説明

車両構造

【課題】バッテリーユニットを搭載するハイブリッドカーまたは電気自動車において、トーイングフックを好適に組付可能な車両構造を提供する。
【解決手段】ハイブリッドカーまたは電気自動車の車両構造において、電気モータを動作させるバッテリーユニットを包囲して支持する枠状の部材であって、車両床面にバッテリーユニットを固定するユニット固定フレーム112と、ユニット固定フレーム112の後端付近から垂下される垂下部材140と、垂下部材140に結合されるトーイングフック152とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッドカーまたは電気自動車の車両構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッドカー(プラグインハイブリッドカーを含む)、電気自動車が普及してきている。ハイブリッドカー、電気自動車は、通常、電気モータを動作させるバッテリーユニットを車両後部の車室内または車室外に搭載している。しかし、バッテリーユニットを車両後部の車室内に搭載する場合、荷物の収納スペースが小さくなったり、後方視界の妨げとなったりするおそれがある。一方、バッテリーユニットを車両後部の車室外に搭載する場合、最低地上高を確保しなければならないため、バッテリーユニットの各バッテリーセルを広範囲にわたって平面的に配置しなければならず、サスペンション等の他の部品と干渉するおそれがある。
【0003】
これに対し、バッテリーユニットの搭載に関する従来技術として、特許文献1〜3が開示されている。特許文献1には、床板の中央部に下向きに解放した断面コ字型の膨出部を設け、この膨出部にバッテリーを収容するバッテリーボックスを取り付ける技術が開示されている。特許文献2には、リヤフロア前半部に、リヤフレーム間で、ミドルフロアクロスメンバおよびリヤフロアクロスメンバ間にわたる開口部を形成し、この開口部内に、バッテリー収納ボックスの下半部を構成するボックス状のバッテリーセッティングベースを落とし込んで、その全周を開口部に溶接接合する技術が開示されている。特許文献3には、上壁と前後、左右の側壁からなる周側壁とを備え平面矩形のボックス状に形成される第2フロアパネルを、第1フロアパネルの開口部に貫通配置し、第1フロアパネルの上、下面側に突出した状態で周側壁をフランジに接合固定し、第2フロアパネルの内側を燃料電池ユニット収容部とする技術が開示されている。
【0004】
ところで、特許文献4、5に記載されているように、通常、車両後部底面には牽引等に用いられるトーイングフックが備えられている。トーイングフックに荷重がかかると、その応力がトーイングフックの結合箇所を通じて車両各所に伝達、分散される。車両の弱い部位に大きな応力がかかったり、伝達、分散の効率が悪かったりすると、変形や損傷を生じるおそれがあるので、トーイングフックの組付位置はこれらを踏まえて十分耐久性を確保できる位置に設定する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭48−2627号公報
【特許文献2】特開平5−201356号公報
【特許文献3】特開2003−260939号公報
【特許文献4】特開2001−180240号公報
【特許文献5】特開2010−116085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3の技術のように、バッテリーユニットを搭載するために、フロアパネルを変形させたり新たな部材を設置したりする場合、トーイングフックの組付位置についても再検討の余地がある。しかしながら、バッテリーユニットを搭載するためにこのような車両構造を採用した場合であっても、これに合わせてトーイングフックの組付位置を設定した例は見られない。なお、特許文献4、5には、ハイブリッドカーまたは電気自動車を意図する記載は見られない。
【0007】
そこで本発明は、バッテリーユニットを搭載するハイブリッドカーまたは電気自動車において、トーイングフックを好適に組付可能な車両構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の代表的な構成は、ハイブリッドカーまたは電気自動車の車両構造において、電気モータを動作させるバッテリーユニットを包囲して支持する枠状の部材であって車両床面にバッテリーユニットを固定するユニット固定フレームと、ユニット固定フレームの後端付近から垂下される垂下部材と、垂下部材に結合されるトーイングフックとを備えることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、ユニット固定フレームにより、バッテリーユニットを好適に搭載することができる。また、トーイングフックは、垂下部材を介してバッテリーユニットを車両床面に固定するユニット固定フレームに結合される。ユニット固定フレームは、バッテリーユニットを車両床面に固定する部材であり、その役割から所定以上の強度を持つように形成されるため、トーイングフックからの応力を伝達、分散する部材として適した働きをする。なお、トーイングフックはユニット固定フレームに直付けされず、垂下部材を介して取り付けられるので、万が一、過剰な荷重がトーイングフックに加わった場合にもユニット固定フレームの破壊を防止することができる。
