説明

車両用のAM/FM受信用ヘリカルアンテナ

【課題】小型化が可能で、AM/FMの両方の受信特性を改善可能なAM/FM受信用ヘリカルアンテナを提供する。
【解決手段】AM/FM受信用ヘリカルアンテナは、エレメント10と給電部20とからなる。エレメント10は、車両ボディG側の基端部11と車両ボディGと離れる側の先端部12とを有している。そして、エレメント10は、基端部11から先端部12まで螺旋状に巻回される。さらに、エレメント10は、基端部11及び先端部12がそれぞれ異なる一定の巻回径で巻回されると共に、エレメント10の巻回径は、基端部11に比べて先端部12のほうが太いものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用のAM/FM受信用ヘリカルアンテナに関し、特に、小型化したAM/FM受信用ヘリカルアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から車両用のFMアンテナとしてポールアンテナ等が用いられている。一般的にはアンテナ長が1/4波長のモノポールアンテナが知られている。また、アンテナを小型化(短縮化)するために、エレメントをコイル状に巻回したヘリカルアンテナが知られている。そして、アンテナ長はAM帯域に対して遥かに短いが、FM帯域用のヘリカルアンテナをAM受信用としても用い、フィルタ回路や増幅器を介してAM信号を受信するAM/FM受信用ヘリカルアンテナも知られている。
【0003】
ヘリカルアンテナで構成されるAMアンテナは、波長に比べてアンテナ長が非常に短い微小モノポールアンテナである。ここで、AMアンテナ利得は、アンテナ長に略比例して増加し、アンテナ容量(アンテナ有効容量)もアンテナ長に比例して増加することが知られている。
【0004】
したがって、ヘリカルアンテナのアンテナ長を短くすることは、AM/FMアンテナのアンテナ利得を低下させることになるため、これを如何にして小さくするかが課題となっている。例えば特許文献1に開示のものでは、利得低下の原因となる、アンテナと車両ボディ間の浮遊容量を抑制するために、アンテナ・車両ボディ間の距離を離したり、アンテナ基端部側を狭いテーパ状とすることで、アンテナ特性を改善したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−215113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示のものでは、AMアンテナ特性については一部改善できているが、AM/FM受信アンテナとして考えた場合、FMアンテナの特性の改善には至らないだけでなく、むしろ特性劣化につながっているものであった。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、小型化が可能で、AM/FMの両方の受信特性を改善可能なAM/FM受信用ヘリカルアンテナを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による車両用のAM/FM受信用ヘリカルアンテナは、車両ボディ側の基端部と車両ボディと離れる側の先端部とを有し、基端部から先端部まで螺旋状に巻回されるエレメントであって、該エレメントは、基端部及び先端部がそれぞれ異なる一定の巻回径で巻回されると共に、エレメントの巻回径は、基端部に比べて先端部のほうが太い、エレメントと、エレメントの基端部側に接続される給電部と、を具備するものである。
【0009】
ここで、エレメントは、基端部から先端部への巻回径の変化部がテーパ形状であれば良い。
【0010】
また、エレメントは、基端部のアンテナ長が先端部のアンテナ長の略半分の長さであれば良い。
【0011】
また、エレメントは、その巻回ピッチ間隔が、先端部が粗で基端部が密であっても良い。
【0012】
さらに、エレメントを覆う誘電体からなる外装カバーを具備し、該外装カバーは、基端部に比べて先端部の比誘電率が高いものであっても良い。
【0013】
請求項5に記載のAM/FM受信用ヘリカルアンテナにおいて、エレメントは、外装カバーの比誘電率の違いにより、等価的に巻回径が変えられても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両用のAM/FM受信用ヘリカルアンテナには、小型化が可能で、AM/FMの両方の受信特性を改善可能なAM/FM受信用ヘリカルアンテナを提供可能であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明のAM/FM受信用ヘリカルアンテナを説明するための概略斜視図である。
【図2】図2は、巻回径に対する寄生容量の変化特性を表すグラフである。
【図3】図3は、本発明のAM/FM受信用ヘリカルアンテナの他の例を説明するための概略斜視図である。
