説明

車両挙動制御装置及び車両挙動制御方法

【課題】操舵入力に対する車両挙動の違和感を抑制すること。
【解決手段】この車両挙動制御装置30は、ヨーモーメント演算部32と、制駆動力演算部33とを備える。ヨーモーメント演算部32は、操舵輪への操舵を入力とし、車両のロールを出力とした場合の伝達関数に存在する位相進み項が消去されるようにヨーモーメントを設定する。そして、制駆動力演算部33は、ヨーモーメント演算部32が求めたヨーモーメントを発生するための制駆動力を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨーモーメントの付与により、車両の挙動を制御する車両挙動制御装置及び車両挙動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、車輪の駆動力を制御することにより、例えば、旋回中における車両の挙動を制御することにより、単に操舵輪の操舵角を制御する場合よりも高度な車両の挙動制御を行う技術が提案されている。例えば、特許文献1には、車両の実ロール角を操舵角に基づく目標ロール角に追従させるために、左右輪の駆動力差によるヨーモーメントを車両に付与することにより、運転者に与える違和感を低減する技術が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−44293号公報、段落番号0007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された技術は、操舵入力に対して車両へのロールの発生が遅れることに起因する違和感を低減することはできるが、操舵入力に対するロールの発生の遅れが急に減少することがあり、運転者は、操舵入力に対する車両の挙動に違和感を受けるおそれがある。
【0005】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、操舵入力に対する車両の挙動の違和感を抑制できる車両挙動制御装置及び走行装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る車両挙動制御装置は、車両の挙動を制御するものであって、前記車両の操舵輪に対する操舵周波数が増加するにしたがい、前記操舵輪への操舵入力に対する前記車両のロールの遅れが単調に増加するようなヨーモーメントを求めるヨーモーメント演算部と、前記ヨーモーメント演算部が求めた前記ヨーモーメントを発生するための制駆動力を求める制駆動力演算部と、を含むことを特徴とする。
【0007】
この車両挙動制御装置は、車両の操舵輪に対する操舵周波数が増加するにしたがい、操舵輪への操舵入力に対する車両のロールの遅れが単調に増加するようなヨーモーメントを付与する。これによって、操舵入力に対するロールの遅れは、操舵周波数に対して単調に変化するので、操舵入力に対する車両挙動の違和感を抑制できる。
【0008】
本発明の望ましい態様としては、前記車両挙動制御装置において、前記ヨーモーメント演算部は、操舵輪への操舵を入力とし、前記車両のロールを出力とした場合の伝達関数に存在する位相進み項が消去されるように前記ヨーモーメントを設定することが好ましい。
【0009】
本発明の望ましい態様としては、前記車両挙動制御装置において、前記操舵周波数を所定の操舵周波数閾値と比較する制御条件判定部を備え、前記操舵周波数が前記操舵周波数閾値よりも大きくなったと前記制御条件判定部が判定した場合には、前記ヨーモーメント演算部が前記ヨーモーメントを求めるとともに、前記制駆動力演算部が前記ヨーモーメントを発生するための制駆動力を求めることが好ましい。
【0010】
本発明の望ましい態様としては、前記車両挙動制御装置において、前記ヨーモーメント演算部は、前記車両の質量変化に応じて、前記ヨーモーメントを求めることが好ましい。
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る車両挙動制御方法は、車両の挙動を制御するにあたり、前記車両の操舵輪に対する操舵周波数が増加するにしたがい、前記操舵輪への操舵入力に対する前記車両のロールの遅れが単調に増加するようなヨーモーメントを求める手順と、前記ヨーモーメントを発生するための制駆動力を求める手順と、を含むことを特徴とする。
【0012】
この車両挙動制御方法は、車両の操舵輪に対する操舵周波数が増加するにしたがい、操舵輪への操舵入力に対する車両のロールの遅れが単調に増加するようなヨーモーメントを付与する。これによって、操舵入力に対するロールの遅れは、操舵周波数に対して単調に変化するので、操舵入力に対する車両挙動の違和感を抑制できる。
【0013】
本発明の望ましい態様としては、前記車両挙動制御方法において、前記ヨーモーメントは、前記操舵輪への操舵を入力とし、前記車両のロールを出力とした場合の伝達関数に存在する位相進み項が消去されるように設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る車両挙動制御装置及び車両挙動制御方法によれば、操舵入力に対する車両の挙動の違和感を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。以下においては、いわゆる電気自動車に本発明を適用した場合を例として説明するが、本発明の適用対象はこれに限られるものではない。
【0016】
本実施形態は、車両の操舵輪に対する操舵周波数が増加するにしたがい、操舵輪への操舵入力に対する車両のロールの遅れが単調に増加するようなヨーモーメントを付与する点に特徴がある。例えば、操舵輪への操舵を入力とし、車両のロールを出力とした場合の伝達関数に存在する位相進み項が消去されるようにヨーモーメントを設定する。ここで、本実施形態における車両挙動制御とは、車両のロール方向における車両の挙動の制御である。
【0017】
