上となると、コン
トローラ50が上下挙動の最大値を記憶すると共に、車両挙動の推定を行う。
【0058】
そして、コントローラ50は、収束時間T0、目標制動力F0および最大指令値Fmaxを
基に制動力の指令値の波形を設定する。
この後、コントローラ50は、制御介入からの経過時間に応じて、設定した制動力の指
令値の波形に対応する制動力の指令値をブレーキアクチュエータ60に出力し、ブレーキ
アクチュエータ60が各車輪に指令値に応じた制動力を付与する。
【0059】
ここで、さらに路面から2回目の振動が入力すると、その振動によって上下挙動が制御
閾値以上となった時点で、コントローラ50は新たに制御介入を行う。
即ち、新たな入力に対して、コントローラ50が上下挙動の最大値を記憶すると共に、
車両挙動の推定を行う。
そして、コントローラ50は、新たに算出した収束時間T0、目標制動力F0および最
大指令値Fmaxを基に制動力の指令値の波形を設定する。
【0060】
この後、コントローラ50は、制御介入からの経過時間に応じて、設定した制動力の指
令値の波形に対応する制動力の指令値をブレーキアクチュエータ60に出力し、ブレーキ
アクチュエータ60が各車輪に指令値に応じた制動力を付与する。
これにより、路面から連続的な振動が入力した場合にも、各車輪のサスペンション装置
におけるフリクションを変化させ、入力した各振動に対応して上下挙動を制御することが
可能となる。
【0061】
以上のように、本実施形態に係る自動車1は、路面からの振動が入力した場合に、車両
の上下挙動が制御閾値以上となると、上下挙動の最大値を取得し、その最大値および車速
に基づく制動力の最大指令値を算出する。そして、自動車1は、上下挙動の最大値および
最大指令値に基づく制動力指令値の波形を設定し、制御介入からの経過時間に応じて、設
定した制動力の指令値の波形に対応する制動力を各車輪に付与する。
【0062】
そのため、車両の走行状態に応じた制動力を付与することにより、各車輪のサスペンシ
ョン装置におけるフリクションを変化させて上下挙動を制御することが可能となる。
したがって、本実施形態に係る自動車1によれば、車両の走行状態に応じた挙動制御を
より適切に行うことが可能となる。
また、本実施形態に係る自動車1は、路面から連続的な振動が入力した場合、上下挙動
が制御閾値以上となり、かつ、1回目の振動において取得した上下挙動の最大値を超えた
ときに、上下挙動の最大値を更新し、それに応じて最大指令値も更新する。そして、更新
後の最大指令値等を用いて、新たに制動力を付与する。
したがって、連続的な振動が入力した場合にも、車両の走行状態に応じた挙動制御をよ
り適切に行うことが可能となる。
【0063】
なお、本実施形態において、車輪速センサ20FR,20FL,20RR,20RLが
車速取得手段に対応し、上下Gセンサ10が上下挙動取得手段に対応する。また、上下挙
動最大値記憶部56が上下挙動最大値取得手段に対応し、最大指令値算出部57が上限指
令値設定手段に対応する。また、指令値生成部58が制動力指令値設定手段に対応し、ブ
レーキアクチュエータ60が制動手段に対応する。また、制御介入判定部55が制御介入
判定手段に対応する。また、指令値生成部58が収束時間推定手段、目標制動力設定手段
、制動力指令波形設定手段、目標フリクション設定手段および目標制動力決定手段に対応
する。
【0064】
(第1実施形態の効果)
(1)上限指令値設定手段が、車体上下挙動の最大値と車速とに基づいて、制動力の上限
を示す上限指令値を設定し、制動力指令値設定手段が、車体上下挙動の最大値と上限指令
値とに基づいて、制動力の指令値を設定して、車輪に対する制動力を付与する。
これにより、車両の走行状態に応じた制動力を付与することにより、各車輪のサスペン
ション装置におけるフリクションを変化させて上下挙動を制御することができる。
したがって、本発明によれば、車両の走行状態に応じた挙動制御をより適切に行うこと
が可能となる。
【0065】
(2)制御介入判定手段は、車体の上下挙動と制御介入の閾値とを比較し、車体の上下挙
動が制御介入の閾値以上となったときに、前記制動手段による制動力の付与を行わせる。
したがって、挙動制御が必要な大きさの上下挙動に対してのみ制御を行うことができ、
制御がハンチングすることを抑制できる。