【図4】図4は、基端部の巻回ピッチ間隔を粗密にした場合のVSWR特性を表すグラフである。
【図5】図5は、本発明のAM/FM受信用ヘリカルアンテナが外装カバーに覆われた例を説明するための概略斜視図である。
【図6】図6は、本発明のAM/FM受信用ヘリカルアンテナが外装カバーに覆われた他の例を説明するための概略斜視図である。
【0016】
まず、ヘリカルアンテナに関し、そのアンテナ容量について説明する。ヘリカルアンテナで構成されるAMアンテナのアンテナ容量Cは、等価的に終端開放の伝送線路のインピーダンスとして表すことができ、次式で示される。
【数1】


但し、ωは角周波数、Zoはアンテナの等価特性インピーダンス、λは波長、Lはアンテナ長、εreは実効比誘電率である。
【0017】
また、アンテナの等価特性インピーダンスZoは次式で示される。
【数2】

但し、Dはヘリカルアンテナの外径(巻回径)である。
【0018】
一方、ヘリカルアンテナで構成されるFMアンテナでは、アンテナ長を短くしても、巻回径や巻数を変えることで、FM帯で共振するように構成されており、アンテナ利得に相当する放射抵抗Rrは次式で示される。
Rr=(25.3L/λ)
但し、これはアンテナ長Lが外径Dに比べて大きいときに適用される式であり、実際には外径によりアンテナ面積は増大するため、外径Dが増加するとFMアンテナ利得は僅かであるが増加する。
【0019】
そして、与えられた所定のアンテナ長Lを一定とすると、AM/FMアンテナ利得の低下を防止するためには、数1により、FMアンテナの放射抵抗に寄与の少ない関数として、アンテナの等価特性インピーダンスZoを変えることにより、AMアンテナ容量Cを増加させることが可能であることが分かる。即ち、数2により、ヘリカルアンテナの外径Dを大きくすることで、アンテナの特性インピーダンスZoが下がり、数1からAMアンテナ容量Cが増加することが分かる。
【0020】
但し、巻回径が大きくなった場合、ヘリカルアンテナの構成要素である接地面との電界結合も大きくなり、AM受信に寄与しない寄生容量(アンテナの無効容量)が増大することになる。これにより利得低下を起こしてしまい、巻回径を大きくしたことによるアンテナ利得の向上が生きてこなくなる場合がある。
【0021】
なお、FMアンテナとして見た場合、アンテナの等価直径である巻回径を大きくしても、FMアンテナ利得については特に変化はないが、アンテナと接地面との電界結合による結合容量により、共振周波数を下げる効果と広帯域化する効果が得られる。
【0022】
以上の点を踏まえて、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明のAM/FM受信用ヘリカルアンテナを説明するための概略斜視図である。図示の通り、本発明のAM/FM受信用ヘリカルアンテナは、エレメント10と、給電部20とから主に構成されるものである。なお、図中、線幅や巻き数、巻回ピッチ間隔等は何れも模式的に表しているもので、図示例のものに限定されるものではない。
【0023】
エレメント10は、車両ボディG側の基端部11と車両ボディGと離れる側の先端部12とを有し、基端部11から先端部12まで螺旋状に巻回されるものである。そして、エレメント10は、基端部11及び先端部12がそれぞれ異なる一定の巻回径で巻回されている。即ち、本発明の最も特徴的な点であるが、エレメント10は、その巻回径が、基端部11に比べて先端部12のほうが太いものである。換言すると、基端部11が一定の細い巻回径で巻回され、先端部12が一定の太い巻回径で巻回されるものである。
【0024】
そして、給電部20が、エレメント10の基端部11側に接続されている。給電部20には、車両内部に設けられる受信機等(図示せず)が接続される。
【0025】
なお、エレメント10は、中空状に巻回されても良いが、製造上、所定の支持体30に巻回されれば良い。支持体30は、例えば可撓性を有する円筒状の樹脂からなるものである。エレメント10の基端部11に比べて先端部12のほうが巻回径が太くなるように、支持体30も、基端部側が一定の細い径を有し、先端部側が一定の太い径を有するように構成されれば良い。
【0026】
そして、上述の数1から分かるように、AMアンテナとして見た場合、先端部12の巻回径を太くすることで、AMアンテナ容量Cを増加させることが可能となる。即ち、数2から分かるように、エレメント10の先端部12の巻回径Dを大きくする、即ち、巻回径Dに対するアンテナ長LであるL/Dを小さくするほど、アンテナ特性インピーダンスZoが下がり、AMアンテナ容量Cが増加することになる。
【0027】
