説明

車両挙動制御装置

【課題】主処理装置が異常になっても、車両の挙動を安定的に制御する。
【解決手段】第1の処理装置10は、車両の利用者からの要求を入力する要求入力センサ2を含む複数のセンサ2、3からの複数の信号を含む第1の情報に基づいて、第1の制御量COM1を演算する。第2の処理装置20は、要求入力センサ2からの信号を含むが、第1の情報より情報量が少ない第2の情報に基づいて、第2の制御量COM2を演算する。第2の処置装置20は、第1の制御量COM1が第2の制御量COM2から許容範囲TH内であると判定されるとき、第1の制御量COM1に基づいて走行機器4を制御する。第2の処置装置20は、第1の制御量COM1が第2の制御量COM2から許容範囲TH外であると判定されるとき、車両の運動量が小さくなる制御量、または車両の運動量の変化が小さい制御量に基づいて走行機器4を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の挙動に影響を与える制御対象、例えば走行用の駆動装置、および制動装置、を制御するための車両挙動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および特許文献2は、複数の処理装置、すなわちマイクロコンピュータ、における異常検出方法を開示している。これらの文献には、ウオッチドッグ信号による異常検出、または複数の処理装置における演算結果の照合による異常検出が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−255037号公報
【特許文献2】特開2009−184423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来技術の構成では、特定のタイミングにおいてだけ、演算結果の照合による異常検出が実行される。このため、異常状態の検出が遅れるおそれがあった。
【0005】
また、ひとつの処理装置に異常が発生した場合、車両の挙動、例えば、加速、減速といった走行状態、を制御する制御システムにあっては、車両の挙動が安定的に維持される必要がある。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の処理装置のひとつが異常になっても、車両の挙動を望ましい状態に制御することができる車両挙動制御装置を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、複数の処理装置のひとつが異常になっても、車両の挙動を安定的に制御することができる車両挙動制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0009】
請求項1に記載の発明は、車両の挙動を変化させる走行機器(4)を制御する車両挙動制御装置(1)において、車両の利用者からの要求を入力する要求入力センサ(2)を含む複数のセンサ(2、3)と、要求入力センサ(2)を含む複数のセンサからの複数の信号を含む第1の情報(S1、S2)に基づいて、車両の挙動を変化させるための第1の制御量(COM1)を演算する第1の処理装置(10)と、要求入力センサ(2)からの信号を含むが、第1の情報より情報量が少ない第2の情報(S1)に基づいて、車両の挙動を変化させるための第2の制御量(COM2)を演算する第2の処理装置(20)と、第2の処理装置に設けられ、第1の制御量が第2の制御量から所定の許容範囲内であるか否かを判定する対比処理部(22)と、第2の処理装置に設けられ、対比処理部によって第1の制御量が第2の制御量から許容範囲内であると判定されるとき、第1の制御量に基づいて走行機器を制御し、対比処理部によって第1の制御量が第2の制御量から許容範囲外であると判定されるとき、車両の運動量が小さくなる制御量、または車両の運動量の変化が小さい制御量に基づいて走行機器を制御する制御処理部(23)とを備えることを特徴とする。
【0010】
この構成によると、第1の処理装置は、第1の情報に基づいて第1の制御量を演算する。第1の情報には、少なくとも要求入力センサからの信号が含まれている。さらに、第1の情報には、要求入力センサからの信号とは異なる他の信号も含まれている。第2の処理装置は、第2の情報に基づいて第2の制御量を演算する。第2の情報は、少なくとも要求入力センサからの信号を含むが、第1の情報より情報量が少ない。第2の情報は、ひとつまたは複数の信号に基づく情報とすることができる。第1の制御量には、第2の制御量に反映された情報よりも多くの情報が反映される。この結果、第1の処理装置においては望ましい制御を実行するための第1の制御量を演算することができる。