説明

車両用カウル構造

【課題】ウインドシールドガラスの振動を防止又は効果的に抑制でき、しかも、衝突荷重によって効率よく変形を生じさせて衝突荷重のエネルギーを効率よく吸収できる車両用カウル構造を得る。
【解決手段】カウルアウタ90の後壁部102は、ウインドシールドガラス18側の屈曲部100からカウルインナ50側の屈曲部104への向きが、ウインドシールドガラス18の表面の向きとは反対方向を向き、且つ、屈曲部100を通過する仮想線L1と、ウインドシールドガラス18の表面にインパクタ(衝突体)106を衝突させた際の衝突荷重と同じ方向を向き、且つ、屈曲部100を通過する仮想線L2との間に設定されている。このため、衝突荷重を効率よくカウルインナ50に伝えてカウルインナ50の変形を誘発させることができ、しかも、ウインドシールドガラス18の支持剛性も向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NV性能と歩行者保護に配慮した車両用カウル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示された車両用カウル構造(車両のフロントデッキ構造)では、カウルインナ(カウルトップインナ)及びカウルアウタ(カウルトップアウタ)の各々の上下方向中間部よりも上方側を略車両前方側へ傾斜させ、更に、各々の上端部をカウルアウタの上下方向中間部よりも下側の下壁部よりも略車両前後方向前方側へ突き出させている。
【0003】
また、カウルインナ及びカウルアウタの各々の上下方向中間部よりも上方側の所定部位と、カウルインナ及びカウルアウタの各々の上下方向中間部よりも下方側の所定部位とにビードを形成している。
【0004】
以上のような構成とすることで、ウインドシールドガラス(フロントウインドシールドガラス)の表面に衝突荷重(衝撃荷重)が入力された際に、カウルインナ及びカウルアウタの各々に座屈を生じさせる。さらに、カウルインナ及びカウルアウタを含めてカウル(カウルトップ)を閉断面構造とすることで、ウインドシールドガラスの支持剛性を向上させ、所謂「NV性能」を向上させている。
【特許文献1】特開2004−155351の公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように、特許文献1に開示された構成では、カウルインナ及びカウルアウタの各々の上端部がカウルアウタの下壁部よりも前方側へ突き出させるために、カウルインナ及びカウルアウタの各々の上下方向中間部よりも上方側を略車両前方側へ大きく傾斜させている。このため、ウインドシールドガラスからカウルインナ及びカウルアウタの各々の上端部に入力された衝突荷重は、略車両後方側へ逃げてしまい、カウルインナ及びカウルアウタの各々の上下方向中間部よりも下側に形成されたビードを中心とする座屈に効果的に寄与できない。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、ウインドシールドガラスの振動を防止又は効果的に抑制でき、しかも、衝突荷重によって効率よく変形を生じさせて衝突荷重のエネルギーを効率よく吸収できる車両用カウル構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明に係る車両用カウル構造は、ウインドシールドガラスの裏面側から前記ウインドシールドガラスを支持する支持部と、前記支持部よりも車両後方側及び車両下方側の少なくとも一方の側に設けられ、前記ウインドシールドガラスの側からの衝突荷重が入力されることで変形し、この変形により前記支持部の変位を許容し且つ前記衝突荷重のエネルギーを吸収する可変部と、一端にて前記支持部に繋がり、他端側で前記可変部に繋がると共に、前記一端を通過する前記衝突荷重の向きに沿った第1仮想線と前記一端を通過する前記ウインドシールドガラスの表面垂直方向とは反対向きに沿った第2仮想線との間で前記一端から前記他端が設定され、前記ウインドシールドガラス及び前記支持部を介して入力された前記衝突荷重を前記可変部に伝えて前記可変部にて変形を誘発させる連結部と、を備えている。
【0008】
請求項1に記載の本発明に係る車両用カウル構造によれば、ウインドシールドガラスはその裏面側から支持部により支持される。したがって、ウインドシールドガラスに入力された衝突荷重が支持部に伝わる。支持部に伝わった衝突荷重は、支持部に一端が繋がった連結部に伝わり、更に、この連結部の他端側で連結部に繋がる可変部に伝わる。
【0009】