【0066】
(3)収束時間推定手段が、車体上下挙動の最大値を基に、車両の上下挙動の収束時間を
推定し、目標制動力設定手段が、車体上下挙動の最大値を基に、目標制動力を設定し、制
動力指令波形設定手段が、収束時間と目標制動力と上限指令値とを基に、時間に対する制
動力の指令値の波形を設定する。
これにより、入力した振動の大きさに応じた制動力の特性を設定して、運転者に減速感
を与えることを抑制しつつ、適切に車両の上下挙動を制御することができる。
【0067】
(4)目標フリクション設定手段が、上下挙動の最大値を基に、サスペンション装置の目
標フリクションを設定し、目標制動力決定手段が、目標フリクションを基に、目標制動力
を決定する。
これにより、入力した上下挙動に対応するサスペンション装置のフリクションを反映さ
せて、適切な目標制動力を決定することができる。
【0068】
(5)路面からの入力により生じた車体の上下挙動に対し、該上下挙動の収束時間と目標
制動力とを設定し、目標制動力に従って制動を行うことにより、サスペンション装置のフ
リクションを変化させて、車体の上下挙動を制御する。
これにより、車両の走行状態に応じて、各車輪のサスペンション装置におけるフリクシ
ョンを変化させて上下挙動を制御することが可能となる。
したがって、本発明によれば、車両の走行状態に応じた挙動制御をより適切に行うこと
が可能となる。
【0069】
(応用例1)
第1実施形態において、上下挙動の最大値が比較的大きい領域(高入力領域)および比
較的小さい領域(低入力領域)で、最大指令値算出部57の出力を補正することが可能で
ある。
図12は、上下挙動に対する補正を行った場合の最大指令値Fmaxを示す図である。
図12に示すように、最大指令値Fmaxは、図中2点鎖線として示すように、上下挙動(
上下加速度)に比例した値を用いることが考えられる。しかしながら、上下挙動が比較的
小さい領域においては、ブレーキアクチュエータ60の低入力時の指令に対する実出力の
追従性が十分でない場合がある。
【0070】
そのため、それによって運転者に減速感を与えてしまうことを抑制するために、最大指
令値Fmaxを2点鎖線の値より低下させている。また、上下挙動が比較的大きい領域におい
ては、最大指令値Fmaxが比較的大きい値となることから、過度の車両挙動変化を抑制する
ために制限値を設けている。
これにより、上下挙動が比較的小さい領域から比較的大きい領域に渡って、運転者に違
和感を与えることを抑制しつつ、車両の上下挙動を制御することができる。
なお、本応用例において、上下挙動の比較的小さい領域および比較的大きい領域は、実
車実験によって官能評価を行うことにより決定する。
【0071】
(効果)
上限指令値設定手段が、上下挙動の最大値の低入力領域および高入力領域の少なくとも
いずれかにおいて、上限指令値を低下させる補正を行う。
これにより、上下挙動が比較的小さい領域から比較的大きい領域に渡って、運転者に違
和感を与えることを抑制しつつ、車両の上下挙動を制御することができる。
【0072】
(応用例2)
第1実施形態において、車速が比較的高い領域(高入力領域)および比較的低い領域(
低入力領域)で、最大指令値算出部57の出力を補正することが可能である。
図13は、車速に対する補正を行った場合の最大指令値Fmaxを示す図である。
図13に示すように、最大指令値Fmaxは、図中2点鎖線として示すように、車速に対し
て単調増加する値(例えば2次以上の関数に沿う値)を用いることが考えられる。しかし
ながら、低車速域においては、応用例1で述べた通り、ブレーキアクチュエータ60の低
入力時の指令に対する実出力の追従性が十分でない場合がある。
【0073】
そのため、制御介入前に車両が持っている運動エネルギーに対して、制動制御による運
動エネルギーの損失の割合が大きくなる可能性がある。
そこで、それによって運転者に減速感を与えてしまうことを抑制するために、低車速域
では、最大指令値Fmaxを単調増加する特性より低下させている。また、高車速域において
は、最大指令値Fmaxが比較的大きい値となることから、過度の車両挙動変化を抑制するた
めに制限を設けている。
【0074】
これにより、車速が比較的低い領域から比較的高い領域に渡って、運転者に違和感を与
