説明

車両用の座席

【課題】乗合乗用車の車内に、所望の荷物空間を適宜形成可能とすること。
【解決手段】乗合乗用車に設けられた座席を前後方向に移動可能とする。座席は、座席の下部を支持する脚部、および座席の側面を車両の側壁に係合させる係合部材とを備える。脚部と係合部材は、それぞれ座席を車両の前後方向に移動可能とし、かつ任意の位置で固定する。更に、脚部は、座面に対して折り畳み可能とする。係合部材は、固定を解除すると、座面を前後方向に回動自在に支持する。これにより、座席を互いに重ね合わせて、車内に荷物などのための空間を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車内での移動を可能とした車両用の座席に関する。
【背景技術】
【0002】
乗合乗用車としてのバスには、多数の座席が取り付けられている。バスは、地域により使われ方が様々であり、バスを、市民の主な交通手段として利用している地域では、人を搬送するのみならず、荷物の運搬にもバスが用いられることがある。このように、乗員が持ち込む荷物が多く、日常的に荷物をバスで運ぶことがある地域では、座席に代えて車内に荷物用の空間を必要とする場合がある。
【0003】
またバスは、バスの行き先や走行する時間帯によっても、人と荷物の割合が変化することがある。例えば市内と市場とを運行しているバス路線では、市場からの帰りのバスには、大量の荷物がバスに積まれることが考えられる。
【0004】
普通乗用車では、例えば前席を、運転者の身長などに合わせて前後方向に移動可能としたり、また2列目や3列目の座席を折り畳みを可能として、シートレイアウトを変更可能とした車両が知られている。また近年、一部の座席を跳ね上げ可能とし、車椅子の乗客を乗せられるようにしたバスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−172223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながらバスには、なるべく多くの人が座席に着けるよう、予め設定された配列で座席が車内に設けられている。跳ね上げを可能とした座席を除き、通常バスの各座席は、製造時に車内の床材、あるいは床材に敷設したシートレール上にねじなどで固定されている。
【0007】
したがってバスの使用目的と座席配置とが合致していなかったり、荷物の量が増大して座席の配列を変更したい場合が生じても、車内で座席を移動させて、例えば荷物を載せる空間を形成させたりすることはできなかった。
【0008】
また、各地域の要望に応じて、多数の種類のバスを予め製造することはコストなどの観点から困難である。更に他の地域で使用していた車両を輸入して使用する場合などは、輸入する地域の実情にバスを合致させることは不可能であった。
【0009】
本発明は上記課題を解決し、乗員と荷物などとの割合に応じて、車内に荷物を置く空間を形成し、またその空間を容易に拡大したり、縮小させることが可能な車両用の座席を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、車両用の座席を次のように構成した。
乗合乗用車の車内に設けられる座席を、車両の前後方向に移動可能に設置した。更に座席に取り付けられた脚部を床に対して前後動可能に設け、また座席の側方に係合部材を設け、車両の側壁に係合部材を前後動可能に組み付けた。これら脚部と係合部材に、それぞれ固定機構を設け、固定機構により座席を適宜の位置に固定可能とした。
【0011】
更に脚部は、座面に対して折り曲げ可能とした。また係合部材は、側壁への固定を解除すると、座席を前後方向に回動自在に支持可能とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる車両用の座席によれば、座席を所定の位置に配置させた状態から、各固定機構の固定を解除して、所望の数の座席を車両の前方、あるいは後方に移動できる。それにより、座席の間隔を狭め、座席のあった位置に荷物などを載置する空間を形成することができる。
【0013】
脚部を座席に対して折り畳み、また係合部材を中心として座席を回動させることにより、座面どうしを重ね合わせて収納でき、多くの座席を狭い空間に収容し、より広い空間を車内に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかる車両用の座席の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】同座席の断面図である。
【図3】同座席の斜視図である。
【図4】同座席の斜視図である。
【図5】車内における同座席の側面図である。
【図6】車内における同座席の側面図である。
【図7】複数の座席を具えたバスを示す透視斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明にかかる、車両用の座席の一実施形態について説明する。
図7に、乗合乗用車、つまりバスとしての車両50を示す。車両50は、前方に運転席52、出入口54などを備え、運転席52より後方に、座席10を複数配置させている。座席10は、2人掛け座席で、車両50の前後方向に、乗員が前方を向いて着座するように所定の間隔で配置されている。車両50の左右には、それぞれ側壁60が設けられ、それぞれに窓62が取り付けられている。
【0016】
座席10を図1に示す。座席10は、図に示すように座面12とシートバック14と脚部16から構成されている。尚、図1の座席10は、一人掛けの座席である。座面12とシートバック14は、所定の角度で固定されている。尚、座面12とシートバック14との角度を変更可能としてもよい。
【0017】
座面12の下面には脚部16が、図2に示すように、回動機構18を介して折り畳み自在に取り付けられている。脚部16は、回動機構18により、脚部16の下端が座席10に近い窓62の方向に回動するように取り付けられている。脚部16の下端は、床20上のスライドレール22に連結されている。
【0018】
スライドレール22は、床20上に、車両50の前後方向に沿って固定されている。スライドレール22には、脚部16の下端が、スライドレール22に沿って移動可能に連結されている。
【0019】
