説明

車両用アンダボディ構造

【課題】コストを抑えた簡潔な構成で強度および剛性を向上可能な車両用アンダボディ構造を提供することを目的とする。
【解決手段】車両102の下部を構成する車両用アンダボディ構造100において、車両102の床板であって、車両前後で勾配が変化するよう屈曲した屈曲部E1を有するパネル部104と、パネル部104の側縁に沿って車両前後方向に取り付けられる複数のサイドメンバ108と、パネル部104の下側に車幅方向にわたって取り付けられ複数のサイドメンバ108のいずれかに結合される複数のクロスメンバ106とを備え、複数のサイドメンバ108は、後端109bが少なくとも屈曲部に到達している第2サイドメンバ108bと、前端109cが屈曲部の前方まで到達している第3サイドメンバ108bとを含む。第2サイドメンバおよび第3サイドメンバは両者が重なる領域で互いに連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の下部を構成する車両用アンダボディ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンダボディとは、車両全体のうち床等が含まれる下部の領域のことである。アンダボディは車両の基礎構造であり、車両の剛性を確保する上で重要である。アンダボディに含まれる主な部材は、床材である板状のパネル部と、このパネル部の車幅方向の側縁に取り付けられるサイドメンバ、およびパネル部に車両幅方向にわたって取り付けられるクロスメンバなどである。これらの部材を組み合わせることで、車両の強度および剛性が高められている。
【0003】
現在の車両は、乗員の使い勝手の向上のため、客室部(後部座席より前方の空間)が従来よりも広く設けられる傾向にある。そのような車両では、客室部下方のパネル部は路面の近くにまで下げられていることが多い。そして、通常は燃料タンクが後部座席付近のパネル部の下側に取り付けられるため、パネル部は後部座席付近から後方へ向かって傾斜を描いて高くなり、後部座席の後ろのトランク部付近で屈曲して略水平になっている。このようなパネル部の形状は、前述したサイドメンバの形状にも反映されている。
【0004】
上記のようなパネル部およびサイドメンバの屈曲した箇所(屈曲部)には、車両が衝撃を受けた際に荷重が集中しやすい。そこで、例えば特許文献1の車両後部構造では、サイドメンバの屈曲部の内部にリンフォース(補強部材)を設けている。特許文献1では、リンフォースがサイドメンバ内部の長手方向に延びるよう設置されていて、これによって特に車両後方からの荷重が効率よく吸収できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−18052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のようにリンフォースを用いる構成では、リンフォースの製作用の新たな金型が必要になるなど、著しいコストアップを招くおそれがある。特に、リンフォースにはサイドメンバ内部に接するフランジが形成されている。このようなフランジは形状が複雑であり、このフランジをサイドメンバ内部へ接触させるためには高い成形精度が求められる。したがって、リンフォースの製造コストは安くない。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、コストを抑えた簡潔な構成で強度および剛性を向上可能な車両用アンダボディ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用アンダボディ構造の代表的な構成は、車両の下部を構成する車両用アンダボディ構造において、車両の床板であって、車両前後で勾配が変化するよう屈曲した屈曲部を有するパネル部と、パネル部の側縁に沿って車両前後方向に取り付けられる複数のサイドメンバと、パネル部の下側に車幅方向にわたって取り付けられ複数のサイドメンバのいずれかに結合される複数のクロスメンバとを備え、複数のサイドメンバは、後端が少なくとも屈曲部に到達している前部サイドメンバと、前端が屈曲部の前方まで到達している後部サイドメンバとを含み、前部サイドメンバおよび後部サイドメンバは両者が重なる領域で互いに連結されていることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、既存の部材を利用した簡潔な構成で屈曲部の強度および剛性が向上可能である。したがって、リンフォースのような別部材を利用する場合と比べ、製造コストを抑えることができる。また、屈曲部において重なっているサイドメンバのうち車両後方から延びているサイドメンバは、換言すると屈曲部よりも前方へと延びる構成となっている。これにより、2つのサイドメンバが重なっていることで屈曲部が補強され、屈曲部の変形を抑えることができる。
【0010】
上記の複数のクロスメンバは、屈曲部の車両前方に設置される前部クロスメンバと、屈曲部の車両後方に設置される後部クロスメンバとを含み、後部サイドメンバの前端は、車両側方視において前部クロスメンバまで延びているとよい。
【0011】
上記構成によれば、特に車両後方から荷重が加えられた際、その荷重は後部サイドメンバから前部クロスメンバへと分散する。これにより、屈曲部への荷重の集中を防ぎ、屈曲部の変形を効率よく抑えることができる。
【0012】
当該車両用アンダボディ構造は、前部サイドメンバおよび後部サイドメンバが重なる領域に設置されるサスペンション取付部をさらに備えてもよい。強度および剛性の高い箇所にサスペンションを取り付けることで、走行中に生じる振動を効率よく吸収でき、走行安定性および乗り心地の向上が達成できる。