ここで、本発明に係る車両用カウル構造では、連結部の一端から他端への向きが、連結部の一端を通過する衝突荷重の向きに沿った第1仮想線と、連結部の一端を通過するウインドシールドガラスの表面垂直方向とは反対向きに沿った第2仮想線との間に設定される。このため、支持部を介して連結部に入力された衝突荷重は効率よく可変部に伝わり、可変部の変形に供される。
【0010】
このように、衝突荷重が入力されて可変部が変形することで、支持部の変位が許容されると共に、この衝突荷重のエネルギーが吸収される。
【0011】
一方で、本発明に係る車両用カウル構造では、上記のように、連結部の一端から他端への向きが第1仮想線と第2仮想線との間に設定されるため、ウインドシールドガラスの表面の向きとは反対向きの荷重に対する連結部の曲げ剛性が高い。これにより、ウインドシールドガラスの表面の向き及びその反対方向へのウインドシールドガラスの振動に対して、本車両カウル構造は高い支持剛性を有し、このような振動が防止又は効果的に抑制される。
【0012】
請求項2に記載の本発明に係る車両用カウル構造は、請求項1に記載の本発明において、前記可変部を含めて構成されたカウルインナと、前記連結部の前記他端部から連続して設けられ、前記カウルインナが固定される固定部、前記連結部、及び前記支持部を含めて構成されたカウルアウタと、前記連結部を経由せずに前記カウルアウタを前記カウルインナに連結する連結部材と、を備え、前記カウルインナ、前記カウルアウタ、及び前記連結部材とで閉断面を形成する、ことを特徴としている。
【0013】
請求項2に記載の本発明に係る車両用カウル構造によれば、可変部を含めて構成されたカウルインナと、このカウルインナが固定される固定部、連結部、及び支持部を含めて構成されたカウルアウタと、カウルアウタの連結部を経由せずにカウルアウタとカウルインナとを連結する連結部材とで閉断面が形成される。
【0014】
このため、全くの開断面構造のカウルに比べるとウインドシールドガラスの下端部の支持剛性が向上する。これにより、ウインドシールドガラスの振動が更に効果的に抑制される。
【0015】
請求項3に記載の本発明に係る車両用カウル構造は、請求項2に記載の本発明において、 前記連結部を介した前記衝突荷重の入力により折れ曲がりが誘発される第1折れ曲がり部と、前記閉断面の周方向一方及び他方の各々に沿って略等しい距離だけ前記第1折れ曲がり部から離間した位置に設定され、前記可変部の変形に伴い折れ曲がりが誘発される第2折れ曲がり部と、を備えることを特徴としている。
【0016】
請求項3に記載の本発明に係る車両用カウル構造によれば、ウインドシールドガラスに入力された衝突荷重が支持部及び連結部を介して可変部に伝わると、可変部が変形すると共に第1折れ曲がり部にて折れ曲がりが誘発されて、第1折れ曲がり部が折れ曲がる。次いで、このように、可変部が変形すると、第2折れ曲がり部にて折れ曲がりが誘発されて、第2折れ曲がり部が折れ曲がる。
【0017】
ここで、請求項2に記載の本発明に従属する請求項3に記載の本発明では、カウルインナとカウルアウタと連結部材とで閉断面が形成されるが、この閉断面の周方向の一方に沿った第1折れ曲がり部から第2折れ曲がり部までの長さ(周長)と、閉断面周方向の他方に沿った第1折れ曲がり部から第2折れ曲がり部までの長さ(周長)とが略等しい。このため、衝突荷重の入力で閉じ断面が潰れるように変形した際に、所謂潰れ残りが大幅に低減され、効率よく閉断面が潰れる(変形する)。
【0018】
請求項4に記載の本発明に係る車両用カウル構造は、請求項3に記載の本発明において、前記連結部の他端の一端とは反対側から前記第1折れ曲がり部を前記連結部の他端に当接させた、ことを特徴とする請求項3に記載の車両用カウル構造。
【0019】
請求項4に記載の本発明に係る車両用カウル構造によれば、ウインドシールドガラスに入力された衝突荷重が支持部を介して連結部に伝わると、連結部の他端に接している第1折れ曲がり部(可変部)に連結部から衝突荷重が伝えられる。このため、可変部は第1折れ曲がり部において変形が誘発され、第1折れ曲がり部を中心とする可変部の曲げ角度が変化するように可変部が変形させられる。
【0020】
このように、可変部が変形させられることにより、カウルインナとカウルアウタと連結部材とで構成される閉断面が効率よく変形し、この結果、所謂潰れ残りが大幅に低減され、効率よく閉断面が潰れる。
【0021】
請求項5に記載の本発明に係る車両用カウル構造は、請求項3又は請求項4に記載の本発明において、前記第1折れ曲がり部を中心とした前記第1折れ曲がり部から前記可変部の一方への向きを、前記衝突荷重の向きよりも前記第1折れ曲がり部を中心とした前記第1折れ曲がり部から前記可変部の他方への向きとは反対側に設定した、ことを特徴としている。