【0010】
ユニット固定フレームは、少なくともその一部が車両骨格を構成する骨格部材に結合されているとよい。かかる構成によれば、ユニット固定フレームが強度の高い骨格部材に結合されるため、トーイングフックからの応力を好適に伝達、分散することができる。
【0011】
垂下部材は、車両幅方向へ延び中央部にトーイングフックが結合される横部材と、横部材の両端部から車両前方かつ上方へと延びユニット固定フレームに連結される端部連結部材とを有するとよい。かかる構成によれば、トーイングフックからの応力を好適に伝達、分散することができる。
【0012】
垂下部材は、横部材の中央部付近から上方へと延びユニット固定フレームに連結される中央連結部材をさらに有するとよい。かかる構成によれば、トーイングフックからの応力を好適に伝達、分散することができる。
【0013】
横部材は、ユニット固定フレームの後端よりも後方に位置し、その両端部がバッテリーユニットの下端の高さとほぼ等しくなるように相対的に低く形成されているとよい。かかる構成によれば、ユニット固定フレームの後端よりも後側に横部材が位置するので、後突時に、真っ先に物体がバッテリーユニットおよびユニット固定フレームに衝突することを回避できる。また、横部材の両端部は、バッテリーユニットのほぼ下端の高さとなるように形成されるので、後突により物体が横部材に衝突してその両端部が前方へと移動してもバッテリーユニットと干渉(衝突)しづらい。なお、横部材の中央部は、相対的に高く形成されるので、トーイングフックの結合箇所として必要な高さを欠くことはない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、バッテリーユニットを搭載するハイブリッドカーまたは電気自動車において、トーイングフックを好適に組付可能な車両構造を提供可能である。より具体的には、ユニット固定フレームによってバッテリーユニットを搭載した車両について、トーイングフックからの応力を好適に伝達、分散することができ、確実に耐久性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態にかかる車両構造におけるバッテリーユニットの組付を示す図である。
【図2】図1のユニット固定フレーム、垂下部材、トーイングフックを示す図である。
【図3】図1の組付完了後の斜視図である。
【図4】図1の組付完了後の側面図である。
【図5】図1の組付完了後の底面図である。
【図6】図3の車両構造におけるトーイングフックからの応力の伝達、分散について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
図1は、本実施形態にかかる車両構造100におけるバッテリーユニット110の組付を示す図である。図2は、図1のユニット固定フレーム112、垂下部材140、トーイングフック152を示す図である。なお、図中の矢印Fwdは車両前方、矢印Rhは車両右方、矢印Upは上方を表すものとする。
【0018】
車両構造100は、電気モータを動作させるバッテリーユニット110を搭載するハイブリッドカーまたは電気自動車に適用される。バッテリーユニット110は、その筐体の内部に複数のバッテリーセルや電気部品を収容した複合体である。バッテリーセルは例えばリチウムイオン2次電池等であって、電気部品は例えば電池監視ユニットやファン、ジャンクションブロック等である。
【0019】
図1に示すように、車両構造100では、車両床面を構成するフロアパネル102に開口部104が形成される。そして、バッテリーユニット110を包囲して支持する枠状のユニット固定フレーム112によって、バッテリーユニット110がフロアパネル102を上下にまたいで開口部104に設置される。このようにフロアパネル102を上下にまたいで開口部104にバッテリーユニット110を設置することで、これの好適な搭載が実現される。
【0020】
具体的には、車室内および車室外の双方の領域にわたってバッテリーユニット110を設置することで、車室内の荷物の収納スペースや後方視界の確保が図れ、またバッテリーセルを上下に重ねて配置しても最低地上高を確保できる。フロアパネル102の下部に、バッテリーセルを水平方向の広範囲にわたって平面的に配置する必要もないので、サスペンションや燃料タンクとの干渉といった問題も生じない。
