説明

車両用のショックアブソーバ用の摺動部材

【課題】 ショックアブソーバの伸び動作と縮み動作のそれぞれにおいて、即座に摺動部材とピストンロッド間に路面の状態に応じた摩擦力を発生させることにより、走行安定性を向上させた車両用のショックアブソーバ用の摺動部材を提供する。
【解決手段】 摺動部材1の樹脂層4の表面にクッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域を形成する。車両が凹凸のある路面を走行時には、縮み動作側のショックアブソーバの摺動部材では摩擦力が増大するのに対し、伸び動作側のショックアブソーバの摺動部材では低摩擦力を維持する。これにより、縮み動作側のショックアブソーバでは振幅を抑えるのに対し、伸び動作側のショックアブソーバでは路面への車輪の接地を確保し、車両の走行安定性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏金上に形成された多孔質金属層中に樹脂層を含浸被覆し、前記樹脂層が内周面となるように円筒形状に成型することにより、車両の車輪と車体との間に組み付けられるショックアブソーバに用いられて軸線方向に往復摺動するピストンロッドを支持する車両用のショックアブソーバ用の摺動部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車に代表される車両等においては、操縦安定性や走行安定性等の乗り心地を高めるために、それぞれの車輪と車体との間にショックアブソーバが設けられている。一般的な複筒式ショックアブソーバは、ばねの特性による伸び・縮みの揺り返し現象 (周期振動)を緩和し減衰させるために使用されており、縮み動作時には、ピストンロッドがシリンダ内に侵入した容積分と同量の油が縮み側バルブを通過する際の流路抵抗により減衰力(圧力損失)を発生させる一方、伸び動作時には、ピストンロッドがシリンダから出て行く容積分と同量の油が伸び側バルブを通過する際の流路抵抗により減衰力を発生させている。このようなショックアブソーバでは、車体に連結されたピストンロッドに対して往復摺動するように構成した摺動部材が使用されており、摺動部材における摺動面の粗さを極力小さくすることで、ピストンロッドと摺動部材の間で発生する摩擦力の低減が図られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来のショックアブソーバとして、内部の油路構造を改善することで、ショックアブソーバに加えられる荷重に応じた油の流路抵抗を発生させ、ショックアブソーバの減衰特性を変化させるものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−247546号公報
【特許文献2】特開2010−101422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示される技術のように、単に摺動面を低摩擦化した摺動部材を用いた場合、車両が平滑な路面を走行時には、路面から車体に伝わる振動が小さいのに加え、摺動部材とピストンロッド間の摩擦力が小さいほどピストンロッドが滑りやすく、ピストンロッドのシリンダ内への出入りがスムーズであるため、伸び動作・縮み動作を繰り返しやすくなり、ショックアブソーバが減衰力を発生させやすいことで有利である。一方、車両が凹凸のある路面を走行時には、路面から車体に伝わる振動が大きくなるが、摺動部材とピストンロッド間の摩擦力が小さいと、縮み動作時にピストンロッドが滑り過ぎてシリンダ内に深く侵入するため、車体の傾きが大きくなり、車両の乗り心地を悪くしてしまう。
【0006】
また、特許文献2に開示される技術のように、ショックアブソーバ内の油路構造により油に発生する流路抵抗を調節した場合には、ショックアブソーバが路面の凹凸に応じた減衰力を発生させることが可能であるものの、油に圧力が発生するまでにタイムラグがあるので、摺動面を低摩擦化した摺動部材を用いた場合とは異なり、車両が凹凸のある路面を走行時の応答性が不十分であった。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、ショックアブソーバの伸び動作と縮み動作のそれぞれにおいて、即座に摺動部材とピストンロッド間に路面の状態に応じた摩擦力を発生させることにより、走行安定性を向上させた車両用のショックアブソーバ用の摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明においては、裏金上に形成された多孔質金属層中に樹脂層を含浸被覆し、前記樹脂層が内周面となるように円筒形状に成型することにより、車両の車輪と車体との間に組み付けられるショックアブソーバに用いられて軸線方向に往復摺動するピストンロッドを支持する車両用のショックアブソーバ用の摺動部材において、前記樹脂層の表面には、凹凸形状を形成すると共に、前記凹凸形状の隣り合う凸部の頂点間の平均距離をRSm、前記凹凸形状の底辺から凸部の頂点までの平均高さをRcとしたとき、式(1)によって表わされるクッション性指数X(式(1)・・RSm×Rc÷2)が2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)、且つ、RSm≧0.5×10μm、Rc≧10μmを満たす凹凸形状領域が形成されることを特徴とする。なお、クッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域において、RSmの上限値は1×10μm、Rcの上限値は20μmとすることが望ましい。
【0009】
