説明

車両用カウル構造

【課題】複数の屈曲部を有するカウルブレースであっても、歩行者保護性能を向上させ、NV性能を向上させる。
【解決手段】車両用カウル構造1において、フロントウインドシールドガラスの下端部を支持するカウルアウタ2と、カウルアウタ2の下方側においてこのカウルアウタ2に結合されるカウルインナ3と、カウルブレース5とを備える。カウルブレース5は、カウルアウタ2とカウルインナ3とを車両上下方向に結合する。カウルブレース5の中間部には車両上下方向に互いに離間配置された複数の屈曲部51及び52が配設される。カウルアウタ2に最も近い屈曲部51の曲げ剛性はそれ以外の屈曲部52の曲げ剛性に対して低く設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はNV性能と歩行者保護性能とに配慮した車両用カウル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には車両用カウル構造が開示されている。この車両用カウル構造は、カウルアウタ、カウルインナ及びカウルブレース(連結部材)を相互に結合した閉断面構造を持っている。カウルアウタは、フロントウインドシールドガラスの下端部に沿って車両幅方向に延在し、フロントウインドシールドガラスの下端部付近を支持する。カウルインナはカウルアウタの下方側において車両幅方向に沿って延在し、カウルインナの上端部はカウルアウタの後端側に結合される。カウルブレースは、略車両上下方向に延伸し、車両幅方向の所定位置においてカウルアウタとカウルインナとを結合する。
【0003】
この車両用カウル構造において、衝突荷重の入力によりこのカウルブレースを折り曲げるための折れ部がカウルブレースの高さ方向の所定位置に設定されている。そして、カウルアウタの変形部位の線長とカウルブレースの上端部から折れ部までの線長とを足した長さは、カウルインナの変形部位の線長とカウルブレースの折れ部からカウルインナへの結合部までの線長とを足した長さに略一致させている。
【0004】
このように構成される車両用カウル構造においては、衝突荷重がカウルブレースに伝達されると、カウルブレースは折れ部を起点として折れ曲がり、衝突時のエネルギを吸収して、衝突体への衝突反力を低減することができる。一方、カウルアウタとカウルインナとがカウルブレースによって略車両上下方向に結合され、フロントウインドシールドガラスの下端部の支持剛性が高められている。従って、上記車両用カウル構造においては、背反事項の関係にある歩行者保護性能とNV性能とを両立することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−331720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両用カウル構造を構築するカウルインナは、その車両幅方向の中央部の一部に車両の側面から見て車両前方側に突出する略V字形状の突出部を備えている。この突出部は、衝突時に、カウルインナの折れの起点として使用し、衝突荷重を吸収する機能を有する。カウルアウタとカウルブレースとの結合位置と、カウルインナとカウルブレースとの結合位置とを結ぶ直線を超えて突出部が車両前方側に突出する場合がある。このような場合、カウルブレースと突出部との接触を回避するため、カウルブレースに屈曲部が形成され、屈曲部を起点としてカウルブレースは車両後方側に折り曲げられる。
【0007】
一方、カウルアウタの下方側においてカウルインナの車両前方側にはカウルロアが配設されている。カウルブレースはカウルインナの突出部とカウルロアとの間において車両上下方向に延在している。カウルブレースの突出部に対応した領域に1箇所の屈曲部を形成した場合、カウルブレースのカウルアウタとの結合位置から屈曲部までの長さ、カウルブレースのカウルインナとの結合位置から屈曲部までの長さはいずれも長くなる。このため、衝突時にカウルブレースに変形が生じると、屈曲部の変位が大きくなり、カウルロアに接触することが考えられる。従って、上記条件の車両用カウル構造の場合、カウルブレースには車両上下方向に互いに離間した2箇所以上の屈曲部を形成することが好ましい。
【0008】
しかしながら、カウルブレースの複数箇所に屈曲部を形成すると、カウルブレース全体の変形モードが安定しない。また、複数箇所の屈曲部において変形が発生し、いずれも十分な変形量が得られない場合にはカウルブレースの変形荷重が持続し、衝突荷重を十分に吸収することが難しい。更に、複数箇所の屈曲部に応力集中が発生するので、カウルブレース全体の剛性が低下し、フロントウインドシールドガラスの支持剛性を高めることが難しい。