えることを抑制しつつ、車両の上下挙動を制御することができる。
なお、本応用例において、車両の比較的低い領域および比較的高い領域は、実車実験に
よって官能評価を行うことにより決定する。
【0075】
(効果)
上限指令値設定手段が、車速の低入力領域および高入力領域の少なくともいずれかにお
いて、上限指令値を低下させる補正を行う。
これにより、車速が比較的低い領域から比較的高い領域に渡って、運転者に違和感を与
えることを抑制しつつ、車両の上下挙動を制御することができる。
【0076】
(応用例3)
指令値生成部58において制動力の指令値の波形を設定する際に、目標フリクションと
目標制動力との対応表として、下図14のような特性の対応表を用いることが可能である

図14は、目標フリクションと目標制動力との対応表の他の例を示す図である。
図14に示す対応表では、目標フリクションに対し、目標制動力が2次以上の関数に従
う特性を示している。
このような特性とすることにより、目標フリクションが飽和傾向にある高フリクション
領域においても、必要なフリクションを得るための目標制動力をより正確に算出すること
ができる。
【0077】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
(構成)
本実施形態に係る車両挙動制御装置1Aは、第1実施形態における図1〜3と同様の構
成を有している。
【0078】
一方、コントローラ50が実行する車両挙動制御処理において、制動力の制御を開始す
る閾値(固定閾値)および制動力の制御を終了する閾値(終了閾値)が設定してある点、
および、制動力の制御中に変動する変動閾値が設定してある点で異なっている。
したがって、以下、コントローラ50が実行する車両挙動制御処理について説明する。
図15は、コントローラ50が実行する車両挙動制御処理を示すフローチャートである

【0079】
コントローラ50は、イグニションオンと共に車両挙動制御処理を起動し、イグニショ
ンオフとなるまで繰り返し実行する。
図15において、車両挙動制御処理を開始すると、コントローラ50は、車両の上下挙
動および車速を取得する(ステップS101)。
次に、コントローラ50は、取得した車両の上下挙動が固定閾値以上であるか否かの判
定を行う(ステップS102)。ここで、固定閾値は、車両挙動制御処理による制動力制
御を実行していない場合に、車両の上下挙動が制御介入を行う状態となっているか否かを
判定するための閾値である。即ち、固定閾値は、第1実施形態におけるステップS2の制
御閾値と同様に定まるものである。
【0080】
ステップS102において、車両の上下挙動が固定閾値以上でないと判定した場合、コ
ントローラ50は、車両の上下挙動が終了閾値以上であるか否かの判定を行う(ステップ
S103)。ここで、終了閾値は、車両挙動制御処理における制動力制御を実行している
場合に、車両の上下挙動が制御から離脱する状態となっているか否かを判定するための閾
値であり、固定閾値より小さい値とする。
【0081】
ステップS103において、車両の上下挙動が終了閾値以上でないと判定した場合、コ
ントローラ50は、制動力の指令値を0に設定し(ステップS104)、車両挙動制御処
理を繰り返す。
一方、ステップS103において、車両の上下挙動が終了閾値以上であると判定した場
合、コントローラ50は、車両挙動制御処理による制動力の制御中であるか否かの判定を
行い(ステップS105)、車両挙動制御処理による制動力の制御中でないと判定した場
合、ステップS104の処理に移行する。
【0082】
ステップS105において、車両挙動制御処理による制動力の制御中であると判定した
場合、コントローラ50は、車両の上下挙動が変動閾値以上であるか否かの判定を行う(
ステップS106)。
ステップS106において、車両の上下挙動が変動閾値以上でないと判定した場合、コ
ントローラ50は、ステップS112の処理に移行する。
【0083】
一方、ステップS106において、車両の上下挙動が変動閾値以上であると判定した場
合、および、ステップS102において、車両の上下挙動が固定閾値以上であると判定し
た場合、コントローラ50は、設定した期間内における上下挙動(絶対値)の最大値を取
得し、上下挙動最大値記憶部56に記憶する(ステップS107)。
