説明

車両搭載機器用電源監視システム

【課題】車両のバッテリ電圧をトランスにより昇圧して作動する車両搭載機器において、各種負荷の変動やアイドリングストップ等の機能による大きな電圧変動があった時でも、車両搭載機器の異常作動を確実に検出可能な「車両搭載機器電源監視システム」とする。
【解決手段】車両のバッテリの電圧を検出し、これを昇圧する車両搭載機器の電源回路のトランスの巻線比を取得し、車両搭載機器の電源昇圧電圧を検出する。この電源昇圧電圧の上下に所定の許容幅を、電源昇圧電圧に対する割合である電圧変動許容率で設定し、それにより機器電源昇圧電圧より高い上限値と、低い下限値を演算し、検出した車両搭載機器の作動電圧が、上限値と下限値との間にない時、現在の車両搭載機器の作動電圧は異常であると判定し、機器の起動停止や作動停止を行う。この時の電圧変動許容率は、予め設定した所定の率とし、或いは機器の負荷や周囲の環境等によって変動させても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のバッテリで作動する車両搭載機器について、バッテリの電圧変動や機器自体の負荷変動等による電圧変動の影響によって、現在機器が適正な電圧で作動しているか否かを、適切に監視可能な車両搭載機器用電源監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両にはヘッドユニットやナビゲーション装置、、ディスクチェンジャ、特に音響効果を高めるために搭載するスピーカシステムとパワーアンプ等々の各種の機器が搭載され、それぞれ車両のエンジンで発電機を駆動して充電しているバッテリの電源を用いて作動することができるようになっている。
【0003】
このような車両のバッテリは、前記のような車両搭載機器以外にも、ヘッドランプを初めとする各種照明用機器、霜取り用電熱ヒータ、ワイパー、エアコン用補助機器等々の各種の車両補助機器の駆動にもその電源として用いられている。そのため、これらの車両補助機器の作動状態によって、予め例えば12V等の所定の電圧に維持されるように充電しているバッテリについても、一時的に電圧が低下し、或いは比較的長時間電圧が低下する状態が継続することがある。
【0004】
そのため、前記のようなヘッドユニット、ナビゲーション装置、パワーアンプ等の各種車両搭載機器については、例えばそれらの機器を起動する時、特にバッテリ電圧が所定よりも低いと各機器が誤作動する危険があるため、起動しないように監視し、或いはそれらの機器が作動中でもバッテリ電圧が所定よりも低下したときには誤作動する危険性が高くなるため、作動を停止する処理を行っていた。
【0005】
その際には例えば従来例(1)を示す図4(a)のように、車両用のバッテリ31と例えばオーディオ装置等の車両搭載機器32が接続し、車両搭載機器作動部34として示す機器の作動部が所定の作動を行う時、車両搭載機器32が所定の作動を行うために必要な電圧、即ち、それ以下では車両搭載機器作動部34で所定の作動を行うことができないと予測される電圧になっていないか否かを監視する車両搭載機器作動電圧監視部33を設けて監視を行っている。この車両搭載機器作動電圧監視部33は、多くの場合各車両搭載機器の制御部のマイコンに組み込まれている。
【0006】
図示する車両搭載機器作動電圧監視部33の例においては、バッテリ電圧検出部35において、車両用のバッテリ31から車両搭載機器32に供給される電圧(Vbatt)を逐次検出し、その検出値を機器作動電圧異常判定部38に出力している。したがってここではバッテリ31が本来12Vの電圧を維持するように設定されている時、このバッテリ31を電源として使用する各種の機器の負荷と、バッテリ31に対するエンジンによる発電機駆動能力のバランスによって、例えば9Vに電圧が低下している時には、このバッテリ電圧検出部35においてVbattは9Vであることを検出して、機器作動電圧異常判定部38に出力する。この時のバッテリ電圧検出部35においては、前記のように各車両搭載機器作動電圧監視部33としての機能を行うマイコンに対して、そのA/Dコンバータに入力し、デジタル信号として所定のデータ処理を行うことができる。
【0007】
一方、車両搭載機器作動電圧監視部33にはバッテリ基準電圧設定部36を備え、各車両搭載機器32が本来何Vのバッテリに接続して作動するように設計されているかの電圧値(Vbatt(s))を設定している。したがって、バッテリ31が本来12Vを維持するように設定されている時には、この車両搭載機器32は12Vの電圧が供給されて作動するものとして設計されているため、この場合はバッテリ基準電圧設定部36では、Vbatt(s)=12Vとして予め設定することとなる。
