説明

車両用インパネモジュールの組付け構造

【課題】重量増及びコスト上昇の問題を招くことなく、インパネメンバの組み付け作業を容易に行うことができる車両用インパネモジュールの組付け構造を提供する。
【解決手段】左,右のフロントピラー2のピラーフランジ2aに、インパネメンバ21の両端部24が当接可能なガイド部2a′を設け、該ガイド部2a′の下面にインパネメンバ21の両端部24を当接させた状態で前方に移動させることにより、該インパネメンバ21を組付け座2eにガイドする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車幅方向に延びるインパネメンバと、スピードメータ等の計器類,エアコンディショナ,グローブボックス等が配設されたインストルメントパネルとを有する車両用インパネモジュールの組付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のインパネモジュールを組み付ける場合、インパネメンバの取り付け部はインストルメントパネル及びフロントピラーにより隠れて見え難く、しかもフロントピラー,インパネメンバに配索された各種のハーネスに干渉しないよう組み付ける必要があり、組み付けに手間がかかる。
【0003】
そこでインパネモジュールの組み付けを容易に行えるように、例えば、特許文献1では、左,右のフロントピラーに支持ピン及びストッパピンを配置し、インパネモジュールを車両後方から支持ピンに係合させ、該支持ピンを支点に前方に回動させて前記ストッパピンに当接させることにより組み付け位置に仮保持するようにしている。
【0004】
また特許文献2には、フロントピラーに取り付けたL字型のブラケットにインストルメントパネルに形成した棚部を載置し、該インストルメントパネルを前方にスライドさせて棚部の切欠部を前記ブラケットに係合させることにより組み付け位置に仮保持するようにした構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−161033号公報
【特許文献2】特開平8−310273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記従来の特許文献1の組付け構造では、支持ピンに係合させるまでのインパネメンバの軌跡が安定せず、位置合わせに手間がかかり、場合によっては不要な傷付きやハーネス類の巻き込み,噛み込み等が生じるという懸念がある。また、例えばオープンカーのようにピラーの上部が後方に大きく傾斜する意匠の場合には、インパネメンバとピラーとのラップ代が大きくなることから、前記傷付きやハーネス類の巻き込みが生じ易くなる。
【0007】
一方、前記特許文献2のように、インストルメントパネルをブラケットに載置して組み付け位置までスライドさせる構造では、組み付け作業は容易に行えるものの、ブラケットを追加したり、インストルメントパネルに棚部を形成したりする必要があり、重量が増えるとともにコストが上昇するという問題が生じる。
【0008】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、重量増及びコスト上昇の問題を招くことなく、インパネメンバの組み付け作業を容易に行うことができる車両用インパネモジュールの組付け構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、車両上下方向に延びる左,右のフロントピラーと、該左,右のフロントピラーの間に車幅方向に延びるように配設されたカウルパネルと、該カウルパネルの車内側に突出するカウルフランジ及び前記左,右のフロントピラーの車内側に突出するピラーフランジにより形成されたウインド開口に配設されたフロントガラスとを備え、車幅方向に延びるインパネメンバと、該インパネメンバに取り付けられたインストルメントパネルとを有するインパネモジュールを、車両後方から前記左,右のフロントピラーの間を前方に移動させて該左,右のフロントピラーの組付け座に前記インパネメンバの両端部を組み付けるようにした車両用インパネモジュールの組付け構造であって、前記左,右のフロントピラーのピラーフランジに、前記インパネメンバの両端部が当接可能なガイド部を設け、該ガイド部の下面に前記インパネメンバの両端部を当接させた状態で前方に移動させることにより、該インパネメンバを前記組付け座にガイドすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るインパネモジュールの組付け構造によれば、左,右のフロントピラーのピラーフランジにガイド部を設け、該ガイド部の下面にインパネメンバの両端部を当接させた状態で前方に移動させることにより、インパネメンバをフロントピラーの組付け座にガイドするようにした。
