説明

車両用サイドステップモール

【課題】整流用のデフレクターを省略または小型化した場合でも空力特性を良好に維持することが可能な車両用サイドステップモールを提供する。
【解決手段】サイドシル6の下面に沿って前後方向に延びるサイドステップモール7の下壁部10の後方部に、上方に凹入する凹入部15を設け、この凹入部15の後端部に、走行時の気流を下方に案内する縦壁部16を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の側辺部に沿って設置されたサイドシルを外側から覆う車両用サイドステップモールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、後輪周辺の気流を整流するためのフラップ(デフレクター)を車体の側部下面に取り付けるデフレクターの取付構造において、車体構成部材としてのサイドステップモール(サイドスポイラー)のフランジに係合可能な係合部を上記デフレクターに設け、この係合部を上記フランジに係合させた状態で、上記デフレクターの固定部とサイドステップモールとをクリップを介して締結固定することが行われている。
【0003】
この特許文献1に開示されたデフレクターの取付構造によれば、デフレクターをサイドステップモールに取り付ける際の位置決め精度を向上させることができるとともに、デフレクターを固定するためのクリップ等の付属部品の数を低減して部品コストの削減を図れる等の利点がある。
【特許文献1】特開2004−106585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記構成において、サイドステップモールに取り付けられるデフレクターを省略するかまたは小型化することができれば、部品コストの削減等の点でより有利となる。しかしながら、サイドステップモールの形状を従来通りに維持したまま、単にデフレクターを省略または小型化しただけでは、後輪周辺の気流が乱れ易くなり、車体の空力特性が低下するという問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、整流用のデフレクターを省略または小型化した場合でも空力特性を良好に維持することが可能な車両用サイドステップモールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、車体の側辺部に沿って設置されたサイドシルを外側から覆う車両用サイドステップモールであって、上記サイドシルの下面に沿って前後方向に延びる下壁部を備え、この下壁部の後方部に、上方に凹入する凹入部が設けられるとともに、この凹入部の後端部に、走行時の気流を下方に案内する縦壁部が形成されたことを特徴とするものである(請求項1)。
【0007】
本発明によれば、サイドステップモールの下壁部に凹入部を設け、この凹入部の縦壁部を利用して走行時の気流を下方に案内するようにしたため、従来のサイドステップモールに取り付けられる別体のデフレクターを省略または小型化した場合でも、上記凹入部の縦壁部に整流効果を発揮させて車体の空力特性を良好に維持することができる。しかも、凹入部の縦壁部を利用した簡単かつ合理的な構成で車体の空力特性を維持できるとともに、デフレクターを省略または小型化することにより、車体側部をよりすっきりした外観に仕上げてそのデザイン性を効果的に向上させることができる。
【0008】
本発明においては、上記サイドシル下面の所定位置に設定されるジャッキアップポイントと、上記凹入部の設置範囲とが側面視で重複するように配設されることが好ましい(請求項2)。
【0009】
この構成によれば、ジャッキアップポイントにジャッキをセットする際にジャッキがサイドステップモールと干渉するのを上記凹入部の存在により防止しつつ、この凹入部の縦壁部を利用して整流を行うことにより、ジャッキの干渉防止と空力特性の維持とを簡単な構成で両立できるという利点がある。
【0010】
上記下壁部のうち上記凹入部よりも後方側に位置する部分の設置高さが、上記凹入部よりも前方側に位置する部分に比べて低く設定されることが好ましい(請求項3)。
【0011】
この構成によれば、上記サイドステップモールの下壁部に沿ってその後方側の凹入部内に導入された気流が、上下方向長さが相対的に大きく確保された上記凹入部の縦壁部に確実に吹き付けられて下方に案内されるため、この縦壁部による整流効果を高めて車体の空力特性をより効果的に向上させることができるという利点がある。
【0012】
上記下壁部の後端部には、上記凹入部の縦壁部と略連続した壁面を構成するデフレクターが取り付けられることが好ましい(請求項4)。
【0013】
この構成によれば、上記凹入部の縦壁部およびこれに連続するデフレクターに沿って、走行時の気流をより確実に下方に案内することができ、車体の空力特性をより効果的に向上させることができる。
【0014】
またこの場合、上記凹入部の縦壁部に沿って上記デフレクターが取り付けられることが好ましい(請求項5)。
【0015】