【0008】
バッテリ電圧対応電圧変動許容範囲設定部37では、バッテリ基準電圧設定部36における前記のような例えば12V等のバッテリ基準電圧に対して、各種の車両搭載機器32がそれぞれ適正に作動を行うために必要な電圧変動の許容範囲を設定している。図4に示す例においては、この車両搭載機器が適正に作動する範囲として、バッテリ基準電圧(Vbatt(s))に対して±aの許容範囲を設定した例を示している。それによりバッテリ電圧対応電圧変動許容範囲の上限Vbatt(max)を[Vbatt(s)+a]に設定し、下限Vbatt(min)を[Vbatt(s)−a]に設定した例を示している。
【0009】
機器作動電圧異常判定部38では、前記のようなバッテリ電圧検出部35からの現在のバッテリ電圧Vbattと、バッテリ電圧対応電圧変動許容範囲設定部37からの上限値Vbatt(max)と下限値Vbatt(min)の値とを比較し、バッテリ電圧Vbattが前記上限値Vbatt(max)と下限値Vbatt(min)との間に入っているか、即ち、Vbatt(min)<Vbatt<Vbatt(max)の正常範囲であるか否かを判定する。
【0010】
このときの判定は図4(b)に図示すように、12V等の固定値である基準電圧Vbatt(s)を中心に、予め設定している固定値としての電圧幅である例えば±2V等の±aを設定し、この範囲に計測したバッテリ電圧Vbattが入っている時には「正常」であると判定し、範囲外であると判定した時、即ちVbatt≦Vbatt(min)である時、及びVbatt≧Vbatt(max)の時には「異常」と判定する。
【0011】
したがって、バッテリ31のバッテリ基準電圧Vbatt(s)が例えば12Vであるとき、バッテリ電圧対応電圧変動許容範囲±aが±2Vである場合には、上限置Vbatt(max)はVbatt(s)+aが12V+2V=14Vとなり、下限置Vbatt(min)はVbatt(s)−aが12V−2V=10Vとなる。
【0012】
その結果、バッテリ電圧検出部35で現在の車両搭載機器32に供給されているバッテリ電圧Vbattが9Vであるときには、機器作動電圧異常判定部38では車両搭載機器32の作動電圧は「異常」であると判別し、適正が作動を行うことができないと判定する。それにより機器作動電圧異常出力部39は、例えば現在この車両搭載機器32の電源が入れられたばかりの時には機器の誤作動防止のために起動しないような出力を行い、車両搭載機器32が適正作動中に前記のような異常出力がなされた時には直ちに車両搭載機器32の作動を停止する出力を行う。また、その際には必要に応じて「バッテリ電圧低下」等の表示を行って利用者に伝えるようにする。
【0013】
従来の車両搭載機器における作動電圧の監視手法として、前記のように図4に示すような車両搭載機器に対して車両のバッテリから供給されるバッテリ電圧を逐次検出し、適正範囲に入っているか否かを監視する以外に、例えば図5に従来例(2)として示すように、特に車両搭載機器42の電源回路44の出力電圧(Vo)を監視し、この電圧値が所定の範囲に入っているか否かを監視することも行われている。
【0014】
即ち図5に示す従来の例においては、オーディオ装置等の車両搭載機器42にバッテリ41から取り込んだ電圧(Vbatt)を昇圧する等の作動を行う電源回路44を備えている時、車両搭載機器42が適正な出力電圧で作動しているか否かを、この電源回路の出力電圧(Vo)を監視することにより判定する例を示している。
【0015】
従って図5に示す例においては、車両搭載機器作動電圧監視部43の内部電源回路出力電圧検出部46で車両搭載機器42の電源回路44の出力電圧(Vo)を取り込んで、機器作動電圧異常判定部49に出力する。また、内部電源回路出力基準電圧設定部47では、それぞれの機器特有の電源回路の出力電圧に対応して基準となる電圧(Vo(s))を設定し、内部電源回路電圧対応電圧変動許容範囲設定部47ではその基準電圧値に±bの許容範囲としての上限と下限を設定する。
【0016】
図5に示す例においては、上限の電圧Vo(max)は、前記基準電圧Vo(s)に予め設定した所定の許容範囲の電圧であるbをプラスしてVo(s)+bとし、下限の電圧Vo(min)は、前記基準電圧Vo(s)に予め設定した所定の許容範囲の電圧であるbをマイナスしてVo(s)−bとしている。
【0017】