【0009】
本発明は上記事実を考慮し、複数の屈曲部を有するカウルブレースであっても、歩行者保護性能を向上させることができるとともに、NV性能を向上させることができる車両用カウル構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、車両用カウル構造において、フロントウインドシールドガラスを支持するカウルアウタと、カウルアウタの下方側においてこのカウルアウタに結合されるカウルインナと、カウルアウタとカウルインナとを車両上下方向に結合し、中間部において車両上下方向に互いに離間配置された複数の屈曲部を有し、カウルアウタに最も近い屈曲部の曲げ剛性がそれ以外の屈曲部の曲げ剛性に対して低いカウルブレースと、を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項1に係る発明において、車両用カウル構造は、カウルアウタと、カウルインナと、カウルアウタとカウルインナとを車両上下方向に結合するカウルブレースとを備えている。カウルブレースは複数の屈曲部を有し、カウルアウタに最も近い屈曲部の曲げ剛性が他の屈曲部の曲げ剛性に対して低く設定されている。このため、当該曲げ剛性が低い屈曲部に衝突荷重を集中させ、この屈曲部においてカウルブレースに十分な曲げを生じさせることができる。屈曲部に十分な曲げを生じさせるので、衝突荷重に伴うカウルブレースの変形荷重は持続しない。カウルブレースは曲げ剛性が低い屈曲部において衝突時のエネルギを十分に吸収し、衝突反力を低減することができる。曲げ剛性が低い屈曲部に衝突荷重が集中することによって、この屈曲部の変形モードがカウルブレースの全体の変形モードを支配し、カウルブレースの変形モードを安定化させることができる。また、曲げ剛性が高い屈曲部はカウルブレースの全体の剛性を高め、カウルアウタのフロントウインドシールドガラスの支持剛性を高めることができる。この支持剛性が高められると、フロントウインドシールドガラスの上下振動を抑制することができ、車両室内のこもり音の発生を抑制することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の車両用カウル構造において、カウルインナに配設され、カウルブレースのカウルアウタとの結合位置とカウルインナとの結合位置とを結ぶ直線よりも車両前方側に一部を突出させた突出部と、カウルアウタの下方側においてカウルインナの車両前方側に対向するカウルロアと、を備え、カウルブレースは、突出部とカウルロアとの間に配置されるとともに、突出部を跨いで突出部よりも車両上方側に曲げ剛性が低い屈曲部を配設し、突出部よりも車両下方側に曲げ剛性が高い屈曲部を配設したことを特徴とする。
【0013】
請求項2に係る発明において、車両用カウル構造は、カウルインナには突出部を備え、カウルアウタの下方側には突出部の車両前方側に対向するカウルロアを備えている。カウルインナの突出部はカウルアウタとカウルブレースとの結合位置とカウルインナとカウルブレースとの結合位置とを結ぶ直線よりも車両前方側に突出する。カウルブレースは、突出部とカウルロアとの間に配置され、突出部を跨いで突出部の車両上下方向にそれぞれ屈曲部を配設する。カウルブレースに屈曲部を備え、カウルブレースが突出部を迂回して延伸しているので、カウルブレースと突出部との接触を回避することができる。また、カウルブレースに複数個の屈曲部を備えているので、カウルブレースのカウルアウタとの結合位置から屈曲部までの長さ、屈曲部間の長さ、屈曲部からカウルインナまでの長さを分散して短くすることができる。衝突時のカウルブレースの屈曲部の変位が小さくなるので、カウルロアとの接触を回避することができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に係る車両用カウル構造において、曲げ剛性が高い屈曲部にはビードが形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る発明において、車両用カウル構造のカウルブレースは、屈曲部にビードを形成することによって曲げ剛性を高めている。ビードはカウルブレースの一部を板厚方向に塑性変形させて突出させた簡易構造を有し簡易に製作可能な補強体である。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに係る車両用カウル構造において、カウルブレースは、側部に車両前方側に折れ曲がるフランジ部を有することを特徴とする。
