説明

車両搭載用の長尺材昇降装置

【課題】梯子等の長尺材を着脱可能に保持する保持部材を備え、保持部材が格納位置と展開位置とを相互に移行する長尺材昇降装置において、保持部材の位置移行をスムーズに実行することを可能とし、長尺材の積み降ろし作業性を向上する。
【解決手段】長尺材昇降装置10は、長尺材を着脱可能に保持する保持部材12と、車両前後方向と水平な面内での収納ボックス3に対する保持部材12のスライド及び回転を案内する案内手段20とを備える。保持部材12は、案内手段20が往復動することによって格納位置と展開位置との間を相互に移行するように構成される。長尺材昇降装置10は、収納ボックス3の後面3bに沿って車両上下方向に配設された棒状把手30を有し、棒状把手30の上端部30aは保持部材12の後端部に回転可能に連結され、棒状把手30の下端部30bは収納ボックス30bの後面3bに回転可能に連結される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両搭載用の長尺材昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両、特に火災、震災、水難事故等の各種災害の発生時に出動する、伸縮式のクレーン装置を搭載した救助工作車、消防ポンプを搭載した消防ポンプ自動車、放水用の水槽を搭載した水槽付消防車等のいわゆる消防車は、消火活動や救助活動(以下、消火活動等という)に用いる工具や救護具等の各種資機材を装備する。上記の各種消防車は、通常、各種資機材を収納するための収納庫が画成された収納ボックスを備えており、資機材の大半は収納ボックスの収納庫内に収納されるようになっている。しかしながら、例えば梯子や鳶口のような長尺の資機材(以下、長尺材という)は収納庫内に収納することが基本的に不可能である。そのため、消防車には、長尺材を着脱自在に保持可能な保持部材を備え、この保持部材が、車両の上部等で長尺材を格納してなる格納位置と、車両の下方で長尺材の積み降ろしが可能となる展開位置との間を相互に移行するように構成された昇降装置を別途搭載する場合がある。
【0003】
この種の昇降装置としては、例えば以下に示す特許文献1や特許文献2に記載されているものがある。特許文献1に記載されたものは、車両側面に沿って車両前後方向に配設された回動軸と、基端が回動軸に固定され、車両前後方向と直交する面内で旋回可能な回動アームと、回動アームの先端部に取り付けられた保持部材(同文献中「積載台」)とを主要部として構成されたものであって、保持部材を展開動作させると、保持部材は旋回して車両側方に下降する。そのため、車両の側部下方で保持部材に対する長尺材の積み降ろしが可能となる。しかしながら、このような構成では、幅員の狭い道路に消防車を停車させて消火活動等を行う際に保持部材を展開動作させることができず、消火活動等に支障を来たすおそれがある。
【0004】
一方、特許文献2に記載されたものは、車両前後方向に沿って延び、車両の天井面に固定される保持部材格納部(同文献中、基枠部材格納部)と、車両前後方向と水平な面内での車両(保持部材格納部)に対するスライド移動および回転移動が許容された保持部材(同文献中、基枠部材)とを主要部として構成される。このように構成された昇降装置であれば、車両の後部下方で長尺材の積み降ろし作業を実行することができるため、道路の幅員は考慮せずとも足りる。従って、各種消防車に設置する昇降装置として好適に採用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−155049号公報
【特許文献2】特開2005−179888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2の昇降装置においては、次のような手順を踏むことで保持部材が格納位置から展開位置に移行する。まず、保持部材の後端に取り付けられたハンドルを把持した状態で作業者が車両の後部から離反する方向に移動することにより保持部材を保持部材格納部からある程度引き出し、その後、作業者が車両の後部に接近移動することによって保持部材を車両に対して回転させ、保持部材の後端部を地面に接地させる。展開位置にある保持部材を格納位置に移行させる時には、上記手順と逆の手順を踏む。
【0007】