機器作動電圧異常判定部49では、前記のような内部電源回路出力電圧検出部46で検出した現在の電源回路の出力電圧が、内部電源回路電圧対応電圧許容範囲設定部48で設定した上限値と下限値内に存在するか否かを判定する。したがってここでは図示するように、Vo(min)<Vo<Vo(max)であるか否かを判定し、その範囲内にある時には正常範囲であると判定する。この判定手法は図5(b)に示している。また、この範囲外である時には車両搭載機器の内部電源回路の出力電圧は機器が適正に作動しない可能性が強いものとして「異常」の判定を行い、機器作動電圧異常出力部50から、前記図4と同様の出力を行う。
【0018】
従来の車両搭載機器の電源電圧監視技術は、前記のように車両のバッテリ電圧を直接検出して監視する手法と、各車両搭載機器が備えている電源回路の出力電圧を監視する手法が存在するほか、より正確に電源電圧の監視を行うために、両手法を併用することも行われ、それにより車両搭載機器のバッテリ電圧の影響、更には車両搭載機器内部の電源回路の電圧も監視し、電圧異常時の車両搭載機器の作動を安全に、且つ確実に行うことができるようにしている。
【0019】
なお、電圧の異なる複数系統の電源で動作することのできる電源装置において、電源電圧の検出レベルの手動設定を不要にし、電源装置に供給されている電源電圧に対応した電圧検出信号が自動的に得られるようにするため、100V用の低圧用電圧検出部と200V用の高圧用電圧検出部をそれぞれ設け、各電圧検出部は公称電圧の例えば80%以上の電圧が供給されている場合は、公称電圧の例えば80%を超えている期間に対応したパルス幅の電圧検出信号を出力し、電圧検出信号選択切替回路では、高圧電圧検出信号が供給されている場合は、高圧電圧検出信号を入力電圧検出信号として出力し、高圧電圧検出信号が供給されていない場合は、低圧電圧検出信号を入力電圧検出信号として出力するようにした技術は特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平11−202005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
近年の車両においては、特に省エネルギー化が進み、各種の手法によって車両の燃費向上を図っている。その対策の一つとして特に都市内を走行する車両が多数の信号で比較的長時間停車することが多い時に、信号待ちで停車している時のエンジンのアイドリングによる燃料消費を減少するため、アイドリング時にはできる限りエンジンを停止しておき、アクセルを踏んだ時にエンジンを起動して走行する、通称アイドリングストップと称されるエンジンの制御手法を採用する車両も多くなっている。
【0022】
このようなアイドリングストップの手法を用いると、特に都市内を走行する時には頻繁にエンジンが停止され、その際には車両に搭載されているバッテリに対する充電時間が大きく減少してしまう。そのため、このようなアイドリングストップを行う車両のバッテリは、従来の車両のバッテリよりも電圧自体がより低下し、しかもそれが長時間継続することが多くなる。
【0023】
したがって、このような車両に搭載する機器においては、従来よりも低電圧でも確実に作動する機能が求められると共に、特にバッテリ電圧が低下する可能性が高くなるため、所定以上のバッテリ低下時には確実に機器の作動を停止し、誤作動を起こさないようにすることが求められる。
【0024】
そのためもあり車両搭載機器においては低電源電圧でも確実に作動できるように、電源回路にトランスを用いた昇圧電源を備えることが多くなっている。特にオーディオ装置においては高音質大音量化が求められており、低音を確実に出力できる大出力のウーハを搭載することが多くなり、そのためにもオーディオ装置には電源回路に昇圧のためのトランスを備え、高電圧で大出力の作動を可能としている。また、他の車両搭載機器においても、より確実な機器作動を保証するため、電源回路にトランスを用いて電源回路出力を昇圧することが多くなってきている。
【0025】
このように電源回路に昇圧用のトランスを用いる時には、車両搭載機器の作動における信号も比例して昇圧される。それによりDC−DCコンバータでは、出力電圧の上限値がトランスの巻線比とバッテリ電圧とによって決まるため、例えばバッテリ電圧が低下したときにはそれに伴い出力電圧は大きく低下する傾向となる。
【0026】
このことを考慮し、バッテリ電圧の低下に伴う各車両搭載機器の電源回路の出力電圧の大幅な低下を避けるために、電源回路のトランスの巻線比を上げなければならなくなる。しかしながら、単純にトランスの巻き線比を上げると、通常動作時のバッテリ電圧では機器作動の際の信号のデューティー比が低くなってしまい、電源の効率が悪化してしまうという問題を生じる。
【0027】
