説明

車両用エンジンアンダーカバー

【課題】バンパー側へエンジンの熱風が回り込むことを防ぎ、しかもラジエーターの損傷を抑えることができ、さらには積み重ねた際に吸音室の潰れを防止する。
【解決手段】ブロー成形体からなるエンジンアンダーカバー10の上面に、ラジエーターの下端へ向けて突出したラジエーター位置中空突部19を形成すると共に、ラジエーター位置中空突部19よりもエンジン側14に積み重ね支持用中空突部23を上方へ向けて突出形成し、ラジエーター位置中空突部19の上部にはエンジン側あるいはエンジンとは反対側にラジエーターの下端位置及び吸音室よりも高い熱風回り込み防止突部27を形成し、積み重ね支持用中空突部23を該積み重ね支持用中空突部とラジエーター位置中空突部間に形成されている吸音室151よりも高くし、エンジンアンダーカバーを積み重ねた際に、吸音室15の上端が他のエンジンアンダーカバーの下方に位置して潰れないように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空の吸音室を有する車両用エンジンアンダーカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図7に示すように、車両のエンジン81下方からラジエーター83の下方に亘って、車両のエンジンによる騒音を低減するために板状のエンジンアンダーカバー70が設けられている。符号88はラジエーター前方のバンパーである。しかし、前記エンジンアンダーカバー70にあっては、ラジエーター83を通った空気が、エンジンルーム80内で温められてラジエーターの下端83aとエンジンアンダーカバー70間の隙間を通ってラジエーター83の前方側、すなわちバンパー88側へ回り込み、さらに吸気ダクト(図示せず)を通ってエンジン81に吸い込まれるため、エンジンの燃焼効率が低下する問題がある。
【0003】
また、図7においてエンジンアンダーカバー70の上面に、ラジエーター83の前方又は後方に近接し、ラジエーターの底面の高さより高い突出部75を形成して、エンジン81側からの熱風がラジエーター83の下方を通ってバンパー88側へ回り込むことを防ぐようにしたエンジンアンダーカバーが提案されている(特許文献1)。しかし、前記突出部75を設けたエンジンアンダーカバーにあっては、車両が縁石に乗り上げる等の際に、硬いエンジンアンダーカバーの上面にラジエーター83の下端が衝突してラジエーター83を損傷するおそれがある。
【0004】
また、吸音性を高めるため、図8及び図9に示すように、上面に隆起した中空の吸音室91を複数形成したプラスチックのブロー成形体からなるエンジンアンダーカバー90が提案されている(例えば特許文献2)。なお、図8及び図9における符号95は、車両への取り付け部である。しかし、前記吸音室91を有するエンジンアンダーカバー90にあっては、先に示したラジエーター下端とエンジンアンダーカバー間の隙間を通ってバンパー側へエンジンの熱風が回り込む問題があった。さらに、ブロー成形では、一般的に凸状部分を形成した場合、天面(上面)及び側壁が薄くなるため、エンジンアンダーカバー90の生産ライン等で図10に示すように、エンジンアンダーカバー90が積み重ねられた際に、上側のエンジンアンダーカバー90Aの重みによって、下側のエンジンアンダーカバー90は、吸音室91の一部が押し潰されて、吸音室91による吸音効果が低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭61−179118号公報
【特許文献2】特開2002−29330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、ラジエーターの下端とエンジンアンダーカバー間の隙間を通ってバンパー側へエンジンの熱風が回り込むことを防ぐことができ、しかもラジエーターの下端をエンジンアンダーカバーが押圧してもラジエーターの損傷を抑えることができ、さらには、エンジンアンダーカバーを積み重ねた際に、吸音室の潰れを防止することができる車両用エンジンアンダーカバーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、車両のエンジン下方と該エンジン前方のラジエーター下方とに亘って配設され、上面には隆起した中空の吸音室が複数形成されたブロー成形体からなる車両用エンジンアンダーカバーにおいて、前記エンジンアンダーカバーの上面には、ラジエーターの下方位置に前記ラジエーターの