しかしながら、上記のハンドルは、保持部材が車両前後方向に沿った水平姿勢にある状態(格納位置、若しくは格納位置に近似した位置にある状態)において、車両の天井面と略同一の高さに位置するように設けられている。そのため、保持部材を保持部材格納部から引き出す際、及び保持部材を保持部材格納部に対して押し込む際の双方において、作業者が無理な姿勢を強いられる。これでは、保持部材の操作性、すなわち長尺材の積み下ろし作業性が悪く、一刻を争う消火活動等を円滑に行う上での障害となる可能性がある。また、保持部材の展開および格納に際して、作業者が車両前後方向に移動する必要がある点についても、作業性改善の観点から改良が求められている。
【0008】
本発明の目的は、車両の上方に梯子等の長尺材を着脱可能に保持する保持部材が格納される長尺材昇降装置において、保持部材の格納位置から展開位置への移行、及び保持部材の展開位置から格納位置への移行をスムーズに実行することを可能とし、これにより長尺材の積み降ろし作業性を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、長尺材を着脱自在に保持する保持部材と、車両の天井面後端部に設置され、車両前後方向と平行な面内での車両に対する保持部材のスライド及び回転を案内する案内手段とを備え、案内手段が往復動することにより、保持部材を、保持部材が車両上方で車両前後方向に沿った水平姿勢で保持される格納位置と、保持部材が車両後方で車両上下方向に対して傾斜した傾斜姿勢で保持される展開位置との間で相互に移行させるように構成された車両搭載用の長尺材昇降装置であって、車両の後面に沿って車体上下方向に配設される棒状把手を有し、この棒状把手は、その上端が保持部材の後端部に回転可能に連結され、その下端が車両の後面に回転可能に連結されることを特徴とする。
【0010】
なお、本発明で言う「車両の天井面」及び「車両の後面」には、上述した救助工作車、消防ポンプ自動車、水槽付消防車等のいわゆる消防車の後部に搭載される収納ボックス等の天井面及び後面の他、ワゴン車やライトバン等の箱型乗用車の天井面及び後面も含まれる。
【0011】
上記の構成を有する長尺材昇降装置であれば、棒状把手がその下端部を回動支点として回転すると、この回転動作に連動するかたちで保持部材を昇降移動させることが、すなわち保持部材を格納位置と展開位置との間で相互に移行させることができる。従って、棒状把手の下端部を適当な高さ位置で車両後面に回転可能に連結しておけば(棒状把手の長尺方向寸法を適当に設定しておけば)、救助活動等に従事する作業者が無理な姿勢を強いられることなく、地上から容易に保持部材を昇降移動させることができる。また、棒状把手は、その下端部を中心とした円弧状の軌跡を描くようにして回転することから、保持部材の昇降移動は、作業者の移動を伴わずに実行することができる。以上のことから、本発明に係る車両搭載用の長尺材昇降装置によれば、保持部材の位置移行をスムーズに実行することができるので、長尺材の積み降ろし作業の作業性向上が図られる。
【0012】
上記構成において、案内手段は、保持部材に設けたレール部に嵌合され、保持部材の車両に対するスライドを案内するスライド案内部材と、スライド案内部材を保持部材と共に車体に対して回転させる回転機構とを備えるものとすることができる。この場合、回転機構は、保持部材の格納位置又は展開位置の何れか一方から他方への移行開始時に、スライド案内部材を上記他方に付勢するように構成されたものとすることができる。
【0013】
このような構成によれば、保持部材の格納位置から展開位置への移行が開始された際(保持部材の下降動作が開始された際)、保持部材には、これを展開位置へ移行させる方向の付勢力が作用し、また、保持部材の展開位置から格納位置への移行が開始された際(保持部材の上昇動作が開始された際)、保持部材には、これを格納位置へ移行させる方向の付勢力が作用するので、棒状把手の回転を開始させるときの初動負荷が軽減される。これにより、棒状把手の操作性が向上し、保持部材の位置移行を一層スムーズに実行することが、すなわち長尺材の積み降ろし作業の作業性を一層向上することが可能となる。
【0014】
上記構成において、回転機構は、保持部材の格納位置又は展開位置の何れか一方から他方への移行が所定量進行した時に、スライド案内部材を上記一方に付勢するように構成されたものとすることができる。このようにすれば、保持部材が格納位置から展開位置へ向かって所定量移行した際、及び保持部材が展開位置から格納位置へ向かって所定量移行した際の双方において、保持部材に対して緩衝力が作用する。そのため、保持部材の移行完了時に保持部材に作用する衝撃力が軽減され、保持部材、さらには保持部材に保持される長尺材が破損等する可能性が効果的に減じられる。