また、トランスの巻線比を変えなければ、バッテリ電圧が低下したときに機器の電源回路の出力電圧が低下してしまい、通常状態での電圧検出設定では異常とされる電圧まで、出力電圧が低下してしまう場合が多くなることは前記のとおりである。逆にバッテリ電圧が上昇している場合には、車両搭載機器の作動において想定以上の負荷がかかったときでも、所定以上の電圧低下を生じていても、電圧が異常になっていることを検出可能なレベルまでには落ちず、正常と判断してしまう可能性がある、という問題を生じる。
【0028】
例えば
バッテリ電圧が14.4Vの時にトランス巻線比3倍の場合、出力電圧は43.2V
バッテリ電圧が7.0Vの時にトランス巻線比が3倍の場合、出力電圧は21.0V
となるが、この場合負荷変動による出力電圧の低下を見込んで、仮に18V迄低下したことを検出した時に電圧が「異常」であると出力するように設定すると、14.4Vを検出した時には負荷の異常などにより半分の7.2V迄落ち込んでも、「異常」状態と検出することができず、機器の作動を停止することができない。
【0029】
このことは前記図4及び図5に示した従来技術において、例え両方の技術を併用しても、図4の従来例(1)の技術では単にバッテリ電圧を監視し、また図5の従来例(2)の技術では車両搭載機器の電源回路の出力を監視するのみであり、各々の監視が関連性無く独立しているため、前記のような問題を解決することができない。
【0030】
したがって本発明は、車両用のバッテリの電源を使用し、各機器の電源回路でトランスを用いて昇圧して作動する車両搭載機器において、バッテリ電圧の各種機器の負荷変動やアイドリングストップ等の機能による大きな電圧変動と、更に車両搭載機器自体の大きな負荷変動が重畳して作用した時でも、車両搭載機器の電圧変動による異常作動を確実に検出し、異常検出時に確実にその車両搭載機器の作動を停止することが可能な車両搭載機器電源監視システムを得ることを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明に係る車両搭載機器用電源監視システムは、前記課題を解決するため、車両用のバッテリの電圧を検出するバッテリ電圧検出手段と、前記バッテリを電源として作動する車両搭載機器内で、前記バッテリの電圧をトランスにより昇圧する機器電源回路におけるトランスの巻線比を取得する機器電源トランス巻線比取得手段と、前記バッテリ電圧検出手段で検出したバッテリ電圧と、前記機器電源トランス巻線比取得手段で取得した巻線比により、車両搭載機器の電源昇圧電圧を検出する機器電源昇圧電圧検出手段と、前記機器電源昇圧電圧検出手段で検出した機器電源昇圧電圧の上下に所定の許容幅を、前記機器電源昇圧電圧に対する割合で設定する電圧変動許容率設定手段と、前記電圧変動許容率設定手段で設定した電圧変動許容率により、前記機器電源昇圧電圧より高い上限値と、前記機器電源昇圧電圧より低い下限値とを演算する電圧変動許容範囲演算手段と、前記車両搭載機器の作動電圧を検出する機器作動電圧検出手段と、前記機器作動電圧検出手段で検出した車両搭載機器の現在の機器作動電圧が、前記電圧変動許容範囲演算手段で演算した許容範囲にあるか否かを判定する機器作動電圧異常判定手段と、前記機器作動電圧異常判定手段で現在の車両搭載機器の作動電圧が前記許容範囲にないことを検出することにより異常であると判定した時、機器作動電圧が異常である信号を出力する機器作動電圧異常判定出力手段とを備えたことを特徴とする。
【0032】
本発明に係る他の車両搭載機器用電源監視システムは、前記車両搭載機器用電源監視システムにおいて、前記電圧変動許容率設定手段では、電圧変動許容率を予め設定している固定した割合に設定することを特徴とする。
【0033】
本発明に係る他の車両搭載機器用電源監視システムは、前記車両搭載機器用電源監視システムにおいて、前記電圧変動許容率設定手段では、電圧変動許容率を任意に変動した割合に設定することを特徴とする。
【0034】
本発明に係る他の車両搭載機器用電源監視システムは、前記車両搭載機器用電源監視システムにおいて、前記変動した割合は、電源に対する負荷の変動に対応した割合に設定することを特徴とする。
【0035】
本発明に係る他の車両搭載機器用電源監視システムは、前記車両搭載機器用電源監視システムにおいて、前記変動した割合は、車両搭載機器の周辺環境の変動に対応した割合に設定することを特徴とする。
【0036】
本発明に係る他の車両搭載機器用電源監視システムは、前記車両搭載機器用電源監視システムにおいて、前記変動した割合は、車両に対する指示、或いは車両搭載機器に対する指示の信号により変動することを特徴とする。
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0037】