図1は、本実施形態に係る車両挙動制御を適用可能な車両の一例を示す模式図である。以下の説明において、左右の区別は、車両1の前進する方向(図1の矢印Xs方向、以下同様)を基準とする。すなわち、「左」とは、車両1の前進する方向に向かって左側をいい、「右」とは、車両1の前進する方向に向かって右側をいう。また、車両1が前進する方向を前とし、車両1が後進する方向、すなわち前進する方向とは反対の方向を後とする。「横」とは、車両1の幅方向中心を通る前後軸に直交する方向であり、前輪の車軸や後輪の車軸と平行な方向である。
【0018】
本実施形態に係る車両1は、電動機のみを動力発生源とする。車両1は、動力発生手段である左前電動機10flと、右前電動機10frと、左後電動機10rlと、右後電動機10rrとを備える。本実施形態において、左前電動機10flは左前輪2flを駆動し、右前電動機10frは右前輪2frを駆動し、左後電動機10rlは左後輪2rlを駆動し、右後電動機10rrは右後輪2rrを駆動する。
【0019】
上述したように、この車両1において、左前輪2fl、右前輪2fr、左後輪2rl及び右後輪2rrは、それぞれ異なる電動機で駆動される。このように、車両1は、すべての車輪が駆動輪となる。すなわち、車両1の駆動輪は、左前輪2fl、右前輪2fr、左後輪2rl及び右後輪2rrである。左前輪2fl、右前輪2frは車両1の駆動輪であるとともに、ハンドル8によって操舵されて車両1の進行方向を変更する操舵輪としても機能する。ハンドル8の操舵操作は、ステアリングギヤボックス5を介して操舵輪である左前輪2fl及び右前輪2frに伝達され、これらを操舵する。
【0020】
この車両1は、上述したように、左前輪2fl、右前輪2fr、左後輪2rl及び右後輪2rrが、それぞれ異なる電動機によって直接駆動される。そして、左前電動機10fl、右前電動機10fr、左後電動機10rl及び右後電動機10rrは、左前輪2fl、右前輪2fr、左後輪2rl及び右後輪2rrのホイール内に配置される、いわゆるインホイール形式の構成となっている。
【0021】
なお、電動機と車輪との間に減速機構を設け、左前電動機10fl、右前電動機10fr、左後電動機10rl及び右後電動機10rrの回転数を減速して、左前輪2fl、右前輪2fr、左後輪2rl及び右後輪2rrに伝達してもよい。一般に、電動機は小型化するとトルクが低下するが、減速機構を設けることによって電動機のトルクを増加させることができる。その結果、左前電動機10fl、右前電動機10fr、左後電動機10rl及び右後電動機10rrを小型化することができる。
【0022】
左前電動機10fl、右前電動機10fr、左後電動機10rl及び右後電動機10rrは、ECU(Electronic Control Unit)50によって制御されて、左前輪2fl、右前輪2fr、左後輪2rl、右後輪2rrの駆動力の駆動力が調整される。本実施形態においては、アクセル開度センサ12によって検出されるアクセル12Pの開度により車両1の総駆動力(制動力も考慮した総駆動力)F、及び左前輪2fl、右前輪2fr、左後輪2rl、右後輪2rr各輪の駆動力が制御される。
【0023】
また、本実施形態に係る車両挙動制御において、左前輪2fl、右前輪2fr、左後輪2rl、右後輪2rrの駆動力は、ECU50及びECU50に組み込まれる車両挙動制御装置30によって変更される。上述した構成により、本実施形態においては、左前輪2fl、右前輪2fr、左後輪2rl、右後輪2rrそれぞれの駆動力を独立して制御することができる。本実施形態に係る車両1は、それぞれの車輪の駆動力を制御することにより、ヨーモーメントを発生させることができる。
【0024】
左前電動機10fl、右前電動機10fr、左後電動機10rl及び右後電動機10rrは、左前レゾルバ11fl、右前レゾルバ11fr、左後レゾルバ11rl、右後レゾルバ11rrによって回転角度や回転速度が検出される。左前レゾルバ11fl、右前レゾルバ11fr、左後レゾルバ11rl及び右後レゾルバ11rrの出力は、ECU50に取り込まれて、左前電動機10fl、右前電動機10fr、左後電動機10rl及び右後電動機10rrの制御に用いられる。また、レゾルバの他に、ECU50には、アクセル開度センサ12、操舵角センサ13、加速度センサ14が接続されており、電動機の出力制御や本実施形態に係る車両挙動制御を実行する際の情報を取得するために用いられる。
【0025】
左前電動機10fl、右前電動機10fr、左後電動機10rl及び右後電動機10rrは、インバータ6に接続されている。インバータ6には、例えばニッケル−水素電池や鉛蓄電池等の車載電源7が接続されている。車載電源7の電力は、必要に応じてインバータ6を介して左前電動機10fl、右前電動機10fr、左後電動機10rl及び右後電動機10rrへ供給される。これらの出力は、ECU50からの指令によってインバータ6を制御することで制御される。なお、本実施形態においては、1台のインバータで1台の電動機を制御する。左前電動機10fl、右前電動機10fr、左後電動機10rl及び右後電動機10rrを制御するため、インバータ6は、それぞれの電動機に対応した4台のインバータで構成される。
【0026】
左前電動機10fl、右前電動機10fr、左後電動機10rl及び右後電動機10rrが車両1の動力発生源として用いられる場合、車載電源7の電力がインバータ6を介して供給される。また、例えば車両1の減速時には、左前電動機10fl、右前電動機10fr、左後電動機10rl、右後電動機10rrが発電機として機能して回生発電を行い、これによって回収したエネルギーを車載電源7に蓄える。これは、ブレーキ信号やアクセルオフ等の信号に基づいて、ECU50がインバータ6を制御することにより実現される。なお、本実施形態に係る車両挙動制御を実行する際にも、必要に応じて左前電動機10fl、右前電動機10fr、左後電動機10rl、右後電動機10rrの回生発電を実行し、制動力を発生させる。
【0027】
