説明

車両用のシールド電線の取付構造

【課題】シールド電線のシールド層を剥離した領域から発生するノイズを遮蔽する。
【解決手段】車両に搭載する金属製のシールドケース内にシールド電線を挿入し、前記シールドケース内の電装品と接続しているシールド電線のシールド構造であって、前記シールドケースの側壁に前記シールド電線の貫通穴を設けていると共に、該シールドケースの外面に取り付けるハーネス固定用の金属製のブラケットに前記貫通穴を囲む遮蔽部を前記側壁の外面側から外方へ突出させて設け、前記シールド電線のシールド層が剥離された皮剥領域を前記遮蔽部で囲み、かつ、前記シールド電線のシールド層に接続したアース端子を前記ブラケットに接続する構成としていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用のシールド電線の取付構造に関し、特に、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載される電池パックを収容する金属製のシールドケース内に挿入する高圧のシールド電線からのノイズの遮断および該シールド電線のシールド層のアース接続に好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
前記電池パック等を収容する金属製のシールドケースには、高圧のシールド電線をシールドケースに設けた貫通穴を通して挿入し、シールドケース内に収容された電池パックまたは電池パックと接続するヒューズ等の電装品と接続している。このように電池パック等の高圧な電源側と接続する高圧電線はノイズ発生源となるためシールド電線を用いている。
【0003】
図7に示すように、シールド電線100は電線101を金属編組チューブや金属箔テープからなるシールド層102で被覆し、該シールド層102を絶縁被覆層からなるシース103で被覆している。該シールド電線100は先端から所要寸法だけシース103を皮剥ぎしてシールド層102を露出させ、露出したシールド層102を電線101の外周より引き出し、その先端にアース端子105を接続している。該アース端子105を金属板等にボルト止めしてアース接続している。また、シース103およびシールド層102が皮剥ぎされた電線101の絶縁被覆層101aを皮剥し、露出させた芯線101bに端子106を接続し、該端子106を電装品と接続している。
【0004】
前記シールド電線をシールドケースに収容した電装品と接続する場合、シールドケース内に配線するシールド電線の長さが大であると、シールド電線のシールド層の剥離部分をシールドケース内に位置させてシールドを図ると共に、シールド層と接続したアース端子をシールドケースの内面にボルト止めしてアース接続することができる。
しかし、シールドケース内の電装品とシールド電線との接続が、シールドケース内へのシールド電線の挿入直後の場合、シールドケースより外側でシールド電線のシースを剥離し、シールド層を電線より引き出し、シールドケースの外面側でアース接続する必要がある。よって、シールド電線はシールド層で被覆されていない電線がシールドケースの外部に存在することになり、シールド機能が低下すると共に、アース接続構造が複雑になる問題があった。
【0005】
前記問題に対して、特開平8−96868号公報でシールド電線のアース接続構造が提案されている。該アース接続構造は図8に示すように、金属ケース200に設けた貫通穴201に挿通するシールド電線210は、金属ケース200の外面にボルト202で固定されるシールドキャップ220に挿通されている。該シールドキャップ220内の位置でシールド電線210はシース(外皮)211が皮剥され、露出された金属編組線(シールド層)212にシールドリング213を外嵌し、該シールドリング213とシールドキャップ220の間にバネ片230を装着している。
前記構成とすることで、シールド層212が剥離されたシールド電線210の部分はシールドキャップ220内に位置してシールド機能が保持される。かつ、シールド電線210のシールド層212はシールドリング213、バネ片230、シールドキャップ220を介して金属ケース200と導通し、シールド層212がアース接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−96868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1の構造とすると、シールド電線210の露出させたシールド層212に外嵌するシールドリング213、該シールドリング213に接触させるバネ片230、バネ片230を保持するシールドキャップ220、該シールドキャップ220を金属ケース200に固定するボルト202等の多数の部品を必要としコスト高になる問題がある。かつ、前記アース接続は各シールド電線毎になされているため、シールド電線の本数が増加すると、アース接続作業が増加し、さらにコスト高になる問題がある。