一方、第2の処理装置における処理負荷が軽減される。第1の制御量と第2の制御量とは、第2の処理装置に設けられた対比処理部において対比される。ここでは、第1の制御量が第2の制御量から所定の許容範囲内であるか否かが判定される。制御処理部は、判定処理部における判定結果に応答して、車両の走行機器を制御するための制御モードを選択し、切換える。ここでは、対比処理部によって第1の制御量が第2の制御量から所定の許容範囲内であると判定されるとき、第1の制御量に基づいて走行機器が制御される。すなわち、センサおよび処理装置が正常である間は、第1の制御量に基づいて走行機器が制御される。一方、対比処理部によって第1の制御量が第2の制御量から所定の許容範囲外であると判定されるとき、車両の運動量が小さくなる制御量、または車両の運動量の変化が小さい制御量に基づいて走行機器が制御される。すなわち、センサおよび第1の処理装置の少なくとも一部に不具合が生じた場合には、車両の運動量が小さくされるか、または車両の運動量の変化が小さくされる。この結果、複数の処理装置のひとつが異常になっても、車両の挙動を望ましい状態に制御することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、第2の情報は、第1の情報に含まれるひとつまたは複数のセンサ(3)からの信号(S2)を含まないことにより、第1の情報より情報量が少ないことを特徴とする。この構成によると、第2の情報は、第1の情報に含まれるひとつまたは複数のセンサからの信号を含まない。すなわち、第2の制御量に反映されるセンサ信号の数は、第1の制御量に反映されるセンサ信号の数より少ない。
【0012】
請求項3に記載の発明は、対比処理部(22)は、第1の制御量が第2の制御量から所定の許容範囲外であると判定されるとき、さらに、第1の制御量および第2の制御量から、車両の運動量が小さくなる制御量、または車両の運動量の変化が小さい制御量を選択するように構成され、制御処理部(23)は、選択された制御量に基づいて走行機器を制御することを特徴とする。この構成によると、第1の制御量および第2の制御量から、車両の挙動が安定側となるほうが選択される。そして、選択された制御量に基づいて走行機器が制御される。
【0013】
請求項4に記載の発明は、対比処理部(22)は、第1の制御量および第2の制御量から、車両の運動量を減少させるほうを選択するように構成されていることを特徴とする。この構成によると、車両の運動量を減少させる制御量が選択されることによって、車両の挙動が安定側に制御される。
【0014】
請求項5に記載の発明は、車両の運動量を変化させる指標が大きくなるほど、許容範囲を小さく設定する設定処理部(24)を備えることを特徴とする。この構成によると、車両の運動量を変化させる指標が大きくなると、許容範囲が小さく設定される。よって、車両の運動量、または運動量の変化を小さくするための選択処理が実行されやすくなる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、走行機器は、車両の挙動に影響を与える複数の機器(4a、4b)を備え、第1の処理装置(10)は、複数の機器のための複数の制御量を演算するよう構成され、第2の処理装置(20)は、複数の機器のひとつを制御するよう構成されていることを特徴とする。この構成によると、第1の処理装置は、複数の機器のための複数の制御量を演算する。一方、第2の処理装置は、第1の処理装置からの指令に応じて走行機器を制御する。すなわち、第1の処理装置と第2の処理装置とは、主従関係を構成している。この構成では、従たる第2の処理装置に対比処理部と制御処理部とが設けられる。よって、主たる第1の処理装置に異常が生じても、従たる第2の処理装置によって車両の挙動が安定側に制御される。
【0016】
請求項7に記載の発明は、さらに、第1の処理装置から供給される第3の制御量に基づいて複数の機器の他のひとつを制御する第3の処理装置(30)を備えることを特徴とする。この構成によると、走行機器に含まれる複数の機器を総合的に制御するシステムが提供される。しかも、主たる第1の処理装置に異常が生じても、従たる第2の処理装置によって車両の挙動が安定側に制御される。
【0017】
請求項8に記載の発明は、走行機器は、車両の車輪に加えられる駆動力を調節する機器(4a、4b)を含むことを特徴とする。この構成によると、車両の車輪に加えられる駆動力を安定的に制御することができる。
【0018】
請求項9に記載の発明は、走行機器は、車両の車輪に加えられる制動力を調節する機器(4a、4b)を含むことを特徴とする。この構成によると、車両の車輪に加えられる制動力を安定的に制御することができる。