【0015】
以上に示した本発明に係る長尺材昇降装置は、保持部材が格納位置にあるときに、保持部材を拘束状態で支持する支持部材、又は、棒状把手の回転を規制する規制部材の少なくとも一方をさらに備えるものとしても良い。このようにすれば、車両の運転走行時等に長尺材昇降装置に作用する振動等によって保持部材が格納位置から展開位置への移行を開始するような事態が可及的に防止されるので、安全性が担保される。
【発明の効果】
【0016】
以上に示すように、本発明によれば、車両の上方に梯子等の長尺材を着脱可能に保持する保持部材が格納される長尺材昇降装置において、保持部材の格納位置から展開位置への移行、及び保持部材の展開位置から格納位置への移行をスムーズに実行することができる。これにより、車両上方にて保持される長尺材の積み降ろし作業の作業性向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る長尺材昇降装置を搭載した消防車の左側面図である。
【図2】同背面図である。
【図3】図1に示す長尺材昇降装置が格納位置にある状態における拡大図であって、(a)図は同平面図、(b)図は同左側面図、(c)図は同背面図である。
【図4】図1に示す長尺材昇降装置が格納位置にある場合における案内手段の拡大図であって、(a)図は同平面図、(b)図は同左側面図、(c)図は同背面図である。
【図5】(a)図は長尺材昇降装置が格納位置にある場合における案内手段の左側面図、(b)図は長尺材昇降装置が略中間位置にある場合における案内手段の左側面図、(c)図は長尺材昇降装置が中間位置にある場合における案内手段の左側面図、(d)図は長尺材昇降装置が展開位置にある場合における案内手段の左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図5に基づいて説明する。
【0019】
図1は本発明の一実施形態に係る長尺材昇降装置10(以下、単に「昇降装置10」ともいう)を搭載した消防車1の左側面図であり、図2は同背面図である。消防車1は、走行用エンジン等が搭載された車両本体2と、車両本体2の後部に搭載された収納ボックス3とを備える。収納ボックス3内の側部及び後部には、救助活動等に用いる工具や救護具等の資機材を収納する収納庫が画成されており、各収納庫の開口部は電動式又は手動式のシャッター4によって閉塞されている。
【0020】
昇降装置10は、長尺の資機材(長尺材)、ここでは伸縮式の梯子(図1中に二点鎖線で示す)を着脱自在に保持した保持部材12と、収納ボックス3の天井面3a後端部に設置された案内手段20と、収納ボックス3の後面3bに沿って車両上下方向に配設された棒状把手30とを主要部として構成される。すなわち、本実施形態においては、収納ボックス3の天井面3aが本発明で言う「車両の天井面」に相当し、また、収納ボックス3の後面が本発明で言う「車両の後面」に相当する。
【0021】
保持部材12は、図1に示すように、当該保持部材12が収納ボックス3の上方で車両前後方向に沿った水平姿勢で保持される格納位置と、当該保持部材12が収納ボックス3の後方で車体上下方向に対して傾斜した傾斜姿勢で保持される展開位置との間を相互に移行するように(昇降移動するように)構成されている。この保持部材12は、図3(a)(b)に示すように、保持すべき長尺材の長手方向(車両前後方向)に沿って延び、車幅方向に離隔して配置された一対の縦桟13,13と、一対の縦桟13,13の間に所定間隔で固定された複数の横桟14とで主要部が構成され、その後端部には、棒状把手30の上端部30a(上端部に設けられた連結ピン31)を回転可能に連結するための連結受部15が設けられている[図4(b)も併せて参照]。図4(c)に拡大して示すように、縦桟13は、車幅方向外側を開口させた断面略コの字状を呈しており、その内部上面及び内部下面でレール部16を構成している。
【0022】
縦桟13の長手方向寸法は、収納ボックス3の車両前後方向寸法に略等しく、かつ、地上面と収納ボックス3の天井面3aとの間の鉛直方向寸法よりも所定量大きく設定されている。従って、保持部材12が展開位置にある状態においては、その後端部に設けられた連結部15が地上面に接地し、縦桟13の前部が収納ボックス3の上端後方角部(天井面3aと後面3bの境界部)にて支持されるようになっている(図1を参照)。