この構成によれば、上記デフレクターの設置位置をサイドステップモールの下壁部の最後端部により近づけることにより、このデフレクターによる整流効果を高めて車体の空力特性をさらに効果的に向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、整流用のデフレクターを省略または小型化した場合でも空力特性を良好に維持することが可能な車両用サイドステップモールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の一実施形態にかかる車両用サイドステップモール7(以下、単にサイドステップモールと称する)が取り付けられた車体側部の外観を示す側面図である。本図に示すように、車体側部には、図略のサイドドアにより開閉される前後一対の乗降用開口部1,2が形成されており、これら両開口部1,2の間には、上下方向に延びるセンターピラー4が設置されている。また、乗降用開口部1の前側には、前席用のサイドドアの前辺部が取り付けられるヒンジピラー3が設置されているとともに、乗降用開口部2の後方側には、後輪Rが収容されるリヤホイールハウス5が設置されている。そして、車体側部の下辺部には、上記ヒンジピラー3、センターピラー4、およびリヤホイールハウス5の各部材の下端部を互いに連結するように前後方向に延びるサイドシル6が設置されており、このサイドシル6には、その外側面および下面を覆いつつ前後方向に延びるサイドステップモール7が取り付けられている。
【0018】
図2は、車体側部を斜め下方から見た斜視図であり、図3は、図1のIII−III線に沿った断面図である。これらの図に示すように、上記サイドステップモール7は、サイドシル6の下部外側面を覆う側壁部9と、この側壁部9の下端部から車幅方向内側に延びてサイドシル6の下面を覆う下壁部10とを有した一体の樹脂成形品により構成されている。一方、上記サイドシル6は、互いに接合された複数の金属製パネル材(17〜19)により構成されている。具体的に、サイドシル6は、車幅方向に対向配置されて所定形状の閉断面を構成するアウタパネル17およびインナパネル18と、補強用部材としてこれら両パネルの間に配置されたサイドシルレインフォースメント19とを有している。なお、サイドシル6の上下両端部には、これら各パネル材17〜19の接合片が重ね合わされてなるフランジ部21,22が形成されている。
【0019】
図4はサイドステップモール7の後方部を拡大して示す斜視図、図5は当該部の側面断面図である。これら図4および図5に示すように、上記サイドステップモール7の下壁部10には、その後端部の近傍から所定距離前方に至る範囲に亘って、上方に凹入する凹入部15が設けられている。また、図2に示すように、この凹入部15よりも前方側に位置する下壁部10の前後方向各所には、上記凹入部15と同様の凹入部11〜14が設けられている。このうち、最も前方側の凹入部11は、メンテナンス用のジャッキを挿入する際にこのジャッキとの干渉を防止するための凹入部であり、前後方向中央部の凹入部13は、製造ラインで用いられる車体支持用の治具を挿入するための凹入部である。また、これら以外の凹入部12,14は、サイドステップモール7をサイドシル6に取り付ける際のガタつきを防止するためのものである。なお、図2において符号Cは、サイドステップモール7をサイドシル6に固定するための締結部材の取付孔であり、図例では、下壁部10のうち凹入部11,13,15に、上記取付孔Cがそれぞれ設けられている。
【0020】
図1、図2、図4、および図5に示すように、上記サイドステップモール7の下壁部10の後端部、より具体的には、上記下壁部10のうち最も後端寄りに位置する凹入部15のさらに後方側には、走行時の気流を下方に案内する整流用のデフレクター25が取り付けられている。このデフレクター25は、図4および図5に示すように、上記サイドステップモール7の下壁部10に取付ビス等により固定される横壁部26と、この横壁部26の前端部から下方に延びる縦壁部27とを有している。このうち縦壁部27は、上記凹入部15の後辺部と略一致する箇所に設けられており、このことから、上記デフレクター25の縦壁部27と、上記凹入部15の縦壁部16とにより、上下方向に延びる略連続した壁面が形成されるようになっている。
【0021】
図5の破線矢印は、車両の走行時にサイドステップモール7の下壁部10に沿って流れる気流の状態を示している。この破線矢印に示すように、走行時の気流は、上記凹入部15を含んだ下壁部10の下面に沿って後方側へと流れ、上記凹入部15後端の縦壁部16に到達した後に、この縦壁部16およびこれに連続する上記デフレクター25の縦壁部27に沿って下方へと案内される。これにより、上記サイドステップモール7の下壁部10に沿って前方から流入してきた空気が後輪Rに直接吹き付けられることが防止され、この後輪R周辺の気流が乱れて車両の走行抵抗が増加することが抑制されるようになっている。
【0022】