【0019】
請求項10に記載の発明は、第1の処理装置から第2の処理装置へ第1の制御量を送受信する通信装置(9)を備えることを特徴とする。この構成によると、第1の処理装置から第2の処理装置へ第1の制御量を送信し、第2の処理装置において第1の制御量を受信することができる。
【0020】
なお、特許請求の範囲および上記手段の項に記載した括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を適用した第1実施形態に係る車両挙動制御装置を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態の許容範囲THの設定特性を示すグラフである。
【図3】第1実施形態の主処理装置の処理を示すフローチャートである。
【図4】第1実施形態の副処理装置の処理を示すフローチャートである。
【図5】本発明を適用した第2実施形態に係る車両挙動制御装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。また、後続の実施形態においては、先行する実施形態で説明した事項に対応する部分に百以上の位だけが異なる参照符号を付することにより対応関係を示し、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0023】
(第1実施形態)
図1において、制御システム1は、車両に搭載され、車両の挙動を制御するための車両挙動制御装置を提供する。制御システム1は、車両の運転者を含む利用者からの要求に応じて、さらに、車両の実際の挙動に応じて、車両の走行挙動を望ましい状態に制御するように構成されている。制御システム1は、走行のための駆動力と、走行のための制動力とを制御する。制御システム1は、内燃機関と電動機との少なくともひとつによって選択的に車両を走行させることができるハイブリッド車両のための制御システムである。
【0024】
制御システム1は、車両の挙動を制御するために必要な情報を入力するための複数のセンサ(SNR1、SNR2)2、3を備える。複数のセンサ2、3には、車両の利用者からの要求を入力する要求入力センサ2が含まれている。要求入力センサ2は、例えば、車両の運転者によって操作されるアクセルペダルによって提供される。
【0025】
制御システム1は、車両の挙動を変化させる走行機器(VHDD)4を備える。走行機器4は、車両の挙動に影響を与える複数の機器4a、4bを備える。走行機器4は、車両の車輪5の回転速度を加速または減速する機器4a、4bを含む。走行機器4は、車両の車輪に加えられる駆動力を調節する機器4a、4bを含む。機器4aは、例えば、内燃機関(EG)によって提供される。また、機器4bは、例えば、電動発電機(MG)によって提供される。機器4a、4bは、車輪5の回転速度を減速することもできるから、車輪5の回転を制動する機器でもある。走行機器4は、内燃機関および電動発電機の少なくとも一方によって車輪5を駆動することができる、いわゆるハイブリッド駆動装置である。さらに、走行機器4は、車両の車輪5に加えられる制動力を調節する機器を含むことができる。そのような機器は、例えば、車輪5の回転を制動するブレーキ装置によって提供される。
【0026】
制御システム1は、走行機器4を制御する車両挙動制御装置として機能する電子制御装置(ECU)6を備える。電子制御装置6は、第1の処理装置(MPU1)10と、第2の処理装置(MPU2)20と、第3の処理装置(MPU3)30とを備える。これら処理装置10、20、30は、マイクロコンピュータである。これら処理装置10、20、30は、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を備えるマイクロコンピュータによって提供される。記憶媒体は、コンピュータによって読み取り可能なプログラムを非一時的に格納している。記憶媒体は、半導体メモリまたは磁気ディスクによって提供されうる。制御プログラムは、処理装置によって実行されることによって、処理装置をこの明細書に記載される装置として機能させ、この明細書に記載される制御方法を実行するように処理装置を機能させる。処理装置が提供する手段は、所定の機能を達成する機能的ブロック、またはモジュールとも呼ぶことができる。
【0027】
第1の処理装置10は、複数の機器4a、4bのための複数の制御量を演算する。第1の処理装置10は、要求入力センサ2を含む複数のセンサ2、3からの複数の信号S1、S2を含む第1の情報に基づいて、車両の挙動を変化させるための第1の制御量COM1を演算する。第1の処理装置10は、走行機器4を制御するための制御量を、制御システム1によって実行可能な望ましい高度の制御性能を提供するように演算する手段を提供する。第1の処理装置10は、第1の制御量COM1を含む複数の制御量を演算するための主演算処理部(PPCM)11を備える。第1の処理装置10は、制御システム1における主処理装置として構成されている。第1の制御量COM1は、機器4a、すなわち内燃機関の出力を示している。
