説明

車両用アンダーカバー及びその製造方法

【課題】吸音性、耐チッピング性及び耐水性、の各特性を高度に並立できる車両用アンダーカバー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】車両用アンダーカバーの製造方法において、ガラス繊維と第1樹脂(PP)とが含まれた不織布素材が2層以上積層されてなり、各不織布素材のガラス繊維の配向方向が互いに交差するように積層された基材層用不織布11、及び、第2繊維(PET)と、第2樹脂より融点が低い第3樹脂繊維(PP)と、が含まれた表面層用不織布12、を積層して積層体20を形成する積層体形成工程PR1と、第1樹脂及び第3樹脂の融点より高く、且つ、第2樹脂の融点より低い温度で熱盤プレスする工程PR2と、積層体21をシート状に冷間プレスする工程PR3と、積層体22を加熱する工程PR4と、積層体23を製品形状に冷間プレスする工程PR5と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用アンダーカバー及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、走行時における車両下側の空気抵抗を低減して燃費向上を図る車両用アンダーカバー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環境問題を考慮し、車両下側における空気の流れを向上させて空気抵抗を低減することにより燃費の向上を図ろうと車両用アンダーカバーの採用がされている。この車両用アンダーカバーには、燃費向上機能だけでなく、他の多くの機能が同時に求められる。例えば、軽量性、高い風圧に耐える機械的特性、車両下側の被水防止や車両用アンダーカバー自体の防水等の耐水性、走行時の飛び石等に対する耐久性(即ち、耐チッピング性)等である。更には、車両から発せられる音の外部への伝播の抑制や、外から車両内への音の侵入の抑制などの防音性などの機能も求められつつある。
しかし、これまで採用されてきた樹脂の射出成形品では、これら多くの機能を同時に充足することが困難となっている。更に、これらの機能は相反する機能もあり、同時に成立させるには大きな困難を伴う。このような状況下、近年、不織布をプレス積層して低コストで製造できる車両アンダーカバーが注目されている。この技術としては、下記特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−96401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、ガラス繊維を用いた基材層の路面側となる面に、撥水性が付与された高融点の熱可塑性合成繊維不織布層が熱融着された自動車用ボディアンダーカバーが開示されている。このアンダーカバーは、表面の素材として不織布を利用する点で画期である。しかし、この不織布層の撥水性等は、「メチロール基を有する1価フェノール・ホルムアルデヒド縮合物と多価フェノール及び/又は多価フェノール・ホルムアルデヒド縮合物との共縮合物のスルホメチル化物を混合し、所定形状に加熱成形するとともに該縮合物を硬化する」(特許文献1[0021])という特殊な処理を要する。即ち、製造が煩雑であるとともにコスト高であるという問題がある。
【0005】
更に、上記処理を行うと、不織布に含浸又は塗布された縮合物が硬化されることによって不織布が目詰まりし、高い撥水性は得られるものの、吸音性は阻害されるという問題がある。即ち、撥水性を高めるために不織布の多孔性が失われると吸音性が低下し、吸音性を高めるために不織布の多孔性を維持すると耐水性及び耐チッピング性が低下するという問題がある。しかし、上記特許文献1では、この問題に対する解決はなされていない。更に上記処理は車両使用時の汚れ(泥や油の付着)により、撥水性の機能を著しく低下させられ、永続的な撥水性維持は困難である。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、吸音性、耐チッピング性及び耐水性、の各特性を高度に並立できる車両用アンダーカバー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題を解決するために、請求項1に記載の車両用アンダーカバーの製造方法は、車体下面を覆う車両用アンダーカバーの製造方法において、
ガラス繊維と、第1の熱可塑性樹脂と、が含まれた不織布素材が2層以上積層されてなる基材層用不織布であって、各前記不織布素材のガラス繊維の配向方向が互いに交差するように積層された基材層用不織布、及び、