左前輪2fl、右前輪2fr、左後輪2rl、右後輪2rrには、それぞれ摩擦制動装置BRが設けられており、これらの車輪に、摩擦力による制動力を与える。本実施形態においては、ECU50及びECU50に組み込まれる車両挙動制御装置30によって、それぞれの摩擦制動装置BRの制動力を独立に制御するように構成してもよい。このようにすれば、左前電動機10fl、右前電動機10fr等による電力回生の他にも左前輪2fl、右前輪2fr、左後輪2rl、右後輪2rrの制動力を独立に制御できるので、車両1の挙動を制御する際の自由度が向上する。
【0028】
以下の説明において、左前輪2fl、右前輪2fr、左後輪2rl、右後輪2rrを区別しない場合には車輪2といい、左前電動機10fl、右前電動機10fr、左後電動機10rl、右後電動機10rrを区別しない場合には電動機10という。また、左前レゾルバ11fl、右前レゾルバ11fr、左後レゾルバ11rl、右後レゾルバ11rrを区別しない場合にはレゾルバ11という。なお、車両の前輪、後輪に着目する場合、左前輪2fl及び右前輪2frを前輪2fといい、左後輪2rl及び右後輪2rrを後輪2rという。
【0029】
図2は、ロールの位相遅れと操舵周波数との関係を示す概念図である。図3は、従来技術において、車両の実ロール角を目標ロール角に追従させるためにヨーモーメントを付与した場合におけるロールの位相遅れと操舵周波数との関係を示す概念図である。操舵入力に対するロールの遅れ量は、操舵入力の変化に対するロール角φの変化の位相遅れであり、角度で表される。操舵入力に対するロールの遅れ量は、操舵入力に対する車両1のロールの遅れを表す尺度となる。図2に示すように、車両1のロールは、車両1の操舵輪の操舵周波数fsが増加するにしたがって、操舵入力に対するロールの遅れ量が単調に増加した後、操舵周波数fs1で減少に転じ、さらに操舵周波数fs2からは単調に増加する場合がある。
【0030】
操舵入力に対するロールの遅れ量が上記傾向を示す場合、車両1の運転者が、操舵周波数fsを高くしながら車両1を旋回させると、旋回の途中で操舵入力に対するロールの遅れ量が急激に少なくなり、運転者は、操舵入力に対する車両1の挙動に違和感を覚える。図3に示すように、従来技術において、車両1の実ロール角を目標ロール角に追従させるためにヨーモーメントを付与することにより、操舵入力に対するロールの遅れ量をある程度抑制することができる。
【0031】
しかし、図3に示すように、操舵入力に対するロールの遅れ量は、操舵周波数fs1までは単調に増加するが、操舵周波数fs1における変曲点Pvで減少に転じ、その後は操舵周波数の増加とともに減少する。このため、車両1の実ロール角を目標ロール角に追従させるためにヨーモーメントを付与する手法によっても、車両1の運転者が、操舵周波数fsを高くしながら車両1を旋回させると、旋回の途中で操舵入力に対するロールの遅れ量が急激に少なくなることがあり、運転者は、操舵入力に対する車両1の挙動に違和感を覚える。
【0032】
車両のロールを考慮した運動方程式から、操舵を入力とし、車両のロールを出力とした場合の伝達関数を考えると、ラプラス演算子sの2次あるいは4次の伝達関数が導出される。ここで、伝達関数の分子に存在するラプラス演算子sは、入力(操舵)に対する出力(車両のロール)の遅れ量を回復させる位相進み項であり、図2や図3の操舵周波数fs1以降に示すように、操舵入力に対するロールの遅れ量を減少、すなわち回復させる。したがって、操舵を入力とし、ロールを出力とした場合の伝達関数に位相進み項が存在する限り、操舵入力に対する車両1の挙動(特にロール方向の挙動)に運転者が違和感を覚えるという問題が発生する。
【0033】
そこで、本実施形態では、車両の操舵輪に対して操舵入力があった場合には、操舵を入力とし、車両のロールを出力とする伝達関数に存在するロールの位相進み項を消去するようにヨーモーメントを設定して、車両1に与える。すなわち、操舵角に対する車両のロールの遅れが、操舵周波数の増加にともなって単調に増加するようなヨーモーメントを与える。これによって、操舵角に対するロールの遅れは単調に変化するので、操舵入力に対する車両1の挙動が運転者に与える違和感を抑制することができる。次に、このようなヨーモーメントを求める手法を説明する。
【0034】
図4は、本実施形態に係る車両挙動制御を適用する車両の諸元を説明するための斜視図である。図5−1は、本実施形態に係る車両挙動制御を適用する車両の諸元を説明するための側面図である。図5−2は、ロール角を示す模式図である。図1に示す車両1に、入力として操舵が与えられ、その出力として車両1がロールする。操舵入力は操舵角がθであり、ロール角はφである。ここで、ロール角φは、図5−2に示すように、車両1がロールしていない場合を基準とした、車両1のロール軸X_rollを周りにおける車両1の傾斜角である。図1に示す車両1のロールを考慮し、車両1にヨーモーメントMを付与する場合の運動方程式は、式(1)〜(3)のようになる。
【0035】
以下において、Izはヨー慣性モーメント(kg・m2)、βは滑り角(rad)、γはヨーレート(rad/sec.)、Kfは前輪2fのコーナーリングフォース(N/rad)、Krは後輪2rのコーナーリングフォース(N/rad)、Lfは重心CGから前輪2fの車軸Yfまでの距離(m)、Lrは重心CGから後輪2rの車軸Yrまでの距離(m)、Lは前輪2fの車軸Yfと後輪2rの車軸Yrとの距離(m)、mは車両1の質量(kg)、Vは車両1の速度(m/sec.)、nはステアリングギヤ比、Mはヨーモーメント、θは操舵角(rad)、hsは車両1の重心高(m)、Kφは車両1のロール剛性(N・m/rad)、Cφは車両1のロール減衰定数(N・m/sec.・rad)、gは重力加速度(m/sec.2)である。なお、β'は滑り角速度(rad/sec.)、γ'はヨー加速度(rad/sec.2)、φ'はロール角速度(rad/sec.)、φ''はロール角加速度(rad/sec.2)である。
【0036】
【数1】