下端へ向けて突出したラジエーター位置中空突部が形成されていると共に、前記ラジエーター位置中空突部よりもエンジン側に積み重ね支持用中空突部が上方へ向けて突出形成され、前記ラジエーター位置中空突部の上部にはエンジン側にあるいはエンジンとは反対側に前記ラジエーターの下端位置及び前記吸音室よりも高い熱風回り込み防止突部が形成され、前記積み重ね支持用中空突部は、該積み重ね支持用中空突部と前記ラジエーター位置中空突部間に形成されている前記吸音室よりも高さが高くされていることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、前記積み重ね支持用中空突部は、前記ラジエーター位置中空突部よりもエンジン側に位置するどの吸音室よりも面積が大に形成されていることを特徴とする。なお、前記「面積」は、前記積み重ね支持用中空突部については該積み重ね支持用中空突部の上面(天井部)の面積をいい、一方、前記吸音室については該吸音質の上面(天井部)の面積をいう。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、ラジエーター位置中空突部の上部に形成された熱風回り込み防止突部によって、エンジン側の熱風がラジエーターの下端とエンジンアンダーカバー間を通ってエンジンとは反対のバンパー側へ廻り込むのを防止することができる。また、本発明のエンジンアンダーカバーでは、ラジエーター位置中空突部によってラジエーター下端が押圧されることがあっても、ラジエーター位置中空突部が中空からなるため、ラジエーター位置中空突部の変形が比較的容易であって緩衝性を有することから、ラジエーター下端の損傷を防ぐことができる。さらに、本発明のエンジンアンダーカバーにあっては積み重ねられた際に、積み重ね支持用中空突部と前記熱風回り込み防止突部の存在によって、上方に位置する他のエンジンアンダーカバーの下面に吸音室の上端が接触しないため、吸音室が潰れるおそれがなく、吸音性が損なわれることがない。また、積み重ね支持用中空突部は、吸音性を目的として形成されたものではないため、エンジンアンダーカバーの積み重ねによって積み重ね支持用中空突部の上部が潰れることがあっても、エンジンアンダーカバーの吸音性が損なわれるおそれがない。
【0010】
請求項2の発明によれば、前記積み重ね支持用中空突部を形成する壁部、天井部の板厚が前記吸音室の板厚より厚くなるため、エンジンアンダーカバーを積み重ねた際に、該積み重ね支持用中空突部がつぶれにくいようになっている。なお、ブロー成形において突部の面積を大にすると、突部の壁面及び天井部の板厚が厚くなることについては、周知の事項である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施例に係るエンジンアンダーカバーの斜視図である。
【図2】図1の2A−2A断面及び2B−2B拡大断面図である。
【図3】第1実施例のエンジンアンダーカバーの積み重ね状態を示す断面図である。
【図4】本発明の第2実施例に係るエンジンアンダーカバーの斜視図である。
【図5】図4の5−5断面図である。
【図6】第2実施例のエンジンアンダーカバーの積み重ね状態を示す断面図である。
【図7】従来のエンジンアンダーカバーの使用状態を示す概略図である。
【図8】従来のブロー成形体からなるエンジンアンダーカバーの斜視図である。
【図9】図8の9−9断面図である。
【図10】従来のブロー成形体からなるエンジンアンダーカバーの積み重ね状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1及び図2に示す第1実施例のエンジンアンダーカバー10は、公知のブロー成形によって成形されたプラスチックのブロー成形体からなり、図7に示したエンジンアンダーカバーと同様に車両のエンジン81下方と該エンジン81前方のラジエーター83下方とに亘って配設される。本実施例のエンジンアンダーカバー10は、中空板状体からなり、前記エンジン81の下方からラジエーター83の下方を経てラジエーター83前方のバンパー裏側に近接する大きさからなる。
【0013】
前記エンジンアンダーカバー10の上面11には、上方へ隆起した中空の吸音室15と、ラジエーター位置中空突部19と、積み重ね支持用中空突部23と、取り付け用突部28とが形成されている。
前記吸音室15は、前記エンジンアンダーカバー10の吸音性を高めるためのものであり、前記ラジエーター位置中空突部19の部分を避けて所定位置に複数設けられている。前記吸音室15は、側面及び上面で構成される凸状の中空形状からなり、吸音性を考慮して形状、大きさ及び数が決定されている。