【0011】
このように構成したので、既存のフロントピラーのピラーフランジを有効利用してインパネモジュールを組み付け位置にガイドすることができ、ブラケットを追加したり、棚部を形成したりすることなく、インパネメンバの組み付け作業を容易に行うことができる。
【0012】
本発明では、インパネメンバをピラーフランジのガイド部に当接させた状態で前方に移動させるだけで組付け座にガイドできるので、重量増及びコスト上昇を招くことなく、傷付きやハーネス類の巻き込み,噛み込みを防止でき、作業性を向上できる。これにより、例えばフロントピラーの上部が後方に大きく傾斜する意匠の車両に組み付ける場合に、インパネメンバとフロントピラーとのラップ代が大きくなっても、傷付きやハーネス類の巻き込みを生じることなく、容易に組み付けることができる
また前記ピラーフランジにガイド部を設けたので、フロントガラスを支持するフロントピラー周辺の剛性を高めることができ、フロントピラーに伝わる振動を抑えることができる。特にルーフのないオープンカーに採用した場合には、フロントピラーの剛性アップに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1によるインパネモジュールが配設されたオープンカー(自動車)の側面図である。
【図2】前記インパネモジュールの組み付け状態を示す分解斜視図である。
【図3】前記インパネモジュールの組み付け部分の斜視図である。
【図4】前記インパネモジュールの組み付け部分の平面図である。
【図5】前記インパネモジュールの組み付け手順を示す断面図(図4のV-V-線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1ないし図5は、本発明の実施例1による車両用インパネモジュールの組付け構造を説明するための図である。なお、本実施例の説明の中で前後,左右という場合は、特記なき限り、シートに着座した状態で車両前進方向に見たときの前後,左右を意味する。
【0016】
図において、1はオープンカーの車室前部を示している。この車室前部1は、車両上下方向に延びる左,右のフロントピラー2,2と、該左,右のフロントピラー2間に車幅方向に延びるように配設されたカウルパネル3と、該カウルパネル3と前記左,右のフロントピラー2とで形成されたウインド開口1aに配設されたフロントガラス4と、前記カウルパネル3に接続されたダッシュパネル5とを備えている。
【0017】
前記左,右のフロントピラー2の下端部には、車両前後方向に延びるロッカパネル6,6の前端部が結合されており、該左,右のロッカパネル6の後端部にはセンターピラー7の下端部が結合されている。このフロントピラー2,ロッカパネル6及びセンターピラー7によりフロントドア開口8が形成されている。
【0018】
前記左,右のフロントピラー2は、前記ロッカパネル6から垂直上方に延びる垂直部2Aと、該垂直部2Aに続いて後斜め上方に延びる傾斜部2Bとを有する。この左,右の傾斜部2Bの上端部間には、前記フロントガラス4の上縁部を支持するアッパ部材9が結合されている。
【0019】
前記垂直部2Aの上端部には、車両前後方向に延びるアッパメンバ10の後端部が結合されており、該アッパメンバ10の前端部は連結部材11を介してサイドメンバ12に連結されている。なお、13はフード、14は前輪を示している。
【0020】
前記左,右のフロントピラー2は、断面大略ハット形状のピラーインナ18とピラーアウタ19とを角筒状の閉断面をなすよう車内側ピラーフランジ2a同士及び車外側ピラーフランジ2b同士を溶接により結合した構造を有する(図4参照)。
【0021】
このフロントピラー2の車内側ピラーフランジ2aにより前記ウインド開口1aが形成され、車外側ピラーフランジ2bにより前記フロントドア開口8が形成されている。前記左,右のピラーフランジ2aには、前記フロントガラス4の左,右側縁部4a,4aが不図示のシール部材を介在させて固定されている。
【0022】
前記カウルパネル3は、上方に開口する断面大略ハット形状を有する。このカウルパネル3の車両前側に突出する車外側カウルフランジ3bには、前記ダッシュパネル5の上縁部が結合されている。
【0023】
また前記カウルパネル3の車両後側に突出する車内側カウルフランジ3aにより前記ウインド開口1aが形成され、該車内側カウルフランジ3aには、前記フロントガラス4の下縁部4bが不図示のシール部材を介在させて固定されている。なお、15は、カウルパネル3の上面後側部分を覆うように配設されたカウルアウタである(図4参照)。
【0024】