【0037】
【数2】

【0038】
【数3】

【0039】
式(1)〜式(3)の運動方程式から、車両1へ操舵角θが入力されてロール角φが出力される場合において、ロール角φは横方向加速度Gyを用いて、式(4)のように表される。ここで、式(4)中の横方向加速度Gyは、式(5)で表される。横方向加速度は、車両1の旋回により発生する遠心加速度であり、車両1の旋回円の中心から径方向外側に向かい、車両1を通る方向の加速度である。
【0040】
式(5)から分かるように、横方向加速度Gyには、車両1へ入力される操舵角θが含まれるので、式(4)は、車両1の操舵輪への操舵を入力とし、車両1のロールを出力とした場合において、操舵角θ(入力)からロール角φ(出力)への伝達関数を含んで表現される。ここで、式(4)中の横方向加速度Gyは、式(5)のようになる。また、式(4)、式(5)中の固有振動数ωnは式(6)で、減衰定数ζは式(7)で表される。なお、各式中のsは、ラプラス演算子である(以下同様)。
【0041】
【数4】

【0042】
【数5】

【0043】
【数6】

【0044】
【数7】

【0045】
式(4)中の横方向加速度Gy、すなわち式(5)において、分子のラプラス演算子sが、操舵輪への操舵入力に対して、出力である車両1のロールの遅れを減少、すなわち進ませる位相進み項になる。すなわち、分子のラプラス演算子sは、操舵周波数の増加とともに、ロール角φの位相を進ませる位相進み項となる。したがって、横方向加速度Gyを表す式(5)右辺における分子のラプラス演算子sを消去するようなヨーモーメントMを式(5)に与えれば、操舵角θからロール角φへの伝達関数、すなわち操舵輪への操舵を入力とし、車両のロールを出力とした場合における伝達関数の分子項は、ラプラス演算子sの次数が0になる。
【0046】
これによって、横方向加速度Gyは式(8)のように表されるとともに、ロール角φを表す式(4)は、式(9)のようになる。ここで、式(9)のθ以外の部分が、操舵角θ(入力)からロール角φ(出力)への伝達関数となる。式(9)から分かるように、この伝達関数は、分子のラプラス演算子sの次数が0になるので、操舵入力に対する車両1のロールの遅れ量は、単調に変化(単調に増加)する。すなわち、操舵周波数の増加にしたがって、車両1のロールの遅れ量は、単調に増加する。
【0047】
式(5)右辺における分子のラプラス演算子sを消去するようなヨーモーメントMは、式(10)を満たすヨーモーメントMである。式(10)をヨーモーメントMについて解いた値が式(11)となる。すなわち、車両1へ操舵角θの入力があった場合には、式(11)で表されるヨーモーメントMを車両1に付与することにより、車両1において、操舵角θからロール角φへの伝達関数においては分子項のラプラス演算子sの次数を0にすることができる。
【0048】
これによって操舵入力に対するロールの遅れ、すなわち、操舵周波数に対するロール角φの位相の遅れは、操舵周波数の増加とともに単調に増加することになるので、運転者に与える車両挙動(特にロール方向)の違和感を低減できる。なお、式(11)で表されるヨーモーメントMは、式(11)をラプラス逆変換することにより求める。ここで、式(5)〜式(11)中のGrθ、Trθ、Gβθ、Tβθ、GrM、TrM、GβM、Kh、Lは、それぞれ式(12)〜式(20)で表される。
【0049】
【数8】