また、請求項2に係る発明においては、請求項1記載の車両用のショックアブソーバ用の摺動部材において、前記摺動部材の内周面のうち前記軸線方向の車体側の端部側における前記樹脂層の表面には、前記クッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域が形成されることを特徴とする。なお、クッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域において、RSmは0.2×10〜0.5×10μm、Rcは5〜10μmとすることが望ましい。また、クッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域は、摺動部材の内周面における軸線方向の車体側の端部からの長さが、摺動部材の内周面における軸線方向の長さに対して75%未満となる領域に形成されることが望ましく、より望ましくは、50%未満となる領域に形成されることである。
【0010】
さらに、請求項3に係る発明においては、請求項1又は請求項2記載の車両用のショックアブソーバ用の摺動部材において、前記クッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域は、前記摺動部材の内周面における前記軸線方向の車輪側の端部からの長さが、前記摺動部材の内周面における前記軸線方向の長さに対して25%以上となる領域に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明においては、樹脂層4の表面には、凹凸形状(円錐または角錐)を形成すると共に、凹凸形状の隣り合う凸部の頂点間の平均距離をRSm、凹凸形状の底辺から凸部の頂点までの平均高さをRcとしたとき、式(1)によって表わされるクッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X(式(1)・・RSm×Rc÷2)≦5.0×10(μm)、且つ、RSm≧0.5×10μm、Rc≧10μmを満たす凹凸形状領域を形成するようにした。まず、摺動部材1における樹脂層4の表面に形成された凹凸形状を表すクッション性指数Xについて、図1を参照して説明する。図1には、摺動部材1の断面図を示す。クッション性指数Xとは、図1に示すように、凹凸形状の隣り合う凸部4aの頂点間の平均距離をRSm、凹凸形状の底辺から凸部4aの頂点までの平均高さをRcとしたとき、X=RSm×Rc÷2から算出される値であり、樹脂層4の表面における凹凸形状の平均的な凸部4aの断面積(凹凸形状の隣り合う凸部4aの平均的な隙間の断面積に合同)に相当している。
【0012】
次に、樹脂層4の表面にクッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域が形成される場合について、図2を参照して説明する。図2には、クッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域に荷重が加えられた場合における凹凸形状の弾性変形を説明するための樹脂層4の断面図を示す。図2(A)に示すように、クッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域が形成された樹脂層4の表面においては、凹凸形状における凸部4aの断面積が大きいが、図2(B)に示すように、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合には、凸部4aの弾性変形量が少ない。この場合には、凹凸形状におけるピストンロッドとの接触面積(ピストンロッドとの接触により凹凸形状における凸部4aの頂点が弾性変形したときの平滑な面の面積)を小さく維持すると共に、隣り合う凸部4aの隙間の体積を維持することにより油の流路を確保し、低摩擦力を維持する。一方、図2(C)に示すように、樹脂層4に加えられる荷重が高い場合には、凸部4aの弾性変形量が多い。この場合には、凹凸形状におけるピストンロッドとの接触面積が大きくなると共に、隣り合う凸部4aの隙間の体積が減少することにより油の流路が塞がれ、ピストンロッドとの摩擦力が増大する。
【0013】
一方、樹脂層4の表面にクッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域が形成される場合について、図3を参照して説明する。図3には、クッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域に荷重が加えられた場合における凹凸形状の弾性変形を説明するための樹脂層4の断面図を示す。図3(A)に示すように、クッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域が形成された樹脂層4の表面においては、凹凸形状における凸部4aの断面積が小さく、図3(B)に示すように、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合には、凸部4aの弾性変形量が少ない。この場合には、凹凸形状におけるピストンロッドとの接触面積を小さく維持すると共に、隣り合う凸部4aの隙間の体積を維持することにより油の流路を確保し、低摩擦力を維持する。これに対し、図3(C)に示すように、樹脂層4に加えられる荷重が高い場合にも、凹凸形状における凸部4aの機械的強度が高くクッション性がないため、凸部4aの弾性変形量が少ない。この場合には、凹凸形状におけるピストンロッドとの接触面積を小さく維持すると共に、隣り合う凸部4aの隙間の体積の変化が小さいことにより油の流路が塞がれることがなく、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合と同等に低摩擦力を維持する。
【0014】
また、樹脂層4の表面にクッション性指数XがX>5.0×10(μm)の凹凸形状領域が形成される場合について、図示しないが、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合にも、凹凸形状における凸部4aの機械的強度が低くクッション性が高過ぎるため、凸部4aの弾性変形量が多い。この場合には、凹凸形状におけるピストンロッドとの接触面積が大きくなると共に、隣り合う凸部4aの隙間の体積の変化が大きいことにより油の流路が塞がれてしまい、低摩擦力を維持することができない。