【0017】
請求項4に係る発明において、車両用カウル構造のカウルブレースの側部には車両前方側に折れ曲がるフランジ部を備えている。衝突時において車両上方側から車両下方側に向かってカウルブレースに衝突荷重が加わると、フランジ部は外側に折れ曲がって変形し、フランジ部の断面形状の高さを減少しカウルブレースは大きく変形する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明の車両用カウル構造によれば、複数の屈曲部を有するカウルブレースであっても、歩行者保護性能を向上することができるとともに、NV性能を向上することができる。
【0019】
請求項2に係る発明の車両用カウル構造によれば、衝突時のエネルギを十分に吸収して、歩行者保護性能を向上することができる。
【0020】
請求項3に係る発明の車両用カウル構造によれば、曲げ剛性が互いに異なる複数の屈曲部を備えたカウルブレースを簡易に製作することができる。
【0021】
請求項4に係る発明の車両用カウル構造によれば、カウルブレースは、衝突時のエネルギを十分に吸収して、車両上下方向に衝突荷重を持続させないので、歩行者保護性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例に係る車両用カウル構造の斜視図である。
【図2】図1に示す車両用カウル構造の分解斜視図である。
【図3】図1に示す車両用カウル構造の側面図である。
【図4】(a)は図1に示す車両用カウル構造のカウルブレースの斜視図、(b)は(a)に示すA−A切断線における断面図である。
【図5】(a)は図1に示す車両用カウル構造を備えた車体の衝突前の概略断面図、(b)は車体の衝突後の概略断面図である。
【図6】(a)は図4に示すカウルブレースの衝突前後の変形状態を示す模式図、(b)は比較例に係るカウルブレースの衝突前後の変形状態を示す模式図である。
【図7】(a)乃至(c)は図4に示すカウルブレースの衝突前後の変形量に応じた模式的断面図である。
【図8】(a)乃至(c)は比較例に係るカウルブレースの衝突前後の変形量に応じた模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る車両用カウル構造の一実施例について図面を用いて説明する。なお、図中、適宜示す矢印Fは車両前方向、矢印Rは車両後方向、矢印Wは車両幅方向、矢印Uは車両上方向、矢印Dは車両下方向を各々指し示す。
【0024】
[車両用カウル構造の全体構成]
図1乃至図3及び図5(a)に示すように、本発明の一実施例に係る車両用カウル構造1は、フロントウインドシールドガラス7の下端部を支持するカウルアウタ(カウルアウタパネル)2と、カウルアウタ2の下方側(矢印D方向側)においてこのカウルアウタに結合されるカウルインナ(カウルインナパネル)3と、カウルアウタ2とカウルインナ3とを車両上下方向(矢印U方向及び矢印D方向)に結合し、中間部において車両上下方向に互いに離間配置された複数の屈曲部51及び52を有し、カウルアウタ2に最も近い屈曲部51の曲げ剛性がそれ以外の屈曲部52の曲げ剛性に対して低いカウルブレース(連結部材)5とを備えている。
【0025】
カウルアウタ2はフロントウインドシールドガラス7の下端部に沿って車両幅方向(矢印W方向)に延在する。カウルアウタ2はフロントウインドシールドガラス7の下端部のガラス面に略平行な支持部(符号は省略する)を有する。この支持部には接着剤7Aを用いてフロントウインドシールドガラス7の下端部が固着され、かつ支持部とフロントウインドシールドガラス7の下端部との間の密閉(シール)がなされる。
【0026】
カウルインナ3の上端部はカウルアウタ2の車両後端部(矢印R方向の端部)に結合されている。結合には例えばスポット溶接が使用される。カウルインナ3の下端部は車両下方向(矢印D方向)に延在する。カウルインナ3の車両幅方向の中央部には突出部3Aが配設されている。この突出部3Aは、カウルアウタ2との結合部から車両下方向に向かってやや車両前方向に傾斜して延在し(矢印F方向である車両前方向に突出し)、中央部分から車両後方向に折れ曲がり、車両側面から見て略V字形状を有する。
【0027】