【0028】
第1の情報には、少なくとも要求入力センサ2からの信号S1が含まれている。さらに、第1の情報には、要求入力センサ2からの信号S1とは異なる他の信号S2も含まれている。例えば、センサ3の信号S2は、走行機器4に含まれる走行動力用の電池の残量とすることができる。主演算処理部11は、機器4a、4bを望ましい状態に制御するための正確で詳細な制御量を演算するように構成されている。第1の情報には、機器4a、4bを望ましい状態に制御するために必要な情報が含まれている。第1の処理装置10は、第1の制御量COM1を含む複数の制御量を、機器4a、4bを制御量に応じて制御するために設けられた他の処理装置に対して出力する。
【0029】
第2の処理装置20は、第1の処理装置10から指令される制御量COM1に応じて走行機器4を制御する。すなわち、第1の処理装置10と第2の処理装置20とは、主従関係を構成している。第2の処理装置20は、要求入力センサ2からの信号S1を含むが、第1の情報より情報量が少ない第2の情報に基づいて、車両の挙動を変化させるための第2の制御量COM2を演算する。第2の処理装置20は、走行機器4を制御するための制御量を簡易的に演算する手段を提供する。第2の処理装置20は、制御システム1における副処理装置として構成されている。第2の処理装置20は、第2の情報に基づいて第2の制御量COM2を演算する。第2の処理装置20は、第2の制御量COM2を演算するための副演算処理部(SPCM)21を備える。第2の処理装置20は、複数の機器4a、4bのひとつを制御するよう構成されている。第2の処理装置20は、車両の駆動力を供給するひとつの機器4aのための第2の制御量COM2を演算するよう構成されている。第2の制御量COM2は、機器4a、すなわち内燃機関の出力を示している。第2の処理装置20は、エンジン制御装置とも呼ぶことができる。
【0030】
第2の情報は、少なくとも要求入力センサ2からの信号を含むが、第1の情報より情報量が少ない。第2の情報は、ひとつまたは複数の信号に基づく情報とすることができる。第2の情報は、第1の情報に含まれるひとつまたは複数のセンサ3からの信号S2を含まないことにより、第1の情報より情報量が少ない。すなわち、第2の制御量COM2に反映されるセンサ信号の数は、第1の制御量COM1に反映されるセンサ信号の数より少ない。第2の情報には、制御量を演算するために必要最低限の情報だけを含むことができる。第1の制御量COM1には、第2の制御量COM2に反映された情報よりも多くの情報が反映される。この結果、第1の処理装置10においては望ましい制御を実行するための第1の制御量COM1を演算することができる。一方、第2の処理装置20における処理負荷が軽減される。
【0031】
第2の処理装置20は、第2の処理装置20に設けられた対比処理部(SLCM)22を備える。対比処理部22は、第1の制御量COM1が走行機器4の制御量として妥当か否かを判定する処理を提供する。対比処理部22は、第1の制御量COM1が第2の制御量COM2から所定の許容範囲内であるか否かを判定する。
【0032】
対比処理部22は、第1の制御量COM1が第2の制御量COM2から所定の許容範囲外であると判定されるとき、さらに、第1の制御量COM1および第2の制御量COM2から、いずれか一方を選択するように構成されている。よって、対比処理部22は、選択処理部22とも呼ぶことができる。対比処理部22は、第1の制御量COM1および第2の制御量COM2から、車両の運動量が小さくなる制御量、または車両の運動量の変化が小さい制御量を選択する。
【0033】
対比処理部22は、車両の運動量を減少させる制御量を選択する。車両の運動量の減少は、駆動力の減少、または制動力の増加によって実現可能であり、車両の速度の減少に対応することがある。例えば、対比処理部22では、車両を高速で走行させる制御量を選択せずに、車両を低速で走行させる制御量が選択される。例えば、車両を減速させる場合、対比処理部22では、車両の速度がより低くなる制御量が選択される。車両の運動量を減少させる制御量が選択されることによって、車両の挙動が車両の走行状態として望ましい側に制御される。
【0034】