【0015】
ところで、ショックアブソーバは、オリフィスを有するピストンをシリンダ内に配した油圧式の周知構成のもので、シリンダを車輪側に、ピストンロッドを車体側にそれぞれ取り付けるようにしているが、通常、ショックアブソーバの軸方向は、車輪及び車体の往復移動方向に対して傾けて配設されるため、ピストンロッドに対して摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4が主に片当りしている。このようなショックアブソーバでは、車両が平滑な路面を走行時に車体が殆ど傾くことがなく、縮み動作時・伸び動作時にショックアブソーバにはあまり負荷がかからないため、配設時のようにピストンロッドに対して摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4が主に片当りする。しかしながら、車両が凹凸のある路面を走行時には、車体の傾きにより車体が沈み込む側の縮み動作をするショックアブソーバに加えられる荷重が高く、ピストンロッドがたわみ、ピストンロッドに対して摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4だけでなく、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4にも片当りが発生するようになる。一方、車両が凹凸のある路面を走行時であっても、車体が浮き上がる側の伸び動作をするショックアブソーバにはあまり負荷がかからないため、ピストンロッドに対して摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4が主に片当りしている。
【0016】
上記したショックアブソーバの機構を考慮して、樹脂層4の表面には、クッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域を形成するようにした。例えば、車両が平滑な路面を走行時には、縮み動作時・伸び動作時にショックアブソーバに加えられる荷重が低く、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4には片当りが殆ど発生せず、摩擦力が発生するのは摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4とピストンロッド間だけである。また、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合には、図2(B)を参照して説明したように、ピストンロッドとの摩擦力が低く抑えられるので、ピストンロッドが滑りやすく、ピストンロッドのシリンダ内への出入りがスムーズであるため、伸び動作・縮み動作を繰り返しやすくなり、ショックアブソーバが減衰力を発生させやすい。
【0017】
一方、車両が凹凸のある路面を走行時には、車体の傾きにより縮み動作側のショックアブソーバに加えられる荷重が高く、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4にも片当りが発生するようになり、摺動部材1の車体側・車両側の両端部側の樹脂層4とピストンロッド間に摩擦力が同時に発生する。また、樹脂層4に加えられる荷重が高い場合には、図2(C)を参照して説明したように、ピストンロッドとの摩擦力が増大するので、ピストンロッドが滑り難く、ピストンロッドのシリンダ内への侵入量が抑えられるため、縮み動作の振幅が小さくなり、車体の傾きを小さくすることができる。これに対し、車両が凹凸のある路面を走行時であっても、伸び動作側のショックアブソーバに加えられる荷重が低く、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4には片当りが殆ど発生せず、摩擦力が発生するのは摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4とピストンロッド間だけである。また、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合には、図2(B)を参照して説明したように、ピストンロッドとの摩擦力が低く抑えられるので、ピストンロッドが滑りやすくシリンダ内から出やすいため、早期に伸び動作が起こり、路面に車輪を接地させることができる。
【0018】
なお、例えば特許文献1に開示される技術のように、単に摺動面(樹脂層4)を低摩擦化した摺動部材1における樹脂層4の表面には、クッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域が形成されている。例えば、車両が平滑な路面を走行時には、縮み動作時・伸び動作時にショックアブソーバに加えられる荷重が低く、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4には片当りが殆ど発生せず、摩擦力が発生するのは摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4とピストンロッド間だけである。また、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合には、図3(B)を参照して説明したように、ピストンロッドとの摩擦力が低く抑えられるので、ピストンロッドが滑りやすく、ピストンロッドのシリンダ内への出入りがスムーズであるため、伸び動作・縮み動作を繰り返しやすくなり、ショックアブソーバが減衰力を発生させやすい。しかしながら、車両が凹凸のある路面を走行時には、車体の傾きにより縮み動作側のショックアブソーバに加えられる荷重が高く、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4にも片当りが発生するようになるが、樹脂層4に加えられる荷重が高い場合であっても、図3(C)を参照して説明したように、ピストンロッドとの摩擦力が低く抑えられるので、ピストンロッドが滑り過ぎてシリンダ内に深く侵入するため、車体の傾きが大きくなってしまう。