次に、上下挙動の最大値を更新したか否か(即ち、新たに上下挙動最大値記憶部56に
値を記憶したか、あるいは、記憶している値を上回る値を取得したか否か)の判定を行う
(ステップS108)。
【0084】
ステップS108において、上下挙動の最大値を更新したと判定した場合、コントロー
ラ50は、最大指令値算出部57によって制動力の最大指令値Fmaxを算出する(ステップ
S109)。なお、ステップS108において、上下挙動の最大値を更新していないと判
定した場合、コントローラ50は、ステップS112の処理に移行する。
次いで、コントローラ50は、指令値生成部58によって、上下挙動の最大値から収束
時間T0を算出し(ステップS110)、さらに、上下挙動の最大値から目標制動力F0
を算出する(ステップS111)。
【0085】
次に、コントローラ50は、指令値生成部58によって、収束時間T0と、目標制動力
F0と、最大指令値Fmaxとを基に、制動力の指令値の波形(図6参照)を設定する(ステ
ップS112)。このとき、コントローラ50は、制動力の指令値の波形を設定する基礎
とした上下挙動の推定波形(包絡線)を保持し、制動力の指令値に対応して時間と共に減
少する変動閾値を設定する。この場合、上下挙動の推定波形をそのまま変動閾値とするこ
とや、上下挙動の推定波形に対し、上下挙動の検出値のばらつきを考慮したオフセットゲ
インを乗じた値を変動閾値とすることができる。
【0086】
次に、コントローラ50は、上下挙動が制御閾値を超えた時点からの経過時間に応じて
、制動力の指令値の波形を参照して制動力の指令値をブレーキアクチュエータ60に出力
する(ステップS113)。このとき、コントローラ50は、ステップS112において
設定した制動力の指令値に対し、車速に応じた補正(例えば、車速が大きいほど指令値を
減じる補正等)を加えることが可能である。
さらに、コントローラ50は、車両の上下挙動および車速を取得し(ステップS114
)、ステップS103の処理に移行する。
【0087】
(動作)
次に、動作を説明する。
本発明に係る車両挙動制御装置1Aを備えた自動車1は、走行中に路面からの振動が入
力すると、車両挙動制御処理によって各車輪に制動力を与え、車体100の上下挙動を制
御する。このとき、自動車1は、制御介入からの経過時間と共に変化する変動閾値を設定
する。そして、車両挙動制御処理によって制動力を制御している間に、再び路面からの振
動が入力し、車両の上手挙動が変動閾値を超えると、付与する制動力を新たに設定し、制
動力の制御を行う。
【0088】
図16は、路面から連続的な振動が入力した場合の(a)上下挙動および(b)制動力
指令値の波形を示す図である。なお、図16(a)において、実線は車両挙動(上下挙動
)、2点鎖線は車両挙動の推定値、1点鎖線は車両挙動の最大値、破線は制御閾値(固定
閾値、変動閾値および終了閾値)を示している。また、図16においては、変動閾値と車
両挙動の推定値は一致している。
【0089】
図16に示すように、路面からの振動によって上下挙動が固定閾値以上となると、コン
トローラ50が上下挙動の最大値を記憶すると共に、車両挙動の推定を行う。
そして、コントローラ50は、収束時間T0、目標制動力F0および最大指令値Fmaxを
基に制動力の指令値の波形を設定する。このとき、コントローラ50は、1回目の振動入
力を基に設定した上下挙動の推定波形を保持し、変動閾値として設定する。
【0090】
この後、コントローラ50は、制御介入からの経過時間に応じて、設定した制動力の指
令値の波形に対応する制動力の指令値をブレーキアクチュエータ60に出力し、ブレーキ
アクチュエータ60が各車輪に指令値に応じた制動力を付与する。
ここで、さらに路面から2回目の振動が入力すると、その振動によって上下挙動が変動
閾値以上となった時点で、コントローラ50は新たに制御介入を行う。
【0091】
即ち、新たな入力に対して、コントローラ50が上下挙動の最大値を記憶すると共に、
車両挙動の推定を行う。
そして、コントローラ50は、新たに算出した収束時間T0、目標制動力F0および最
大指令値Fmaxを基に制動力の指令値の波形を設定する。
この後、コントローラ50は、制御介入からの経過時間に応じて、設定した制動力の指
令値の波形に対応する制動力の指令値をブレーキアクチュエータ60に出力し、ブレーキ