【発明の効果】
【0013】
上記構成によれば、コストを抑えた簡潔な構成で強度および剛性を向上可能な車両用アンダボディ構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態にかかる車両用アンダボディ構造を適用した車両を示す図である。
【図2】図1の車両用アンダボディ構造を車両左側から示す図である。
【図3】図1のサイドメンバを各方向から示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態にかかる車両用アンダボディ構造100を適用した車両102を示す図である。図1は、車両102を下側から示している。そのため、図1中における車両102の左右方向は、現実の左右方向とは反対を向いている。
【0017】
図1に示す車両用アンダボディ構造100は、車両102の下部(床や底面)を構成している部位である。車両用アンダボディ構造100には、床板であるパネル部104と、パネル部104の下側(底面)に車幅方向にわたって取り付けられるクロスメンバ106、およびパネル部104の車幅方向の側縁に沿って取り付けられるサイドメンバ108が含まれている。
【0018】
図2は、図1の車両用アンダボディ構造100の側方図である。図2は、パネル部104の車両左側の側縁を、サイドメンバ108を透過させて側方視している。パネル部104は、車両前方のフロアパネル104aおよび後方のリアパネル104bを含んで構成されている。フロアパネル104aは、後部座席105よりも前側の空間である客室部における床板である。リアパネル104bは、フロアパネル104aの後方に設置されていて、主にトランク部における床板として機能している。
【0019】
リアパネル104bの下側には燃料タンク110や後輪114のサスペンション112等が配置される(図3(a)参照)。そのため、リアパネル104bは後部座席付近から後方へ向かって傾斜して高くなり、トランク部の手前で屈曲(屈曲部E1)して略水平に延びている。このように、屈曲部E1はパネル部104の車両前後の勾配を変えるために設けられている。屈曲部E1はパネル部104に車両幅方向にわたって形成されていて、車両102に衝撃が加えられた際などに荷重が集中して変形しやすい箇所である。
【0020】
図1に示すクロスメンバ106はパネル部104を補強する部材であり、複数取り付けられている。本実施形態では、フロアパネル104aとリアパネル104bとの境目付近に第1クロスメンバ106a、屈曲部E1(図2参照)の車両前方に前部クロスメンバとして第2クロスメンバ106b、および屈曲部E1の車両後方に後部クロスメンバとして第3クロスメンバ106cが取り付けられている。
【0021】
第1クロスメンバ106aは第1サイドメンバ108aと結合している。第2クロスメンバ106bおよび第3クロスメンバ106cは、共に第2サイドメンバ108bに結合している。各クロスメンバと各サイドメンバとは、主に溶接によって結合されている。そして、第1クロスメンバ106aおよび第2クロスメンバ106bには燃料タンク110が取り付けられていて、図1に示すように第3クロスメンバ106cには後輪114のラテラルロッド116が取り付けられている。
【0022】
サイドメンバ108はパネル部104の側縁を補強する部材であり、車両前後方向に複数並んで取り付けられている。本実施形態では、サイドメンバ108は主にリアパネル104bに取り付けられていて、車両前方から第1サイドメンバ108a〜第3サイドメンバ108cの合計3つのサイドメンバが配置されている。
【0023】
図3は、図1のサイドメンバ108を各方向から示す図である。図3(a)は、図2に対応してサイドメンバ108を側方視している。なお、図3(a)では、サイドメンバ108の一部を透過して示している。
【0024】
図3(a)に示すように、各サイドメンバは、互いに一部が重なって配置されている。サイドメンバ108のうち第2サイドメンバ108bの形状は、リアパネル104b(図2参照)の屈曲部E1の形状に合わせて成形されている。この第2サイドメンバ108bは、屈曲部E1付近の主に前側へ配置される前部サイドメンバとして設置されている。この前部サイドメンバたる第2サイドメンバ108bは、後端109bが少なくとも屈曲部E1に到達するよう設置される。本実施形態では後端109bは屈曲部E1よりも後方へと延びている。
【0025】
第3サイドメンバは、屈曲部E1付近の主に後側へ配置される後部サイドメンバとして設置されている。この後部サイドメンバたる第3サイドメンバ108cは、少なくとも前端109cが屈曲部E1の前方まで到達するよう設置される。本実施形態では、前端109cは、図3(a)の車両側方視において、前部クロスメンバたる第2クロスメンバ106bまで延びている。
【0026】
図3(b)は、図3(a)のサイドメンバ108を斜め上方から示した斜視図である。図3(b)においても、サイドメンバ108の一部を透過して示している。なお、図3(b)ではパネル部104を省略している。
【0027】
図3(b)に示すように、サイドメンバ108は上方が開口したハット形状となっている。そして、第3サイドメンバ108cは、第2サイドメンバ108bのハット形状の内側に重なり、この重なる領域で第2サイドメンバ108bに溶接されて連結されている。また、第2サイドメンバ108bは、第1サイドメンバ108aのハット形状の内側に重なってこの第1サイドメンバ108aに溶接されて連結されている。
【0028】
本実施形態では、図3(a)に示すように、第2サイドメンバ108bと第3サイドメンバ108cとは、屈曲部E1の前後の領域、特に屈曲部E1から前方へわたった領域において重ねて連結されている。これにより、屈曲部E1の強度および剛性を向上させ、屈曲部E1の変形を防止している。