【0022】
請求項5に記載の本発明に係る車両用カウル構造では、第1折れ曲がり部を中心とした第1折れ曲がり部から可変部の一方への向きが、衝突荷重の向きよりも第1折れ曲がり部を中心とした第1折れ曲がり部から可変部の他方への向きとは反対側に設定される (換言すると、衝突荷重の向きに沿い第1折れ曲がり部を通過する仮想線が、第1折れ曲がり部を境とする可変部の一方と他方との間を通過する)。
【0023】
このため、衝突荷重を受けた連結部が第1折れ曲がり部を境とした可変部の一方又は他方に強く支持されたり、また、可変部に伝わった衝突荷重が可変部に変形に大きく寄与することなく逃げたりせず、可変部に伝わった衝突荷重を可変部の変形に大きく寄与させることができる。このように、可変部が変形させられることにより、カウルインナとカウルアウタと連結部材とで構成される閉断面が効率よく変形し、この結果、所謂潰れ残りが大幅に低減され、効率よく閉断面が潰れる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る車両用カウル構造は、ウインドシールドガラスの振動を防止又は効果的に抑制でき、しかも、衝突荷重によって効率よく可変部を変形させて衝突荷重のエネルギーを効率よく吸収できる。
【0025】
請求項2記載の本発明に係る車両用カウル構造は、全くの開断面構造のカウルに比べてウインドシールドガラスの下端部の支持剛性が向上し、ウインドシールドガラスの振動を更に効果的に抑制できる。
【0026】
請求項3記載の本発明に係る車両用カウル構造は、衝突荷重により効果的にカウルの閉断面を潰すことができ、効果的に衝突荷重を吸収できる。
【0027】
請求項4記載の本発明に係る車両用カウル構造は、第1折れ曲がり部において可変部の変形を誘発でき、第1折れ曲がり部を中心とした可変部の曲げ角度が変化するように可変部を変形できる。これにより、衝突荷重でカウルの閉断面が効率よく潰れ、効果的に衝突荷重を吸収できる。
【0028】
請求項5記載の本発明に係る車両用カウル構造は、可変部に伝わった衝突荷重を可変部の変形に大きく寄与させることができる。これにより、衝突荷重でカウルの閉断面が効率よく潰れ、効果的に衝突荷重を吸収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
<本実施の形態の構成>
図1から図3には本発明の車両用カウル構造の一実施の形態を適用したカウル10が車両左右方向一方の側からみた概略的な断面図により示されている。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示している。
【0030】
図1に示されるように、カウル10はカウルルーバ12を備えている。カウルルーバ12を構成する本体14は平板状に形成されていると共に、本体14の略車両後方側には爪部16が形成されている。爪部16は本体14に対して略車両下方側へ延出されていると共に、その先端側は略車両後方側へ鉤状に屈曲されている。この爪部16の先端側と本体14の後端側との間にはウインドシールドガラス18の下端部が挟み込まれており、更に、本体14の後端部とウインドシールドガラス18の下端部との間がシール部材20により封止されている。本体14の前端部から本体14に連続して凹部22が形成されている。
【0031】
凹部22は厚さ方向が略車両前後方向に沿った平板状の一対の縦壁部24と、これらの縦壁部24の下端部を繋ぐ平板状の底壁部26とにより構成されている。本体14の前端部は、一対の縦壁部24のうち相対的に略車両後方側に位置する方の上端部に繋がっている。一対の縦壁部24のうち相対的に略車両前方側に位置する方の上端部からは略車両前方側へ向けて平板状のフランジ部28が延出されている。フランジ部28上にはシール部材30が配設されており、エンジンフード32がエンジンルームを閉止した際には、エンジンフード32の裏面側にシール部材30が圧接して、フランジ部28とエンジンフード32の裏面との間を封止する。
【0032】
上記のカウルルーバ12の略車両下方側にはカウルロアパネル34が配置されている。カウルロアパネル34は厚さ方向が略車両前後方向に沿った板状の本体36を備えている。本体36の上端部からは略車両前方側へ向けてフランジ部38が延出されている。フランジ部38は厚さ方向が凹部22の底壁部26の厚さ方向に沿った板状に形成されており、底壁部26の厚さ方向に互いに対向した状態で溶接等による溶着手段又はボルト等による締結手段により底壁部26に一体的に接合されている。