また、対比処理部22は、車両の運動量の変化が小さい制御量を選択するように構成することができる。例えば、対比処理部22は、車両を減速させる場合、過大な急減速を生じる制御量を選択せずに、緩減速を生じる制御量を選択する。車両の運動量の変化が小さい制御量が選択されることによって、車両の挙動が車両の走行状態として望ましい側に制御される。
【0035】
対比処理部22は、第1の制御量COM1および第2の制御量COM2から、車両の挙動が安定側となるほうを選択するように構成されているとも言うことができる。車両の挙動の安定さは、車両の挙動の変化しやすさ、または車両の挙動の変化量などによって示すことができる。
【0036】
車両の挙動の変化しやすさは、例えば、車両の運動量の大きさによって示すことができる。例えば、運動量が大きいとき、すなわち速度が高いときには、車両の挙動が変化できる幅は大きいから、車両の挙動は変化しやすく、車両の挙動の安定さは低いといえる。一方、運動量が小さいとき、すなわち速度が低いときには、車両の挙動が変化できる幅は小さいから、車両の挙動は変化しにくく、車両の挙動の安定さは高いといえる。よって、車両の運動量が小さくなる制御量を選択することにより、多くの場合に、車両の挙動を安定的に制御することができる。
【0037】
また、車両の挙動の変化量は、例えば、車両の運動量の変化の大きさによって示すことができる。例えば、運動量の変化が大きいとき、すなわち加速度、減速度、旋回度などが大きいときには、車両の挙動が激しく変化するから、車両の挙動の安定さは低いといえる。一方、運動量の変化が小さいとき、すなわち加速度、減速度、旋回度などが小さいときには、車両の挙動は緩やかに変化するから、車両の挙動の安定さは高いといえる。よって、車両の運動量の変化が小さい制御量を選択することにより、多くの場合に、車両の挙動を安定的に制御することができる。
【0038】
第2の処理装置20は、第2の処理装置20に設けられた制御処理部(CNTM)23を備える。制御処理部23は、対比処理部22によって第1の制御量COM1が第2の制御量COM2から許容範囲内であると判定されるとき、第1の制御量COM1に基づいて走行機器4を制御する。さらに、制御処理部23は、対比処理部22によって第1の制御量COM1が第2の制御量COM2から許容範囲外であると判定されるとき、車両の挙動が安定側となる制御量に基づいて走行機器4を制御する。すなわち、制御処理部23は、判定処理部22における判定結果に応答して、車両の走行機器4を制御するための制御モードを選択し、切換える。センサ2、3および第1の処理装置10が正常である間は、第1の制御量COM1に基づいて走行機器4が制御される。一方、センサ2、3および第1の処理装置10の少なくとも一部に不具合が生じた場合には、車両の挙動が不安定となることが阻止される。この結果、第1の処理装置10に関連する異常が発生しても、車両の挙動を安定的に制御することができる。この構成では、従たる第2の処理装置20に対比処理部22と制御処理部23とが設けられる。よって、主たる第1の処理装置10に異常が生じても、従たる第2の処理装置20によって車両の挙動が安定側に制御される。
【0039】
制御処理部23は、対比処理部22によって選択された制御量に基づいて走行機器4を制御する。対比処理部22では、第1の制御量COM1および第2の制御量COM2から、車両の挙動が安定側となるほうが選択される。そして、選択された制御量に基づいて走行機器4が制御される。
【0040】
第2の処理装置20は、許容範囲THを設定するための設定処理部(PSTM)24を備える。設定処理部24は、運動量を変化させる指標が大きくなるほど、許容範囲THが小さくなるように許容範囲THを設定する。運動量を変化させる指標は、運動量を示す指標、運動量の変化を示す指標、または運動量の変化しやすさを示す指標によって提供することができる。
【0041】
例えば、運動量を変化させる指標として、運動量の大きさを示す車両の速度を直接的または間接的に示す指標を利用することができる。内燃機関の出力を示す第1および第2の制御量COM1、COM2は、車両の速度を示しているともいえる。設定処理部24は、車両の速度が高いほど、許容範囲THが小さくなるように許容範囲を設定している。すなわち、設定処理部24は、制御量によって実現される車両の運動量が大きいほど、許容範囲THが小さくなるように許容範囲THを設定しているといえる。運動量の大きさは、運動量の変化しやすさも示すことがある。例えば、車両の速度が高いほど、速度の変化可能な幅は大きくなるから、速度だけであっても、運動量を変化させる指標として利用することができる。また、運動量を変化させる指標として、加速度、または減速度を直接的に、または間接的に示す指標を利用することができる。例えば、第1および第2の制御量COM1、COM2によって制動装置が制御される場合、制動力が大きくなるほど、すなわち減速度が大きくなるほど、許容範囲THが小さくなるように許容範囲THを設定することができる。運動量を変化させる指標は、車両の走行状態としての望ましさを示しているともいえる。この観点では、車両の走行状態が望ましくないほど、許容範囲THが小さくなるように許容範囲THが設定されているといえる。