【0023】
収納ボックス3の天井面3a前方端部には支持部材11が取り付けられており、当該支持部材11は、格納位置にある保持部材12の前端部を拘束状態で支持している。
【0024】
棒状把手30は、収納ボックス3の後面3bに沿って車両上下方向に配設されており、その上端部30aには、車幅方向に延び、保持部材12の連結受部15に回転可能に連結された連結ピン31が設けられている。棒状把手30の下端部30bは、収納ボックス3の後面3bの所定位置に回転可能に連結されている。棒状把手30の長手方向寸法は、保持部材12が格納位置にある状態において、その下端部30bが作業者の胴部高さに位置するように設定されている(図1を参照)。
【0025】
収納ボックス後面3bの高さ方向所定位置には規制部材33が設けられており、保持部材12が格納位置にある状態においては、棒状把手30の所定部位が規制部材33に嵌合固定される。棒状把手30を規制部材33に嵌合固定することにより、保持部材12が格納位置にある状態における棒状把手30の回転が規制される。本実施形態では、保持部材12が格納位置にある状態において、保持部材12の前端部を支持部材11によって拘束状態で支持すると共に、棒状把手30を規制部材33に嵌合してその回転を規制することにより、消防車1の運転走行時等に保持部材12が格納位置から展開位置への移行を開始するような事態を可及的に防止するようにしている。
【0026】
なお、支持部材11又は規制部材33の何れか一方のみでも、消防車1の運転走行時等に保持部材12が格納位置から展開位置への移行を開始するような事態を防止できるのであれば、支持部材11又は規制部材33の何れか一方を省略しても構わない。
【0027】
図4(a)〜(c)にも示すように、案内手段20は、収納ボックス3の天井面3a後端部に設置されて、車両前後方向と平行な面内での収納ボックス3(消防車1)に対する保持部材12のスライド及び回転を案内するものであり、保持部材12の車幅方向両端部にそれぞれ設けられている。そして、この案内手段20が往復動することにより、保持部材12は、上記の格納位置と展開位置との間を相互に移行するようになっている[図5(a)〜(d)を参照]。
【0028】
案内手段20は、保持部材12の縦桟13に設けたレール部16に嵌合され、収納ボックス3(消防車1)に対する保持部材12のスライドを案内するスライド案内部材21と、このスライド案内部材21を保持部材12と共に収納ボックス3に対して回転させる回転機構Rとを備える。案内手段20がこのような構成を具備していることにより、収納ボックス3に対する保持部材12のスライド及び回転は同時進行する。回転機構Rは、収納ボックス3の天井面3a後端部に取り付けられたブラケット22と、上記スライド案内部材21と、ロッドおよびロッドが内挿されたシリンダで主要部が構成されるガスダンパー(ガススプリングとも称される)23と、リンクアーム24〜27とを以下に示す態様で連結することによって構成される。
【0029】
ブラケット22には、第1〜第4連結部22a〜22dが設けられている。第1及び第2連結部22a,22bは、収納ボックス3後端部の車幅方向外側及び内側にそれぞれ設けられ、第3及び第3連結部22c,22dは、第1及び第2連結部22a,22bよりも前方側で車幅方向外側及び内側にそれぞれ設けられている。なお、第1〜第4連結部22a〜22dは、車幅方向外側から内側に向かって、第1連結部22a、第3連結部22c、第2連結部22b、第4連結部22dの順に設けられている[図4(a)を参照]。
【0030】
そして、ブラケット22の第1連結部22aにガスダンパー23の一端(ここではロッド先端部)を回転可能に連結し、ブラケット22の第2連結部22bにスライド案内部材21の後側ローラ21bを回転可能に連結する。ブラケット22の第3連結部21cに第1リンクアーム24の一端を回転可能に連結し、第1リンクアーム24の他端にガスダンパー23の他端(ここではシリンダ基端部)を回転可能に連結する。第1リンクアーム24には、さらに、V字状を呈する第2リンクアーム25の一端を回転可能に連結し、第2リンクアーム25の他端に、第3リンクアーム26の一端と第4リンクアーム27の一端とを回転可能に連結する。第3リンクアーム26の他端をスライド案内部材21の前側ローラ21aに回転可能に連結し、第4リンクアーム27の他端をブラケット22の第4被連結部22dに回転可能に連結する。