【0033】
一方、カウルロアパネル34の下端からは略車両後方側へ向けて下壁部40が延出されている。この下壁部40の後端部からは略車両上方へ向けて縦壁部42が立設され、更に、縦壁部42の上端部からは略車両後方側へ向けて平板状のフランジ部44が延出されている。
【0034】
このカウルロアパネル34の略車両後方側には可変部としてのカウルインナ50が配置されている。カウルインナ50は本体52を備えている。本体52は厚さ方向が略車両前後方向に対して略車両上下方向に傾斜した向きに沿い、しかも、下端側よりも上端側が略車両後方側に位置するように傾いた平板状とされている。本体52の下端部は屈曲部54とされている。屈曲部54にてカウルインナ50は略車両左右方向を軸方向とする軸周りに屈曲しており、この屈曲部54を介して本体52とは反対側は平板状の下壁部56とされている。この下壁部56の下端部(すなわち、下壁部56の屈曲部54とは反対側の端部)からは略車両前方側へ向けてフランジ部58が延出されている。
【0035】
フランジ部58は厚さ方向がカウルロアパネル34のフランジ部44の厚さ方向に沿った平板状とされており、その先端側(略車両前後方向中間部よりも前方側)ではフランジ部44の厚さ方向にフランジ部44と対向している。フランジ部44とフランジ部58との間には接着剤60が介在しており、この接着剤60によりフランジ部44とフランジ部58、すなわち、カウルロアパネル34とカウルインナ50とが一体的に繋がっている。
【0036】
一方、カウルインナ50の本体52及び下壁部56の略車両前方側には連結部材としてのブレース70が配置されている。ブレース70は板状の本体72を備えている。本体72は厚さ方向が概ね略車両前後方向に沿った板状とされている。略車両上下方向に沿った本体72の中間部には第2折れ曲がり部としての屈曲部74が形成されている。この屈曲部74において本体72は略車両左右方向を軸方向とする軸周りに屈曲しており、本体72の屈曲部74よりも下側の本体下部76は、本体72の屈曲部74よりも上側の本体下部78に対して略車両後方側へ傾いている。
【0037】
本体下部76の屈曲部74とは反対側の端部は屈曲部80とされている。ブレース70は屈曲部80において略車両左右方向を軸方向とする軸周りに屈曲している。屈曲部80を介して本体下部76とは反対側は下壁部82とされている。下壁部82は厚さ方向がカウルインナ50の下壁部56の厚さ方向に沿った平板状とされている。下壁部82は下壁部56の厚さ方向に沿って下壁部56と対向しており、溶接等による溶着手段又はボルト等による締結手段により下壁部56に一体的に接合されている。これにより、ブレース70がカウルインナ50に直接的且つ一体的に繋がっている。
【0038】
ブレース70の略車両上方側にはカウルアウタ90が設けられている。カウルアウタ90は支持部としての本体92を備えている。本体92は厚さ方向がウインドシールドガラス18の厚さ方向に沿った平板状とされている。カウルアウタ90は本体92がウインドシールドガラス18の下端部近傍でウインドシールドガラス18の裏面側に位置するように配置されている。接着剤94はウインドシールドガラス18と対向しており、更に、接着剤94とウインドシールドガラス18との間には接着剤94が介在している。この接着剤94によりウインドシールドガラス18の下端部近傍と本体92とが固着され、更に、ウインドシールドガラス18の下端部近傍と本体92との間が封止されている。
【0039】
本体92の一端(上下方向下端)は屈曲部96とされている。この屈曲部96においてカウルアウタ90は略車両左右方向を軸方向とする軸周りに屈曲しており、屈曲部96を介して本体92とは反対側は前壁部98とされている。前壁部98は厚さ方向がブレース70の本体下部78の厚さ方向に沿った板状とされている。前壁部98に対応して本体下部78の上下方向中間部よりも上方側の一部は固定部84とされている。前壁部98は固定部84の略車両前方側で固定部84と対向しており、溶接等による溶着手段又はボルト等による締結手段により固定部84に一体的に接合されている。これにより、カウルアウタ90がブレース70に直接的且つ一体的に繋がっている。
【0040】
一方、本体92の屈曲部96とは反対側の端部は屈曲部100とされている。この屈曲部100においてカウルアウタ90は略車両左右方向を軸方向とする軸周りに屈曲しており、屈曲部100を介して本体92とは反対側は連結部としての後壁部102とされている。さらに、後壁部102の屈曲部100とは反対側の端部は第1折れ曲がり部としての屈曲部104とされており、この屈曲部100においてカウルアウタ90は略車両左右方向を軸方向とする軸周りに屈曲している。