第2の熱可塑性樹脂からなる樹脂繊維と、前記第2の熱可塑性樹脂より融点が低い第3の熱可塑性樹脂と、が含まれた表面層用不織布、を積層して積層体を形成する積層体形成工程と、
前記第1の熱可塑性樹脂及び前記第3の熱可塑性樹脂の融点より高く、且つ、前記第2の熱可塑性樹脂の融点より低い温度で熱盤プレスする熱盤プレス工程と、
前記熱盤プレスされた積層体を、シート状に冷間プレスする第1冷間プレス工程と、
シート状に冷間プレスされた前記積層体を加熱する加熱工程と、
前記加熱された積層体を、製品形状に冷間プレスする第2冷間プレス工程と、を備えることを要旨とする。
請求項2に記載の車両用アンダーカバーは、車体下面を覆う車両用アンダーカバーにおいて、
基材層と、前記基材層の路面側表面に積層された表面層と、を備え、
前記基材層は、ガラス繊維と、前記ガラス繊維同士を結合している第1の熱可塑性樹脂と、を含むとともに、配向方向が交差された2層以上のガラス繊維群が積層された構造を有し、
前記表面層は、第2の熱可塑性樹脂からなる樹脂繊維と、前記第2の熱可塑性樹脂より融点が低く且つ前記樹脂繊維同士を結合している第3の熱可塑性樹脂と、を含み、
前記基材層と前記表面層とは、前記第3の熱可塑性樹脂によって結合されていることを要旨とする。
請求項3に記載の車両用アンダーカバーは、請求項2において、前記表面層は、前記第3の熱可塑性樹脂が溶融し、且つ、前記第2の熱可塑性樹脂が溶融されない状態で、前記基材層とともに圧縮されていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の車両用アンダーカバーの製造方法によれば、吸音性、耐チッピング性及び耐水性の各特性が高度に並立された車両用アンダーカバーを効率よく製造できる。
本発明の車両用アンダーカバーによれば、吸音性、耐チッピング性及び耐水性(特に耐着氷剥離性に優れる)の各特性を高度に並立できる。
表面層が、第3の熱可塑性樹脂が溶融し、且つ、第2の熱可塑性樹脂が溶融されない状態で、基材層とともに圧縮されている場合には、特に効果的に吸音性、耐チッピング性及び耐水性の各特性を並立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【図1】車両用アンダーカバーの一例を説明する説明図である。
【図2】車両用アンダーカバーの他例を説明する説明図である。
【図3】車両用アンダーカバーを構成する基材層を説明する説明図である。
【図4】車両用アンダーカバーの製造方法を説明する説明図である。
【図5】各種車両用アンダーカバーの使用形態を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0011】
[1]車両用アンダーカバー
本車両用アンダーカバー10について図1〜図3を参照しつつ説明する。
車両用アンダーカバー10は、基材層11と、その路面側表面に積層された表面層12と、を備える(図1参照)。
このうち、「基材層(11)」は、ガラス繊維111と、ガラス繊維111同士を結合している第1の熱可塑性樹脂112(以下、単に「第1樹脂」ともいう)と、を含む。第1樹脂112は、ガラス繊維111同士を結合して交絡点を形成している。
【0012】
また、基材層11は、配向方向が交差された2層以上のガラス繊維群115が積層された構造を有する(図3参照)。この構造により、優れた機械的特性を有した車両用アンダーカバーとすることができる。例えば、基材層11のガラス繊維111は、図3に例示されるように、配向方向(図3における白抜き矢印の方向)が異なる3層のガラス繊維群115が、そのガラス繊維の配向方向が、互いに略直交となるように積層された構成とすることができる。但し、ガラス繊維群115の積層数は特に限定されず、例えば、2〜50層とすることができる。また、各ガラス繊維群115の配向方向は異なればよく、互いに直交してもしなくてもよいが、30〜90度の配向角度差を有することが好ましい。
このように配向方向が交差された2層以上のガラス繊維群115が積層された構造を有する基材層11を用いた場合には、強度の配向性を防止して優れた機械的特性を発揮できる車両用アンダーカバーを得ることができる。
【0013】
一方、「表面層(12)」は、第2の熱可塑性樹脂(以下、単に「第2樹脂」ともいう)からなる樹脂繊維121(第2樹脂繊維121)と、第2樹脂121より融点が低く且つ樹脂繊維同士を結合している第3の熱可塑性樹脂122(以下、単に「第3樹脂」ともいう)と、を含む。通常、第3樹脂122は、第2樹脂繊維121同士を結合して交絡点を形成している。
尚、便宜上、第2樹脂繊維121を構成する第2樹脂についても第2樹脂繊維と同じ符号121を用いるものとする。
【0014】