一方、エレメント10の全体の巻回径を太くしてしまうと、接地面である車両ボディGとの電界結合が大きくなってしまい、AM受信に寄与しない寄生容量が増大することになり、アンテナ利得低下の原因ともなり得る。しかしながら、本発明のAM/FM受信用ヘリカルアンテナでは、エレメント10を、基端部11のほうを先端部12と比べて細く巻回させることにより、車両ボディGとの電界結合を低減させ、アンテナ利得の低下を抑制している。
【0028】
また、図示例では、エレメント10の基端部11から先端部12への巻回径の変化部13がテーパ形状に構成されている。これは、支持体30の機械的な強度やエレメント10の巻回し易さ等を考慮してテーパ形状としたものである。しかしながら、本発明はこれに限定されず、変化部は、ヘリカル軸に対して垂直に立ち上げて一気に変化させるようにしても勿論良い。
【0029】
ここで、エレメントと車両ボディとの間の電界結合による寄生容量の変化について、説明する。図2は、巻回径に対する寄生容量の変化特性を表すグラフである。なお、横軸は1ターンリングの場合のリング径である。図示の通り、リング径が10mm程度までは寄生容量の変化の度合いは少ないが、10mm程度からは急激に寄生容量が増加することが分かる。したがって、具体的には、エレメント10の基端部11の巻回径は、10mm以下であることが好ましい。
【0030】
また、エレメント10の先端部12の巻回径は、所望のアンテナ容量Cを得ることが可能なL/Dの関係から求めることが可能である。例えば、10mm〜20mm程度であれば良い。
【0031】
FMアンテナとして見た場合、太い巻回径である先端部12が長いほどFM帯の帯域特性を改善することが可能となるため、先端部12のアンテナ長は長いほうが良い。一方、AMアンテナとしてみた場合、基端部11のアンテナ長が短いほどAMアンテナ容量を増加させることが可能である。したがって、アンテナ長が一定の場合には、FM帯の特性改善とAM帯の特性改善の兼ね合いで、基端部と先端部の長さの比率を決定すれば良い。ここで、FMアンテナとしてみた場合には、基端部11のアンテナ長に依存してFM共振周波数が急激に変化する変極点があるため、基端部11のアンテナ長は、この変極点を越えた長さとすることで共振周波数の変動の大きい変極点を避けつつ、FMアンテナの広帯域化を図ることが可能なアンテナ長となるように、適宜調整されれば良い。より具体的には、先端部12のアンテナ長に対して基端部11のアンテナ長が、約30%〜50%程度となるように調整されれば良い。
【0032】
本発明のAM/FM受信用ヘリカルアンテナでは、このようにエレメントを構成することにより、アンテナ長を短くすることができるため小型化が可能であり、さらにFM帯の特性を劣化させることなく、AM帯の特性改善を行うことが可能となる。
【0033】
次に、本発明のAM/FM受信用ヘリカルアンテナの他の例について説明する。図3は、本発明のAM/FM受信用ヘリカルアンテナの他の例を説明するための概略斜視図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は概ね同一物を表わしている。図1と異なる点は、基端部と先端部で巻回ピッチ間隔を異ならせているところである。図示の通り、この例では、巻回ピッチ間隔を、エレメント10の先端部12が粗で基端部11が密にしている。このように構成することで、FM帯の帯域を広くすることが可能となる。
【0034】
図4に、基端部の巻回ピッチ間隔を粗密にした場合のVSWR特性を示す。図示の通り、巻回ピッチ間隔が粗なほどQ値が高くなり、密なほどQ値が低くなる。即ち、巻回ピッチが密なほど帯域が広がっていることが分かる。したがって、巻回ピッチ間隔を、先端部を粗にし、基端部を密にすることで、FM帯の帯域を改善可能なことが分かる。
【0035】
また、本発明のAM/FM受信用ヘリカルアンテナは、その外側部分が外装カバーにより覆われても良い。このとき、外装カバーとしては、誘電体からなるエラストマ等が使用可能である。アンテナを先端開放の伝送線路としてみると、外装カバーを被覆すると誘電体として見なせるため、特性インピーダンスや電気長(波長短縮率)を、外装カバーにより変化させることが可能である。
【0036】
図5は、本発明のAM/FM受信用ヘリカルアンテナが外装カバーに覆われた例を説明するための概略斜視図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は概ね同一物を表わしている。数1より、実効比誘電率εreを高くすることによりアンテナ容量Cが大きくなることが分かる。したがって、図5の例では、外装カバー40の外装カバー基端部41に比べて外装カバー先端部42の比誘電率が高くなるように、先端部42の部分を誘電率の高いものとしている。これにより、アンテナ容量をさらに改善することが可能となる。なお、誘電体を挿入することにより、FMアンテナとしては共振周波数が変化するが、これについては、例えば先端部12の巻回ピッチ間隔等により適宜調整されれば良い。