【0041】
ここで、図1に示されるように、後壁部102の屈曲部100から屈曲部104への向きは、ウインドシールドガラス18の表面の向きとは反対方向を向き、且つ、屈曲部100を通過する仮想線L1と、ウインドシールドガラス18の表面にインパクタ(衝突体)106を衝突させた際の衝突荷重F(図2及び図3参照)と同じ方向を向き、且つ、屈曲部100を通過する仮想線L2との間に設定されている(補足すれば、後壁部102の屈曲部100から屈曲部104との間は、仮想線L1及び仮想線L2と同一線上に位置していてもよい)。
【0042】
上記の屈曲部104を介して後壁部102とは反対側は平板状のフランジ部108とされており、屈曲部104から略車両後方へ向けて延出されている。フランジ部108に対応してカウルインナ50にはフランジ部62が形成されている。フランジ部62は、本体52の上端部である屈曲部64において略車両左右方向を軸方向とする軸周りにカウルインナ50を屈曲させることで形成されている。フランジ部62は厚さ方向がフランジ部108の厚さ方向に沿った平板状とされており、フランジ部108の下側でフランジ部108の厚さ方向に沿って対向している。
【0043】
フランジ部108はフランジ部62の厚さ方向に互いに対向した状態で溶接等による溶着手段又はボルト等による締結手段によりフランジ部62に一体的に接合されている。これにより、カウルアウタ90がカウルインナ50に直接的且つ一体的に繋がっている。さらに言えば、カウルアウタ90は、フランジ部108の側でカウルインナ50に直接的に接合されていると共に、前壁部98の側ではブレース70を介して間接的にカウルインナ50に接合されている。このようにして互いに接合されたカウルインナ50、ブレース70、及びカウルアウタ90は環状の閉断面を形成している。
【0044】
また、上記のように接合されたカウルアウタ90とカウルインナ50とは、カウルアウタ90の屈曲部104とカウルインナ50の屈曲部64とが隣接しており、しかも、カウルインナ50の屈曲部64は、カウルアウタ90の屈曲部104(すなわち、連結部の他端)の屈曲部100(すなわち、連結部の一端)とは反対側に位置している。さらに、カウルアウタ90に接合されたカウルインナ50は、屈曲部64を中心として、仮想線L2対して平行(すなわち、ウインドシールドガラス18にインパクタ106を衝突させた際の衝突荷重Fの向きに対して平行)で且つ屈曲部64を通過する仮想線L3の本体52とは反対側にフランジ部62が位置するように、屈曲部54や屈曲部64の位置、更には、本体52やフランジ部62の長さや傾斜角度等が設定されている。
【0045】
さらに、図4に示されるように、カウルインナ50、ブレース70、及びカウルアウタ90にて環状の閉断面を形成することで、この閉断面の周方向に沿って屈曲部104から屈曲部74に到達する経路は、屈曲部104から本体52及び本体下部76を経由する経路C1と、屈曲部104から後壁部102、本体92、前壁部98、及び本体下部78を経由する経路C2(すなわち、経路C1とは反対周りの経路)がある。
【0046】
ここで、屈曲部96から屈曲部74までの長さをA、屈曲部96から屈曲部100までの長さをB、屈曲部100から屈曲部104(屈曲部64)までの長さをC、屈曲部64(屈曲部104)から屈曲部54(屈曲部80)までの長さをD、そして、屈曲部80(屈曲部54)から屈曲部74までの長さをEとした場合、A、B、及びCの総和と、DとEとの和は略等しくなるように(すなわち、A+B+C≒D+Eで、好ましくはA+B+C=D+Eとなるように)屈曲部104及び屈曲部74の各々の形成位置、ひいては、カウルインナ50、ブレース70、カウルアウタ90の各々を構成する各部位の寸法が設定されている。これにより、経路C1を経由する屈曲部104から屈曲部74までの長さ(周長)と、経路C2を経由する屈曲部104から屈曲部74までの長さ(周長)とが略一致している。
【0047】
<本実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0048】
図1に示される状態でウインドシールドガラス18の下端部近傍でウインドシールドガラス18の表面にインパクタ106(すなわち、衝突体)が衝突すると、その際の衝突荷重Fはウインドシールドガラス18の下端部付近を支持しているカウルアウタ90の屈曲部96に伝わる。屈曲部96に伝わった衝突荷重Fは前壁部98及び後壁部102の双方に伝わる。前壁部98に伝わった衝突荷重Fは、前壁部98に接合されている固定部84からブレース70に伝わる。