【0031】
本発明に係る長尺材昇降装置10は以上の構成からなり、次のようにして保持部材12が格納位置から展開位置に移行する。
【0032】
棒状把手30の上部を収納ボックス3の後部側に引張り、棒状把手30を、その下端部30bを回動支点として下方に回転させる。棒状把手30の上端部30aに設けた連結ピン31が保持部材12の後端部に回転可能に連結されていることから、棒状把手30を下方に回転させると、保持部材12は、案内手段20にて案内されるようにして(図1中、時計回りに)回転しながらその後端部が地上面に接近する方向にスライドする。そして、棒状把手30の下方への回転が進行して棒状把手30の上端部30a(保持部材12の後端部)が地上面に接地すると、保持部材12の展開位置への移行が完了する。保持部材12を展開位置から格納位置に移行させるときには、上記手順とは逆に、棒状把手30を上方に回転させるように保持部材12を上方に持ち上げ、保持部材12の後端部を地面から離反する方向にスライド及び回転させる。
【0033】
このように、本発明に係る昇降装置10では、棒状把手30がその下端部30bを回動支点として回転すると、この回転動作に連動するかたちで保持部材12を昇降移動させることが、すなわち保持部材12を格納位置と展開位置との間で相互に移行させることができる。棒状把手30の下端部30bは、保持部材12が格納位置にある状態において、作業者の胴部と同程度の高さ位置に回転可能に連結されている。従って、救助活動等に従事する作業者が無理な姿勢を強いられることなく、地上から容易に保持部材12を昇降移動させることができる。また、棒状把手30は、その下端部30bを中心とした円弧状の軌跡を描くようにして回転することから、保持部材12の昇降移動は、作業者の移動を伴わずに実行することができる。以上のことから、本発明に係る長尺材昇降装置10によれば、保持部材12の位置移行をスムーズに実行することができるので、梯子等の長尺材の積み降ろし作業の作業性向上が図られる。これにより、消火活動等を一層円滑かつ迅速に実行することが可能となる。
【0034】
なお、上記のとおり、収納ボックス3に対する保持部材12のスライド及び回転が同時進行するように構成されていることから、保持部材12の格納位置又は展開位置の何れか一方から他方への位置移行は、その前端部が図1に示すような円弧状の軌跡を描くようにして進行する。従って、消防車1の上方に十分なスペースが確保されていない場合においても、本発明に係る昇降装置10であれば長尺材の積み降ろしを確実に実行することができる。
【0035】
梯子等の長尺物を保持した保持部材12は相当な重量になる場合が多いため、保持部材12の格納位置から展開位置への移行開始時、あるいは保持部材12の展開位置から格納位置への移行開始時における初動負荷は相当なものとなる。このような負担を軽減するため、案内手段20の回転機構Rは、保持部材12の格納位置又は展開位置の何れか一方から他方への移行開始時に、スライド案内部材21(保持部材12)を上記他方に付勢するように構成されている。そのため、保持部材12の格納位置から展開位置への移行が開始された際(保持部材12の下降動作が開始された際)、保持部材12には、これを展開位置へ移行させる方向の付勢力が作用し、また、保持部材12の展開位置から格納位置への移行が開始された際(保持部材12の上昇動作が開始された際)、保持部材12には、これを格納位置へ移行させる方向の付勢力が作用する。そのため、初動負荷が軽減されて棒状把手30の操作性が向上し、保持部材12の位置移行を一層スムーズに実行することが、すなわち長尺材の積み降ろし作業の作業性を一層向上することができる。
【0036】
また、上記のとおり梯子等の長尺物を保持した保持部材12は相当な重量になる場合が多いことから、何ら対策を講じなければ、保持部材20の上記他方への移行完了時に、保持部材20に対して相当大きな衝撃力が作用し、この衝撃力によって保持部材12や保持部材12に保持される長尺材が破損等する可能性がある。このような問題が生じるのを可及的に防止すべく、回転機構Rは、保持部材12の格納位置又は展開位置の何れか一方から他方への移行が所定量進行した時に、スライド案内部材21(保持部材12)を上記一方に付勢するように構成されている。そのため、保持部材12が格納位置から展開位置へ移行する際、及び展開位置から格納位置へ移行する際の双方において、保持部材12に対して緩衝力が作用する。従って、保持部材12の上記他方への移行完了時に作用する衝撃力によって、保持部材12、さらには保持部材12に保持される長尺材が破損等する可能性が効果的に減じられる。