本発明は上記のように構成したので、車両用のバッテリの電源を使用し、各機器の電源回路でトランスを用いて昇圧して作動する車両搭載機器において、バッテリ電圧の各種機器の負荷変動やアイドリングストップ等の機能による大きな電圧変動と、更に車両搭載機器自体の大きな負荷変動が重畳して作用した時でも、車両搭載機器の電圧変動による異常作動を確実に検出することができ、異常検出時に確実にその車両搭載機器の作動を停止すること、更には機器の起動時には起動自体を行わせないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例の機能ブロック図である。
【図2】同実施例の作動フロー図である。
【図3】同実施例による機能を示す図である。
【図4】従来例を示す図である。
【図5】他の従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0039】
本発明の実施例を図面に沿って説明する。図1は本発明による車両搭載機器用電圧監視システムについて、各種の態様で実施することができるようにした機能ブロック図を示している。したがって、本発明においては図1に示す各機能部を適宜選択することにより、種々の態様で実施することができる。なお、同図において各機能を行う機能部は、各機能を行う手段と言うこともできる。
【0040】
図1に示す車両用のバッテリ1は従来のものと同様にエンジンで駆動される発電機により原則として所定の電圧を維持できるように充電される。但し、前記従来技術においても述べたように、このバッテリは車両に搭載した各種機器が共通して使用するため、それらの機器の作動負荷によって充電が間に合わず、或いは電圧調整が必ずしも適正に行われない時もあり、更には近年多くの車両で採用されるようになっている、信号待ち等のアイドリング時にはエンジンを停止する通称アイドリングストップの機能を行う時、頻繁なアイドリングストップによってバッテリへの充電が充分行われないこと、等によってこのバッテリ1の電圧は大きく変化することがある。
【0041】
図1に示す車両搭載機器2としては種々のものが存在するが、高出力を必要とするオーディオ装置では高電圧を必要とすることが多く、例えば12Vになるように設定されているバッテリ電源について、トランスによって昇圧するようにした、機器電源回路4を備えている。図示の機器電源回路4の例においては、トランスの巻線比を[1:3]、即ち巻線比(n)を3とした例を示している。
【0042】
車両搭載機器2においてはこの機器電源回路4の電源を用いて、例えばオーディオ装置においてはヘッドユニットやアンプ等の作動部としての車両搭載機器作動部7を作動させている。図1に示す車両搭載機器2には、この車両搭載機器作動部7が例えばオーディオ装置である時、オーディオ信号に相当する入力信号を検出する入力信号検出部5を備え、後述するように車両搭載機器作動電圧監視部3の電圧変動許容率設定部11で、電圧変動許容率(α)を設定する時に使用可能とする。
【0043】
また、図1に示す車両搭載機器2には例えば音量を利用者が任意に指示するボリューム指示を検出するような、車両搭載機器負荷指示検出部6を備えており、この検出信号も後述するように車両搭載機器作動電圧監視部3の電圧変動許容率設定部11で、電圧変動許容率(α)を設定する時に使用可能とする。
【0044】
車両搭載機器作動電圧監視部3は、前記図4及び図5に示した従来のものと同様に、車両搭載機器2が適正に作動する電圧の範囲内にあるか否かを監視するものであり、本発明においては前記従来技術のものとはこの部分で大きく異なっている。即ち、図1に示す車両搭載機器作動電圧監視部3には機器電源トランス巻線比取得部8を備え、車両搭載機器2の電源回路4に備えるトランスの巻線比(n)を取得し、機器電源昇圧電圧検出部10に出力している。この巻線比(n)は多くの場合各車両搭載機器制作時に設計されている固有のものであるが、車両搭載機器の作動に合わせてトランスからの引出線を選択変更する等によって、巻線比(n)を変更する機能を備えたものであっても良い。
【0045】
バッテリ電圧検出部9においては、バッテリ1から車両搭載機器2の機器電源回路4に供給されるバッテリ電圧(Vbatt)を検出し、機器電源昇圧電圧検出部10に出力している。機器電源昇圧電圧検出部10においては、前記のような機器電源トランス巻線比取得部8からのトランス巻線比(n)と、バッテリ電圧検出部9からのバッテリ電圧(Vbatt)によって、車両搭載機器2の機器電源回路4から車両搭載機器作動部7に供給している、現在の機器電源昇圧電圧(Vo(typ))を検出する。