【0049】
これに対して、後壁部102に伝わった荷重は屈曲部104から屈曲部64に伝わり、屈曲部64を衝突荷重Fの向きに押圧する。カウルインナ50の本体52は上端側が下端側よりも略車両後方側に位置するように傾いている。このため、図2に示されるように、上記のように押圧されると本体52は上端部が更に略車両後方に対して略車両下方へ傾いた向きに変位するように屈曲部54を中心にして回動するように倒れこむ。
【0050】
一方、ブレース70の上端部と下端部との間には屈曲部74が形成されている。このため、前壁部98を介して衝突荷重Fがブレース70に入力されると、屈曲部74が屈曲部100から離間しつつ、屈曲部74よりも略車両後方側で本体下部78と本体下部76とが接近して重なり合うように本体72が屈曲部74で折れ曲がる。
【0051】
このように衝突荷重Fが伝えられてカウルインナ50、ブレース70、及びカウルアウタ90で構成された閉断面が潰れるように変形することで、屈曲部100と屈曲部104との相対的な位置関係が変化し、これにより、屈曲部100から後壁部102に伝わる衝突荷重Fのうち、屈曲部104を中心に後壁部102を回動させるのに寄与する回動寄与分が増加し、これにより、屈曲部104よりも略車両上方側で後壁部102とフランジ部108とが接近して重なり合うように後壁部102が屈曲部104で折れ曲がる。
【0052】
このようにして、最終的には、図3に示されるように、カウルインナ50、ブレース70、及びカウルアウタ90で構成された閉断面が車両上下方向に押し潰されて折り畳まれるように変形する。この変形過程でインパクタ106の衝突時のエネルギーが吸収されると共に、変形分だけウインドシールドガラス18の下端部近傍が衝突荷重Fの向き変位することが許容され、インパクタ106への衝突反力が低減される。
【0053】
ここで、本実施の形態では、後壁部102の屈曲部100から屈曲部104への向きが上記の仮想線L1と仮想線L2との間に設定される。このため、仮想線L2の仮想線L1とは反対側まで後壁部102が衝突荷重Fの向きに対して傾くように設定された構成に比べると、後壁部102に伝わった衝突荷重Fを効率よく屈曲部64(すなわち、カウルインナ50)に伝えて、屈曲部54、64におけるカウルインナ50の変形を効果的に誘発できる。この結果、カウルインナ50、ブレース70、及びカウルアウタ90で構成された閉断面を衝突荷重Fで効果的に潰す(変形させる)ことができる。
【0054】
また、上記のように屈曲部100から屈曲部104への向きが設定されると、仮想線L2の仮想線L1とは反対側まで後壁部102が衝突荷重Fの向きに対して傾くように設定された構成に比べて衝突荷重Fに対する後壁部102自体の剛性が高い。しかしながら、上記のように、カウルインナ50での変形を効果的に誘発でき、この結果、衝突荷重Fで効率よくカウルインナ50が変形することで上記のように屈曲部100に対する屈曲部104の相対的な位置関係が容易に変化し、これにより、カウルインナ50の変形直後に屈曲部104を中心として後壁部102が倒れるようなカウルアウタ90の変形も効果的に誘発できる。
【0055】
このように、本実施の形態では、カウルインナ50、ブレース70、及びカウルアウタ90で構成された閉断面を衝突荷重Fで極めて効率よく変形させることができ、上記のエネルギー吸収効果や衝突反力低減効果を向上できる。
【0056】
しかも、上記のように経路C1を経由する屈曲部104から屈曲部74までの長さ(周長)と、経路C2を経由する屈曲部104から屈曲部74までの長さ(周長)とが略一致している。このため、理論的に言えばカウルインナ50、ブレース70、及びカウルアウタ90で構成された閉断面は、屈曲部104から屈曲部74までの経路C1側の部分と、屈曲部104から屈曲部74までの経路C2側の部分とが接触するまで互いに接近できる。このため、上記のようにカウルインナ50、ブレース70、及びカウルアウタ90で構成された閉断面は、極めて潰れ残りが少ない状態まで衝突荷重Fで変形できる。このように、閉断面の潰れ残りが極めて少ないということは、閉断面が変形することにより得られる効果が大きいということであり、したがって、上記のエネルギー吸収効果や衝突反力低減効果を更に向上できる。
【0057】