【0050】
【数9】

【0051】
【数10】

【0052】
【数11】

【0053】
【数12】

【0054】
【数13】

【0055】
【数14】

【0056】
【数15】

【0057】
【数16】

【0058】
【数17】

【0059】
【数18】

【0060】
【数19】

【0061】
【数20】

【0062】
図6は、本実施形態に係る車両挙動制御を適用した場合におけるロールの位相遅れと操舵周波数との関係を示す概念図である。本実施形態に係る車両挙動制御を適用し、操舵入力があった場合に式(11)から得られるヨーモーメントMを車両に付与すると、操舵入力に対するロールの遅れ量は、変曲点を持たずに操舵周波数の増加とともに、単調に増加する。このように、本実施形態に係る車両挙動制御を適用した場合における操舵入力に対するロールの遅れ量の変化は、図2、図3に示す操舵入力に対するロールの遅れ量の変化とは異なることが分かる。次に、式(11)から得られるヨーモーメントMを発生させるための駆動力を決定する手法を説明する。
【0063】
図1に示す車両1は、4個の車輪2の駆動力をそれぞれ独立に制御できるため、車両1が備えるすべての車輪2の駆動力をそれぞれ決定する。左前輪2flの駆動力(左前輪駆動力)をFfl、右前輪2frの駆動力(右前輪駆動力)をFfr、左後輪2rlの駆動力(左後輪駆動力)を2rl、右後輪2rrの駆動力(右後輪駆動力)をFrrとし、車両1の全駆動力をFとすると、これらの間には式(21)の関係が成立する。また、前輪2fのトレッド(左前輪2flと右前輪2frとの回転軸方向における中心間距離)をDf、後輪2rのトレッド(左後輪2rlと右後輪2rrとの回転軸方向における中心間距離)をDrとすると、式(22)の関係が成立する。
【0064】
【数21】

【0065】
【数22】

【0066】
また、前輪(左前輪2fl及び右前輪2fr)と後輪(左後輪2rl及び右後輪2rr)との制駆動力配分比をj:(1−j)とし(ただし0≦j≦1)、前輪(左前輪2fl及び右前輪2fr)と後輪(左後輪2rl及び右後輪2rr)とのヨーモーメント配分比をk:(1−k)とする(ただし0≦f≦1)。すると、式(23)、式(24)の関係が成立する。
【0067】
【数23】

【0068】
【数24】

【0069】
式(21)〜式(24)の関係を行列式にまとめると、行列式(25)のようになる。この行列式(25)を、Ffl、Ffr、Frl、Frrについて解くと、それぞれ式(26)、式(27)、式(28)、式(29)のようになる。式(26)〜式(29)でそれぞれ表される左前輪駆動力Ffl、右前輪駆動力Ffr、左後輪駆動力Frl、右後輪駆動力Frrが、式(11)から得られるヨーモーメントMを発生させるために車両1の各車輪2に必要な駆動力である。ここで、式(26)〜式(29)におけるC0、C1、C2、C3は、それぞれ式(30)、式(31)、式(32)、式(33)で求めることができる。
【0070】
【数25】