【0014】
前記ラジエーター位置中空突部19は、前記ラジエーター83の下方位置に前記ラジエーター83の下端83aへ向けて上方へ突出すると共に、車両の幅方向と対応するアンダーカバー10の幅方向Wに沿って突堤状に形成されている。本実施例では前記ラジエーター位置中空突部19は、前記吸音室15よりも高さが高くされ、上面20が前記ラジエーター83の下端83aに当接または近接する位置に設定されている。前記エンジンアンダーカバー10において、前記ラジエーター位置中空突部19よりも前方がバンパー側13であり、一方、前記ラジエーター位置中空突部19よりも後方がエンジン側14である。また、本実施例では、前記ラジエーター位置中空突部19の前記幅方向Wの両端には、車体への取り付け孔21,21が形成されている。
【0015】
前記ラジエーター位置中空突部19の上部には前記ラジエーター83に対してエンジン側14の位置に前記ラジエーターの下端83位置及び前記吸音室15よりも上端位置が高い熱風回り込み防止突部27が形成されている。前記熱風回り込み防止突部27における前記ラジエーターの下端83位置からの高さは適宜決定されるが、例えば1〜5cm程度を挙げる。前記熱風回り込み防止突部27は、前記ラジエーター位置中空突部19における両端間の全長に亘って設けるのが好ましいが、部分的に設けても良い。
【0016】
前記積み重ね支持用中空突部23は、前記ラジエーター位置中空突部19よりもエンジン側14の位置に上方へ向けて突出形成されている。前記積み重ね支持用中空突部23は、該積み重ね支持用中空突部23と前記ラジエーター位置中空突部19間に形成されている吸音室151よりも高さが高く形成されると共に、図3に示すように、前記積み重ね支持用中空突部23及び前記ラジエーター位置中空突部19の上に他のエンジンアンダーカバー100が載置された際に、前記吸音室15(積み重ね支持用中空突部23とラジエーター位置中空突部19間の吸音室151を含む)の上端が前記他のエンジンアンダーカバー100の下方に位置して、前記他のエンジンアンダーカバー100の下面101と接触しないように、積み重ね支持用中空突部23の位置及び数が決定されている。特に、前記エンジンアンダーカバー10のエンジン側14において、前記ラジエーター位置中空突部19から最も離れた(すなわち前記エンジン側においてアンダーカバー10の幅方向Wと直交する方向へ前記ラジエーター中空突部19から最も離れた)位置の吸音室152に対して前記幅方向Wの位置、あるいはさらにラジエーター位置中空突部19から離れた位置(すなわち後方位置)に、前記積み重ね支持用中空突部23を設けるのが好ましい。また、前記積み重ね支持用中空突部23は、前記エンジンアンダーカバー10を積み重ねた際に上側のエンジンアンダーカバーを安定させるため、2箇所以上設けるのが好ましい。
【0017】
また、前記積み重ね支持用中空突部23は、前記ラジエーター位置中空突部19よりもエンジン側に位置するどの吸音室151よりも面積が大きくなっている。そのため、前記積み重ね支持用中空突部23を形成する壁部、天井部の板厚が前記吸音室151の板厚より厚くなっていて、エンジンアンダーカバーを積み重ねた際に、該積み重ね支持用中空突部23がつぶれにくいようになっている。
【0018】
前記取り付け用突部28は、前記ラジエーター位置中空突部19の車体への取り付け孔21,21と共にエンジンアンダーカバー10を車両へ取り付ける際に利用されるものである。前記取り付け用突部28は上面29を有する筒状からなり、前記上面29に取り付け孔30が形成されている。
【0019】
第1実施例のエンジンアンダーカバー10は、前記ラジエーター位置中空突部19の上部におけるエンジン側14の位置に前記熱風回り込み防止突部27を設けているが、前記熱風回り込み防止突部27は、エンジン側14とは反対のバンパー側13に設けてもよい。
【0020】