【0037】
なお、図示例では外装カバー40の材料を、基端部41と先端部42で変えた例を示したが、本発明はこれに限定されず、エレメントの巻回径が基端部に比べて先端部が太くなるように構成されていれば、全体を均一な外装カバー40で覆うことでも比誘電率が高くなるため、アンテナ容量の改善効果は得られる。
【0038】
さらに、図6は、本発明のAM/FM受信用ヘリカルアンテナが外装カバーに覆われた他の例を説明するための概略斜視図である。図中、図5と同一の符号を付した部分は概ね同一物を表わしている。これまでの例では、エレメントの巻回径を物理的に基端部と先端部で変えることで、AMアンテナ特性の改善を行っていたが、図6の例では、外装カバーの比誘電率の違いを用いて、等価的に巻回径を変えている。即ち、図示の通り、エレメント10の物理的な巻回径は、基端部11及び先端部12で同一とする。そして、外装カバー先端部42を比誘電率が高くなるように太い径とし、外装カバー基端部41の径を小さくすることにより、これまでの例と同様、エレメントの巻回径を、基端部に比べて先端部のほうが等価的に太くなるように構成する。
【0039】
なお、図5と同様に図6の例でも外装カバー40の材料を、基端部41と先端部42とで変えた例を示したが、本発明はこれに限定されず、単に外装カバーの太さの違いにより比誘電率を異ならせても良い。また、外装カバー40の基端部41と先端部42の誘電率が異なれば良いため、外装カバー40の径は全長で変えず、先端部42の部分に用いる誘電体の比誘電率を、基端部41と比べて高いものを用いることにより、同様に等価的に巻回径を変えることも可能である。
【0040】
このように、本発明のAM/FM受信用ヘリカルアンテナでは、外装カバーの比誘電率の違いにより、等価的に巻回径を変えることも可能である。さらに、物理的に巻回径を変えている場合には、外装カバーの先端部の比誘電率が高くなるように構成することで、AMアンテナ容量をさらに増加させることも可能となる。
【符号の説明】
【0041】
10 エレメント
11 基端部
12 先端部
13 変化部
20 給電部
30 支持体
40 外装カバー
41 外装カバー基端部
42 外装カバー先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のAM/FM受信用ヘリカルアンテナであって、該AM/FM受信用ヘリカルアンテナは、
車両ボディ側の基端部と車両ボディと離れる側の先端部とを有し、基端部から先端部まで螺旋状に巻回されるエレメントであって、該エレメントは、基端部及び先端部がそれぞれ異なる一定の巻回径で巻回されると共に、エレメントの巻回径は、基端部に比べて先端部のほうが太い、エレメントと、
前記エレメントの基端部側に接続される給電部と、
を具備することを特徴とするAM/FM受信用ヘリカルアンテナ。
【請求項2】
請求項1に記載のAM/FM受信用ヘリカルアンテナにおいて、前記エレメントは、基端部から先端部への巻回径の変化部がテーパ形状であることを特徴とするAM/FM受信用ヘリカルアンテナ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のAM/FM受信用ヘリカルアンテナにおいて、前記エレメントは、基端部のアンテナ長が先端部のアンテナ長の略半分の長さであることを特徴とするAM/FM受信用ヘリカルアンテナ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のAM/FM受信用ヘリカルアンテナにおいて、前記エレメントは、その巻回ピッチ間隔が、先端部が粗で基端部が密であることを特徴とするAM/FM受信用ヘリカルアンテナ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載のAM/FM受信用ヘリカルアンテナであって、さらに、前記エレメントを覆う誘電体からなる外装カバーを具備し、該外装カバーは、基端部に比べて先端部の比誘電率が高いことを特徴とするAM/FM受信用ヘリカルアンテナ。
【請求項6】
請求項5に記載のAM/FM受信用ヘリカルアンテナにおいて、前記エレメントは、外装カバーの比誘電率の違いにより、等価的に巻回径が変えられることを特徴とするAM/FM受信用ヘリカルアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−228767(P2011−228767A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93785(P2010−93785)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000165848)原田工業株式会社 (78)