説明

車両用アンダーカバー装置

【課題】低速時は開口部より走行風を導入し、高速時は開口部を閉塞して空気抵抗を低減する車両用アンダーカバー装置を提供する。
【解決手段】アンダーカバー12に設けられた開口部16の車体上側の支持部材20に弾性部材22で懸架されたフィン14は、停車時および低速走行時には弾性部材22によって開口部16の上に懸架され、下面形状で気流を加速することで走行風を開口部16内に導入し、高速走行時には下面形状で発生したダウンフォースで車体下側に引かれ、開口部16を閉塞する場所に移動し、アンダーカバー12の車体下側面を略フラットにすることで空気抵抗を低減しつつダウンフォースで走行安定性を向上させる車両用アンダーカバー装置とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用アンダーカバー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アンダーカバーの開口部を覆うように、車体上方向に凸となる断面のフィン部材を設けエンジンルーム内部の空気を抜く構造が存在する(例えば、特許文献1参照)。また、アンダーカバー開口部に開閉式シャッタを設け、走行中は閉鎖することで空気抵抗を低減し、停車中は開放して冷却を促進する構成が存在する(例えば、特許文献2参照)。さらに、アンダーカバー開口部の開口面積を調整することでダウンフォースの発生量wお制御する構成が存在する(例えば、特許文献3参照)。また、走行風を利用して下に凸形状となる断面のスポイラを展開させる構成が存在する(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭61−94423号公報
【特許文献2】特開平07−215074号公報
【特許文献3】特開平03−45474号公報
【特許文献4】特開2004−314778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の構成により、フィン部材の車体上側で走行風を利用して発生させた負圧でエンジンルーム内部の空気を開口部から排出することができる。しかしフィン部材は開口部直下に固定されているため、常に車体上側で負圧を発生させるため結果としてフィン部材でリフトを生じ、走行安定性に影響する虞がある。
【0005】
また、上記特許文献2および特許文献3に記載の構成では、リフトの発生を抑えることはできるが走行風を利用して効率よく開口部からエンジンルーム内部の空気を抜くことはできず、且つシャッタの駆動手段としてモータやアクチュエータなどを必要とする。
【0006】
さらに上記特許文献4に記載の構成では、走行風を利用して下に凸となるスポイラを展開することでダウンフォースを発生させることはできるが、エンジンルーム内の気流を制御することはできない。
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、低速時は開口部より走行風を導入し、高速時は開口部を閉塞して空気抵抗を低減する車両用アンダーカバー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の本発明における車両用アンダーカバー装置は、車体下側に設けられた板状のアンダーカバー本体と、前記アンダーカバー本体に設けられた開口部と、前記開口部の車体上側に設けられた支持部材に弾性部材で懸架され、車体下側に凸となる断面をもつ、平面視で前記開口部より小さい板状のフィンと、を有することを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、アンダーカバーに設けられた開口部の車体上側の支持部材に弾性部材で懸架されたフィンは、停車時および低速走行時には弾性部材によって開口部の上に懸架され、下面形状で気流を加速することで走行風を開口部内に導入し、高速走行時には下面形状で発生したダウンフォースで車体下側に引かれ、開口部を閉塞する場所に移動し、アンダーカバーの車体下側面を略フラットにすることで空気抵抗を低減しつつダウンフォースで走行安定性を向上させる車両用アンダーカバー装置とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車両用アンダーカバー装置は上記構成としたので、低速時は開口部より走行風を導入し、高速時は開口部を閉塞して空気抵抗を低減することができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る車両用アンダーカバー装置を備えた車両を示す側面図および断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る車両用アンダーカバー装置の構造と動作を示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る車両用アンダーカバー装置の構造と動作を示す断面図である。