そして、基材層11と表面層12とは、第3樹脂122によって結合されている。具体的には、後述するような基材層11となる不織布(基材層用不織布)と、表面層12となる不織布(表面層用不織布)と、を積層したうえで、熱盤プレス工程PR2を介して、表面層12となる不織布に含まれた第3樹脂122を、基材層11へと含浸させることで上記状態を得ることができる。これによって、第3樹脂122が溶融し、且つ、第2樹脂(第2樹脂繊維121を構成する熱可塑性樹脂)が溶融されない状態で、基材層11が表面層12とともに圧縮される。尚、基材層11を構成する第1樹脂112は表面層12へ含浸されてもよく、含浸されなくてもよいが、通常、第1樹脂112は表面層12へ含浸される。
【0015】
即ち、本車両用アンダーカバー10では、表面層12のバインダ樹脂である第3樹脂122の一部が、表面層12から基材層11へ含浸され(図1における符号122’は、基材層11へ移行された第3樹脂である)て、基材層11と表面層12とが第3樹脂122によって強固に結合される。それとともに、基材層11内では第2樹脂繊維121が第3樹脂122とともに緻密化されて、表面層12にある程度の防水性が付与される。更に、この際、表面層12内には第3樹脂122の融点で溶融されない高融点の第2樹脂繊維121が含まれているために、第2樹脂繊維121の形態は維持されて表面層12の通気性を維持できる。このようにして、優れた吸音特性を有しつつ、耐チッピング性及び耐水性にも優れた車両用アンダーカバーとすることができる。
【0016】
特に、熱盤プレス工程PR2に加えて、この熱盤プレス工程PR2の後に第1冷間プレス工程PR3を施すことによって、熱盤プレス工程PR2で圧縮された基材層11及び表面層12の状態を更に圧縮して緻密化したうえで、第1樹脂112及び第3樹脂122を固化できるため、機械的特性の向上、耐チッピング性の向上、耐水性の向上の観点から重要である。
このように熱盤プレス工程PR2に加えて第1冷間プレス工程PR3を介することで、通気性を維持しつつ表面層12を、熱盤プレスのみで緻密化する場合に比べてより高度に緻密化でき、基材層11まで水が浸透することを防止できる耐水性を付与できる。即ち、吸音特性を高く維持しながら、着氷量を軽減できることから、着氷した氷を引き剥がすのに必要な力も軽減できる。
【0017】
更に、この第1冷間プレス工程PR3によって基材層11と表面層12とを、熱盤プレスのみの場合に比べて、より強固に結合できることから、着氷した氷を引き剥がす際の基材層11と表面層12との層間の剥離を防止できる。また、配向方向が交差された2層以上のガラス繊維群115の積層によって構成された基材層11内での層間剥離を防止して、極めて高い機械的特性を発揮できる車両用アンダーカバー10とすることができる。
【0018】
このように、本車両用アンダーカバー10では、緻密化された表面層12を有することから高い耐チッピング性を発揮できる。更に、表面層12では、撥水処理を施す程に高い撥水性は得られなくとも、基材層11まで水が浸透することを防止できる耐水性が得られる。また、構造的に高密度化することで耐水性を得ているため、その耐水性を永続的に維持できる。車両用アンダーカバーにおいては、カバーに浸透した水が凍結することによって生じる不具合を防止することが重要であることから、着氷剥離に対する十分な耐久性を有すれば完全なる防水性は要しないとも言える。この観点から、本発明の車両用アンダーカバーでは、高い吸音特性と高い耐チッピング性を有しながら、表面層12が基材層11への水の浸透を防止するとともに、表面層12に侵入した水が凍結したとしても、この着氷の剥離に対しては上記のように高い耐久性を発揮できる。即ち、本車両用アンダーカバー10は、優れた吸音性、耐チッピング性、高い耐水性(高い耐着氷剥離性)を並立できる。
【0019】
また、本車両用アンダーカバーでは、基材層11に、加熱によって発泡された発泡体113(図2参照)を含むことができる。発泡体113は後述するように、基材層用不織布11に含まれた発泡性粒子113が加熱により膨張されて、その状態を維持して固化されたものである。発泡体113が含有される場合は、基材層11に対して表面層12から第3樹脂122が含浸される程の温度と圧力とで両層が加熱圧着されても、基材層11は圧縮されて過度に薄く成形されないよう発泡性粒子(熱膨張性カプセル)が、基材層11内で発泡(膨張)されて発泡体113となるとともに、この圧縮に対して反発できる。これによって、基材層11は軽量でありながら高剛性に保つことができる。
尚、本車両用アンダーカバーを構成する各種材料などについては、車両用アンダーカバーの製造方法において詳述する。
【0020】