【0046】
図1に示す電圧変動許容率設定部11においては、車両搭載機器2の適正作動を行うに際して、許容できる電源電圧変動の許容率(α)を設定するものであり、この電源電圧変動許容率(α)は固定値設定部12で設定した、例えば20%等の固定値を設定しても良く、後述するように種々の状態を加味した変動値を、変動値設定部13で設定しても良い。更に必要に応じて、所定の作動状態では固定値を採用し、他の状態では変動値を設定する等、種々の態様で実施することもできる。
【0047】
図示の電圧変動許容率設定部11においては、特にこの電圧変動許容率を各種作動状態に対応して変動させるために、負荷変動検出部14を備えた例を示している。この負荷変動検出部14においては、車両搭載機器2が例えばオーディオ装置である時、入力信号検出部5でオーディオ出力する信号の、特に低音部分の音量を検出する等、オーディオ装置が特に大きな出力を必要とする状態を検出し、その信号を負荷変動検出部14が入力して、変動値設定部13に出力している。
【0048】
また、負荷変動検出部14においては、そのほか例えば車両搭載機器2の車両搭載機器負荷指示検出部6で前記のようにボリューム指示のような、利用者がオーディオ装置の負荷を変動する直接的な指示の検出信号を取り込んで、これを負荷変動検出部14で検出し、変動値設定部13に出力するようにしても良い。
【0049】
図1に示す電圧変動許容率設定部11には周辺環境検出部15を備え、図示されていない温度計等によって車両搭載機器2の作動環境の温度を検出し、例えば所定以上の高温状態にある等の機器の作動環境を検出し、その信号を変動値設定部13に出力する。ここで検出する周辺環境としては、前記のような温度のほか、通信等を介して車両電装品の環境及び動作状態を検出し、周辺機器の動作環境を検出する等、種々の周辺環境を検出することができる。
【0050】
動作指示検出部16においては、利用者による指示、或いは予め設定している所定条件での自動的な指示信号等を検出し、変動値設定部13に出力する。この時の指示としては例えばオーディオ装置における低音重視出力調整指示、エアコン等の高負荷機器作動指示、更にはバッテリ電圧の特に低下をもたらすアイドリングストップ機能作動指示等が存在しうる。したがって電圧変動許容率設定部11における変動値設定部13においては、前記のような種々の状態に対応して、適切な電圧変動許容率を設定することができる。
【0051】
電圧変動許容範囲演算部18では、前記機器電源昇圧電圧検出部10で得られた機器電源昇圧電圧(Vo(typ))と、前記電圧変動許容率設定部11で設定した電圧変動許容率(α)とによって、電圧変動が許容される上限値と下限値を演算する。その際には図示するように、上限Vo(max)については、Vo(typ)×(1+α)により得られ、下限Vo(min)については、Vo(typ)×(1−α)によって得られる。
【0052】
この電圧変動許容範囲演算部18で演算された電圧変動許容範囲は、前記のような手法によって得られたものであり、特にバッテリ電圧の現在の状態に対応し、且つ車両搭載機器の電源回路におけるトランスの巻線比を加味した機器作動電源の出力値に確実に対応し、しかもそれを基準とした適切な許容範囲が設定されることとなる。
【0053】
機器作動電圧異常判定部19においては、上記のような電圧変動許容範囲演算部18で演算した電圧変動許容範囲内に、現在の車両搭載機器2における車両搭載機器作動部7で作動している電圧を機器作動電圧検出部17で検出した機器作動電圧Voが入っているか否かを判定する。それにより図示するように、Vo(min)<Vo<Vo(max)であるときには正常範囲にあるものとし、逆にその範囲にない時には、現在の車両搭載機器の作動電圧は異常であると判定し、その際には機器作動電圧異常判定出力部20にその信号を出力する。
【0054】
機器作動電圧異常判定出力部20では、その異常判定の結果が出力された時には、車両搭載機器2が起動を開始しようとしている時には起動させないようにし、機器の作動中においては機器を停止するための出力を行う。その際には適宜各機器の表示部に、作動電圧が異常範囲のため機器を起動しない、或いは作動を停止する旨の表示を行っても良い。
【0055】
図1に示す機能ブロックからなる本発明においては、例えば図2に示す作動フローによって本発明を実施することができる。図2に示す車両搭載機器作動電圧監視処理の例においては最初、車両用バッテリ電圧(Vbatt))の検出を行う(ステップS1)。この作動は図1のバッテリ電圧検出部9で行っている。
【0056】