【0071】
【数26】

【0072】
【数27】

【0073】
【数28】

【0074】
【数29】

【0075】
【数30】

【0076】
【数31】

【0077】
【数32】

【0078】
【数33】

【0079】
なお、左前輪駆動力Ffl、右前輪駆動力Ffr、左後輪駆動力Frl、右後輪駆動力Frrの単位は力なので、トルクに変換する場合には、求めた各車輪2の駆動力に、それぞれの車輪2の荷重方向における半径(荷重半径)Rを乗ずればよい。これによって、各車輪2を駆動するそれぞれの電動機10のトルク指令値を求める。
【0080】
図7は、本実施形態に係る車両挙動制御装置の構成例を示す説明図である。図7に示すように、車両挙動制御装置30は、ECU50に組み込まれて構成されている。ECU50は、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)51と、記憶部52と、入出力ポート54と、入出力インターフェース55とから構成される。
【0081】
なお、ECU50とは別個に、本実施形態に係る車両挙動制御装置30を用意し、これをECU50に接続してもよい。そして、本実施形態に係る車両挙動制御を実現するにあたっては、ECU50が備える車両1に対する制御機能を、前記車両挙動制御装置30が利用できるように構成してもよい。
【0082】
車両挙動制御装置30は、制御条件判定部31と、ヨーモーメント演算部32と、制駆動力演算部33とを含んで構成される。これらが、本実施形態に係る車両挙動制御を実行する部分となる。本実施形態において、車両挙動制御装置30は、ECU50を構成するCPU51の一部として構成される。また、CPU51は、電動機制御部53を備えており、図1に示す車両1が備える電動機10を制御する。
【0083】
車両挙動制御装置30の制御条件判定部31と、ヨーモーメント演算部32と、制駆動力演算部33とは、入出力ポート54を介して接続される。これにより、車両挙動制御装置30を構成する制御条件判定部31と、ヨーモーメント演算部32と、制駆動力演算部33とは、相互に制御データをやり取りしたり、一方に命令を出したりできるように構成される。
【0084】
また、CPU51と記憶部52とは、入出力ポート54を介して接続される。これによって、CPU51が備える車両挙動制御装置30は、記憶部52に格納されている車両1の運転制御データを取得し、これを利用することができる。また、CPU51が備える車両挙動制御装置30は、本実施形態に係る車両挙動制御を、ECU50が予め備えている運転制御ルーチンに割り込ませたりすることができる。
【0085】
入出力ポート54には、入出力インターフェース55が接続されている。入出力インターフェース55には、車両挙動制御に必要な情報を取得するセンサ類として、操舵角センサ13、加速度センサ14、レゾルバ11、すなわち左前レゾルバ11fl、右前レゾルバ11fr、左後レゾルバ11rl、右後レゾルバ11rrが接続されている。また、入出力インターフェース55には、車両挙動制御に必要な制御対象として、左前電動機10fl、右前電動機10fr、左後電動機10rl及び右後電動機10rrを制御するためのインバータ6が接続されている。
【0086】
記憶部52には、本実施形態に係る車両挙動制御の処理手順が記述されたコンピュータプログラム、あるいは本実施形態に係る車両挙動制御に用いるデータマップ等が格納されている。ここで、記憶部52は、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
【0087】
上記コンピュータプログラムは、CPU51へ既に記録されているコンピュータプログラムと組み合わせによって、本実施形態に係る車両挙動制御を実現できるものであってもよい。また、この車両挙動制御装置30は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、制御条件判定部31、ヨーモーメント演算部32及び制駆動力演算部33の機能を実現するものであってもよい。次に、本実施形態に係る車両挙動制御方法の手順を説明する。本実施形態に係る車両挙動制御方法は、上述した車両挙動制御装置30により実現できる。
【0088】
図8は、本実施形態に係る車両挙動制御方法の処理手順を示すフローチャートである。本実施形態に係る車両挙動制御方法を実行するにあたり、ステップS101において、図7に示す車両挙動制御装置30の制御条件判定部31は、操舵があったか否かを判定する。操舵の有無は、操舵角センサ13によって検出された信号を制御条件判定部31が取得して判定する。
【0089】
ステップS101でNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部31が操舵はないと判定した場合、STARTに戻り、制御条件判定部31は、車両1の操舵状態の監視を継続する。ステップS101でYesと判定された場合、ステップS102に進む。ステップS102において、車両挙動制御装置30のヨーモーメント演算部32は、操舵入力に対するロールの遅れ量が、操舵周波数の増加にともなって単調に増加するようなヨーモーメントM、すなわち、上述した式(11)から得られるヨーモーメントMを求めるため、現時点における操舵角θ及び車両速度Vを取得する。操舵角θは、操舵角センサ13の検出値から求めることができる。また、車両速度Vは、車両1が備える各車輪2の平均回転速度から求めることができる。なお、各車輪2の回転速度は、それぞれの車輪を駆動する電動機10が備えるレゾルバ11から求める。
【0090】
ヨーモーメント演算部32が操舵角θ及び車両速度Vを取得したら、ステップS103において、ヨーモーメント演算部32は、これらを式(11)に与えてヨーモーメントMを求める。そして、ステップS104において、車両挙動制御装置30の制駆動力演算部33は、ステップS103で求められたヨーモーメントMから、車両1が備える各車輪2の駆動力を求める。各車輪2の駆動力は、上述したように式(26)〜式(29)で求めることができる。
【0091】
ステップS105で、ECU50が備える電動機制御部53は、ステップS104で得られた各車輪2の駆動力を発生するために必要な各電動機10の出力(トルク)を求める。そして、求めた各電動機10の出力を発生させるための出力指令値をインバータ6に発信して、各電動機10を駆動する。これによって、ステップS104で得られた駆動力で、各車輪2を駆動することができる。これによって、車両1には、式(11)で決定されるヨーモーメントMが発生するので、操舵入力に対するロールの遅れ量は単調に増加することになり、運転者に与える、操舵に対する車両挙動の違和感を低減できる。