尚、本車両用アンダーカバー10では、基材層11及び表面層12以外に、他の層を備えることができる。他の層は、通常、基材層11の車体下面側に配置される。他の層としては、上記表面層12と同じ層や、発泡体を含まないガラス繊維とこれを結合する熱可塑性樹脂とのみからなる層や、一種類の熱可塑性樹脂繊維のみからなる層(スパンボンド不織布)や、フィルム層(加熱時に溶融し通気を有するフィルムや溶融せずフィルム状態を保持するものどちらも可能)等の層が挙げられる。これらの層は、1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、本車両用アンダーカバー10は、どのような方法によって製造してもよいが、特に下記本発明の製造方法により製造されることで目的とする特性を低コストで得ることができる。
【0021】
[2]車両用アンダーカバーの製造方法
本発明の車両用アンダーカバーの製造方法は、積層体形成工程PR1と、熱盤プレス工程PR2、第1冷間プレス工程PR3と、加熱工程PR4と、第2冷間プレス工程PR5と、を備える(図4参照)。
以下では、先ず、本方法で用いる、基材層用不織布11と、表面層用不織布12と、について説明する。尚、便宜上、基材層11となる基材層用不織布についても基材層と同じ符号11を用い、表面層12となる表面層用不織布についても表面層と同じ符号12を用いるものとする。
【0022】
「基材層用不織布(11)」は、ガラス繊維111と第1樹脂112と、が含まれた不織布素材115が2層以上積層されてなる不織布(図3参照)であって、不織布素材115のガラス繊維111の配向方向(図3における白抜き矢印の方向)が互いに交差するように積層された不織布である。このような基材層用不織布11であることにより、得られる車両用アンダーカバー10においては、配向方向が交差された2層以上のガラス繊維群115が積層された構造を有した基材層11となる。そして、基材層11がこの形態を有することで、優れた機械的特性を有した車両用アンダーカバー10とすることができる。不織布素材115の積層数は特に限定されず、例えば、2〜50層とすることができる。また、各不織布素材115間におけるガラス繊維111の配向方向は異なればよく、例えば、30〜90度の配向角度差を有することができる。
「ガラス繊維(111)」は、基材層用不織布11に含まれて、基材層11において補強材として機能する。このガラス繊維111は、特に限定されることなく種々のガラス繊維を利用できる。
【0023】
「第1樹脂(112)」は、基材層用不織布11に含まれて、基材層11内ではガラス繊維111同士を結合している熱可塑性樹脂である。第1樹脂112の基材層用不織布11内における形態は特に限定されず、例えば、繊維状の第1樹脂繊維112として含まれてもよく、ペレット状の第1樹脂ペレットとして含まれてもよく、更にはその他の形態で含まれてもよい。
【0024】
この第1樹脂112としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、アクリル樹脂などが挙げられる。このうちポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンには、オレフィンの単独重合体、及び/又は、オレフィンの共重合体が含まれる。オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等が挙げられる。即ち、ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ1−ブテン、ポリ1−ヘキセン、ポリ4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。これらは1種のみで用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0025】
上記ポリエチレン樹脂としては、エチレン単独重合体、及び、エチレンと他のオレフィンとの共重合体が挙げられる。後者としては、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−へキセン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体等が挙げられる(但し、全構成単位数のうちの50%以上がエチレンに由来する単位である)。
また、ポリプロピレン樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体等が挙げられる(但し、全構成単位数のうちの50%以上がプロピレンに由来する単位である)。
【0026】