【0019】
また、樹脂層4の表面にクッション性指数XがX>5.0×10(μm)の凹凸形状領域が形成される場合について、例えば、車両が平滑な路面を走行時には、縮み動作時・伸び動作時にショックアブソーバに加えられる荷重が低く、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4には片当りが殆ど発生せず、摩擦力が発生するのは摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4とピストンロッド間だけである。しかしながら、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合であっても、凹凸形状における凸部4aの機械的強度が低く、凸部4aが容易に弾性変形することにより低摩擦力を維持することができないので、ピストンロッドが滑り難く、ピストンロッドのシリンダ内への出入りがスムーズでなくなるため、伸び動作・縮み動作を繰り返し難くなり、ショックアブソーバが十分な減衰力を発生させることができない。
【0020】
したがって、本願の発明者は、例えば特許文献1に開示される技術のように、単に摺動部材1の摺動面(樹脂層4)を低摩擦化だけで走行安定性を向上させようという発想とは異なり、樹脂層4の表面に制御された凹凸形状領域を形成することにより、ショックアブソーバの伸び動作と縮み動作のそれぞれにおいて、即座に摺動部材1とピストンロッド間に路面の状態に応じた摩擦力を発生させることに注目した。これにより、縮み動作側のショックアブソーバでは振幅を抑えるのに対し、伸び動作側のショックアブソーバでは路面への車輪の接地を確保し、車両の走行安定性を向上することが可能であることを見出した。
【0021】
なお、凹凸形状の隣り合う凸部4aの頂点間の平均距離RSmは、RSm≧0.5×10μmに設定されるものであるが、RSm≧0.5×10μmで形成しなければ、凹凸形状の底辺から凸部4aの頂点までの平均高さRcをRc≧10μmで形成することが加工上困難であるためである。また、凹凸形状の底辺から凸部4aの頂点までの平均高さRcは、Rc≧10μmに設定されるものであるが、凹凸形状の底辺から凸部4aの頂点までの平均高さRcをRc<10μmで形成すると、樹脂層4に加えられる荷重に関わらず、凹凸形状における凸部4aの機械的強度が高くクッション性がないため、凸部4aの弾性変形量が少ない。すなわち、凹凸形状におけるピストンロッドとの接触面積を小さく維持すると共に、隣り合う凸部4aの隙間の体積の変化が小さいことにより油の流路が塞がれることがなく、低摩擦力を維持してしまう。
【0022】
次に、請求項2に係る発明においては、摺動部材1の内周面のうち軸線方向の車体側の端部側における樹脂層4の表面には、クッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域を形成するようにした。上記したように、車両が凹凸のある路面を走行時には、伸び動作側のショックアブソーバに加えられる荷重が低く、摺動部材1の車輪側の端部側の樹脂層4には片当りが殆ど発生せず、摩擦力が発生するのは摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4とピストンロッド間だけである。また、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合には、図3(B)を参照して説明したように、ピストンロッドとの摩擦力が低く抑えられるので、ピストンロッドが滑りやすくシリンダ内から出やすいため、早期に伸び動作が起こり、路面に車輪を接地させることができる。
【0023】
なお、摺動部材1の車体側の端部側における樹脂層4の表面にクッション性指数XがX≧2.5×10(μm)の凹凸形状領域が形成される場合について、樹脂層4に加えられる荷重が低い場合には、図2(B)を参照して説明したように、ピストンロッドとの摩擦力が低く抑えられる。しかしながら、摺動部材1の車体側の端部側における樹脂層4の表面にクッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域が形成される場合と比べると、樹脂層4に加えられる荷重が同じであっても、凹凸形状における凸部4aの弾性変形量が多く、隣り合う凸部4aの隙間の体積が減少することにより油の流路が塞がれてしまい、ピストンロッドとの摩擦力が僅かに増加する傾向にある。
【0024】
したがって、本願の発明者は、例えば特許文献1に開示される技術のように、摺動部材1の摺動面(樹脂層4)の粗さを一様とすることにより、ショックアブソーバが伸び動作と縮み動作をする際のピストンロッドの滑り方を常に変化させない場合とは異なり、摺動部材1の車体側・車両側の端部側のそれぞれにおいて、樹脂層4の表面に制御された異なる凹凸形状領域を組み合わせることにより、ショックアブソーバの伸び動作と縮み動作のそれぞれにおいて、即座に摺動部材1とピストンロッド間に路面の状態に応じた摩擦力を発生させることに注目した。これにより、縮み動作側のショックアブソーバでは振幅を抑えるのに対し、伸び動作側のショックアブソーバでは路面への車輪の接地を確保しやすく、車両の走行安定性を向上することが可能であることを見出した。
【0025】