【0008】
本発明は前記問題を解消するためになされたもので、シールドケースに挿通するシールド電線をシールドケースの外方でシールド層を剥離する必要がある場合に、簡単な構成でシールド機能を保持できるようにすると共に、シールド層のアース接続ができるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するため、本発明は、車両に搭載する金属製のシールドケース内にシールド電線を挿入し、前記シールドケース内の電装品と接続しているシールド電線の取付構造であって、
前記シールドケースの側壁に前記シールド電線の貫通穴を設けていると共に、該シールドケースの外面に取り付けるハーネス固定用の金属製のブラケットに前記貫通穴を囲む遮蔽部を前記側壁の外面側から外方へ突出させて設け、前記シールド電線のシールド層が剥離された皮剥領域を前記遮蔽部で囲み、かつ、前記シールド電線のシールド層に接続したアース端子を前記ブラケットに接続する構成としていることを特徴とする車両用のシールド電線の取付構造を提供している。
【0010】
前記のように、本発明のシールド電線の取付構造は、シールド電線のシールド層を剥離した皮剥領域がシールドケース外に位置した場合に、該シールドケースに取り付ける金属製のブラケットにシールド電線の皮剥領域を囲む遮蔽部を設け、かつ、シールド層に接続するアース端子を前記ブラケットに固定してアース接続しているため、遮蔽部およびアース接続のための専用部品を設ける必要はなく、多数の専用部品を設けている前記特許文献1と比較して大幅なコストダウンを図ることができる。
【0011】
前記シールドケースは電気自動車またはハイブリッド自動車に搭載される電池パックモジュールの金属製のケースであり、該シールドケース内に電池パックを収容していると共に前記電装品を収容し、該電装品は前記電池パックに接続される高圧電源線と前記シールド電線とに接続されるヒューズまたはリレーを含む電装品であり、
前記シールド電線の内の少なくとも一部の電線は前記貫通穴に近接した位置で端子が接続され、該端子を介して前記電装品と接続されるものである。
【0012】
電気自動車等に搭載する電池パックモジュール内のリレー等に接続するシールド電線は高圧であるため、シールド層がない皮剥領域は大きなノイズの発生源となる。よって、この高圧なシールド電線の皮剥領域をブラケットで遮蔽すると、大きなノイズの発生を防止することができる。
【0013】
前記シールドケースの側壁に複数の前記貫通穴を並列に設け、前記ブラケットに設ける遮蔽部は両側壁と連結壁とを備えたコ型とし、前記両側壁で前記貫通穴に挿通する前記シールド電線を左右方向で挟むと共に該シールド電線を前記連結壁とフランジとで上下方向を挟み、かつ、前記シールド電線に巻き付けたバンドクランプを前記連結壁に設けた係止穴に挿入係止している。
【0014】
前記ブラケットに設ける遮蔽部はコ型に限定されず、一方の側壁の上端にフランジに接触する屈折した上壁を備える形状としてもよい。あるいは、シールドケースのフランジにコ型の遮蔽部の上面開口を閉鎖する庇部分を突設してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両用のシールド電線の取付構造によれば、シールドケースに取り付けるブラケットの形状を改良し、シールド電線のシールド層を剥離した部分を囲む遮蔽部を設けていることで、ノイズ遮蔽用の専用部品を設けることなくシールド電線から発生するノイズを遮断できる。かつ、該ブラケットにシールド電線のシールド層をアース接続するため、アース接続のための別部品を必要としない。このように、部品点数を増加することなくシールド電線のノイズ遮蔽およびシールド層のアース接続を行うことができ、コストの大幅な低下を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態を示す概略断面図である。
【図2】車体に搭載した状態の左側面図である。
【図3】シールド線を説明する図面である。
【図4】(A)(B)は第1実施形態の変形例を示す概略図である。
【図5】第2実施形態の電池パックモジュールの要部斜視図である。
【図6】(A)は電池パックモジュールの蓋を取り付けていない状態の斜視図、(B)は蓋を取り付けた状態の斜視図である。
【図7】(A)シールド線の正面図、(B)は(A)のB−B線断面図である。
【図8】従来例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3に第1実施形態を示す。
自動車に搭載する金属製のシールドケース1内にヒューズ、リレーまたはコネクタ付きのプリント基板等からなる電装品2を収容し、該電装品2と接続するシールド電線3をシールドケース1の側壁1aに設けた貫通穴1hに挿入し、該シールド電線3の端末に接続した端子4を前記電装品2と接続している。シールドケース1はアルミニウム合金等で形成したケース本体と蓋とからなる。