【図4】従来の車両用アンダーカバー装置の構造と作用効果を示す断面図である。
【図5】第2実施形態に係る車両用アンダーカバー装置の構造と動作を示す断面図である。
【図6】第3実施形態に係る車両用アンダーカバー装置の構造と動作を示す断面図である。
【図7】第4実施形態に係る車両用アンダーカバー装置の構造と動作を示す断面図である。
【図8】第5実施形態に係る車両用アンダーカバー装置の構造と動作を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<構造の概要>
本発明の実施形態に係る車両用アンダーカバー装置を図1、図2に従って説明する。
【0013】
図1、図2には、本発明が適用された実施形態に係る車両用アンダーカバー装置が示されている。なお、図中矢印FRは車体前方方向を、矢印UPは車体上方方向をを示す。
【0014】
図1(A)、図1(B)に示すように、本実施形態に係る車両用アンダーカバー装置12を備えた車体10の内部にはエンジン30、変速機32、触媒34、排気管36、マフラー38などが車体前方から車体後方へ向けて配列されており、走行時には車体10の床下を走行風44が通過する。
【0015】
車体10の車体下側には、エンジン30の車体後方の床下を被覆するアンダーカバー12が設けられ、さらに変速機32の車体下側にはアンダーカバー12を貫通し、アンダーカバー12の車体上側を車体下側の外気と連通する開口部16が設けられている。
【0016】
開口部16の車体上側には、側面視で車体下側に凸となる断面をもち、開口部16よりも平面視で小さいフィン14が設けられている。フィン14は開口部16の車体上側の車体10内部に設けられた強度メンバなどの支持部材20に、コイルバネ等の弾性部材22で懸架されている。
【0017】
弾性部材22はフィン14の重量を支えるのに十分な弾性を備え、停車時あるいは低速走行時には、フィン14は弾性部材22の弾性で開口部16の車体上側に引き込まれ、アンダーカバー12よりも車体下側に突出しない構成とされている。
【0018】
すなわち図2(A)に示すように、停車時あるいは低速走行時にはフィン14を懸架する弾性部材22の弾性でフィン14は開口部16よりも車体上側に吊り下げられているため、図示しないラジエータや吸気口などを経由した気流は矢印40のようにアンダーカバー12の車体上側を車体前方より通過し、フィン14の車体下側をくぐるように車外へと抜ける。
【0019】
一方、フィン14の車体後方では矢印42のように、車体10の下側を流れる走行風が開口部16より導入され、アンダーカバー12の車体上側へと導かれる。
【0020】
また走行時に走行速度が上昇すると、図2(B)のようにフィン14の車体下側にダウンフォース50が発生する。ダウンフォース50はフィン14の断面が側方視で車体下側に凸となるため車体下側に向けてフィン14を引っ張る方向に働く。
【0021】
これにより弾性部材22はダウンフォース50によって引き伸ばされるため、フィン14は図2(B)に示すように車体下側へと移動し、開口部16を塞ぐように、アンダーカバー12の車体下側面と略面一となる位置にフィン14が保持される構成とされている。
【0022】
<作用効果>
次に本発明の実施形態に係るアンダーカバーの作用および効果について説明する。
【0023】
図2(B)に示すように車体前方よりアンダーカバー12の下を流れる走行風は矢印44のように車体10の下側に沿って流れる。走行風は車体10およびアンダーカバー12の車体下面に沿うことで整流され、抗力係数CDが小さくなり空気抵抗が減少する。また揚力係数CLが小さくなり、車体10全体でのダウンフォースが増大する。
【0024】
図3に示すように、ラジエター31などを通過して流速V1で車体10内部へ流入する気流は、図示しないエンジン30などの抵抗を受け、減速して変速機32近傍を通過する。ここで車体内部の静圧をP3、全圧をPt3とすると、全圧は静圧+動圧であるため、空気の密度をρ(kg/m3)、矢印V3で示される気流の流速をV3(m/s)とすると、動圧は(ρ/2)V3^2で表されるため
Pt3=P3+(ρ/2)V3^2 となる。
【0025】
フィン14の車体下側面に沿って流れる気流(矢印V2)の流速をV2、車体前方よりアンダーカバー12の下側を流れ、矢印V2と合流して車体10の内部へ挿入される気流(破線矢印V2’)の流速をV2’とすると、フィン14の翼形状によりフィン14の車体下側面に負圧(ダウンフォース50)が発生するためV2>V3となる。