さらに、請求項3に係る発明においては、クッション性指数Xが2.5 ×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域は、摺動部材1の内周面における軸線方向の車輪側の端部からの長さが、摺動部材1の内周面における軸線方向の長さに対して25%以上となる領域に形成するようにした。これによれば、摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4における上記クッション性指数の凹凸形状領域とピストンロッド間で接触する領域を十分に確保すると共に、その樹脂層4に加えられる荷重の高低により、凹凸形状における凸部4aの弾性変形量の変化の総量が多いため、隣り合う凸部4aの隙間の体積が減少する変化の総量も多く、路面の状態に応じて発生するピストンロッドとの摩擦力の変化に十分な効果を得ることができる。
【0026】
一方、上記クッション性指数の凹凸形状領域を摺動部材1の軸線方向の長さに対して25%未満となる領域に形成しただけでは、摺動部材1の車体側の端部側の樹脂層4における上記クッション性指数の凹凸形状領域とピストンロッド間で接触する領域を十分に確保することができないと共に、その樹脂層4に加えられる荷重の高低により、凹凸形状における凸部4aの弾性変形量の変化の総量が少ないため、隣り合う凸部4aの隙間の体積が減少する変化の総量も少なく、路面の状態に応じて発生するピストンロッドとの摩擦力の変化に効果がなくなってしまう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】摺動部材の断面図である。
【図2】クッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域に荷重が加えられた場合における凹凸形状の弾性変形を説明するための樹脂層の断面図である。
【図3】クッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域に荷重が加えられた場合における凹凸形状の弾性変形を説明するための樹脂層の断面図である。
【図4】凹凸形状が形成された樹脂層の模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図1及び図4を参照して説明する。図1は、摺動部材1の断面図であり、図4は、凹凸形状が形成された樹脂層4の模式的な斜視図である。なお、上記した図は、本発明の実施形態に係る摺動部材1の概略図であり、構成,構造等を理解し易くするために各箇所が誇張あるいは省略して描かれている。
【0029】
摺動部材1は、まず、所定量のPTFEにグラファイト(Gr)を添加して均一に混合した樹脂組成物を作成する。作成した樹脂組成物は、厚み0.3mm、空孔度30%の多孔質金属層3を設けた裏金2上に塗布された後、ロール圧延により多孔質金属層3の孔隙に含浸被覆させる。その後、樹脂組成物を焼成し、ロール圧延により所定の寸法になった帯状のバイメタルを形成する。そして、このバイメタルを所定の寸法に切断し、裏金2が外周面となり樹脂層4が内周面となるように曲げ加工を実施することにより、円筒形状の摺動部材1が作製される。なお、摺動部材1の内周面の幅方向の端部には、クラウニングを形成してもよい。
【0030】
上記のように構成された摺動部材1の内周面(樹脂層4の表面)には、図1及び図4(A)に示すように、円錐または四角錐のいずれかからなる複数の凸部4aを所定の寸法に形成した凹凸形状を設ける。この凹凸形状を設ける手段として、バイメタルを所定の寸法に切断した後、樹脂層4に金型を用いたプレス加工により金型の形状を転写して成形する方法や、ロールを用いたロール加工により金型の形状を転写して成形する方法が挙げられる。樹脂組成物を含浸被覆させる際のロール圧延によって成形してもよい。
【0031】
なお、凹凸形状の凸部4aが四角錐から構成される場合には、四角錐の一辺が円筒形状の摺動部材1の軸線方向と並行に配置されてもよいし、円筒形状の摺動部材1の軸線方向と交わって配置されてもよい。また、凹凸形状の凸部4aは、図4(B)に示すように、ピストンロッドが摺動部材1の内周面を往復摺動する際に、摺動部材1の内周面の周方向及び軸線方向のいずれの方向にも変形し易くクッション性を有している。例えば、摺動部材1の内周面に溝を形成することにより凹凸形状として連続的な凸部4aを設けた場合には、ピストンロッドが摺動部材1の内周面を往復摺動する際に、摺動部材1の内周面の周方向及び軸線方向のいずれかの方向しか変形できず、十分な弾性変形量を得ることができない。
【0032】
次に、クッション性指数及び摺動面の配置が異なる試験試料として複数の摺動部材1を用い、往復摺動試験機により行った往復摺動試験について、表1及び表2を参照して説明する。表1は、クッション性指数及び摺動面の配置が異なる試験試料として作成した複数の摺動部材1を示す表であり、表2は、摩擦力を測定するための往復摺動試験の条件を示す表である。本発明の実施形態に係る摺動部材1として、表1の実施例1〜6に示すクッション性指数及び摺動面の配置が異なる試験試料を用いた。また、本発明の実施形態と比較する摺動部材1として、表1の比較例1〜5に示すクッション性指数及び摺動面の配置が異なる試験試料を用いた。なお、表1に示す試験試料の全てには、ベース樹脂としてPTFEを用い、添加材として5体積%のGrが添加されている。また、表1に示す車体側とは、ショックアブソーバが車両の車体側(ピストンロッド側)及び車輪側(シリンダ側)に組み付けられた場合における摺動部材1の車体側の端部からの配置(位置)を表しており、表1に示す車輪側とは、ショックアブソーバが車両の車体側及び車輪側に組み付けられた場合における摺動部材1の車体側の端部からの配置(位置)を表している。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
ここで、クッション性指数Xとは、図1に示すように、凹凸形状の隣り合う凸部4aの頂点間の平均距離をRSm、凹凸形状の底辺(隣り合う凸部4の間の凹部の最深部)から凸部4aの頂点までの平均高さをRcとしたとき、X=RSm×Rc÷2から算出される値であり、樹脂層4の表面における凹凸形状の平均的な凸部4aの断面積(凹凸形状の隣り合う凸部4aの平均的な隙間の断面積に合同)に相当する。このクッション性指数Xを算出するために必要なRSm及びRcの測定は、JIS B0601:2001に従っている(カットオフ値は0.8mm)。なお、凹凸形状の凸部4aは、円錐または四角錐から構成されており、凸部4aが円錐から構成される場合には、RSmが円錐の直径に等しく、凸部4aが四角錐から構成される場合には、RSmが四角錐の一辺の長さに等しい。