また、前述のように基材層用不織布11には、発泡性粒子113を配合できる。発泡性粒子113は、基材層11内では加熱により発泡された発泡体113となり、基材層11における補強材となる。通常、この発泡体113は、第1樹脂112によってガラス繊維111とともに結合される。この発泡性粒子113は、熱可塑性樹脂からなる殻壁を有し、通常、加熱によって、その殻壁が軟化されるとともに、殻壁内に収容された発泡剤(低沸点の炭化水素等の膨張成分)が膨張し、殻壁を押し広げて体積が増加される。
【0027】
上記殻壁を構成する熱可塑性樹脂の種類は特に限定されないが、通常、第1樹脂112(基材層11内のガラス繊維111同士を結合している樹脂)及び第3樹脂122(表面層12内の樹脂繊維121を結合している樹脂)に比べて融点が高い熱可塑性樹脂から構成される。例えば、アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等の不飽和ニトリル化合物に由来する構成単位を有する共重合体及び単独重合体を用いることができる。共重合体である場合の他の構成単位としては、不飽和酸(アクリル酸等)、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、脂肪族ビニル化合物、塩化ビニル、塩化ビニリデン及び架橋性単量体などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。即ち、例えば、塩化ビニリデン−アクリルニトリル共重合体が挙げられる。
【0028】
上記基材層用不織布11としては、具体的には、目付け600〜1200g/mとすることができ、基材層用不織布11全体100質量%対して、ガラス繊維(111)30〜70質量%、第1樹脂(112)30〜70質量%とすることができる。また、発泡性粒子113が含まれる場合、目付け600〜1200g/mとすることができ、基材層用不織布11全体100質量%対して、ガラス繊維(111)30〜70質量%、第1樹脂(112)30〜70質量%、発泡性粒子(113)3〜20質量%とすることができる。
【0029】
上記「表面層用不織布(12)」は、第2樹脂繊維121と、第3樹脂122と、が含まれた不織布である。
「第2樹脂繊維(121)」は、第2樹脂からなる樹脂繊維である。第2樹脂は、第3樹脂122に比べて融点が高い熱可塑性樹脂である。更に、通常、基材層用不織布11に含まれる第1樹脂112に比べても融点が高い熱可塑性樹脂である。第2樹脂の融点は限定されないものの、第3樹脂122の融点より20〜160℃高い融点であることが好ましい。また、第1樹脂112の融点より20〜160℃高い融点であることが好ましい。
【0030】
この第2樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸、芳香族ポリエステル樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド612、ポリアミド12、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T、ポリアミドM5T、ポリアミド11、ポリアミド610及びポリアミド1010等のポリアミド樹脂;などが挙げられる。これらの第2樹脂は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0031】
「第3樹脂(122)」は、表面層12内において第2樹脂繊維121同士を結合している熱可塑性樹脂である。第3樹脂122の表面層用不織布12内における形態は特に限定されず、例えば、繊維状の第3樹脂繊維122として含まれてもよく、ペレット状の第3樹脂ペレットとして含まれてもよく、更にはその他の形態で含まれてもよい。この第3樹脂122は、上述のように、第2樹脂(第2樹脂繊維121を構成する樹脂)に比べて融点が低い熱可塑性樹脂である。更に、基材層用不織布11に発泡性粒子113が含まれる場合、発泡性粒子113の殻壁を構成する熱可塑性樹脂に比べても融点が低い熱可塑性樹脂である。
【0032】
この第3樹脂122としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、アクリル樹脂などが挙げられる。このうちポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンとしては、上記第1樹脂112におけるポリオレフィンをそのまま適用できる。但し、第1樹脂112と第3樹脂122とは同じ熱可塑性樹脂であってもよく、異なる熱可塑性樹脂であってもよい。また、融点も同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0033】