次いで車両搭載機器電源トランス巻線比(n)を取得する(ステップS2)。この作動は図1の機器電源トランス巻線比取得部8により行っているが、前記のように多くの場合は車両搭載機器2自体の固有値となる。その後車両搭載機器電源昇圧電圧(Vo(typ))の計算を行う(ステップS3)。この計算は図1の機器電源昇圧電圧検出部10において、図示するようにVo(typ)=Vbatt×nによって計算する。
【0057】
したがって、仮に、トランスの巻線比が1次:2次=1:3とすると、n=3となり、
Vbatt=16.0Vの時 トランス出力電圧Vo(typ)=16.0×3=48V
Vbatt=14.4Vの時 トランス出力電圧Vo(typ)=14.4×3=43.2V
Vbatt=12.0Vの時 トランス出力電圧Vo(typ)=12.0×3=36V
Vbatt=10.0Vの時 トランス出力電圧Vo(typ)=10.0×3=30V
Vbatt= 8.0Vの時 トランス出力電圧Vo(typ)= 8.0×3=24V
Vbatt= 6.0Vの時 トランス出力電圧Vo(typ)= 6.0×3=18V
として車両搭載機器電源昇圧電圧Vo(typ)が求まる。
【0058】
その後電圧変動許容率(α)の設定を行う(ステップS4)。この設定は図1の電圧変動許容率設定部11において、前記のように固定値設定部12において予め設定した20%等の固定値を採用するか、更には変動値設定部13において、負荷変動検出部14、周辺環境検出部15,動作指示検出部16等の信号によって前記のように電圧変動許容率(α)を変動して設定することにより行うことができる。
【0059】
次いで電圧変動許容範囲の演算を行う(ステップS5)。この演算は図1の電圧変動許容範囲演算部18において前記のように、上限Vo(max)については、Vo(typ)×(1+α)を演算することにより、また下限Vo(min)については、Vo(typ)×(1−α)を演算することにより行っている。それにより前記許容率(α)を20%とした場合はバッテリ電圧(Vbatt)が12.0Vの時では、トランス出力電圧Vo(typ)=12.0V×3=36Vとなり、下限値Vo(min)=Vo(typ)×(1−α)=28.8V、上限値Vo(max)=Vo(typ)×(1+α)=43.2Vとなる。
【0060】
上記のようにして、電源電圧の変動に対応し、且つトランスの巻線比によって変動する車両搭載機器電源昇圧電圧を基準として、更にその値に対する変動率を設定して上限値と下限値とを設定しているので、その最大値と最小値は負荷変動や部品のバラつき、電源回路を構成する素子のインピーダンスによって変動することとなり、各車両搭載機器の特性に応じた適切な許容範囲を設定することが可能となる。
【0061】
なお、この許容範囲の設定に際しては、本来はバッテリ電圧の変動等に応じて時々刻々と変化する。そのため、バッテリ電圧の変動を検出次第更新するようにしても良いが、一定時間間隔でバッテリ電圧を検出することによって、許容範囲を更新するようにしても良い。
【0062】
その後現在の機器作動電圧(Vo)を検出し(ステップS6)、この機器作動電圧(Vo)は電圧変動許容範囲にあるか否かを判別する(ステップS7)。この作動は図1の機器作動電圧異常判定部19において行っており、その際には前記のように、Vo(min)<Vo<Vo(max)であるか否かを判別し、範囲以内である時には「正常」として判定し、範囲外である時には「異常」であると判定する。
【0063】
図2のステップS7において、現在の機器作動電圧(Vo)は電圧変動許容範囲にはないと判別した時にはステップS8に進み、現在の機器作動電圧は異常であるという判定結果を出力する。この作動は図1の機器作動電圧異常判定出力部20から出力することとなる。それに対してステップS7において、現在の機器作動電圧は電圧変動許容範囲内にあると判別した時には、再びステップS1に戻って前記作動を繰り返す。
【0064】
図1に示すような機能ブロックの構成により、図2に示すような作動フローによって順に作動させることにより、図3に示すような機能を行う。即ち、図3(a)には電圧変動許容率(α)を固定値とした時の機能を示しており、最初に各種負荷やバッテリへの充電状態によって変動するバッテリ電圧(Vbatt)が、車両搭載機器の電源回路のトランスによってその巻線比に対応して昇圧され、変動する基準電圧としての昇圧電圧Vo(typ)=Vbatt×nが得られる。
【0065】