アクチュエータ60が各車輪に指令値に応じた制動力を付与する。
【0092】
これにより、1回目の振動入力における車体振動が収束しつつある間に、路面から再び
振動が入力した場合にも、各車輪のサスペンション装置におけるフリクションを変化させ
、入力した各振動に対応して上下挙動を制御することが可能となる。
以上のように、本実施形態に係る自動車1は、路面からの振動が入力した場合に、車両
の上下挙動が固定閾値以上となると、上下挙動の最大値を取得し、その最大値および車速
に基づく制動力の最大指令値を算出する。そして、自動車1は、上下挙動の最大値および
最大指令値に基づく制動力指令値の波形を設定し、制御介入からの経過時間に応じて、設
定した制動力の指令値の波形に対応する制動力を各車輪に付与する。
【0093】
さらに、上記制御の実行中に、路面から再び振動が入力すると、上下挙動が変動閾値以
上となったときに、上下挙動の最大値を取得し、その最大値に応じた最大指令値を算出す
る。そして、算出した最大指令値等を用いて、新たに制動力を付与する。
したがって、先行の振動入力における車体振動が収束しつつある間に、路面から再び振
動が入力した場合にも、各車輪のサスペンション装置におけるフリクションを変化させ、
入力した各振動に対応して上下挙動を制御することが可能となる。
【0094】
なお、本実施形態において、車輪速センサ20FR,20FL,20RR,20RLが
車速取得手段に対応し、上下Gセンサ10が上下挙動取得手段に対応する。また、上下挙
動最大値記憶部56が上下挙動最大値取得手段に対応し、最大指令値算出部57が上限指
令値設定手段に対応する。また、指令値生成部58が制動力指令値設定手段に対応し、ブ
レーキアクチュエータ60が制動手段に対応する。また、制御介入判定部55が制御介入
判定手段に対応する。また、指令値生成部58が収束時間推定手段、目標制動力設定手段
、制動力指令波形設定手段、目標フリクション設定手段および目標制動力決定手段に対応
する。
【0095】
(第2実施形態の効果)
(1)制御介入の閾値として、固定値として定めた固定閾値と、制動力指令値設定手段が
設定する制動力の指令値に対応して時間と共に減少する変動閾値とを設定する。そして、
制動手段による制動力の付与を行っていない場合、車体の上下挙動と固定閾値とを比較し
て、車体の上下挙動が固定閾値以上となったときに、制動力の付与を行う。また、制動手
段による制動力の付与を行っている場合、車体の上下挙動と変動閾値とを比較する。そし
て、車体の上下挙動が前記変動閾値以上となったときに、実行している制動力の付与に代
えて、変動閾値以上となった車両の上下挙動に対応して、制動力の付与を行う。
そのため、先行の振動入力における車体振動が収束しつつある間に、路面から再び振動
が入力した場合にも、各車輪のサスペンション装置におけるフリクションを変化させ、入
力した各振動に対応して上下挙動を制御することが可能となる。
したがって、車両の走行状態に応じた挙動制御をより適切に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0096】
1 自動車、1A 車両挙動制御装置、10 上下Gセンサ、20FR,20FL,20
RR,20RL 車輪速センサ、30 ブレーキペダル、40 マスタシリンダ、50
コントローラ、51 バンドパスフィルタ部、52 絶対値取得部、53 上下挙動制御
閾値記憶部、54 比較部、55 制御介入判定部、56 上下挙動最大値記憶部、56
最大指令値算出部、56 上下挙動最大値記憶部、57 最大指令値算出部、58 指
令値生成部、60 ブレーキアクチュエータ、62A・62B 第1ゲートバルブ、63
FL-63RR インレットバルブ、64 アキュムレータ、65FL-65RR アウト
レットバルブ、66A・66B 第2ゲートバルブ、67 ポンプ、68 ダンパー室、
70FR,70FL,70RR,70RL ホイールシリンダ、80FR,80FL,8
0RR,80RL 車輪、90FR,90FL,90RR,90RL サスペンション装
置、100 車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車速を取得する車速取得手段と、
車体の上下挙動を取得する上下挙動取得手段と、