【0029】
詳細に説明すると、まず第3サイドメンバ108cは、前端109cが屈曲部E1よりも前方へと延びている。この第3サイドメンバ108cは、第2サイドメンバ108bよりも車両後方に延びている。仮に車両102に対して後方から荷重が加えられた場合、その荷重は屈曲部E1のように形状が変化している箇所に集中しやすい。これでは屈曲部E1に変形が生じてしまう。しかし本実施形態では、後方から加えられた荷重を、屈曲部E1において第3サイドメンバ108c(後部サイドメンバ)および第2サイドメンバ108b(前部サイドメンバ)で受けることになる。したがって、屈曲部E1の変形を抑えることができる。
【0030】
特に、上記の変形抑制にあたって、第3サイドメンバ108cの前端109cは、屈曲部E1の車両前方に設置されている第2クロスメンバ106b(前部クロスメンバ)まで延びている。本実施形態では、図3(a)のように車両側方視において、第3サイドメンバ108cの前端109cが第2クロスメンバ106bの一部に重なっている。そして、第3サイドメンバ108cの前後中央付近が第3クロスメンバ106c(後部クロスメンバ)に重なっている。これにより、車両後方からの荷重は第3サイドメンバ108cを通じて、第3クロスメンバ106cおよび第2クロスメンバ106bへと分散され、これらに吸収される。この構成によれば、屈曲部E1の変形をさらに効率よく抑えることが可能である。なお、荷重を第2クロスメンバ106bに分散させるためには、第2サイドメンバ108bの前端109cは、少なくとも第2クロスメンバ106bの近傍にまで延びていればよい。これによっても屈曲部E1の変形を抑制可能である。
【0031】
さらに、当該車両用アンダボディ構造100では、第2サイドメンバ108bおよび第3サイドメンバ108cが重なった領域(領域E2)に、後輪114のサスペンション112を取り付けるサスペンション取付部118を設置している。この領域E1は強度および剛性が高く、また領域E1であればサスペンション112からの振動および荷重が第2サイドメンバ108bおよび第3サイドメンバ108cを介して車両前後方向により均等に分散できる。すなわち、走行中に後輪114(図1参照)に生じる振動を効率よく吸収することができる。したがって、走行安定性および乗り心地の向上が達成できる。
【0032】
以上説明したように、当該車両用アンダボディ構造100によれば、既存の部材を利用した簡潔な構成で屈曲部E1の強度および剛性が向上可能である。したがって、リンフォースのような別部材を利用する場合と比べ、製造コストを抑えることができる。
【0033】
なお、本実施形態では、複数のクロスメンバおよび複数のサイドメンバをそれぞれ3体取り付けているが、この数量は適宜変更可能である。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、車両の下部を構成する車両用アンダボディ構造として利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
E1 …屈曲部、E2 …領域、100 …車両用アンダボディ構造、102 …車両、104 …パネル部、104a …フロアパネル、104b …リアパネル、105 …後部座席、106 …クロスメンバ、106a …第1クロスメンバ、106b …第2クロスメンバ、106c …第3クロスメンバ、108 …サイドメンバ、108a …第1サイドメンバ、108b …第2サイドメンバ、108c …第3サイドメンバ、109b …後端、109c …前端、110 …燃料タンク、112 …サスペンション、114 …後輪、116 …ラテラルロッド、118 …サスペンション取付部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の下部を構成する車両用アンダボディ構造において、
車両の床板であって、車両前後で勾配が変化するよう屈曲した屈曲部を有するパネル部と、
前記パネル部の側縁に沿って車両前後方向に取り付けられる複数のサイドメンバと、
前記パネル部の下側に車幅方向にわたって取り付けられ前記複数のサイドメンバのいずれかに結合される複数のクロスメンバとを備え、
前記複数のサイドメンバは、後端が少なくとも前記屈曲部に到達している前部サイドメンバと、前端が該屈曲部の前方まで到達している後部サイドメンバとを含み、該前部サイドメンバおよび後部サイドメンバは両者が重なる領域で互いに連結されていることを特徴とする車両用アンダボディ構造。
【請求項2】
前記複数のクロスメンバは、前記屈曲部の車両前方に設置される前部クロスメンバと、該屈曲部の車両後方に設置される後部クロスメンバとを含み、
前記後部サイドメンバの前端は、車両側方視において前記前部クロスメンバまで延びることを特徴とする請求項1に記載の車両用アンダボディ構造。
【請求項3】
前記前部サイドメンバおよび後部サイドメンバが重なる領域に設置されるサスペンション取付部をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用アンダボディ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−126369(P2012−126369A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282314(P2010−282314)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】