さらに、カウルインナ50の屈曲部64はカウルアウタ90の屈曲部104の屈曲部100とは反対側で屈曲部104に隣接している。このため、衝突荷重Fが伝わった後壁部102は、屈曲部104がカウルインナ50の屈曲部64を押圧して衝突荷重Fをカウルインナ50に伝える。このため、カウルインナ50は、衝突荷重Fが入力されることで、先ず、屈曲部64を中心としたフランジ部62に対する本体52の角度が変化するように変形する。
【0058】
ここで、仮に、屈曲部104が屈曲部64よりも本体52の中央側(すなわち、屈曲部54の側)でカウルインナ50に接していると、屈曲部52と屈曲部64との間で本体52に衝突荷重Fが入力される。このような構成では、衝突荷重Fがカウルインナ50に入力されると、本体52での衝突荷重Fの入力位置を中心に本体52が折れ曲がるように屈曲してしまい、屈曲部64や屈曲部54を中心とする本体52の回転が生じ難い。
【0059】
これに対して、本実施の形態を適用したカウル10では、屈曲部64に衝突荷重Fが入力されることで、屈曲部54と屈曲部64との間で本体52に折れ曲がりや湾曲が生じないか、屈曲部54と屈曲部64との間での本体52の折れ曲がりや湾曲が少ない。しかも、屈曲部64は本体52の屈曲部54とは反対側の端部であることから、屈曲部64に入力された衝突荷重Fは、屈曲部54を中心とする本体52の回転に大きく寄与する。
【0060】
また、仮に、衝突荷重Fの向きに対して平行な仮想線L3の向きが、屈曲部64から屈曲部54への向き、又は、屈曲部64からフランジ部62の先端側への向きの何れかに一致していると、衝突荷重Fに対する本体52又はフランジ部62の剛性が高くなり、衝突荷重Fがカウルインナ50に入力されてもカウルインナ50の変形が生じ難い。
【0061】
これに対して、本実施の形態では、カウルインナ50の本体52における屈曲部64から屈曲部54への向きと、フランジ部62における屈曲部64からフランジ部62の先端側への向きとの間に衝突荷重Fの向きに対して平行な仮想線L3が通過する。このため、屈曲部64に入力された衝突荷重Fは屈曲部64を中心に本体52に対してフランジ部62が成す角度を変えるようなカウルインナ50の変形、すなわち、屈曲部54を中心に本体52が回転するようなカウルインナ50の変形に大きく寄与する。
【0062】
このように、衝突荷重Fでカウルインナ50では屈曲部54を中心に本体52が回転して倒れるような変形を効果的に誘発できるので、更に、屈曲部54、64におけるカウルインナ50の変形を更に効果的に誘発でき、この結果、カウルインナ50、ブレース70、及びカウルアウタ90で構成された閉断面を衝突荷重Fで更に効果的に潰す(変形させる)ことができる。したがって、閉断面が変形することにより得られる効果を大きくでき、上記のエネルギー吸収効果や衝突反力低減効果を更に向上できる。
【0063】
一方、本実施の形態を適用したカウル10では、上記のように、ウインドシールドガラス18の下端部近傍を支持する屈曲部96を有するカウルアウタ90がカウルインナ50とブレース70とで閉断面を形成している(別の見方をすると、ブレース70を設けることでカウルインナ50とカウルアウタ90とが閉断面を形成できる)。このため、カウルを開断面で構成した場合に比べてウインドシールドガラス18の下端部の支持剛性が高くなる。
【0064】
しかも、上記のように屈曲部100から屈曲部104への向きが設定されると、仮想線L2の仮想線L1とは反対側まで後壁部102が衝突荷重Fの向きに対して傾くように設定された構成に比べて仮想線L1に沿った向きの荷重に対する後壁部102の剛性が高い。ここで、車両走行時等に生じるウインドシールドガラス18の上下振動は、ウインドシールドガラス18の表面の向き及びその反対方向に沿う。このため、上記のように仮想線L1に沿った向きの荷重に対する後壁部102の剛性が高くなることで、ウインドシールドガラス18の上下振動を防止又は極めて抑制できる。
【0065】
このように、本実施の形態を適用したカウル10は、所謂「NV性能」と所謂「歩行者保護性能」とを両立させたうえ、これらの性能を向上できる。
【0066】
なお、本実施の形態では、第1折れ曲がり部としての屈曲部104をカウルアウタ90に設定し、第2折れ曲がり部としての屈曲部74をブレース70に設定した構成であった。しかしながら、第1折れ曲がり部及び第2折れ曲がり部の設定位置は、上記の構成に限定されるものではなく、経路C1に沿った周長と経路C2に沿った周長とが略一致するような部位であれば、基本的に第1折れ曲がり部及び第2折れ曲がり部の各々はカウルインナ50、ブレース70、及びカウルアウタ90の何れに形成されてもよい。
【0067】