前記カウルパネル3の車内側カウルフランジ3aの左,右側端部は、車外側カウルフランジ3bに対して後方に大きく回り込むように湾曲形成されており、これによりカウルパネル3の左,右側端部の前後幅は、車幅方向中央部の前後幅より幅広となっている。この種のオープンカーでは、意匠効果を高める観点から、フロントガラス4の車幅方向における曲率を大きくするとともに、車高を低くする意匠となっている。このため、フロントピラー2のベルトラインLより上側の傾斜部2Bは、例えばルーフのある一般的なフロントピラー2′に比べて後側に大きく傾倒した意匠となっている(図1参照)。
【0025】
前記カウルパネル3の車内側カウルフランジ3aの左,右側縁部には、前記左,右のフロントピラー2のピラーフランジ2aの上面に当接する結合フランジ3c,3cが形成され、該結合フランジ3cはピラーフランジ2aに重ね合わせて溶接により一体に結合されている。このピラーフランジ2aと結合フランジ3cとによりウインド開口1aの左,右下側コーナー部1a′が形成されている。
【0026】
このコーナー部1a′は、前記ピラーフランジ2aの下端に、前記カウルパネル3の結合フランジ3cに沿って前方に延びる延長部2fを形成するとともに、該延長部2fを前記カウルパネル3の後壁部3eに結合した構造となっている(図5参照)。
【0027】
前記左,右のフロントピラー2の間にはインパネモジュール20が配設されている。このインパネモジュール20は、車幅方向に延びるインパネメンバ21と、該インパネメンバ21に取り付けられた樹脂製のインストルメントパネル22とを有する。このインストルメントパネル22には、不図示のスピードメータ等の計器類,エアコンディショナ,グローブボックス等が配設されている。
【0028】
前記インパネメンバ21は、鋼管製のP・Pメンバ23と、該P・Pメンバ23の左,右端面に結合された金属板状のサイドブラケット24,24とを有する。このP・Pメンバ23には、ステアリングホイール25を支持するステアリングブラケット26が取り付けられている。
【0029】
前記インパネメンバ21には、計器類などに接続されたハーネス類(不図示)が配索されている。また前述のフロントピラー2には、これに沿うようにアンテナケーブル,ルームランプケーブル,ウォッシャホースなどのハーネス類17が配索されている(図2参照)。このハーネス類17は、フロントピラー2からインストルメントパネル22内に配索されている。
【0030】
前記左,右のサイドブラケット24には、前端から後側中途部まで延びる案内溝24aが形成されており、該案内溝24aの後端部には第1係合凹部24bが形成されている。またサイドブラケット24の下辺後端部には第2係合凹部24cが形成されている。
【0031】
前記サイドブラケット24の上辺には、前後方向中間部から前方及び後方になだらかに傾斜する前,後傾斜面24d,24eが形成されている。また前記サイドブラケット24のP・Pメンバ23を挟んだ前後には、それぞれ締結ナット27,27が固定されている。
【0032】
前記左,右のフロントピラー2の内側壁には組付け座2eが形成されており、該組付け座2eは、垂直部2Aの上端部に設定されている。この組付け座2eには、上,下係合ピン28,29が車内側に突出するよう取り付け固定されており、該上,下係合ピン28,29には前記サイドブラケット24の第1,第2係合凹部24b,24cが係合している。
【0033】
前記左,右のフロントピラー2の車内側ピラーフランジ2aには、前記インパネメンバ21の左,右のサイドブラケット24が当接可能なガイド部2a′が一体に延長形成されている。このガイド部2a′は、ピラーフランジ2aの全長に渡って形成されている。ここで、前記ガイド部2a′は、ピラーフランジ2aのコーナー部1a′部分のみ設けてもよい。
【0034】
そして前記インパネモジュール20は、車両後方から前記インパネメンバ21の左,右のサイドブラケット24をガイド部2a′の下面に当接させた状態で前方に移動させることにより、前記組付け座2eにガイドされている。
【0035】
詳細には、インパネメンバ21を車両後方から左,右のフロントピラー2,2間に位置するよう挿入し、左,右のサイドブラケット24の前側傾斜面24dをピラーフランジ2aのガイド部2a′の下面に当接させ、この状態でインパネメンバ21を前斜め下方に移動させる(図5参照)。するとサイドブラケット24の案内溝24a内に上係合ピン28が係合し、さらに押し込むと上係合ピン28が第1係合凹部24bに係合する。この状態で上係合ピン28を支点にサイドブラケット24を下方に回動させると、第2係合凹部24cに下係合ピン29が係合し、これによりインパネメンバ21が組付け座2eに位置決め保持される。次いで、車幅方向外側から各ボルト(図3の矢印参照)をフロントピラー2内を貫通させて締結ナット27,27に締め付ける。このボルトは、ピラーインナ18とピラーアウタ19とに架設された円筒状のカラー30内を挿通しており、これによりサイドブラケット24の締結力を確保している。