【0018】
前記シールドケース1に挿入するシールド電線3は複数本で、図2に示すように、本実施形態では3本である。前記シールドケース1の側壁1aに並列に穿設した3つの貫通穴1hにシールド電線3をそれぞれ挿通し、各シールド電線3の端末に接続した端子4を貫通穴1hに近接した位置のシールドケース1の内部で前記電装品2と接続している。よって、シールド電線3の端末側のシースおよびシールド層の皮剥領域Xは貫通穴1hを通してシールドケース1の外方に延在している。詳細には、前記図7と同様で、図3に示すように、シールド電線3は端末側で所要長さシース3aを皮剥して金属編組チューブからなるシールド層3bを露出させ、露出させた金属編組チューブをコア電線3cの外周から引き剥がして側方に延在させてアース線5と半田接続し、該アース線5の先端にアース端子6を取り付けている。かつ、シールド層3bが剥離されたコア電線3cは先端から更に絶縁被覆を皮剥ぎして芯線を露出させ、該芯線の先端に前記端子4を圧着接続している。
【0019】
前記のように、端子4を接続するシールド電線3の端末側では、シールド層3bを端末から所要長さ皮剥ぎする必要があるため、該皮剥領域Xはシールドケース1の貫通穴1hを通り、シールドケース1の外方に延在することになる。この延在部分からノイズが発生するためシールドケース1の外方に位置する皮剥領域をシールドする必要がある。
【0020】
一方、前記シールドケース1の外面にハーネス固定用のブラケット10を設けている。該ブラケット10は、シールドケース1の底壁外面に位置する車体固定用クロスメンバ11にボルト止め底壁部10rと、該底壁部10rから前記貫通穴1hを設けた側壁1aの下部外面に接するように側部12を屈折させて設けている。該側部12の上端から遮蔽部13を外向きに設けている。
【0021】
前記遮蔽部13は略コ型であり、中央の連結部13aは並列する前記貫通穴1hの下部から外向きに水平方向に突出し、該連結部13aの両側部13bと13cは上向き垂直方向に屈折している。両側部13bと13cの間に前記3個の貫通穴1hを位置させ、これら貫通穴1hに挿入する3本のシールド電線3の皮剥領域Xを遮蔽部13の両側部13bと13cで挟むようにしている。また、図2に示すように、両側部13bと13cの上端はシールドケース1の側壁1aの上端および蓋1fの周壁下端から突設したフランジFに突き当てるようにしている。これにより、遮蔽部13の連結部13aはフランジFと上下対向し、該フランジFと連結部13aの間で前記3本のシールド電線3の皮剥領域Xを挟むことになる。このように3本のシールド電線3の皮剥領域Xをブラケット10の遮蔽部13とフランジFで囲むことにより、皮剥領域Xから発生するノイズを遮蔽できるようにしている。
【0022】
また、遮蔽部13の連結部13aの外方突出寸法Sはシールド電線3の皮剥領域Xを越えて外方に突出する寸法とし、該連結部13aの突出縁に沿って各シールド電線3に巻き付けるバンドクランプ8のクランプ係止穴15を並設している。さらに、該連結部13aにシールド電線3のシールド層3bに接続したアース端子6に取り付けるボルト16と螺着するナット17を半田固定している。
【0023】
さらに、図2に示すように、シールドケース1の底壁外方から車体固定用クロスメンバ11を突設し、サイドメンバA、Bにボルト止めするようにしている。
【0024】
なお、図4(A)に示すように、前記遮蔽部13の両側部13bと13cの上端に屈折した取付座部13d、13eを設け、該取付座部を前記フランジFにボルト止めしても良い。さらに、図4(B)に示すように、前記遮蔽部13の両側部13bと13cの上端を前記シールドケース蓋から突設した庇部1uに突き当ててもよい。
【0025】
次に、シールド電線3のシールドケース1への取付方法について説明する。
シールド電線3をシールドケース1の貫通穴1hを通して挿入し、端末に接続した端子をシールドケース1内に収容した電装品2と接続すると、シールド電線3のシース3aおよびシールド層3bを剥離した皮剥領域Xがシールドケース1より外方に延在する。この延在した皮剥領域Xはブラケット10の遮蔽部13で下部および左右両側部の3方が囲まれる。
また、シールド電線3には皮剥領域Xに近接した位置にバンドクランプ8を巻き付けて締結しておき、該バンドクランプ8のクリップ8aを遮蔽部13の連結部13aに設けたクランプ係止穴15に挿入係止する。かつ、シールド電線3の剥離したシールド層3bに連結したアース端子6のボルト穴にボルト16を通し、該ボルト16を連結部13aに半田固着しているナット17に螺着する。これにより、アース端子6をブラケット10を介してシールドケース1に導通し、アース接続している。
【0026】