【0021】
図2に示すように、ユニット固定フレーム112は、概して、7本の鋼材114、116、118、120、122、124、126からなる。鋼材114、116、118、120、122、124は、六角形状の外枠部128を形成する。鋼材114、116、118、120、124、126は、六角形状の内枠部130を形成する。外枠部128には、6箇所の締結部128a、128b、128c、128d、128e、128fが設定される。
【0022】
バッテリーユニット110は、内枠部130に挿入され、その内枠部130の上部と結合される。例えば、バッテリーユニット110の筐体の外側へと張り出すフランジを内枠部130の上部に支持させ、ボルト等でそのフランジを内枠部130の上部に締結することで、バッテリーユニット110とユニット固定フレーム112とが一体化される。
【0023】
図1に示すように、一体化されたバッテリーユニット110とユニット固定フレーム112とは、外枠部128の6箇所の締結部128a、128b、128c、128d、128e、128fを、ボルト等で車両骨格を構成する骨格部材等に下方から締結することで固定される。ここでは、ユニット固定フレーム112は、骨格部材としての左右のリヤサイドフレーム132、134等に締結される。
【0024】
なお、図1に示すように、バッテリーユニット110の下側に、バッテリーユニット110をチッピング等から保護するためのアンダーカバー106を備え付けてもよい。アンダーカバー106は、車両重量の増加を回避する観点から硬質樹脂製とするのが好ましいが、板金で形成してもよい。なお、以下説明する図中では、理解を容易にするため、かかるアンダーカバー106については図示を省略する。
【0025】
図2に示すように、車両構造100ではユニット固定フレーム112の後端付近から、トーイングフック152結合用フレームである垂下部材140が垂下される。垂下部材140は、車両幅方向へ延びる横部材142と、横部材142の両端部付近から車両前方かつ上方へと延びユニット固定フレーム112に連結される端部連結部材144、146と、横部材142の中央部付近から上方へと延びユニット固定フレーム112に連結される中央連結部材148、150とからなる。
【0026】
垂下部材140の横部材142の中央部には、トーイングフック152が結合される。上記中央連結部材148、150は、トーイングフック152の左右両側にそれぞれ配置される。トーイングフック152が結合される横部材142の中央部は、トーイングフック152が垂下されるに当たり必要な高さ(トーイングフック152に要求される高さ)に設定される。
【0027】
図3は、図1の組付完了後の斜視図である。図4は、図1の組付完了後の側面図である。図5は、図1の組付完了後の底面図である。
【0028】
図5に示すように、横部材142の車両幅方向の長さは、バッテリーユニット110の車両幅方向の長さとほぼ等しくなるように設定される。また、図3、図4に示すように、横部材142は、ユニット固定フレーム112の後端よりも後方にて垂下される。
【0029】
これより、後突時に、真っ先に物体がバッテリーユニット110およびユニット固定フレーム112に衝突することを回避でき、バッテリーユニット110を効果的に保護することができる。すなわち車両構造100では、後突時において、バッテリーユニット110に先んじて、本実施形態の特徴の1つであるトーイングフック152を結合するための横部材142等に物体が衝突する。
【0030】
さらに、図3、図4に示すように、横部材142の両端部付近はバッテリーユニット110の下端の高さとほぼ等しくなるように相対的に低く形成される。このように横部材142の両端部付近をバッテリーユニット110のほぼ下端の高さとなるように形成することで、後突により物体が横部材142に衝突してその両端部が前方へと移動してもバッテリーユニット110と干渉(衝突)しづらくなる。したがって、バッテリーユニット110を効果的に保護することができる。
【0031】
図5に示すように、車両構造100では、ユニット固定フレーム112の内枠部130にバッテリーユニット110を挿入しているため、車両右側の下部にマフラーパイプを通すためのスペースを確保することができる。車両構造100ではこのスペースを確保するために単にユニット固定フレーム112を小さくするわけではなく、骨格部材であるリヤサイドフレーム132、134に締結される外枠部128形状を維持したまま、鋼材126をかけわたして内枠部130を形成しスペースを確保しているので、強度とスペースの確保の両立を図ることができる。
【0032】
図6は、本実施形態にかかる車両構造100におけるトーイングフック152からの応力の伝達、分散について説明する図である。なお、図6では、理解を容易にするために、バッテリーユニット110の図示を省略している。