【0036】
本実施例によれば、左,右のフロントピラー2の車内側ピラーフランジ2aにガイド部2a′を一体に延長形成し、該ガイド部2a′の下面にインパネメンバ21のサイドブラケット24の前側傾斜面24dを当接させた状態で前方に移動させることにより、インパネメンバ21をフロントピラー2の組付け座2eにガイドするようにしたので、既存のフロントピラー2のピラーフランジ2aを有効利用してインパネモジュール20を組み付け位置にガイドすることができ、ブラケットを追加したり、棚部を形成したりすることなく、インパネモジュール20の組付け作業を容易に行うことができる。
【0037】
本実施例では、前記インパネメンバ21の左,右のサイドブラケット24をピラーフランジ2aのガイド部2a′に当接させた状態で前方に移動させるだけで組付け座2eにガイドできるので、重量増及びコスト上昇を招くことなく、傷付きやハーネス類17の巻き込み,噛み込みを防止でき、作業性を向上できる。
【0038】
即ち、本実施例のオープンカーは、前述のように、ルーフのあるフロントピラー2′に比べてフロントピラー2の傾斜部2Bが後方に大きく傾斜した意匠となっている。このため、インパネメンバ21のフロントピラー2とのラップ代Aが大きくなり、傷付きやハーネス類の巻き込みが生じ易くなっている。本実施例では、ラップ代Aが大きいオープンカーにおいても、傷付き等を生じることなく、容易に組み付けることができる。
【0039】
また前記ガイド部2a′をピラーフランジ2aの全長に渡って形成したので、フロントガラス4を支持するフロントピラー2周辺の剛性を効果的に高めることができ、フロントピラー2に伝わる振動を抑えることができる。なお、前記ガイド部2a′は、ピラーフランジ2aのコーナー部1a′部分のみ設けてもよい。この場合には、フロントピラー2とカウルパネル3との結合部における剛性を高めることができ、ひいてはフロントピラー2に伝わる振動を抑制できる。
【0040】
前記インパネメンバ21のサイドブラケット24は、フロントピラー2のガイド部2aと上,下係合ピン28,29とで挟んだ状態で支持されており、仮保持状態でのインパネモジュールのガタつきを抑えることができ、組み付け精度を高めることができる。即ち、サイドブラケット24が何らかの外力により前方又は後方に回転すると、ピラーフランジ2aのガイド部2a′に当接して回転が阻止されることとなる。この場合、要求される組み付け精度が従来と同等程度であれば、上,下係合ピン28,29のうち何れか1つを廃止することが可能となり、部品コストを低減できる。
【符号の説明】
【0041】
1a ウインド開口
2 フロントピラー
2a ピラーフランジ
2a′ ガイド部
2e 組み付け座
3 カウルパネル
3a カウルフランジ
4 フロントガラス
20 インパネモジュール
21 インパネメンバ
22 インストルメントパネル
24 サイドブラケット(インパネメンバの両端部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両上下方向に延びる左,右のフロントピラーと、該左,右のフロントピラーの間に車幅方向に延びるように配設されたカウルパネルと、該カウルパネルの車内側に突出するカウルフランジ及び前記左,右のフロントピラーの車内側に突出するピラーフランジにより形成されたウインド開口に配設されたフロントガラスとを備え、
車幅方向に延びるインパネメンバと、該インパネメンバに取り付けられたインストルメントパネルとを有するインパネモジュールを、車両後方から前記左,右のフロントピラーの間を前方に移動させて該左,右のフロントピラーの組付け座に前記インパネメンバの両端部を組み付けるようにした車両用インパネモジュールの組付け構造であって、
前記左,右のフロントピラーのピラーフランジに、前記インパネメンバの両端部が当接可能なガイド部を設け、
該ガイド部の下面に前記インパネメンバの両端部を当接させた状態で前方に移動させることにより、該インパネメンバを前記組付け座にガイドする
ことを特徴とする車両用インパネモジュールの組付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−35485(P2013−35485A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174771(P2011−174771)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】