【0026】
また、車体前方よりアンダーカバー12の下を流れる気流(矢印42)と合流し流速(流量)が増加するためV2’>V2となる。
【0027】
これによりV2’>V3となるので、Pt2’>Pt3となり、開口部16より車体10の内部に走行風(矢印42と矢印V2が合流した走行風)が導入される。この走行風が流速V2’でフィン14の車体後方より車体10の内部へ向かうことにより、フィン14より車体後方での気流(V2’)で変速機32より車体後方における冷却が促進され、アンダーカバー12の車体上側空間は全体として冷却性能が向上する構成となる。
【0028】
これは例えば図4に示すようにラジエター31などを通過した流速V1の気流が、圧力(総圧Pt1)により、アンダーカバー12に設けられた放熱口12Aより矢印41のように排気されるのみである従来構造と比較すれば効果は明白である。
【0029】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る車両用アンダーカバー装置を図5に従って説明する。なお第2実施形態から後述する第5実施形態までは本発明に含まれない参考例とする。
【0030】
図5(A)に示されるように、車体10の内部にはエンジン30、変速機32、触媒34、排気管36、マフラー38などが車体前方から車体後方へ向けて配列されており、変速機32の車体下側にはこれを覆うようにアンダーカバー12が設けられている。さらに変速機32の車体下側にはアンダーカバー12の車体上側を車体下側の外気と連通する開口部16が設けられている。
【0031】
アンダーカバー12に設けられた開口部16を覆う単独または複数のフィン13は、側方視で車体下側に凸となる断面形状であり、図5(B)に示すように車幅方向に延設された回転軸13Aで車体前方端を支持され、車体後方端を車体上下方向に回転可能に設けられている。
【0032】
停車時、および低速走行時にフィン13は図5(B)に示すように自由端(車体後方端)を車体上側に向けている。すなわち図5(C)に示すように、フィン13に設けられたストッパー13Cをバネ13Bで車体上側に付勢されており、バネ13Bの弾性でフィン13の車体後方端は車体上側を向くように支持される。
【0033】
これにより図5(B)に示すようにアンダーカバー12とフィン13の間隙、およびフィン13同士の間隙より車体10の内部に走行風(矢印42)が導入される構成とされている。
【0034】
一方、高速走行時には図5(E)に示すようにフィン13の車体下側面で、車体下側に凸となる断面形状によりダウンフォース51が発生する。このため車速の上昇に伴いバネ13Bの弾性よりもダウンフォース51が大きくなり、図5(D)に示すようにフィン13はバネ13の弾性を抑えて車体後方端が下がり、車体前方からの走行風(矢印44)は乱されず車体後方へ吹き抜ける。
【0035】
これによりフィン13の車体下側面は、高速走行時にはアンダーカバー12の車体下側面と略同一面を形成し、走行風(矢印44)はアンダーカバー12に沿うことで整流され、抗力係数CDが小さくなり空気抵抗が減少する。またフィン13の車体下側面で発生するダウンフォース51により揚力係数CLが小さくなり、車体10全体でのダウンフォースが増大する。
【0036】
<第3実施形態>
第3実施形態に係る車両用アンダーカバー装置を図6に従って説明する。
【0037】
図6に示されるように、車体10の車体後方には内部に排気管36、デファレンシャルギア37、マフラー38などが設けられている。
【0038】
本実施形態は第1実施形態とは異なり、側方視で車体下側に凸となる断面形状のフィン14をデファレンシャルギア37の車体下側に設けることにより、ダウンフォース50の発生箇所を車体後方にシフトさせ、第1実施形態に比較して車体前後方向での空力バランスをスクォート(車体後端を下げる)寄りとした構成とされている。
【0039】
<第4実施形態>
第4実施形態に係る車両用アンダーカバー装置を図7に従って説明する。
【0040】
図7(A)に示されるように、車体10の内部にはエンジン30、変速機32、触媒34、排気管36、デフギア37、マフラー38などが車体前方から車体後方へ向けて配列されており、変速機32の車体下側にはアンダーカバー12が設けられている。さらに変速機32の車体下側にはアンダーカバー12の車体上側を車体下側の外気と連通する開口部16が設けられている。
【0041】
アンダーカバー12に設けられた開口部16を覆う単独または複数のフィン13Fは図7(B)に示すように車幅方向に延設された回転軸15Aで車体前方端を支持され、車体後方端はアクチュエータ15Bによって車体上下方向に回転可能に設けられている。