上記表面層用不織布12としては、具体的には、目付け100〜600g/mとすることができ、表面層用不織布12全体100質量%対して、第2樹脂繊維(121)35〜65質量%、第3樹脂繊維(122)35〜65質量%とすることができる。
【0034】
以下では、本製造方法における各工程について図4を参照しつつ説明する。
上記「積層体形成工程(PR1)」は、基材層用不織布11と表面層用不織布12とを積層して積層体20を形成する工程である。
この工程PR1において、基材層用不織布11と表面層用不織布12とはどのように積層してもよく、特に限定されない。
【0035】
上記「熱盤プレス工程(PR2)」は、第1樹脂112及び第3樹脂122の融点より高く、且つ、第2樹脂121の融点より低い温度で積層体20を、熱盤プレスする工程である。即ち、第1樹脂112と第3樹脂122とを溶融させながら加熱加圧する工程である。これにより、基材層11では、第1樹脂112は溶融されて、圧縮された基材層用不織布11内で流動されて拡がりガラス繊維111同士を結合する。更に、表面層12では、第3樹脂122が溶融されて、圧縮された表面層用不織布12内で流動されて拡がり第2樹脂繊維121同士を結合し、表面層12の通気性が維持されながら緻密化される。それと同時に、第3樹脂122の基材層11側への含浸が進み、基材層11と表面層12とが良好に接合される。
【0036】
この工程では、例えば、第1樹脂112及び第3樹脂122が、ポリオレフィンであって、その融点が100〜180℃であり、第2樹脂121が、ポリエステルであって、その融点が220〜280℃である場合、熱盤プレス温度(被プレス物がプレス中に到達する最高温度)は、用いる第1樹脂112及び第3樹脂122の融点を超える温度である160〜210℃とすることができる。
【0037】
上記「第1冷間プレス工程(PR3)」は、熱盤プレス工程PR2において熱盤プレスされた積層体21を、シート状に冷間プレスする工程である。この工程では、熱盤プレス後の予熱が残った状態で、積層体21を非加熱でシート状(平板な形態)に冷間プレスする。この工程を備えることで、前述したように、高い吸音特性を維持しつつ、耐チッピング性の向上、耐水性の向上を達することができる。
【0038】
これは、熱盤プレス工程PR2で圧縮された基材層11及び表面層12を更に圧縮して全体を緻密化したうえで、第1樹脂112及び第3樹脂122を固化できるためと考えられる。特に、表面層12において第2樹脂繊維121を緻密な状態で第3樹脂122で固定できるため、通気性を確保できることによって高い吸音特性を維持しつつ、基材層11まで水が浸透することを防止できる耐水性をも得ることができる。そして、この耐水性によって着氷量を軽減できるとともに、着氷した氷を引き剥がすのに必要な力を軽減できるものと考えられる。更に、第2樹脂繊維121が熱可塑性樹脂からなることによって、緻密化されて固定されていてもなお、適度な柔軟性を有し、路面側からの飛石などによっても破壊されない表面層12を形成して、高い耐チッピング性を発揮できるものと考えられる。
【0039】
加えて、第1冷間プレス工程PR3によって、この工程を備えない場合に比べて、基材層11と表面層12とはより強固に結合される。これによって、着氷した氷を引き剥がす際の基材層11と表面層12との層間の剥離を効果的に防止できる。また、配向方向が交差された2層以上のガラス繊維群115の積層によって構成された基材層11内での層間剥離をも防止し、積層して結合されたガラス繊維不織布による極めて高い機械的特性を享受できる車両用アンダーカバー10とすることができる。
【0040】
上記「加熱工程(PR4)」は、第1冷間プレス工程PR3でシート状に冷間プレスされた積層体22を加熱する工程である。この加熱工程では、第2冷間プレス工程(即ち、成形工程である)PR5において成形に必要な柔軟性が得られる程度に加熱する工程である。具体的には、通常、第1樹脂112及び第3樹脂122の融点に対して10〜60℃低い温度に加熱することが好ましい。尚、この工程における加熱方法は特に限定されず、公知の種々の方法を用いることができる。
【0041】
また、前述したように、基材層用不織布11に発泡性粒子113(熱膨張性カプセル)が含まれる場合には、この加熱工程PR4において発泡(膨張)させて、得られる基材層11に高い剛性を付与できる。また、発泡性粒子113が含まれない基材層用不織布11においても、第1樹脂112によるガラス繊維111の拘束が加熱によってある程度ゆるむことによるスプリングバック現象によって嵩高さを得ることができ、基材層11に高い剛性を得ることができる。
【0042】