【0042】
具体的には、設定処理部24は、図2に図示されるように、第1の制御量COM1の大きさに応じて許容範囲THを設定する。第1の制御量COM1が車両の駆動力の大きさを示している場合、許容範囲THは、第1の制御量COM1に対して反比例的に設定される。すなわち、第1の制御量COM1が大きくなり、車両を加速させるための駆動力が大きくなるほど、許容範囲THは小さく設定される。また、第1の制御量COM1が車両の制動力の大きさを示している場合、許容範囲THは、第1の制御量COM1に対して反比例的に設定される。すなわち、第1の制御量COM1が大きくなり、車両を減速させるための制動力が大きくなるほど、許容範囲THは小さく設定される。許容範囲THは、所定の上限と下限とを有するように設定することができる。この構成によると、可変の許容範囲が設定される。よって、許容範囲が小さく設定されるときには、車両の挙動を安定側に制御するための選択処理が実行されやすくなる。
【0043】
さらに、制御システム1は、第1の処理装置10から供給される制御量に基づいて複数の機器4a、4bの他のひとつを制御する第3の処理装置(MPU3)30を備える。第3の処理装置30は、車両の駆動力を供給するひとつの機器4bのための制御量を演算するよう構成されている。第3の処理装置30は、回転電機のための制御装置とも呼ぶことができる。第3の処理装置30は、車両の制動力を供給する機器のための制御量を演算するように構成されてもよい。この構成によると、車両の車輪に加えられる制動力を安定的に制御することができる。第3の処理装置30は、制動装置のための制御装置とも呼ぶことができる。第3の処理装置30は、第2の処理装置20と同様の構成を備えることができる。この構成によると、走行機器4に含まれる複数の機器4a、4bを第1の処理装置10によって総合的に制御するシステムが提供される。よって、車両の挙動が安定側に制御される。
【0044】
図3において、第1の処理装置10は、図示された処理150を繰り返して実行する。ステップ151では、センサ2、3の信号S1、S2を入力する。ここでは、信号S1、S2が第1の情報に対応する。ステップ152では、第1の制御量COM1を算出するための演算処理fmain(S1、S2)を実行する。ステップ153では、第1の制御量COM1を第2の処理装置20へ送信する。
【0045】
図4において、第2の処理装置20は、図示された処理160を繰り返して実行する。ステップ161では、センサ2の信号S1だけを入力する。ここでは、信号S1が第2の情報に対応する。ステップ162では、第2の制御量COM2を算出するための演算処理fsub(S1)を実行する。ステップ152における演算処理は、制御システム1によって実行可能な望ましい制御性能を提供するための演算処理である。一方、ステップ162における演算処理は、ステップ152により提供される制御要求に対して、その妥当性を判断するための演算処理である。ステップ162における演算処理は、ステップ152における演算処理に比べて、簡易的な演算処理である。第2の制御量COM2は、車両の利用者からの要求には応えた制御量として演算されている。ステップ163では、第1の処理装置10から送信された第1の制御量COM1を受信する。
【0046】
ステップ164は、対比処理部22を提供する。対比処理部22には、少なくともステップ166と、ステップ167との処理を含むことができる。まず、ステップ165では、第1の制御量COM1と第2の制御量COM2とが等しいか否かを判定する。COM1=COM2の場合、ステップ169へ進む。COM1≠COM2の場合、ステップ166へ進む。ステップ166では、第1の制御量COM1と第2の制御量COM2との差の絶対値|COM1―COM2|が所定の許容範囲TH内であるか、許容範囲TH外であるかを判定する。ここで、許容範囲THは、図2に示される設定特性に基づいて設定される。|COM1―COM2|<THの場合、ステップ169へ進む。|COM1―COM2|>=THの場合、ステップ167へ進む。ステップ167では、第1の制御量COM1と第2の制御量COM2とを対比し、車両の挙動が安定側となる制御量を選択する。ここでは、制御量COM1、COM2が車両の駆動力を示している。よって、第1の制御量COM1および第2の制御量COM2から、小さいほうを選択する。この結果、車両の駆動力が小さいほうの制御量が選択される。COM1>COM2の場合、ステップ170へ進む。COM1<=COM2の場合、ステップ169へ進む。