また、本実施の形態では、屈曲部104の屈曲部100とは反対側で屈曲部64が屈曲部104に隣接する構成である。しかしながら、特許請求の範囲の請求項1から請求項3の各々に記載の本発明の観点からすれば、屈曲部104の屈曲部100とは反対側で屈曲部64が屈曲部104に隣接していない構成であってもよく、例えば、屈曲部64が屈曲部104よりもフランジ部108の先端側に位置する構成であってもよいし、また、これとは反対に、屈曲部104が屈曲部64よりもフランジ部108の先端側に位置する構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施の形態に係る車両用カウル構造を適用したカウル及びその近傍部分の概略的な断面図である。
【図2】インパクタ(衝突体)の衝突直後の状態を示す図1に対応した断面図である。
【図3】インパクタ(衝突体)の衝突によるカウルの変形が終了した状態を示す図1に対応した断面図である。
【図4】カウルインナ、カウルアウタ、及びブレースの各部位の位置と寸法関係を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
10 カウル
18 ウインドシールドガラス
50 カウルインナ(可変部)
70 ブレース(連結部材)
74 屈曲部(第2折れ曲がり部)
90 カウルアウタ
92 本体(支持部)
100 屈曲部(連結部の一端)
102 後壁部(連結部)
104 屈曲部(第1折れ曲がり部、連結部の他端)
F 衝突荷重
L1 仮想線
L2 仮想線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウインドシールドガラスの裏面側から前記ウインドシールドガラスを支持する支持部と、
前記支持部よりも車両後方側及び車両下方側の少なくとも一方の側に設けられ、前記ウインドシールドガラスの側からの衝突荷重が入力されることで変形し、この変形により前記支持部の変位を許容し且つ前記衝突荷重のエネルギーを吸収する可変部と、
一端にて前記支持部に繋がり、他端側で前記可変部に繋がると共に、前記一端を通過する前記衝突荷重の向きに沿った第1仮想線と前記一端を通過する前記ウインドシールドガラスの表面垂直方向とは反対向きに沿った第2仮想線との間で前記一端から前記他端が設定され、前記ウインドシールドガラス及び前記支持部を介して入力された前記衝突荷重を前記可変部に伝えて前記可変部にて変形を誘発させる連結部と、
を備える車両用カウル構造。
【請求項2】
前記可変部を含めて構成されたカウルインナと、
前記連結部の前記他端部から連続して設けられ、前記カウルインナが固定される固定部、前記連結部、及び前記支持部を含めて構成されたカウルアウタと、
前記連結部を経由せずに前記カウルアウタを前記カウルインナに連結する連結部材と、
を備え、前記カウルインナ、前記カウルアウタ、及び前記連結部材とで閉断面を形成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用カウル構造。
【請求項3】
前記連結部を介した前記衝突荷重の入力により折れ曲がりが誘発される第1折れ曲がり部と、
前記閉断面の周方向一方及び他方の各々に沿って略等しい距離だけ前記第1折れ曲がり部から離間した位置に設定され、前記可変部の変形に伴い折れ曲がりが誘発される第2折れ曲がり部と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の車両用カウル構造。
【請求項4】
前記連結部の他端の一端とは反対側から前記第1折れ曲がり部を前記連結部の他端に当接させた、
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用カウル構造。
【請求項5】
前記第1折れ曲がり部を中心とした前記第1折れ曲がり部から前記可変部の一方への向きを、前記衝突荷重の向きよりも前記第1折れ曲がり部を中心とした前記第1折れ曲がり部から前記可変部の他方への向きとは反対側に設定した、
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の車両用カウル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−29292(P2009−29292A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196125(P2007−196125)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】