上記「第2冷間プレス工程(PR5)」は、加熱工程PR4で加熱された積層体23を冷間プレスによって製品形状に成形する工程である。
本発明では、上記各工程PR1〜PR5以外にも他の工程を備えることができる。例えば、製品形状にトリミングを行うためのトリミング工程や、他部品を付属させるためのアッセンブリー工程等が挙げられる。
【0043】
本発明の車両用アンダーカバー(以下、単に「カバー」ともいう)は、車体下面を覆う部材(図5参照)である。カバーは、通常、車体下面と路面との間に位置するように、車体下面に配設される。また、カバーは、車体下面の全面を覆ってもよいが、車体下面の一部のみを覆ってもよい。更に、カバーは、車体下面の必要な部位を一体に覆ってもよく、車体下面を複数のカバーで覆ってもよい。このカバーとしては、例えば、エンジンアンダーカバー(図5の符号10a)、フロアアンダーカバー(図5の符号10b)、リアアンダーカバー(図5の符号10c)等が挙げられる。エンジンアンダーカバー10aは、主としてエンジン下部を覆うカバーである。このエンジンアンダーカバー10aは、フロントバンパー下部や、トランスミッション下部なども併せて覆うことができる。また、フロアアンダーカバー(図5の符号10b)は、主として乗車空間下部を覆うカバーである。通常、高温となる排気管等を避けて、左右に一対を設けることができる。リアアンダーカバー(図5の符号10c)は、主としてリアバンパー下部を覆うカバーである。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]車両用アンダーカバーの製造
(1)積層体形成工程(PR1)
下記基材層用不織布11と下記表面層用不織布12とを積層して積層体20を得た。
基材層用不織布11(基材層11となる);目付け1100g/mであり、不織布全体100質量%対して、ガラス繊維111が41.5質量%、第1樹脂からなる樹脂粒子112が51質量%、発泡性粒子113が7.5質量%含有された不織布。
表面層用不織布12(表面層12となる);目付け300g/mであって、不織布全体100質量%に対して、第2樹脂繊維121が50質量%、第3樹脂繊維122が50質量%含有された不織布。
【0045】
(2)熱盤プレス工程(PR2)
上記(1)で得られた積層体20を、熱盤プレスを用いて、温度190℃且つ5kg/cmで30秒間加熱加圧して、積層体20を圧縮した積層体21を得た。
【0046】
(3)第1冷間プレス工程(PR3)
上記(2)で得られた積層体21を、冷間プレスを用いて、5kg/cmで30秒間圧縮してシート状にした積層体22を得た。
【0047】
(4)加熱工程(PR4)
上記(3)で得られた積層体22を、温度210℃の熱風恒温槽に入れて、加熱して加熱された積層体23を得た。
【0048】
(5)第2冷間プレス工程(PR5)
上記(4)で得られた積層体23を、製品形状のキャビティを備えた冷間プレスを用いて、圧縮して一般部の厚さ8.5mmの車両用アンダーカバー(フロアアンダーカバー)10を得た。以下の評価ではこの車両用アンダーカバー10から切り出した試験片を各々用いた。
【0049】
得られた車両用アンダーカバー10について、下記方法により吸音特性、耐チッピング性、引張り強度、耐着氷剥離性、曲げ剛性について評価した。そして、その結果を、厚さ2.2mmのポロプロピレン製の車両用アンダーカバーに対して同様に評価した試験結果に対する値と比較して下記に併記した。この結果から、本発明の車両用アンダーカバーは、ポリプロピレン製のアンダーカバーに対して、引張り強度及び曲げ剛性の機械的特性においていずれも著しく高い優位性が認められた。更に、吸音特性は5倍と著しく優れた結果が得られた。また、耐チッピング性においては同等の性能を有し、着氷剥離においてもポリプロピレン製アンダーカバーに比べると強い剥離力が必要であるものの、表面層12への影響はなく、全体として、より機械的特性に優れながら、吸音特性に優れ、耐着氷剥離性及び耐チッピング性では同等の結果を有することが分かる。
【0050】
吸音特性;残響室に試片[約1m(700×700mmの試片を2枚使用)]を収容し、実際の車両組付け状態に近づけるため背後空気層を20mm設定し、音圧レベルが90dbから70dbにまで低下するのに要する時間を、400〜6300Hzの1/3オクターブバンド毎の周波数について計測し、吸音率として算出した。その結果、本発明の車両用アンダーカバー10の吸音率は、ポリプロピレン製の板体に対して5倍の吸音率であった。
【0051】