【0042】
同様に、車体後方のデファレンシャルギア37の車体下側にはフィン13Rが設けられ、図示しない回転軸およびアクチュエータによって車体後方端を車体上下方向に回転可能に設けられている。
【0043】
アクチュエータ15Bは図示しないブレーキと連動しており、例えばブレーキの動作を検出する検出手段からのブレーキ動作信号によって図7(B)に示すようにアクチュエータ15Bはフィン13Fの車体後方端を車体上側に持ち上げる。同様にフィン13Rもまた図示しないアクチュエータにより車体後方端を車体上側に持ち上げられる。
【0044】
これにより図7(A)に示すようにフィン13Fの仰角が大きくなり、車体10の下には矢印43のような気流が発生する。このためブレーキの動作に伴いフィン13Fおよびフィン13Rの車体下側で抗力係数CDが大きくなり空気抵抗が増大し、ブレーキング効果を生じる構成とされている。
【0045】
<第5実施形態>
第5実施形態に係る車両用アンダーカバー装置を図8に従って説明する。
【0046】
図8(A)に示されるように、車体10の内部にはエンジン30、変速機32、触媒34、排気管36、デフギア37、マフラー38などが車体前方から車体後方へ向けて配列されており、変速機32の車体下側にはアンダーカバー12が設けられている。さらに変速機32の車体下側にはアンダーカバー12の車体上側を車体下側の外気と連通する開口部16が設けられている。
【0047】
アンダーカバー12に設けられた開口部16を覆う単独または複数のフィン13Fは、側方視で車体下側に凸となる断面形状であり、第2実施形態と同様に、図5(C)に示すように車幅方向に延設された回転軸で車体前方端を支持され、車体後方端は第2実施形態のようにバネで車体上側に付勢されていてもよく、あるいは第4実施形態のようにアクチュエータによって車体上下方向に回転可能に設けられていてもよい。
【0048】
同様に、車体後方のデファレンシャルギア37の車体下側には側方視で車体下側に凸となる断面形状のフィン13Rが設けられ、図示しない回転軸およびアクチュエータによって車体後方端を車体上下方向に回転可能に設けられている。
【0049】
停止時、または低速走行時にはフィン13Fおよびフィン13Rは車体後方端が車体上側に付勢されており、車速が上昇するに伴い車体下側に凸となる断面形状によって車体下側面でダウンフォースが発生し、フィン13Fおよびフィン13Rの車体後方端を車体上側に付勢しているバネの弾性を抑えてアンダーカバー12の車体下側面と略平行に支持される。
【0050】
あるいはアクチュエータが図示しない速度計と連動しており、例えば速度計からの車速情報によってアクチュエータはフィン13Fの車体後方端を車体下側に下げる。同様にフィン13Rもまた図示しないアクチュエータにより車体後方端を車体下側に押し下げられる。
【0051】
これにより図8(B)に示すようにフィン13Fおよびフィン13Rの車体下側面はアンダーカバー12の車体下側面と平行に近くなり、車体10の下を流れる気流は矢印44のように整流される。このため気流(矢印44)は増速され、フィン13Fおよびフィン13Rの車体下側面では車体下側に凸となる断面形状によって車体下側面でダウンフォース52が発生し車高が下がり、抗力係数CDおよび揚力係数CLが低下する構成とされている。
【0052】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【0053】
すなわち、上記実施形態では変速機近傍のアンダーカバーの構成を例に挙げたが、これに限定せず例えば他の箇所の床、または他の箇所に設けられた空力的付加物の構成であっても本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
10 車体
12 アンダーカバー
14 フィン
16 開口部
20 支持部材
22 弾性部材
30 エンジン
31 ラジエター
32 変速機
34 触媒
36 排気管
37 デファレンシャルギア
38 マフラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体下側に設けられた板状のアンダーカバー本体と、
前記アンダーカバー本体に設けられた開口部と、
前記開口部の車体上側に設けられた支持部材に弾性部材で懸架され、車体前後方向に沿った下面の縦断面形状が車体下側に凸曲面形状とされ、平面視で前記開口部より小さい板状のフィンと、
を有することを特徴とする車両用アンダーカバー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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