【0036】
また、往復摺動試験の試験方法は、表2に示す条件下で往復摺動試験機を使用して行った。具体的には、ハウジングに試験試料である円筒形状の摺動部材1を嵌入し、この摺動部材1に挿通したピストンロッドをショックアブソーバ用オイルが塗布された摺動部材1上でスプリングを介して往復摺動させ、ピストンロッドとの摩擦力をロードセルで測定することにより行った。なお、通常、ショックアブソーバの軸方向は、車輪及び車体の往復移動方向に対して傾けて配設されるため、初期条件として、ショックアブソーバが傾けて配設されたときに加えられる荷重を想定した試験を行った。また、車両が平滑な路面を走行時にショックアブソーバに加えられる荷重を想定し、ショックアブソーバの縮み動作・伸び動作共に条件Aの荷重を加えたときの試験を行い、その試験結果を表3に示す。さらに、車両が凹凸のある路面を走行時にショックアブソーバに加えられる荷重を想定し、ショックアブソーバの縮み動作に荷重の高い条件B、伸び動作に荷重の低い条件Aとなるように荷重を変動させたときの試験を行い、その試験結果を表4に示す。これらの試験結果は、車両の車体側及び車輪側にショックアブソーバを組み付けのバラツキをなくすため、条件A又は条件Bで測定した摩擦力から、初期条件で測定した摩擦力の値を差し引いた変化量で比較した。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
表3に示すように、車両が平滑な路面を走行時にショックアブソーバに加えられる荷重を想定し、ショックアブソーバの縮み動作・伸び動作共に条件Aの荷重を加えた往復摺動試験の試験結果から以下のことが判明した。樹脂層4の全面にクッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域を形成した実施例1,2、樹脂層4の車輪側の表面にクッション性指数Xが同じ範囲の凹凸形状領域を形成した実施例3〜5、及び樹脂層4の車体側・車輪側の両端部側の表面にクッション性指数Xが同じ範囲の凹凸形状領域を形成した実施例6では、ショックアブソーバの縮み動作時の摩擦力が0.41〜0.52kgf、伸び動作時の摩擦力が0.40〜0.50kgfである。これに対し、樹脂層4の全面にクッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域を形成した比較例1〜4では、ショックアブソーバの縮み動作時の摩擦力が0.42〜0.46kgf、伸び動作時の摩擦力が0.40〜0.43kgfであり、樹脂層4の全面にクッション性指数XがX>2.5×10(μm)の凹凸形状領域を形成した比較例5では、ショックアブソーバの縮み動作時の摩擦力が0.62kgf、伸び動作時の摩擦力が0.60kgfである。
【0040】
上記したように、樹脂層4の全面または少なくとも樹脂層4の車輪側の表面にクッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域を形成した実施例1〜6では、樹脂層4の全面にクッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域を形成した比較例1〜4と同じく、ショックアブソーバの縮み動作時・伸び動作時の摩擦力を低く抑えることができる。すなわち、条件Aのような車両が平滑な路面を走行時などのショックアブソーバに加えられる荷重が低い場合には、ピストンロッドとの摩擦力が低く抑えられるので、ピストンロッドが滑りやすく、ピストンロッドのシリンダ内への出入りがスムーズであるため、伸び動作・縮み動作を繰り返しやすくなり、ショックアブソーバが減衰力を発生させやすい。
【0041】
一方、樹脂層4の全面にクッション性指数XがX>5.0×10(μm)の凹凸形状領域を形成した比較例5では、樹脂層4の全面にクッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域を形成した比較例1〜4、及び樹脂層4の全面または少なくとも樹脂層4の車輪側の表面にクッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域を形成した実施例1〜6とは異なり、ショックアブソーバの縮み動作時・伸び動作時の摩擦力を低く抑えることができない。すなわち、条件Aのような車両が平滑な路面を走行時などのショックアブソーバに加えられる荷重が低い場合であっても、ピストンロッドとの摩擦力が低く抑えられないので、ピストンロッドが滑り難く、ピストンロッドのシリンダ内への出入りがスムーズでなくなるため、伸び動作・縮み動作を繰り返し難くなり、ショックアブソーバが十分な減衰力を発生させることができない。
【0042】
したがって、条件Aのような車両が平滑な路面を走行時などのショックアブソーバに加えられる荷重が低い場合には、従来の摺動部材1のように、樹脂層4の全面にクッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域を形成した場合と同じく、本発明の実施形態に係る摺動部材1として、樹脂層4の全面または少なくとも樹脂層4の車輪側の表面にクッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域を形成した場合にも、ショックアブソーバの縮み動作時・伸び動作時の低摩擦力を維持することにより、車両が平滑な路面を走行時における車両の乗り心地を同等とすることができる。
【0043】