図3および図4に示すように、上記サイドシル6下端のフランジ部22には、前後方向の所定範囲に亘って切欠き30が形成されている。この切欠き30は、タイヤ交換等のメンテナンス時にジャッキがセットされるジャッキアップポイントPに対応した位置に設けられており、このジャッキアップポイントPは、その側面視での位置が上記凹入部15の設置範囲内に含まれるように設けられている。
【0023】
図6は、上記ジャッキアップポイントPにジャッキがセットされた状態を示す図であり、図中の符号32は、ジャッキの上端部に設けられるヘッド部である。このヘッド部32は、上方に開口した断面コ字状体からなり、上記切欠き30が形成された部分のフランジ部22を跨ぐ状態で、上記サイドシル6下面のジャッキアップポイントPを支持するように構成されている。なお、ジャッキをセットする作業は、そのヘッド部32を、図中の2点鎖線のように斜めに傾けながら、ジャッキアップポイントPに対し車幅方向外側から接近させることによって行う(図中の矢印参照)。このとき、ジャッキアップポイントPと側面視で重複する位置に上記凹入部15が設けられていることにより、作業者は、上記ヘッド部32がサイドステップモール7と干渉するのを効果的に防止しつつ、ジャッキアップポイントPに向けて円滑にヘッド部32を接近させることができる。
【0024】
以上説明したように、上記実施形態では、車体の側辺部に沿って設置されたサイドシル6を外側から覆うサイドステップモール7のうち、上記サイドシル6の下面に沿って前後方向に延びる下壁部10の後方部に、上方に凹入する凹入部15を設けるとともに、この凹入部15の後端部に、走行時の気流を下方に案内する縦壁部16を形成したため、整流用のデフレクター25としてより小型のデフレクターを用いた場合でも、車体の空力特性を良好に維持できるという利点がある。
【0025】
すなわち、上記実施形態では、サイドステップモール7の下壁部10の後方部に凹入部15を設け、この凹入部15の縦壁部16を利用して走行時の気流を下方に案内するようにしたため、サイドステップモール7に取り付けられる整流用のデフレクター25を小型化した場合でも、このデフレクター25と上記凹入部15の縦壁部16との協働作用により、走行時の気流に対する整流効果を十分に発揮させて車体の空力特性を良好に維持することができる。しかも、凹入部15の縦壁部16を利用した簡単かつ合理的な構成で車体の空力特性を維持できるとともに、デフレクター25を小型化することにより、デフレクター25単体で同様の整流効果を得るために比較的大型のデフレクター25を使用した場合に比べて、車体側部をよりすっきりした外観に仕上げてそのデザイン性を効果的に向上させることができる。
【0026】
また、上記実施形態では、サイドシル6下面の所定位置に設定されるジャッキアップポイントPと、上記凹入部15の設置範囲とが側面視で重複するように配設されているため、ジャッキアップポイントPにジャッキをセットする際にジャッキがサイドステップモール7と干渉するのを上記凹入部15の存在により防止しつつ、この凹入部15の縦壁部16を利用して整流を行うことにより、ジャッキの干渉防止と空力特性の維持とを簡単な構成で両立できるという利点がある。
【0027】
また、上記実施形態では、デフレクター25の縦壁部27が、上記凹入部15の縦壁部16と略連続した壁面を構成するように設置されているため、これら両縦壁部16,27からなる上下方向に亘った連続壁面に沿って、走行時の気流をより確実に下方に案内することができ、車体の空力特性をより効果的に向上させることができるという利点がある。
【0028】
なお、上記実施形態では、前後方向に亘って略平坦なサイドステップモール7の下壁部10に凹入部15を設け、その凹入部15の縦壁部16を利用して走行時の気流を下方に案内するようにしたが、例えば図7に示されるような形状のサイドステップモール107を使用することにより、走行時の気流がより確実に下方に案内されるように構成することも可能である。すなわち、図7の例では、サイドステップモール107の下壁部110のうち、凹入部115よりも後方側に位置する部分110bの設置高さが、凹入部115よりも前方側に位置する部分110aに比べて低く設定されている。この構成によれば、図中の破線矢印に示すように、サイドステップモール107の下壁部110に沿ってその後方側の凹入部115内に導入された気流が、上下方向長さが相対的に大きく確保された上記凹入部115の縦壁部116(つまり凹入部115より前方側の下壁部110aに比べてより低い高さ位置まで延びる縦壁部116)に確実に吹き付けられて下方に案内されるため、この縦壁部116による整流効果を高めて車体の空力特性をより効果的に向上させることができるという利点がある。
【0029】
また、上記実施形態では、整流用のデフレクターとして横壁部26および縦壁部27からなる側面視L字状のデフレクター25を用い、このデフレクター25の横壁部26を、サイドステップモール7の後端部(下壁部10のうち凹入部15よりも後方側に位置する部分)に締結固定することにより、デフレクター25の取り付けを行うようにしたが、例えば図8に示されるような形状のデフレクター125を用いることも可能である。すなわち、この図8の例では、デフレクター125として平板状のプレート材が用いられており、サイドステップモール207における凹入部215の縦壁部216に沿って、上記デフレクター125が取り付けられている。