【0047】
ステップ168は、制御処理部23を提供する。ステップ169では、第1の制御量COM1に基づいて走行機器4を制御する。ステップ170では、第2の制御量COM2に基づいて走行機器4を制御する。
【0048】
例えば、電池の残量が低い場合、第1の処理装置10は、内燃機関4aの出力を高く制御することにより、内燃機関4aによって電動発電機4bを駆動し、電池の充電を図ろうとする。このとき、第2の処理装置20は、利用者の要求だけに基づいて第2の制御量COM2を演算する。よって、COM1>COM2となる。しかし、|COM1―COM2|<THである場合には、第2の処理装置20は、第1の制御量COM1に基づいて内燃機関4aを制御する。
【0049】
また、電池の残量が高い場合、第1の処理装置10は、内燃機関4aの出力を低く抑え、不足する駆動力を電動発電機4bから車輪5を駆動することによって補なおうとする。このとき、第2の処理装置20は、利用者の要求だけに基づいて第2の制御量COM2を演算する。よって、COM1<COM2となる。しかし、|COM1―COM2|<THである場合には、第2の処理装置20は、第1の制御量COM1に基づいて内燃機関4aを制御する。
【0050】
また、第1の処理装置10に何らかの異常が発生した場合、|COM1―COM2|>THとなっても、小さいほうの制御量に基づいて内燃機関4aが制御される。
【0051】
(第2実施形態)
上記実施形態では、複数の処理装置10、20、30を、ひとつの電子制御装置6の内部に構成した。これに代えて、複数の電子制御装置によって制御システム1を構成してもよい。図5において、制御システム1は、第1の電子制御装置(ECU1)206、第2の電子制御装置(ECU2)207、および第3の電子制御装置(ECU3)208を備える。第1の電子制御装置206は、第1の処理装置10を備える。第2の電子制御装置207は、第2の処理装置20を備える。第3の電子制御装置208は、第3の処理装置30を備える。さらに、第1の電子制御装置206と第2の電子制御装置207との間には、第1の処理装置10から第2の処理装置20へ第1の制御量COM1を送受信する通信装置9が設けられている。通信装置9は、車両に敷設された通信ケーブルと、この通信ケーブルを介してデータ通信を実行する送受信装置を含む。通信装置9は、例えば、車両用のLANによって提供することができる。この構成によると、第1の処理装置10から第2の処理装置20へ第1の制御量COM1を送信し、第2の処理装置20において第1の制御量COM1を受信することができる。
【0052】
(他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。上記実施形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【0053】
例えば、制御装置が提供する手段と機能は、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、制御装置をアナログ回路によって構成してもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、第2の処理装置20に副演算処理部21と、対比処理部22と、制御処理部23とを設けたが、第3の処理装置30にも、上記と同様の構成を設けてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、要求入力センサとして、アクセルペダルを例示した。これに代えて、要求入力センサとして、車両の走行速度を設定する設定装置を採用してもよい。この場合、車両挙動制御装置1は、クルーズコントローラとも呼ばれる車両の速度制御装置を提供する。また、要求入力センサとして、ブレーキペダルを採用してもよい。この場合、走行機器4は、車輪5に制動力を与えるブレーキ装置であり、第1の処理装置10は制動力に対応する第1の制御量COM1を演算し、第2の処理装置20は、第1の制御量COM1または第2の制御量COM2に応じてブレーキ装置を制御するように構成される。
【符号の説明】
【0056】
1 制御システム(車両挙動制御装置)、 2 要求入力センサ、 3 センサ、 4 走行機器、 5 車輪、 6、206、207 電子制御装置、 10 第1の処理装置、 11 主演算処理部、 20 第2の処理装置、21 副演算処理部、 22 対比処理部、 23 制御処理部、 24 設定処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の挙動を変化させる走行機器(4)を制御する車両挙動制御装置(1)において、