【0037】
なお、本実施形態では、回転機構Rを図4(b)に示すような構成としたことによって、保持部材12の格納位置又は展開位置の何れか一方から他方への移行開始時に、スライド案内部材21(保持部材12)を上記他方に付勢するように構成され、かつ、保持部材12の格納位置又は展開位置の何れか一方から他方への移行が所定量進行した時に、スライド案内部材21(保持部材12)を上記一方に付勢するように構成されている。
【0038】
詳しくは、図5(a)及び図5(d)に示すように、保持部材12が格納位置及び展開位置の何れの位置にある状態においてもガスダンパー23のロッドが短縮限となるように、また、保持部材12の格納位置又は展開位置の何れか一方から他方への移行が所定量進行した時(ここでは図5(c)に示すように保持部材12が中間位置となった時)に、ガスダンパー23のロッドが伸長限となるようにブラケット22、スライド案内部材21、及びリンクアーム24〜27の連結態様、連結時の姿勢及び形状等を設定したことによる。すなわち、この種のガスダンパー23において、ロッドには、ロッドを伸長動作させるような付勢力が常に作用しているからである。
【0039】
以上では、消防車1の後部に設けた収納ボックス3に本発明に係る長尺材昇降装置10を搭載した場合について説明を行ったが、本発明に係る長尺材昇降装置10は、比較的車高の高いワゴン車やライトバン等の箱型乗用車にも好ましく搭載することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 消防車
3 収納ボックス
3a 天井面
3b 後面
10 長尺材昇降装置
11 支持部材
12 保持部材
16 レール部
20 案内手段
21 スライド案内部材
30 棒状把手
33 規制部材
R 回転機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺材を着脱自在に保持する保持部材と、車両の天井面後端部に設置され、車両前後方向と平行な面内での前記車両に対する前記保持部材のスライド及び回転を案内する案内手段とを備え、該案内手段が往復動することにより、前記保持部材を、前記保持部材が前記車両の上方で車両前後方向に沿った水平姿勢で保持される格納位置と、前記保持部材が前記車両の後方で車両上下方向に対して傾斜した傾斜姿勢で保持される展開位置との間で相互に移行させるように構成された車両搭載用の長尺材昇降装置であって、
前記車両の後面に沿って車両上下方向に配設される棒状把手を有し、該棒状把手は、その上端が前記保持部材の後端部に回転可能に連結され、その下端が前記車両の後面に回転可能に連結されることを特徴とする車両搭載用の長尺材昇降装置。
【請求項2】
前記案内手段は、前記保持部材に設けたレール部に嵌合され、前記保持部材の前記車両に対するスライドを案内するスライド案内部材と、該スライド案内部材を前記保持部材と共に前記車両に対して回転させる回転機構とを有し、
前記回転機構は、前記保持部材の前記格納位置又は前記展開位置の何れか一方から他方への移行開始時に、前記スライド案内部材を前記他方に付勢するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両搭載用の長尺材昇降装置。
【請求項3】
前記回転機構は、前記保持部材の前記格納位置又は前記展開位置の何れか一方から他方への移行が所定量進行した時に、前記スライド案内部材を前記一方に付勢するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の車両搭載用の長尺材昇降装置。
【請求項4】
前記保持部材が前記格納位置にあるときに、前記保持部材を拘束状態で支持する支持部材、又は、前記棒状把手の回転を規制する規制部材の少なくとも一方をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の車両搭載用の長尺材昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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