【0030】
この構成によれば、サイドステップモール207の下壁部210のうち凹入部215よりも後方側に位置する部分210bに対し、デフレクター125が取り付けられる被取付部として大きな面積を確保する必要がなく、図8と図5を比較すると分かるように、上記凹入部215の設置範囲を上記下壁部210の最後端部Sにより近接した位置まで拡げることが可能になる。これにより、デフレクター125の設置位置がサイドステップモール207の下壁部210の最後端部Sにより近接することとなり、より後輪Rに近接した位置で走行時の気流を下方に案内することができるため、デフレクター125による整流効果をより効果的に高めることができる。
【0031】
また、上記実施形態では、サイドステップモール7の凹入部15の後端部に、走行時の気流を下方に案内する縦壁部16を形成した上で、さらに整流用のデフレクター25を、上記サイドステップモール7の下壁部10の後端部に取り付けるようにしたが、例えば図7に示したサイドステップモール107のように、凹入部115の縦壁部116が十分な上下方向長さを有するために、この縦壁部116単体でも十分な整流効果が得られるような場合には、上記デフレクター25を完全に省略することも可能である。このように、デフレクター25を省略した場合には、部品点数を減らしてその分のコストや工数を削減できるとともに、サイドステップモール107の下壁部110に存在する突出物を無くして車体側部をよりすっきりした外観に仕上げることができるため、部品コスト等を効果的に削減しつつ、車体のデザイン性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態にかかる車両用サイドステップモールが取り付けられた車体側部の外観を示す側面図である。
【図2】車体側部を斜め下方から見た斜視図である。
【図3】図1のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】サイドステップモールの後方部を拡大して示す斜視図である。
【図5】サイドステップモールの後方部の側面断面図である。
【図6】サイドシルのジャッキアップポイントにジャッキがセットされた状態を説明するための図である。
【図7】本発明の他の実施形態を説明するための図である。
【図8】本発明のさらに他の実施形態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0033】
6 サイドシル
7,107,207 サイドステップモール
10,110,210 下壁部
15,115,215 凹入部
16,116,216 縦壁部
25,125 デフレクター
P ジャッキアップポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の側辺部に沿って設置されたサイドシルを外側から覆う車両用サイドステップモールであって、
上記サイドシルの下面に沿って前後方向に延びる下壁部を備え、
この下壁部の後方部に、上方に凹入する凹入部が設けられるとともに、この凹入部の後端部に、走行時の気流を下方に案内する縦壁部が形成されたことを特徴とする車両用サイドステップモール。
【請求項2】
請求項1記載の車両用サイドステップモールにおいて、
上記サイドシル下面の所定位置に設定されるジャッキアップポイントと、上記凹入部の設置範囲とが側面視で重複するように配設されたことを特徴とする車両用サイドステップモール。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両用サイドステップモールにおいて、
上記下壁部のうち上記凹入部よりも後方側に位置する部分の設置高さが、上記凹入部よりも前方側に位置する部分に比べて低く設定されたことを特徴とする車両用サイドステップモール。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用サイドステップモールにおいて、
上記下壁部の後端部に、上記凹入部の縦壁部と略連続した壁面を構成するデフレクターが取り付けられたことを特徴とする車両用サイドステップモール。
【請求項5】
請求項4記載の車両用サイドステップモールにおいて、
上記凹入部の縦壁部に沿って上記デフレクターが取り付けられたことを特徴とする車両用サイドステップモール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−107446(P2009−107446A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280793(P2007−280793)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】