カウルアウタ2の下方側において、カウルインナ3の車両前方側にこのカウルインナ3に対向してカウルロア(カウルロアパネル)4が配置されている。図5(a)に特に示すように、カウルロア4の車両前方向端のフランジ部はフード10の車両後方向端部分に略平行に配置され、このフランジ部からカウルロア4は湾曲しながらカウルインナ3の下端部に延在する。カウルロア4の湾曲形状はカウルインナ3側に膨らみを持つ湾曲形状である。カウルインナ3の下端部は図示を省略するがカウルインナ3の下端部に接着剤を用いて結合されている。
【0028】
図5(a)に示すように、フロントウインドシールドガラス7の下端部とフード10との間にはカウルルーバ8が配置されている。また、カウルインナ3の下端部には車両下方向に延在するダッシュパネル9の上端部が結合されている。
【0029】
[カウルブレースの構成]
本実施例に係る車両カウル構造1において、カウルブレース5は、図1乃至図3、図4(a)、図4(b)、図5(a)及び図5(b)に示すように、車両上方向側の端部に形成された上フランジ部5aと、車両下方向側の端部に形成された下フランジ部5bとを備えている。上フランジ部5aは、カウルアウタ2の車両前方向側端部の裏面に略平行に折り曲げられ、車両前方向に延伸する。この上フランジ部5aはカウルアウタ2の裏面に結合される。結合には例えばスポット溶接が使用される。上フランジ部5aとカウルアウタ2との結合箇所は、カウルブレース5とカウルアウタ2との結合位置になる。下フランジ部5bは、カウルインナ3の車両下方向側端部の表面に略平行に折り曲げられ、車両下方向に延伸する。この下フランジ部5bはカウルインナ3の表面に結合される。結合には例えば同様にスポット溶接が使用される。下フランジ部5bとカウルインナ3との結合箇所は、カウルブレース5とカウルインナ3との結合位置になる。
【0030】
図3及び図5(a)に示すように、本実施例に係る車両用カウル構造1は、前述のように、カウルインナ3に突出部3Aを有する。この突出部3Aはカウルブレース5のカウルアウタ2との結合位置(上フランジ部5aの根本)とカウルインナ3との結合位置(下フランジ部5bの根本)とを結ぶ説明の便宜上示した直線Lよりも車両前方側に突出している。カウルブレース5は、車両幅方向の中央部において、カウルインナ3の突出部3Aとカウルロア4との間にここでは1本配置されている。カウルブレース5の配置本数は、特にこの本数に限定されるものではなく、複数本配置してもよい。但し、カウルブレース5を複数本配置する場合には、少なくとも1本のカウルブレース5がカウルインナ3の突出部3Aとカウルロア4との間に配置されている。
【0031】
カウルブレース5は、突出部3Aを跨いで突出部3Aよりも車両上方側、すなわち上フランジ部5aと突出部3Aに対向する位置との間に曲げ剛性が低い屈曲部51を配設している。また、カウルブレース5は、突出部3Aよりも車両下方側、すなわち突出部3Aに対向する位置と下フランジ部5bとの間に曲げ剛性が高い屈曲部を配設している。
【0032】
特に図4(a)及び図4(b)に示すように、カウルブレース5は車両上下方向に細長い金属製板材をベースに製作されている。カウルブレース5の両側部には上フランジ部5aから下フランジ部5bに渡って全域にフランジ部5cが配設されている。フランジ部5cは、車両前方向に向かって内角αにおいて折り曲げられ、更に先端部を外側に向けて外角βにおいて折り曲げられている。内角α、外角βは、いずれも、図4(b)中、上方から衝突荷重が加わったときに、フランジ部5cが外側に変形し、衝突荷重を十分に吸収するために、90度よりも大きな角度に設定されている。
【0033】
カウルブレース5の屈曲部51は、車両幅方向と同一方向に延びる線(図示せず)を起線として、カウルブレース5の上フランジ部5aから屈曲部51までの領域に対して、屈曲部51から屈曲部52までの領域を車両後方向側に折り曲げている。この屈曲部51は、ベースの金属製板材に折り曲げ以外の機械加工を施しておらず、屈曲部52に比べて曲げ剛性を低く設定している。
【0034】
カウルブレース5の屈曲部52は、車両幅方向と同一方向に延びる線(図示せず)を起線として、カウルブレース5の屈曲部51から屈曲部52までの領域に対して、屈曲部52から下フランジ部5bまでの領域を車両後方向側に折り曲げている。屈曲部52の折り曲げ角度は屈曲部51の折り曲げ角度と同等に設定されている。この屈曲部52は、ベースの金属製板材に折り曲げの機械加工を施すとともに、曲げ剛性を高く設定するために、ビード55を備えている。ビード55は、カウルブレース5の金属製板材の一部を板厚方向に塑性変形させ、ここでは車両前方向に突出させた簡易な構造を有する補強体である。ビード55は、車両上下方向に延在し、屈曲部52を横切る。
【0035】