【0092】
式(11)、式(13)、式(14)等から分かるように、式(11)から得られるヨーモーメントMには車両1の質量(以下車両質量という)mが含まれる。車両質量mは、車両1の乗車人数や積載物によって変化するため、車両質量mに変化があった場合には、これを考慮することによって、ヨーモーメントMの精度が向上する。このため、ヨーモーメントMを求める前に車両質量mを推定し、これを用いてヨーモーメントMを求める。
【0093】
車両質量mは、(3.6×2×π/V)×Pcmd/gaの推定式で推定することができる。推定式中、Vは車両速度、Pcmdは車両1が備えるすべての電動機10に対する出力指令値、gaは車両1の前後方向における加速度(前後加速度)である。車両速度Vは、各レゾルバ11が検出した電動機10の回転速度から推定した各車輪2の回転速度の平均値から求めることができる。Pcmdは、アクセル開度センサ12によって検出されるアクセル12Pの開度に基づいてECU50の電動機制御部53が演算する。前後加速度は、加速度センサ14によって検出することができる。車両挙動制御装置30のヨーモーメント演算部32は、V、Pcmd、gaを上記推定式に与えて、車両質量mを推定する。
【0094】
ここで、車輪2を駆動するすべての電動機10のトルクをτ(N・m)、車輪2の回転数をN(rpm)とすると、すべての電動機10に対する出力指令値Pcmd=τ×N、車両速度V=(3600/1000)×2×r×π×N、τ=Pcmd/N=Pcmd×3.6×2×r×π/Vとなる。そして、車両1の総駆動力(制動力も考慮した総駆動力)をF(N)、車輪2の荷重半径をR(m)とすると、F=τ/r、かつF=m×gaなので、m=F/a=τ/(ga×R)となり、上記推定式で車両質量mが推定できる。
【0095】
この手法によって車両質量mを推定すると、加速度センサ14の追加のみで車両質量mを推定できる。また、加速度センサ14が車両1に予め搭載されている場合や車両1がナビゲーションシステムを搭載する場合には、車両1の加速度センサ14やナビゲーションシステムの加速度センサを用いることで、新たに加速度センサを追加する必要なく、簡易に車両質量mを推定することができる。
【0096】
このようにして推定した車両質量mを用いることにより、ヨーモーメントMの精度が向上するため、運転者に与える、操舵に対する車両挙動の違和感を、より効果的に低減することができる。なお、車両質量mの推定手法は上記手法に限られるものではない。例えば、車両1の懸架装置にストロークセンサを設け、ストロークセンサによって検出される車両1の車高から車両質量mを推定してもよい。
【0097】
図9は、本実施形態の変形例に係る車両挙動制御方法の処理手順を示すフローチャートである。この変形例に係る車両挙動制御方法は、上述した車両挙動制御方法とほぼ同様であるが、操舵周波数に基づいて、式(11)から得られるヨーモーメントMを付与するか否かを判定する点が異なる。他構成は、上記車両挙動制御方法と同様である。なお、この変形例に係る車両挙動制御方法も、図7に示す車両挙動制御装置30により実現できる。
【0098】
本実施形態の変形例に係る車両挙動制御方法を実行するにあたり、ステップS201において、図7に示す車両挙動制御装置30の制御条件判定部31は、操舵があったか否かを判定する。ステップS201でNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部31が操舵はないと判定した場合、STARTに戻り、制御条件判定部31は、車両1の操舵状態の監視を継続する。ステップS201でYesと判定された場合、ステップS202に進む。
【0099】
ステップS202において、制御条件判定部31は、操舵周波数fsと、操舵周波数閾値fs_cとを比較する。ここで、操舵周波数fsは、図1に示す車両1の操舵輪である左前輪2fl及び右前輪2frを操舵するときの周波数であり、操舵速度が大きくなるほど、操舵周波数fsも大きくなる。操舵周波数fsは、次の手法により求めることができる。
【0100】
図1に示す車両1が備える操舵輪の実際の操舵角をθとすると、操舵が過渡状態である場合には、実際の操舵角θは式(34)で、操舵角速度θ'は式(35)で、操舵角加速度θ''は式(36)で表すことができる。ここで、Aは振幅であり、任意の定数である。また、ωは操舵周波数、tは時間である。
θ=A×sin(fs×t)・・(34)
θ'=fs×A×cos(fs×t)・・(35)
θ''=−fs2×A×sin(fs×t)・・(36)
【0101】
式(34)及び式(36)から、操舵角加速度θ''の絶対値|θ''|を実際の操舵角θの絶対値|θ|で除すると、|θ''|/|θ|=|−fs2×A×sin(fs×t)|/|A×sin(fs×t)|=fs2となる。したがって、操舵周波数fsは、式(37)に示すように、実際の操舵角θから求めた操舵角加速度θ''と、実際の操舵角θとの比に基づいて求めることができる。
ω=√(|θ''|/|θ|)・・(37)
【0102】
ここで、操舵角θは、図1に示す操舵角センサ13によって検出することができる。操舵角加速度θ''は、図1に示すECU50に組み込まれる車両挙動制御装置30が、操舵角センサ13で検出した操舵角θを取得して演算することにより求めることができる。すなわち、単位時間あたりにおける操舵角θの変化から操舵角速度θ'を求め、単位時間あたりにおける操舵角速度θ'の変化から操舵角加速度θ''を求めることができる。このようにして求めた操舵角速度θ'及び操舵角加速度θ''を式(37)に与えれば、操舵周波数fsを求めることができる。
【0103】
図2に示すように、操舵周波数がfs1のときに、ロールの遅れ量は、操舵周波数が増加する際において最初の変曲点Pvとなる。したがって、操舵周波数がfs1よりも小さい場合、ロールの遅れ量は単調に増加するため、操舵周波数がfs1以下である場合には、上述した式(11)で示すヨーモーメントMを車両1に付与しなくても、車両1の運転者は車両挙動(特にロール方向)の違和感を覚えない。
【0104】
したがって、本変形例においては、操舵周波数がfs1以下の場合には、式(11)で示すヨーモーメントMを車両1に付与しない。これによって、ヨーモーメントMの演算負荷を軽減できる。また、式(11)で示すヨーモーメントMを付与するための制駆動力を発生させる必要はないので、その分、車両1を走行させる際のエネルギー消費を抑制することができる。本変形例では、操舵周波数閾値fs_cを操舵周波数fs1とする。操舵周波数fs1とするは、操舵周波数が増加する際において、ロールの遅れ量の変化が最初の変曲点となる操舵周波数である。この操舵周波数fs1は、車両1の諸元によって予め決定される値である。