次いで、表4に示すように、車両が凹凸のある路面を走行時にショックアブソーバに加えられる荷重を想定し、ショックアブソーバの縮み動作に荷重の高い条件B、伸び動作に荷重の低い条件Aとなるように荷重を変動させた往復摺動試験の試験結果から以下のことが判明した。樹脂層4の全面にクッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域を形成した実施例1,2、樹脂層4の車輪側の表面にクッション性指数Xが同じ範囲の凹凸形状領域を形成した実施例3〜5、及び樹脂層4の車体側・車輪側の両端部側の表面にクッション性指数Xが同じ範囲の凹凸形状領域を形成した実施例6では、ショックアブソーバの縮み動作時の摩擦力が1.99〜2.09kgf、伸び動作時の摩擦力が0.40〜0.50kgfである。これに対し、樹脂層4の全面にクッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域を形成した比較例1〜4では、ショックアブソーバの縮み動作時の摩擦力が1.07〜1.12kgf、伸び動作時の摩擦力が0.40〜0.43kgfである。なお、樹脂層4の全面にクッション性指数XがX>5.0×10(μm)の凹凸形状領域を形成した比較例5については、ショックアブソーバの縮み動作・伸び動作共に条件Aの荷重を加えた場合に、ショックアブソーバの縮み動作時・伸び動作時の摩擦力が低く抑えられなかったので、ショックアブソーバの縮み動作に荷重の高い条件B、伸び動作に荷重の低い条件Aとなるように荷重を変動させた往復摺動試験を実施しなかった。
【0044】
上記したように、樹脂層4の全面または少なくとも樹脂層4の車輪側の表面にクッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域を形成した実施例1〜6では、樹脂層4の全面にクッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域を形成した比較例1〜4よりも、ショックアブソーバの縮み動作時の摩擦力を増大させることができる。すなわち、条件Bのような車両が凹凸のある路面を走行時などの縮み動作側のショックアブソーバに加えられる荷重が高い場合には、ピストンロッドとの摩擦力が増大するので、ピストンロッドが滑り難く、ピストンロッドのシリンダ内への侵入量が抑えられるため、縮み動作の振幅が小さくなり、車体の傾きを小さくすることができる。
【0045】
また、樹脂層4の全面または少なくとも樹脂層4の車輪側の表面にクッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域を形成した実施例1〜6では、樹脂層4の全面にクッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域を形成した比較例1〜4と同じく、ショックアブソーバの伸び動作時の摩擦力を低く抑えることができる。すなわち、車両が凹凸のある路面を走行時でありながら条件Aのようなショックアブソーバに加えられる荷重が低い場合には、ピストンロッドとの摩擦力が低く抑えられるので、ピストンロッドが滑りやすくシリンダ内から出やすいため、早期に伸び動作が起こり、路面に車輪を接地させることができる。
【0046】
したがって、条件Bのような車両が凹凸のある路面を走行時などの縮み動作側のショックアブソーバに加えられる荷重が高い場合には、従来の摺動部材1のように、樹脂層4の全面にクッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域を形成した場合よりも、本発明の実施形態に係る摺動部材1として、樹脂層4の全面または少なくとも樹脂層4の車輪側の表面にクッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域を形成した場合のほうが、ショックアブソーバの縮み動作時の摩擦力が増大するのに加え、伸び動作時の低摩擦力を維持することにより、縮み動作側のショックアブソーバでは振幅を抑えるのに対し、伸び動作側のショックアブソーバでは路面への車輪の接地を確保し、車両が凹凸のある路面を走行時における車両の走行安定性を向上することができる。
【0047】
なお、表4に示すように、実施例1〜6のうち、樹脂層4の車体側の表面にクッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域を形成した実施例1,2,6では、ショックアブソーバの縮み動作時の摩擦力が2.06〜2.09kgf、伸び動作時の摩擦力が0.46〜0.50kgfであるのに対し、樹脂層4の車体側の表面にクッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域を形成した実施例3〜5では、ショックアブソーバの縮み動作時の摩擦力が1.99〜2.04kgf、伸び動作時の摩擦力が0.40〜0.41kgfである。すなわち、実施例3〜5よりも実施例1,2,6のほうが、ショックアブソーバの縮み動作時だけでなく、伸び動作時にも摩擦力が僅かに増大する傾向にある。このように、ショックアブソーバの伸び動作時の摩擦力が増大した場合には、ピストンロッドが滑り難くシリンダ内から出難いため、早期に伸び動作が起こらず、路面への車輪の接地が遅くなってしまう。したがって、車両が凹凸のある路面を走行時には、実施例1〜6のうち、ショックアブソーバの伸び動作時の低摩擦力を維持しながらも、縮み動作時の摩擦力が増大することを可能とした実施例3〜5が好適であるため、樹脂層4の車体側の表面にクッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域を形成することが望ましい。
【0048】