ビード55を備え、屈曲部52の曲げ剛性を高くすることによって、カウルブレース5の全体の剛性を高めることができる。カウルブレース5の剛性が高められることによって、カウルアウタ2のフロントウインドシールドガラス7の支持剛性を高められ、フロントウインドシールドガラス7の上下振動を抑制することができる。この結果、車両室内のこもり音の発生を抑制することができる。
【0036】
なお、本実施例において、ビード55は車両上下方向に1本延在している例を示しているが、カウルブレース5の屈曲部52を横切る2本以上のビード55が配設されてもよい。また、ビード55はカウルブレース5の車両後方向に突出させてもよい。
【0037】
[本実施例の作用・効果]
本実施例に係る車両用カウル構造1の作用及び効果(衝突時の衝突荷重の吸収メカニズム)は以下の通りである。
【0038】
まず、図5(a)に示す衝突前の車両用カウル構造1において、フロントウインドシールドガラス7の下端部付近に衝突体20が衝突する。図5(a)に示すように、衝突のときの衝突荷重fは、フロントウインドシールドガラス7の下端部を支持しているカウルアウタ2を通してカウルインナ3に伝達されるとともに、カウルアウタ2を通してカウルブレース5に伝達される。
【0039】
カウルインナ3には突出部3Aが配設され、カウルインナ3の上端部は衝突荷重fの入力点となるカウルアウタ2のフロントウインドシールドガラス7の支持部よりも車両後方向に配置されている。このため、衝突荷重fが入力されると、カウルインナ3は突出部3Aを起点(起線)として、衝突荷重fの入力方向である車両後方向に折れ曲がる。
【0040】
一方、カウルブレース5の中間部には複数個の屈曲部51及び52が設定され、しかも屈曲部51及び52は衝突荷重fの入力点となるカウルアウタ2のフロントウインドシールドガラス7の支持部よりも車両前方向に配置されている。カウルブレース5は複数個の屈曲部51及び52によって車両側面からみて略V字形状に構成されている。そして、カウルブレース5は、カウルアウタ2に最も近接した屈曲部51の曲げ剛性をそれ以外の屈曲部52の曲げ剛性に対して低く設定している。このため、衝突荷重fがカウルブレース5に伝達されると、カウルブレース5の屈曲部51に応力が集中し、カウルブレース5は屈曲部51を起点としてカウルインナ3の折れ曲がり方向と同一の方向(車両後方向)に折れ曲がる。
【0041】
この結果、カウルインナ3、カウルブレース5は、車両上下方向に押し潰され、折り畳まれるように変形する。この変形過程において、衝突体20の衝突時のエネルギは吸収され、衝突体20の衝突反力を低減することができる。
【0042】
カウルブレース5は、屈曲部51の曲げ剛性を低く設定し、屈曲部51に衝突荷重fを集中させている。このため、図6(a)に衝突前(一点鎖線)と衝突後(実線)のカウルブレース5の変形状態を示すように、屈曲部51において大きく塑性変形が生じる。屈曲部52においても十分な曲げを生じさせているので、塑性変形量が大きい。従って、衝突荷重が持続しない。言い換えれば、衝突反力を減少させることができる。
【0043】
図6(b)に示す比較例のカウルブレース500は、屈曲部501、502のそれぞれの曲げ剛性を同等に設定している。この場合、カウルブレース500の屈曲部501、502のいずれにおいても衝突後の塑性変形量が小さい。従って、衝突荷重が持続する。しかも、衝突体20の衝突角度、衝突位置の微妙な変化によって、屈曲部501、502のどちらに衝突荷重fが集中するのか特定することが難しく、変形モードが安定しない。
【0044】
また、図5(a)及び図5(b)に示すように、カウルブレース5はカウルインナ3の突出部3Aを跨いで複数個の屈曲部51及び52を配設している。従って、カウルブレース5は突出部3Aを迂回し、衝突後においてもカウルブレース5と突出部3Aとの接触を回避することができるので、カウルブレース5に十分な曲げを生じさせることができる。
【0045】
また、カウルブレース5は複数個の屈曲部51及び52を備え、カウルブレース5の各領域の長さを分散して短くすることができるので、衝突時の屈曲部51及び52の変位を小さくすることができる。従って、カウルブレース5とカウルロア4との接触を回避することができるので、カウルブレース5に十分な曲げを生じさせることができる。
【0046】