【0033】
図6に示すように、トーイングフック152に荷重がかかると、その応力が横部材142に連結される端部連結部材144、146、中央連結部材148、150を介して、ユニット固定フレーム112へと伝達、分散される。図6中、トーイングフック152にかかる荷重を矢印X、応力の伝達、分散の経路を矢印Y(代表して1つに符号を付す)で図示する。ユニット固定フレーム112はバッテリーユニット110を保護(支持)する役割を担い、所定以上の強度が求められるため、応力の伝達、分散を担う部材としてもうってつけとなる。
【0034】
車両構造100では、ユニット固定フレーム112の後部の鋼材120に中央連結部材148、150が連結し、側部の鋼材118、126にそれぞれ端部連結部材144、146が連結する。強度の高いユニット固定フレーム112の複数箇所(複数の鋼材118、120、126)に、トーイングフック152の牽引等による応力を端部連結部材144、146、中央連結部材148、150が分散して伝達するため、その応力によって損傷や変形を生じる可能性を極めて低減することができる。
【0035】
なお、垂下部材140による応力の分散のさせかたは、本実施形態の端部連結部材144、146や中央連結部材148、150による方式に限られない。ユニット固定フレーム112に対して適切に分散して伝達させられるのであれば、いかなる方式で応力を分散させてもよい。
【0036】
さらに車両構造100では、ユニット固定フレーム112は、骨格部材であるリヤサイドフレーム132、134に結合している。ユニット固定フレーム112に伝達された応力は、強度の高いリヤサイドフレーム132、134を介して、車両全体に伝達、分散されるので、効果的に応力の伝達、分散を行うことができる。
【0037】
以上、上述した車両構造100によれば、ハイブリッドカーまたは電気自動車において、バッテリーユニット110を好適に搭載することができる。また、応力が局所的に集中して損傷や変形を生じることのないように、車両にトーイングフック152を組み付けることができる。
【0038】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、ハイブリッドカーまたは電気自動車の車両構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
100…車両構造、102…フロアパネル、104…開口部、106…アンダーカバー、110…バッテリーユニット、112…ユニット固定フレーム、114、116、118、120、122、124、126…鋼材、128…外枠部、128a、128b、128c、128d、128e、128f…締結部、130…内枠部、132、134…リヤサイドフレーム、140…垂下部材、142…横部材、144、146…端部連結部材、148、150…中央連結部材、152…トーイングフック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッドカーまたは電気自動車の車両構造において、
電気モータを動作させるバッテリーユニットを包囲して支持する枠状の部材であって車両床面に該バッテリーユニットを固定するユニット固定フレームと、
前記ユニット固定フレームの後端付近から垂下される垂下部材と、
前記垂下部材に結合されるトーイングフックとを備えることを特徴とする車両構造。
【請求項2】
前記ユニット固定フレームは、少なくともその一部が車両骨格を構成する骨格部材に結合されていることを特徴とする請求項1に記載の車両構造。
【請求項3】
前記垂下部材は、車両幅方向へ延び中央部に前記トーイングフックが結合される横部材と、該横部材の両端部から車両前方かつ上方へと延び前記ユニット固定フレームに連結される端部連結部材とを有することを特徴とする請求項1または2に記載の車両構造。
【請求項4】
前記垂下部材は、前記横部材の中央部付近から上方へと延び前記ユニット固定フレームに連結される中央連結部材をさらに有することを特徴とする請求項3に記載の車両構造。
【請求項5】
前記横部材は、前記ユニット固定フレームの後端よりも後方に位置し、その両端部が前記バッテリーユニットの下端の高さとほぼ等しくなるように相対的に低く形成されていることを特徴とする請求項3または4に記載の車両構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−71692(P2013−71692A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213721(P2011−213721)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】