前記車両の利用者からの要求を入力する要求入力センサ(2)を含む複数のセンサ(2、3)と、
前記要求入力センサ(2)を含む複数のセンサからの複数の信号を含む第1の情報(S1、S2)に基づいて、前記車両の挙動を変化させるための第1の制御量(COM1)を演算する第1の処理装置(10)と、
前記要求入力センサ(2)からの信号を含むが、前記第1の情報より情報量が少ない第2の情報(S1)に基づいて、前記車両の挙動を変化させるための第2の制御量(COM2)を演算する第2の処理装置(20)と、
前記第2の処理装置に設けられ、前記第1の制御量が前記第2の制御量から所定の許容範囲内であるか否かを判定する対比処理部(22)と、
前記第2の処理装置に設けられ、
前記対比処理部によって前記第1の制御量が前記第2の制御量から前記許容範囲内であると判定されるとき、前記第1の制御量に基づいて前記走行機器を制御し、
前記対比処理部によって前記第1の制御量が前記第2の制御量から前記許容範囲外であると判定されるとき、前記車両の運動量が小さくなる制御量、または前記車両の運動量の変化が小さい制御量に基づいて前記走行機器を制御する制御処理部(23)とを備えることを特徴とする車両挙動制御装置。
【請求項2】
前記第2の情報は、前記第1の情報に含まれるひとつまたは複数のセンサ(3)からの信号(S2)を含まないことにより、前記第1の情報より情報量が少ないことを特徴とする請求項1に記載の車両挙動制御装置。
【請求項3】
前記対比処理部(22)は、
前記第1の制御量が前記第2の制御量から所定の許容範囲外であると判定されるとき、さらに、前記第1の制御量および前記第2の制御量から、前記車両の運動量が小さくなる制御量、または前記車両の運動量の変化が小さい制御量を選択するように構成され、
前記制御処理部(23)は、
選択された制御量に基づいて前記走行機器を制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両挙動制御装置。
【請求項4】
前記対比処理部(22)は、
前記第1の制御量および前記第2の制御量から、前記車両の運動量を減少させるほうを選択するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の車両挙動制御装置。
【請求項5】
前記車両の運動量を変化させる指標が大きくなるほど、前記許容範囲を小さく設定する設定処理部(24)を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の車両挙動制御装置。
【請求項6】
前記走行機器は、前記車両の挙動に影響を与える複数の機器(4a、4b)を備え、
前記第1の処理装置(10)は、複数の前記機器のための複数の制御量を演算するよう構成され、
前記第2の処理装置(20)は、複数の前記機器のひとつを制御するよう構成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の車両挙動制御装置。
【請求項7】
さらに、前記第1の処理装置から供給される第3の制御量に基づいて複数の前記機器の他のひとつを制御する第3の処理装置(30)を備えることを特徴とする請求項6に記載の車両挙動制御装置。
【請求項8】
前記走行機器は、前記車両の車輪に加えられる駆動力を調節する機器(4a、4b)を含むことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の車両挙動制御装置。
【請求項9】
前記走行機器は、前記車両の車輪に加えられる制動力を調節する機器(4a、4b)を含むことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の車両挙動制御装置。
【請求項10】
前記第1の処理装置から前記第2の処理装置へ前記第1の制御量を送受信する通信装置(9)を備えることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の車両挙動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−95379(P2013−95379A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242660(P2011−242660)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】