更に、図5(a)及び図7(a)に示すように、カウルブレース5はその両側部に車両前方向側に折り曲げたフランジ部5cを備えている。カウルブレース5の車両幅方向に沿って切った断面形状は、車両前方向に開口を有するハット型形状である。図7(b)には小さい衝突荷重fが加わったときのカウルブレース5の変形状態が示され、図7(c)には大きな衝突荷重fが加わったときのカウルブレース5の変形状態が示される。カウルブレース5においては、衝突荷重fが加わったときにフランジ部5cが外側に広がって変形し、その変形量は大きい。フランジ部5cの変形方向にその変形を阻害するものがない。すなわち、カウルブレース5に十分な曲げを生じさせることができるので、衝突荷重は持続しない。
【0047】
一方、図8(a)に示す比較例のカウルブレース510はその両側部に車両後方向側に折り曲げたフランジ部510cを備えている。カウルブレース510の車両幅方向に沿って切った断面形状は、車両後方向に開口を有するハット型形状である。図8(b)には小さい衝突荷重fが加わったときのカウルブレース510の変形状態が示され、図8(c)には大きな衝突荷重fが加わったときのカウルブレース510の変形状態が示される。カウルブレース510においては、衝突荷重fが加わったときにフランジ部510cが内側に折り畳まれて変形し、その変形量は小さい。フランジ部5cが折り畳まれるときにその変形が阻害される。このため、カウルブレース510に十分な曲げを生じさせることができないので、衝突荷重は持続する。
【0048】
以上説明したように、本実施例に係る車両用カウル構造1においては、カウルブレース5に曲げ剛性が異なる複数の屈曲部51及び52を備えたので、歩行者保護性能を向上することができるとともに、NV性能を向上することができる。
【0049】
[実施例の補足説明]
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内において種々変更可能である。例えば、上記実施例に係る車両用カウル構造1はカウルブレース5に曲げ剛性が異なる2個の屈曲部51及び52を配設した例を説明したが、本発明は、3個以上の屈曲部を配設し、カウルアウタ2に最も近い屈曲部の曲げ剛性をそれ以外の屈曲部の曲げ剛性に対して低く設定してもよい。
【0050】
また、本発明は、カウルブレース5の屈曲部52において、金属製板材に溶接によって肉盛りしたビード55を形成し、曲げ剛性を高めてもよい。
【0051】
また、本発明は、カウルブレース5の屈曲部51において、金属製板材の板厚を部分に薄くして曲げ剛性を低く設定してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 車両用カウル構造
2 カウルアウタ
3 カウルインナ
4 カウルロア
5 カウルブレース
5a 上フランジ部
5b 下フランジ部
5c フランジ部
51、52 屈曲部
55 ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントウインドシールドガラスの下端部を支持するカウルアウタと、
前記カウルアウタの下方側においてこのカウルアウタに結合されるカウルインナと、
前記カウルアウタと前記カウルインナとを車両上下方向に結合し、中間部において車両上下方向に互いに離間配置された複数の屈曲部を有し、前記カウルアウタに最も近い前記屈曲部の曲げ剛性がそれ以外の前記屈曲部の曲げ剛性に対して低く設定されたカウルブレースと、
を備えたことを特徴とする車両用カウル構造。
【請求項2】
前記カウルインナに配設され、前記カウルブレースの前記カウルアウタとの結合位置と前記カウルインナとの結合位置とを結ぶ直線よりも車両前方側に一部を突出させた突出部と、
前記カウルアウタの下方側において前記カウルインナの車両前方側に対向するカウルロアと、を備え、
前記カウルブレースは、前記突出部と前記カウルロアとの間に配置されるとともに、前記突出部を跨いでこの突出部よりも車両上方側に曲げ剛性が低い屈曲部を配設し、前記突出部よりも車両下方側に曲げ剛性が高い屈曲部を配設した
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用カウル構造。
【請求項3】
前記曲げ剛性が高い屈曲部にはビードが形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用カウル構造。
【請求項4】
前記カウルブレースは、側部に車両前方側に折れ曲がるフランジ部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の車両用カウル構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate