説明

車両用カウル構造

【課題】NV性能と歩行者保護性能とを両立させることができ、しかも歩行者保護性能を更に向上させることができる車両用カウル構造を得る。
【解決手段】平面視で車両幅方向の中央部が車両後方へ向かうように前壁部14Bが湾曲しているため、当該前壁部14Bでは車両前後方向に沿った奥行き寸法も得られる。このため、フロントウインドシールドガラス12の上下振動に対して突っ張り力が得られ当該上下振動を抑制することができる。また、フロントウインドシールドガラス12に入力された衝突荷重がカウルアウタパネル14へ伝達されると、前壁部14Bの自由端部36では、車両前方側へ向かう分力が発生することとなる。このため、カウルアウタパネル14の前壁部14Bは、当該前壁部14Bの基部34を中心にガラス支持部14Aとの間で成す角度が開き、カウルアウタパネル14の潰れ残りが防止され、衝突体40への衝突反力が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NV性能と歩行者保護に配慮した車両用カウル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、歩行者保護に配慮した車両用カウル構造が開示されている。簡単に説明すると、この公報に開示された技術では、歩行者保護性能を確保するため、カウルアウタパネルの前面縦壁を廃止しカウル全体を開き断面構造にしている。これにより、ウィンドウシールドガラスの前方下端縁部に歩行者が衝突したときに、カウルインナパネルとカウルアッパーパネルとがそれぞれ変形して、衝突による衝撃エネルギーを吸収して緩和するので、歩行者に対する衝撃を低減させることができる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−193873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記先行技術に開示された構成のように、歩行者保護性能を向上させるべくカウル全体を開き断面構造にすると、フロントウインドシールドガラスの下端部の支持剛性が低下し、NV性能が悪化する。つまり、一般には、NV性能と歩行者保護性能とは背反事項の関係にある。その一方で、近年、歩行者保護性能を更に向上させたいという要請がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、NV性能と歩行者保護性能とを両立させることができ、しかも歩行者保護性能を更に向上させることができる車両用カウル構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の本発明は、フロントウインドシールドガラスの下端部に沿って車両幅方向に延在され、当該フロントウインドシールドガラスの下端部付近を支持するカウルアウタパネルと、このカウルアウタパネルの下方側に車両幅方向に沿って延在されると共に上端部がカウルアウタパネルの後端側に結合されてカウルアウタパネルとで開断面構造のカウルを形成し、フロントウインドシールドガラスへの衝突荷重の入力時に下部側に設定された折れ部を起点として荷重入力方向へ折れ曲がる縦壁を備えたカウルインナパネルと、を備え、前記カウルアウタパネルの前端部に、下方へ向かって延出すると共に、平面視で車両幅方向の中央部が車両後方へ向かうようにして湾曲する前壁部が設けられている。
【0007】
請求項1記載の本発明では、フロントウインドシールドガラスの下端部に沿って、カウルアウタパネルが車両幅方向に延在しており、当該フロントウインドシールドガラスの下端部付近を支持している。カウルアウタパネルの下方側には、カウルインナパネルが車両幅方向に沿って延在している。このカウルインナパネルの上端部がカウルアウタパネルの後端側に結合されて、カウルインナパネルとカウルアウタパネルとで開断面構造のカウルが形成されている。
【0008】
フロントウインドシールドガラスに衝突荷重が入力されると、その衝突荷重はフロントウインドシールドガラスの下端部付近を支持しているカウルアウタパネルを介してカウルインナパネルへ伝達される。カウルインナパネルは縦壁を備えており、フロントウインドシールドガラスへの衝突荷重の入力時に、縦壁の下部側に設定された折れ部を起点として当該縦壁が荷重入力方向へ折れ曲がるように設定されている。
【0009】
一方、カウルアウタパネルの前端部には、下方へ向かって延出すると共に平面視で車両幅方向の中央部が車両後方へ向かうようにして湾曲する前壁部が設けられている。本発明では、歩行者保護の観点からカウルがカウルアウタパネルとカウルインナパネルとで開断面構造に形成されているが、この場合、フロントウインドシールドガラスの下端部の支持剛性が低下する。
【0010】
しかし、上記のように、平面視で車両幅方向の中央部が車両後方へ向かうようにして当該前壁部が湾曲しているため、車両前後方向に沿った奥行き寸法も得られ、平面視で車両幅方向に沿って前壁部が設けられた場合と比較して、フロントウインドシールドガラスの上下振動に対して突っ張り力が得られる。これにより、フロントウインドシールドガラスの上下振動を抑制することができ、車室内のこもり音の発生を抑制することができる。
【0011】
また、フロントウインドシールドガラスに衝突荷重が入力され、当該衝突荷重がカウルアウタパネルへ伝達されると、前壁部の基部では圧縮力が作用し、前壁部の自由端部では引張力が作用することとなる。当該前壁部は平面視で車両幅方向の中央部が車両後方へ向かうようにして湾曲する形状を成しているため、前壁部の自由端部では、前壁部の形状に沿って外側へ向かう引張力により、車両前方側へ向かう分力が発生することとなる。
【0012】
つまり、フロントウインドシールドガラスに入力された衝突荷重がカウルアウタパネルへ伝達されると、前壁部の自由端部では、車両前方側へ向かう分力が発生する。これにより、カウルアウタパネルの前壁部は、当該前壁部の基部を中心に、フロントウインドシールドガラスを支持する支持部との間で成す角度が開くこととなる。これによって、カウルアウタパネルの潰れ残りが防止され、衝突反力が低減される。つまり、カウルによって衝突時のエネルギーをより多く吸収することができる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の本発明に係る車両用カウル構造は、NV性能と歩行者保護性能とを両立させることができ、しかも歩行者保護性能を更に向上させることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る車両用カウル構造を車両前後方向に沿って切断し、その切断面を車両側方から見た拡大縦断面図である。
【図2】衝突体が衝突してきた際の変形モードを示す図1に対応する拡大縦断面図である。
【図3】本実施形態に係る車両用カウル構造を構成するカウルの要部を示す斜視図である。
【図4】本実施形態に係る車両用カウル構造を構成するカウルの要部を示す平面図である。
【図5】本実施形態に係る車両用カウル構造の作用を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1〜図5を用いて、本発明に係る車両用カウル構造について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示している。
【0016】
(車両用カウル構造の構成)
図1には、本発明が適用されたカウル10を車両前後方向に沿って切断し、その切断面を車両側方から見た拡大縦断面図が示されている。この図に示されるように、カウル10は、フロントウインドシールドガラス12の下端部12Aに沿って車両幅方向に延在され、当該フロントウインドシールドガラス12の下端部12A付近を支持する鋼板製のカウルアウタパネル14と、このカウルアウタパネル14の下方側に配置されて車両幅方向に沿って延在された鋼板製のカウルインナパネル16と、このカウルインナパネル16の車両前方側に離間して配置されてフード18の後端側へ向けて延設されたカウルロアパネル20と、カウルロアパネル20の上端フランジ部20Aとフロントウインドシールドガラス12の下端部12Aとの間に被嵌される樹脂製のカウルルーバ22と、を含んで構成されている。
【0017】
ここで、カウルアウタパネル14は、フロントウインドシールドガラス12のガラス面に沿って平行に配置されたガラス支持部14Aと、このガラス支持部14Aの前端部から車両下方側へ向かって延出された前壁部14Bと、ガラス支持部14Aの後端部から斜め後方下側へ屈曲された後壁部14Cと、この後壁部14Cの下端部から車両後方側へ延出された後端フランジ部14Dと、によって構成されている。なお、ここでは前壁部14Bの長さを5mm以上としている。また、前壁部14Bはガラス支持部14Aの前端部から車両下方側へ向かって延出されているが、フロントウインドシールドガラス12に対して略直角以上の角度となるように前壁部14Bがガラス支持部14Aの前端部から延出されることが好ましい。
【0018】
ガラス支持部14Aには、フロントウインドシールドガラス12の下端部12Aが接着剤24によって固着されかつシールされている。そして、図3及び図4に示されるように、前壁部14Bは平面視で車両幅方向の中央部が車両後方へ向かうように湾曲しており、後壁部14Cは平面視で車両幅方向の中央部が車両前方へ向かうように湾曲している。なお、図3は、カウルアウタパネル14及びカウルインナパネル16を示す斜視図であり、図4は、図3の平面図である。
【0019】
一方、図1に示されるように、カウルインナパネル16は、カウルアウタパネル14の後端フランジ部14Dに結合される上端フランジ部16Aと、この上端フランジ部16Aの前端部から車両下方斜め前方側へ屈曲垂下された後部縦壁16Bと、この後部縦壁16Bの下端部から屈曲されて略車両下方側へ延設された下部壁16Cと、この下部壁16Cの下端部から略車両前方側へ屈曲されて略水平に配置された下端部16Dと、によって構成されている。別の見方をすると、カウルインナパネル16の縦壁はその高さ方向中間部付近に設定された折れ部32で車両後方側へ折り曲げられており、これにより当該縦壁は車両側面視で略「く」の字状に形成されている。
【0020】
カウルロアパネル20は、フード18の略後端下方に平行に配置された上端フランジ部20Aと、この上端フランジ部20Aの後端部から略車両斜め下方へ屈曲された前部縦壁20Bと、この前部縦壁20Bの下端部から屈曲されて車両後方側へ延設された前部底壁20Cと、この前部底壁20Cの後端部から略車両上方側へ屈曲された後に車両後方側へ延設されてカウルインナパネル16の下端部16Dの上面に接着剤26で接着及びシールされた後端部20Dと、によって構成されている。
【0021】
カウルルーバ22は、フロントウインドシールドガラス12の下端部12Aとカウルロアパネル20の上端フランジ部20Aとの間に掛け渡されて雨水等の水をカウル10内へ落とし込む本体部22Aと、この本体部22Aの前端部から凹状に形成されてカウルロアパネル20の上端フランジ部20Aに固定される凹部22Bと、この凹部22Bの前壁部の上端部から車両前方側へ延出されてフード18の下面との間をシールするシール材28が取付けられるシール材支持部22Cと、によって構成されている。
【0022】
(車両用カウル構造の作用・効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果を説明する。
【0023】
図2は、衝突体40がフロントウインドシールドガラス12に衝突してきた際の変形モードを示す図1に対応する拡大縦断面図である。図1に示される状態から、図2に示されるように、フロントウインドシールドガラス12の下端部12A付近に衝突体40が衝突すると、その際の衝突荷重は、フロントウインドシールドガラス12の下端部12A付近を支持しているカウルアウタパネル14を介して、カウルインナパネル16へ伝達される。
【0024】
カウルインナパネル16が備える後部縦壁16Bの下部側には折れ部32が設定されており、かつ後部縦壁16Bは荷重入力点となるカウルアウタパネル14のガラス支持部14A側へ後傾されているため、衝突荷重がカウルインナパネル16へ伝達されると、カウルインナパネル16の後部縦壁16Bは折れ部32を起点として荷重入力方向である車両後方下側(矢印F方向側)へ折れ曲がる。
【0025】
ここで、本実施形態では、歩行者保護の観点からカウル10がカウルアウタパネル14とカウルインナパネル16とで開断面構造に形成されているが、図3及び図4に示されるように、平面視で車両幅方向の中央部が車両後方へ向かうように前壁部14Bが湾曲しているため、当該前壁部14Bでは車両前後方向に沿った奥行き寸法も得られる。
【0026】
このため、例えば、図示はしないが、平面視で車両幅方向に沿って前壁部が設けられた場合と比較して、フロントウインドシールドガラス12の上下振動に対して突っ張り力が得られる。これにより、フロントウインドシールドガラス12の上下振動を抑制することができ、車室内のこもり音の発生を抑制することができる。
【0027】
また、フロントウインドシールドガラス12に衝突荷重が入力され、当該衝突荷重がカウルアウタパネル14へ伝達されると、図3に示されるように、前壁部14Bの基部34では圧縮力(矢印A)が作用し、前壁部14Bの自由端部36では引張力(矢印B)が作用することとなる。当該前壁部14Bは平面視で車両幅方向の中央部が車両後方へ向かうようにして湾曲する形状を成しているため、図5に示されるように、前壁部14Bの自由端部36では、前壁部14Bの形状に沿って外側へ向かう引張力(矢印B)により、車両幅方向へ向かう分力(矢印C)及び車両前方側へ向かう分力(矢印D)が発生することとなる。
【0028】
つまり、フロントウインドシールドガラス12に衝突荷重が入力され、当該衝突荷重がカウルアウタパネル14へ伝達されると、前壁部14Bの自由端部36では、車両前方側へ向かう分力(矢印D)が発生する。これにより、図2に示されるように、カウルアウタパネル14の前壁部14Bは、当該前壁部14Bの基部34を中心に、フロントウインドシールドガラス12を支持するガラス支持部14Aとの間で成す角度が開くこととなる(矢印E)。これによって、カウルアウタパネル14の潰れ残りが防止され、衝突体40への衝突反力が低減される。つまり、カウル10によって衝突時のエネルギーをより多く吸収することができる。
【0029】
以上のことから、上記構成によれば、NV性能と歩行者保護性能とを両立させることができ、しかも歩行者保護性能を更に向上させることができる。
【0030】
なお、本実施形態では、図4に示されるように、ガラス支持部14Aにおいて、後壁部14Cは平面視で車両幅方向の中央部が車両前方へ向かうように湾曲している。この後壁部14Cは、カウルインナパネル16の後部縦壁16Bが折れ部32を起点として折れ曲がったとき、上端フランジ部16Aを介して、ガラス支持部14Aとの間で成す角度が開く方向へ変形する。このため。当該後壁部14Cは、車両幅方向に沿って形成されても良いし、平面視で車両幅方向の中央部が車両後方へ向かうように湾曲しても良い。
【0031】
また、本発明は、上記の実施形態以外にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0032】
10 カウル
12 フロントウインドシールドガラス
14 カウルアウタパネル
16 カウルインナパネル
32 折れ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントウインドシールドガラスの下端部に沿って車両幅方向に延在され、当該フロントウインドシールドガラスの下端部付近を支持するカウルアウタパネルと、
このカウルアウタパネルの下方側に車両幅方向に沿って延在されると共に上端部がカウルアウタパネルの後端側に結合されてカウルアウタパネルとで開断面構造のカウルを形成し、フロントウインドシールドガラスへの衝突荷重の入力時に下部側に設定された折れ部を起点として荷重入力方向へ折れ曲がる縦壁を備えたカウルインナパネルと、
を備え、
前記カウルアウタパネルの前端部に、下方へ向かって延出すると共に平面視で車両幅方向の中央部が車両後方へ向かうようにして湾曲する前壁部が設けられた車両用カウル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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