耐チッピング性;重さ0.45gの真鍮製ナット3kg相当個数を高さ2mから落下させた。その結果、本発明の車両用アンダーカバーの表面層12は破壊されることなく100回の落下試験に耐久した。同様に、ポリプロピレン製の板体も100回耐久した。その結果、これらは同程度の耐チッピング性が認められた。
【0052】
引張り強度;SHIMAZU製オートグラフにて、測定部位幅10mmとなるようダンベル型に切り出し、引張り強度の測定を行った。測定は、引っ張る方向を90度変えて行った。その結果、本発明の車両用アンダーカバー10は、ポリプロピレン製の板体に対して、いずれの方向でも1.27〜1.28倍の強度が発揮された。
【0053】
耐着氷剥離性;−15℃に調温された恒温槽内で、試片(100×100mm)上に氷を成長させた。その後、この氷をプッシュプルゲージにより上方に引き上げた場合に、氷が試片から剥離したときの剥離強さを読み取った。その結果、本発明の車両用アンダーカバー10では、ポリプロピレン製の板体よりも3.82倍の剥離力を要したものの、表面層12には影響なく着氷を剥離することができた。
【0054】
曲げ剛性;支点間距離を100mmとした支持台に試片(50×200mm)を配置した。そして、試片の長さ方向の中央部を押圧して水平位置から30mm下方へ押し下げたときの最大曲げ荷重を読み取った。その結果、本発明の車両用アンダーカバー10は、ポリプロピレン製の板体に対して2.25倍の曲げ剛性が得られた。
【0055】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここに掲げる開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【符号の説明】
【0056】
10;車両用アンダーカバー、10a;エンジンアンダーカバー、10b;フロアアンダーカバー、10c;リアアンダーカバー、
11;基材層、基材層用不織布、111;ガラス繊維、113;発泡体、発泡性粒子、112;第1樹脂、115;ガラス繊維群、不織布素材、
12;表面層、表面層用不織布、121;第2樹脂、第2樹脂繊維、122;第3樹脂、第3樹脂繊維、
20;積層体、21;熱盤プレスされた積層体、22;冷間プレスされた積層体、23;加熱された積層体、
50;車体、51;フロントバンパー、52;トランスミッション、53;排気管、54;リアバンパー、
PR1;積層体形成工程、PR2;熱盤プレス工程、PR3;冷間プレス工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体下面を覆う車両用アンダーカバーの製造方法において、
ガラス繊維と、第1の熱可塑性樹脂と、が含まれた不織布素材が2層以上積層されてなる基材層用不織布であって、各前記不織布素材のガラス繊維の配向方向が互いに交差するように積層された基材層用不織布、及び、
第2の熱可塑性樹脂からなる樹脂繊維と、前記第2の熱可塑性樹脂より融点が低い第3の熱可塑性樹脂と、が含まれた表面層用不織布、を積層して積層体を形成する積層体形成工程と、
前記第1の熱可塑性樹脂及び前記第3の熱可塑性樹脂の融点より高く、且つ、前記第2の熱可塑性樹脂の融点より低い温度で熱盤プレスする熱盤プレス工程と、
前記熱盤プレスされた積層体を、シート状に冷間プレスする第1冷間プレス工程と、
シート状に冷間プレスされた前記積層体を加熱する加熱工程と、
前記加熱された積層体を、製品形状に冷間プレスする第2冷間プレス工程と、を備えることを特徴とする車両用アンダーカバーの製造方法。
【請求項2】
車体下面を覆う車両用アンダーカバーにおいて、
基材層と、前記基材層の路面側表面に積層された表面層と、を備え、
前記基材層は、ガラス繊維と、前記ガラス繊維同士を結合している第1の熱可塑性樹脂と、を含むとともに、配向方向が交差された2層以上のガラス繊維群が積層された構造を有し、
前記表面層は、第2の熱可塑性樹脂からなる樹脂繊維と、前記第2の熱可塑性樹脂より融点が低く且つ前記樹脂繊維同士を結合している第3の熱可塑性樹脂と、を含み、
前記基材層と前記表面層とは、前記第3の熱可塑性樹脂によって結合されていることを特徴とする車両用アンダーカバー。
【請求項3】
前記表面層は、前記第3の熱可塑性樹脂が溶融し、且つ、前記第2の熱可塑性樹脂が溶融されない状態で、前記基材層とともに圧縮されている請求項2に記載の車両用アンダーカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−86599(P2013−86599A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227317(P2011−227317)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】