図3(a)の例では上下に20%等の固定した率である電圧変動許容率(α)を設定し、それにより下限値Vo(min)をVo(typ)×(1−α)によって演算し、上限値Vo(max)をVo(typ)×(1+α)で演算する。ここで車両搭載機器の現在の作動電圧Voを検出して、Vo(min)<Vo<Vo(max)であるか否かを判別することとなる。この条件を満たす時、即ち図中ハッチングで示す範囲内の時は「正常」と判定し、範囲以外の時には異常と判定する。
【0066】
図3(a)の例では電圧変動許容率(α)を例えば20%等の固定値に設定した例を示したが、同図(b)にはこの電圧変動許容率(α)を可変とし、任意に変動可能な値に設定した例を示している。それによりバッテリの各種負荷変動や、車両搭載機器自体における負荷変動、また部品のバラつき、更には電源回路を構成する素子のインピーダンス等、各車両搭載機器の特性に応じた適切な許容範囲を設定することが可能となる。
【0067】
なお、前記各実施例においては 電圧変動許容率を±αとして、上限及び下限共に同じ率に設定した例を示したが、それ以外に上限側と下限側とを互いに異なる率に設定し、よりきめの細かな作動電圧の監視を行うようにしても良い。また、その際には例えば上限側は固定値に、下限側は変動値に設定する等、更に種々の態様で実施することも可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 バッテリ
2 車両搭載機器
3 車両搭載機器作動電圧監視部
4 機器電源回路
5 入力信号検出部
6 車両搭載機器負荷指示検出部
7 車両搭載機器作動部
8 機器電源トランス巻線比取得部
9 バッテリ電圧検出部
10 機器電源昇圧電圧検出部
11 電圧変動許容率設定部
12 固定値設定部
13 変動値設定部
14 負荷変動検出部
15 周辺環境検出部
16 動作指示検出部
17 機器作動電圧検出部
18 電圧変動許容範囲演算部
19 機器作動電圧異常判定部
20 機器作動電圧異常判定出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のバッテリの電圧を検出するバッテリ電圧検出手段と、
前記バッテリを電源として作動する車両搭載機器内で、前記バッテリの電圧をトランスにより昇圧する機器電源回路におけるトランスの巻線比を取得する機器電源トランス巻線比取得手段と、
前記バッテリ電圧検出手段で検出したバッテリ電圧と、前記機器電源トランス巻線比取得手段で取得した巻線比により、車両搭載機器の電源昇圧電圧を検出する機器電源昇圧電圧検出手段と、
前記機器電源昇圧電圧検出手段で検出した機器電源昇圧電圧の上下に所定の許容幅を、前記機器電源昇圧電圧に対する割合で設定する電圧変動許容率設定手段と、
前記電圧変動許容率設定手段で設定した電圧変動許容率により、前記機器電源昇圧電圧より高い上限値と、前記機器電源昇圧電圧より低い下限値とを演算する電圧変動許容範囲演算手段と、
前記車両搭載機器の作動電圧を検出する機器作動電圧検出手段と、
前記機器作動電圧検出手段で検出した車両搭載機器の現在の機器作動電圧が、前記電圧変動許容範囲演算手段で演算した許容範囲にあるか否かを判定する機器作動電圧異常判定手段と、
前記機器作動電圧異常判定手段で現在の車両搭載機器の作動電圧が前記許容範囲にないことを検出することにより異常であると判定した時、機器作動電圧が異常である信号を出力する機器作動電圧異常判定出力手段とを備えたことを特徴とする車両搭載機器用電源監視システム。
【請求項2】
前記電圧変動許容率設定手段では、電圧変動許容率を予め設定している固定した割合に設定することを特徴とする請求項1記載の車両搭載機器用電源監視システム。
【請求項3】
前記電圧変動許容率設定手段では、電圧変動許容率を任意に変動した割合に設定することを特徴とする請求項1記載の車両搭載機器用電源監視システム。
【請求項4】
前記変動した割合は、電源に対する負荷の変動に対応した割合に設定することを特徴とする請求項3に記載の車両搭載機器用電源監視システム。
【請求項5】
前記変動した割合は、車両搭載機器の周辺環境の変動に対応した割合に設定することを特徴とする請求項3に記載の車両搭載機器用電源監視システム。
【請求項6】
前記変動した割合は、車両に対する指示、或いは車両搭載機器に対する指示の信号により変動することを特徴とする請求項3に記載の車両搭載機器用電源監視システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−44620(P2013−44620A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182054(P2011−182054)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【Fターム(参考)】