また、実施例1〜6では、クッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域において、表1に示すように、凹凸形状の隣り合う凸部の頂点間の平均距離RSmを0.5×10μm、凹凸形状の底辺から凸部の頂点までの平均高さRcを10〜20μmに設定しているが、RSmを0.5×10〜1×10μmに設定することによっても、縮み動作側のショックアブソーバに加えられる荷重が高い場合におけるピストンロッドとの摩擦力が増大することを確認した。これに対し、RSmを0.5×10μm未満に設定した場合には、Rcを10μm以上で形成することが加工上困難となり、Rcを10μm未満に設定した場合には、縮み動作側のショックアブソーバに加えられる荷重が高い場合におけるピストンロッドとの摩擦力が十分に増大しないことを確認した。このように、ショックアブソーバの縮み動作時の摩擦力の変化に十分な効果を得るためには、RSmを0.5×10〜1×10μm、Rcを10〜20μmに設定することが望ましい。
【0049】
また、実施例1〜6では、樹脂層4の車輪側の25%以上の表面、すなわち摺動部材1の内周面における軸線方向の車輪側の端部からの長さが、摺動部材1の内周面における軸線方向の長さに対して25〜100%となる領域に、クッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域を形成することにより、縮み動作側のショックアブソーバに加えられる荷重が高い場合におけるピストンロッドとの摩擦力を増大させることができた。これに対し、樹脂層4の車輪側の25%未満の表面、すなわち摺動部材1の内周面における軸線方向の車輪側の端部からの長さが、摺動部材1の内周面における軸線方向の長さに対して25%未満となる領域に、クッション性指数Xが同じ範囲の凹凸形状領域を形成しただけでは、縮み動作側のショックアブソーバに加えられる荷重が高い場合におけるピストンロッドとの摩擦力が十分に増大しないことを確認した。このように、ショックアブソーバの縮み動作時の摩擦力の変化に十分な効果を得るためには、クッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域を、樹脂層4の車輪側の25%以上の表面に形成することが望ましい。
【0050】
また、実施例6では、樹脂層4の車体側・車輪側の両端部側の表面にクッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域を形成することにより、樹脂層4の全面でなくても、縮み動作側のショックアブソーバに加えられる荷重が高い場合におけるピストンロッドとの摩擦力を増大させることができた。このように、樹脂層4の車体側の表面と車輪側の表面とでクッション性指数Xが対称的な凹凸形状領域を形成した摺動部材1を使用することにより、実施例3〜5のような樹脂層4の車体側の表面と車輪側の表面とでクッション性指数Xが異なる凹凸形状領域を形成した摺動部材1とは異なり、摺動部材1をショックアブソーバに組み付ける際に、車両の車体側・車両側の配置(位置)が誤って組み付けられるのを防止することができる。
【0051】
なお、摺動部材1の摺動層は、樹脂に限定される。例えば、摺動部材1の摺動層に金属を使用した場合には、金属が塑性流動し、且つ、摩擦力が高すぎるため、本発明の実施形態と共通する効果を得ることができない。
【0052】
また、摺動部材1の樹脂層4は、本発明の実施形態に示した樹脂組成に限定されない。樹脂組成が異なる他の樹脂を使用した場合にも、弾性変形が可能であるので、本発明の実施形態と共通する効果を得ることができる。また、樹脂層4には、本発明の実施形態の効果を失わない限り、ベース樹脂としていずれの樹脂を使用してもよいが、PTFEを使用することが望ましい。また、樹脂層4には、グラファイト(Gr)を添加しているが、各種固体潤滑や各種充填剤を添加してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 摺動部材
2 裏金
3 多孔質金属層
4 樹脂層
4a 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏金上に形成された多孔質金属層中に樹脂層を含浸被覆し、前記樹脂層が内周面となるように円筒形状に成型することにより、車両の車輪と車体との間に組み付けられるショックアブソーバに用いられて軸線方向に往復摺動するピストンロッドを支持する車両用のショックアブソーバ用の摺動部材において、
前記樹脂層の表面には、凹凸形状を形成すると共に、前記凹凸形状の隣り合う凸部の頂点間の平均距離をRSm、前記凹凸形状の底辺から凸部の頂点までの平均高さをRcとしたとき、式(1)によって表わされるクッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)、且つ、RSm≧0.5×10μm、Rc≧10μmを満たす凹凸形状領域が形成されることを特徴とする車両用のショックアブソーバ用の摺動部材。
X=RSm×Rc÷2・・・式(1)
【請求項2】
前記摺動部材の内周面のうち前記軸線方向の車体側の端部側における前記樹脂層の表面には、前記クッション性指数XがX<2.5×10(μm)の凹凸形状領域が形成されることを特徴とする請求項1記載の車両用のショックアブソーバ用の摺動部材。
【請求項3】
前記クッション性指数Xが2.5×10(μm)≦X≦5.0×10(μm)の凹凸形状領域は、前記摺動部材の内周面における前記軸線方向の車輪側の端部からの長さが、前記摺動部材の内周面における前記軸線方向の長さに対して25%以上となる領域に形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両用のショックアブソーバ用の摺動部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−177439(P2012−177439A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40931(P2011−40931)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】