【0105】
ステップS202でNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部31が、fs≦fs_cであると判定した場合、式(11)で示すヨーモーメントMは車両1に付与されない。この場合、STARTに戻り、制御条件判定部31は、車両1の操舵状態の監視を継続する。
【0106】
ステップS202でYesと判定された場合、すなわち、制御条件判定部31がfs>fs_cであると判定した場合、ロールの遅れ量が変曲点Pvを持つことに起因して運転者が覚える、操舵に対する車両挙動の違和感を抑制するため、式(11)で示すヨーモーメントMを車両1に付与する。この場合、ステップS203〜ステップS206を実行する。なお、ステップS203〜ステップS206は、図8を用いて説明した、本実施形態に係る車両挙動制御のステップS102〜ステップS105と同様なので、説明を省略する。
【0107】
以上、本実施形態では、例えば、操舵輪への操舵を入力とし、車両のロールを出力とした場合の伝達関数に存在する位相進み項が消去されるようにヨーモーメントを設定することにより、車両の操舵輪に対する操舵周波数が増加するにしたがい、操舵輪への操舵入力に対する車両のロールの遅れが単調に増加するようなヨーモーメントを付与する。これによって、操舵入力に対するロールの遅れは、操舵周波数に対して単調に変化するので、操舵入力に対する車両挙動の違和感を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上のように、本発明に係る車両挙動制御装置及び車両挙動制御方法は、車両のロール方向における挙動を制御することに有用であり、特に、操舵入力に対する車両挙動の違和感を抑制することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本実施形態に係る車両挙動制御を適用可能な車両の一例を示す模式図である。
【図2】ロールの位相遅れと操舵周波数との関係を示す概念図である。
【図3】従来技術において、車両の実ロール角を目標ロール角に追従させるためにヨーモーメントを付与した場合におけるロールの位相遅れと操舵周波数との関係を示す概念図である。
【図4】本実施形態に係る車両挙動制御を適用する車両の諸元を説明するための斜視図である。
【図5−1】本実施形態に係る車両挙動制御を適用する車両の諸元を説明するための側面図である。
【図5−2】ロール角を示す模式図である。
【図6】本実施形態に係る車両挙動制御を適用した場合におけるロールの位相遅れと操舵周波数との関係を示す概念図である。
【図7】本実施形態に係る車両挙動制御装置の構成例を示す説明図である。
【図8】本実施形態に係る車両挙動制御方法の処理手順を示すフローチャートである。
【図9】本実施形態の変形例に係る車両挙動制御方法の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0110】
1 車両
2 車輪
2f 前輪
2fl 左前輪
2fr 右前輪
2r 後輪
2rl 左後輪
2rr 右後輪
5 ステアリングギヤボックス
6 インバータ
7 車載電源
8 ハンドル
10 電動機
10fr 右前電動機
10fl 左前電動機
10rr 右後電動機
10rl 左後電動機
11 レゾルバ
11fl 左前レゾルバ
11rl 左後レゾルバ
11fr 右前レゾルバ
11rr 右後レゾルバ
12 アクセル開度センサ
12P アクセル
13 操舵角センサ
14 加速度センサ
30 車両挙動制御装置
31 制御条件判定部
32 ヨーモーメント演算部
33 制駆動力演算部
50 ECU
51 CPU
52 記憶部
53 電動機制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の挙動を制御するものであって、
前記車両の操舵輪に対する操舵周波数が増加するにしたがい、前記操舵輪への操舵入力に対する前記車両のロールの遅れが単調に増加するようなヨーモーメントを求めるヨーモーメント演算部と、
前記ヨーモーメント演算部が求めた前記ヨーモーメントを発生するための制駆動力を求める制駆動力演算部と、
を含むことを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項2】
前記ヨーモーメント演算部は、
操舵輪への操舵を入力とし、前記車両のロールを出力とした場合の伝達関数に存在する位相進み項が消去されるように前記ヨーモーメントを設定することを特徴とする請求項1に記載の車両挙動制御装置。
【請求項3】
前記操舵周波数を所定の操舵周波数閾値と比較する制御条件判定部を備え、
前記操舵周波数が前記操舵周波数閾値よりも大きくなったと前記制御条件判定部が判定した場合には、前記ヨーモーメント演算部が前記ヨーモーメントを求めるとともに、前記制駆動力演算部が前記ヨーモーメントを発生するための制駆動力を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両挙動制御装置。
【請求項4】
前記ヨーモーメント演算部は、前記車両の質量変化に応じて、前記ヨーモーメントを求めることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両挙動制御装置。
【請求項5】
車両の挙動を制御するにあたり、
前記車両の操舵輪に対する操舵周波数が増加するにしたがい、前記操舵輪への操舵入力に対する前記車両のロールの遅れが単調に増加するようなヨーモーメントを求める手順と、
前記ヨーモーメントを発生するための制駆動力を求める手順と、
を含むことを特徴とする車両挙動制御方法。
【請求項6】
前記ヨーモーメントは、前記操舵輪への操舵を入力とし、前記車両のロールを出力とした場合の伝達関数に存在する位相進み項が消去されるように設定することを特徴とする請求項5に記載の車両挙動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−260439(P2008−260439A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105257(P2007−105257)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】