前記上下挙動取得手段が取得した車体の上下挙動の最大値を取得する上下挙動最大値取
得手段と、
前記上下挙動最大値取得手段が取得した上下挙動の最大値と、前記車速取得手段が取得
した車速とに基づいて、制動力の上限を示す上限指令値を設定する上限指令値設定手段と

前記上下挙動最大値取得手段が取得した上下挙動の最大値と、前記上限指令値設定手段
が設定した前記上限指令値とに基づいて、制動力の指令値を設定する制動力指令値設定手
段と、
前記制動力指令値設定手段が設定した制動力の指令値に基づいて、車輪に対する制動力
を付与する制動手段と、
を備えることを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項2】
前記上下挙動取得手段が取得した車体の上下挙動と制御介入の閾値とを比較し、車体の
上下挙動が制御介入の閾値以上となったときに、前記制動手段による制動力の付与を行わ
せる制御介入判定手段を備えることを特徴とする請求項1記載の車両挙動制御装置。
【請求項3】
前記制御介入判定手段は、
前記制御介入の閾値として、固定値として定めた固定閾値と、前記制動力指令値設定手
段が設定する制動力の指令値に対応して時間と共に減少する変動閾値とを設定し、前記制
動手段による制動力の付与を行っていない場合、車体の上下挙動と前記固定閾値とを比較
して、車体の上下挙動が前記固定閾値以上となったときに、前記制動手段による制動力の
付与を行わせ、前記制動手段による制動力の付与を行っている場合、車体の上下挙動と前
記変動閾値とを比較して、車体の上下挙動が前記変動閾値以上となったときに、実行して
いる前記制動手段による制動力の付与に代えて、該変動閾値以上となった車両の上下挙動
に対応して、前記制動手段による制動力の付与を行わせることを特徴とする請求項2記載
の車両挙動制御装置。
【請求項4】
前記制動力指令値設定手段は、
前記上下挙動の最大値を基に、車両の上下挙動の収束時間を推定する収束時間推定手段
と、
前記上下挙動の最大値を基に、目標制動力を設定する目標制動力設定手段と、
前記収束時間推定手段が推定した収束時間と、前記目標制動力設定手段が設定した目標
制動力と、前記上限指令値設定手段が設定した上限指令値とを基に、時間に対する制動力
の指令値の波形を設定する制動力指令波形設定手段と、
を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両挙動制御装置。
【請求項5】
前記目標制動力設定手段は、
前記上下挙動の最大値を基に、サスペンション装置の目標フリクションを設定する目標
フリクション設定手段と、
前記目標フリクション設定手段が設定した目標フリクションを基に、目標制動力を決定
する目標制動力決定手段と、
を備えることを特徴とする請求項4記載の車両挙動制御装置。
【請求項6】
前記上限指令値設定手段は、前記上下挙動最大値取得手段が取得した上下挙動の最大値
の低入力領域および高入力領域の少なくともいずれかにおいて、前記上限指令値を低下さ
せる補正を行うことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の車両挙動制御装
置。
【請求項7】
前記上限指令値設定手段は、前記車速取得手段が取得した車速の低入力領域および高入
力領域の少なくともいずれかにおいて、前記上限指令値を低下させる補正を行うことを特
徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の車両挙動制御装置。
【請求項8】
路面からの入力により生じた車体の上下挙動に対し、該上下挙動の収束時間と目標制動
力とを設定し、該目標制動力に従って制動を行うことにより、サスペンション装置のフリ
クションを変化させて、前記上下挙動を制御することを特徴とする車両挙動制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2012−166775(P2012−166775A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122602(P2011−122602)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】