図4及び図5に、熱風回り込み防止突部27Aがラジエーター位置中空突部19Aの上部におけるバンパー側13Aに設けられた第2実施例のエンジンアンダーカバー10Aを示す。第2実施例のエンジンアンダーカバー10Aにおいて、熱風回り込み防止突部27Aの位置以外の構成は、前記第1実施例のエンジンアンダーカバー10と同様である。図6には第2実施例のエンジンアンダーカバー10Aを積み重ねた状態を示す。図4乃至図6において、符号11Aはエンジンアンダーカバー10Aの上面、14Aはエンジン側、15Aは吸音室、20Aはラジエーター位置中空突部19Aの上面、21Aはラジエーター位置中空突部19Aに形成された取り付け孔、23Aは積み重ね支持用中空突部、28Aは取り付け用突部である。また、符号100Aは、前記積み重ね支持用中空突部23A及び前記熱風回り込み防止突部27A上に載置された他のエンジンアンダーカバー、101Aは前記他のエンジンアンダーカバー100Aの下面、151Aは積み重ね支持用中空突部23Aとラジエーター位置中空突部19A間に形成された吸音室を示す。
【0021】
前記エンジンアンダーカバー10,10Aは、図2及び図5のように、前記ラジエーター83の下端83aに前記ラジエーター位置中空突部19,19Aの上面を当接または近接させた状態で前記エンジン側14,14Aをエンジン81の下方に位置させ、かつ前記ラジエーター83の下端83aよりも前記熱風回り込み防止突部27,27Aの上端が高い位置となるようにして、エンジン81及びラジエーター83の下方に取り付けられる。
【0022】
車両に取り付けられた前記エンジンアンダーカバー10,10Aは、前記ラジエーター位置中空突部19,19Aの上部に形成された熱風回り込み防止突部27,27Aによって、エンジン81側の熱風がラジエーター83の下端83aとエンジンアンダーカバー10,10A間を通ってエンジン81とは反対のバンパー側13,13Aへ廻り込むのを防止することができる。また、前記ラジエーター位置中空突部19,19Aの上部によってラジエーター下端83aが押圧されることがあっても、ラジエーター位置中空突部19,19Aが中空からなるため、変形が比較的容易であり、該変形によって衝撃を吸収し、ラジエーター下端83aの損傷を防ぐことができる。
【0023】
また、前記エンジンアンダーカバー10,10Aは図3及び図6のように、前記積み重ね支持用中空突部27,27A及び前記熱風回り込み防止突部27,27A上に他の同一形状のエンジンアンダーカバー100,100Aが載置された際に、前記吸音室15,15Aの上端が他のエンジンアンダーカバー100,100Aの下方に位置して他のエンジンアンダーカバーの下面101,101Aと接触しないため、吸音室15A,15Aが潰れるおそれがなく、吸音性が損なわれることがない。
【符号の説明】
【0024】
10,10A エンジンアンダーカバー
11.11A エンジンアンダーカバーの上面
13,13A バンパー側
14,14A エンジン側
15,15A 吸音室
19,19A ラジエーター位置中空突部
23,23A 積み重ね支持用中空突部、
27,27A 熱風回り込み防止突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジン下方と該エンジン前方のラジエーター下方とに亘って配設され、上面には隆起した中空の吸音室が複数形成されたブロー成形体からなる車両用エンジンアンダーカバーにおいて、
前記エンジンアンダーカバーの上面には、ラジエーターの下方位置に前記ラジエーターの下端へ向けて突出したラジエーター位置中空突部(19)が形成されていると共に、前記ラジエーター位置中空突部(19)よりもエンジン側に積み重ね支持用中空突部(23)が上方へ向けて突出形成され、
前記ラジエーター位置中空突部(19)の上部にはエンジン側にあるいはエンジンとは反対側に前記ラジエーターの下端位置及び前記吸音室(15)よりも高い熱風回り込み防止突部(27)が形成され、
前記積み重ね支持用中空突部(23)は、該積み重ね支持用中空突部と前記ラジエーター位置中空突部間に形成されている前記吸音室(151)よりも高さが高くされていることを特徴とする車両用エンジンアンダーカバー。
【請求項2】
前記積み重ね支持用中空突部(23)は、前記ラジエーター位置中空突部(19)よりもエンジン側に位置するどの吸音室(151)よりも面積が大に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用エンジンアンダーカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−247597(P2010−247597A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97616(P2009−97616)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】