前記のようにシールド電線3と接続したシールドケース1は、車体固定用クロスメンバ11を車両のサイドメンバA、Bにボルト締め固定してシールドケース1を搭載する。シールドケース1から外方へ延在するシールド電線3の皮剥領域Xは金属製のブラケット10の遮蔽部13と金属製のフランジFで外周が囲まれることとなり、シールド層3bが剥離された皮剥領域Xから発生するノイズを遮蔽することができる。
【0027】
前記構成とすると、シールド電線3の皮剥領域Xから発生するノイズを遮蔽するために、ブラケット10から遮蔽部を突設しているだけであるため、前記特許文献1で必要とする多数の部品が不要となる。また、シールド電線3のシールド層3bのアース接続はシールド層3bと接続したアース線端末のアース端子6をブラケット10にボルト止めすれば良いだけで、簡単に行うことができる。かつ、該アース端子6の接続位置はブラケット10の任意の位置に調整可能である。
【0028】
図5および図6に第2実施形態を示す。
第2実施形態は、電気自動車に搭載する電池パックモジュール20の金属製ケースをシールドケース21としている。該電池パックモジュール20はフロアパネルの下部でクロスメンバに挟まれた部分に搭載するものである。該シールドケース21は本体21aと蓋21bとからなり、図6(A)は蓋21bで閉鎖していない状態を示し、図6(B)は蓋21bで閉鎖した状態を示す。
【0029】
電池パックモジュール20はシールドケース本体21a内に多数の電池パック25を収容し、該電池パック25を収容していないスペースをヒューズを含めた電装品収容部24とし、主として複数の高圧ヒューズ26を収容している。これら高圧ヒューズ26の電源側は電池パック25と電源線27を介して接続し、負荷側はシールドケース本体21aに挿入する高圧のシールド電線3を接続している。該シールド電線3はシールドケース本体21aの側壁に並列に穿設した3個の貫通穴21hを通して外部から挿入する3本のシールド電線3からなる。
【0030】
前記シールドケース本体21aに第1実施形態と同様なコ型の連結部13a、両側部13bと13cを有する遮蔽部13を設けたブラケット10を取り付けている。該ブラケット10の他の構成は第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0031】
前記のように、電池パックモジュール内に収容する高圧ヒューズと接続するシールド電線3は高圧であるため、シールド層の皮剥領域がシールドケース外に位置するとノイズ発生源となるが、ブラケット10の遮蔽部13で遮蔽するため、ノイズを遮蔽することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 シールドケース
1h 貫通穴
3 シールド電線
3a シース
3b シールド層
3c コア電線
4 端子
6 アース端子
8 バンドクランプ
10 ブラケット
13 遮蔽部
20 電池パックモジュール
25 電池パック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載する金属製のシールドケース内にシールド電線を挿入し、前記シールドケース内の電装品と接続しているシールド電線の取付構造であって、
前記シールドケースの側壁に前記シールド電線の貫通穴を設けていると共に、該シールドケースの外面に取り付けるハーネス固定用の金属製のブラケットに前記貫通穴を囲む遮蔽部を前記側壁の外面側から外方へ突出させて設け、前記シールド電線のシールド層が剥離された皮剥領域を前記遮蔽部で囲み、かつ、前記シールド電線のシールド層に接続したアース端子を前記ブラケットに接続する構成としていることを特徴とする車両用のシールド電線の取付構造。
【請求項2】
前記シールドケースは電気自動車またはハイブリッド自動車に搭載される電池パックモジュールのケースであり、該シールドケース内に電池パックを収容していると共に前記電装品を収容し、該電装品は前記電池パックに接続される高圧電源線と高圧の前記シールド電線とに接続されるヒューズまたはリレーを含む電装品であり、
前記シールド電線の内の少なくとも一部の電線は前記貫通穴に近接した位置で端子が接続され、該端子を介して前記電装品と接続されるものである請求項1に記載の車両用のシールド電線の取付構造。
【請求項3】
前記シールドケースの側壁に複数の前記貫通穴を並列に設け、前記ブラケットに設ける遮蔽部は両側壁と連結壁とを備えたコ型とし、前記両側壁で前記貫通穴に挿通する前記シールド電線を左右方向で挟むと共に該シールド電線を前記連結壁とフランジとで上下方向を挟み、かつ、前記シールド電線に巻き付けたバンドクランプを前記連結壁に設けた係止穴に挿入係止している請求項1または請求項2に記載の車両用のシールド電線の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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