また脚部16には、固定機構24が設けられている。固定機構24は、握り部26と固定ロッド28などからなり、ばね部材(図示せず。)により固定ロッド28を付勢し、固定ロッド28をスライドレール22、あるいは床20に係合させている。握り部26は、脚部16に沿って上下動可能に設けられている。握り部26は固定ロッド28に連結しており、握り部26を上方に移動させると、固定ロッド28が移動して、スライドレール22等との係合が解除されるように構成されている。
【0020】
又握り部26は、回動機構18の固定機構(図示せず。)に係合している。握り部26は、脚部16が座面12に対してほぼ垂直に展開されているとき、固定機構が作用し、脚部16の展開を保持する。そして握り部26を上方に移動させると、握り部26は固定機構の作用を解除し、脚部16を回動自在とする。
【0021】
側壁60には、サイドレール32が設けられている。サイドレール32は、窓62の下方に、車両50の前後方向に沿って取り付けられている。スライドレール22とサイドレール32は、平行に取り付けられている。
【0022】
座面12の側壁60側の側面には、図2に示すように係合部材36が設けられている。係合部材36は、サイドレール32に沿って移動可能、かつ係合部材36を中心として回動自在に組み付けられている。
【0023】
更に係合部材36には、固定機構(図示せず。)が設けられている。固定機構は、ばね機構(図示せず。)を備え、ばね機構により付勢され、通常サイドレール32に嵌合し、係合部材36をサイドレール32の任意に位置で固定する。また固定機構は、握り部26に連結しており、握り部26を上方に移動させると、ばね機構に抗してサイドレール32との嵌合が解除される。なお、ばね機構はなくともよい。
【0024】
次に、車両用の座席10の使用方法、およびその効果について説明する。
【0025】
図5に、車両50の車内に設けられた座席10を示す。各座席10は、人が座席10に座ったとき、特に狭すぎず、かつ座席10間に余分な空間をもたらさない所定の間隔で配置されている。
【0026】
脚部16は、固定機構24でスライドレール22に固定されている。係合部材36は、サイドレール32の所定の位置で、固定機構により固定されている。これにより各座席10は、床20上の所定位置に固定されている。図7は、車両50が最大座席数となる状態を示す。乗客のみの場合は、座席10に乗客を着座させて車両50を走行させる。
【0027】
そして例えば、買い物荷物などを多く持っている人が多数車両50に乗り込むとする。そのときには、いくつかの座席10を選択し、各座席10の握り部26を握り、握り部26を上方に移動させる。すると脚部16の固定機構24と、回動機構18の固定機構と、係合部材36の固定機構の固定が解除される。
【0028】
各固定機構の固定が解除されたら、図3に示すように脚部16を窓62側に折り畳む。折り畳また脚部16は、座面12の下面に係合具など(図示せず。)により保持される。次に座席10を、係合部材36を中心として、図4に示すようにシートバック14が前方に来るように回動させる。
【0029】
座席10を回動させたら、固定を解除した所定の座席10を、図6に示すようにサイドレール32に沿って前方に移動させる。これにより、前方に移動させた座席10の後方の床20が露出し、荷物などを置く空間40が形成される。
【0030】
更に、荷物等を載せる必要がなくなったなら、座席10を所定の位置に戻し、脚部16をスライドレール22に係合させ、各機構の固定機構を作用させる。これにより、座席10は、図5に示すような配置に復帰する。
【0031】
以上説明したように、本発明にかかる車両用の座席10によれば、車両50の室内に定員上限の座席10を配置させることができるとともに、必要に応じて室内に荷物を置く空間40を形成することができる。
【0032】
スライドレール22やサイドレール32は、従来のスライドレールやサイドレールを用いたり、あるいはわずかな変更で利用でき、コストを低減させることができる。固定機構24等により座席10を固定できるので、各座席をねじで固定する従来の製造工程を簡略化できる。座席10を、追加したり、取り外すことが容易に可能となり、多くの仕様のバスを容易に製造できる。座席10を全て取り外して、平坦なフロアを形成することもできる。座席10は、握り部26を操作して移動でき、一人で座席配列を変更できる。
【0033】
尚、座席10を回動させたときは、係合部材36による片持ち状態であるので、座席10の下部に支持部材などを設け、座席10を床20などの上に支持させるのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、多数の乗員を乗せるバスなどの座席に用いられる。
【符号の説明】
【0035】
10…座席
12…座面
14…シートバック
16…脚部
18…回動機構
20…床
22…スライドレール
24…固定機構
32…サイドレール
36…係合部材
50…車両
60…側壁
62…窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗合乗用車に設けられた車両用の座席であって、
前記乗合乗用車の車両室内において該車両の前後方向に移動可能であり、前記座席を前後いずれかの方向に移動して重ね合わせ、該車両室内に、座席が設置されていない空間を形成可能としたことを特徴とする乗合乗用車の座席。
【請求項2】
乗合乗用車に複数設けられた車両用の座席であって、
前記座席は、少なくとも座面を備え、該座面の左右いずれかの側面を前記車両の側壁に沿って車両前後方向に配列され、
前記座面は、該座面を下方から支持する脚部と、前記側壁に係合する係合部材とを有し、
前記脚部は、前記床面に沿って前記車両の前後方向に移動可能であり、かつ該床面の所望の位置で固定可能であり、
前記係合部材は、前記側壁に沿って前記車両の前後方向に移動可能であり、かつ該側壁の所望の位置で固定可能に係合させたことを特徴とする乗合乗用車の座席。
【請求項3】
前記係合部材は、前記側壁との固定を解除したとき、前記座面を前記車両の前後方向に回動自在にすることを特徴とした請求項2に記載の乗合乗用車の座席。
【請求項4】
前記脚部は、前記座面に折り畳み可能に設けられていることを特徴とする請求項2又は3に記載の乗合乗用車の座席。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−116316(P2011−116316A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277837(P2009−277837)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】